☆月☀日
今日は久々に灯織と合同レッスンを行った。
今の所気楽に話せるアイドルが灯織と果穂と冬優子くらいなので、プロデューサーがあえて調整してくれたのかもしれない。
前回のレッスンから成長したところを灯織に見せようと張り切ってレッスンに臨んだら、「すごく、よかった」とお褒めの言葉を頂けた。
その後すぐに自主練メニューなどを根掘り葉掘り聞かれたが、なんだかデジャヴである。
283プロのアイドルというのはみんな上昇志向が強いのだろう。俺も見習わなくては。
☆月♡日
今日、プロデューサーから「ストレイライト」の最後のメンバーがもうすぐ合流すると告げられた。
冬優子と俺の二人だけではストレイライトとして活動することも出来なかったが、3人目も加われば本格的に活動開始である。
ユニットとしての一歩目を踏み出すのが楽しみでしょうがない。ついはしゃいでしまい、冬優子にそれとなく窘められた。反省である。
そして気になる3人目だが、俺の予想が外れていなければ最後の一人は「和泉愛依」だと思われる。
いわゆるギャルと呼ばれる女子高生であり、本来ならばあさひと冬優子の仲を取り持ってくれるはずの彼女。
天才である芹沢あさひや、プロ意識が尋常じゃなく高い黛冬優子と比べれば実力は一歩劣るが、それでもストレイライトには欠かすことの出来ない存在だ。
3人揃ってこそのストレイライトである。早く会いたいものだ。
一方、プロデューサーからはセンターの話もされた。
ユニットの中で一番輝く存在のみが担えるポジション、それがセンター。
イルミネーションスターズにおける櫻木真乃。
アンティーカにおける月岡恋鐘。
放課後クライマックスガールズにおける小宮果穂。
アルストロメリアにおける大崎甘奈。
――そして、ストレイライトにおける芹沢あさひ。
誰もがアイドル業界全体で見てもトップクラスと言える実力者たち。
ユニットの顔となりシンボルとなり、ひいては283プロダクションを背負う存在。
その名誉あるセンターの座を狙って、隠しきれないほどの情熱が冬優子の瞳には燃え滾っていた。
原作ではその実力にてセンターを奪い取った芹沢あさひ。
本人はその座を望んでいないにも関わらず、冬優子がその座を心から望んでいるにも関わらず、ライブでの輝きを以て彼女のポジションはセンターに決定された。
今の俺に、センターに見合う実力はあるだろうか。
冬優子を黙らせるだけの実力はあるだろうか。
そんなことはわからない。
ただ、誰だってやるべきことは同じだ。センターの座が欲しいのならば、他のメンバーの誰よりも努力するしか選択肢はない。
俺と冬優子がレッスン室に向かったのは、同時だった。
☆月○日
先日プロデューサーに言われた通り、ストレイライトの最後のメンバー「和泉愛依」と合流を果たした。
彼女は想像していた通りに明るく気さくな人物で、仲良くなれそうと人に思わせる魅力を持っている。尤も、アイドルとして活動する際は彼女のあがり症が原因で本来の性格とは真逆のクールキャラとして売り出しているのだが。
まあ、どちらにせよ冬優子の想定していたメンバーの性格とは違ったようで、彼女は微妙そうな顔をしていたものだ。
そしてようやく完成したユニットは「ストレイライト」と名付けられた。
「迷光」の意味を持つその名前は、プロデューサー考案だ。というか、ユニット名は全て彼が名付けているのだが。
更に早速というべきかなんというか、プロデューサーはストレイライトの初仕事としてミニライブの予定を組んでいてくれた。
ショップと連携してのイベントで、ストレイライトのCDの宣伝もしてくれるというそれは総じて良い仕事と言え、メンバーのみんなも受けることに異論は無いようだった。
しかし「
というのも、先方の手違いによってイベントの日時が間違って告知されてしまうのだ。
当然人は集まるわけもなく、観客を集めるためにユニットの中で一悶着起こることとなってしまう。
尤も、俺がプロデューサーにそのことを知らせれば済むだけの話だ。
実際のイベントの告知を見て日付が間違っていることを確認し、先方に連絡して修正してもらえばいい。
それだけで全て解決する。憂いの念を断てば、後はとにかく練習あるのみだ。
☆月Δ日
最近は専ら和泉愛依と黛冬優子との合同レッスン漬けの日々であるが、ようやくストレイライトが始動した感じがあって本当に充実した日々である。
そもそもこの体に憑依して以来、「誰かと共に何かをやる事」がひどく尊く思えるのだ。3人で一曲を完璧に通せたときなど思わずガッツポーズをとってしまう。
また和泉愛依こと愛依ちゃんは好きなだけ俺のことを褒めてくれるし、冬優子も表面上はすごいすごいと言ってくれる。
要するに外見上は練習の雰囲気が良く、非常に楽しいものとなっているのだ。
とは言え馴れ合いのような形になってしまうのも本意ではない。お互いに厳しいことも言えるような仲になりたいのだが、それはまだ先の話になりそうだ。
ちなみにイベントの告知の間違いについての連絡は既にプロデューサーに頼んでおいた。
ストレイライトの門出を完璧なものにしたいという思いからの行動であったが、特に冬優子からはめちゃくちゃ感謝されたものである。
283プロでも一、二を争うくらいの情熱をアイドルに注いでいる彼女からすれば、自身のスタートをなるべく最高の形で切りたいと思うのも当然だろう。
恩を着せるつもりは全くないが、これを切っ掛けに好感度が上がっていてくれたら嬉しいものだ。
☆月□日
はっきり言って意味が分からない。
「運命」というものの存在を改めて実感した。
待ちに待ったストレイライトの初ライブ。
万全の準備をして臨み、振り付けも衣装も完璧に整えて会場へ向かえばそこでは、
聞けば、プロデューサーから連絡を受けた先でまた連絡トラブルがあり、結局告知の日付修正は行われなかったという。
後から修正されたことを確認しなかったこちらもこちらだが、ハッキリ言って激憤ものである。
連絡を受けた子が体調を崩して伝えるのを忘れてただの色々と謝罪の際に理由は並べ立てられたとはいえ、あれだけの情熱を初ライブに注いできた冬優子たちからすれば到底納得できるものではないだろう。
プロデューサーから確認を怠ったことの謝罪と共に先方の事情を伝えられていたときの冬優子など額にうっすらと青筋が浮かんでいた。一方その頃の俺は運命というものの存在に打ちひしがれていたのだが。
結局のところ、全て原作通りの展開になってしまった。というか原作通りに
観客を短時間で集めなくてはいけないという問題に対し、冬優子と愛依が声掛けをして地道に宣伝をする一方、「芹沢あさひ」は路上パフォーマンスによって観客を大量に獲得するという方法で解決を図った。
この路上パフォーマンスが問題で、しっかりと邪魔にならないようスペースを事前に取ったならともかく今回のような突発的なそれは人の邪魔になったり、そもそも禁止されている可能性だってある。
結果的にこの客引きのお陰でライブは大成功だったとはいえ、「あさひ」の勝手な行動はユニットに不和を残してしまう。
全て記憶にあるシナリオ通りだった。全て昨日までの俺の想定外だった。
本来ならばもっと順調にライブを終えている予定だったのだ。俺もこんな問題があるとわかっている行動なんかしたくはなかった。
「原作では大丈夫だったのだから今回も大丈夫だろう」なんて打算や、多少の問題を許容してでもユニットとしての初ライブを成功させたい、という気持ちも俺の行動の要因の一つにある。
ただそれよりも、「勝手に体が動いていた」と言う方が正しい。
愛依と冬優子が声かけに向かった時、俺はそんなやり方じゃ観客は集まって十人が良いところだろうと、ひどく冷静に勘定していた。
無論二人はそんなこと承知で声掛けに向かったのだろうし、本来ならば俺もその声掛けに合流して協力するのが正しいやり方だったのだと思う。
しかし、俺の頭に響いてきた声はごく当然のことのように路上パフォーマンスを提案してきた。
ある見世物を宣伝したいとき、どうするのが一番良い方法だろうか。
ごく簡単な結論として、見世物の内容を小出しにすれば良いというものがある。
俺はそれをやったに過ぎない。今まで練習してきたパフォーマンスを軽く見せ、もっとすごいものをこの後ライブでやると言えば観客は簡単に集まった。
本当に原作通り、「あさひ」と全く同じ発想である。
まあ、結局のところは俺のやり方が悪かったということに尽きる。
そしてそれと同時に、ストレイライトのライブは大成功に終わったということも事実。
様々な後悔があるとはいえ、今日の所はそれが全てだ。
本当の問題は、もう少し先にある。
プロデューサーさんと冬優子ちゃん、何で怒ってるっすか……?