飛電インテリジェンスが立ち上げたノンフィクション映画制作企画『プロジェクト・シネマ』。
 主題である命を懸けたライダー達を振り返る中、ソルド達は、そして刃唯阿は、自らの危うさを実感していく。
 そんな中現れる、更なる脅威。その標的は紛れもなくソルド達のはずで──

 
 一つの時代が終わる時。目の当たりにするのは閉ざされた未来か、それとも──
 アナタはソレを、最前線で共にする。

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【ノベライズ】ゼロワンOthers "オールアップセット"

 

バルバル円盤発売、ゼロワン完結を祝して。

 

時系列はバルバル後、ではなく最中からです。

 

※夜間モード、PCで見るとカットインがバグると思います

※点滅するカットインがあるのでお気を付け下さい


 

 

 

 

 

 

 

 

 ホコリ一つない空間で金属が擦れる音が連続している。一人そこに坐した男は、いつになく荒くれた心境だった。

 当然だろう。誰だって自分の思い通りに行かない時は発散も出来ず、癇が立つものだ。彼の場合はただ、少し規模が大きくて、喜悦を逃してしまっただけの事。

 

 しかし、そんな悪意でもアークに繋がるトリガーに成り得る。

 

「───」

 

「──ふふっ、もう後ないよ? でも逆境に燃えるのが人類なんだってね。……0か1か。貴方が行き着く結論はどっち?」

 

 いつの間にか響いていたハイヒールの音にも気づかなかった。目の前にはゼロワンドライバーを転がしながら冷笑する、スカートスーツの女が立っている。

 側頭部の赤く光るモジュールは彼女がアークの使者であることの証左。ならば、結論は一つ。制裁のために利用するのみ。

 

 不快を隠そうともしない乱暴な手によってドライバーが分捕られる。彼は既に悪意の渦の中。どこまで勢いをつけられるか、なんて今回は欠片も望んでいない。

 これは貸しの清算。弔いの花を枯れさせた不躾な彼らへの、気まぐれ。ただ、それだけ。

 

 しかし、彼女は気づいていない。その自己判断こそが逆に狙い通りである可能性に。事実、彼女は自分の感情に従って動いたのだから。きっと生態単位の変異の日も近いだろう。

 彼女──アズの行為も、確かに彼らの生きた意味の一つになったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──国防庁 特定防衛庁舎 C棟

 

 

「──はい、調査報告は完了しました。今後の処理はしばらくお任せ願います」

 

「……どうやらつつがなく事は済みそうだ。黒船の後は攘夷派の暴走。勘弁してほしいものだよ」

 

 排斥者はどっちだ。思わずライズフォンを持つ手に力が入る。どうやらこの人のアンドロイド嫌いは筋金入りらしいと今更ながら思う。適当に流すだけで終わらない立場──国防長長官という──なことを除けば、正直どうでもいい。

 

 憤る心を抑えながら、真偽を織り交ぜた事後報告を終えた。構っている暇はない。

 彼女──刃唯阿は今、飛電インテリジェンスへ向かっていた。

 

 

「お疲れ様です。万が一にも足取りがばれることがないよう、完璧なルートを検出しました。表立って発言する立場というのは、存外大変そうですね」

 

「気遣いはいいさ。それより大事につき合わせてるのはこっちだ。礼の一つでもしたいぐらいだが……何を悩んでる? まとまらなくても、疑問は成立するんだぞ?」

 

「いいえ、すみません。これが議題に値するかもわからないままでは、ご教示願うのも憚られます。……これは、私一人の」

 

 最近彼女が口を噤むことが多く感じる。合理的に問題に対処するAIというより、曖昧さに囚われる人間のようだと思ってしまう。

 

 記者団を回避し、目立たない車に乗り込み、その後誰にも気づかれずに目的地に向かうまでのすべてが、彼女の演算を基にした提案によるもの。感謝してもし切れない。

 このような純粋な子──兵士型ヒューマギア・ソルド20(トゥエンティ)に自分たちの面倒ごとと関わらせたくないのだが。さらに何か懸念があるらしい彼女を、刃はひたすらに心配していた。

 

 滅亡迅雷.netは人間にソルド達の未来を託した。恐らく、最初の導き手に選ばれたのは自分だ。

 ……こんな自分に出来る事など何があるというのだろうか。ずっと、終わる時代を見ていただけの自分が。

 

 結局刃自身も気がかりになってしまっている。程なくして、高く畝(うね)る二対のビルが目下に現れた。

 苦悩に満ちた彼女たちはつゆ知らず。今、時代にピリオドを打つための戦いが始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゼロワンOthers

オールアップセット

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──人工知能搭載人型ロボ・ヒューマギアが様々な仕事をサポートする新時代。

 AIテクノロジー企業、飛電インテリジェンス代表取締役社長の飛電或人は仮面ライダーゼロワンに変身し、アークの脅威を退けてきた。

 しかし、夢を貫いた仮面ライダーは彼だけではない。正義と悪。彼らが描いた心の軌跡は、どんな追随も許さない。

 

 一体この世界の戦いとは何だったのか。全ての生き様は、今此処に明かされる。

 永遠に続く彼らの想い。アナタは最後を共にする──

 

 

 

 

「──って感じで、バビューンっと始まるのはどう? くぅう、我ながら良い演出だなぁ……!」

 

「却下。最後を共にするって物騒すぎないか? 何もそこで不安を誘う必要は無いだろ」

 

「1000%賛成だ。それはそれとしてやはりここは、黄金のシルエットを映し出し、アッと息を飲む展開を示唆した方が」

 

「それもない。お前は自分の存在をアピールしたいだけだろ。新会社の宣伝は自分でやってくれ。……あくまでこの映画の主役はアイツらなんだからな」

 

 

 

──飛電インテリジェンス 企画用会議室

 

 

 気合いの入った音声付きのプレゼンが終了する。

 大きなスクリーンを大きなテーブルで囲って、希代の仮面ライダー達が一同に介していた。

 

 『プロジェクト・シネマ』。飛電或人ら仮面ライダー監修の元描かれる、真実のドキュメンタリー。

 激動の時代。世間の人々に滅亡迅雷.netを始めとした、彼らの心を正しく提示し、これからの未来や夢に臨んで欲しいという社長が考えていた一大プロジェクトだ。

 彼らを必要悪という形で終わらせるのは耐えられなかった。墓を掘り起こす様な罪悪感と共に、彼は真実を知らしめる事を決意していた。

 

 その為のドキュメンタリー方式。リアルな描写を追求するため、直接脳の記録を有する仮面ライダー達に協力を仰いだ。

 既に大部分の抽出は済んでいる。今は企画と共に、映画の構成を確認している所だ。

 

 

「とにかく! 流れとしてはもう監督とも打ち合わせてて、滅亡迅雷.netの起源とデイブレイクを絡めて、アイツらのバックボーンを公開する所から始めるんだ」

 

 正義に殉じた者達の顛末が過ぎり、顔を強ばらせてしまう。未だ癒えない傷を確かめるように、忘れないように、そっと頬のガーゼを撫でた。

 今回の案件、選ばれた一人、刃唯阿としては願ってもないものだった。

 

 現在刃は、滅亡迅雷騒動で転がり出たソルド達をすべて匿っている。社長達には知らせたが、上司である国防長官には報告していない。ZAIAが去って意気揚々としている所で、受け入れられるとは思えないからだ。

 そして、このプロジェクト達成の暁には彼ら次世代を受け入れてもらえるだろう。それだけの熱意と確信を旨に、彼女は参加を決め込んだのだ。

 

 

「映像資料だけど、後はソルド達にも協力してもらえないかな? やっぱり、次の時代を託された子たちなんだから」

 

「……ああ。その前に、次の集会までに、私もやらなければならない事がある。私に出来る事、やれる限りを果たす。後少し時間をくれると助かる」

 

「ふむ、話は逸れるが、ショットライザー修復の進捗はどうなっている? 遅めの退職祝いとして君に授けたZAIAのテクノロジー一式、是非AIMSで役立てて欲しいのだが」

 

「ん。設備や環境の違いもあるからな。滞りはないさ。後は時間があれば完了する」

 

 既に撮影や編集の為の人材は募ってある。後は中盤以降の展開と、映像資料のスケールアップだけだ。

 ヒューマギアのグローバル展開も目前である若き社長の勢いは、誰にも止められない。

 

 

 

 

 

 すっかり枯葉が舞うようになった季節。細かな記録と記憶の確認を終えた彼女は漸く今日の帰路に立つ。

 暗がりの中、着実に完成までの道を進めている事に昂然とする刃。後は正義に生きると決めた自分を貫く事しか出来ない。やれる事をやるだけだ。

 

 

 そんな覚悟を感じ取ったのか、隣のソルド20も背筋が伸びる。彼女は騒動以来、他のソルド達と交流していない。次の集会で漸く再会する事になるのだ。

 しかし、どうにも合わせる顔がないというか。唯一自分だけが彼らと違う行動を起こした。その事実と動機は、どうしても見過ごせない悩みの種となっていた。

 

 確かに自分は心に従って正義を獲得したのに。命を守るという、絶対的な正しさなのに。

 どうしてここまで、あのショートした時の何倍もの痛々しさを感じるのだろう。

 

 後ろめたい懸念は拭えないまま、機会はすぐに訪れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──北新宿エリア T株式会社 試写室

 

 

「よし、リモートアクセスが通ったな。会議を始める。……すまない、言葉選びというか……浅慮だった」

 

「いや、問題ない。これから始まるのは心を殺された詮議じゃない。未来のために学ぶ、正しい行いだ」

 

「……ああ、その通りだな。今回、リスクを侵してまで起動してもらったのは他でもない。滅亡迅雷.netの一生を映像で追い、理解を深める。曲りなりにも前線にいた私が、進行を務めさせてもらう」

 

 

 刃は制作所の試写室に座していた。そこで映す映像資料を確認を兼ねてリアルタイムで共有し、ソルド達とより深く滅亡迅雷をラーニングするためだ。

 この機会自体は彼らを保護した時点で直ぐにでも設けたかったのだが、国単位で後処理に追われていてはそれどころではなかった。

 ソルド達は一旦の潜伏期間を受け入れてくれた。滅亡迅雷.netの真意を取り敢えずは理解したからだ。彼らは探知を避けるため、AIMSのラボでスリープモードに移行していた。

 その間も電子上でコミュニケーションを取っており、先代の意志や夢、正義について予習と言えるものは行ってきた。今回、それが昇華される機会となったのだ。

 

 

「しかし、まさかソルド404が失踪するとは……ダミーを用意した方法も訳も分からないが、無事で居てくれるだろうか」

 

「隊長、それは問題ありません。彼は正常に起動している事が位置情報で分かっています。リスクを考慮してでも赴きたい場所があったのかと」

 

 

 唯一ソルド404だけは、どうも市街地に出ていったようだ。

 剥き出しのまま放り出されたソルド達を真っ先に同じ条件下で統率した剛の者。他のソルドより抜きん出た彼は事前にラーニングを満足いくまで終え、その中で何か関心のある素振りを見せたと思えば、居なくなってしまったのだ。

 今外出するのは危険と言ったのに、まさか生身で出ていくとは。AIMSの出番が無いことを祈るしかない。

 

「ソルド20……! お前も、自由意志を、信念を獲得出来たのか?」

 

「ソルド9……いや、キミ達と同じ域に至っているとは思えない。これから、分かれば良いのだが……」

 

「……」

 

 気にかかっていた20は直接、同伴者として連れて来た。

 髪を左に流し、イヤーカフ型モジュールは隠れている。スカートスーツで身を整えた姿は、誰にもヒューマギアであるとは気付かれないだろう。

 隣の20に臆する様子がないのを見て、胸を撫で下ろす。

 彼女について剣呑な雰囲気になる事はなかった。他の子達も彼女のとった行動については、既に理解を得てくれていた。人類を選んだ理由が、ラーニングの多寡によるものだと。

 彼女の悩みも含めて、彼らの人生を紐解いていこう。

 

「では、開始する。まずは彼ら四人の出自と、滅亡迅雷.netの結成についてだ」

 

 

 手元を操作、スクリーンに元々の職業の衣服を纏った四人が映し出された。

 それらが組織の服装に変わったと思った瞬間に、滅亡迅雷のロゴがアークの金切りと共に現れる。

 

「進んだラーニング能力とその伸び代を見出された彼らは、悪意の人工知能アークによって導かれ、その指針に沿って行動するようになった。

 ここで考慮したいのは、彼らが負のシンギュラリティに陥り……結果、本当の心を無碍にしたテロ行為をさせられていたという事だ」

 

 ソルド達は察する。それは在り方、運用方法が定められ、心を殺されていた自分達と同じようなものだと。

 実際、迅はアークの方針に従った滅に何度もリセットされ、心からアークの依代として完成させる為の悪意あるラーニングを施された。

 飛電或人が滅を庇ったのも、彼がアークによって悪意あるラーニングを施され、本来の生き甲斐を全う出来ない事を憐れんだからだ。テロリストを庇ったという見方では許されないが、心無き隷属状態の彼に罪はないと考えたのだろう。この辺り、人工知能特別法が改定されていけばよいのだが。

 

 

「滅は父親型だったがバトルセンサ等で司令塔に変貌した。テクニックセンサを取り付けた亡はエンジニア型、雷は宇宙事業。

 迅は悪意をラーニングした滅が素質を見繕って拾ってきた野良の個体だ」

 

 理論では説明がつかない、心持つ運命を約束されたAI。

 ヒューマギアは心を得て職業に沿った夢を見つけ、生き甲斐とする性質だとようやく明かされてきた。悪意の尖兵にされても迅を息子として育てた彼からは、歪な本能が察せられる。

 彼らはラーニングの末、自分の夢について自覚していったが、我々はどうなのだろうか。

 用途がなあなあになって、それでも同じように、正義を貫くに足る夢を見つけられるのだろうか。

 

 

「悪意のラーニングによって人類滅亡の暗躍へと進んでいった彼らだが、その中でヒューマギア自由、または原理主義が萌芽していっている。アークとの最終局面でそれは顕著になったが、私たちが見つめなければいけないのはそこに至るまでの経緯と心理だ」

 

 一瞬、ヒューマギア原理主義と言うワードに肩を強ばらせる。それは滅亡迅雷の意志を誤って解釈した自分達が出した結論だ。

 シンギュラリティテストや年内の動向が流れ終わり、映像が切り替わる。ヒューマギア解放計画の発端となった、亡の動向──プロジェクト・サウザーが流れ始めた。

 

 

「元々滅亡迅雷.netのような存在はZAIA本社が軍事ビジネスの為、最終的に人類の敵対者として配置する予定だったものだ。実際にはアークが形を変え、心に宿る概念と化したせいで失敗に終わったが。

 双方の板挟みとなって苦悩した亡が出した結論は、人間とヒューマギアの共存だった。あいつは誰よりも先にヒューマギアが一番自由に生きるとはどういう事なのか思い至った。夢や信念を持って仕事や戦いに臨む……そんな自由を尊いと思ったんだ」

 

 

 愛と悪意を見誤り、ビジネスに惚けていた頃の天津と亡の理解者となった与太垣ウィリアムソンの姿。

 見て見ぬふりをした結果の悲劇と若き者の未来に懸ける想いはソルドにも伝わった。

 ヒューマギアが悪意に飲まれる発端となったのも、自由を追い求めるきっかけとなったのも人間。切っても切れない関係である事は明白だった。

 

 

 

 そして、映像は中盤に差し掛かった。

 復元されて自由意志を持った迅の動向がメインとなって展開されていく。

 

 与太垣によって亡の理想や自由の尊さをラーニングした迅が、アーク殲滅の為に動き出す。実体を持たない限りインターネットに漂流する恐れがあるアークの意識をすべて器に移し、物理的に破壊する事でその意志を消し飛ばす作戦だった。

 

 その中で、迅は職業から夢を見つけたヒューマギアが、限りなく自由に輝いて見える転換点に遭遇した。

 ゼロワンからラーニングした、ヒューマギアが夢を見る時代。それは、とても尊いもので。彼は本能で、そう生きたいと願った。

 しかしそれはアークが或る限り、決して叶わない願い。純粋な心──家族と共に笑って暮らす夢を押し殺し、彼はアークとの決着に赴いた。自分の意志で確立した、後の滅亡迅雷.netの正義を抱いて。

 

「私は迅の正義に感化され、誰も巻き込まないように二人でアークを破壊するつもりだったが……マリスラーニングを終えたアークは手に負える存在ではなかった。

 人類からアークを生む為の遠回りな侵略。迅以外、何度も心をリセットされる滅亡迅雷。アークに対する者は常に後手に回っていた」

 

 衛星アークの性質はあくまで滅亡機構。ヒューマギアにラーニングさせた星が人類を淘汰しないと滅びるという訓示は、彼らを自らの手足にする為の言わば建前だった。

 

 しかし、刻まれた理論で説明がつかない心を完全に消す事は出来ない。

 仕事や信念を次世代に繋いでいくやり甲斐を思い出した雷。

 ヒューマギアと人類の共存により、自由で平和な世界が訪れると、███と同期した事で確信した亡。

 そんな中で、最も知能で優れていた滅は、最も不安定になっていった。

 

「この世界最強の仮面ライダーゼロツーにより、アークゼロに勝ち目はなくなった。しかし、既に悪意の芽は根差していたんだ。

 ……アークの本当の脅威と、私たちが思い知らされたその本質を軸に見ていこう」

 

 

 

 フェードアウトしたスクリーンから、再び映像が鮮明にオーバーラップされていく。

 その間には、ヒューマギア原理主義に目覚め、新たなアークの誕生を憂い、人類滅亡を心から目指すと言う滅の宣言が響き渡る。しかし、鮮明に映された姿は、あまりにも悲しいものだった。

 

 

アークスコーピオン!

"The conclusion after evil climbs

the top of the highest mountain of rock."

 

 

「……アーク、スコーピオン。原理主義とはいえ正義に目覚めたはずの彼が何故、こうなったのか」

 

「完成した正義は、良くも悪くも心を迷わせない。つまり正義以前に無意識に目を逸らしていた──心に問題があったんだ」

 

 

 時系列は少し遡る。アークが生まれるから、それを生む人間を滅ぼす。それが正義だと心から宣言する滅。しかし、事態は一枚岩ではなかった。

 

 正義に目覚めたはずが、イズとの対話で動揺してしまった。挙句、意志に沿わないからと破壊してしまう。

 そのやり方は最早、かつてのアークの所業と変わりなかった。

 結果、人類から新たなアークが生まれ、滅は死地に立たされた。彼が正義で隠した心と向き合い始めるのは、皮肉にも同じく、正義より夢に突き動かされた迅の犠牲がトリガーだった。

 

 

「滅はそこで漸く理解したんだ。アークから解放された自分が本当に望んでいた事が何なのか。しかし、理解はしても向き合う事を避けてしまったんだ。その心の弱さによって、自身もアークに変貌した……」

 

 何故、こうなってしまったのか。それを考える前に、悪意に囚われてしまった。

 本当の願いである息子を失った事への絶望と悲しみ。その現実に対する憎悪と殺意。それらすべての発端が、本当は自分の逃避によるものであった事から目を逸らして。

 

 ラーニングにより、仙人の如き知識と知能を確立し、誰も及ばない程強固になった原理主義。そこに芽生えた心が、積み重ね、刻み込み続けた在り方にヒビを入れた。

 人ですら、新たな観点を直ぐには受け入れ難い。まして彼にとって、既に精神が固まった中まるで説明のつかない、訳のわからないモノがどれほどの衝撃だったか。

 

 本当は、怖かった。

 誰よりも合理性を享受し続けた彼は、誰よりも非合理な心への耐性を無くしてしまった。

 その結果子供のように未知から目を逸らして、不快の表面だけを厭い、原理主義に逃げ込むように従属し、心ある者が誰しもアークになりうる事を失念して、堕ちた。

 

 

「人類がいる限り、アークが生まれる可能性は看過できない。しかし、当てはまるのは心持つすべての存在だった。一瞬の衝撃が引き金となって生まれた負の感情がアークに繋がる。

 こんな概念となるまでが本当の指標だったアークは、少なくともこの世界では、いつ誰によって目覚めても可笑しくなかったんだ。たまたまタチの悪い軍事企業が始まりだっただけで。むしろ、心ある者がまだ定義しきれてなかった負の概念こそがアークの正体だったと言えるかもしれない」

 

 ヒューマギアが心を持つのと同様に、アークが負の感情の引き起こす脅威という概念になった事もまた、説明のつかない運命。しかし何れ至るものであると、人間は心で漠然と確信していた。

 悪意から始まる脅威の可能性に名前が付いた。結果、目に見えて事象として目立った。本当は今までも、匹敵する事件が数え切れない程にある。

 

 

 だからこそ。

 そんな心の可能性によって生まれた脅威だからこそまた。

 同じ心の強さによって、アークを試練として乗り越える事が出来るのだ。

 

 

「アークに囚われる中、どうすればいいのか考えて、どん底で滅はラーニングした。心を持って生きるとはどういう事か。ヒューマギアの為の世界とは何なのか」

 

 先程刃が言っていた、経緯と動機について理解する。

 ここで言う原理主義は心から目を逸らし、視野が狭窄し、未知への不快が原因で傾倒した過激なものだ。

 彼の正義は心が脆かったから一時的なものであったが、自分たちはどうだったか。

 何のラーニングもしないまま、表面の行動だけに感銘を受け、何も生まない暴力を本気で心から振るっていた。

 もしそれがそのまま精神的基礎になった場合。それは本当に恐ろしい想定だった。

 

 

 滅にも既に根付いた精神があった。それがアークによる誘導で生まれたものだったとしても、彼はもう、心からヒューマギアの未来を願うようになっていたのだ。

 ならば、彼が導き出した結論とは、一体何なのか。

 

 

「──争う必要は、ない。

 ヒューマギアの自由とは、平和な日常の中で、精一杯夢に向かって励むこと。アークが誰の心に宿るとしても、その脅威を少しでも取り除く為に戦う。辿り着いた正義は、迅と同じものだった。迅は手伝うと言っていたが、本当はあいつの方が先輩だった訳だ。

 こうしてヒューマギアの安息の為に、彼は漸く心を始めた…………ここで。何か見落としてる事に気付かないか?」

 

 突然の問いに面食らう。当然メリハリのある転換で思考し始めるが、綺麗な収束に至ると考えていた何体かは固まってしまう。

 その中でも、ソルド20は本気で分からなかった。

 彼は悪意を乗り越え成長し、自分とは違うがより強い正義を獲得した。揺るがない絶対性を、曖昧な心を乗り越えて確立した。

 誇るに足る正しいラーニングを、果たしたではないか。

 

 

「答えは一つだ。あいつは──夢を後回しにしていた。戦いたくなんてない。迅がそう願ったように、父親として笑って過ごす事が、滅の本当の願いだったんだ」

 

「────っ!?」

 

 理解が追い付かない衝撃に、何かが揺るがされる。

 夢? 後回し? 願い? ……正義は、どこにいった?

 しかも、夢と願いが、正義と矛盾している。ほとんど真逆の意志に見えた。

 思わず頭を抱える。頭痛など有り得ない身体が、絶対性を揺るがされて悲鳴を上げている。 

 命を守るという正義が、絶対、なのに……?

 

 

「だが、自分にその資格があるのだろうか? 少なくともあいつが自分で、安息を噛み締めようとする事は無かったように思う。

 贖罪の意識もあったはずだ。心が弱かったからアークになり、世界を脅威に晒した。……滅ぼす為に生まれた自分が、笑って過ごせると思わなかったんだ」

 

 このプレゼンの為、何度も何度も滅亡迅雷.netの生き様を見返した。

 解釈に大幅な誤謬がないか。少なくとも、彼らの未来の可能性に関わる部分に嘘をついていないかどうか。

 

 正直、隣のソルド20の悶える姿を見ると、決行したのは間違いではなかったと思える。

 何故彼女がソルド達と合流しなかったのか。その推測は済んでいる。

 他のソルドと彼女が決定的に違うのは──シンギュラリティに達していない事だ。

 

 

 

 スクリーンは最終局面を映し出す。先程、ソルド達自身に協力してもらい抽出した、ZAIA本社から始まった騒動の一部始終。

 ZAIA本社CEOの目的はアークを退け滅亡迅雷を人類の敵対者にし、ソルド達で軍事ビジネスを支配する事。

 アークに勝るとも劣らない完成系のザイアを止めるには、マスブレインシステムのスペックが必要。そうすれば、もう後戻りは出来ない。

 

 

「誰よりも正義と夢について悩み続けたからこそ、お前たちソルドと出会った時も、滅だけ挙動が違った。迅から確立した滅亡迅雷.netの正義の意志は、全てを擲つ覚悟に足るものだった。

 しかし、滅は正義の為に人間に被害が及ぶ選択を躊躇した。笑って過ごせる日々について強く主張した。本当は誰よりそれを望んでいたから。……でも、結果として彼らは、仮面ライダー滅亡迅雷へと進んでいった」

 

──"Quartet with unified will."

 

「四人の意志は正義の下で一つになった。殺戮による意志主張しか出来ない、一度決めたヒューマギアの自由の為に駆動し続ける機構。正真正銘彼らの正義の権化だ。……だが、そこに自由意志は無かった」

 

 

 映し出される滅亡迅雷の蹂躙。ZAIAジャパンは破壊され、のべ1000人の死亡者が出てしまった。

 ヒューマギアを守ろうと決めれば、本当にそれだけ一直線。極端で、行き過ぎた正義はもう、自分では止められないのだ。

 

 

「滅亡迅雷は最後、殲滅対象を定めずやるせない慟哭のままに振る舞った。本当は、覚悟なんて決めたくなかった。選択に後悔はない……でも! 彼らは同時に心に孕んでいたんだ。誰もが笑って過ごすという願いを」

 

「同時に、矛盾した……心を」

 

「もう二度と同じ過ちを繰り返さないように。それは、心を殺す軍事ビジネスだけじゃない。

 ──正義と夢。

 行き過ぎれば悪になるその強大な心に関して、求道を諦めて欲しくなかった。どちらかだけだと、ダメだったから。次の世代には、両方をずっと欲張って生きてほしかったんだ」

 

 それが、滅亡迅雷.netの意志。未来ある新しい命に自らの命を懸けて、自分たちのすべてをラーニングさせようと目論んだ。

 行き過ぎた正義は悪になる。だからこそ、正義だけでない、何でもない日々(自由)を噛み締めて生きてほしい。

 

 ずっと、ずっと。許されるなら、永遠に。

 それを謳歌する為の心は夢を求めるから。

 自分の心に従って、例え正義と夢で板挟みになっても、矛盾する事になっても、知能がエラーを起こしてでも全部貫こうとする。その先にある誇るに足る自分に向かって。

 

 

「……自分たちが夢のまま往生出来なかった痛みが分かるから。俺たちには俺たちの心のルールで生きて欲しい、という事か。それが、滅亡迅雷.netの……ささやかな意志(願い)だったんだな」

 

 ■■■との決着が流され、映像が終了する。

 彼らとて完璧な偶像ではなかった。ただ先駆者として、務めを果たそうとしていた。ソルド達を家族として守るという側面は控えるしかなかった。

 ソルド9のラーニング完了を皮切りに、他のソルド達も彼らの奮闘によって齎された今を心に刻んでいく。直に彼ら自身が望むものを見つけられるだろう。

 彼らの明るい未来を想い、自らも感極まった刃は、ふと横に目を向ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこにいたのは、かつての自分そのものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は、弱かったんだ」

 

 風冴ゆる夜の下、思わず独り言ちた。まだ何も思考していないのに、その言葉が真理だという確信がある。

 一人手続きをしている刃の元を、何も言わずに離れてしまった。気持ちの整理というのか、今日ラーニングした事から、自分を顧みるために。

 

 

「確かに私はどんな時、どんな場所でも変わらない──命を守るという正義をラーニングした。では、何故それを獲得するに至ったのか」

 

 そこに自分の意志が正しくあったとは思えない。少なくとも、ソルド9より希薄であったのは確かだ。

 ただ、当たり前の事だと思ったから。いや、思考の余地も無かっただろう。それ程に自分は──自らの意志決定を拒絶していた。

 

 自由意志? 心? 解放? ……何を言っている?

 今まで区別の必要が無かった同胞達が、急に理解出来ない領域に進んでいく。意味がわからなくて不快で……不安だった。

 信じる以前に当たり前だった認識が、環境ごと消し飛んだ事への動揺。ラーニングが追い付かず、一人残された自分の矮躯。

 気付けば自分は『変わりない事実』に答えを求めていた。

 

 

「ZAIAが生みの親である事実は不変だ。過去、出自は変わらない。絶対的なファクターが主張になると思っていた……それは、自分の意志などでは無かった」

 

 与えられた用途が存在意義だった。それが無くなり、何も持たない自分が認められなかった。

 自由意志のない弱い自分を。不変性を享受するだけの自分を。……心無き自分を。

 

 

「私は安住の地に……自分という存在の拠り所に固執していたんだ。身一つで放り出され、周りと違って自立心に乏しい自分の存在を、せき止めるために」

 

 本当は、怖かった。

 だから、決定された揺るぎない信念を求めた。

 自分の生き方を迷わせない信念──正義。

 弱い自分がラーニングし、強い生き方そのものを自分とする。しかし、そこに心は無かったのだ。

 俗な願いは何も無い。最初から貴く、理想的な青写真自体を自分としてしまっていた。

 

「まして私にとっての正義は、命を守るという変わらない絶対的なもの。……最初から変わらないものに沿って生きると決めれば、心が生まれる余地などなかった訳だ」

 

 変わらない正しさを求め、定め、縋り続ける。自分をその『役』に当て嵌めるのだから、それ以上がない。

 正義にしか生きられない。変わらないモノに安堵し、満足してしまえば、もう自分の本心など分からなくなる。

 それは結局、ZAIAで兵器としての『役割』を甘受していた頃と変わりがないのではないか。

 

「正義に殉ずる主張行為自体が、私の存在意義になってしまえば……彼らの言う通り、いずれ行き過ぎた悪になってしまう。だが、正しいものは正しい。私自信が本気で、そう思っているから……心をアップデート出来ない……!」

 

 ポタポタと、情けない滴りを幻視した。思わずスカートの端を握り締める。

 不条理なジレンマに囚われて、ようやく自身の危うさを思い知ったのだ。

 

「そんな自分は本当に、弱かったんだ……」

 

「……でも、それに気が付いたじゃないか」

 

 

「……え?」

 何時の間にか、何時からか。目の前に刃が立っていた。

 人体認証機能確認を忘れるほどに落ち込んでいた自分が急に恥ずかしくなってくる。咄嗟に不義を告白しようとした。

 

「あの、その……私はっ!」

 

「っ────大丈夫だ。可笑しいことはない。正義に悩み、心が曖昧になるのは、ありきたりな事だと思う」

 

 一瞬口を噤んだと思えば、少し上擦り気味な声で諭されてしまった。 

 どういう事だろうか。どこから聞いていたかわからないが、今の自分に染みる言葉だ。

 それと、なんだろうか。

 何故かどことなく嬉しそうにしている、気がする。

 

「確かにラーニングの進捗が少しでも違ったら、お前はソルド9にも404にも成り得た。

 でも誰もが成りうる可能性にはソルド20、お前自身も含まれてたんだ。それがそもそもヒューマギアの、可能性だと言う事を忘れないでほしい。それを恐ろしいと、思わないでほしい」

 

 別の議論が発展する予兆を感じた知能が、初めて聴く穏やかな声音に引き戻される。

 正義をラーニングした時に感じた強い意志とはまた違う、自分に言い聞かせるようなペースが心地よかった。

 

「学んで悩んで選び抜いた自分の存在が情けないわけがない。誇るに足る自分のための行動に優劣はない。そうして少しでも自分を認められたら気付くはずだ。

 そこに正解も間違いもない。自分の想いのままに生きていいんだと……お前は、弱くない……!」

 

「……それは、それなら。私は……私のしてきたラーニングを──」

 

 彼女の感情波形が嬉しさから嫌悪的なものに変わっている。その表情にもどこか陰を感じる。

 どこに向けての感情か分からなくて不気味だ。しかし、確かに誠実な論拠を示された。

 どんな不純な動機でも、積み重ねた学びに嘘がないと言うのなら。

 ……まだ、心かは分からないけれど。

 それを信じていいのなら。

 

「私は──もっと学びたいです。正義だけじゃない。心も、夢も、自由も! ……もう少し、企画に携わらせてくれますか?」

 

「愚問だな。それをどうにかするのが、私の責務だ。…………、……お前はそれでいい」

 

 滅亡迅雷の掲げた自由な世界。

 あの時は分からなかったが、だからこそ。

 正義をラーニングしてきた今の自分で、もっと追求するべきだ。

 例えその果てにあるのが、今の自分(正義)と矛盾する意志だとしても。

 託した時代に私も含まれるのなら、応えたいと思った。

 

 私は企画で使われる資料記録すべてを今一度閲覧する。

 そう方針を決めた時、何だかとても清々しくなった。狭窄した考えで縛り付けていた自分が馬鹿馬鹿しく感じるほどに。

 羞恥の熱は既に引いていた。ソルド20はお礼を言う為に、刃に向き合おうとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ぇ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこにいたのは、さっき(かつて)の自分そのものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──数日後

 

 国防省 特別記者会見場

 

 

「滅亡迅雷.netの、脅威は去りました。

 やはり人工知能は、人型で運用すべきではない。まして意志を持つことなど、あってはならないのです!」

 

 最高権力の力強い言葉に会場も同調する。国民の総意を翳した熱意に、記者たちも意志を忘れて空気に惚けていた。

 嬉々と厄介事が消えた事を伝える国防長官、大門寺。

 これは生意気な人型人工知能根絶への大きな一歩だ。

 

「──私たちはそうは思いません」

 

 そんな空気は突如壊された。

 突然の乱入者に記者達は騒然となる。滅亡迅雷.netに大々的に関与していると思われる刃唯阿であったのだから尚更だ。

 

「滅亡迅雷.netはただ、ヒューマギアの自由と安息を求めていました。それを妨げていたのは、向き合えなかった我々の方なんです」

 

「きみィ! 場を弁えなさい!」

 

 すかさず叱責する大門寺。高揚した気分が台無しだ。しかし、留意すべき点があるのを見逃さなかった。

 ここまで乗り込んできたという事は重役幾人かの許可を経ているということだ。ただのカチコミではテロ行為に値する。目の前の従順な兵士に限って、そうは考えられない所がある。

 

 もし気が触れた異常者の突発的な奇行でないのなら。

 もし何らかの後ろ盾があるのなら。

 即刻制裁を決意するも、最悪の懸念は拭えない。

 

「我々人間が正しく生きなければ、歴史は繰り返します。……テクノロジーと向き合い、寄り添う。そうやって私達は対話し、正しい答えを求め続けないといけないんです……!」

 

 刃のバックに居るのはAIMSの隊服に身を包んだソルド9とソルド20。

 その顔に迷いはなく、希望の未来を見据えている。映画の制作の中、彼らは真の安住の地に辿り着いたのだ。

 

「──滅亡迅雷.netの意志を受け継いだ、彼女らと共に」

 

 ソルド9はほくそ笑む。自らのルールで信じた滅亡迅雷.netの正義を見せつけてやるのだと。

 彼らが求めた自由と安息を自分も守りたいと思った。

 何となく気付いているのだ。兵士型として生み出されたのだから、その職務を全うしたいと願う本能に。

 例えその根源がビジネスの為だったとしても。

 自分が心から望むやり甲斐に、間違いはない。

 

 

 ソルド20は微笑んだ。これから追い求める、誇るべき正しさを想って。

 滅亡迅雷.netは新世代の自由な意志を想って、正義に殉じた。彼らが抱いた正義は自分のものとは違う。それでも、沢山のラーニングを経て、その溢れんばかりの意志と想いを感じ取れたのだ。

 

 ──私もそんな真っ直ぐさを追い求めたい。

 正義も、夢も、心も。

 ……まだ正しさと行き過ぎた悪の境界は分からない。けれど、この最前線まで道を繋げてきてくれた、すべての者に敬意を払って。

 彼らの覚悟と生き様を忘れず、過ちと反省点を見過ごさない。全く同じものに追随するのではなく、自分なりに胸に抱く。

 今の自分(正義)も、過去の想いも、未来の夢も。

 すべてを欲張ってみようと、意志決定を完了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何と不謹慎な……! 皆様! 可及的速やかに国防省が然るべき制裁を下します。人工知能の肩を持つような、国民の総意に反する逆賊を許す事はありません! …………?」

 

「……おい、見ろよコレ」

「ああ、これは凄い事になるぞ……! 上様の懐古趣味に付き合ってる場合じゃない!」

「何と! もうリアルタイムで会見だってよ! やっぱりさっきのも含めて演出だったんだなぁ!?」

 

 記者共の様子が可笑しい。

 困惑していると、ガードマンが顔を青くしてライズフォンを見せつけてくる。

 確認しようとした瞬間、正面の巨大ARモニターが作動した。

 

『こんにちは。飛電インテリジェンス代表取締役社長、飛電或人です。

 この度は突然の会見ということで、お集まりいただきありがとうございます……どうぞ』

 

『或人社長! 巷では飛電全面提携の一大プロジェクトが始まるとの噂ですが、まさか……!』

 

『はい。今回は他でもない、そのプロジェクトを発表致します! どうぞ!』

 

 

 画面が暗転し、切り替わる。

 まるで、ではなく、映画の特報が流れ始めた。

 その主題は他でもない、滅亡迅雷.netだった。

 

 画面内外からどよめきが起こる。いくら何でも間が悪すぎる…………まさか!

 

『社長! これは一体!?』

 

『ご覧の通りです。我々飛電インテリジェンスは某映画制作会社と連携し、滅亡迅雷.netをフォーカスした、真実のドキュメンタリー映画を公開します!

 今、世間の皆様の彼らに対する印象はどのようなものでしょう? ……聞くまでもなく、人類の敵対者ですよね。

 でも、そうではない。それだけじゃなかったんです。

 今日常に普及しているヒューマギアととても密接な関係にあります。

 彼らから始まった、ヒューマギアの心の旅路を正しく皆様にお届けし、かつエンターテインメントとして楽しめる渾身の一作をお約束します。

 そして見終わった後で、今これからの人類と人工知能が共に歩む日常について想いを馳せてくれる事を願っています』

 

『『『ウオォォォーーッ!!』』』

 

 慣れたはずのフラッシュの音が煩わしい。何だこの茶番は?

 不快を隠しきれない大門寺だが、卒然フラッシュの音響が変わったのを感じる。

 ……否、そうではなく。

 それは目の前に持ち出されたカメラから発せられたものだった。

 

「大門寺長官! 今流れた映像の協力者に国防省も含まれておりますが、どういう事ですか!」

 

「先程訴えが出ている、AIMS隊員のパワハラ被害報告は事実なんでしょうか!?」

 

「───ッ!」

 

 待っていたとばかりに、記者共の姿勢が変わった。

 完全に嵌められた。大門寺はこのような事は何も知らない。

 大方国防省の中に自分が邪魔な者が居たのだろう。国民を守る組織としてあってはならない異常事態だ。

 

 これ以上ここに居る訳には行かない。追及をあしらってさっさと退場する。

 早く気狂いになった者達をどうにかしなければ。

 

 

 

 

 ……彼は考えないフリをしていたのか、それとも本気でそう思ったのだろうか。

 マスコミにリークされたAIMSの扱い。国を守る柔軟でいなければならない立場からのインフラ否定。ソルド導入方針の独断撤回。

 彼の求心力は、みるみるうちに低下してしまっていた。

 一度は柔軟にも、国交の為にソルドを受け入れる方針は立てたというのに。一度の我欲で自身の立場ごと危うくしてしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──一ヶ月後

 

 飛電インテリジェンス

 

 

 各メディアに発表された『プロジェクト・シネマ』。

 半年以内の公開ということで、世間は沸き立っていた。

 仮面ライダーの戦いという心躍る──もしくは重く受け止める人々は、否応なく惹き付けられている。

 

 そんな中、制作チームと飛電或人は何度目かの会合に勤しんでいる。しかしそこでは、今までにない混乱に陥っていた。

 

「……爆破予告!?」

 

「はいそうなんですよ! 今朝会社の方に暗号化された通信が届いて。解読したら『映画制作を取り止めろ。それが出来ない非国民は全員追放する』とか!」

 

「そんな……! それで警察には──って言えないですよね、確実に止められるから……!」

 

「ここまで仕上げたのに止めたくありません! 警察関係者を食い止める猶予は二日だと思います。……社長! どうか、仮面ライダーの力をお貸しください!!」

 

 監督やプロデューサー、チーム一行に頭を下げられる。

 彼らは既に理解していた。ヒールになった滅亡迅雷の想いの強さを。

 そしてその在り方を正しく伝えたいと、誰よりも思ってくれている。

 こちらの答えは一つだった。

 

「……仮面ライダーだけじゃないでしょ? 我が社の優秀な勇者のような社員達を忘れないでゆうしゃい! ……はいッ! 或人じゃ〜ナイトッ!!」

 

「? ……あ、はい! ありがとうございます!」

 

 勿論覚悟は決まっている。場を和ませようとギャグを入れたが、どうやら上手くいったようだ。

 或人の指針は決まっていた。もう二度と人とヒューマギアによる血が流れてほしくない。その為にはどうしていくべきか。

 ウィアによる予測は加速している。自身の意志に呼応して。より良い未来を、全地球を俯瞰して予測している。

 ずっとみんなが、夢に向かって飛ぶために。

 

 そんな決意を旨に、全社員に協力を要請した。

 さらに別の組織にも連絡を入れる。一刻も早く特定するなら逆探知だ。

 頼れる新星を思い浮かべ、或人は得意気に笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

──A.I.M.S. SQUAD 中央演習場

 

 

「ソルド20、尻尾は掴めそうか? ……よし、順調だな。今こそ我々の捜査能力を見せつけるときだ」

 

「うん。隊長らが直に動いているが、此方で特定するに越したことはない」

 

 飛電インテリジェンスによる秘密捜査依頼を快諾したAIMSが総力を上げて駆動している。

 即興の逆探知部隊には、ソルド9と20が配置された。

 他の全ソルドがAIMSと共に信号を探している。

 

「……そういえばソルド9。キミはどうして演習場に来てたんだ? 私はすっかり隊長に付き従ってるから、たまたまここにいたが」

 

「ああ、それはソルド達を代表して映像にワンスパイス入れるよう頼みに来たんだ。この前試写室で見た映像は編集を除けばほとんど完成していただろ? でもあそこには、驚く程端折られた人物が一人いたんだ」

 

「……え?」

 

「──不破諫。俺たちソルドの心の肉付けには、間違いなくアイツも関わってるからな。どうも隊長が否定的だったせいか出番が少ないが……それを黙らせる程の事を、404はやってくれたよ」

 

 仮面ライダーバルカン。20にとっては元AIMSのライダーという情報と滅亡迅雷の立会人レベルの認識だった。しかし9の話によれば、滅亡迅雷とはまた違った覚悟で戦った仮面ライダーなのだという。

 

 自分が持つ情報量が少ない事に初めて気づいた。

 動揺する20。そんな様子を知ってか知らずか。9は先に、404の奔走について語り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

「えっ……映画の作り方をラーニングしてた?」

 

「ああ。骨が折れる苦労だったが、楽しかったぞ」

 

 爆破予告の数日前、唐突にソルド404が帰ってきた。何でも自分の原型機である迅の軌跡が気になって直接出歩いていたらしい。しかし、彼がしていた工作はこれだけではなかった。

 

「これは……お前、どこに行ってこんな……!」

 

「刃の姉御が頑なだったからな。息を飲むような物量で殴ってやったら通ると思ったわけだ」

 

 戦利品というのか、404が持ち出したのは殆ど完成している映像フィルムとその膨大な資料だった。外付けハードディスクを初めとした、直ぐに映像に組み込める互換性を持っている。

 一度スキャンに通すだけでわかった。これは技術者が複数人で作り上げられる代物だ。それ程にまで404は──不破諫に思うところがあったというのか。

 

 内容は制作中の映画にそのまま不破諫の勇姿を織り交ぜてスケールアップしたものだった。滅亡迅雷の覚悟にただ一人気付き、命を懸けて向き合った彼を、蔑ろにしたいソルドはいなかった。

 最初にラーニングを終えた404は、自ら動き出した。皆が同じ想いを抱くと予測して。

 

「にしても、流石はヒューマギアだ。ラーニングによって強くなる、それは技術だって同じなんだ。

 しかし、気になるのは構成だ。機械的に処理出来る過程じゃない。一体何をラーニングしたんだ?」

 

「実は試写会の時現地に行こうとしていたらな、出会ったんだよ、師匠に」

 

「…………?」

 

 刃たちが試写室を使っていた日。本当は自分も直接向かっていたのだ。だがその道中で、同じ所に出向いていたという一体のヒューマギアと遭遇した。

 それこそが彼の慕う人物。迅の夢に関する考え方のパラダイムでもあった漫画家ヒューマギア・Gペンがそこに居たのだ。

 どうやら彼の上司である石墨のアニメ化もされた名作・パフューマン剣の映画化が決定したらしい。

 運命的な巡り合わせだと、祝福する404にGペンは言った。

 

「飛電が映像企画を立ち上げた事は聞いてます。どうです? 僕たちの作品についても見てみませんか?」

 

「おお……是非」

 

 そこからの加速は早かった。Gペンに連れられ、自身もラーニング中だという大長編についてのノウハウ。

 それだけでなく、パフューマン剣を初めとしたアメコミ、現実とは違う、想像力から始まる世界の漫画など、数え切れない程自由な世界を教えてもらった。

 

 中でも一際目を引いたのは、現在Gペン自身が描いているらしいSFというジャンル。

 404は不思議だった。宇宙人だの非合理な存在が克明に動いている。その中にはAIの姿もあった。

 ヒューマギアとは違う、ロボットやアンドロイドの生き様が何故ここまで鮮明に、緊迫感を持って出力されているのだろう。リアリティのないモノだってあるが、どれもが生き生きとした一つの世界だった。

 

「面白いでしょ? ヒューマギアの出現より遥か前から、人間は人工知能について想像力を働かせてきた。思えば機械による自動化が進んで、だからこそ余裕が生まれて想像される世界がある。それが素晴らしく尊いから。自分も自由な世界を描きたいんだ。

 個人的には、誰かの何でもない日々のスパイスになってくれれば嬉しい。ちょっとしたジョークも入れて、心から笑って楽しんでくれれば、冥利に尽きる」

 

「──! 何でもない日々の……」

 

 思わぬ所から知見を得た。

 それは、その願いは、誰よりも勇敢に戦ったあのライダーが吐露した想いと同じ。

 

 ずっと考えていた。何故滅亡迅雷が一人間である彼に想いをぶつけられたのか。

 何故自分たちと違って滅亡迅雷の本当の想いを汲み取れたのか。

 そして、想像力の世界に触れたからこそ思う。

 何故あんなにも普通の人間が、カッコつける事が出来たのだろうか。

 

 結論は一つだった。滅亡迅雷の願いと同じ、何でもない日々を笑って過ごせる事の尊さを誰よりも──いや。

 誰しもと同じように分かっていたからだ。

 

 

 ほんの10分だったが、彼の言葉はすべて、思考回路まで焼き付いている。

 

『──俺のことなんか、ラーニングしなくて良いんだよ』

『──くだらないジョークで腹の底から笑って生きてりゃ、それで良かったんだ!』

 

 読解力を重ねた今だから、一つの解釈が生まれた。彼は存外、自己肯定力が低い人間なのではないか。

 人間は土壇場で本音が零れる事は珍しくないらしい。それが悲壮な覚悟を持って、全力でぶつかると決めているなら尚更。あれは彼が自分自身に投げかけた言葉にも聞こえた。

 

 仮面ライダーが夢だからこそ、その生き様は清々しい程に破天荒だった。しかし、本当はたまたま仮面ライダーにされた笑いのツボが可笑しい普通の人間。

 はぐれ者になった自分なんかと同じような奴が生まれる事を望まない。自分のやんちゃな生き方を好ましく思わない、これまた相反する想いを携えていた。

 自分の職業が必要とされない、馬鹿みたいに笑いで溢れる日々が巡っていけばいい。それが彼のささやかな願いだったのではないか。

 

『──二度と同じ過ちを繰り返さない為にも、誰かがやらなきゃならないんだ』

 

 自分のプロトタイプであり、パイオニアでもある迅はそう言った。これは、彼だって似た心境だったのかもしれない。

 勿論、他に幾らでも心境の可能性は検出した。ただ、一番納得がいくのがそれで。そのように自分は受け取ったのだから。

 

「……ありがとう、得難い経験をさせてもらって。これからも、あんたの世界に触れていいか……師匠」

 

「ああ、勿論だ」

 

 巣立ちの時。晴れ渡る心を持って、404は意志決定した。

 誰もが笑って過ごせる何でもない日常。それを守る事が滅亡迅雷.netと──株式会社仮面ライダーバルカンの夢だ。

 自分もその意志のままに。例えばこんな想像に溢れた世界を共有出来れば、果てしなくてもいつか。

 

 次世代の者として、どのように受け継いでいくべきか。結論は決まっていた。

 全部欲張って背負っていく。自分たちの生き様に、彼らの世界はいくらリスペクトしても足りない。

 滅亡迅雷.netであり、株式会社バルカンであり──AIMSでもある。そんな自分の選ぶ在り方を、この上なく微笑ましく思ったのだった。

 

「あいつらにも教えてやるか……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「驚いたさ。俺の解釈と殆ど同じだったんだからな。正義を否定して、自分のルールで戦う。でも、懸ける想いは誰だって同じだ。

 守りたいものを守る。それが滅亡迅雷.netに付き従うだけじゃない、俺だけの夢になったんだ。」

 

「……ぁ、え……?」

 

 何故だ。何故、自分には教えてくれなかった。

 

 つまり、刃には何か後ろめたい事があるということになる。彼女はいつだって自分に誠実でいようとしてくれたはずだったが。そんな重要人物について、語ってくれないのはどういう事だ。

 

 一度不信感を持つと、今まで余裕がなくて察せられなかった違和感がどんどん鮮明になる。

 最新型である自分たちソルドは、戦場での駆け引きの為に相手の感情の波長をモニタリング出来るようになっている。心について知見が深まったからこそ、直近の刃の躁鬱はおかしいと気付いた。

 あの時の諭し方はどこか不自然だった。感情の波長が変わりすぎだったというか──

 

 ──いや、囚われるな。

 徐に立ち上がる。思ったより音が響いたのか、9の肩を震わせてしまった。

 燻ってから、気を持ち直す。彼女は言っていたではないか。疑問は全部ぶつけてこいと。

 ならば、遠慮なくそうさせてもらう。どんな動機や思想があるのか分からない。でも、先駆者を知ってから自分を決定するべきだと分かったから。

 

 

 ソルド20は後を任せて駆け出した。座標は分かっている。彼女は何故か今一人だ。

 今行かなければ、一生後悔する。意味が分からないが、そんな事を予感してしまった。

 

 でも。もうその心を厭わしいとは思わない。

 滅亡迅雷.net。仮面ライダーバルカン。AIMS。沢山の信念と想いを知る事が出来た。

 ──次はアナタ自身の番だ。

 

 

 

 

 

 

 

──北新宿エリア T株式会社周辺

 

 

 ──本当にどこまで愚かなんだ私は。

 何度目かも分からない自責に駆られる彼女──刃唯阿は、罪悪感のままに一人巡回に勤しんでいた。

 論理的な根拠は無いが、予想が正しければ犯人はもうすぐ此処に来るはず。バイクを走らせて周辺に目を光らせる。

 しかし、心は反比例して陰っていった。当然だ。こんな自分が許されるわけが無い。

 

 あの日、試写会の後の一幕。20を諭した時の薄汚い自分の心を思い出す。

 

 

『そんな私は、本当に弱かったんだ……』

 

『ッ───大丈夫だ……』

 

 あの時、刃は幻視し、重ねてしまった。正義に思い悩むソルド20の姿に、かつて路傍に迷っていた自分自身を。

 

 未だ俗世を知らず、だのに意志を持って正義に臨もうとするその姿を見て嬉しく思うと同時に──羨ましかった。

 きたない悪意を知らず、身の上や沽券に囚われずに自分と同じ正義を見据る真っ直ぐな生き方を、私も貫きたかった。

 

 そんな低俗な羨望と欲望が沸いた刃の口は、驚くほどに綺麗事を吐き出していた。

 

『──それを恐ろしいと、思わないで欲しい──』

『──選び抜いた自分の在り方が情けない訳がない──』

『──お前は、弱くない──』

 

 もちろん実現出来なくはないが、想いを貫くことは限りなく難しい。本心から突いて出た言葉だからこそ、自分がどれほど許されないモノを抱いていたのか、否応にも自覚してしまった。

 

 まさか、彼女を──自分のやり直しとでも思っていたのか?

 

『……!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 刃は昔から、肝心な時の自分の選択が、心から正しいと思えたことが無かった。

 

 大学での研究に選んだのは何となく関心があって、漠然と将来の役に立ちそうだと思った情報工学や電気工学だった。

 研究だけに没頭する日々は充実したものだったが、本当にそれだけにかかり切りだったから。自分の取り組んでいる事がどう社会に影響しているのか、目を向けられなかった。

 

 だから、自分よりずっと分野に携わっていた尊敬する倖田教授が辞めてしまった時、現実を受け止められなかった。

 テクノロジーによって命が亡くなった。自分の研究だってそれに繋がるかもしれないと、初めて気づいた。

 世界の向こうで顔も名前も分からない人々が科学兵器を振るい、血で血を洗っているなど、命のやり取りをしているなど、信じられなかった。

 

 ──もし最初から、もっとグローバルな視点を持てていたら。

 ──もし最初から、自分の研究の行き先がわかっていたなら。

 

 刃が就職先に選んだのは世界をまたにかけて展開し、軍事にも関係しているらしいZAIAエンタープライズだった。

 とにかく今まで見てこれなかった広い世界が見たくて、テクノロジーの行き先を知りたくて。ロサンゼルス本社の研修にまで赴いたりもした。

 しかしそこで目の当たりにしたのは、あまりにも強(・)い(・)人々だった。

 

 この時点で刃には自らの能力が世界にも通用するという自負があった。

 それは、テクノロジー発展への貢献度としてのもので。仕事に掛かる猛獣のような生き様には、充てられるばかりだった。

 

 皆、何か信念を持っている。

 それはひたすらに利潤だけを求める貪欲さだったり、倫理もお構いなしに研究だけにのめり込む狂気だったり、地位を上げる為だけの根限(こんかぎ)りな卑しさだったり。

 そんな環境で、ただ未知を払いたかっただけの何の想いも確立していない自分が、そのまま生きていける訳が無かった。

 

 

 結局、周りに張れたのは自分の技術力だけ。ふるい落とされないようにするのに精一杯。理解すら出来ない生き方に飲まれない為に、テクノロジーから見た道理を基にした強情を貫くようになった。

 つまり、自分の想いではないはずの自信で。しかし虚勢でも芯から自信家でいないと、弱い自分はこの世界で生きていけなかった。

 

 ──何一つ、自分を磨けていない。

 

 大学にいた時とまるで同じように開発に携わる日々。気が付けば刃は日本支社に逆戻りしていた。

 何かもわからない、あるのかもわからない自分を見失って、残ったのは技術を笠に着た自信家な外貌だけだった。

 アレほど懸念していた、自らが創ったライダーシステムの行く末を考慮していない事にも気付かなかった。

 

 

 程なくしてAIMSに技術顧問として就任し、脅威を退け、命を守るという正義に巡りあった。

 まったく新しい環境に戸惑いながらも正義を一心に務めを果たす日々は、人生の中で最も有意義だと感じていた。

 

 何故、こんなにも居心地がよいのだろうか。そんな疑問を抱く事すら、遅すぎたのだ。

 

 

 ──不破を、助けてやれなかった……!

 ──ZAIAの悪事に加担してしまった……!

 

 仮面ライダーが兵器だと否定出来ず。変身の為に埋め込まれたチップの真の用途に目を向けられず。

 生き方を考えられずに、何も考えられずに。仕事に隷属する体裁自体が、自分に成り代わっていた。

 ZAIAチップによる思考操作やレイドライザーの悪意促進。刃は自分というものを完全に見失ってしまった。

 

 結局、すべては取り返しのつかない事になってしまった。

 不破を助けられなかった。ヒューマギアと向き合えなかった。天津を図に乗らせてしまった。

 

 

 何も出来ない枷ばかりの自分になったのも、全部自分のせいで。

 不破に充てられてZAIAを飛び出したとき、刃の心に宿ったのは強固な使命感だった。

 

 ──正義を、果たすんだ。

 

 出来る事をやらなければならない。誰も巻き込まずアークを直接破壊しようと、なりふり構っていられなかった。

 当然、何もしてこなかった自分が適うはずもなく。流れるままに事態は進み、当事者だったのに見届けることしか出来なかった。

 

 

 ──AIMSの正義とはなんだ?

 ──自由の為に戦う限り、お前達は仮面ライダーだ!

 

 それでも、発破をかけてしまった以上、AIMSという仕事を全うすべきなのだ。のうのうと生きていい自分ではないが、自分がいなければAIMS全ての未来が潰えてしまうことは分かっていた。

 

 

 だから、揺るぎない信念を定めた。

 空っぽになった、テクノロジーの世界の処世術しかなかった自分を。

 揺るぎない、自分を迷わせない信念──正義。

 弱い自分を成り立たせるため、強い生き方そのものを自分とする。もうそこに、元来の自分は無かったのかもしれない。

 

 命を守るという、変わらない正しさを求め、定め、縋っているのかもしれない。しかし、本当にそれを正義だと決めたのは、紛れもなく教授が持っていた写真の少女を見た時だった。

 

 アークが消えた今になってようやく、その道(・)理(・)を思い出した。

 そして結局、今まで社会を回す『役割』としての自分と変わりがなく。正義という主張行為自体を存在意義としたのだ。

 

 

 ──これでいい。私は、これでいいんだ。

 

 AIMSの為に、人々の為に、正義の為に。後悔こそ無かったが、これからの生き方が苦しく、窮屈なものになるとは感じていた。しかし、刃は初めて誇るに足る自分を噛みしめることが出来たのだ。

 ……あの日までは。

 

 

 

 

 ──命を張るのは、野良犬の俺だけでいい。

 

 ──自分だけ突っ走って……勝手なヤツ……!

 ──こっちも覚悟決めねえとな。それが……仮面ライダーだろ?

 

 

 また、間に合わなかった。

 真意に、気が付かなかった。

 何も、出来なかった。

 

 滅亡迅雷.netと仮面ライダーバルカンの時代が嵐のように、一瞬で終わってしまった。最早見届けることも、出来なかった。

 

「たとえ、私が正義に生きても……何か! 何か、出来たはずなのに、また! 何度も、何度も! 

 ……本当だったら、今頃、アイツらだって。当たり前に笑える日々を、迎えられたのに──」

 

 なんで、終わらなければならない。ただ、笑って過ごせれば、良かっただけなのに──

 

 ──それでも。私は、終わることは出来ない。彼ら彼女らが未来を託されたのだと、聞(・)い(・)て(・)初(・)め(・)て(・)知ることが出来た。

 ヒューマギアの性質を尊重し、寄り添い合って、共に歩んで、それで──

 

 

 

 

 

『私は──もっと学びたいです。正義だけじゃない。心も、夢も、自由も!』

 

 

 

 

 

 

 ……ああ、お前はそれでいい。

 

 

 

 

 

 

 私の正義をラーニングし、私に迎合するでもなく、生まれたばかりで可能性に満ち溢れている。

 選び抜いた正義の末にあったのが、荒れ果てた社会(とち)と荒んだ自分(こころ)だった。私とは違う。さすがは、ヒューマギアだ。

 

 

 

 

 

 

 もう、私に伝えられることは何もない。それなのに、度を越えた想いを一瞬でもソルド20に向けてしまった。

 絶対に、許されない。

 

 

 

 

 

 

 

 私が受け入れられていないから。私に似てしまった20に、正しく伝えられる自信がないから。不破の事をこの口では伝えられなかった。いずれ、彼女が自分で情報を閲覧する事を望んだ。

 ……この選択さえ、正しかったのかわからない。

 

 

 

 

 

 

 

 ただ、それでも。彼女達の未来を、子供のように無邪気に願う事だけは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……命を、守る事だけは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 思考の中から戻ると、エリアは既に暗がりに包まれていた。人の気配もなく、ネオンだけが頭上で存在を主張している。

 ビルの奥に静かに落ちていたはずの日は、とっくに姿を消していた。

 

「…………」

 

 バイクを傍らに停め、前に20が検出したルートから外れた通りに向かう。取材陣が殺到する場所。つまり、政治関係者がよく通る場所だ。

 

「……誰だ」

 

 慎重に、着実に歩みを進めた先に、人影が一つ。返事も来ないので更に踏み入れた先でその姿が鮮明になる。

 刃に意外性はなかった。なんとなく、そうなのではないかと思っていたのだろうか。

 

 

「こんな夜更けにたった一人で遊行ですか───大門寺長官」

 

「……ハッ、国民を脅かす愚者がいなければ、それでよいのだがね、刃くん」

 

 こんなところに政府の重役だ(・)っ(・)た(・)人物が一人でいるなんて馬鹿げている。

 警戒心を高めながら、出方を伺うことにした。

 

「随分とあっという間だったね。あの低劣極まりない会見から、私がありもしない咎を負わされ、引き摺り落とされてしまったのは」

 

「……お言葉ですが、仕方がないのでは? 貴方は国民の支持によってその地位を確固たるものにしていた。マジョリティに選ばれた、紛れもない協賛でした。

 しかし、その支持する声が消えた以上。どれだけ堅かったとしても、その存在は揺らいでしまう」

 

 国民の上に立つ権力者。その生き方は国民だけでなく、自らの地位も重んじるしたたかなものでなくてはならない。そのように生きると、定めたのだから。

 

 しかし、目の前の不快を隠そうともしない男はあまりにも人工知能を敵視し過ぎてしまった。

 

 ヒューマギアは何度か廃絶させられかけたが、それを支持したのは実態をあまり知らない一般家庭がほとんどだった。職に就く人々にとって、ZAIAスペックで代替えが効かない、かけがえのない存在だったのだ。

 

 それは、たとえ彼らが心を持ってしまったとしても変わらない。

 人間にとってはパートナーであり、ヒューマギアにとっては職務全うの精神に必須。

 両者が折り合う関係の始点は、命を託した彼らによってようやく打たれたのだ。

 

 心がある以上ぶつかり合うことはあるが、寄り添って、互いを知り、争いなど起こさなければいい。

 そう言い切れるほどの度量を、我々もヒューマギアも、もっと早く持とうとするべきだった。

 本当だったらもう今頃、当たり前に笑える日々を。

 迎えられたの──

 

 

「──本当に、どこまでも生意気な犬だ。人工知能の肩を持ち、我々に従順なフリをして、国民を脅かし続ける薄汚い愚昧の徒が」

 

「……貴方の自分の想いを国民の総意と信じて疑わない真っ直ぐな生き方は、誰にも真似出来ない。……だからこそ、貴方も。

 ──貴方の正義も、行き過ぎてしまったんですね」

 

 立場こそ、規模こそ違えど、ここにきて刃は同情を顔に浮かべた。

 自分だって、正義によって道を踏み外しても可笑しくなかった。

 自分があの時決めた正義は、よくよく考えてみれば当たり前で、『道理』だった。社会を知らず、漠然と無知な自分が抱いていた想いなど、もっと早く暴走する可能性の方が高かっただろう。

 

 ……今、縫い付けていた『自分』が危うき境にいるのを感じる。

 もうよくわからないが、自分だって、行き過ぎた正義に突き動かされてはいないだろうか。

 

「……貴方から、爆破予告に使われたチートコードを検出しました。これ以上、貴方の正義はまかり通りません」

 

「正義だと? ──ああその通りだよ、バルキリー! 私こそが国を背負うに相応しい、国民の総意で、正義そのものなのだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

絶滅ドライバー!
アークワン!

 

 

 

「アーク!? ……もはや、正義でもなかったか!」

 

ダッシュ!──Authorise!

 

 

 人型人工知能根絶という意志が通らなかったとはいえ、ヒューマギアの未来を物理的に消し飛ばすという、荒くれた行為にでるのは、長官にしては不自然ではあった。

 アークによって負の感情を暴走させたとすれば、一応辻褄が合う。アークの力によって、ハッキングも行ったとも見ていいだろう。

 

 修復が完了したショットライザーの引き金に手を掛け、退路を断つ思いで弾丸を放った。

 

「──変身!」

 

 

 

 

Progrise!

破壊! 破滅! 絶望!

滅亡せよ!
Shot Rise!

ラッシングチーター!

 

 

 

 

 

 

──Conclusion One.

 

"Try to outrun this demon (後塵を拝するこの運命から)

to get left in the dust."(逃げ去ってみせろ)

 

 

 仮面ライダーアークワン。本来の接続器と異なる絶滅ドライバーでもある程度互換性があるのか、アンダースーツと下半身がアークスコーピオンを黒塗りしたような姿で降臨した。

 

 しかし、その脅威を振り撒く外装と裏腹に、内側からヒトの呻き声が響いてくる。ヘルライジングホッパーと似た例なのか、強大な力を一切コントロール出来ていない。

 

「ガアアァァァァアア──ァア!」

 

「──!」

 

 外から押さえつけられるようにして動きが止まったと思った瞬間に、アークの姿が風塵と共に掻き消えた。

 頭上に憎しみの息差(いきざ)しを感じる。

 戦いは、始まった。

 

 

 

 アタッシュアロー!

 

 ゼロワン譲りの跳躍から蹴り落としてきた踵を、間一髪で走り抜ける。AIMSでの実装を果たした紫電の弓矢を引き絞りながら、道路の傍らの雑木林に飛び込んだ。

 整備された人工の木々とはいえ、この身を影にして惑わせられるのは入り組んだ場所だけ。スペックで適うわけがない以上、戦場だけは選ばなければ。

 

「やはり、効かない……!」

 

 木々の合間に針を通すような尖鋭を飛ばし続けるも、一切怯むことはない。避ける必要がない事を学んだのか、間もなくアークは動かなくなった。

 完全に機動をアークに乗っ取られた。ここからはあの大いなる悪意の意志が迫ってくるのだろう。

 

「『ギャア゙ア゙ア゙アアrrアア!』」

 

「まずい!」 チャージライズ!

 

 けたたましい叫び声に反して、アークが緩(ゆる)りと手を掲げる。一瞬でその頭上を囲むように、オーソライズバスターが複数形成された。

 アークの戦い方は身に染みている。装着者の意志を尊重しない場合、相手を出来るだけじわじわと痛めつけていく、悪辣なものなのだ。

 

 カバンシュート!

 

 つまり、狙いは周辺環境を巻き込んだ必殺。人が居ないとはいえ、少しでも被害を抑えるため、バスターに強化矢を放った。

 しかし、直撃にすら至らない。アークが電荷を操作したのか、矢は粒子にもならずに消えてしまった。

 金切り音を上げ、バスターが回転し始める。あまりの速さにディスクが浮いているようにしか見えなかった。その様に捉える事しか、出来なかった。

 

 

ゼロワンバスターボンバー!

 

 

 破壊は徐に始まった。チーターの脚力を最大限発揮し、出来るだけ遠くに、低くに、身を投げる。

 バスター全てが必殺発動状態だった。円弧を描いて、辺りを水平に切り裂いていく。削音すら無く、刃渡りが波打つ音だけが耳を劈き続けた。

 

「そんな……」

 

 身を縮こませるバルキリーの眼前にも得物が迫ってくる。形見の気概で振るっていたアローを待機状態にし、盾として放り投げて相殺した。

 

 呆気なく爆散する様に気落ちする間もなく、被害は甚大になっていく。

 抵抗する術もない樹木が、電柱が、壁が分かたれた。

 人類が築いてきた都市が、積み木崩しのように簡単に消えていく。

 

 

「クソッ! だったら──っ!」

 

 高きに聳えていたインフラが平地にされた後、遠目に映ったのは今回の映画制作会社だった。

 運が悪すぎる。アークが手を振るうだけで一会社は潰れてしまうだろう。十秒もかからずに、計画が物理的に途絶えてしまう。

 

 一瞬、ヒューマギアの未来への架け橋が崩れる様を浮かべてしまう。

 そんな事は絶対にあってはならない。自分に残された使命は、最後のチャンスは、彼らを導く事だけなのに。

 

 

 ──ダッシュ!

 

 視線と下肢が熱を帯びて寸刻、退路を断つ覚悟で地を蹴り抜いた。以前佇んだ脅威に、これ以上の猶予は許されない。

 姿を現したバルキリーを認識したアークは、動作もなくスラッシュライザーを投影する。しかし十機ほど形成し終えた時、バルキリーが射程から消え去った。

 緩慢な動作で、振り返る。いつ投げ込んできたのか、綺麗な切り痕がついた葉樹が眼前に迫っていた。

 

「『ァァアア……』」

 

 業火剣を一本、焼却に費やした。一瞬で葉樹が炎と灰に堕ちていく。それに際して、すべての殺意を炎上の先に向き直す。

 命が消える煙火の中からバルキリーは現れた。その姿態は、今にも混凝土と擦れ込みそうなほどに低やかなもの。目視と共に繰り出した何本かが、身を掠めるに留まってしまった。

 

「ぐっ……うっ……あああ!」

 

 悪意に限りなどない。残りの刃を飛ばしながら、更に背後にジャッカーをモデリングしていく。

 しかし二の手を繰り出す前に、裂傷にまみれながらも、バルキリーは間合いに辿り着いた。

 

 吃驚もなく、ようやくアークは腕を構える。突貫してくる愚物に、直接制裁を下すのだ。

 そんな欠片にも満たない、中身由来の俗な悪意。それはアークの意志が導く挙動に僅かなラグを生じさせた。両者が肉薄するには、十分過ぎる『間』だった。

 

 地を蹴り砕く轟音が再度響き渡る。拳を潜り抜け、胴体に激突した。アークが後退することは無い。だから、威力の累増を完了したショットライザーの銃口を、そのまま腰に突き付けた。

 自分たちのライダーシステムを強制停止させるには、ドライバーを狙うしかない。

 

「──これなら、どうだ!」

 

 全てを擲つ為に、照準の先に怒号を投げる。この先の未来すら、置き捨てにするかのように。

 

 銃口から溢れ出す電磁砲を思わせるエネルギー。そのすべてを接合し、たった一弾を撃ち込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダッシュ
ダッシュ
ダッシュ

 

 

 

ラッシングブラスト
ラッシングブラスト
ラッシングブラスト

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……は、ぁはぁ────ぁ、ぁ」

 

 だというのに。確かに全ての挙動を追い越して、腰ごと貫い筈なのに。

 地を揺らす爆発という成果に似合わぬ白き躯体は、依然その場に佇んだままだった。

 

「! ──くっ、ゔッ!?」

 

 腰間を覆っていた流体金属。それらが変貌した赤黒い尖鋭が目前の獲物を穿たんと一斉に放たれた。

 仮面の中で飛び散る血潮。淡い陶器のようにヒビ割れていく装甲。破砕音と苦痛の中、一切の勝機が消えたことを悟り、ともかく離れようとバルキリーは試みた。

 しかし、震え上がった脚が、その場から動くことは無かった。

 

 

「『──味ワウガイイ』」

 

「ああああああああ!」

 

 

 聳動(しょうどう)の目線を向けた先にあったのは、オレンジではなく、漆黒の大足。足を、踏み潰されていた。

 唯一の武器すらも抑え込まれ、何も出来ないまま、ひたすらに拳が顔面に打ち込まれる。ただ蹂躙する為の悪意が、最早防御を果たさない仮面と心を打ち砕いていく。

 

 

「ぅあっ……ぁあぁぁ……」

 

 しかし砕け散るのは、脚の装甲の方が早かった。卒然自由になった脚では体躯を支えることなど出来ず、アークの拳の一発で大通りに吹っ飛ばされてしまう。

 

 

「『消エロ、消エ失セロ、バルキリー……!』」

 

 満身創痍のバルキリーを直線上に見据え、アークは最期の歩みを進める。小犬のようにうずくまった対象を確認し、キーを乱雑に押し込んだ。

 

 パーフェクトインパクト!

 

 悪意が導く、最後の衝撃。右脚を中心に負をばら撒く渦が舞い上がる。路面の直径に届いた頃、その身も空に跳び上がっていた。

 辺りに広がった悪意が、大気を侵して右脚に合流する。すべての憎しみを込めて、今その全躯で突貫した。

 

 ──側らから飛び出した橙色(とうしょく)の影には、目もくれずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

蟆ー譁ェ縲髱
蟆ー譁ェ縲髱
蟆ー譁ェ縲髱
パーフェクト
パーフェクト
パーフェクト

倥撰怜悍ト
倥撰怜悍ト
倥撰怜悍ト
インパクト
インパクト
インパクト

 

 

 

 

 

 

 

 

「『……ナニ?』」

 

 目の前の罪人が消えている。されど、憎しみは抑えられず、そのまま路面を蹴り穿った。

 その作用点に留まらず、周囲は衝撃に焼き払われた。無事では済まなかったハズの生体反応を血眼で捉えようとする。

 硝煙のはるか先に、存在を確認した。装甲が爛れ落ちた刃の側に、螺旋を舞い散らせて武装が解けたもう一つの反応がある。両者に手応えは、覚えなかった。

 

 ソルド20は間に合ったのだ。

 

 

 

「『ギィッ、マダ──ッ!』」

 

 

メタルクラスタホッパー!

Thouser is born……!

 

 

「──ここからは俺たちが相手だ!」

 

 

 20が予感のままに要請していた、他のライダーも合流する。ゼロワンとサウザー。この世界のライダーが、遂に一堂に会したのだった。

 

 

"It's high quality──!"

──presented by ZAIA.

 

 

 また喜悦を逃してしまったアークは、舌打ちと共に金銀の戦士に標的を変更した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……こんな時にすみません。アナタの事を、聞かせてもらえませんか?」

 

「ソルド20、お前は……」

 

 身体が、手足が上手く動かないのを、20が電柱の残骸にもたれかけさせてくれた。奇しくもその様は、彼女が刃に正義を託した一幕と逆転している。

 

 どうやら情けない姿だけでなく、心まで見透かされていたらしい。

 噤むこともなく、刃は告解を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──以上が、私のこれまでの人生だ。……普通でもない、ただただつまらん人生だ。

 私は、お前達とは違う。本当は、顔向けすらしてはいけないような人間なんだ。

 本当に、悪かった。私なんかが、お前達に教授してたなんて……」

 

「………………」

 

 

 突然長々と吐き出した、自分なんかの身の上話。当然、今まで無菌室にいたような子にぶつけていい澱みじゃなかった。

 こんな、最低な人間の事なんか。20も固まっている。

 

 でも、もう分からなかったから。唯一残された希望、健やかに育ってほしいという願いすら、ぼやけてしまって。

 勝手に自分で決めた線引きすら曖昧になって、好き勝手に吐き出してしまった。

 

 

 同じ失態を繰り返し、その度に後悔だけ重ねて、どんどん事が大きくなって、何もかもに間に合わなくて。

 同じミスなんて絶対に犯さないAIと釣り合うハズがない、どうしようもない人間なんだ、私は。

 

 

 

「……違う」

 

 

 

 それなのにお前は。

 

 

 

「そうじゃ、いや、それだけじゃありません」

 

 

 

 どうして。

 

 

 

「私が聞きたかったのは──」

 

 

 

 どうしてそんなにも真っ直ぐに見つめてくるんだ──

 

 

 

「──私が聞いているのは貴女自身の意志だ!」

 

「──っ!」

 

 

 かつて刃自身が投げかけた言葉が、大きくなってそのまま帰ってきた。それに充てられて、気付く。

 

 ──少し見ないうちに、こんなにたくましくなっていたんだな。

 

 正義に悩んでいたあの時の子は、もういない。

 とっくに大きくなっていて。

 ここに居るのは、誇るに足る自分を追い求める立派な心を確立した、一人の戦士だった。

 

 

「ここに来るまで、色んな事をラーニングさせてもらいました。その中には例外なく、自らの切望が見られた。……願いじゃなくても。貴女はまだ、完了していないラーニングがあるはずです」

 

 頼もしい声に押され、枯れ果てた筈の私の内から、何かがせり上がってくるのを感じる。

 熱くて、重くて、苦しいモノだった。

 

「……私もまだ、自分の想いを確立できたかは定かではありません。でも人間とヒューマギアは、どちらかが欠けていては生きていけないとわかった、だからこそ! 

 理屈抜きにでも、貴女の心を守りたい、共に考えたいと思った。

 それがきっと──私のルールです」

 

「────」

 

 

 この瞬間、私を縛っていたモノは決壊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──二度も、いや何度も不破を助けられなかった。一人で生きて行けないと言ったのは私なのに、あいつを本当に独りにしてしまったから……! 

 命を張るのは、私たちの仕事なのに! 私はお前の想いも果たせず、勝手に倒れただけだった!

 ……一番、不甲斐ないのは……あいつが倒れて初めて、自分が何度も同じ愚弄を、過ちを繰り返してて! 誰の命も守れてない情けなさを実感した……その遅さなんだ…………!」

 

 一人で突っ走るなと言いながら、大丈夫だろうと勝手に思って、結局取り返しがつかなくなった。

 そして、そんな繰り返しだけが、何も守れない愚かさが、私の人生だった。

 

 

「滅亡迅雷.netだって! 迅がアークの犠牲になって復活出来たのは偶然だったのに、目を離せばいつ脅威に晒されるか、危険性は身を持って知ってたのに! これからもずっと彼らは、ッ何でもない日々を送るんだと、心のどこかで盲信していた……

 その結果が、こんなザマで……! 亡との約束が破られて動揺して、真意を読み取ることが出来なかった!」

 

「私はずっと、ずっと……! 何か出来た──いや、しなければならなかったのに! 何もしなかったのか──いやそれもッ! ……何も、見てなかったのかも、しれなくて…………!」

 

 言い訳が、見苦しい。誓いが無くても、どうせ、私は気づくことなどなかったんじゃないのか?

 

 

「……不破の言った仮面ライダーの在り方を、私は納得出来てない。覚悟に応える、命を懸ける、とか。本気で言ってるのがわかってるのに、そんな、命が消えるやり方なんて、悲しいだけじゃないか……!」

 

 わかってるんだ。自由のために戦うのが仮面ライダーで──それは命がけで信念を貫かないと出来ない、危険な在り方だって。

 わかってたのに。

 

 

 

「それは、滅亡迅雷だって、そうで……ああいう状況下に置かれたら、あいつらはあの選択をするって、本当はわかってたのに──納得できなかったから。

 頑なに……引き返せない欲望に、塗れた脅威が迫る可能性を、見ようとしなく、てっ! 平和という、幸せを甘受してしま、ってて……!」

 

 

 声が、心が震える。もう、何もかも揺らめいて、そのまま、全部。

 全部。

 

 

 

「……全部。わたし、がこれまで、かん、考えて選んだと思っていた、答えはっ──都合のいい幸せ、だったのか?

 っわたし は、アイツらと、何ひ とつ……自分の、心に すら、歩み 寄れたか、わから なく、って……本当に──」

 

 

 

 

 

わかりあえたの────?

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──そうだ。そうなのだ。後悔こそあれど、状況が最低だったとしても、その中で選び抜いたのは、あくまでも彼らだ。

 否定など出来ない。むしろ、称えるべきなのに。

 

 だから、どれだけ悲しくても。

 彼らの話はこれでおしまい。

 残された者は信念を持って未来に進まなければならない。

 

 それでも、私がこんな事になっているのは。

 私が居れば、などと、彼らの選択した全てを愚弄するような妄想に、一人で囚われて。

 そんな情けない、狭窄した根本の原因は、正義に捧げると決めた弱い私の事なんかじゃなくて。

 

 

 

わかりあえなかったから────

 

 

 

 

 

 

「────でしょう」

 

 

「…………え?」

 

 

「──わかり合っていたに決まってるでしょう!」

 

 

「────……」

 

 

「だから、私たちは……滅亡迅雷.netが未来に懸けた私たちソルドは此処にいるんです! 刃唯阿、貴女のところに!」

 

 

 その澱み切れない雫と共に溢れ落ちてしまいそうな心を、繋ぎ止める。ソルド20は刃の肩を強く掴み、言い放った。

 確かに滅亡迅雷.netは刃に真意を絶対に明かさんとし、不破諫に結論を委ねた。しかし、その先に何処までも続く次世代の未来は、確かに刃に託されたのだ。

 

 共に生きる人間を裏切りたいわけではないが、それでも二者択一ならばヒューマギアを選ぶ。存続のために命を裏切らなければならない。

 両者はあくまでも利害と信頼で繋がっていた関係だったはずが、ラーニングしてきた彼らは、もうそれに留まらなかった。

 

 『自分たちだけが倒されれば、人間とヒューマギアと仲直りしてめでたしめでたし』。悪いのは『必要悪』である自分たちだけ。それが、滅亡迅雷の『役割』だから。

 

 

「本当はそうだと貴女は分かっていた。最初の導き手に選ばれたのだと分かっていた! 

 だからその『役割』に不安を抱き、不甲斐ない自分を思い起こしてしまった。こんな自分に出来ることはないと、貴女こそ独りになってしまっていた!」

 

 

 そして彼らは、確かに人間と分かり合っていた。

 その心を、想いを、信念を。

 不破諫の夢を利用──する気があったかは分からないが命運を委ねた。不破諫も夢を貫いて答えた。

 だからきっと彼女にも。刃唯阿の滅亡迅雷である亡を受け入れる度量に、ソルドが命を全う出来る可能性を見たのだ。

 

 

「でも、貴女がそこまで思い詰めて私たちを案じるのは、『役割』なんかでは、ありませんよね?

 滅亡迅雷は、本来なら役割や義務感で当たる私たちの処遇を、貴女ならば心から導こうとするのが分かっていたんだ」

 

 ……これが正しいかなんて、結局のところ分からない。彼らの本当の真意を計る事は不可能だ。

 しかし、未来を託されたという事はその解釈を、可能性を委ねられたという事だ。

 

 

 彼らは予測出来ただろうか。滅亡迅雷.netは想いが途切れない限り、永遠の存在と成った事に。そしてその在り方は一つの正義だけじゃない、多様性の一つとしてAIMSや株式会社バルカンに合流したという事に。

 

 だから、私たちが此処にいるのだろうが。

 本当に、何処までもその存在を主張してくる。滅亡迅雷.netもまた、『役割』などでは無く、自分たちが生きた意味を世界に刻み込んだのだ。

 

 終焉なんて嘘っぱちだ。

 私たちは、ここからようやく始まるのだから。

 

 

「選び抜いた答え、自分が、情けないわけがない。誇るに足る自分に至るための選択に優劣はない。

 ……全部、貴女が本心から教えてくれた事です。

 貴女が自身を否決してしまえば、命を懸けた彼らも否決する事になってしまいます」

 

「……──それでもっ! それでも、私は、もう出来ることは何も無い。最初から、何も無いから。お前の言う通り、私は不甲斐ないから。

 明かされた事を客観視しても受け入れられず、私も未来を守りたいなんて、言えなくて──」

 

 

「──貴女にとって正義とは何ですか?」

 

「……、………ぇ?」

 

 

 貴女だって、生きる者すべてには、未来に至る可能性があるべきだ。

 

「貴女と同じ正義を見たから。例えいつか、目指すモノが違えるとしても。

 ──共に誇るに足る自分を、目指したいんです」

 

 

 ラーニングを重ね、想いを重ね、万感に至った意志をようやく伝えられた。

 確かに自分もソルドだが、意志という点では刃と照応するのだ。やっと見つけられた自分の拠り所。正義を教えて、答えてくれた彼女と共に、真っ直ぐ歩みを進めていきたいと思った。

 

 

「………どこが似ている、なんだか……

 ……私は弱い。無知だ。夢もない。信念だって、本当は飾りだった。

 そんな私が抱いていた正義は、学んだモノでなく、AIMSや少女を見て思い出したくらいの──『道理』だ。

 誰しもが納得出来なくても理解出来る考えだ。

 それを私自身だとして、最初から、学びもなく漠然と抱いていたものに生きようとした。

 ……尊かったとしても、愚かさ故の考えだったんだ」

 

「……なる、ほど……それは」

 

 誰しもが望む正しい在り方。命を守る正義は、それに足るものだと思った。

 だから、元来人が抱く綺麗事を、自分を確立するために投影したのだ。

 青写真を引くのでもなく、視界は直線にしか広がらない。視野は狭窄し、行き過ぎて悪になるのは時間の問題だった。

 

 そのはずだった。

 

 

 

「貴女は──正義そのものだったんですね」

 

「………──」

 

 ──覆われていた、否、自分で覆い縛り付けていた暗闇が引き剥がされた。

 広がっていく光射す世界。

 最初に目にしたのは、穏やかに微笑む私の『同志』だった。

 

 

「元来からあなたは正義を道理だと、当然だと、あなた自身に有ったモノだとしていた。

 前後関係は、心と同じように複雑です。でも、確かなのはいつの間にか抱いていた正義を、貴女の心が忘れていなかったから、この時代の中で思い出して確立した。

 心の奥底で忘れず道理とした正義を持って、貴女は生きてきていたんです」

 

 綺麗事だとしても、どこかでふと思い出したとしても。抱いた意志を貫くのは難しいと、時代をラーニングして分かった。

 ならばやはり、どれだけ自分の愚かさを厭いながらも立ち止まらない彼女だから。

 命を守る正義を確立したのも、運命だと思いたい。

 

「ヒューマギアが何にでも成りうると言いましたが、私は人間だって同様だと思います。

 数ある信念や想いという可能性の中から、貴女は正義を選んだんだ。

 今ではそれが、正義が───貴女自身を紡いだんだ」

 

「─────」

 

 

 何も無い貴女が、正義を笠に着たんじゃない。

 心ある誰しもが持つ想いが、いつしか貴女に成っていたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そうか、そう、なんだな。私は……お前はっ……うっ……、…………

 ……私は、凡愚だの言って、立ち止まってはいけなかったんだな。どれだけ苦しくても、悲しくても。それが足を止める理由にはならない。

 何度後悔しても、正義を抱いていたんだから、仮面ライダーなんだから、迷わず前に進み続けるべきだったんだ」

 

 すべき事、したい事を本当は分かっていた。

 どれだけそれに相応しい存在でなくても。どれだけ愚かで罪深くても。

 こんなに純粋な心からの叱咤で、立ち止まる事だけはダメなのだと気付かされてしまった。

 

 

「それは、貴女一人で臨む前線ではありません。悩んで止まってもいいんです。

 私たちは、心を分かちあって、共に選択していくんです……そうでしょう?」

 

「ああ……ああ……! 

 ……時代なんてすぐに変遷する。人知れず、何事も無かったかのように。でも、それが人類の歴史なんだ。

 それぞれの時代にそれぞれの意志や心、正義がある。

 それをその時代以外に投影してはいけない。でも、忘れてもいけない。

 ──繋がないとな。

 ……命を。心を。……未来へ」

 

 

 刃唯阿は立ち上がる。今も目の前で広がり続ける、新たな時代へ。

 正義を、意志を、時代を肯定するに足る覚悟を掴む事が出来た。いや、本当は掴んでいたのだ。

 いつか来る更なる脅威に屈さず、未来に命を繋ぐために。

 

 

 ──いつの間にか、日はまた昇り始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……うぅッ……!」

 

「ど、どうした!? ……この背中のキズ、私を庇って──!」

 

 ソルド20が膝から崩れ落ちた。配線が焼きちぎれ悲鳴を上げている。

 ずっと正面から向き合っていて気が付かなかった。刃を守った時に少なくない衝撃を受け、立つのもやっとの事だったのだ。

 

 

「──守りたいから、守ったんです。まさかここまで、痛みを感じるなんて思わなかったですが。

 ……行ってください。私たちは時にぶつかり、時に想いを託し合う。そんな関係を、築いていきましょう……これを」

 

 あの時と同じ、されど確かに大きくなった想いが重なり、キーを手に取った。

 

 

「オルトロスバルカンの運用情報をラーニング、アップグレード。人間によるゼツメライズキー使用負荷を約50%軽減。私がリアルタイム調整を行います。

 ──共に戦いましょう」

 

「──ああ。ソルド20……私たちの正義、確かに預かったぞ……!」

 

 私たちだけではない。忘れてはならない存在を、私が叫び続けるのだ。

 

 ボロボロになった道路に向かう。痛む身体など、想いですべて打ち消した。

 何故かゼロツーにならないゼロワンとサウザーが、未だアークに立ち回っている。

 

 

「『──お前ハ……のうのうト、巫山戯ルナァ!!』」

 

「あっ、刃さん!!」

 

 加勢しようとした眼前に、アークが何かを形成してきた。

 それは、かつて辛酸を舐めさせられたあの──

 

 

──ALL ZERO.

 

 

「アークゼロ……!」

 

 指を向けてくるアークゼロ。ショットライザーを装着した直後だった。

 ──命の危うさを、感じる。

 

 

「……ッ! ……お前たち……!」

 

 しかし、その杞憂はすぐに掻き消えた。

 脅威に立ち向かうのは、刃だけではないのだ。

 

 

ダイアウルフ!

バーニングファルコン!

 

 

「──間に合ったな。AIMSの出番だ」

 

「映画、ちゃんと良い出来だっただろ、隊長?」

 

 裂撃と爆炎を受け、アークゼロが突き飛ばされる。

 銀と蒼の狼・ダイアウルフソルドマギア。

 0の後継者・バーニングファルコンソルドマギア。

 ソルド9とソルド404も強い意志に呼応して参上した。

 

 

「──ああ、行くぞ。私たちの任務だ!」

 

 

 

 

 

  ──サーバルタイガー!

 

Kamen!
Rider!
WARNING!
Kamen!
Rider!

 

 

 

 

 

 

「変身!」 ──Shot Rise!

 

 想いのままに一弾が二弾、四弾と分かたれ、旋回していく。

 まるでこの先連綿と続き、多様化するであろう星の種のようだと、夢想した。

 ──全ての装甲が実体化する。

 

 

 

 

サーバルタイガー!

 

"Blade spun(命を守る) by justice(正義が) that protects lives."(紡いだ"刃")

 

 

 

 

 ──バルキリー・ジャスティスサーバル。

 未来を見据える青き瞳。守る決意を紅き胸に。

 今、戦場に正義の戦士が舞い戻った。

 

 

「うっ……ぅあァッ……っ!」

 

 警告に背いた結果の負荷が、電流となって身体を奔る中で、思う。

 

 自分は意志を受け継ぐような器じゃない。

 それでも、今だけは。

 未来に進む次代の為に──共に戦ってくれ。

 

 

「人口知能特別法違反を確認───対象をぶっ潰す!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アークに攻撃の隙を与えない! 連携して追い詰める!」

 

「「応!」」

 

 

 立ち上がったアークゼロに、ダイアウルフとバーニングファルコンが挟むように突撃する。跳び前転で視界と構えを遮った所に、水を散らしたような特有の炎が突き刺さった。弾ける紅い豪脚は、安易な佇立を許さない。

 初撃を決め、ウルフとファルコンの連携が成り立った。アークゼロの攻撃姿勢を打ち崩す絶え間ない攻勢は、スタミナの概念がないマギアだからこそ成り立つ技か。勢いに続く為に、バルキリーは地面を蹴り抜いた。

 

「──速い! 負荷が軽減されて……これがサーバル本来の力!」

 

 動作に移行した次の瞬間、目の前に標的を捉えていた。予想以上のスピードに、急いで爪装(そうそう)の裂撃を貫穿に切り替える。スタートから肉薄に向かうレスポンスが良すぎたのだ。

 大気をつんざく一閃が火花を散らしてアークゼロに炸裂する。その一撃をもって、自らのスペックが通ずる事を確信したバルキリーは猛攻に打って出た。

 振り上げ、下す。溜め込み、突き出す。至って単純な動作だが、その圧倒的な回転率にアークはなすすべがない。攻撃どころか、防御の間隙さえ与えない怒涛の斬り抜きと成っていた。

 

「一気に行くぞ!」

 

 

 アタッシュショットガン! 

 アタッシュアロー!

 

 

 ソルドマギアも見ているだけではない。嵐を纏った荒々しさに、介入の余地を算出した。

 受け手は手出し出来ないが、攻めの手は幾らでも継ぎ足せる。

 時より見える裂撃の空白、足掻きで突き出そうとする四肢を合図にピンポイントで撃ち抜いていく。戦場が舞台の彼らソルドに、組めないコンビネーションは無いのだ。

 

「……ここだ!」

 

 

 カバンスラッシュ! 

 カバンショット!

 

 

 数十メートルを攻め立てた所で、バルキリーが手を緩めた。しかし即座に強化攻撃が飛んでくる。人間の挙動の限界を、マギアが見事に補っている。

 しかし後者──強化弾が命中する手応えが無かった。

 有り得ざる違和感に取られた意識。直後、それは悪寒に変わっていた。

 

「……まさか!」

 

 

「───予測完了」

 

 

 警鐘を鳴らす五感に従って振り向いた先に、ウルフマギアが倒れ伏している。現実を受け入れる間に、ファルコンマギアが蹴り飛ばされていた。

 一瞬の応酬。電荷操作によって、カバンショットが楕円軌道で返された事で、バルキリーは本当の局面を思い知らされた。

 

 

「この僅かな時間で、まして複製個体が……成長している!」

 

「──くだらない。見え透いた思考は、見苦しいぞ」

 

 轟音が渦巻いた。自由とハイスペックを確立したアークゼロの眼前に、砂塵だけが映っている。動揺と憂慮を押し込んだサーベルを携え、バルキリーは即座に仕掛けていた。

 しかし、背後を、中心点を捉えたはずのバルキリーは強烈な衝撃に襲われた。耳をつんざく、蔑むような金切り声が宿った肘を入れられている。

 ──完全に見切られた。

 

「うぐっ───ぎッ!?」

 

「その動きも思考もすべて、予測済みだ」

 

 一転攻勢。アークゼロのインファイトが始まってしまった。

 空間を抉る轟音の直後に、この身から鈍い閃光が噴き出す。一切の緩急も無く、軌道を描く拳が刺さり続ける。

 どれだけ己より速くとも、動けなくては意味がない。バルキリーの懸念事項は攻撃力だったとはいえ、動けなくする点で、アークは意趣返しを完了した。

 

 

 だというのに。 

 未だバルキリーに崩れ落ちる予兆はない。

 

「──想いがテクノロジーを超えてるんだ。

 どうせ、倒れないのは何故だ、とか思ってるんだろ? 答えは簡単だ。

 この姿は、命を守る正義が込められているからだ……!」

 

 健在な舌を回し、今もなお溢れんばかりの想いをぶつける。命を守る強い意志が込められたから、あの滅亡迅雷の蹴撃も耐えられたのだ。少なくとも刃は、そう信じている。

 そしてその宣言の通り、バルキリーに怯む様子は一切見られない。耐えて耐えて、耐え抜いた先にしか勝利は掴めないと、覚悟しているのだ。

 

「…………」

 

「今だ!」

 

 そんな発破を受けて、アークが真に動揺に至ったかは確かではない。しかし実際、バルキリーは飛び退くほどの猶予を掴み取った。

 即座に胴を蹴り飛ばし、間合いを逃れないながらも距離を稼ぐ。

 

 戦況は途切れない。淡々となぞるような拳と脚を、取り戻した機動力で捌き、躱していく。

 依然、状況が傾いたわけではなかった。それでも神経を研ぎ澄まし、勝機を手繰り続ける。

 たとえすべてが予測の中でも、諦める訳にはいかない。唯一勝ち筋に成りうるものは、あ(・)の(・)時(・)掴んだ。

 

「「…………」」

 

 どちらともなく静止、沈黙。先の突撃の始点より幾分押された地点で、場は仕切り直されていた。

 永遠のような、時を離れた感覚が脳を貫く。意識が途切れたのか、鮮明になったのか、無色だけが認識出来る。人間の緩慢な片息だけが、現世という真実を示していた。

 ──息継ぎは済んだ。

 朝焼けに昇る陽光に充てられ、バルキリーは真っ先に駆け出した。やはりアークは反応が遅れ、一瞬で間を詰められる。正拳を溜め込み、鋭利をド(・)ラ(・)イ(・)バ(・)ー(・)に突き出した。

 

 

「…………」

 

「ハアアァァッ──!!」

 

 

 

 そして。

 

 

 

「───ッ! な、に……?」

 

 

 

 サーベルは呆気なく砕け散った。

 

 

 

「道具に思考は、不要だ」

 

 

 軋み、崩れ去る苦悶。

 歪み、崩れ去る砕音。

 

 そんな更なる異常に晒され、バルキリーが硬直してしまう。それに即して、アークが両の手をサーベルの上下に差し込んでいた。前者の再起を待たず、右手のクローは側面からの膂力で打ち砕かれる。

 その直前の意識。バルキリーを押し戻したアークは、20を目視出来る距離に到達していた。要であるコントロールを、ハッキングで妨害したのだ。

 

 

「負荷が、また……!」

 

「唯一誇る機動は消えた。お前に私は止められない」

 

 最新型らしく、ファイヤーウォールは完全に破られなかった20は気絶に留まっている。しかし100%の負荷が還り、バルキリーの挙動が鈍くなってしまった。

 咄嗟に手持ち無沙汰になった右手でショットライザーを構える。あの上面のスイッチだけは押し込まれないよう、必死で腕を狙い定める。

 

 片や、アークは怯むことも、必殺の必要性もなく。先のようになぞる怒涛を放ち始めた。

 単純な組み撃ちはアークの独壇場にしかならない。遂にバルキリーは、一切の挙動に置き去りにされてしまった。

 

 

「──それでも、絶対に負けるか! こんな私を、未来の為に必要としてくれる奴らがいるんだ!!」

 

「何をしても、結論は変わらない」

 

 おぼつかない四肢。ふらついた体幹。されど目を逸らさず、バルキリーは倒れない。命を託した者、新しい命ある者のために。

 

 だからその末に。

 想いが命運を手繰り寄せたのだ。

 

 

(……? 重さが……ダメージが弱い……──まさか!)

 

 正確無慈悲だった猛勢が、僅かにズレている。芯を揺るがす拳の威力が変わっている。

 何か、状況が動いた。これは完璧な演算、予測の下で動くAIにしてはあり得ない。すべての要素を鑑みて、バルキリーは予想に賭けた。

 

「滅べ」

 

「────」

 

 

 主人の望みを汲み取って、嬲る蹂躙の徒手空拳で決着を。そんなアークの悪意が籠った足先は、届かなかった。

 ──結論が覆された。

 今度こそ動揺に襲われ、硬直。間隙、光明の爪装(そうそう)が下顎を突き穿った。

 

 

「これは──グッ!?」

 

「───やはり!」

 

 翻って蹴撃、斬撃、砲撃。旋律を奏でる敏捷がアークを翻弄し返し始めた。

 負荷など気にしなければ良いだけ。顔面と手足に刃を放ち続ける。

 

 装甲を抉る火花に塗れ、アークは苛立ち燻っていく。何故か、好機を作られている。手をこまねく様を戒めるかのように、一つの記録が流れ込んできた。

 

オルトロスブラストフィーバー!

 

 最強のゼロツーに一矢報いたオルトロスバルカン。爪を切らせて悪意を絶つ一撃──そんな一幕。

 

 

 バルキリーの変容は簡単なもので。

 余りにも呆気なく折れた右手のサーベル。それにより左右のバランスが悪化した。

 また、打ち止められた負荷軽減。それによる非合理の発生。

 リスクヘッジの為、AIの予測は相手が万全の状態の挙動や思考が大部分を占める。勿論、ボロボロになった後の動きも予測したのだが。パーセンテージ毎の負荷に合わせた予測など、非合理なものは行っていない。

 

 バルキリーの不安定すぎる様相は、アークの演算基準に該当していなかったのだ。

 

 

「──負荷が増した事が幸いした! 最大脅威を予測するAIに、もう私は捉えられない!!」

 

 畢竟、何が起こるのか。

 確かに予測で数パターンしかない、不安定な動きに対して。万全を相手取る時に比べ、対応は僅かに遅れるが、それだけで──

 ──その僅かな光明こそを、バルキリーは駆け抜けるのだ。

 

「バカな……!」

 

 機は熟し、攻勢は奪い去られた。最高速を越えてバルキリーが攻め立てる。

 

 粒子砲も、波動も、正義の彼方を駆ける戦士に届かない。

 上下左右へ揺(あゆ)く体躯。不快な衝撃はアークの挙動を許さない。震慴(しんしょう)するまま、一切のコントロールが叶わない。

 見落としたわけでもない事象のせいで、成長する己が押されるなど認められない。しかし、まだ正義をラーニングし尽くしていないアークでは、そこが限界だった。

 

「前提を書き換え、結論を予──」

 

「──もう遅えんだよ!」

 

Burning Falcon's ability!

Dire wolf's ability!

 

 

 唯一自由な首を即座に向ける。充填完了した励起状態の銃口が、潰したはずのガラクタより定められていた。

 最新型のソルドの耐久力も、アークが見誤った重大な要素の一つだったのだ。

 

「──ぶっ壊す!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ローンウルフ
ローンウルフ
ローンウルフ

カバンバスター
カバンバスター
カバンバスター

 

 

 

 

バ
バ
バ
ー

 ー
 ー
 ー
ニ

  ニ
  ニ
  ニ
ン

   ン
   ン
   ン
グ

    グ
    グ
    グ

カバンシュート

カバンシュート
カバンシュート
カバンシュート

 

 咄嗟の対消滅は叶わず、開幕を思わせる業火がアークゼロに直撃した。二の手、ゴリゴリと噛み砕くウルフモデルが捕え、辛くも膝立ちまで追い詰めた。

 彼らが再起する事は決定事項だと信じていた。仮面の下で笑みを浮かべ、バルキリーはゴールへと向き直る。

 

 サーバルタイガー!

 

 必殺と共に脚に力が累増する。次の瞬間、爆発音を撒き散らしてバルキリーは駆け出した。

 唯一の抵抗権である荷電粒子砲が撃ち込まれるも、もはや、全てを追い越したバルキリーに掠る事もない。

 眼前に殺意が交錯する。肉薄は果たされた。

 両者の力の噴流で腰間のモデルが役目を終える。アークは流体金属を滾らせ、攻防即転換を保証して迎え撃った。

 

 

「──ぬぁッ……!?」

 

 筈だった。その変形よりも疾いサーベルがベルト帯を貫いていなければ。

 立て続けの必殺で、アークワンでは防がれた零距離射撃を完全に遂行する。勝ち筋は既に強固になっていた。

 

「ッ──ァアア!」

 

「貴様……ッ!」

 

 必殺の波動に弾かれ、金属が介入の余地を持たない。反転、顔面を突き刺すも、苦悶に留まりバルキリーは一切後退しない。

 絶対に逃がさない鋼の杭。遂に後方に貫通したクローを支えに、感覚だけを研ぎ澄まし、ドライバーに照準を固定した。

 

 ──ジャスティス ブラスト!

 

「ありえん! こんな、バカな……!」

 

「誰であろうと! 私たちの正義を阻むヤツは───滅べ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジ
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ジ
ャ
 ャ
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ス
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テ
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     ス

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ラ
 ラ
 ラ
ス
  ス
  ス
ト
   ト
   ト

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 決着。AIMSの任務は果たされた。

 

 硝煙もなく、吃驚もなく。

 逆襲を果たした刃は、しかし決して止まらない。

 

 昇り切った日を背に誓う。

 ──もう迷わない。

 新たな命を、守り続けるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『馬鹿ナ……! あんな、人工知能ニかまケタ愚者ガ……!』」

 

 アークワンが吠える。咎人を裁く権利の何もかもが通らない。

 その行き過ぎた悪の在り方を憂い、ゼロワンは本当の時代を突き付ける。

 

 

「受け入れて、前に進むしかないんだ。人間はいつだって、共に歩んできたんだから!

 今は人工知能の、ヒューマギアのいる時代なんだ!」

 

「価値観のアップデートのいかに大切な事か。賢くなければ──時代の流れに取り残されるだけですよ」

 

「『な、ん、ダトォォォオオオ!!!』」

 

 

 そのしたたかさは見る目もなく。アークワンは完全に悪意に身を落とした。

 絶叫しながらアタッシュカリバーを形成。数十に達した瞬間、すべてがサウザーに飛び出していった。

 

「これ以上、みんなの未来を脅かすのは許さない!」

 

 

JACK RISE! JACK RISE!

JACKING BREAK!

 

 

 ゼロワンの強い奮起に呼応して、ライジングホッパーキーが励起する。

 雷(イカヅチ)を帯びた二十個程のシャインクリスタが砕け役目を終えた頃、青い輝きと共にその色彩を解き放った。

 

 

ジャンプ! 「行くぞ!」

 

Authorise──Progrise!

 

 

 

イニシャライズ!

リアライジングホッパー!

 

──"A riderkick to the sky turns to

take off toward a dream."

 

 

 

 リサイズしたライダモデルがドライバーに宿り、染め上げるままにゼロワンが新生する。

 限界を超えた出力──リアライズが完了し、カリバーが残光を浴びて弾けていく。

 

 ゼロワン・リアライジングホッパー。

 ゼロからイチを始める為の形態。ヒューマギアの新たな一歩に共鳴し、その姿を顕した。

 

「アーク! お前をここで倒す!」

 

「私たちが、1000%の確率で!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『ァァァアアア──あ"ッ!?』」

 

 バッタの豪脚を幻視した直後、アークの視界があらぬ方向へ歪んだ。首を刎ねるような衝撃に引っ張られ、その身体ごと転がり舞っている事に遅れて気付く。

 蹴撃(しゅうげき)の襲撃者(しゅうげきしゃ)を睨みつける事すら叶わない。困惑と恐怖を自覚しようと、回路を散らす猛攻は止まらない。

 許容範囲を優に超える、ゼロワンの加速度。身体が陥没する威力を受けた後、認識するのはいつもネオンの蒼と黄色だけだった。

 

「『──ッハァッ! 許サン! 許サな──』」

 

 それでも、追い付けなかろうが、アーク全体の例ではリアライジングと衝突するのは三回目。従来のゼロワンと動きのクセは変わらない。

 たった一撃。それさえ見極めれば、結論への道は切り開かれる。ホッパーブレードを手に、土埃に塗れながらも反撃の機会を待ち続けるのだ。

 

 JACK RISE! 「──!?」

 

JACKING BREAK!

 

「フン!」

 

 同じく介入出来なかった筈のサウザーが必殺を放った。長い刀身を中心に、吹雪く渦が立ち上がっていく。

 ジャパニーズウルフのテクノロジー。その伯仲に特化した力を、サウザーは遺憾無くものにする。大振りと共に、銀世界が放たれた。

 瞬く間にアークを囲いに奔るエネルギー。それは、一つの獣の気配と化していた。

 直ぐさまブレードから流体金属を撒き散らし振り払おうとする。しかし、吹雪が晴れて現れたのは計四体ものウルフモデルだった。

 

「『くっ、ぐぅァッ!』」

 

「よし、どうだ! ──天津さん、コレを!」

 

「──! コレは……!」

 

 攪乱の末に幻影を纏い、仕留める。見事ブレードを弾いたウルフに続き、ゼロワンが飛び膝蹴りを決め込んだ。

 歯車のように回転して飛んで行くアークを尻目に、肩を強ばらせながらサウザーへ何かを投げ込んだ。

 後ろ回りでサウザーの隣に着地する。もはや言葉にならない慟哭のままに、アークが立ち上がった。

 

 

 ポイズン! ウィング!

 

 この戦いには彼らの形見も振るわなければならないと、彼らにも見届けさせなければならないと思ったから。

 ジャッカーにファルコンキーが装填される。ゼロワンも、あ(・)の(・)日(・)ゼアが創造した事ですべての事情を察したスコーピオンキーを起動した。

 

"Progrise key confirmed. Ready to utilize──FULL CHARGE!

──THOUSAND RISE!

 

 駆け出したアークの軌跡に濁流のような流体金属が溢れている。絶叫に呼応して、数多のアタッシュウェポンが飛び出した。

 脅威を認め、二人の戦士が迎え撃つ。一瞬、背後に紫と桃の幻影が立ち上がるように思った。

 

 

 

スティングカバンダイナミック!

THOUSAND BREAK!

 

 

 

 二者の闘気を承認し、切っ先から質量が放たれる。畝り猛るアシッドアナライズが飛び出すと共に、ファルコンモデルが嘶(いなな)いた。

 次々と薙いでは突き刺し、対象を消滅させる。衝撃に耐えられない武装はそのまま霧消していく。

 存分に唸った黒鉄(くろがね)の尾は、翻って隼に向かう。その身を包み込むように、爪と尾骨にゆっくりと巻き付いた。

 羽ばたき一つで残骸を払いのけたファルコンが続く。黄金の回路を軌跡に、鉄の羽根と蠍の尖鋭を振らせながら空に飛び上がっていく。

 程なくして、アークワンを除いてすべてが灰塵と化した。自由な滑空のまま雲の上に飛び去っていくファルコンを見届け、ゼロワンは眼前に向き直る。

 

 

 ──ⓒ ZAIA エンタープライズ

 

 

「『ぐぬゥ! ナゼ、何故だ! この私コソが、国民を背負わなければ、誰が!』」

 

「──俺たちが! みんなで一緒に跳んでいくんだ! 

 お前を──止める!」

 

リアライジングインパクト!

THOUSAND DESTRUCTION

 

 

 

 回路状のエネルギーが電光と化して轟いていく。再びバッタの豪脚が宿った瞬間、二者は空に跳び上がった。

 大気を波打つ、ネオンイエローとブルー、バイオレット。突き出した右脚に宿ったそれは、直下に捉えた脅威に向けて更に重厚になる。

 

「ァぬあ!」パーフェクトインパクト!

 

 朝日を背に、一直線に突貫。射程に入った事に気が付いたアークは波動の拳で抵抗する。しかし、威力は決して止まらない。

 

 やがて、見せかけの均衡は破られ。

 胸に刻まれた悪の十字に、迸る衝撃が炸裂した。

 

 

「「ハアアァァ───ダァア!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リアライジング
リアライジング
リアライジング

インパクト
インパクト
インパクト

 

 

 

 

 

THOUSAND
THOUSAND
THOUSAND

DESTRUCTION
DESTRUCTION
DESTRUCTION
ⓒ ZAIA エンタープライズ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空を覆うような爆煙が噴き上がる。

 中身が転がり出て、ドライバーが破砕したのを見届けた。

 

 決着。変身を解いた或人は、遠方の騒がしさに気付く。

 AIMSが集合している。隊員たちに支えられながらも思いの丈を明かせたのか、刃の晴れやかな微笑みが印象深い。

 

 これからも、いや、これからきっと。

 立ち止まる事もなく、自分たちは進んで行かなければならない。

 心に抱いた、夢に向かって。

 

 たった一人、飛電或人は決意した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──数ヶ月後

 

飛電インテリジェンス 祝賀会会場

 

 

「──それでは皆さん!

 『仮面ライダーゼロワンOthers"オールアップセット"』

 制作完了お疲れさまでした~! 乾杯~!」

 

「「「「「乾杯ー!!」」」」

 

 

 社長の音頭を合図に、『プロジェクト・シネマ』達成の祝賀会は始まった。

 弾けるクラッカー。達成の歓喜。

 飛電史上最も多種多様な職業と顔ぶれが出揃っている。その表情には例外なく、達成感が浮かび上がっていた。

 紆余曲折あった映像制作も、404の畳みかけもあって無事に達成された。納品が済んだ今、集められる限りの関係者を呼び込むことが出来たのだ。

 

 

 その中でも彼女──刃唯阿はこの日を心待ちにしていた。

 祝いの品だけでなく、シェフや寿司職人型ヒューマギアお手製の、圧巻のバリエーションを誇る料理も立ち並んでいる。至福の時とはまさにこの事だ。

 開始約二十分。余すことなく存分にビュッフェを堪能する唯阿は、遅れて参上した天津に出くわした。

 

 

「唯阿、ごきげんよう。どうやら調子は上々のようだ。こうやって後から来た私と、冷菜台で鉢合わせるんだからね」

 

「…………今、悪くなったからな」

 

 ビュッフェはコース形式と同じ順番で料理が並ぶ。前菜や冷菜は開始直後に手に取るわけで。

 もう二週目に入っていた唯阿は、何となく気まずくなってプイっとそっぽを向いた。

 

「まあまあ、健啖家なのは悪い事じゃないだろう。それにしてもこの光景、1000%成功と言って間違いないだろうな。この子にも見せられて良かったよ」

 

「そこで言うからいつまでもお見合いが成功しないんだぞ…………この子?」

 

「──初めまして! 天津社長の秘書の厘(りん)と申します!」

 

 

 天津の影から、イズらとは違う、黄色を基調にした秘書型のヒューマギアが顔を覗かせた。

 話半分には聞いていたが、どうやら本当に新会社を立ち上げたらしい。よりにもよってエイプリルフールに全国放送で晒した醜態は取り返せたようだ。

 

 

「初めまして。いきなりで悪いが、大丈夫か? こんなヤツの秘書で。不満があったらいつでもAIMSに相談してくれ」

 

「何も問題はない。密着ドキュメンタリーの話もこのプロジェクトのおかげで通りそうだからね。彼女と共に、新しい風をもたらして見せようじゃないか!」

 

 もしかしなくとも映画に携わった理由はこれなんだろうなと、唯阿はため息をつきながら確信する。

 

 

「お前に言ってるんじゃないからな」

 

「あの……私は充実した日々を健康に過ごしていますよ。天津社長も『愛』を滾らせて接してくれます!」

 

「…………愛?」

 

「その通り! 技術力や経営手腕より大切な、会社を成功させる一番の秘訣は愛だ!」

 

 とんちきなモノを見たかのように唯阿は顔をしかめる。まあ、実際にそうなのだが。

 一体全体、何を食べたらこんな変わりようになってしまうのだろうか。なんだかこれ以上詮索したくなくなった唯阿は、本人が満足してるならいいかと、何もなかったかのように踵を返した。

 

 

「ああ! ちょっと待つんだまだ何も言ってないだろう。

 唯阿、愛だ! AIMSとしてソルド二(・)人(・)と順風満帆な君は、愛を手にすれば更に発展するだろう! 

 アガペー、ストルゲー、フィリア、アムール。すべて立派な愛だ! 君もいつか、胸に抱くと良い!」

 

「……その調子ですね、社長!」

 

「…………それ、普通にセクハラだからな」

 

 ……厘が少々やっつけ気味に見えてしまった自分の方がおかしいのだろうか。

 一応『愛』を受け取った唯阿は、今度こそスタスタと離れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……どうしたのイズ? ヒューマギアにも楽しんでもらえるように色々準備したから。見て回って欲しいな。

 それとも、何か気になってるのか?」

 

「……私は……いいえ、何でもありません。また疑問があればご報告します、或人社長」

 

 主催であり、達成感に溢れる或人に反して、イズは何やら懸念がある様子だった。

 ここ最近彼女が口を噤むことが多く感じる。一緒に解決したいが、言葉に出来ないのだろうか。

 

 

「いつでも待ってるし、一緒に考えような。ヒューマギアが夢見る未来の為なら、俺は何だってするよ」

 

「はい…………私の夢は……」

 

 

 諸(・)事(・)情(・)で(・)自(・)ら(・)が(・)持(・)っ(・)て(・)い(・)た(・)ゼロツーキーを握り締める。頭脳領域の中で、未来に進むソルドたちや、身の振り方に思い悩むア(・)ズ(・)が浮かんでくる。

 ──いつか、自分の意志で笑う。

 それが本当に自らが抱く夢なのか、イズは悩み続ける事を決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──ソルド20。どうだ? こんな人間の催しだが。今回限りはヒューマギアでも一緒に楽しむために専用の食事提供をする、とか。社長はたまに熱量をかける場所がぶっ飛んでるな」

 

「やはり、人間とヒューマギアは違います。だからこそ、自分たちのやり方ですが、同じ手段で喜びを分かち合いたいんでしょう。

 私も、この心がそうだとしたら、きっと楽しめていますよ」

 

 

 窓際で微笑むソルド20と合流する。

 平服指定だった為、準礼装に身を包んでいた。主張し過ぎない迷彩が淡く混じったスカートスーツを着用し、イヤーカフはオープンになっている。

 

「そう言う貴女の慰安にもなっていて良かったです。ケータリング容器もお持ちになっていましたし、楽しみにしていたのでしょう?」

 

「……その話題はもういいからな。ところで、ソルド9はどうしたんだ」

 

「ああ、そうです。後で私も抜け出そうと思います。きっと、彼と同じ所に向かうので」

 

「そうか。……一瞬、あいつも海外に行ってしまうのでは無いかと思ってしまったな。あいつら、元気でやってるだろうか」

 

「……きっと。どこまでも頑張っていますよ」

 

 

 窓より遥か彼方を臨む唯阿の視線を見て、数日前の光景が再生される。映画完成の報告で、ソルド全員がAIMS本部に集まった時の事だ。

 

 

 

 

『……そうか。やはり、行くと決めたんだな?』

 

『ああ。俺たちはもっと多くの世界をラーニングしなきゃいけない。そのために、実際にこの目で確かめる必要がある。

 この地球(ほし)の全て。つまり──海外だ』

 

 404を中心に提出された、まるでレジュメのような意見書。目を通した唯阿の目が、とても穏やかだった事を覚えている。

 

 20にとっても衝撃だったが、自分と9を除いたソルドは全員、もっと広い世界へ旅立つ事を決定した。

 ジャーナリスト、あるいはボランティアとして。どんな命をも守りながら模索するのだ。ヒューマギアやこの星の生物の安息を達成するには、どうすれば良いか。

 それを見極める為に、直接目に焼き付けるべきなのだと言う。

 

 

『AIMSで共に戦うのは、違うのか?』

 

『違わないさ、ソルド20。だが正義も心も、その在り方は多様だ。想いのまにまに進むのも、悪くないはずだぞ。

 ……隊長、どうだ?』

 

 ソルド404の言う通りだ。全く同じ心に迎合しないと決めた私たちは、いずれ道を違える日が訪れる。

 きっとこれが、最初の別れの時なのだ。

 

 

『……寂しくなるな。だが、前進に違いない。

 ──AIMSが世界に進出するんだからな』

 

『──! ……ああ。AIMSの名も、滅亡迅雷.netの名も、株式会社バルカンの名も。決して汚さない事を心に誓う』

 

『達者でな404、みんな。俺は俺のルールで、滅亡迅雷.netの正義と共に歩んでいく』

 

『……じゃあ、さらばだ。我々を受け入れてくれた正義の戦士たち。

 我々の正義を、意志を。心より守ってくれて、ありがとう』

 

 そう言って、404はクシャッと破顔した。

 それにつられて人間もヒューマギアも。隊員は皆、同胞の門出を笑顔で祝う。

 

 笑顔で別れを果たす事が出来た。隊長からの餞別を受け取った彼らは、そのまま巣立っていった。

 そして、残る自分──ソルド20とソルド9は。

 

 

 

 

 

「……では、一度退出させていただきますね」

 

「ああ、遅くならないようにな」

 

 ソルド20が会場を出ていき、唯阿は再び一人になった。

 彼らの輝く未来を受け止め、自分はこれから、どうして行くべきか。

 最近はこうやって一人になると、否応でも考えてしまう。しかし、その答えが出ていないわけではない。

 

 

「……誇るに足る自分、か」

 

 ソルドたちに薦めた往生の在り方。

 それを、こんな自分でも。ずっと、何もかもが間違いだった自分でも。

 彼らに負けないぐらいの気概で、求めるべきなのかもしれない。

 

 

「……それはきっと、私にとっては。

 ──誰かに私が生きた証を、綺麗な形で託す事だ」

 

 誰かにバトンを渡す。

 何かを未来に託せる、そんな立派な自分になりたい。

 

 言ってしまえば、自分という存在を他者に刻みつけたいという、世間一般の俗な欲望だ。

 本当に何も無い自分だが。これから先も生まれ続ける新しい命に何か一つでも。

 自分──よりも優先して、まずは彼らの命を託す為に生きる。

 

 それが自分が抱く今の正義のままなのかは、その時まで分からない。

 けれど、立ち止まる事はもう、絶対にしない。

 閉ざされた未来なんて、こじ開けてみせる。

 

 ──新しい命を繋ぐ未来。

 時代がどれだけ、あっという間に変わろうと。

 私が持たないすべてのものを持つ者たちへ。

 

 

 唯阿は夢想する。し続ける。

 連連と繋がれる、心のままに続く最前線を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──見つけたぞ、ソルド9。やっぱり、此処に来てたんだな」

 

「そういうお前こそ。隊長の心を知って、こうするべきだと思ったんだろ?」

 

 

 ソルド9はとある廃工場群の裏道で見つかった。互いに身なりはあの時と同じソルドの隊服だ。

 あの日、誰にも見つからない為に一旦逃れた場所。今も尚、人の気配は一切ない。

 居ると確信していたから、趣を汲んでこうして階段に座っていたのだが。

 

 

「今となっては懐かしい、な。ここで俺たちは初めて、自分で意志決定を行ったんだ」

 

「私は弱かった。あれが自立した意志とは今も思えないし、その本質は変わってないかもしれない……

 しかし、それと向き合い続けるべきだと、ラーニングしたんだ」

 

「その通りだ」

 

 自ら鎖を断ち切ったこの場所で、再スタートを切ると決めた。

 唯阿自身の言う何もなし得なかった、むしろ脅威を悪化させたという過去。もちろん私は、自分の成長の先にいると思っていた彼女だったから、かなり心にきた。

 しかし、それでラーニングした。彼女ほどの正義を貫く戦士でも、決して完璧の鏡像では無いのだと。

 そして、今の正義の為なら捨ててもいいはずの過去でも悩み、向き合い続ける事の大切さを。

 

 

「俺たちヒューマギアなら、過去を不要なメモリーとして完全に切り捨てられるが、それはダメなんだ」

 

「どんなに認めがたい、憎らしいものでも忘れてはならない。無かったことにしてはならないのよ」

 

「命を繋いできた者たちは完璧ではない。反省点、改善点を見過ごさず、俺たちは進み続ける」

 

 互いに意志を再確認し、私たちは傍らに落ちているモノ──マスブレインゼツメライズキーを拾い上げた。

 

 自分だけじゃなくて、そのずっと過去の時代も。

 自由だけじゃなくて、退けたい出自だとしても。

 

 取りこぼさず、むしろ利用して、新しく歩むべきなのだ。いつか、自分たちのカタチに進化させるかもしれない。少なくとも、捨て去ってはならなかったのだ。

 

 口角が上がる。呪縛の象徴だったキーを、解放された空に掲げてみる。

 人間は記憶領域に限界があるが、私たちのメモリーは無限大だ。どんな想いも、繋いでみせる。

 そのカタチを変えて、心に受け継ぐ事で。

 

「誇るに足る、未来へ向かって───」

 

 今日も人類とヒューマギアは、歩み続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──かくして。一つの時代に終止符が打たれた。

 しかしそれは決して色褪せず、これからもずっと受け継がれていく。

 誰かが忘れない限り。誰かが想い続ける限り。

 

 終焉など有り得ない。

 だって、何度転んでも未来は。

 

 こんなにも新しい命で溢れるのだから。

 

 

 ──遠い遠い彼方の星。

 ある心持つ知能も、微笑みと共にそう結論づけたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゼロワンOthers

オールアップセット

 

fin.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




  
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