【悲報】起きたらウマ娘になってたんだが【助けて】   作:らっきー(16代目)

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当初はこの話で完全に終わらせるつもりでした


最終更新(の予定だったもの)

 ドリームトロフィーリーグという物がある。

 トゥインクルシリーズを終えたウマ娘の次のステージ。

 

 トゥインクルシリーズで結果を残したウマ娘はそちらに招待され、現役を続ける事が出来る。G1ウマ娘、或いはそれに並ぶ人気を持つウマ娘達の集まるドリームトロフィーリーグは一定の人気があり、しかしトゥインクルには及ばない。

 

 無論、ファンだったウマ娘がいつまでも走ってくれるというのは嬉しい。嬉しいがしかし、それは全盛期からは程遠い。そして、衰えていくだけだ。

 

 いつまでも好きなウマ娘を見たいという気持ちと、衰えていく様を見たくないという気持ち。それが後者に傾いたところで離れていく。

 

 そして、それはウマ娘本人にとっても同じ。

 

 走って、競って、勝った負けたを繰り返して。段々思い通りにいかない身体や伸びないどころか落ちていくタイムに失望していく。

 結局の所、終わりへの準備をする為のレースなのだ。

 

 だから、フォルティシームは断った。

 世界最強としての義務だとか、トレーナーともっとずっと一緒に居るためだとか、ファンの期待だとか。受け入れる理由なんていくらでもあったのだけれど。

 

『生きる事は美しいが、生き過ぎる事は何よりも醜い』

 

 惜しまれるうちに居なくなるのが丁度いいのさと、彼女はレースの世界から消え去った。

 学園から出て、アドバイザーになるのも断り、僅かな友人以外には行先も教えず。ただレコードタイムと最強の称号だけが、彼女がそこに居た証明となった。

 

 そんな彼女は今──

 

 

 

「かんぱ──い!」

 

 二十歳の誕生日を迎えて、元トレーナーの家で酒を飲んでいた。

 

「乾杯。……もう、フォルティも大人かぁ。時間が経つのは早いねえ」

 

「いやーほんとに。この調子だと気づいたら死んでそうで怖いね」

 

 今まではずっとトレーナーが飲んでいる姿を見るだけだったけれど、今日からは同じ物が飲める。好きな人と同じ味を楽しめる。

 そんな思いでトレーナーがいつも飲んでいる日本酒を分けてもらって、噎せた。

 

「──!? え、辛! 日本酒ってこんな感じ!?」

 

 気取った喋り方が崩れるぐらいには苦手な味。十年近く飲んでいなかったから忘れていたけど、そういえば酒ってこんなものだった。身体が違うから味覚……というか、好ましい味が変わっているというのもあるのかもしれない。

 

 そんな様子を見てクスクスと笑うトレーナーは、拗ねるフォルティシームに、あらかじめ用意していた甘めのお酒を差し出した。

 

「初めてなんだから、弱めのにした方がいいよ」

 

「……貴女と同じ物が飲みたかったんだ。無理だったけれど……」

 

 少しだけしゅんとしながらそんな事を言う彼女は愛らしくて、やっぱりまだまだ子供だなと思わせた。

 

 幸い、3%や5%程度のチューハイや果実酒は口にあったようで──トレーナーからすれば酒というよりジュースだが──これは好きかもしれないと飲み進めている。

 アルコールが回れば口の回りも良くなるようで、他愛の無い話を始め、近況報告へと移っていく。

 

「フォルティ、大学はどう? 楽しい?」

 

「うーん、なんと言うのかな……私には縁の無い場所だと思っていたから、未だに戸惑いがあるかもしれない。みんな気楽そうだしね」

 

 レース生活を終えたフォルティシームが真っ先に取り掛かったのが、勉学だった。一般教養すら怪しい彼女ではあったのだけれど、やる気と教師と目標さえあれば案外世の中どうとでもなるようで。周りより僅かに歳上になりつつも、見事に大学進学を果たしていた。

 

「まあレースに比べたら気楽だろうし……少なくとも、勝ち負けとかがある世界じゃないから」

 

「うん。……ああ、あと、時々私の現役時代を知っている人が居てさ。接し方が少しばかり悩ましいかな?」

 

「それは……うん、有名税かなぁ」

 

「ファンはまだ良いんだけどね……世間知らずのウマ娘なんて簡単に口説けるだろうって人とか、相手をトロフィーだと思ってる人とかさ。嫌な人も多いね」

 

 同年代の異性から隔絶されたトレセン学園で過ごしたウマ娘達を、くみしやすいと見て狙う人間は意外と多い。

『凄い人』と付き合えば自分も凄いと思われるだろうと思っている人間も。

 

 容姿端麗で、有名人で、騙されやすくて経験が少ない。無論そんなウマ娘の為に学園としても卒業生へ注意喚起や教育を行ってはいるが……効果はあれど、皆無にはならない。

 

 同じ女性として、そして好きあっている者同士として。面白く無い話ではある。

 ただ、フォルティシームに限ってそんな男には引っかからないだろうという、そんな信頼もトレーナーは持っている。

 

「貴女はどうだい? 今の担当とは上手くやれてる?」

 

「うーん、まあ少なくとも、やる気は凄いよ。フォルティのせいで私を担当して欲しいって頼んでくる子多かったし。その中で勝ち残った子だからね」

 

「貴女は素敵な女性だから、あまり心配はしていなかったけど。……ああ、でも少し残念かな。上手くいってなければ貴女を慰めてあげられたのに」

 

「ふふっ、じゃあ困ったら頼らせてもらおうかな」

 

「……最近、あまり動揺してくれなくなったよね。昔はすぐに顔を赤く染めてくれたのに」

 

「いつまでもやられてばっかってのは、大人として恥ずかしいからね」

 

 慣れてしまって可愛らしい反応が見れなくなった事を悲しむべきか、慣れるほどに長い時間を共に過ごせていると喜ぶべきか。フォルティシームは少しだけ判断に悩んで、面倒臭くなったから考えるのをやめた。

 

「じゃあ、大人らしく甘やかして欲しいな。具体的には膝を貸して欲しい」

 

 アルコールで緩んだ顔で、年下の特権を存分に活用してふにゃりと甘える。トレーナーは、そんなおねだりにも慣れた様子でぽんぽんと膝を叩いた。

 

 やった、と喜色満面でいそいそとトレーナーの膝へ頭を乗せる。いつも割と素直に感情を表現している尻尾はアルコールも加わって最早暴走している。

 

「柔らかいね。あと温かい。……貴女の体温は、とても心地良い」

 

 顔をお腹の方へと向けて、埋める。呼吸をする度にお腹が膨らんだり凹んだりするのを感じて、ああ、生きているんだなぁ。なんて考えている。

 

 温かさと、安心感と、それからお酒のせいで。フォルティシームは心地よい眠気に包まれ、ウトウトと瞼の重みを感じている。

 

「フォルティ、眠い?」

 

「ん……貴女と居ると、どうしても安心してしまって……母親とか姉とかって、こんな感じなのかな……」

 

「寝かせてあげたいところだけど、その前に渡したいものがあるんだよね」

 

「?」

 

「誕生日プレゼント」

 

 首を傾げたフォルティシームに告げられたその言葉。先程までの眠たげな様子はどこへやら、目を輝かせて言葉の続きを期待している。頭は膝の上のままだが。

 

「貴女と一緒にお酒を飲めただけでも幸せな誕生日だったのだけれど。もっと私を幸せにしてくれるのかい?」

 

 気に入ってくれるかは分からないけど。そう言って差し出されたのは──膝の上からフォルティシームの頭を落とさないように取るのに苦労していたのはご愛嬌──小さな箱。

 

「開けてもいいかい?」

 

「どうぞ」

 

 開いたそこに入っていたのは。

 

「……ゆび、わ。…………こ、れは。その。その……そういう意味で、受け取ってしまうよ?」

 

 中身を確認して、驚きから身体を起こす。正面から向き合って、震えた声で相手の想いを確かめる。

 

「フォルティが嫌なら、飲み会のときにでもつけて虫除けにしてよ。そういう機会も増えるだろうから。……ただ、もし。フォルティが受け入れてくれるなら。あなたの事を、私のものだって宣言させて欲しい」

 

 重くてごめんね? と、不安なのだろう。目をやや伏せながらそんな事を言っていた。

 そんな彼女を、フォルティシームは正面から抱き締める。

 

「言っただろう? 貴女は私のもので、私は貴女のものだって。今更、あの言葉を取り消すつもりはない。むしろ……」

 

 次は、フォルティシームがトレーナーの想いを確かめる番。

 

「むしろ、貴女の方こそ私でいいのかい? ……私は、無駄に有名人になってしまったから、変に注目されるし、嫉妬深くて面倒くさいし。それに、貴女の子供を残してあげることも出来ない。きっと、他の人と一緒に居たほうが幸せになれると……思う」

 

 それは紛れもない本音。フォルティシームはトレーナーの事を愛しているから。だからこそ自分なんかじゃない人のほうが彼女を幸せにできるのではないかと、常に悩んで、恐れている。

 

「それこそ、今更だよ。そういう事も全部ひっくるめて、私が好きなのは、私が愛してるのはフォルティだけ」

 

 しっかりと抱き締め返しながら。愛を伝える。

 

「……もう、返せと言われても指輪は返さないし、離せと言われても貴女を離さないよ?」

 

「うん。私も、離したくない」

 

「……私の人生を、貴女にあげよう。だから──」

 

「──私の人生を、フォルティにあげる」

 

 

 

 フォルティシームは、かつて恋を知らなかった。そんな事を考えていられる余裕なんて無かったし、好きになる価値の有る相手なんて見つけられなかった。

 かつて愛を知らなかった。大半の人間が家族から与えられるものを受け取れなかったし、その後に受け取ったものはむしろ欲望と名付けられるものだった。

 

 初めてトレーナーと会った時、一目惚れという言葉の意味を知った。

 

 何気ない会話の楽しさを知って、夜別れる時の寂しさを知って。好かれようとする努力の楽しさと難しさを知って、他人への嫉妬を知った。

 

 それが、世間が言う恋というものなのか。フォルティシームにはよく分からない。

 

 けれど、傍に居たいと思っていて、特別な人になりたくて、ずっと一緒に居たいと思って、絶対に離したくないと思った。

 

 その気持ちを。かつて一度も手に入れられなくて、特別な人が教えてくれたその気持ちを。

 

 フォルティシームは、恋と名付けた。

 

 

 

男トレ×フォルティシーム

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