この作品は龍流様主催のワートリ杯作品かつ、厨二病なボーダー隊員の三次創作作品です。作者様からは許可を得てます。
木虎藍は物凄くため息を吐きたくなった。
「聞いてます木虎先輩?」
「聞いてるわよ」
「それじゃあもう一度初めから……子ども達と戯れる龍神様尊くありません?」
「っはぁ……」
木虎は物凄く深いため息を吐いた。
木虎は先ほどまで広報活動をしていた。彼女が所属している嵐山隊は所謂ボーダーの顔であり、そういう仕事が回ってくるのである。故に彼女が幼稚園に赴き広報活動をするのはおかしくないのだが……今回は少し違った。
「それにしても妬ましいですね。あの子ども達も木虎先輩も。龍神様のお言葉を承るだけでは無く、変身シーンも間近で拝めるなんて──わたしなんて、イーグレットのスコープ越しにしか見ていないのに」
今回、嵐山と綾辻達は別件で同行できず、そこで助っ人として選ばれたのはB級ソロ隊員である如月龍神であった。
厨二病を患っているボーダー内でも屈指の変人だが、何故かコミュニケーション能力は高く園児達には気に入られ、門発生というトラブルも沙汰なく熟すくらいには優秀だった。故に今回嵐山隊の二人の代わりに抜擢されるのは不思議では無い。
厨二病な点を無視すれば、だが。
そしてこの少女は何処で知ったのかトリガーをオンしてバグワからのストーカーをし、イーグレットで覗いていたらしい。
木虎は頭が痛くなった。
「トリガーの私的利用は辞めなさい」
「推しを見る為なら良いじゃ無いですか。それにちゃんと仕事しましたし」
ちゃっかりトリオン兵を撃ち抜き、木虎達の支援をしていたらしい。
無い胸を張って得意げな顔をする少女に、木虎は二度目のため息を吐いた。
今日はもう帰って休みたいのだ。年下には頼られたい対人欲求がある彼女でも、目の前の少女に如月龍神関係では絡まれたくなかった。
如月龍神は厨二病であり、発言も痛々しくその手の道を歩んだ者は悶え苦しむだろう。
しかし実力もありコミニュケーション能力があり努力をしている彼は、年上からは認められ、同級生からは仲の良い友人として扱われ、
一部の年下からは慕われている。
そして彼女もまた如月龍神を慕っていた。というより推している。ファンである。限界ファンである。おそらく如月龍神ファンクラブ会員No.1だろう。そのくらい如月龍神に夢中だった。
彼のランク戦のログは全てチェックしている。特に太刀川とのランク戦は大好物で、いつか勝てる日が来るのを胸を熱くして待っている。
彼の固有技はメモをしている。
もはやその情報量は如月龍神データブックであり、それを覗いた彼女のボーダー仲間は悲鳴をあげて逃げたとか。
とにかく彼女の如月龍神推しは凄まじく、それに巻き込まれた隊員は辟易とし、疲れ切った顔で緊急脱出する。
木虎もまさにその状態で、とても広報担当とは思えない顔をしていた。
「そんなに彼の事が好きなら、直接言えば良いじゃ無い。喜ぶわよ?」
「推しにわたしという存在を認識させるのは解釈違いですふざけないでください木虎先輩」
限界ファンであり、厄介ファンである彼女に木虎の瞳から光が消えそうだった。
「あの人の何処が、アナタをそこまで夢中させるのかしら……」
「──とりあえず一から龍神様の素晴らしさを語らせて貰いますね」
「ちょ、まっ──」
木虎の瞳から光が消えた。
◆
彼女が如月龍神を好きになったのは、警戒区域でトリオン兵に襲われていた所を助けられた──からではなく。
ボーダーに入って、狙撃手を選んで過ごしているうちに彼を見かけて──なんやかんやあって推しになった。
そこにドラマは無く、気が付いたら彼の事を推していた。しかし彼女はそれが好きになるという事なのだろうと何処か達観した頭で考えていた。
「はぁ……今日もカッコいい」
白のコートを翻し、真逆の色の黒い弧月を振るう如月龍神。その姿をうっとりした表情で見る彼女に対し、周りの者達は「ああ、またアイツか」といつもの事だと気にした素振りは見せず。
しかし彼女の表情はすぐに曇る。今如月龍神が戦っている相手を見て、試合展開を見て、そしてこれまでの戦績を考慮すると、どうしてもチラつく敗北の二文字。
「太刀川慶……」
ボーダー隊員最強の名を持つに相応しい強さを持つ弧月使い。龍神とは真逆の黒のコートを着込み二刀の弧月を手足の様に操る姿は、悔しいが推しである如月龍神よりも強いといやでも理解させられる。
しかしそれ以上に彼女の胸中にあるのは──嫉妬。
「グギギギギ、太刀川慶……!」
推しである如月龍神が、最も強い感情をぶつける相手──それが太刀川慶。
推しに認識されず推しを見たい限界ファンである彼女だが、それでもやはり推しが他者に掛かりきりな所を見ると感情が昂る。
王子隊オペレーターの様に掛け算を楽しむ趣味は無いので、嫉妬の感情しか浮かばないのだ。
「あ、また……」
そうこうしているうちに試合が終わる。
勝者は──太刀川慶。
総合一位、攻撃手一位の名は伊達では無く、それでも推しが負けたことに彼女は涙を流した。
「う、ぶぇく、おいたわしや龍神様……!」
顔面から年頃の女の子が出してはいけないアレコレを出し流すその姿も、ここ最近は見慣れた光景で誰も気にしていなかった。
「……いや、すげぇ面してんな」
しかし今日は声を掛ける者が居たらしく、なんとも言えない表情で彼女に話しかける者が居た。
彼女は振り向くと、顔から液体を流しながら口を開く。
「い゛ずみ゛ぜん゛ばい゛」
「とりあえず顔を拭け」
出水が手に持っていたタオルを放り投げると彼女はグシグシと顔を拭いた。
そのタオルもういらねーな、と思いながらドリンクを飲みつつ出水もモニターに視線を移す。
「やっぱ太刀川さんが勝ったか。龍神が勝つ日は遠いな」
「……いつか勝ちますよ、絶対」
「アイツもここまで想われて幸せそうだね〜。直接言えば良いのに」
「いえ、推しの前に出るなんて恐れ多くて……」
いつもの出水の言葉に、いつもの言葉を返していると、試合が再び始まる。しかし今回の如月の相手は別の者らしく、試合を終えた太刀川がブースから出て、こちらに気づくと歩み寄ってくる。
「おっす二人とも」
「こんちわ太刀川さん」
「ガルルルルルル」
「相変わらずだな、お前も」
太刀川に対して唸り声を上げる彼女に、太刀川は笑って流す。その光景を出水は苦笑しながら見ていた。
いつもの光景だからもはや慣れている。
「おのれ太刀川ァ……」
「なんかそういう所、あのバカに似ているよな」
「え!? 本当ですか!? やだどうしよう嬉し──って誰がバカですか!」
「お前、アイツの事バカだと認識しないとできない反応だぞ今の」
「ぐっ」
ニヤリと笑みを浮かべる太刀川に、彼女は唸りながら睨み付ける。しかし言い返す事ができず、それしかできない彼女は歯噛みした。
噛み付いてその首捥いでやろうかな、と思い始めた頃──。
「太刀川ぁあああああああ!!」
「ぴゃあああああああああ!?」
推しの声が聞こえた。
どうやらランク戦を終わらせてすぐに太刀川に向かって大声を上げながらこちらに走って来ていた。太刀川はそれをめんどくさそうに見て、彼女は悲鳴を上げるとその場を走り去って行く。
「あーあ……」
それを出水が見送り、次に太刀川に絡む龍神を見る。
もう一度戦えとしつこく付き纏う彼を見ていると、彼女がどうしてあそこまで固執するのか分からない。実力もあるし、いい奴だが……。
「そういえば……」
面倒くさそうに龍神の顔を掴んで遠ざけようとする太刀川と全く引く気の無い龍神を見ながら出水はあの時の事を思い出した。
「アイツ、最初は龍神の事苦手って言っていたっけ」
それは少しだけ昔の話。