やはり俺が吸血鬼なのは間違っている。 作:角刈りツインテール
比企谷八幡と忍野メメは語らう。
「え、番外編の最初の相方お前なの?」
「おいおい開口一番文句かよ」
元気いいなぁ、といつもの台詞を口にする忍野メメ。俺と彼は現在いつもの学習塾跡にいた。時系列は勿論全てが終わった後なのだがどうして忍野がまだここにいるのかについて気になった人も多いだろう。しかし安心して欲しい。俺が一番気になっている。
「お前、かっこいい感じで出てっただろ。なんでまだいるんだよ」
「そらまぁ、僕がこの子のお世話しなきゃ他にする人もいないだろう?比企谷くんがつきっきり、ってわけにもいかないしさ」
そう言って火のついていないタバコを口から離して仮想煙を吐いた。
この子というのは勿論のこと、元キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードである。
吸血鬼の成れの果て。
美しき鬼の搾りかす。
彼女は以前の話好きなキャラから打って変わって表情ひとつ変えない寡黙キャラへと変貌していた。何があったんだよ。え?もしかして俺がいるときだけ?だとしたら泣くよ?
……まぁたしかに俺にだって生活はある訳で一日中付き合うのは不可能に近い。そう言う意味ではありがたいのだが……。
「あとはさ比企谷くん、君からの借金もあるしね」
「は!?帳消しっつただろ!?」俺は飛び上がって言及する。
「はっはー、『なかったこと』にしたまでだよ」
こいつ、由比ヶ浜が持ってきた漫画に影響を受けている…いつの間に読んだんだよ。まさか俺がギロチンカッターと戦ってる最中じゃないだろうな。…流石にないよな?
「まぁ実際の話団子頭ちゃんに頼まれたんだよ。『お金は払うからヒッキーを助けて』って感じでさ。それに安心してくれよ。君たちにはいずれ仕事を頼むだけだからさ」
あぁ、そういえな俺が由比ヶ浜たちに『金のことは別にいいからあいつを呼べ』って頼んだんだっけ……すっかり忘れていた。
「……怪異絡みの?」
「そ。一回こっきりの簡単なお仕事だ。どうだい?これでも最初と比べればかなりリーズナブルだと想うぜ?」
すごく怪しいが依頼した側はこちらだ。返事は「了解」以外にあり得ない。
「そうそう団子頭ちゃんと言えば」忍野は唐突に拍手を始めた。「改めておめでとう、比企谷くん」
何がとは聞くまでもあるまい。
なんで知ってるんだと思ったがよくよく考えたらその場面にこいつもいたのだった。
少し回想をしよう。
♦︎♦︎♦︎
『なんつーか、その……どっちを諦めてどっちと付き合うとかは俺には出来ん。だから、まぁその……お前らがよければ』
『二股、ということかしら』
『……お察しの通りです』
『よくもそんな提案をできるわね。ついに目だけでなく心も腐り果てたのかしら。感心するわ』
『ちょ、ゆきのん、そこまで言わなくても、ヒッキーだって色々考えてくれて……』
『でもそれが最善なのでしょうね———私はいいわ』
『まじで!?……じゃ、由比ヶ浜は?』
『へ!?あ、えぇっとねぇ…そりゃあ勿論どっちかを選んで欲しかったな〜とは思うけど…それもヒッキーらしいなって思っちゃって。だから……仕方ないけど、うん、いいよ』
『……ッ!本当にすまん……』
『はっはー、比企谷くん、口を突っ込んで悪いけどその返答は間違ってるぜ』
『他人事だからってニヤニヤしやがって……はぁ、ったく……ありがとう。その……よろしく』
♦︎♦︎♦︎
俺の記憶を辿っただけなので本当はもっと色々罵声を浴びせられている気がするが(多分本能が忘れようとしている)、大方こんな感じの内容だった。
忍野が恋のキューピッド的な役割を果たしているのが少々気に食わないが俺は彼女らにOKをもらった。この場合の『彼女』とはsheではなくgirl friend———なんてこった。俺に彼女ができるなんて天変地異が起きてもあり得ないと思っていたのだが……。
「一応聞くけどあれが正解だと思うか?」
「一応聞くなよ。正解なんて人それぞれなんだから」
「そういやお前、彼女いたことあんの?」
「あるわけないじゃん。大学のサークルだってオカルトサークルなんて不気味なとこにいたし」
「お前大学行ってたの!?」
あいつらに告られた時より体に電撃走ったぞ!?
「失礼だなぁ比企谷くんは。これでも頭はいい方だったんだぜ?」
「オカルトサークル、か」俺は忍野の言葉を無視して尋ねる。「そこでの経験の影響で今に至るってわけか」
「まぁそんなとこかな」
「……?」
今、何かを濁した気がするがそれは深掘りされたくない過去ということなのだろうか。
忍野メメの過去。気にならなくもないがどう足掻いてもこいつは教えてくれないだろう。だから今は別にいい。いつか、なんてあるのか知らないが500歳の吸血鬼なんてものと知り合ってしまったせいでとっくに時間の感覚は狂ってしまっている。
ちらり、と部屋の隅に目をやる。名もなき少女が体育座りでぶっきらぼうに座っていた。
「…こいつずっとこうなの?」
「うん、君が来たからとかじゃないから安心してよ」
よかった、俺のせいじゃなくて。……いや、俺のせいなのか。
殺して欲しいという願いを無視して。
俺はキスショットを救ってしまったのだから。
「じゃあそろそろするわ」
「了解。僕は外に出てるから存分にやってくれよ」
その気遣いができてどうして告白シーンで退散する心配りができなかったのか不思議で仕方がないんですが…?
「助かる」
だがここでそれについて言い争う気はない。我ながら丸くなったもんだ。普段ならもっと突っかかっているのに。いや、もしかしたらこいつと極力話したくないからという一面もあるのかもしれない。
戯言だけど。
俺の感謝の言葉を聞いてから忍野は立ち上がり屋上へ向かった。そこは俺とキスショットが最後に語り合った場所なのだが彼は知っているのだろうか。
……知ってそうだ。何ならあの時俺たちの後ろにいたのかもしれない。えぇ怖い……。
「……キスショット」
俺は呼びかけながら彼女の元へ近づく。それと同時に自身の服のボタンを上から取って肩を出す。我ながら気持ち悪い光景だがこれ以外に方法はないのでお許しいただきたい。
「……ほらよ」
その肩をキスショットの口に近づける。
くんくん、と犬のように匂いを嗅いだかと思えばこれまたかぷりと小動物のように齧り付いた。
血が吸われていく感覚。
一分ほど経っただろうか、流石にもういいかと思い彼女の肩を叩く。すると静かに口を離し、再び体育座りに戻った。先程と違っているのは視線が俺の方を向いているということであり、心なしか睨んでいるように思われた。当然だよな、と笑いかけた途端に顔を逸らされた。そんなに不快でしたかね、少し笑っただけなんですが。
だがいずれは血を吸われる感覚にも、俺の方が逸らしたくなるこの視線にも慣れなければならない。
これからずっと、月に一回ほどこうして彼女に血を分け与えなければならないから。
それがこの結末を求めた俺への罰だ。
番外編的なアレでした。これからも暇な時に書いていこうかなぁと思っています。感想・評価などお願いします!
↓『やはり俺が吸血鬼なのは間違っている。続』
https://syosetu.org/novel/278613/
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