魔弾が打ち砕くは 作:キルシュトルテ
「酷い有様だね……」
イーノの言葉に頷く。大きな源石結晶が、まるで地面から生えているようにそこらにある。
下手したら触れてしまいそうになるけど、絶対にそれは避けないと。というか、とっとと抜けないとヤバい。
私の鉱石病が進行するのもそうだけど、2人が感染しかねない。鉱石病って確か、感染すると場合によっては脳に異常をきたしたり、五感が鈍ったりするらしいから……。
そんなわけで、早足に移動都市に向けてすすんでいる。途中途中の洞窟や岩陰で休憩しつつだけど。
そうして、段々と結晶の数もまばらになり始めたくらいの位置の岩陰で休憩している時のこと。
「後どのくらいかな……」
「今のところのペースを続けるなら、長くても2日くらい以内には着くと思うよ」
「それなら、食糧も持ちそうだな」
「そうだね。盗賊とかも警戒してたけど、今のとこは居ないみたいだし」
そう言ったのが悪かったのかな?フラグ立てちゃった?とか考えるより前に、ドタドタドタと足音が聞こえて、私たちの周囲を人影が囲んだ。
「……なんかごめん」
「間が悪い、ってやつだね。ジュリアは悪くないよ」
「そうだ。……それよりも、お前らは誰だ」
イーノを守るように、私はナイフを、サーシャはボウガンを構えて前に出る。
イーノは私たちの荷物を抱えてくれている。
人影はぼろ切れを纏っていて、パッと見はいかにも浮浪者という格好だ。けど、全員同じ武器……サーベル?ってやつを持っている。1人だけ、腰にやたら立派な剣らしきものを提げている。
「こんなとこに子供がいるとはなぁ?嬢ちゃん坊ちゃん、オレらと来いよ。イイトコに連れてってやるぜ?」
超・テンプレみたいな感じの盗賊……賊徒だ。本当にいいとこに連れてってくれるなら、多分大人数で子供3人を囲まないよ。
私達がついてくる気がないのを察した親玉は、チッと舌打ちをして剣を抜いた。
「おい、オマエら!生け捕りだぞ!!分かったな!!」
「「「「あいっ!」」」」
「来るぞ」
サーシャが呟いたのを聞くや否や、私は突っ込んでくる賊徒の群れに向かって突っ込んだ。
イーノを狙おうとしてる奴を優先して、倒せなくとも足止めするためにナイフを振り回す。
サーシャもそれを理解してくれているのか、上手い具合に順番に矢を撃ち込む。
流石に少しずつ逸れたりはしていたけど、それでも足止めや無力化にはなっている。
矢には数に限りがある。だから、回収できる矢を私が回収し、サーシャに渡しつつナイフを振り回す。
「お頭、こいつら子供のクセに強いっす!」
「んだとぉ?」
怒りを隠しきれない様子の親玉が、剣を持って突っ込んでくる。
私は姿勢を低くして、急所────下半身にある急所────を狙ってナイフを持った手を前に突き出した。
が、それは当たらなかった。
「ハッハァ!当たんねくぁwせdrftgyふじこlp?!」
「命中」
サーシャの放った矢が、丁度親玉の親玉に命中した。私スレっスレで矢が飛んでいたみたいだけど、当たらなくてよかった。
親玉は声にならない声を上げて悶える。まあそりゃ、生物においての最重要部位だもんね。
「ありがとう、サーシャ」
「当然だ。他は……っ、イーノ!」
サーシャが振り返る。すると、イーノが賊徒のうちの一人に捕まって、首筋にサーベルをあてがわれている。
「油断したっすねェ!!」
「っ、ぐ……は、離して!」
「動いちゃぁダメっすよぉ?ザクッ!と行っちゃうっスから」
「でっっっっか、した!」
悶絶しつつも、親玉は気合いで立ち上がった。
「さぁ、どうしてやろうか?ああ、動くなよ?動いたら……白い坊ちゃんの首が飛ぶぞ?」
「くっ……!」
人質を取られては、動けない。それが特に、イーノなら尚更。
アーツを使おうにも、イーノを巻き込んでしまう可能性がある。サーシャも動けずにいる。
親玉はゆっくりとこちらへ近づいてきたかと思えば、思いっきり拳を振り上げ───サーシャを殴り飛ばした。
「っぐぁ?!」
「サーシャ!」
文字通りぶっ飛ばされたサーシャは、吹き飛んで転がり、大きな結晶にぶつかって止まった。
「くそっ……!」
「あとは嬢ちゃんだけだ。悪いようにはしねぇからさぁ?な?」
イーノにはまだ、サーベルが突きつけられている。
口パクでなにか……いや、「だいじょうぶだから」と言っている。そう言われても、見捨てるなんて選択肢はない。
でも、動けない。アーツも使えば巻き込んでしまう。液体で出力も低いから、制御はとても粗い。
親玉の手が伸びる。剣が近づく。久しぶりに感じた恐怖に、反射的にギュッと目を瞑ってしまった。
衝撃か、痛みが来ると思っていた。
けどそれは来ることがなく、代わりに「ドサッ」という音が聞こえた。
「えっ?」
目を開けると倒れている親玉と、一瞬だけサーシャの姿が見えた。
姿が見えたかと思えば、サーシャの姿が掻き消える。かと思えば、カランと言う音がしてからまた倒れる音がした。
「っあ、は、はあ、はあ……今の、は?」
捕まえていた賊徒から解放されたイーノが、息を切らせながらそう言った。
いつの間にか賊徒の後ろにいたサーシャが、サーベルを弾き飛ばしてから賊徒を撃ったのだと気がつくのに数秒かかった。
「サーシャ!今のは……いや、大丈夫?!」
「ああ、俺は大丈夫だ。それよりもイーノ!どこも怪我してないな?!」
「ぼ、僕は大丈夫……あ、いや、ちょっとだけ切り傷が出来た、かな……」
イーノは首元を見せた。うっすらと切り傷が出来ており、若干血が出た跡があった。
「ジュリアも大丈夫?」
「私はぜんぜん平気。でも、サーシャ!サーシャは殴り飛ばされてたでしょう!」
「そっ、それは……大丈夫だ。」
「「本当に〜?」」
2人でジトーっと睨むと、サーシャは微妙な表情をした。
「まあいいや。サーシャ、さっきのヤツも問い詰めるから覚悟してね?」
「うっ、おっ、お……オテヤワラカニ?」
「ジュリア、ほどほどにね?」
落ちた荷物を回収して、再出発しようと身を翻したのがいけなかったのか。それとも、ちゃんと全員倒れているのか確認しなかったのがいけなかったのか。
「こんの……クッソガキィィィィ!」
親玉が、剣を投げた。それは綺麗な軌道をかいて、サーシャの肩を貫いた。
「っ、あ゛?!」
「へへ、油断し……あ゛あ゛っ゛!」
「っ……サーシャ、サーシャ!!」
勝ち誇った顔の親玉に向けて酸を放つ。親玉の生死を気にしている暇もなく、サーシャに向かって私たちは叫んだ。
「サーシャ、サーシャ!!」
「っ、ぁ……」
ショックからか、サーシャの意識はかなり朦朧としている。
私もイーノも混乱していると思っていた。けど、思いのほかイーノの方が冷静だった。取り乱している私を見て、逆に冷静になったんだと思うけど、その時はそんなことを考える余地もなくて。
「……ジュリア!ここを離れよう。サーシャを運ぼう!」
「!あ、うん!」
そうだ、もし賊徒たちが起き上がれば今度こそひとたまりもない。
サーシャの荷物を私の風呂敷に突っ込んで、応急処置として傷口の辺りを縛る。
それから、2人でサーシャと荷物を持って、見えていた別の洞窟へと駆け込んだ。