忠義者の伯父上   作:(๑╹◡╹)ノ

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第21話▲死線 1334

 その日の(うま)の刻*1を過ぎた頃、西園寺邸に物々しい気配が漂い始める。

 

 夜の浜辺に小波(さざなみ)が広がるが如く。

 静かに、されど確実に。それは浸透してゆく。

 

「………」

 

 息を潜め、衣擦れの音一つ立てぬ整然とした様なれど立ち込める武士(もののふ)の殺気は隠せない。

 武装した足利勢であった。

 

 尊氏下知のもと、数十騎の郎党を率い京の大路を悠々進み征くに始まり。

 瞬く間にその数は数百にまで膨れ上がり、今や人の圧のみで邸を呑み込まんとしていた。

 

 夜討ち朝駆けは武士の常道なれど、なればこそ尊氏は誰(はばか)ることなく馬を進める。

 胸を張り、堂々と。正義は我に在りという様で一切臆することなく。

 

 其処にはある種の神聖さすら漂う尊氏の人外じみたカリスマが満ちていた。

 誰からともなく列に加わり一糸乱れぬ隊列の末席に付く。

 

 無論、武器すら持たぬ物見遊山の輩も少なからず混ざっていることは否めない。

 されどその殆どが尊氏の信奉者であることも、また、否定しようのない事実であった。

 

 西園寺邸側とて、これをただ座視していたわけではない。

 

 この屋敷には現在、忠義党の面々が護衛として据えられている。

 彼等一同屋根に登り、弓を番え、一触即発の空気の中で否応なしに緊張感は高まっていた。

 

 屋根に登りきれなかった者は一部は庭木に、一部は厩より騎馬に跨りその時に備える。

 

 既に門扉(もんぴ)は堅く閉ざされ、うず高く積まれし家財がそれを塞いでいる。

 他方、門扉(もんぴ)の外には火矢の助けとなるであろう藁束もまた高く積まれている。

 

 京の町中なれど、これはもはやれっきとした攻城戦の気配であった。

 

 主の下知なくば動かぬ武士はもとより言うに及ばず。

 無頼の輩や町人に至るまで、この剣呑な呼吸すら躊躇う空気に呑まれ声を出せずにいた。

 

 元弘の乱の終焉よりより日が浅く、戦の気配が濃密に漂うこの時代においても。

 戦慣れした京の人々が息を呑む程度には、対峙する両陣の戦意は旺盛だったのである。

 

 そんな戦の気配が遠くに感じる屋敷の奥座敷にて。

 二人の男が互いに碁を打っていた。

 

「フッ、斯様(かよう)な仕儀に至るならば小笠原殿に弓でも習うておけば良かったわ」

「……御意。されど、それは『この後』からでも遅くはありますまい」

 

「ほう? 『後』があるかね、この(オレ)に。なれば五大院に戟も習いたきものよな」

 

 英名なる皇子・護良(もりよし)親王その人と僧形の男・鍾馗(しょうき)である。

 

 互いの布石に迷いはない。

 定石を好む護良(もりよし)親王と、敢えて型を破るを良しとする鍾馗(しょうき)

 

 一手一手互いの打ち筋に笑みすら浮かべ、それを語らいとする。

 

「……邦時(くにとき)様に泰家(やすいえ)様、大納言様らは既に屋敷より離れられておりますれば」

 

「うむ。貴殿の手回しがあと一手でも遅かったらと思うと、心胆寒からしめられる思いよ」

「不手際、まことに不甲斐無く」

 

「なに。これを不手際と言われては(オレ)の立つ瀬がない。……だが」

「………」

 

「貴殿が『この後』を思うほどだ。更に一手、あるということであろう?」

 

 愉快げに目を細め、護良(もりよし)親王がその真意を問う。

 

 佐々木邸にまんまと釣り出される形になった五大院宗繁は恐らく間に合うまい。

 護良(もりよし)親王はそう見ている。

 

 むしろ敵地と言って過言ではない佐々木邸に向かったのだ。

 死なずに戻ってこれるなら、それだけでも既に幸運と言える危険地帯である。

 

 しかし、それを承知で向かわせたのは他でもない鍾馗(しょうき)護良(もりよし)親王ら自身であった。

 

 これは鍾馗(しょうき)による妙手であった。

 少なくとも佐々木党まで敵陣に加わるという最悪の事態は防げたのだから。

 

 五大院宗繁は立派に役割を果たせたことになる。

 

 ……それでも。

 

 この西園寺邸が呑み込まれてしまうのは時間の問題と言えるであろう。

 それも見越した上で護良(もりよし)親王としては納得づくで残ったつもりであった。

 

 無論、西園寺公宗や北条泰家(やすいえ)邦時(くにとき)らとともに逃げるという手も無くはなかった。

 しかし、足利勢の狙いはまず間違いなく自分であろうという確信が護良(もりよし)親王にはあった。

 

 失敗し続けたとは言え今まで何度も命を付け狙ってきたのだ。

 今までは実質的な影響力も持たぬ『お飾り将軍』なれば見逃されていたに過ぎない。

 

 それが実権を持つ『邪魔者』となったならば話は変わってくるであろう。

 如何に皇族と(いえど)も返す刃で命を狙われる仕儀となるは是非もあるまい。

 

 どうせ自分が生くる限り追撃の手は止まらぬと在らば、盟友がため囮となるのも悪くない。

 

 幸いにも、護良(もりよし)親王からすれば足利に一泡吹かせるという望外の夢は既に叶った状況。

 京の実質的な治安維持組織として台頭し、足利らを閑職に追いやったのだから。

 

(……斯くなる上は、時勢悪しと他者に縋って生き足掻くもなんとも無様であろうさ)

 

 生まれは皇族なれど、いや、皇族だからこそ。

 

 征夷大将軍となったならば、武運拙く敗れようとその死に『恥』があってはいけない。

 自身の死に様は皇族の、ひいては父帝の評判に直結するのだ。

 

 生き恥を晒しては建武の新政に限らずその後に続く帝の治世にも障りあるであろう。

 護良(もりよし)親王は父の治世が末永く続くことを願ってやまなかったのだ。

 

 そして自身が朽ちるとも他の皇子たちがその後を継いでくれると護良(もりよし)親王は信じていた。

 

(なればこそ散華と散れども後に悔いるもの一切無しと思うておったが…)

 

 護良(もりよし)親王は生来の真っ直ぐ過ぎる気性でそう思ってしまったのだ。

 

 それは北条(ほうじょう)時行(ときゆき)泰家(やすいえ)らのような『逃げ上手』の気質とは対極に位置する思考。

 ともすれば史実通りに彼の寿命をも大きく削りかねない劇毒であることは疑いない。

 

 しかし…──

 

 策がある、というのであれば悪くない。

 

「……然様にて。私め、『大楠公(だいなんこう)』と多少の御縁が御座いますれば」

 

 笑みを深めた鍾馗(しょうき)が問に対して返答を寄越した。

 

 劇毒なれど、裏を返せばそれは薬ともなる。

 まさにその気性こそが武士の心をも掴む、この時代に求められた将帥の才覚でもあった。

 

「大楠公… おお、楠木(くすのき)正成(まさしげ)殿か! ……クッ、ハハハハ! それは面白い!」

「……お気に召されたようで」

 

「あぁ、気に入った! されば力及ばず敗けるにせよ、一花は咲かせられようとも!」

 

 御所や佐々木道誉の屋敷と比べれば楠木(くすのき)正成(まさしげ)の屋敷は程近い場所にある。

 かの軍神ならば軍を編成し動き出すも寸刻程の猶予で適うであろう。

 

 なればこそ、この屋敷を半ば要塞化していた理由も合点がいった。

 

 前後の挟み撃ちに対抗できる軍というのは古来より数少ない。

 それが『勝っている』と思い込んでいる攻め手の側となれば尚更であろう。

 

 楠木(くすのき)正成(まさしげ)が駆け付けるまで耐え切れば、一転、この屋敷は足利にとっての死地となる。

 

 五大院宗繁がこの場に在らずとも。

 いや、彼がいない中で彼等足利方に唯一見出だせる『勝ち筋』であると言えよう。

 

 無論のこと、楠木(くすのき)正成(まさしげ)到着の前に不甲斐無く討ち滅ぼされれば全てが水の泡となる。

 いや、そもそもか細い縁であるということを考えれば楠木(くすのき)正成(まさしげ)が動かぬ可能性すらある。

 

 しかし、破れかぶれの戦に比べれば命運を託すに足るだけの『勝算』が其処にあった。

 

「フフ、願わくば添えられる花は足利が首にであって欲しいものですな」

「違いない。……さて、始まったようだな」

 

 一体どちらの側から『仕掛けた』かは定かではない。

 しかし、周囲には殺気混じりの怒声がにわかに響き始めている。

 

「頃合いだな」

 

 そう護良(もりよし)親王は呟くと、握っていた碁石を盤上に撒き散らばらせ刀を取って席を立つ。

 鍾馗(しょうき)は影の如く付き従いつつ一言申し出る。

 

「征夷大将軍直々の閲兵、まことに誉れなれば…」

 

 それを護良(もりよし)親王は耳にたこ(・・)が出来たお説教とばかり手を払い、(いら)えとする。

 

「分かっておる。お飾りらしく邪魔をせず刀片手に見守れば良いのであろう?」

 

「……フフ、この場は我等忠義党初の晴れ舞台なれば花を持たせて戴きたく」

「まったく。どうせ故郷(くに)で散々暴れてきたであろうに… 武士の強欲は限りなきものよ」

 

「これは異な仰せ。清原国司(きよはらのこくし)様と『演習』はすれど我等斯様(かよう)な暴力沙汰とは無縁にて」

 

 そう嘯きつつも鍾馗(しょうき)の好々爺の笑みが獰猛な『悪党』の其れに徐々に変じてゆく。

 

(その顔でどの口が言う。……此れを従える五大院めもただの朴訥な武者ではあるまいよ)

 

 背筋が泡立ちながらも、護良(もりよし)親王も刀を抜き放ち忠義党を鼓舞する。

 

「我は征夷大将軍、護良(もりよし)なり! 我が精鋭らよ、逆賊足利めに遅れを取ること(まか)りならんぞ!」

 

 忠義党がその鼓舞に「応!」と返してからそれぞれの作業を加速させる。

 

 未だ士気は旺盛。

 それを見て取った鍾馗(しょうき)が現場指揮を預けていた仏藍(ふらん)を呼び寄せ報告を求める。

 

仏藍(ふらん)、報告を」

「ハッ! 散発的な矢合わせが始まったところですぜ。門扉(もんぴ)も叩かれてはいやすが今暫くは」

 

「……ほう、アレを使ったか。良い。殿のお叱りは甘んじて私が受け持とう」

 

 西園寺邸の門扉(もんぴ)は宗繁が持ち込んでいた『せめんと』で既に塗り固められている。

 邦時(くにとき)らを脱出させてから即座に仏藍(ふらん)が指揮し、分厚く塗り込んだのだ。

 

 よく水を含ませ、端材を混ぜ、焦らず時間を経過させ、それは完全に硬直した。

 仏藍(ふらん)は、発明者の宗繁以上に『セメント』と『コンクリート』を使いこなしていた。

 

 足利の腕自慢が力任せに叩こうとも今やそれは『壁』を叩くようなもの。

 決して思うような成果は上がるまい。

 

 この場に残った以上、もとより退路は不要。

 目的が時間稼ぎである以上、より生きる可能性が高い方に賭けてみたのだ。

 

 仏藍(ふらん)らしい上の意を飛び越えた現場判断であるが、この場の鍾馗(しょうき)はそれを良しとした。

 後から宗繁が落ち込むかも知れないが、それはそれ。何事も命あっての物種なのだ。

 

 門扉の外では矢の雨に晒され逃げ惑う群衆(やじうまども)の阿鼻叫喚が響いてくる。

 足利の本隊にはさしたる痛痒は与えられまいが、構うまい。

 

 悲鳴は良い。恐怖と混乱を煽る。ここで手を緩めるべきではない、と鍾馗は小さく頷く。

 

「良し、ならば竹把(たけたば)を増やせ。足利の強弓、並の木盾(こだて)では物の役に立つまい」

「合点承知! 言われると思って既に準備万端でさぁ! 後は屋根(うえ)に回すだけですぜ!」

 

「抜け目なきことよ。されば矢が尽きれば瓦でも石でも糞尿でも全力で投げよと申し添えい」

「糞尿!? ギャハッ、そりゃあいい! その『軍略』も楠木(くすのき)様仕込みですかい?」

 

「フフ、『矢がなければ戦えぬ』では武士であれ悪党であれ面目を失う不始末さ故な…」

 

 南北朝時代。

 

 数多の英傑が入り乱れ、覇を競い合った『日本史におけるもう一つの戦国時代』である。

 綺羅星の如き個人の武勇、知略、逸話など例をあげれば枚挙に暇がない時代。

 

 その時代において足利党は過たず『頂点』の一角であろう。

 およそ武士として競うのであれば、そうそう敵う存在など出てこようはずもない。

 

 しかし、『軍神』と称される大楠公仕込みの軍略に悪党の無法を掛け合せればどうなるか? 

 結果は蓋を開けてみるまで分かるまいが、少なくとも鍾馗(しょうき)には『見込み』は感じられた。

 

「我が軍略、果たして何処まで通じるか… まこと武士というものは欲深き生き物にて」

 

 諏訪、信濃といった信州はある程度思うように掻き回せられた。これに甲斐も加わるか。

 

 主・五大院宗繁の奇抜な振る舞いから国司との和解など想定外もあったが許容範囲内。

 特に水面下での武田との友好関係の構築は望外の成果。

 

 諏訪神党の信仰を軸とした結束・情報網を駆使すれば信州一帯は独立国として機能する。

 攻めるも守るも力を発揮しやすく、外部の侵略は有名無形を問わず困難を極めるであろう。

 

 ここまでお膳立てした以上、もとより鎌倉奪還は時行(ときゆき)様らに任せるべきであろう。

 いずれにせよ、出来うる限りの種は蒔いた。後は諏訪頼重公の業前(わざまえ)の見せ所か。

 

 そう熟考しながら軍配を手に取り、鍾馗(しょうき)は、犬歯を見せ付けるように一層笑みを深めた。

 

「なれば、この京の都にて足利というまたとない好敵手と競い合うことこそ武士の本懐」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その言葉を合図としたわけではなかろうが、轟音とともについに門扉(もんぴ)が破壊される。

 煙が舞う。

 

「……ヒャハッ! 幾らなんでも早過ぎるだろ、足利さんよぉ」

 

 とうとう道が開かれてしまった。

 想定より幾分も早い。楠木(くすのき)隊到着まで籠城にて持ち堪えるという策は早くも頓挫した。

 

「そんなに俺等に会いたかったってかい? なら、歓迎の矢をたんまりくれてやるさ!」

 

 冷や汗混じりの軽口とともに一歩間合いから飛び退いた仏藍(ふらん)が『合図』を送る。

 忠義党は素人ではない。そしてお行儀の良い武士でもない。

 

 無防備に歩を進める敵の体勢が整うまで待ってやる義理など一片たりとて存在しない。

 悠然と邸内に押し入ろうとする鎧武者一騎に向けて矢の雨を降らせる。

 

 採算度外視の一撃ではあるが戦には風向きというものがある。

 ここで敵の出鼻を挫くはまさに値千金の功。仏藍(ふらん)の直感が冴え渡った形であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……其れが並の武者が相手であったならば、であるが。

 

「下らねぇ小細工でごちゃごちゃ梃子摺らせやがって! 小癪な雑魚どもが!」

 

 ── 裂帛一閃。

 

 自身に迫る数多の矢の雨をその長巻(ながまき)で全て叩き落とし、その武者は咆哮する。

 庭木はおろか屋敷そのものすら震わせるかのような怒声。

 

 その影は悠然と歩みを進め、やがて止まる。

 

「……足利家が軍監、高師泰(こうのもろやす)が根切りにしてくれる」

 

 臓腑を掴まれるような圧倒的な圧力。

 風が舞った。

 

 騎馬に跨った足利家郎党が『暴』の化身、高師泰(こうのもろやす)が粉塵の奥より姿を現したのであった。

 

 ただそれだけ。

 たった『それだけのこと』で…──

 

(あ、やべぇ… 死んだわ、俺…)

 

 仏藍(ふらん)は己の死を確信してしまった。

 

(どうする? 逃げるか? でも逃げるにしたって一体何処へ?)

 

 弱腰になりジリジリと後退る仏藍(ふらん)の身体が『何か』にぶつかって止まる。

 一体何が、と思うが早いかその首根っこをとんでもない力で掴まれた。

 

「逃げるな、仏藍(ふらん)。殺すぞ。……『ただの腐乱(ふらん)』に戻りたくはあるまい?」

 

 鍾馗(しょうき)であった。

 

「りょ、了解ッ!」

 

 鍾馗(しょうき)の喝に感じ入った、というわけでは残念ながらない。

 そんな殊勝な心を持ち合わせる並の悪党ではないのだ。

 

 退くも地獄、進むも地獄なら万が一生き延びた時に恩賞が期待できるだけ進む方がマシだ。

 切った張ったを刀に乗せて命をドブに投げ捨ててこその悪党稼業。

 

 そう割り切ったに過ぎない。仏藍(ふらん)は刀を抜いて中腰で構える。

 未だ死を幻視した冷や汗は止まらないが、身を縛るような震えはいつしか止まっていた。

 

 鍾馗(しょうき)は一歩前へと歩み出て、高師泰を見上げる形で対峙する。

 

「我が名は鍾馗(しょうき)

「興味ねぇな」

 

「誉れある忠義党が一員なれば」

「興味ねぇと言っている」

 

「……これは御無礼を」

 

 含むように、くつくつと笑う禿頭(とくとう)の男。

 弄ぶような嗜虐的な笑みが不気味さを醸し出す。

 

(コイツは気に喰わねぇ… 兄貴と同じ匂いがしやがる…)

 

 高師泰(こうのもろやす)はそう直感した。

 

 再度、鍾馗(しょうき)なる男が口を開こうとする。

 好きに囀らせても良いがあまりに好きにさせても士気に障りあるであろう。

 

 次の言葉を辞世の句と解釈し速やかに命を絶ってくれる。

 人知れず長巻(ながまき)に力を込めその言葉が紡がれるのを待ってやる。

 

 そして、『その時』は訪れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「主についぞ勝てなかった『負け犬』の顔を拝まんと部下に無理を言い(まか)り越して御座る」

 

 時が止まる。

 

 予想だにしなかった言葉。

 しかし、その『意味するところ』は受け取り(たが)えようがのない確かな悪意。

 

 安い挑発だ。それが理解できぬ高師泰ではない。

 しかし、それを押しても許せぬことはある。

 

 怒りの思考はとうに焼き切れた。

 今あるのは、脳髄ではなく(はら)の奥底より湧きいでる深く冷たい殺意。

 

 退屈そうな表情を隠そうともしなかった高師泰(こうのもろやす)がここで初めて獰猛な『笑み』を浮かべる。

 負けじと呼応したわけでもなかろうが、鍾馗(しょうき)がその『笑み』に嘲りの色を乗せる。

 

 大将から引き離された郎党など脆いもの。

 念には念を、とはいえ師泰(もろやす)は兄・師直(もろなお)の慎重癖に些か閉口もしていた。

 

 しかし、つまらぬ作業と足を運んでみればどういうことだ。

 そこで『思わぬ獲物』が釣れたのだ。これが笑わずにいられようか。

 

 無論、今はまだ海のものとも山のものと知れぬ正体不明の怪僧に過ぎないが。

 

(少なくとも俺を怒らせようとするその糞度胸だけは認めてやっても良いぜ…)

 

 自然、長巻(ながまき)を握る手に力が入る。

 

「ク、ククッ…!」

「……フフ」

 

 やがて『笑み』は『笑い声』へと変じ始める。

 遂には呵々(かか)大笑(たいしょう)もかくや、といった様子にて暫し高らかに笑い合う。

 

 不意に訪れる沈黙。

 

「……テメェ、死んだぞ?」

其処許(そこもと)が、ですかな?」

 

「クククッ! 喜べ坊主、テメェはこの俺直々に念入りに殺してやる!」

「御遠慮申し上げます。御手前は雑兵に討ち取られるがお似合いですがな」

 

「抜かせ」

 

 鍾馗(しょうき)が軍配を、師泰(もろやす)長巻(ながまき)を、それぞれ天高く掲げる。

 直後、両者が発した言葉は奇しくもまるで示し合わせたかのように一致していた。

 

 即ち…──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「殺せ」

 

 武士の『言葉』。

 それを起点に、西園寺邸にて忠義党と足利党が今ここで激突するのであった。

 

 (あい)撒き散らすかのように互いの死線を、深く、刻み込みながら。

 

*1
午前12時(午後0時)頃から凡そ二時間までの間の時刻。




トンチキ企画『歴史系スレでの伯父上(愛称または蔑称)の扱い』

【ジャンル≠歴史】五大院宗繁について語るスレその774【ジャンル=SF】

774:名無しの歴史愛好家さん ID:kv8e9Opw2
うん… うん?
この五大院宗繁って南北朝時代の武将おかしくない?
 
776:名無しの歴史愛好家さん ID:HITDdn8VV
伯父上がおかしいのはいつものことだゾ
 
778:名無しの歴史愛好家さん ID:w8PsramFB
おまえこのスレ初めてか? 力抜けよ

779:名無しの歴史愛好家さん ID:kv8e9Opw2
いや、でも足利による西園寺邸襲撃の際に明らかにいなくない?
距離的にも時間的に不可能だよね?
なんで当時の日記とかで「いたわ。俺見たわ(迫真)」なデマがまかり通ってるの?
 
780:名無しの歴史愛好家さん ID:vO5jlpqrq
おっ、そうだな()
 
781:名無しの歴史愛好家さん ID:PW2ZFleMW
ワープすればいけるでしょ
鎌倉から奥諏訪まで幼児抱えて三日で踏破したバケモンやぞ
一応直線距離で走れば不可能じゃないけどな()
 
783:名無しの歴史愛好家さん ID:qURjmm0tr
分身すればいけるでしょ
佐々木道誉邸と西園寺邸とあともう一箇所で目撃が確認されてるし
アレだよ大河ドラマとかであちこちのイベントに絡むアレだよ
 
784:名無しの歴史愛好家さん ID:8B1GnYQVO
足利の卑劣な忍術…
やはり伯父上か…
 
786:名無しの歴史愛好家さん ID:vO5jlpqrq
なん… だと…
 
787:名無しの歴史愛好家さん ID:nEgms+RBo
いくら伯父上でもワープなんて…
フッ、出来るはずもねぇか
 
788:名無しの歴史愛好家さん ID:VSewXEl8A
おはジンニキ
 
789:名無しの歴史愛好家さん ID:oQQe6DnH6
伯父上は卑劣様だった…?
 
794:名無しの歴史愛好家さん ID:qURjmm0tr
マジレスすると当時の資料でそう書いてあるからとしか…
これでも九州で数百の手勢で菊池勢数万を謎の光で殲滅した足利よりおとなしいから…

801:名無しの歴史愛好家さん ID:kv8e9Opw2
どうなってるの日本史…
 
810:名無しの歴史愛好家さん ID:8B1GnYQVO
伯父上と足利尊氏のことは天災と思うな
UMAと思え
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