私達は、狼煙をあげて信じて待っている。

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反撃の狼煙

 

 

 

「──リオレウス二頭確認!」

 

 物見やぐらから放たれる声、それと同時に飛来する二頭の飛竜──空の王者、リオレウス。

 里守達の眼下に広がる戦場は混沌を極めた様相を呈していた。雷狼竜、迅竜、蛮顎竜……どのモンスターも、生半可なハンターでは返り討ちに遭うような強力なモンスター達だ。

 そんな圧倒的な強者が揃い踏み、人里に向かって進軍する……そんな地獄のような話を聞いた時、或いは人はどんな恐怖を抱くのだろうか?

 

 災禍が群がる里──カムラの里は幾度も訪れるこの厄災をこう喩えた。

 

 

 

 

 百にものぼる竜達の行進──百竜夜行。

 

 

 

 

「大将どうする!?こっちのバリスタはそろそろ弾切れだ!」

「ハンターさんよ、こっちの大砲はまだいける!俺がジンオウガを受け持とうか!?」

「徹甲榴弾準備ヨシ!リオレウスいつでも狙えます!!」

 

 カムラの里を目指し幾度も進軍してくる百竜夜行を止める為の砦──翡葉の砦に飛び交う里守達の声。それは圧倒的な強者であるモンスター達を前にして怯え、死から遠ざかろうと逃げ惑う恐怖の声では無い。ハンターでも無いのに、里を守る為に堅牢な壁や門を作り、立ち向かう為に兵器を構え、ハンターと共に戦う勇敢な声だ。

 

「ジンオウガは俺が引き付けます!大砲隊は門に向かってるアンジャナフを撃ってください!弾切れしたバリスタ台は一度下げて大丈夫です、補給に回ってください!まだ弾が残ってるバリスタ隊はリオレウスお願いします!」

「合点承知!」

「補給が終わったらすぐ戻るぜ!」

 

 この混沌とした戦場で、里守達の指揮を取り、砦の設備をフルに使いつつも自らの腕で武器を振るう男こそが、カムラの里の猛き炎と称されるハンターである。彼は里守達に指示を出しながらバリスタ等の兵器が設置されている高台から飛び降り、超帯電状態となり雄叫びを上げるジンオウガに向かって翔蟲を放った。

 

「大将が出陣(で)るぞっ!!」

「大銅鑼鳴らせーっ!!」

 

 鉄蟲糸を手繰るように空中で一気に距離を詰め、そのままジンオウガがこちらに気が付く前に背中の太刀を抜く。着地すると同時に両手に感じる重みと疾翔けの勢いをそのままに一歩踏み出し、太刀を横一文字に振り抜いた。その一撃はジンオウガの堅牢な鱗を引き裂き、急速に接近するハンターに気が付くよりも先にその痛みと鮮血を認識させられる。無双の狩人は高台にある狩猟設備から目を離し、爛々と輝く瞳で標的をハンターに変えた。

 そしてそのままジンオウガは飛び上がり、ハンターを押し潰そうと全体重をかけて地面を抉るほどのプレスを繰り出す──と同時に、砦の中に凄まじい重低音が響き渡った。

 

「いくぞ、反撃の狼煙だ──っ!!」

 

 プレスをすんでのところで躱し、太刀を構え直すハンター。その四肢には力が漲り、視界もクリアになっていく。先程響き渡った音は大銅鑼──本来の用途はその轟音でモンスターを怯ませるものだが、カムラの里で使われる銅鑼は少し違う。里守らを大きく鼓舞する勇気の音色であると共に、圧倒的強者であるモンスター達に人間が反撃する合図となっている。この音色が響き渡ると同時に砦内には狼煙が焚かれ、それが里守、ハンター達に士気と勇気が与えられるのだ。

 軽くなった身体は思い描く通り……或いはそれ以上の動きで戦場を翔け、絶望的にすら見える巨大なモンスターの群れの中でも一縷の希望の焔を灯す。その焔が新たな反撃の狼煙となり、里守達も篝火の如く焔を灯していく。気焔万丈──正にこの反撃の狼煙は、その言葉を体現している。

 

「バリスタ隊、いくぞー!!」

「しっかり頭狙えよっ!」

「徹甲榴弾……()ぇぇぇぇぇっ!」

 

 高台から放たれる徹甲榴弾は、空から砦の防衛設備を攻撃せんとする二頭のリオレウスに向かって飛んでいく。里守達は普段からこのような戦闘、狩猟の訓練をしている訳では無い為、その射撃の精度も決して高いとは言えない。だが、それでも様々な方向から複数、一気に放たれる徹甲榴弾は、全弾命中とはいかずとも、しっかり数発はリオレウスの身体に命中させることが出来た。着弾と同時に爆発を起こし、火竜の鱗や皮膚が焦げる匂いがする。しかし、最大の狙いであった頭部には命中させることが出来なかった。

 

「もう一発だっ!!」

「今度こそ頭に当てるぞ!!」

「気焔万丈!いくぞ……()ぇぇぇぇぇっ!!」

 

 再度放たれる徹甲榴弾。今度も同じく、狙っているとは言えどもお世辞にも名手とは言えない射撃精度である。だがしかしそれでも下手なボウガンであっても数撃てば当たるもの──一発だけ、一頭のリオレウスの頭部に榴弾は命中し……爆発と共に空の王者を堕とすことに成功した。徹甲榴弾の爆発は凄まじく、相手が大型のモンスターであったとしても、その爆発を頭に受けるとその衝撃により脳が揺らされ、一時的に気絶させることが出来る。地に堕ちたリオレウスはしばらく満足に立ち上がることも叶わず、地に伏し這い蹲ることしか許されない。

 だが──空の王者はもう一頭いた。

 

「ブレス来るぞっ!」

「退避ーっ!バリスタは最悪破壊されてもいい!死ぬな!!!」

 

 流石にバリスタ隊に苛立ちを覚えたか、空から飛来する火球。それは未だ天に君臨する火竜が、「火竜」と呼ばれる所以の炎のブレスである。当然、そんなものを人間が受けたら死は免れない。里守達は蜘蛛の子を散らすように走り回り、その火球から身を守ることだけを第一に考えた。どう足掻いたとしても、生身ではモンスターの前では圧倒的な弱者なのだ。

 

「何基残った!?」

「一基は完全にイッた!他はまだ使える!!」

「一基で済んだなら儲けだ、残り使ってあいつも堕とすぞ!」

「合点!」

 

 ─それでも、圧倒的弱者であったとしても、それが戦いを止める理由にはならない。圧倒的弱者が弱者のまま食い尽くされるのみならば、彼ら里守の愛する人も、大切な仲間も、皆無惨に食い尽くされるしかないのだから。

 

「アンジャナフ、止まる気がしねえ!」

「狼狽えるな、もう一発装填しろ!まだ大物も見えてねえ、最終防衛ラインの前で止めるぞ!」

「押し返さなくていい、ハンターの大将が来るまで粘れ!」

 

 自らの強靭な身体に傷をつける防衛設備にも、強者であるはずのモンスターに武器を持って挑む狩人にも、勇気の儘に戦う里守達にも取り合わず、ただひたすら村の方向へ進軍を続けようとするアンジャナフ。その進軍は大砲だけでそう簡単に止まるものでは無かった。

 通常の砲弾に加え、電撃弾まで装填し、撃ち放っているにも関わらず、その足が止まることは少ない。木で作られた強靭な柵をその巨躯で破壊せんと歩みを続ける。

 

 ──しかし、反撃の狼煙はそう簡単にカムラの敗北を認めない。

 

 

「伝令っ!ヒノエ、ミノト姉妹の出陣準備が整いましたッ!!」

「ホントか!?」

「ありがてぇ……!」

 

 

 竜族の娘であり、カムラの里の猛者である姉妹、ヒノエとミノト。彼女らが戦場に舞い降りる準備が整ったのだ。ハンターに負けずとも劣らないその強さは、戦況をひっくり返す可能性すら秘めている。

 

 ──斯くして兵器等が格納、せり出される仕込み床の扉は開き、拍子木の音と共に猛者は姿を見せる。

 

 

「ヒノエ、ミノト──出陣です!!!」

 

 

「我ら姉妹、加勢致します!」

「災禍を……祓うっ!!」

 

 弓とランスを構えた竜族の麗しき二人の女性が混沌とした戦場に現れる。それは里守達に取っては戦乙女であり、或いは救いの女神のようにすら見えた。

 

「皆さん、状況を!」

「おう、ジンオウガは大将が戦ってる!リオレウスは一頭が気絶、もう一頭はまだ空にいる!あとはアンジャナフの足が中々止まらねえ!」

「解りました。リオレウスは私が撃ち落としましょう、ミノトはアンジャナフを!」

「かしこまりました、姉様!」

 

 ヒノエは空を舞うリオレウスより更に上空を狙って弓を引き絞り……そして天に向かって勢い良く矢を放った。天を裂く星となった矢は──無数の流星となって雨のようにリオレウスに降り注ぐ。

 リオレウスは突如天から降り注ぐ矢の雨を躱すことは出来ず、背中、翼膜に幾つもの傷を負うこととなった。そうなると当然ながらブレスを吐く余裕も、バリスタ台を攻撃することも叶わない。そしてそのブレス等の攻撃が止めば……再度下からの火力も復活する。

 

「ヒノエちゃんの矢だ!」

「今なら俺達ももう一度撃てるな!?」

「しかも矢のおかげで動きが止まった、絶対頭に当てろよ──()ぇぇぇぇぇっ!!」

 

 天から、そして地からの挟み撃ち。流石の空の王者もこれほど一気にダメージを受けることは想定外だったか、身をよじるように叫びながら明後日の方向へと撤退していく。そうなれば残るリオレウスは地に堕とされ、気絶している一頭のみだ。

 

 ミノトはランスを構えたまま進軍するアンジャナフに向かって突撃する。その速度はとても女性が大きな武器を構えたまま出せる速度では無い。或いはハンター顔負けの身体能力は、正に里の猛者と呼んで問題無いだろう。だが、ミノトが「猛者」と呼ばれている所以はその先にある──。

 

「やぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 その速度そのままにミノトは勢い良くランスをアンジャナフに向かって突き出した。そのスピード、威力は常人の予想、理解を遥かに超えるものとなる。一瞬の空気の歪み、その速度による風圧、そして回転。まるで衝撃波と言わんばかりの圧力と刺突がアンジャナフを襲った。或いは龍歴院で「狩技」と呼ばれる一撃にも似たその一撃は、大砲の砲撃を上回るやもしれない破壊力。その証拠に、大砲の砲撃でも後退しなかったアンジャナフの足が後ろに一歩踏み出させられた。

 

「ミノトか!?」

「助かるっ!」

「お前らボヤボヤするな!!今がチャンスだ、ぶっぱなせー!!」

 

 後退したアンジャナフに追い討ちを掛ける、大砲の電撃弾。一度体制を崩し、後ずさってしまった巨躯はそう簡単に姿勢を戻すことが出来るはずも無く、更にアンジャナフを後退させることに成功する。二歩、三歩……そうして後退した先には、ミノトのランスよりも遥かに強靭な槍が待ち構えていた。

 

 

「そこだっ!!放てっ!!!」

 

 

 勢い良く飛び出した特大の鉄槍。先程のミノトの刺突、回転とは比べ物にならない威力と轟音。人間が手に持つことは叶わない、驚異的なサイズ。其れは武器と呼ぶには余りにも禍々しい、紛れもない「兵器」。撃龍槍──その名の通り、龍を撃つ為に造られた槍。

 撃龍槍はアンジャナフを確実に捉え、その鋼鉄が鱗を、肉を抉り取る。そのダメージは凄まじく、大痛手を負ったアンジャナフが、これ以上の進軍が許される筈もない。抉り取られた腹を庇うように足を引き摺り、前に進むことを諦めた。

 

「一気に押し返したぞっ!」

「流石ヒノエとミノトだ!」

「このまま乗り切るぞーっ!!」

 

 反撃の狼煙、そして猛者である姉妹の参戦。更にヒノエはバリスタ隊と協力し気絶していたリオレウスも砦から退場させる。

 

「私達はこれで引きます」

「皆様、ご武運を!」

 

 これで現在砦に残っているのはハンターと攻防を繰り広げるジンオウガのみ。このジンオウガさえ退かせることが出来れば────

 

 

 

「──物見やぐらより砦の里守へ!!大物が見えたっ!あれは……タマミツネだっ!!!」

 

 

 

 物見やぐらから放たれた声。それはこの百竜夜行に於いて一際大きな脅威となる存在──大物の襲来を知らせる声。通常のモンスターよりも大きな身体を持ち、その分体力も破壊力も増した文字通りの大物。これから迫り来るタマミツネを押し返せなければ……カムラの里に平穏は訪れない。

 

「来やがったか……!」

「もうひと踏ん張りだっ!!やるぞお前ら!」

「大将がジンオウガを狩るまでは俺らで相手をするぞっ!!」

 

 バリスタ隊、大砲隊が揃って迫り来るであろうタマミツネをいつでも砲撃出来るように構える。砦の入口にはししおどしが作動すれば起爆する竹爆弾も用意されている。その爆弾が起動した瞬間が──或いは一斉砲撃の合図だろう。身体が大きければ大きい程、狙わずとも当たるものだ。そういった意味では、この大物を里守が相手をするのは間違った選択では無いとも言える。

 

 やがて現れる泡狐竜。その身体はやはり通常のサイズと比べても遥かに大きく、その姿を見ただけで少なからず畏怖の念を抱いてしまう程の存在感があった。然れど、そんなものを理由に逃げ出す訳にはいかない。これまで何度も何度も、このような大物を相手に里守達は戦ってきたのだ。

 タマミツネは砦を、兵器を、里守達を視認するや否や──滑液を使い一気に速度を上げる。しかしその巨体が邪魔だったか、或いはそもそも気にしてすらいなかったのか……地面に設置されている竹爆弾には一切きがつかず、その振動のままに起動させた。

 瞬間、訪れる大きな爆音。それが里守達の──攻撃の合図となる。

 

「今だっ!」

「バリスタ隊、大砲隊!()ぇぇぇぇぇっ!!!」

「全部当てちまえっ!!!」

「あいつには電撃弾が効く!!大砲隊、絶対外すなよ!!!」

 

 嵐のように撃ち込まれる砲撃、射撃。弾幕となったその爆撃はタマミツネに悉く命中し、凄まじい爆音と煙の匂いが辺りに充満した。

 

「やったか!?」

「バカ、相手は大物だ!これくらいで退く訳がねえ!」

 

 里守達の予測は正しく、煙の中から現れたタマミツネの身体は傷こそついていれども、まだまだ余裕と言わんばかりに爛々と輝いていた。或いは、大物ではない普通のタマミツネが相手だったなら。今の一斉砲撃で大きな痛手を与えることが出来たかもしれない。里守達は冷や汗をかきながらも、次弾の装填準備を整える──その時。

 

 

「破龍砲の準備をお願いします!俺が「コイツ」と一緒にあのタマミツネと戦います、その間に準備を!空いてる人は射撃でサポートをお願いします!!」

 

 

 里守達の耳に届いたのは、先程までジンオウガと戦っていた、大将ことハンターの声。その声は──一直線にタマミツネへと駆け出したジンオウガの「背中」から聞こえてきた。

 鉄蟲糸を使い、空中からモンスターを攻撃し、怯んだ隙に鉄蟲糸をモンスターに張り巡らせ、一時的にモンスターの動きを支配する技術、操竜。今のハンターは、ジンオウガに痛手を負わせ退く直前に鉄蟲糸を張り巡らせ、ジンオウガの動きを支配したのだ。

 そしてジンオウガの動き、ジンオウガの巨躯、ジンオウガの攻撃能力を使い、タマミツネと戦おうとしている。強者が相手なら、こちらも強者を乗りこなせばいい。

 

 鉄蟲糸を勢い良く引っ張ると同時にジンオウガは飛び上がり、その巨体でタマミツネにプレスを仕掛ける。しかしタマミツネはジンオウガが飛び上がると同時に滑液で地面を滑り、そのプレスをいとも容易く躱してしまった──が、ハンターはその回避を読んでいた。すぐさま糸を巧みに操り、タマミツネが逃げた方向にジンオウガを走らせる。そして前脚でタマミツネの腹部を勢い良く殴りつけた。タマミツネは電撃の属性を持つ攻撃に弱い。そしてジンオウガは雷狼竜の異名を持つ通り、雷を纏った攻撃が得意である。体躯、体力、攻撃力、全てが大物に分があるが、相性は明らかにジンオウガの方に分がある。

 怯んだタマミツネにタックルを仕掛け、更に後ろに退かせた所に一回転して尻尾を叩きつける。更に鉄蟲糸を引っ張り、そのままもつれ込むようにタマミツネに猛攻を仕掛けていく。無論、ジンオウガの動きをコントロールするだけでなく、ハンター自身が振り落とされないようにするのも体力勝負だ。操竜はそういった意味でも長時間行うことは不可能である。ハンターはこれで最後と言わんばかりに、凄まじいパワーで鉄蟲糸を引っ張った。

 ジンオウガはその糸に呼応するかのように、畳み掛けるようにタマミツネに尻尾、前脚、全身を使って幾度も攻撃を仕掛ける。そして最後に勢いよく全身をひねって飛び上がり、尻尾の遠心力でタマミツネの巨体を吹き飛ばした。

 同時にハンターはジンオウガから投げ出され、糸の支配から開放されたジンオウガは身体の限界が近いのか、砦から一目散に逃げていく。これで砦の中に残ったモンスターは大物のタマミツネのみ。物見やぐらから新たなモンスターが確認された、という伝令も無い。それはつまり──

 

 

「ここだっ!!破龍砲、撃ち方用意!!!」

 

 

 このタマミツネさえ押し返すことが出来れば、一先ず全てのモンスターを押し返すことが出来る、ということ。

 

 里守達が起動したのは、バリスタや大砲の数倍は大きい文字通りの「大砲」、破龍砲。撃龍槍と同じく、その名の通り龍を破壊する為に存在する砲台である。当然撃ち出される砲弾も大きく、里守が使うには発射角度を調整する役と、着弾地点を予測する観測者が必要となる。弾速も速くない為、当てるにはモンスターの動きを止めるか、或いはモンスターの動きをかなり高い精度で読み切る必要がある、ハイリスクハイリターンな設備だ。

 だがしかし、今はジンオウガの猛攻によりタマミツネの動きは止まっている。撃つなら──それは今しかない。

 

 

「決めるぞっ!!破龍砲……()ぇぇぇぇぇっ!!」

「応っ!気焔万丈っ!!!」

 

 

 ボンッ、という射出音と共に発射される破龍砲。天高く砲弾は舞い上がり──そのまま一直線に動きを止めたタマミツネに着弾し…………

 

 

 

 

 刹那、耳が弾け飛ぶような爆音が、熱気を伴う爆風が、砦中を駆け巡った。

 

 

 

 

 

「──着っ───認!ちゃん────ったの──!?」

「目ひょ───中!」

「───メージ─────あとは──ですっ!!」

 

 

 

 その爆音は凄まじく、里守達の声も熱風と轟音にかき消される。互いの状況確認もままならず、ただ暴力的な熱量が過ぎ去るのを待つしかない。それでも、里守達はある種の確信を持っていた──必ず命中した、と。

 

 

 

「──着弾確認!命中してます!!」

「よぉくやった!!!」

「しかし──大物タマミツネ、未だ健在っ!!」

「ぁんだとぉ!?」

「流石に大物か……!」

 

 

 爆風も収まり、吹き荒れる塵芥が晴れたそこにいたのは──鱗が剥げ、明らかに大きなダメージを受けているが、それでも尚目の輝きは失わず、未だその生命力、存在感を放ち続けるタマミツネだった。圧倒的な強さ、生命。どれほど工夫を凝らし、文明の力により生み出された兵器であったとしても、そう簡単に弱者と強者の差が埋まる筈も無い。

 だがしかし──それしきで里守の、ハンターの気焔の灯火が消えるほど、カムラの里は弱くない。

 

 

「怯むなっ!!俺が正面からいきます、援護をっ!!」

 

 

 やはり先陣を切ったのは砦の大将であるハンターだった。太刀を抜き、破龍砲により凸凹が生まれた大地を踏み締めて一気にタマミツネとの距離を詰める。

 

 

「──任せろっ!バリスタ隊、大砲隊!大将に当てるなよ、援護の用意だ!」

「合点!」

「気焔万丈!今までだって何回もこんな大物退けてきたんだ、今回だっていける!!」

「おうよ!!」

 

 

 巨大な爪を掻い潜り、色鮮やかな腹部を斬り付ける。そのまま返す刀でもう一撃……といきたかったが、斬撃を意にも介さずハンターを推し潰そうとしている動きが見えたので、すぐさま後ろに退き、すんでのところで巨体を躱す。一度距離を取り、汗を拭いながらタマミツネの動きを注視する──感覚が研ぎ澄まされていく。鱗、体毛の一つ一つの動きが全て見えているような。まるでほんの少し先が見えるような。それは自身の集中力が為せる業なのか、或いは──

 

「今だっ撃て!!」

「ここを乗り切れば一先ず波は乗り越えるんだ、全力で行くぞっ!!」

 

 或いは、里守達の士気が上がっていることが原因か。ハンターは気付いてすらいなかったが、二度目の反撃の狼煙があがり、砦中を包み込んでいた。四肢に力が漲り、圧倒的な強者を前にしても一切の恐怖を感じない。いつ動けば確実に斬れるか、そのタイミングすら感じ取れる気がしていた。まだ、まだ…………

 

 ────バリスタの弾がタマミツネに命中した瞬間と、ハンターが走り出した瞬間はほぼ同時だった。鉄蟲糸で飛び上がり、天空からタマミツネの脳天に向かって刃を振り下ろす。着地と同時に横一文字に太刀を振り抜き、足を入れ替えて更にもう一撃を加える。タマミツネは滑液で地面を勢いよく滑って距離を取り、辺り一帯に泡を撒き散らす。空を揺蕩う泡の群れは凡そ戦場には似つかわしくないが、少しでも触れると滑液が全身を覆い、思い通りに走ることすら叶わなくなる脅威の泡だ。ハンターの動きも自然と慎重なものとなり、静寂の時間がほんの少し過ぎていく──が、当然ながらそんな時間が一秒以上も続く筈も無く。今度はタマミツネの方からハンターへと突撃していく。その速度、質量。全てが「直撃すれば致命傷は免れない」ということを物語っている。

 しかしハンターの集中力はその一直線な突撃を無防備に受けるほど散漫なものでは無い。すぐさま大きく横に跳んでそれを躱し、反撃の一撃を入れようと一歩……踏み込もうとするもタマミツネの不規則な追撃を躱すべく動かしていた身体を攻撃の一歩から回避の一歩へと入れ替える。足を、思考を、腕を、身体を動かし続けることを止めてはいけない。それが即ち自らの命を繋ぎ続けていることの証であり、それを止めた瞬間が命が止まる瞬間なのだから。

 

 一進一退の攻防は続く。タマミツネもジンオウガの連撃に加えて破龍砲も受け、そのままハンターを屠る為に動き続けているのだ、既に相当の体力は使っている筈である。だがそれでも、ハンターは押し切る一手を打てずにいた。一歩でも欲を出せば、その瞬間に死が訪れるから。一歩だけでいい、一歩だけ踏み込めるだけの隙さえあれば……!!

 

 

()ぇぇぇぇぇっ!!」

 

 

 ──その隙は、突然訪れた。放たれたバリスタ。其れはタマミツネの頭部に命中し……タマミツネはその勢いに圧されてか大きく仰け反った。それはハンターが一歩前に踏み込むには十分過ぎる、明確な「隙」だ。

 装填数も少なく、ここぞというタイミングでしか使用出来ないバリスタの弾──後退弾。モンスターに命中すると文字通り後退させることが出来る特殊な弾である。里守が放ったのはこの後退弾。まさに今、「ここぞ」というタイミングでそれはタマミツネに命中し、集中力が最高潮に達したハンターの「ここぞ」を生み出した。

 

 ハンターは攻勢の為に一歩踏み出し……高まり切った集中力を練り切った気合いとして刃に乗せ、凄まじい勢いで太刀を振り抜く。斬り下ろし、斬り上げ、横一文字に薙ぎ、縦一文字に振り下ろし……そして大きく腰を捻り、更にもう一歩踏み込み、大回転した勢いそのままにタマミツネを斬り伏せた。太刀使いの集中力が最高潮に達した時のみ使用出来る必殺の斬撃、気刃斬り。その連続攻撃は凄まじい威力を誇り、連撃の締めとなる大回転斬りは文字通り「必殺」となる。

 最後の一押しを最高の形で決めたハンター。やがて大物のタマミツネはこのまま進軍すると自らの死が迫り来ることを察知し……生を手放すまいとその場を退く選択を取った。

 

 

「大物タマミツネ……撤退!!」

「俺達の勝ちだーッ!!!」

「おおおおおお!!!」

 

 

 勝鬨をあげる里守達。砦の中では怪我人や設備の損傷等があれど、カムラの里に被害は及んでいない。疑いようも無く、人間達の勝利と言って良いだろう。

 だが同時に、里守達も、ハンターも一切の油断をしていなかった。理由は至極単純──一つの波は乗り切ったが、これで百竜夜行が「終わりでは無い」のだから。

 

 

「物見やぐらより全員に!未だ「ヌシ」の姿はここからは確認できません!弾の補給等終わりましたら、一度キャンプに戻って休んでてください!」

「ありがとな!交代の時間になったら呼んでくれよ」

 

 

 そう、言うならば百竜夜行の「総大将」とも言える存在、ヌシの姿がまだ見えていない。大物のモンスターよりも遥かに脅威であるヌシを倒すまで、百竜夜行は終わらないのだ。

 この束の間の休息も、何時まで続くのかは解らない。そして休息が終わったその時には……先程の戦いとは比にならない過酷な防衛戦が始まるのだろう。

 

 

 

 

 

 

 〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 砦のキャンプでは、食料や設備の弾薬の補給が行われていた。これらの作業を行うのは前線に出て戦う里守では無い。彼等が無事に帰ってくるのを待つ、戦うことが出来ない里の民達である。

 

「……あんた達は凄いよ。あたし達はどうしてもあんなモンスター達と戦うのが怖い」

「んな事ねえよ、誰かがやらなきゃいけないからな。大将もいる、フゲン様だっているんだ、里を守る為に頑張ってるだけだよ」

 

「……ありがとね。でも…………絶対帰ってきてね。あたし達「待ち人」が一番怖いのは……モンスターじゃなくて、あんた達が帰ってこないことなんだから」

 

「……ああ、約束する」

 

 

 

「物見やぐらより全員に!!モンスターの影を確認!巨大なリオレウス……ヌシです!ヌシのリオレウスですっ!!!」

 

 

 

 砦中に響き渡る声。それは休息が終わり、苛烈な死闘が始まる合図である。待ち人の祈りは果たして届くかどうか、それは天の主すら知る由もないかもしれない。待ち人はただ、信じて待つことしか許されない。ならば──

 

 

 

 

 ────ならば、私達は狼煙をあげよう。三度目の狼煙を、私達であげよう。必ず帰ってくることを信じて、道標として。次はきっと私達以外の誰かがあげてくれるから。聖夜が終わるまで、ずっと焔を灯し続けよう。百竜を狩り続けた貴方達がいつでも帰ってこれるように、私達で反撃の狼煙をあげ続けよう。太陽が隠れてしまう頃には、きっと帰ってくることが出来るように。

 

 

 私達は信じて待っているから。

 

 

 

 

 


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