口寄せ特化一族の末裔ちゃん   作:冗談だぜ、青い人

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姉のような妹

 深い霧が漂う海の上を、一隻の小さな船が緩やかに進んでいた。

 その中にいる者はたったの三人。船の主である船頭と、鵺、そして月麻呂である。

 

「ねぇ、月麻呂……」

「何ですか? 姉様」

 

 鵺が胡乱気な眼差しで、背後の月麻呂に問いかける。そこには些か困惑というか、不満な色を滲ませている。

 その理由は単純で、妹である月麻呂が何故か姉の如く鵺を膝の上に乗せて、さらに後ろから体を包む様にギュッと抱き締めているからである。

 

 というのも月麻呂はあの霧忍部隊との戦闘後、内外の傷の修復は終了したのだが、残月に抗う為に伸ばした体の骨は結局元には戻らなかったのだ。

 そして最終的に完成したのは、およそ15歳程度にまで身体が成長した月麻呂である。

 

 ちなみに、精神的な成長は無論していない為、ただの身体の大きな7歳児ではあるのだが、元々小さきモノを愛でる素質があるのだろう。自分よりも遥かに小さくなった、大好きな姉の鵺をその体ですっぽりと包んで愛でているのである。

 

 つい先ほどまでは自分が愛で、守る側であった(もちろん、姉としてこれからも月麻呂を守ることには変わらないが)のにも関わらず、何故か立場が逆転してしまっているかのような現状に、鵺はよく分からない不満を抱えるのであった。

 

「……なんでもないよ」

「そうですかっ」

 

 現状に対し、何かちょっとした文句を言おうとして、だが特に吐く言葉も思い付かず。呼びかけに対し無邪気な笑顔でこちらを覗き込んできた月麻呂に半ば諦め、あるいは本人が嬉しそうならそれでいっかと言葉になる前の息を飲み込んだ。

 

 

 髪色が同じ黒であったり、身体の大きな少女が姉と慕うそんな様子を見て、ずいぶんと仲の良い姉妹だなぁと横目に眺めている船頭はゆったりと、だがしっかりとした速度と安定感を維持しつつ船を進めていく。

 それにしても、ずいぶんと穏やかな船出が出来るようになった。そう、船頭は心の中で独り言ちた。

 

 長く、海に囲まれた水の国は海賊の出現や海上警備隊の横暴な取り締まりが厳しく、前代水影時代は輪に掛けてそれが悪化した。

 自分の様な表や裏の住人関係なく商売をするグレーな商船だけでなく、真っ当で善良な舟まで標的にされることもしばしば……。

 

 そして、そんな時代が終わったかと思えば、ここ最近……と言っても少し前までだが、ガトーカンパニーという会社が、何故か水の国と火の国周辺一帯の船出を賊を使って妨害し始めたからだ。彼らの本来の目的は波の国周辺だけの予定であったが、この船頭は火、波、湯、水の国と周辺四国を巡る往路船を商いとしており、邪魔をされていたと言っても過分はない。

 もちろん、自分のような武力を持たない船漕ぎが、武装した賊相手に眼を付けられれば抵抗する暇も無く海の藻屑になってしまうため、コソコソと天候や海上の環境など、最大限安全の確保と警戒をしなくてはならなかった。

 

 しかしいつの間にやら、ガトーカンパニーの社長であるガトーが何らかのトラブルに巻き込まれ死亡。

 それと同時に、多数の恨みを買っていたツケが来たのか本社が何者かに襲撃され残っていた社員も散り散りになってしまったらしい。

 

 時代を股に掛け、長きに渡った水の国の船舶暗黒時代はついに終わった。精神を削る様な操船をする必要はもう無いのだ。

 

 目の前で仲睦まじい光景を繰り広げる少女たちがある意味、暗黒時代の暗雲を振り払う、その一部を担ったとは露知らず、今までの苦労を思い出した船頭は穏やかな船上にじーんとしたモノを感じる。

 とは言え、今向かっている目的地を思えば。今までもその国へ向かう際は比較的安全で穏やかだったなとは思うのだった。

 

「ねぇ、姉様?」

「なぁに?」

 

 木製の船が軋む音と、船により海面が裂かれる波の音の中、少女の声がぽつりと落とされた。

 

「そう言えば……私たちはどこへ向かっているのですか?」

 

 その疑問は当然だった。

 何しろ、残月による襲撃は鵺が街の船券屋へ出かけた際に起きたこと。

 そして残月殺害後、月麻呂の元来の回復力と海月の医療忍術により治癒を完了させてすぐに旅立ったのだ。

 

 既に霧忍の部隊を二つ文字通り全滅させ、鵺の追手である再不斬、白のツーマンセルを撃退してしまっているのだ。事態を重く捉え、更なる討伐戦力を投下される恐れが非常に高く、実際に船に乗って沖合に出てしまうまで落ち着いて話すことも難しかった。

 

 故に月麻呂は、ある意味鵺に付いて来ただけなので目的地も、そこへ向かう目的も何も知らない。

 

 そんな、きょとんとした月麻呂の表情は年齢相応のもので、鵺はそんな彼女に得も知れぬ可愛さを感じつつぽつぽつと回答を始めた。

 

「私たちはね、湯の国へ行くんだよ」

 

 元々、火の国へ戻る為に船を手配しようとしていた。

 だが今回の件を経て、大国……特に姿を見せたり、時に暴れた火、水、岩の国へ留まるのはリスクが高いと鹿尊を始めとした家族たちに提言されたのだ。

 

 なので急遽行先を変更し、湯の国という小国ながらも観光地に富んでいるという人に紛れやすい国を選んだ。

 なお、以前波の国へ向かう際に関わりのあった、裏依頼のブローカーから湯の国は軍事が縮小していっており忍びが減少傾向、その為か裏に流れてくる依頼も木っ端なモノが多くて商売にならないというぼやきを聞いていた。

 そこから、S級犯罪者である鵺を追うだけの体力や戦闘能力は早々出せないのではないかという考えもある。

 

 それに…………

 

「湯の国はね、お母さんの故郷なんだって」

 

 最近思い出した、寝物語のその一欠片。

 大好きで、愛していた、もう失われてしまった家族の故郷。

 もしかしたら、祖父母に当たる存在に会えるかもしれない。

 

 家族というものに偏執する鵺だからこそ、一抹の期待を胸に、見えて来た港町を眺めるのであった。

 

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