魔弾が打ち砕くは 作:キルシュトルテ
はじまり
多分、とんでもない偶然が重なった結果ここにいるのだとは思う。
例えば、私がたまたま崖から落下したとか。
例えば、私にたまたま前世とかがあったこととか。
「……マジかよ」
頭をうったのか気を失っていたらしく、思考がとんでもなくぼんやりとする。
私の名前はジュリア・モンタギュー。種族はサルカズ、絶賛鉱石病。あとついでに親も家も故郷もない。
故郷はあったんだけども、焼かれた。村焼きRTAかな?って速度で焼かれた。
割といい家のお嬢ちゃんだった私は、そんなこんなあって絶賛浮浪児状態。今日のごはん!と思って動物を探しに行こうとした矢先、崖から落ちたってところ。
幸いにも血は出ていない。傍には動物を捕まえて解体した後の肉もある。
とりあえず、隠れ家に戻ろう。
◆◆◆
隠れ家とは言うものの、ウルサスのとある町の下水道。前世からすれば最悪な住処だけども、今の私には悪くない場所。雨風凌げるし、友人もいるし。問題があるとするなら、大雨とかが大変なくらいかな。最初は本当に嫌だったけども、慣れた。
「サーシャー?」
友人の名前を読んだ声が下水道に響くものの、返事はない。地上にでもいるのかな?
どちらにせよ、下水道に食糧を置いとくのもアレだから置きに行かなきゃならない。
少し進んだところにある梯子をのぼると、下水道に入る入り口のひとつになるボロ小屋に出る。ボロすぎて隙間風は凄いし雨漏りはするしで下水道の方がマシなくらい。
だけど、陽射しは凌げるし色々物が置けるしで重宝してたりはする。
ボロ小屋のボロドアを慎重に開けると、友人はそこにいた。見知らぬ少年と一緒に。
「戻ったよー」
「今回はどのくらいだった?」
「干したら2週間くらいはいけそうかな。油断は出来ないけど。ところで、その子は?」
黒髪の、鱗のある少年……サーシャに隠れるようにして、白い髪の、鳥のような少年は私を見る。警戒されているのかぁ……。
「ああ、コイツはイーノ。えっとな……」
サーシャはイーノとあったことを話してくれた。私が食べ物を取りに行っていた間に、2人は出会ったらしい。
イーノはウルサスの中流階級かそのくらいの家の子だけど、サーシャに食べ物を分けてくれて、文字の読み方を教えてくれているのだとか。
それと、歌が上手いのだとサーシャは自慢げに語ってくれた。その時、イーノがちょっと照れながらアワアワしていたけど、多分サーシャは気付いてない。
「つまり友達ってわけね。私はジュリア。私もサーシャの友達なの。つまり……友達の友達は、友達?ってことで、よろしくね、イーノ」
「えっと……」
「大丈夫だ、イーノ。ジュリアは信頼できるし、イーノに暴力もふるわない。俺が、ほ、ほ……ホショウするよ」
「うん。よろしく、ジュリア」
「よろしく」
私達3人の出会いは、そんな感じだった。
サーシャはフィディアの少年。多分同い年(私も年齢とか忘れたから正確じゃないけど)で、強いし。イーノを虐める子供達を1人で撃退できるし、イーノの歌を楽しむ感性も持っている。村焼きにあって彷徨って流れ着いた下水道で出会って、色々あって友人となった。
イーノはリーベリの少年。同じく多分同い年。明るくて、心優しくて、歌が好き。ただかなり家庭環境に問題があるようで、毎日傷をつくってやってくる。更に、私達……というか主にサーシャにパンを分けていることが原因なのか、感染者の子供達に虐められている。どうにか出来ないものかとも思ったものの、未だ私もサーシャも対処療法みたいなことしか出来ない。
彼の歌はとても綺麗で、例えばサンクタが歌う教会の賛美歌なんかと比べ物にならないくらい、ずっと聞いてられる。
私もサーシャも、イーノの歌が大好きだ。
最初はかなりイーノに警戒されていたけど、少しずつ打ち解けていった。いつの間にか、3人でボロ小屋で文字を教わったり、計算を教えたり、頑張って本を読んだり、歌を聴いたりするのが日常になっていた。
そんなある日だった。イーノがいつも以上に、いや、いつにないくらいに憔悴仕切った様子で駆け込んできた。
私達の姿を見るや否や、イーノは目に涙を湛えて抱きついてきた。
「サーシャ、ジュリア……!」
「イーノ、どうしたんだ?!またアイツらに殴られた?それとも、傷を抉られた?!」
「サーシャ、落ち着いて!イーノ、ほら、イーノも落ち着いて」
片付けかけの干し肉に構う場合ではない。なんとかサーシャとイーノを落ち着かせると、イーノはぽつりぽつりと話し始めた。
「怖いよ、サーシャ、ジュリア。僕、怖いよ」
いつも笑っているイーノらしからぬ、怯えきった表情だった。
「僕はきっと……あの家の子供じゃないんだ。こっそり聞いたんだ、僕のママは……僕のママはもう家にいないって」
妾の子、不貞の子、もしくはただただ気に入らない子。
虐待という問題は、時代も世界も国も種族も関係なく起こってしまうもの。
私自身はモンタギュー家では微妙な立ち位置だったけども、それでも体験したことは無い。
それでも、前世というものによる知識はあった。だから、想像することだけなら出来た。
「あいつらが僕を見る目は、すごく怖いんだ。帰りたくない。もう二度と、帰りたくないよ……」
イーノは項垂れて、顔をあげなかった。人とは、子供の精神をここまでズタズタにできるものなのか。信じられなかったけど、それは目の前に起こっている事実だった。
なにか言おうとする前に、サーシャが口を開こうとした。
「でも、ここは……」
「………逃げよう」
「えっ?」
それを遮るように、私の口から言葉が飛び出した。つい零れた言葉だったけど、もう引っこめる訳にはいかない。
「逃げちゃおう。そんなところ、家なんかじゃない。傷つける人が居るとこなんて、捨てちゃおう!」
我ながら、とてつもなく子供らしい意見だと思う。子供だけど。
サーシャが言わんとしたことも分からなくはない。普通の家屋と全く違って寒いし、食べ物もないし、ただの下水道でしかない。
それでも、死んでしまうよりもマシだ。イーノも同じ暮らしにしてしまうのは、私もとても申し訳ないとは思う。それでも。
「サーシャ、言いたいことはわかるよ。でもね、このままだとイーノに何されたか分かったもんじゃないよ!」
「でも、家が……」
「家なんてどこでもいいの!イーノが良ければ、だけどさ……」
イーノに目線を移す。イーノは不安半分にサーシャのことを見ていた。
「……サーシャも、僕が嫌いなの?」
「えっ?……なんでだ?」
「僕がいつも笑ってるから?」
「いや……そんなはずないだろ。なんでそんな風に思うんだ?」
そうか、イーノはサーシャが家に帰そうとするのを、サーシャがイーノのことが嫌いだからとちょっと思ってしまったのか。そんなわけない。けど、私は口を挟まないことにした。
「僕は笑っちゃダメだから」
「そんなことない!イーノはずっと笑ってる方がいい」
「そうなの?」
「そうさ。ジュリアもそう思うだろ?」
「うん。でも、泣きたい時は泣いて欲しいし、怒る時は怒って欲しいね。……サーシャもね?」
誤解はすぐに解けた。よかった。2人とも、お互いがとっても大切な事は、傍目から見ても分かる。こんなとこで仲違いとか、寝目覚めどころか寝付きも悪くなる。
「と、なると……この下水道も離れた方がいいかもね」
「どうして?」
「下手したら、イーノの元家の奴がイーノを探しに来る可能性があると思うから。」
「なるほどな。殺されかねない……それなら、賛成だ。イーノは、いいのか?」
「2人がいるなら、僕はどこでも気にしないよ」
そうして、この町からの逃亡計画を企てた。
逃亡ルートは私が知ってる。子供たちの行動はサーシャが知ってる。地上の道はイーノがある程度知ってる。
実行は明日。イーノは、最後の帰宅をしてくると言って帰って行った。
私達はボロ布に必要な荷物───干し肉とナイフと、イーノが貸してくれてる本をまとめて、次の日イーノが来るのを待った。