魔弾が打ち砕くは 作:キルシュトルテ
「……ア、ジュリア、起きて!」
「ん……?」
イーノに揺すり起こされて目が覚めた。目に入った空は暗いのに、周囲はやけに明るい。
不思議に思いながら起き上がると、周囲の景色がよく分かった。
周囲は火の海、瓦礫の山。あのひさしのある路地ではなく、全然違う、どこかの瓦礫の陰だった。
「どっ、どういうこと?!」
「よかった!それが、僕もよくわからないんだけど……」
イーノに聞くところでは、眠っていたら突然爆発音がしたかと思えば、何か沢山足音がして、それからあちこちで戦闘音と爆発音がして、今に至ると。
で、爆発のひとつで飛んできた瓦礫が私の頭を掠めたため、私を比較的安全そうなこの瓦礫の陰に運んだらしい。
「サーシャは?」
「今、周りを見に行ってくれてるよ」
「戻った。ジュリアも起きたんだな」
「おかえり。どうだった?」
片手にボウガンを持ったサーシャが戻ってきた。
サーシャは周囲の様子を見てきたようだけど、とにかく大混乱と言った表現が正しそうだった。
「同じ格好をした奴らが、ボロボロの格好の奴らと戦ってる。ボロボロの奴らは、何も持たずにアーツを使ってた」
その『ボロボロの奴ら』の中には、頬に黒い結晶みたいなのがある人たちも混ざっているとか。
そうなると、多分、多分。
「感染者の暴動か、兵士達による殺戮?かなぁ」
「それって、僕たちも危ないんじゃ?」
「ああ。だから、来たばかりだけどこの都市を離れたほうがいい……んだけど」
「「けど?」」
「あのマンホール、瓦礫でふさがって使えない。というか、下水道にも同じ服の奴が多いから、出られない」
おーっとこれはなかなかヤバいぞー?
兵士の動きは間違いじゃないと思う。逃げ道を塞ぐのは基礎中の基礎みたいなもんだし。
ただ、それをされると私たちが逃げられない。勿論正面出入口みたいなとこは間違いなく塞がれてるだろうし。
ここに退避するときに、荷物のほとんどは置いてきてしまったらしい。かろうじて、イーノの鞄だけは持ち出したようだけど。
その中身も、ナイフと欠けた源石と2冊ほどの本(片方はサーシャが持ってきたあの本だとか)、念の為分けて置いた少量の干し肉と固いパンがふたつ。あと空の水筒がひとつ。
「とりあえず、逃げ出せそうな……手薄そうな場所を探そう。壁とかは、私のアーツで溶かせなくもないから」
「そう、だね。それじゃあ、僕は2人の怪我を治すよ。だから、安心して?」
「なら俺は、先導するよ。2人だけにアーツを使わせる訳にもいかないしな」
お互いにお互いが、あまりアーツを使わせたくない。でもそんなことを言ってる場合じゃない。顔を見合わせて頷いて、行動を始めた。
◆◆◆
人は挽肉か、もう動かないかの二択。火の手がちろちろしている通りだった場所を、サーシャ、イーノ、私の並びで走る。
途中までは順調に行っていたのに、兵士……ではなく、感染者に見つかった。
見つかった時、最初は「共に戦おう!」なんて言っていたけど、私たちは手を貸すつもりは無い。それを伝えるや否や、
「ガキが大人をナメやがって!」
と、豹変して殺しにかかってきた。咄嗟に水を顔にかけて、怯んだ隙に逃げ出した。
とにかく前に走るしかない。が、慣れない土地で闇雲に逃げるのはあまり宜しくない。
すぐに目の前に、兵士達が現れてしまった。
「しまった!」
「感染者を発見!!制圧にかかります!」
「まちやがっ……クソッ!」
兵士達と、感染者とに前後を挟まれる形になる。クソッて言いたいのはこっちの方だよ!!クソッ!!!
「都市中央のクソ共かよ!」
「クソ?クソはそっちでしょう?都市の景観を穢す感染者め」
すぐになにかされるかと思えば、口論を始めた。睨み合いと言うやつだ。
追ってきていた感染者のおっさんの後ろから、合流したのかほかの感染者も数名やってきて、兵士達と口汚く罵りあう。
「……逃げれそう?」
「完全に塞がれてる。下手に動いたら俺たちがやられると思う」
「ど、どうしよう……」
ナイフを、ボウガンを、アーツユニットを握りしめて、背中を預け合う状態で様子を伺う。というか、それしかできない。
その間にも、罵りあいはヒートアップ。
「んだとお!!死ねやあ!!!」
「るっせえ!!クソ感染者!!!」
とうとう、お互いが力を行使し始めた。
アーツと矢が飛び交う。どちらからも敵となる私たちはどちらからにも狙われ、攻撃を仕掛けられる。
「「死ね!」」
「死なない!」
槍をナイフで受け止めて、アーツをアーツで撃ち落とす。
私に引き付けられているうちに、サーシャが回り込んで矢を打ち込んだり、イーノがナイフを突き立てる。
「こんのクソガぎゃっ?!」
「舐めるなよ」
「感染者メ゛ッ゛?!」
「……ぼっ僕だって、やるときは、やるから!」
例えアーツがあっても戦闘技術の低い子供3人が、よく大人の集団、それも暴徒と戦えてるなと思う。
けども、子供は子供。体力は削られ、ジリジリと追い詰められる。
傷こそイーノのおかげでないけど、サーシャの矢も尽き、私のナイフも劣化からか折れた。アーツを使おうにも、相手……特に兵士の装備は耐酸性が少なくともあるらしく、また、アーツを使って武器がそこらのものの感染者達にもあまり効果がない。
それでも、数名……合わせて10人程度は無力化出来ているのは、私達が3人でいるからだと思う。
「クソガキ、苦戦させやがって……!クソッ!」
「ゴキブリみたいな生命力しやがって。死ね!感染者のガキ!」
「っ……!」
これはいけない、ダメだ。そう思ってまた目を瞑った。
……戦場に、声が響く。
「───もしどこか発火したら、それはただの副作用だから!」
なにかの駆動音がしたかと思えば、地面が揺れる。熱気が駆け抜けたかと思えば、声がかかる。
「君たち、大丈夫?」
目を開ければ、目の前にはチェーンソウを持ったフェリーンの女性がいた。
奴らはどうなったかと思えば、全員倒れている。特に感染者たちは、気絶しているだけのようだった。
女性は気さくな様子で、私達にそう言った。けど、私達は警戒マックス。
特にサーシャは前に出て、女性を睨みつけている。
「そんなに警戒しないで?私は、君達に危害を加えたりしないから」
「……どこの誰なんだ。アンタは」
サーシャが睨みながらそう言うと、女性は少し困った様子を見せてから答えた。
「私はブレイズ。ロドスアイランドのオペレーターだよ」