禪院家の末っ子は、禪院家を潰したい。   作:バナハロ

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仲は良いけど息はあわない。

 高専がぶっ壊れてから一ヶ月が経過した。ようやく、学校も形を成してきて、本業も復帰。

 今日も学生達は修復とトレーニング。悟と要が他のメンバーを鍛えるような形での特訓も慣れてきたものだ。

 その上で、要には新たな日課が増えた。場所は、高専から少し離れた場所で、帳におおあわれている湖。その上で浮かんでいるのは、要と悟の二人だ。

 

「今日こそ泣かす」

「やってごらん?」

 

 直後、二人の姿はフッと消える。正確には、術式を用いた高速移動。要が立っていた後の場所の真下には、刻印が出ている。

 要の廻し蹴りを、悟はしゃがんで回避。それを読んでいたように要は放ちかけていた廻し蹴りを引っ込めつつ拳を繰り出す。

 悟はそれを両腕をクロスしてガードしつつ、回転しながら膝蹴りを繰り出した。

 その一撃を、要も同じように両腕をクロスしてガードしつつ、真上に飛んで衝撃を軽くする……にも関わらず、身体は真上に吹き飛び、術式で身体を空中に止める。

 

「チッ……!」

「攻撃で術式使わないの? 要」

「お前だって使ってねーだろ」

「このままじゃ僕、泣けないよ? せっかくのトレーニングだし、本気出したら?」

「言ったなコラ」

 

 直後、要はポケットから石を取り出し、それを真上に投げる。さらに刻印をつけた直後、それに手の平をむけて一気に加速した。

 空中で回転しながら、拳を向けた。そのまま空中で攻防戦……だが、悟は普通にいなし続ける。

 

「んにゃろっ……!」

「大人と子供なんだから、変な意地は捨てれば良いの、に!」

「やばっ……!」

 

 カウンターをもらい、一気に水中に叩き落とされた。

 ブクブクと泡が水面に浮かび、悟は真下を眺める。本当に術式を使うつもりはないようで、水中で作戦を考えているようだ。

 その直後、ボッと水中から飛び出してきたのは、呪力を込めた岩だった。それをぬるりと回避する悟。目を隠しているとはいえ、呪力の気配はマスク越しで余裕で感知できる。

 そんな事しても無意味だ。呪力を飛ばして、下から来る岩を砕き続ける。この速度でこれだけの量を投げられるのは大したものだが、作戦は分かる。

 この岩に紛れて、呪力を消した要が奇襲するつもりだろう。それを分かっているから、奇襲させないために岩を片っ端から撃ち落とした。

 

「……あら」

 

 もう無駄だと悟ったのか、岩が止んだ。早く上がって来ないと、呼吸が辛いのはそっちだろうに。

 そこで、ふと気がつく。いつの間にか、水中でも呪力を感じない。もしかして、知らない間に要は水中から出た? と、視線を逸らした時だ。

 だとしたら、時間を置いて自分に視認されない所から出る……何処から……いや、それよりも、下に視線を向けておいた……岩の群れがミスディレクションだとしたら……真上から奇襲? 

 と、空を見上げた時だ。真下からボッとまた何かが放たれる。

 

「!」

 

 また岩……つまり、まだ下だ。呪力で破壊しては間に合わないため、その岩を右拳で壊した時だ。

 破片の後ろから、要がヌッと顔を出す。視界を塞ぐためのゴーグルの奥では、要の殺気が込められた瞳が見える。

 

「……!」

「びっくり箱だ」

 

 一気に蹴りが迫ってくる。それも、脇腹に確実に当てに来ていた。

 反射的に、悟は人差し指と中指を立てる。無下限術式によるガードにより、要の体は止まる。正確に言えば、速度が落ちているわけだが。

 

「使ったな? 術式」

「やるね」

 

 その直後、今度は要は手のひらから巨大な刻印を発動。砕かれた岩達に付けた。

 

「!」

「一斉射撃」

 

 一気に悟に向かって岩が直進した。それと同時に、要の体は後方に弾き飛ぶ。

 それと同時に、身体を思いっきり持ち上げて宙返りし、空中で足を止める。

 悟も周囲の岩を砕いて、一気に距離を置いた。術式が解放されるや否や、一気に使う奴だ。

 ……と、思ったのも束の間、要が足元で巨大な刻印を広げているのを見て、悟は目を解放した。

 

「おいおいおい……!」

「津波注意報」

 

 その拡げた刻印は海の中に沈んでいく。あのバカ、何をやらかすつもりか。すぐに止めようと距離を詰めようとするが、要は手の刻印を自分に向ける。

 その刻印を、悟は回避しながら距離を詰めたが、遅かった。足から二つ目の巨大な刻印が放たれ、水の中に沈んだあと、反発し合って一気に水を広範囲に掘り返した。

 

「んなろ……!」

 

 舞い上がった巨大な波は、悟の視界を覆う。無下限術式でガードした直後、要は莫大な呪力を自身に纏わせた。

 

「! 何を……!」

「『領域纏開』」

 

 直後、要の周囲を取り囲むように呪力が激った。悟はすぐにその技術を解析。領域展開の展開範囲を自分の周囲にとどめている。

 領域の効果は不明だが、見た感じその中でも必中効果のみを抽出し、悟に攻撃が届くようにした。

 ……要レベルがそれだと厄介極まりないが、それ以上に気になるのはあの状態のまま刻印が使えるか、なのだが……。

 

「行くぞ、歯を食い縛れよ五条」

「……」

 

 直後、要から刻印が放たれた。マスクを外した悟は、さらに精密に解析し、それを避けた。

 さて、誠に面倒な事に、あれはこちらの術式を使っても届くらしい。

 それを理解し、悟はニヤリとほくそ笑む。

 

「楽しくなってきた」

「ラウンド2だ」

 

 そう言う要も薄く笑みを浮かべており、片方しか解放されていない手の平から、刻印を上に向けて浮かべる。それも、10枚ほど。

 

「ピザハ○トにでも就職する気?」

「俺はド○ノのが好きかな」

 

 直後、それを要は投げた。様々な軌道を描いて、刻印は悟に向かう。空中を自由自在に跳ね回りながら、悟は回避しつつ要に接近。要は後方に下がりながら、海の下から刻印を引っ張り出して持ち上げた。

 水が持ち上げられても無視。突っ切って近接戦に持ち込む。要もそれを待っていたように直進していた。

 先程よりハイレベルな攻防戦が始まった。要の拳を回避し、蹴りを放つ。それを避けた要は手を開いて刻印を浮かせる。

 

「!」

 

 避けた直後、要の反対側の拳が迫り、腹筋に呪力を集中させてガードしつつ、刻印を持つ方の手首を掴み、術式を起動。ボディを引き寄せて拳を叩き込もうとするが、要が足の刻印を使ってその拳を膝蹴りで弾く。

 それと同時に、外側に向けられた掌の刻印を起動し、岸に見える壁に刻印を打ち込んで反発させる。

 

「っ……!」

 

 そのまま身体と身体が回転し合い、空中にいる二人の戦闘は至近距離で膠着する。

 すると、悟は握っている手を離した。お陰で反発している手の甲が悟に向かい、それをしゃがんで回避しながら、ボディに拳を叩き込んだ。

 

「グッ……!」

「まだまだ!」

 

 さらに、術式で引き寄せる。要はそれに対し、真下に放った刻印で反発させて真上に強引に逃げた。

 悟の術式の影響で、片足の靴だけ引き寄せられる。

 真上を取った要は、真下にいる悟に刻印を飛ばす。

 避けた悟は、人差し指を立てて要に向ける。そこに収束されるのは、呪力と呼ぶにはあまりにも禍々しい赤い渦が集まる。

 

「……」

 

 ヤバい、と理解した要だが、身体が動かない。悟がもう片方の手で蒼を発動し、動けないように引き留めている。

 ならば、こちらも全力で迎え撃つ。いつか何かに使えると思って飛ばした刻印も何もかもをかき集め、超強力な反発を生む刻印を片手に生み出す。

 

「術式反転『赫』」

 

 直後、一気に放たれた二つの術式は、中央で衝突した。

 

 ×××

 

 そんな今日のトレーニングが終わった夕方。

 

「クソがー! また負けた!」

「いやー、惜しかったねー要」

「うるせー! 死ね!」

「暴れないで」

 

 あの後、多少は押し合いになったものの、すぐに押されて赫が直撃し、帳の外まで場外ホームランをもらった要は、硝子に手当てしてもらっていた。

 

「五条、やり過ぎ」

「いやぁ、つい興が乗っちゃってね。要があまりにも本気でくるもんだから」

「生徒の所為にすんなボケ」

「いやいや、ホント大したもんだよ、要。だって、片手だけでしょ? あれで僕とあそこまで戦えれば、十分だと思うよ?」

 

 そんな風に言われても、やはり負けは負けなので腹が立つ。

 すると、その保健室の扉が開かれる。入ってきたのは、真希と憂太だった。

 

「要、怪我したって聞いたけど、大丈夫か?」

「真希姉ちゃん!」

「あの、僕もいるんだけど……」

 

 憂太のことを無視して、要は真希に声を掛ける。

 

「大丈夫? 怪我はない?」

「なんでだよ。お前だろそれ」

「トレーニングの後でしょ?」

「平気だから、お前が安静にしろ」

 

 散々である。だが、要は気にした様子を見せない。身体を起こし、真希に駆け寄ろうとする。

 その前に、悟が要に声をかけた。

 

「ちょーどよかった。憂太と真希、要も。ちょっと良い?」

「良くない。姉ちゃん、アイス食べに行こー?」

「要、聞け」

 

 普通にスルーしようとしたバカを姉が止めたので、渋々、顔を向けた。

 

「何?」

「呼びましたか?」

「うん。急で悪いんだけど……明日から三人で任務ね」

「え、じゃあ乙骨いらなくない?」

 

 秒で切り捨てられそうになったものの、早くも慣れた様子で憂太は笑顔でスルー。

 悟がすぐに説明した。

 

「いやいや、経験を積ませないとだから。この前、要が言ってた通り、力はあるけど実戦は足りないからね。これからは里香もいないし」

「へいへーい……」

「で、任務の内容だけど……ここ最近、呪術高専が被害を受けた事で、呪詛師たちの動きが活発になって来てる。主に、一般人の呪殺とかでね」

 

 言いながら、悟がスマホを見せ、画面を映す。Ex○elでまとめられたファイルには廃ビルの写真と住所等が載っている。

 それを聞いた憂太は、キョトンとした様子で聞く。

 

「え……一般人を呪殺って……どうしてですか? 快楽殺人とか?」

「呪力での殺害は証拠が残らない。だから、呪詛師を知っている一般人は気軽に金でムカつくやつを殺してもらうために頼むんだよね」

 

 呪詛師は夏油傑のような奴しか知らない憂太にとってはカルチャーショックだったようで、少し唖然としている。

 夏油傑のようにいかれた思想を持つ奴だけかと思っていたら、それによってビジネスを行おうとする奴もいるとは。

 

「そ、そんな事もあるんですね……」

「そう。で、ここの溜まり場は呪術師達の違法賭場。勿論、非呪術師もいるよ」

「紛れ込んで適当な術師を探して、依頼すると?」

「そういうこと。流石、要。話が早い」

 

 それを聞いて、少し憂太は不安げな表情が顔に出る。流石に夏油レベルのものはいないだろうが、渋谷でも悟を相手に足止めした術師……というか、ミゲルがいたし、大丈夫だろうか? 

 そんな憂太の気を見透かしたように、悟は朗らかに笑った。

 

「大丈夫、呪詛師なんてほとんど独学で呪術を学んだような連中だし、大した奴はいないよ。良いとこ準一級レベル」

「は? ミゲルとかラルゥみたいな奴もいんだろ。適当なこと言うな」

「そうそう。要みたいなのもね」

「おい、もうこいつは呪詛師じゃねぇ。冗談でもやめろ、バカ目隠し」

 

 割と要が夏油一派にいた時のインパクトがトラウマになりつつあったのか、割と本気でキレているような様子で真希が言った。

 

「おーこわっ。ま、憂太。とりあえず、要と夏油レベルの呪詛師なんて100パーいないから安心して。ていうか、前に要も言ってたけど、呪術師の実力は術式云々以前に呪力の基礎操作だから。その点、憂太レベルの奴も基本的にいないから。安心して行っておいで」

「は、はぁ……」

「で、なんで私も一緒なんだ?」

「そりゃ勿論……」

「俺の見張り役でしょ。元呪詛師を呪詛師とコンタクト出来る機会を作ってる時点で、上層部が俺の監視対象として真希姉ちゃんが適しているか試験するためでしょ。姉をつけて裏切らないようなら、今後も使えるし様子見。裏切ったら殺す……とかそんなとこ?」

「これまた察しが良いね。流石。……ほんとは学生にこんな事、させたくないんだけど……まぁ、色々やらかしてる要の信頼のためだから」

 

 まだ上層部から信頼なんてされていないし、全然あり得る話だ。何せ、つい最近は悟に許可をもらったとはいえ、教室を抜け出したのだ。イラっとする真希だが、何も言わなかった。

 

「まぁ良いけど。で、そいつら捕まえて来れば良いの?」

「そういう事。全員とは言わないけど……任務の期限は一週間だから、それまでになんとかしてね」

「つまり、一週間で乙骨の足を事故と見せかけて折って、その直後にゴミ掃除して、残りの日は真希姉ちゃんとデートしろ、って事ね?」

「本当面白い解釈するよね」

「面白くないですが⁉︎」

「要、やめろよ?」

 

 本当にこうしていると、真希がいてくれて良かった感じある。……もし、夏油傑が真希を殺していたら、高専は真依を残して壊滅していただろう。多分、里香がいても止められないし、悟くらいでないと無理だろう。

 そうでなかったとしても、この自由奔放っぷりは少し困るが……まぁ、今まで子供のまま育った以上、急には矯正できない。少しずつ成長させるしかない。

 

「ま、とにかく三人ともよろしく。リーダーは真希。要も憂太もちゃんと言うこと聞いて。良いね?」

「了解しました!」

「へーい」

「ちゃんと返事」

「はい」

 

 そう言って、真希は二人を連れてグラウンドを後にした。

 

 ×××

 

 悟に見せられた資料はそのままスマホに送られたので、三人でじっくりと眺める。

 資料を読み上げるのは真希。

 

「五階建てのマンションタイプ。一階と地下はほぼ駐車場で、その地下の駐車場を改造したメダル、スロット、ダイス、ポーカー、バカラ、ブラックジャック、ルーレット……まぁ、よくテレビとかで見るタイプのもんだな」

「絶対、術式で細工されてる奴じゃんそれ」

「要くんの術式なら簡単にイカサマ覆せるんじゃない?」

「それな。目を使えば他の奴らはパニくるし。最初からやると俺の所為だってバレるから、最初の三回くらいわざと負けて、その後にサングラスをさりげなく外して次他の奴らを動揺させて、後は刻印打つだけ」

「もしかして、やったことあるの?」

「常連だったとこ、一年くらい前に久々に行ったら潰されてたなー」

「さ、流石……」

 

 なんて話が逸れる中、真希が口を挟む。

 

「おい、別に私らの目標は小遣い稼ぎじゃねーだろ。良いから話聞け」

 

 怒られた二人は改めて顔を向ける。

 その二人に、真希は写真を見せる。一人の若い男が写っていた。

 

「ターゲットはここの主の、青い髪のすかした男だ。術式は不明だが、まず呪術は使えるって話だ」

「あ、こいつ知ってる」

「は?」

「2〜3年くらい前にこいつから密輸武器パクったわ」

「お前何してんだよ……」

「あの時、菜々子と美々子もついてきて大変だったんだよ」

「聞いてねーよ」

 

 とはいえ、まぁそれなら助かると言えば助かる。……自分と真依が許可していないデートの話を聞くのは豪腹だが、今はとりあえず聞くしかない。

 

「……ま、それなら話が早ぇ。どんな術式だ?」

「えーっと……ああ、そうそう。人差し指を立てて構えて、曲げて撃つ。何も持ってなくても、手と指を動かすだけで周囲の銃が自動で対象に照準を合わせて火を吹く……みたいな感じ。面倒だったのは、照準を合わせる銃は一つだけじゃない事と、死角にあったら困る事」

「……厄介だな」

「銃って……呪具?」

「知らん。ボッコボコにして海の向こう側に殴り飛ばしたし」

 

 だから、情報は見た感じの事しかない。まぁ、どれほどの術式を持っていようと、要には勝てないだろうが。

 

「そ、そっか……でも、そんな前の要くんでも何とかなるなら、今でもなんとかなるよね?」

「俺はな。けど、お前らはわかんない。術式は進化するもんだから」

「え、そうなの?」

「そうだよ。……ねぇ、姉ちゃん?」

「ああ、要も7年前より遥かに術式の幅が広がってたからな」

「うん。……けど、まぁ進化というよりは『こんなことも出来るようになった』ってだけなんだけどね」

 

 そう言いながら、要は掌を上に向けて刻印を出す。その刻印は、最初こそ上を向いていたものの、やがて回転し、クルクルと回り始めた。

 

「ほー……」

「わっ……」

 

 その後に続き、さらに刻印は分裂する。大きさこそ小さくなったものの、2つに増えている。

 

「と、まぁこんな感じでやれる事は増える。そういう能力が身についたんじゃない。こういう事も出来るようになった、ってだけ。サッカーのリフティングだって、練習すれば首の後ろに乗せたり、足でボールの周りを回したり、頭の上で続けたりできるでしょ? それと一緒」

「な……なるほどね」

「だから、敵の呪詛師が術式を今より使いこなしていても不思議はないよ」

 

 要は要なりに色々と努力して、今くらい強くなった、と真希も改めて実感させられる。

 その上で、真希は要に声を掛ける。

 

「でも、要。お前ならなんとかなんだろ?」

「まぁね」

「なら、何とか出来んだろ」

「うん」

「それより、要。お前なら標的に近付けるんじゃねーのか? それなら、上手くやれば……」

「いやいや、むしろバレたら警戒されると思うよ。……ていうか、こんなゴーグル着けてたら、そもそもバレない気もするけど」

 

 それはそうだった。二人には見慣れた格好だが、そもそも高専の学生である事をバレないようにするために、当日は私服……いや、スーツで行くことだろう。尚更、要とは思われないかもしれない……。

 

「ていうか、やっぱりどう行くかだよね……? そもそも、参加してる人って基本的に呪詛師なんでしょ?」

「俺の術式で真上から叩き潰すのは無理だ。万が一、非術師を病院にでも送ったら、多分上から責任取らされる。この任務は厄介者の排除も考慮されてんだよ」

「あー……そっか」

「だから、潜入は大前提。派手なことはしないで、ターゲットとその取り巻きのみを叩いて捕獲」

「じゃあ……まずは潜入する所からかぁ」

「そういう事だな」

 

 真希がそう結論づけると、少し憂太は緊張したように冷や汗をかく。

 

「僕に……出来るのかなぁ」

「憂太、お前は難しく考えなくていい。潜入するにしても、先陣切るのは私か要だ」

「俺だよ。真希姉ちゃんに先陣切らせるわけないでしょ」

「……ほう? もうプランが出来てんのか?」

 

 要の言い草に、真希が意地悪そうに聞く。すると、要は頷いた。

 

「勿論。前日に俺が潜入して、ルーレット台に細工。次の日、姉ちゃんと乙骨が客として参入。俺が細工したルーレット台で荒稼ぎして運営に奥へ案内してもらい、上層部に接触。上の連中に呪術師を紹介してもらい、写真の男を暗殺と言ってさっきの写真を見せる。すると向こうは『詳しく聞こう』と言って個室に案内して、最後に本人を出すだろうから、乙骨に暴れさせる」

「要くんは?」

「前日の潜入で店員側の店を盗んで向こう側として常に二人を追っとくよ。最後は天井ぶち抜いて逃げる」

 

 それなら良いのかも……と、憂太が顎に手を当てた時だ。

 

「ダメだ」

「え?」

 

 拒否したのは真希だった。

 

「前日の単独潜入は許さねーよ。お前、一人で全部片付ける気だろ」

「っ……」

 

 ぎくっ、と要は肩を震わせた。

 

「……そ、そんなコトないヨ?」

「バカが……バレてんだよ。それやんなら、前日の潜入に私も行く」

「え、いや……」

「それが許可できねーんなら、その案は無しだ」

 

 すると、今度は真希が言った。

 

「やんなら、前日の潜入は無しだ。当日に全部済ます」

「いやいや、それは無理。多分だけど、こういうとこって絶対に真っ当なゲームじゃないし、この手の賭場は勝ち上がらないと上の人間に会えないし、まず無理だよ」

「要なら勝てるんじゃねーのか?」

「出来なくはないけど……片手じゃバレる可能性が高い。サングラスを解放すりゃバレないけど、向こうも俺の目を知ってるし、監視カメラから見られてたらその時点で警戒されて終わりだよ」

「んなもん、監視カメラの場所を把握しておきゃなんとでもなるだろ」

「その把握にはもっと詳しい施設の情報が必要になるでしょ。事前の潜入は絶対。で、そんな危険な所に姉ちゃんは連れて行かない」

「なんでだよ!」

「危ないからだよ! 姉ちゃん、ガサツだし絶対、潜入とか向かないでしょ!」

「ああ⁉︎ 生意気言ってんじゃねーよ! 元躯倶留隊なめんなよ⁉︎」

「え、あんなとこにいたの⁉︎ ただのごっこ遊びじゃん!」

「ふ、二人とも落ち着いて……」

 

 少しずつヒートアップしていったのを見て、慌てて憂太が間に入った。

 

「と、とりあえず……二人とも冷静になろうよ」

「っ……とにかく、要。やるなら三人で、だ。お前一人で任務を片付けることは許さねーよ」

 

 そんな二人の様子を見て、思わず憂太は冷や汗をかいた。この二人……任務になると相性が悪過ぎる。

 

 ×××

 

 夜中、真依は一人で修練場にきていた。射撃の練習である。要を守る為に、自分も強くならないといけない。

 本当は、呪術師なんてやりたく無かった真依だが、それでも弟の為なら強くならないといけない。

 そのためにも、少しでもトレーニングし、強くならないと……と、思っている中、スマホが震えた。真希からだ。

 珍しい……と、思いながら、真依は応答する。

 

「もしもし?」

『『真依(姉ちゃん)、この人なんとかして!』』

「…………は?」

 

 何急に? と、少しイラっとしながら応答する。というか、もう一人は要だろうか? 

 

「何言ってんのあんたら?」

『真希ねーちゃんは分かってないんだよ! 事前に潜入する事の危うさが!』

『こいつこそ一人で片付けんのがこっちにとってどれだけ不服か分かってねーんだよ!』

「ちょっと、頭から話しなさい。わけわからない」

 

 要点がないというか……そもそも真希に至っては頭悪くなった? ってくらいだ。

 さて、改めて話を聞いてみた。要するに一緒に任務に行くが、要は敵の本拠地に乗り込むのに一人で片付けたがっているが、真希はそれに同行するか、当日三人で行きたがっている。

 確実な方法は事前準備をした上で要のやり方を使う事だが、真希はそれについて行きたがっているらしい。

 まぁ、潜入なんて真依もやらないから気持ちは分からないでもないが……とりあえず真依が思ったことを言った。

 

「なら、事前に潜入する時、二人で行ったら良いじゃない」

『ほら見ろ!』

『ええっ、なんで?』

「なに、要。あんた真希を守り切る自覚がないわけ?」

『そうじゃないけど……建物のつくり的に、地下に行くには入り口は二箇所しかないし、もう片方は長く使われてない。細工した以上は少なくとも見てくれは何一つ代わりなく立ち去らないといけないし、一人の方が……』

「だから、あんた自信ないの? その辺諸々含めて」

『……』

 

 まぁ、自信の問題ではないのは分かるが、それよりもやはり気になるのは、真希と同じように要を想い続けてきた身として、色々と言うことがある。

 

「私と真希が呪術師になったのは、あんたのためっていつも言ってるでしょ。要を守る為。だから、任務に行くなら一緒に付き添いたいと思うのは当然でしょ?」

『で、でも……』

「せめてあんたが一人で敵を全部片付ける事ないって言うなら良いけど、そんな約束出来ないでしょあんた。多分、途中で面倒臭くなって営業時間まで待機して、来た直後にボコして持って帰ろうとするでしょ。多少、派手なことしてもあんた一人ならなんとかなるって踏んで」

『……まぁ』

「だから、真希は納得しないの。もう一度言うけど、私達はあんたの後ろで震えるために呪術師になったんじゃない、隣で戦うためになったんだからね?」

『う……』

「分かったら、ちゃんと受け入れて。どう動くのかは任せるけど、二人で協力できる作戦で行くように。分かった?」

『……はーい』

 

 ほんと、ちゃんと諭せば良い子なのだが……と、少しため息が漏れる。

 

『分かったか?』

『……うるさい』

「真希、あんたもちゃんと要に言うこと聞かせられないなら、こっちでその子引き取るわよ?」

『ダメだ』

「じゃあちゃんと姉らしくして」

『……ちっ』

 

 返事はないけど、その舌打ちがある意味では返事になっていた。分かっているなら良い。

 

「じゃあ、もう切るわよ?」

『あ、その前に真依姉ちゃん』

「はいはい、何?」

『今度は、三人で任務行こうね!』

「……はいはい」

 

 それだけ話して電話を切った。全く困ったものだ。この子もアホな姉も。まぁでも、元気そうで良かった。

 そう思いながら、とりあえずいつ要と同じミッションについても良いように、とりあえず鍛錬を続けた。

 

 




領域纏開の説明忘れてました。
領域展延という漏瑚達がやっていた奴の、さらに生徳術式が使える状態の領域です。
普通に無下限術式に触れられる上に、それに触れられる刻印を飛ばす事も可能なオリ主のオリジナルです。

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