Fate/Viridian of Vampire   作:一般フェアリー

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会合前日

「冬の女王――――モルガン・ル・フェに話し合いの場を設けるよう申しつけた上で、会わせていただけないでしょうか?」

 

 

「――――――――」

 

 

「え、えぇっ…!?バ、バーヴァン・シーさん!?」

 

「おいおいマジかよ…」

 

「ちょ、バーヴァン・シーくん?君は何を言ってるのかな??」

 

「…命知らずもいいとこですね……」

 

「あらまぁ、随分と勇気があること」

 

バーヴァン・シーがランスロットに要求したお願いに各々が動揺を見せる。

無理もない。何を言うかと思えば恐れ多くもこの国全てを支配せし偉大なる女王に対して謁見をさせるよう手を回してほしいと述べたのだから。

 

「…ふぅん。大抵は叶えてあげる、とは言ったけど…君、それ冗談で言ってるわけではないよね?」

 

ランスロットの疑問は最もだ。女王モルガンと言えば『私は妖精(おまえたち)を救わぬ。私は妖精(おまえたち)を許さぬ』と隠すことなく公言するほどの妖精嫌いであり、その徹底ぶりは愛娘の手によって臣下が目の前で虐殺されようと眉一つ動かさず、同情の欠片も沸くことはない。

 

それどころか『存在税』という年に一度の頻度で令呪を刻んだ妖精たちから魔力を一定量だけ強制徴収し、その基準値より魔力不足だった妖精はそのまま生命力を吸い尽くされて死んでしまうという、まさに養分としてしか見ていない政策を長きに渡って立ててまでいるのだ。

 

「無論、私は本気で言っています。モルガン陛下が妖精嫌いなのはこれまでの成り行きで知りました。だからこそ直接会って話し、彼女がどういう人柄なのかをこの目で見て肌で感じたいと思った次第です」

 

実際、彼女はモルガンに接触したい理由として後ろ楯になってもらうべくパイプを繋ごうと考えていただけでなく、純粋に彼の魔女の性格や雰囲気を知りたかったのである。

そもそもの世界が違う以上、己の知っている魔女とは似てはいたとしても同じではない筈。

であるならば、コネを結ぶ上で必要な友好関係を築ける可能性も物凄く低いだろうがゼロでもないだろう。

 

「なるほどね、割とまともな理由だ。けど、ただ陛下の人となりを知りたいってだけでは態々謁見をする上で今一つ弱いよ?」

 

ランスロットは彼女の言い分をそれなりに認めながらも、しかしそれだけでは叶えるに値しないと暗に返す。

当たり前と言えば当たり前だ、モルガンは國を治めている立場である故に毎日が激務の嵐に晒されている。

 

そんな中で“どんな人物か直接見たい”などと他愛もない理由で謁見に時間を割こうものなら、今頃ブリテン中の妖精たちが玉座の間に殺到していても可笑しくはない。

 

「でしょうね。勿論、他にも理由がございます。モルガン陛下と接することで彼女と関係を築いておくことで、後ろ楯になってもらいたいのです」

 

「後ろ楯……つまり庇護を受けたいと?」

 

「はい。我々四翅は見ての通りか弱く、モース一匹倒すのがやっとです。なので何かしらの脅威に襲われる、或いはそれによって起こる被害に巻き込まれたりすれば一溜りもありません」

 

話を真摯に聞いてもらうべく、まずは自分たちが弱者であることを強調し、相手に認識してもらう。

実際彼女らは決して強くはなく、全員で連携を取っても妖精騎士は言わずもがな書記官のメルディック相手でも成す術なく蹂躙される程度で、掠り傷を付けられたらのならそれでも大金星なのだ。

 

「だからと言って中途半端に上の立場の者に守ってもらっても心配が拭えないのもまた事実、ならいっそのこと話を蹴られる可能性を覚悟で一番強い上位者―――即ちモルガン陛下のところへ行き、事が上手くいけばそのまま庇護の恩恵を受けたいと考えた次第にございます」

 

おぞましいモースに気持ち悪い悪妖精、その他魔獣や自然災害、権力・民権・派閥争いなどから起こりえるであろう戦争。

 

これらの災難から自身を、何より“大切な仲間たち”を守り抜く為にも女王に庇護を求めた方が、賭けであると同時に現状で出来る一番の最善手だとバーヴァン・シーは考えていた。

 

「それに、私は違う世界の存在なれど今はこの地に立っている―――例えるなら他人の家に気がついたら不法侵入しているも同然です。であればその家の主に在住許可を貰う、そうでなくても形はどうあれその場に踏み入ってしまったならば、せめてもの責任として顔を合わせに向かうのは当然でしょう?」

 

(たとえ)世界(げんじつ)。規模こそ違えど彼女にとってはそれが意図せぬものであろうが、ずけずけと不法侵入をしてしまっていることに変わりは無い。

 

なればこそ其処の主に顔を見せに行き、しっかりと向き合って話すことが最低限の誠意だと彼女は定義している。

 

「更に言うと…私の元居た世界の遥か東方ではこう言う言葉が存じます―――『郷に入っては郷に従え』。つまり私にとって何もかもが未知のこの地でこの子たちを守るにはモルガン陛下に下手に逆らわず、友好関係を築く方が上手に生きていけるとも思ったからです」

 

此処妖精國ブリテンにおける絶対的なルールがモルガンなら、そのモルガンに敢えて潔く従うことで身の安全保証を確固たるものにするという算段だ。

 

(ま、本音を言うなら先手を打ってモルガンに顔を覚えてもらえればそれでいいんだけどね。何かのキッカケで私たちの存在を不快に思われるのだけは避けたいし…)

 

「以上が私がモルガン陛下に謁見を要求する理由です。どうでしょうランスロット殿、聞き入れてくださいますか?」

 

「……なるほど、君が陛下に謁見を開かせたい理由はよくわかった。つまり陛下が人となりに純粋な興味があるだけじゃなく、別の世界の者として面と向かって話し合うべきなのと、あわよくばそのまま庇護を受けたい…と考えているんだね?」

 

「はい、まとめるとその通りです。庇護の件を蹴られたら蹴られたで別に構いませんし、最悪モルガン陛下に顔を覚えてもらえさえすれば十分です。それで後々私たちの活動を聞かれたら今度は陛下の方からお声を掛けてこられるやもしれませんからね」

 

「へぇ、一応上手くいかなかった場合も考えてるんだね。……ふーん………」

 

ランスロットは少し悩む様な仕草をしたが、そう間を置かずに切り替えて答えを出す。

 

「―――いいだろう。今からの二週間で住民たちの印象を良くできたら、君のその恐れ知らずなお願いを叶えてあげるべく僕から陛下に謁見の申請を出してみるよ」

 

果たして、ランスロットが出した答えは耳を傾けて協力することであった。

二週間に渡る試験で上手く合格できたらの話ではあるが。

 

「―――ありがとうございます。それではこの二週間、精々誠心誠意持って印象改善に努めさせてもらいます」

 

ランスロットの答えに感謝し、深々と頭を下げるバーヴァン・シー。どうやら一先ずはこちらを信用してくれた様で彼女は安堵した。

 

「…話は決まったようですね。ではオーロラ様、如何なされます?」

 

「ええ、私としてもいいと思うわ。何より私の王子様の素晴らしい考えだもの!悪いものであるはずがないし、よってソールズベリーの長としてその案の遂行を許可するわ!」

 

少しは考えるかと思いきやあっさりと許可したオーロラ。只でさえ口と内心で同じ言葉を発しているという理解し難い思考をしていることもあって彼女の奥底の思惑が全く想像できないが、兎にも角にもこれで当分の目標は決まった。

 

(まずはこの二週間を必死こいて頑張ること。そしていざモルガンと話すことになったらその際は取り繕うことなくありのままを言うこと。向こうも妖精眼を持っている以上嘘なんか通用しないしできないしね。ま、元より嘘をつくつもりなんてさらさら無いけど)

 

自分が今やるべきことを確認し、バーヴァン・シーはスイッチを切り替えた。

 

 

「よーし、まずは二週間頑張っていこうじゃないの!」

 

「うん、その意気だ。僕もやる気のある者は好きだよ」

 

 

 

「――――いや、なんか勝手に話が決まった感じになってますけど私たち途中から置いてけぼりなんですがぁ!?」

 

 

 

「あ。」

 

 

 

今の今まで空気を読んで黙っていたホープがここぞとばかりに声を張り上げて突っ込み、それにしまったと顔を強張らせるバーヴァン・シー。

 

「おう、妖精(なかま)の意見を挟まずにどんどん話を進めるのはどうかと思うぞバーヴァンシー」

 

「何?本気で女王陛下に会いに行くつもりなのかい?まさか私たちもその場に参列する感じ?いやいや折角皆に助けてもらったこの命を早々に散らしたくないのだが??」

 

「はは、心配には及ぶことは無いと思うよハロバロミア。仮にも陛下の愛娘と同じ姿で、且つこのように礼儀正しく正直な性格だし話自体は通してくれるんじゃないかな?……まぁ、あの意識(プライド)の高いロートルは突っ掛かってくるだろうけど」

 

呆れるドーガに全力で拒否するハロバロミア。

それに対し大丈夫と言いつつも不安要素を口にするランスロット。

 

 

こうしてランスロットを監督とする、彼女ら四翅による二週間に及ぶ住民の不安改善活動が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈

 

 

 

 

そこからの二週間はまさに珍道中だった。

 

「では今よりオーロラ様の命によって皆様の足代わりとして働くことになった、美しき草食獣ことレッドラビットです。以後お見知り置きを。ところで何方か人参をお持ちですか?ブルルン!」

 

「――――――なんて?」

 

「えぇ、と……馬…妖、精……??」

 

「あぁ~…そういえばこんな妖精も居たような。…いや本当に居たか…?」

 

「ハハハ、随分と面白ぇ奴じゃねぇか!よろしく頼むぜ!」

(知らない知らない、オレはこんなワケのわからん牙は知らない…いやマジでなんだコレ??)

 

まず移動用の妖精馬が…馬?かどうかは議論の余地があるとして、とにかくハイテンションで何かがおかしかった。

 

 

だがこんなものはまだ序の口で――――――。

 

 

「いや、町から少し離れた丘に巨大なモースがいるから何とかしてこいって言われたけどっ!思ったよりデカい上に取り巻きもいるなんて聞いてなぁぁぁいっ!!」

 

10mほどの一個体に8匹程度のモースの群れと闘いながら追われたり。

 

「あの、畑の手伝いをしてほしいと頼まれたはいいけどさ…何で作物が襲いかかって来るワケ……?」

 

大地から得られる神秘を水分と共に自然吸収した結果、なぜか独りでに動き出してこちらに攻撃を仕掛けてきた作物を狩る羽目になったり。

 

AgjmtpdmT(こんにちは)AgjmtpdmT(こんにちは)

 

Mptgjtdnwmtmg(あなたたちはだれ)Dmtjmph(どこからきたの)Dmtjmph(どこからきたの)

 

「ちょ、ちょっと!まとわりつかないでちょうだい!別に悪いことは何もしていな…ひぁ!?」

 

採集の依頼でウェールズの森で特産品を探してる中、興味津々で寄ってきた虫妖精たちに集られたり。

 

「うぅ…本当にどうなってんのよこの世界のブリテンは…」

 

他にもグロスターとか言う町で期間限定の衣服を買ってきたりオックスフォードのレストランで名物の料理を持ち帰ったりと、ブリテン中を彼方此方と走り回ってる内にあっという間に期限である二週間後の朝を迎えた。

 

 

「やぁ皆、この二週間ご苦労様!君たちの活動のおかげでソールズベリーどころか他の町でもちょっとした評判になっているよ!」

 

ランスロットが一行に労いの言葉をかける。

この二週間、彼女らの献身的な行動と誠実な態度もあってソールズベリーの住民間では『見た目が同じなだけでとても人のいいトリスタンとその愉快な仲間たち』と見事に当初の不安が覆っていた。

それのみならず罪都キャメロット以外のグロスターを始めとした各地で『悪辣さと醜さの無いトリスタンの様な妖精がいる』とちょっとした噂話にすらなっていた。

 

「皆様、大変お疲れ様でございました!私としても誠心誠意足代わりとして働き終えた達成感でこの麗しの髪がオーバーヒートを起こして紅に燃え上がりそうです!ヒヒィィイィイイィン!!」

 

「うん、君はちょっと黙っててね」

 

ランスロットに呆気なく一蹴され空いた口が塞がらないレッドラビットだったが、バーヴァン・シーらにとってもランスロットに全面同意だった。仕方ないね。

 

「気を取り直すよ。それで、こうして君たちは良い結果を出せたわけだし当初の約束通り陛下に件の話を申し出てみるけど…他三翅のお願いをまだ聞いてなかったよね。何か望みはあるかい?」

 

するとまず口を開いたのはホープだった。

 

「わ、私はバーヴァン・シーさんと一緒に入られればそれで構いませんが…前にワイン酒を美味しそうに飲んでいらしたのでそれをお願いします」

 

彼女に続いてドーガとハロバロミアも各々のお願いを申し出る。

 

「オレは…そうだな。ホープにネックレスみたいな装飾品を与えてやってほしい。ほらこいつ、風の氏族みたいな見た目にしちゃ些か地味だろう?だから綺麗な物を一つぐらいは着けて“雰囲気(らしさ)”を出してやるべきだよなと思ったんでな」

 

「…ドーガさん……」

 

「私はホープくんにドレスを贈ってほしいです。出来ればバーヴァン・シーくんの着ているそれとお揃いになる様に近いデザインを。実のところ彼女、バーヴァン・シーくんに若干お熱を出してるようですしね」

 

「なっ…ハハ、ハロバロミアさん!?」

 

ハロバロミアからの思わぬ爆弾発言に顔を赤らめ激しく動揺するホープ。

その光景を愉しそう…もとい、楽しそうに見入るバーヴァン・シー。

 

「あらあらぁ?ふーん、ふぅん?可愛いじゃないの」

 

「まぁ、その手に疎いオレでも割と好いてんのが丸わかりだったからな」

 

対してドーガは冷静に暴露する。

更なる追撃に慌てふためくホープに、より反応を楽しむバーヴァン・シー。

 

そんな一行の様子を心地よい思いでランスロットは見ていた。

 

「ふふ…いいね、こういう仲睦まじい感じ。僕としても見ていて気持ちが良いな」

 

 

 

(………()と“彼女”の『それ』とは違って、ね)

 

 

 

「――ん?どうしましたランスロット殿?」

 

一瞬、彼女の感情の色が曇ったことに気づいたバーヴァン・シーが声をかける。

 

「あぁいや、何でもないよ。君たちの仲睦まじい様子に見入っていただけさ。―――うん。君たちのお願いもまたこの僕が責任持って後々叶えさせていただくよ」

 

が、すぐに彼女は気持ちを切り替え何事も無かったかの様に返事した。

今のは何だったのだろうか?ここに来てランスロットの謎が増えたなと思うバーヴァン・シーであった。

 

「…それじゃ、さっきも言ったけど僕はこれから陛下に謁見の許可を申請しにキャメロットに行くよ。無論、許可が認められても今すぐには行なわれず、1日程度のスパンがあるから君たちもその間に話す内容を色々まとめておくといいよ」

 

どうやら許可が降り次第すぐさまぶっつけ本番同然で謁見をするわけでは無いようなので一行、特にバーヴァン・シーにとっては1日だろうと下準備の余裕があるだけラッキーだった。

 

「わかりました。では、私たちは今から明日に備えて準備に掛かろうと思います。――――頼みましたよ、ランスロット殿」

 

「うん、一応言っておくが僕はあくまで陛下の騎士だから謁見の間は立場上君たちに味方することはできない。だがらこそ話し合いが上手くいくよう検討を祈っているよ。――――それじゃあね」

 

そしてランスロットはその場から飛び立ち、電光の如き速さで蒼き尾を引きながらキャメロットの方角へ向かっていった。

 

「りゅ、流星みたいな速さで飛んでいきましたね…」

 

「まぁ、あの方と面識ある私から言わせれば恐らくあれでも実力のほんの一端に過ぎないと思いますよ」

 

「マジか、流石最強と言われるだけあるな。…でだ。これで要求が通れば後に引けなくなっちまうわけだが、本当に上手くいくと思うか?相手はあのモルガンだぞ?」

 

「ええ、当然そんな都合良くいくハズが無いでしょうし、いけば苦労は無いわね。でも、逆を言えば上手くいった時の恩恵もまた相応に大きいというもの。だからこそ1日の猶予がこうしてできたのは千載一遇のチャンスよ」

 

まさに謁見を上手く進める上で、この1日でどれだけ準備を万端に出来るかが勝負どころだった。

上手くいけばそれで良し、悪くなれば最悪『無駄に時間を割いてくれた愚か者』の格印を押されその場で殺される可能性だってある。

 

(それでも、私はモルガンに会いたい。2000年近くに渡って支配し続けているこの世界の女王は、私がいた世界の魔女とどう違うのか。)

 

実を言うと、バーヴァン・シーはモルガンという存在を直接目にした事が無かった。

あくまで評判を聞いておおよその彼女の人物像を色付けていただけに過ぎなかった。

 

だからこそ彼女の人柄を、容姿を見ることに執着していた。

これまで大いなる悪の魔女としての印象をずっと抱いていたが、同時に『本当に誰の目から見てもそうなのか』と拭えない疑問も沸いていたのだ。

 

(何より――――私と共にいる、この子らを守るに当たって安心できる“約束された安全”が手に入る可能性があるならば、私はそれに全力を賭けたい)

 

故に彼女の意思はここに来てより強く、固いものになっていた。

 

「さぁ―――妖精國ブリテンに迷い込んで二週間と数日。早くも最大の難関に挑むわよ!」

 

そして―――汎人類史の吸血鬼は一行と共に勝負に出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈

 

 

 

 

 

「――――以上が僕からのここ二週間の報告だよ、陛下」

 

 

キャメロットの玉座の間。そこでランスロットは“愛無き魔女”に事の次第を告げる。

 

 

「ご苦労。ならば貴様は早急にソールズベリーへと戻り、其奴らにこう伝えるが良い。『我に対する謁見を許可する。道中の護衛はランスロットが、移動に当たっては此方から妖精馬を手配する』、とな」

 

「了解。ご命令とあればすぐに行動を―――」

 

「―――待てランスロット。…陛下、失礼を承知で発言をお許しくださいますか?」

 

魔女からの返答を受け、すぐさま動こうとしたランスロットに待ったを掛けたのは、美しい純白の毛並みが目立つ牙の長だった。

 

「よい。発言を許す」

 

「有り難うございます。して、私が言いたいのは其奴ら――否、そいつの言っている事は要は乞食と変わらない、聞くに値しないものだということです」

 

ランスロットの報告にある吸血鬼の発言に厳しい異を唱える牙の長。

無理もない。報告を聞いた限りでは『ただ一方的に庇護を求めているだけで見返りも何も提供するとは言っていない』からだ。

 

「陛下に堂々と謁見を要求するその度胸だけは多少認めますが、今の報告だけでも下級妖精としての見るに堪えん卑しさが滲み出ています。よってこの様な下種な目論みは一蹴した方が良いかと」

 

魔女に話を蹴るよう奨める長。しかしそれに対する魔女の返答は否だった。

 

「まあ待てウッドワス。確かにお前の言い分も尤もだが、ランスロットの報告を信じれば其奴らは普段この場に集まる有象無象どもと違い、随分と人が出来ているそうではないか」

 

曰く、依頼現場に赴いてる時は多少文句を言っているだけで人前では常に誠実に振る舞い、依頼を達成したら礼も求めずに次なる人助けに向かうほどの働きぶりだとか。

 

「それにこの私が認めている数少ない存在であるランスロットが言っているのだ。ならば招いてみるのも一興であろう。…実際、今の報告に虚偽は含まれておらぬようだからな」

 

そこまで言うと、一つ間を置いて魔女は牙の長――ウッドワスに視線を向けてやんわりと圧を掛ける。

 

「それとも。向こうが此方に対する見返りを提示していない、などと言う理由であっさりと突き放すほど私の器が狭く低いとでも?」

 

「いえ、その様なことは決して。……わかりました。全ては偉大なる女王陛下の言われるままに」

 

魔女の一睨を受け、ウッドワスは多少不本意ながらも潔く引き下がる。

それを見た魔女は、再びランスロットに顔を向ける。

 

「今の会話でわかっただろうが、私は貴様を信頼している。故に今し方貴様に課した命を成し得なければ、その信頼は地に落ちることになると心得よ。――行け」

 

「御意。陛下からの信頼、有り難く思うよ」

 

そして湖光の騎士はその場より飛び立ち、本日二度目の超速飛行で自由の町へ向かっていった。

 

「お前も下がれウッドワス。私は明日の謁見に備え今日の事務を早急に終わらせる。お前は各氏族の長どもに私の名義で招集命令を掛けておけ。何しろこれより来るのは()()()汎人類史の漂流物にあらず、我々がよく見知っている存在なのだからな」

 

「御意。正直、如何に違う世界の存在とて私としてはあの小娘の顔と声でその様な誠実な態度を取るのは全くもって信じ難いですがね。…では失礼致します、陛下」

 

自らの愛娘に対する嫌味を言いつつ、幼き頃からの勇者はその場を後にする。

しかし魔女がそれを不快に思うことはない。何故なら()()()()()()()()()()()()()()魔女はそう在れと双方を大事に育て上げたのだから。

 

「ふん…この國を支配してもう2000年になろうとしているが、ここに来て中々どうして面白い者が紛れ込んだではないか。……これもまたある種の運命という奴だろうか?」

 

魔女はそう言うと、徐に魔術具を取り出しソールズベリーの町並みを映し出す。

そして、その中で報告と特徴の一致する妖精を探し―――見つける。

 

「! ……フフッ。なるほど、これは…」

 

彼女の姿を確認した魔女は納得の笑みを浮かべる。その顔は見る者が見れば正しく魔女のそれだと言わずにはいられないだろう。

 

 

 

「さて、此方もお前がどういう性格で、どういう考えの者なのか。―――見定めさせてもらうぞ、汎人類史のバーヴァン・シー?」

 

 

 

そのほの暗き氷蒼の瞳に宿るは嘲笑か、或いは一寸の期待か。

 

 

 

魔女――――モルガン・ル・フェは、どこまでも妖艶な笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 


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