【成り代わり】鉄血のナントカ【異世界転生?】 作:くずみ@ぼっち字書き。
とうとうヤッてやった!
憎きアライグマ、ラスカ…ラスタル・エリオンの変わり果てた姿を前に、高笑いを堪える。
「なんてことをしたのです三日月‼ お前、自分が何をしたか分かっているのですか⁉」
「……弁明はあるか、三日月」
眼の前には憤怒の形相のジュリエッタと、表情さえ無くしたヴィダール――Daddyが居た。
プライベートスペースだから、仮面は無しだ。
「ずっと機会をうかがっていた。後悔も反省もしていない!」
言い放てば、飛び掛かって来ようとしたジュリエッタを、Daddyが抱きとめる。
重々しい溜息。それから、ゆるく頭を振ったDaddyが、
「反省だけはしろ」
――反省だけでいいのか。
でも、あんまりしたくないんだけど反省。
むしろ全然したくないんだけど反省。
こてりと首を傾げれば、
「……ヴィダール」
地を這うような低音がDaddyを呼んだ。
「お前が甘やかし過ぎたのではないか。だからこんな……ふざけた真似をしてくれるではないか小僧がァ‼」
最後の叫びはおれに向けてか。
咆えるラスタル・エリオンの顔には、ご自慢のヒゲが無かった。
昨夜たっぷり塗ってやった脱毛クリームの威力は、宣伝に偽りなしってところ。
教えてくれたメイドさん有難う。ちゃんと『ラスタル・エリオンに使う』って言ったのに、教えてくれてホントに有難う――なんか恨みでもあったのかな?
「わーパパお肌スベスベー」
棒読みで言ってやる。
歳の割にはお肌のコンディション悪くないんじゃないかな。
「ぶは!」
無表情だったDaddyが吹き出した。我慢の限界を超えたらしい。
その腕の中で、ジュリエッタもぷるぷるしてる。『こんなとき、どんな顔をすれば良いかわからないの』って顔――笑えば良いと思うよ。思いっきり。
ラスタルは、苦虫を噛み潰したような顔で二人を睨んでから、おもむろにおれに向き直った。
「三日月、なぜこんな事をした?」
「あんたが嘘ついたからだよ。『士官学校をちゃんと卒業したらグラズヘイムに行っても良い』って言ったのに、戻るなり『モビルアーマーが出たから破壊しろ』で、壊して帰ってきたのに駄目だって」
どれだけ楽しみにしてたか知ってたくせに、この仕打ち。
お前にはひとの心が分からない。
慣れない寄宿舎で苦労しつつ、勉学に友誼にと邁進し、ようやくこの度、卒業証書をもぎ取ってきたってのに、さらに馬車馬みたいに働かせやがって。
屋敷の人間はみんなおれに同情してた。
「在学中に学舎を占拠しておいて何をぬかすか! 学内でクーデターを起こすなど前代未聞だぞ⁉ 穏便に収めるために俺がどれほど骨を折ったか‼」
何を考えているんだ、と、怒鳴るラスタルに肩をすくめて。
「『無能な味方は敵より怖ろしい』って考えただけだよ、パパ」
だって、あいつら家柄で成績改ざんとかしやがるから、証拠揃えて改善を求めただけだ。
紛い物の実力で配属されてみなよ。部下の命に係るし、部隊の命運も左右する。
上に戴くのも下に置くのもご免だよね。
それについては前にも報告して、一応、理解してくれただろ。
ついでに改革も進んでるみたいだし、良かったじゃないか。
「モビルアーマーを破壊するのは、我らギャラルホルンの使命だ。果たすのは当然だろう」
「なら自分で斃しなよ。レギンレイズ・ラスタルとかでさ」
乗れるもんならね。
ラスタルはがっくりと肩を落とした。
「大体、俺は『グラズヘイム行きを考えてやらんでもない』と言ったんだ」
「……どう思うDaddy?」
ヴィダールに判定を求めれば、
「ラスタル、お前が悪いぞ。三日月の性格からして予測できたことだろう」
顔を顰めてアライグマを嗜めた。
「むしろ髭だけで済んで良かったと思うべきだな」
そうそう。命と毛髪と眉毛は勘弁してやったんだ。アライグマはおれに感謝すべき。
「なぜ俺が責められる?」
物凄く心外だと目を見開くラスカ…ラスタルだけどさ。
「そもそも、お前が強引に三日月を引き抜いたりするからこういう事になるんだ。俺は何度も警告したぞ」
「――……」
そっぽを向くラスタル・エリオンに、ヴィダールが肩をすくめた。
「……さて、三日月。お前はこの後、ジュリエッタとダンスの練習だ」
「なんで⁉」
「おじさま⁉」
巻き込まれたジュリエッタも叫び、視線で抗議してくるけど、抗議したいのはこっちだ。
足は踏みまくられるし、脛は蹴られるし、なぜか投げ技のムーブはくるし!
あれはダンスじゃない! 一切の反撃を禁じられた格闘試合みたいなもんじゃないか‼
ガエリオを連れてこい。あいつなら殴られても投げられても笑って許すだろう――多分。
「たっぷり3時間はとれるな。さあ、行くぞ」
首根っこを掴まれたおれと、腕の中に捕まったままのジュリエッタを、Daddyがずんずん運んでいく。
「“悪い子”にはお仕置きが必要だろう」
――うぇへぇ〜。
見上げたDaddyのこめかみには、しっかり青筋が浮かんでいた。
アン・ドゥ・トロワで絞め上げられた――絶対おかしいよね!――せいで軋む体を宥めながら歩く。
反撃ができないから、いつだっておれだけがボロボロになる。
ジュリエッタ、おまえ今週はアナコンダだったの?
先週はカンガルーだったし。
つか、Daddyはおれへの罰則にジュリエッタを使うのを、いい加減に改めるべき!
睨みあげる視線を、ヴィダールの鉄仮面が素気なく弾く。
「お前のリードが甘いからだ」
「……メス虎用のリード紐持ってきてよ」
負け惜しみの憎まれ口に、低い笑いが返った。
「ジュリエッタをリードできるようになれば、どんな女だって完璧に踊らせてやれる――社交にダンスは付き物だと教えただろう」
猛獣娘をリードできる、稀有の存在であるDaddyが胸を張る。
そりゃそうかもだけどさ。
ふーっ、と、やさぐれた溜め息を落とす。
そもそも、何だっておれがこんな目に合ってるかって言えば、全部、アライグマのせい。
“ハシュマル”にとどめを刺した“三日月・オーガス”を欲したラスタル・エリオンが、強引に自らの養子に迎え入れやがったからだ。
おかげでいまのおれは、“三日月・オーガス・エリオン”なんだって。
所属はアリアンロッド艦隊。階級は三佐。
腐ってもセブンスターズ。ついこないだ士官学校を卒業したばかりだってのに、大層な出世だよね。
「……残念だったな、三日月。学内であれだけの騒ぎを起こせば、さすがに放逐されて鉄華団に戻れると踏んだんだろうが――甘かったな。ラスタルの髭は、その腹いせか」
仮面にくぐもった笑いが響いている。
見えなくても分かる。いま、Daddyはひどく意地の悪い顔をしてるって。
ああ、そうだよ。
奴らの遣り口が気に入らなかったのも勿論だけど、なかなかおれを手放そうとしないラスタルへ意趣返しのつもりだった。
音を上げさせてやろうと、散々イタズラと称した嫌がらせを繰り広げてみれば、性根を叩き直してやると士官学校へ放り込まれた。
ならは、校内でも問題の限りを尽くして見せよう。
寄宿校なんて閉鎖空間には、アライグマの目も届かないと思ったし。
『腐敗を糺す』とのお題目で同士を集め、クーデターを無事に成功させた。
これで放校処分になると踏んだのに。
蓋を開けてみれば、昨今の卒業生の質の低下を懸念したラスタル・エリオンが、養子であるおれを送り込んで内情を調べさせてた、なんて話になってるんだから。
多少やり過ぎたのは、養子が若い義憤に駆られたからだって。
おれは退学にならず、短い謹慎だけで済まされた。これじゃ疵にもならないね。
「Daddyだろ。情報操作したの」
「さぁなぁ」
すべてがラスタル・エリオンの利になるように整えられてる。こんなの、Daddyの他に誰ができるの。
ポンポンと、分厚い掌が宥めるように頭に乗った。
「だが、良くやった。クーデターも、二体目のモビルアーマー撃破もな」
太い指が髪を梳く――そんなんじゃ誤魔化されないよ。
クツクツと愉快そうな笑い声が落ちてきて。
「それにしても、よくぞあれだけ……個性的な人員を集めたもんだ」
――言葉を選んだね?
まぁ、鉄華団に負けず劣らすクセが強い連中だってのは認めるけど。
「優秀だろ」
クーデターを企てた主要メンバーは、卒業後にアリアンロッド船隊に配属されて、おれと一緒に扱き使われてる。
先日のモビルアーマー戦でも駆り出されたし――卒業直後で回ってきた任務がモビルアーマー討伐ってなんだよ。
そろそろ此処でもクーデターを起こしてやろうか、なんて、最近は冗談が本音混じりになってるんだよね。
「ところで三日月、オルガ・イツカ・クジャンが、これからグラズヘイムに向かうらしいな」
「そうだね」
「丁度、この先のゲートからだな」
「……そうだね」
そろそろ、ダッシュしてDaddyを振り切れないかと画策中。
“オルガ”がグラズヘイムへ行くのに乗じて――要するに密航を企ててる訳だけど、見抜かれてるんだよ。
ポン、とまた一度頭に手を置かれ、
「――帰ってきたら、ジュリエッタとダンスの猛特訓だ」
「なんで⁉」
「あの娘も、そろそろ俺以外とも踊れるようになってもらわねば困る」
振り返れば、Daddyはもと来た通路を引き返して行くところだった。
「今度も上手くやれ――ほら、船が出ちまうぞ」
振り向きもせず、ヒラヒラと手を振ってる後ろ姿に眉が寄る。
グラズヘイム行きはご褒美の積もりなんだろうけど、見逃すなら懲罰も無しにしてよね!
「この艦は占拠した!」
ホールドアップ、と、叫んでみたけど、びっくりしてくれたのは、たった数人の新人だろう人員だけだった。
「“ミカぁ”‼」
“オルガ”は例によって怒鳴るけど、
「おや。ハイジャックですか?
オーガス三佐、いま席をご用意しますね」
顔なじみの面々は、むしろニコニコしてるし。
「甘やかすな! ……ったく。よく抜けてこれたな?」
「半端に目こぼしされた感じ? つか、グラズヘイムに行くときはおれも連れてってって言ったのに、ひとりで行くのズルいよね!」
抗議すれば、“オルガ”が唇を尖らせる。
「グズグズしてると局長に引き留められるだろう。どうせお前は勝手に乗り込んでくるしな」
ヒドイなぁ。
席につけば、飲み物が差し出された――水色も美しい紅茶。いい香り。好みばっちり。いつもながら、素敵なおもてなしだ。クッキーも添えてあるし。
「ありがとう」と、礼を言って口をつける。ん。美味いわー。
ふーっと息を付きつつ。
「ハイこれ」
コートに仕込んでた小箱を、“オルガ”にむけて差し出す、
「なんだ?」
「カルタ姫にお土産。好みのお菓子だよ。どーせ用意してないんでしょ? “オルガ”からだって渡しなよ」
きっと、今頃カルタ姫は、ソワソワしながら“旦那様”が来るのを待ってるだろう。
なのに、“オルガ”ときたら、多分、鉄華団のことで頭がいっぱいのはずだ。
このまま手ぶらでグラズヘイムへ行ったら、夫婦喧嘩(一方的な)が勃発する。
「ちゃんと、“オルガ”の筆跡でカードも用意したから」
『俺の可愛い妻へ いつも心は傍に』ってさ。
箱の中に入ってる。
癖の強い字だから真似やすいって、おれの元学友現部下がほくそ笑んでた。
ちなみに一番得意なのは、ラスタル・エリオンの筆跡――だから、今回の外出許可証(提出済)にも、しっかりバッチリサインはあるってこと。
「“ミカ”のくせに生意気だ!」
“オルガ”が締め上げにくる。
なにそのジャイアニズム⁉ おれ、のび太じゃないよ!
やめてよ、他の土産が潰れるじゃないか‼
デコボコしてるコートに気づいてか、“オルガ”は手を放してくれた。
「……なんだ、まだ何か仕込んでんのか。って言うか、ずっとそのコート着てるんだな、お前は」
そうさ。鉄華団のコートだ。
アリアンロッドの隊服を着ても、必ず上に羽織ってる。
だって、おれは“鉄華団の三日月・オーガス・エリオン”だし。
ちょっと余計なモン付いたけど。
「アライグマだって、セブンスターズの制服の上からアリアンロッドの隊服を羽織ってるだろ」
文句は言わせん――まぁ、総スルーしてるだけだけど、文句。主にアライグマからの。
それはさておき。
「楽しみだな。みんなに会うの」
ずっとずっと楽しみにしてたんだ。通信の遣り取りは結構してるけど、直接は会えないから。
いまさらの学園生活だって、それを励みに乗り越えてきたんだし。
あんまりおれが「鉄華団」「鉄華団」言いまくってたから、学友になった奴らがちょっと拗ねるような事もあったけど。
元気なのは知ってる――でも、早く顔を見たいんだ。
「三日月さん!」
「ライド‼」
飛びついてくるライドを抱きとめる。
お前、背が伸びたな!
もうすぐ抜かされそう。
跳ねまくった明るい赤毛も、キラキラする大きな灰緑色の眼も変わらないけど、その顔には精悍さが増していた。
育ってるわー。
いつかの時間軸の暗さは微塵もない――感慨ひとしお。
後ろに控えてるタカキとアストンも、見違えるくらいに大人びていた。
「おかえりなさい」
「おかえり」
金髪と黒髪、蜂蜜と深緑。並び立てば絵になる二人だ。爽やか系とクール系――なんだイケメンかお前ら。羨ましい限り。
この分じゃ、妹のフウカもさぞかし美少女になってるだろうけど――なんでか会わせて貰えないんだよ。
グラズヘイム1に着いて船を降りれば、真っ先に出迎えてくれたのは彼らだった。
それから、
「おかえりなさいませ、クジャン一佐、エリオン三佐」
うお。硬い挨拶だな。
何度文句を言っても、縞パン(青)の兄――コーリス・ステンジャだけは、おれを“エリオン”姓で呼ぶんだよね。
かちりと踵を合わせた敬礼。その後ろで部下らしき一群もビシッと。
「ああ、戻った」
「ただいまー」
ぐるりと見回すけど、カルタ姫の姿はない。
多分、誰より“オルガ”を出迎えたいだろうに、副官にでも止められたか、それとも生来の真面目さで我慢してるのか。
「准将は」
「執務室でお待ちです」
“オルガ”の問いに、コーリスが苦笑して答えた。
「――ミカ、俺は一旦向こうに寄ってくる。お前は、まっすぐ行くんだろ?」
「うん」
「それじゃあ、後でな」
おう。夫婦水入らずで過ごすが良いよ。
ヒラヒラと手を振る。
“オルガ”を追うようにして、コーリス達も去っていく。
さて、おれは古巣に帰るとするよ。
エリアに足を踏み入れるなり、
「おっかえり――!」
「おかえりなさーい!」
「もっと帰ってきてよ!」
「お土産は? 三日月さん!」
すっかり大きくなった元チビ共が飛びついてくるから、身動きが取れなくなった。
「たーだーいーまー」
やっぱりここが帰る場所、だよね。
ギュウギュウ抱きしめながら、しみじみ実感する。
――ヲイ、トロウ、ポケット漁るな。
って、まあ良いか。
「土産あるよ、ほら」
ポケットから幾つも包みを出していく。これ以外のものは、送っといた。抱えきれないからね。
歓声をあげながら土産をほどいていく姿に目を細める。
ライドも、エルガーもエンビも、ヒルメもトロウも、それぞれに気に入ったものがあって良かった。
イーサン、ウタ、アラタ、お前らのもあるから遠慮すんな。
気分は出稼ぎから帰宅したお父さんってところ。
わらわらと出迎えてくれるメンバーは、さしずめ兄弟か。
例によってキスの嵐。みんなも慣れたもので、ハイハイと受け入れてくれる。
「ちよっと三日月、送られてきたあのキャンプセットは何⁉ まさかここでバーベキュー・キャンプやる気なの⁉?」
その通りだよビスケたん。
無事に届いてて良かった。
海でも山でもないけどさ。グラズヘイムの展望エリアから、地球を眺めながらキャンプなんてのもオツなもんだろう?
煙の出ないBBQ装置、牛数頭分の肉や野菜の山やら何やら、全部用意したおれに死角はない!
「千人規模での焼き肉大会かよ!」
シノが爆笑している。
だってそれくらいだろ? ジャンニ達も居るんだし。縞パン(青)の兄とかも来るかも知れないじゃないか。
「三日月、資金どーしたんだよ? アリアンロッド、そんなに給料高いの?」
良いなーと、突っついてくる昌宏やデルマを突っつき返しながら、
「これまでの給料とモビルアーマー討伐の“ご褒美”、ほとんど注ぎ込んでみた」
胸を張れば、「うわ無駄遣い!」とビトーに仰け反られた。
「『宵越しの金は持たぬ』だっけ?」
ペドロが首をかしげる。
「そこまでじゃない」
だって、食費とかの必要経費はエリオン家から出るからさ。
あとは艦隊の食堂にいくと、“先輩”たちが賭ポーカーやってるから、巻き上げればお小遣いくらいにはなる。
無表情と微笑みを使い分けて、完璧なポーカーフェイス――イカサマもバレないし。
「本当に士官学校卒業できてんのかコレ?」
「清々しいくらいにいつもの三日月だな」
「相変わらずヒデェな」
失礼だな、ユージンにアインに昭宏。
「アリアンロッド艦隊大丈夫なのか?」
チャド、お前もか。
「……いい加減に自重を覚えろ」
――アダダダダ‼ やめろ! クランク仁王‼
その恐るべき握力からなんとか頭を奪い返して、
「……ダンテとアトラは?」
我らが頼れる情報参謀と厨房の天使が居らぬではないか。
真っ先に出迎えてくれると思ったのに。
「ダンテなら、お前が送ってきた何かの部品を、踊り狂いながら例の装置に組み込んでる。ちなみに他のメンバーは、肉やら野菜やらの仕分けだ――アトラは張り切ってたけど、デクスターさんなんか卒倒しそうになってたぞ」
呆れ顔でユージンが教えてくれる。なるほど納得。
「キャンプ、楽しみだなぁ」
ライドがニコニコしながら腕を引っ張る。
「行こう、三日月さん、俺お腹空いてきた!」
はいよ、じゃあ行こうか。
ゾロゾロと歩き出す――けど、ビスケたんやクランクは後からくる“オルガ”を待つとのこと。
じゃ、後でね。
「なんか懐かしいな。ミレニアム島思い出す」
「あー、あれなー。魚美味かったよなー」
「今度は肉だな!」
「また踊るの?」
「踊るんじゃねぇか?」
「さー、食うぞー‼」
「おお!」
「その前に設営だろ!」
「そーだった。早くやっちまおう!」
賑やかだ。
辿り着いた先では、テントやBBQコンロが設置されつつあった。
積まれた荷物が、我ながら圧巻。まあ、食い尽くされるだろうけどさ。
動力はグシオンリベイクとフラウロス。燃料使うわけにはいかんからね。
「三日月‼」
忙しく立ち働く中から飛び出してくるのは、アトラだ。
伸びた髪が柔らかく揺れて、満面の笑顔で。
うわ。娘らしくなっちゃって!
真っ直ぐに飛び込んでくるのを受け止めれば、周りから囃し立てる声が。
「よっ色男!」
シノが口笛を吹いて、
「三日月さん、『港ごとに女がいる』ってホントー?」
止めろ昌宏。イテテ、抓るなよアトラ!
唇を尖らせての上目使いは可愛いけどな。大輪の花とは違うけど、デイジーとか野バラみたいな可憐さ。
まだ稚さを残す頬に手を添えて。
「……キレイになったな」
ポツリと言葉が口から落ちれば、アトラの顔が真っ赤に染まった。
「うわ〜! これだから三日月はよ‼」
ちょッ、やめろ叩くなシノ!
「三日月さんには絶対にフウカを会わせないからね」
ヒドイなタカキ、真顔で言わないでよ――アストンまで頷いてるし。
そんなこんなで、さあ、野郎ども宴だ‼
梱包を解くだけでも大仕事だけど、食材が顔を出すたびに歓声が上がる。
見れば、鉄華団の団員は勿論、ここの隊員たちも、元夜明けの地平線団――いまは“LIBERTYーSEOULS”だっけ――の面々も混ざっていた。
うん。参加制限は設けてないからね。ジャンニは――まだ来てないか。
できれば展望ブリッジでやりたかったけど、ちと手狭っぽかったので、格納庫内に設営している。
動力源も近くにあるしね――まあ、プロジェクター使うにはこっちの方が良いかも。
ようやく巣窟から這い出してきたらしきダンテを巻き込んで、セッティング。
投影範囲は壁から天井まで広範囲だから、プロジェクターの数も多いし角度も複雑――テストで投影して見れば、壁や天井に鉄華団のエンブレムが大きく映し出された。
「わぁ!」
「鉄華団だ! すげぇ‼」
見上げた連中のはしゃぐ声に、ダンテと顔を合わせてニンマリと笑う。
「『お楽しみはこれからだ』」
「『ポチッとな』」
用意してた映像を投影すれば、そこは地球上の楽園。輝く太陽と青い海、白い砂浜に、扇情的な水着――チビ共もいるから全露出は無しだ――に身を包んだ女神たちが降臨した。
たわわなお胸様やブリプリの尻神様たちの、ウインクや投げキッス。
途端に、物凄いどよめきと歓声と口笛と――
「“ミカ”ぁぁァ!!!」
本気のチンピラキックが来た。ギリっギリで回避したけど。
「危ないじゃないか“オルガ”‼ なにすんのさ⁉」
「お前が何してんだ⁉」
って、奥さんに気を遣ってんのかも知れないけど、大丈夫でしょ――ほら、めちゃくちゃ笑ってるし。
後から来たらしきカルタ姫は、しゃがみこみそうになるくらい笑いの発作に囚われていた。
「お久しぶりです、義姉上。ますますお美しくおなりですね。“オルガ”が羨ましくなります」
居住まいを正して挨拶をすれば、それすらも笑いを誘発するらしく。
「み…みか、ふふふ、三日月、久しぶり…ね。ふ、ふふふふ…」
あとは言葉にならないみたい。“オルガ”が背中を擦ってあげてる。
“オルガ”がジロリと視線を寄越して。
「……クランク」
え、なに、その『先生、よろしくおねがいします』みたいな指示は。
そしてやめろ、クランク仁王! おまえ用心棒か‼
「アダダダダッッ!!?」
鷲掴みにすんな、ぎゃあああッ!
うごうご藻掻いてなんとか頭を奪還する。
装置のもとに逃げ帰れば、顔を青くしたダンテが、ブルブルしながら。
「……『ポチッとな』」
操作する先で、美女たちは掻き消えて、ただ美しい南の海の光景だけが広がった。
ぶーぶーと巻き起こったブーイングは、“オルガ”の形相と、仁王立ちのクランク、そしてようやく笑いを収めたらしきカルタ姫を前にして収まっていった。
まったくもう、お固いんだから。
ともあれ、設営は済んだ。
だいたい揃ったみたいだから始めるかね。
「さあ! 皆の者、肉を焼け‼」
号令一声。
「「「「「「「「うおおおおおおおおおおぉ‼‼‼」」」」」」」
全方位から雄叫びが返り、あとは酒池肉林だ。
至るところで、肉が、野菜が、ときに魚が熱に炙られ、じゅうじゅうと焼けていく。
立場も階級も超えて、みんな笑顔で大騒ぎをしてる。
ビスケたんが、シノが、アストンが。
クランクとアインが。
ダンジにハッシュ、ガッドも、ディオスも。
エルガーとエンビ、ヒルメ、トロウ。イーサンにウタ、アラタ――チビ共もみんな揃ってる。
昭宏は昌宏とラフタと。
ペドロにビトー、それからデルマが両手に串を持って。
ユージンにチャド
アトラも、ライドもヤマギも、影のない顔で笑ってて。
“オルガ”は、カルタ姫と一緒に。
ダンテはおれとバカをやってて。
縞パン(青)の兄、コーリスは苦笑いだけどさ。
おやっさんとメリビットさん。デクスターさんも――いつかの時間軸では名前さえ出なかった連中も。
鉄華団に、ギャラルホルンに、元海賊たち。
みんな、生きて、揃って、この場に居るんだ。
ようやく。
――ようやく、ここまで来た。
ね、“オルガ”。おれたち、良くやったよね。
しみじみと眺めていれば、
「三日月……いや、今はエリオン三佐か」
後ろから声をかけられて、振り返る。
「ジャンニ、次そう呼んだら返事しないよ」
「そうもいかんだろうよ……」
眉をハの字にさげるジャンニだけど、ここは譲らぬ。
じっと見据える先で、かつての相棒は肩をすくめ、それから軽く息を吐いた。
「分かった――三日月。久しぶりだな」
「ん。ジャンニも元気そうだ」
「おかげさまでな――お前は、色々とやらかしてるみたいだな」
ニヤリと笑う顔は、前より更に穏やかで、ずっと貫禄がついていた。
「遅くなったが、卒業おめでとう。二体目のMA撃破もな」
長い指が頭の上に乗って、いつかみたいに髪を梳いた。
懐かしさに目を細める。
「ジャンニも。“LIBERTYーSEOULS”団長なんて出世したね」
「お前が言うか」
「おれなんか、良いように扱き使われてるよ――絶対に仕返ししてやる」
――ヒゲだけで済むと思うなよ、アライグマ親父め。
ブツブツと文句を零せば、ジャンニが苦笑いする気配。
「なぁ、眺めてるだけじゃ腹は膨れんだろう。食いにいかないのか?」
「行くとも……だけどさ」
あとちょっとだけ、眺めてたいんだよ、この光景を。
「……もっとさ、増えるといいな」
「これ以上か?」
「そうさ。グラズヘイムなんかに収まらんくらいに」
ヒューマン・デブリなんてものが無くなって、孤児だって腹いっぱい食えるようになれば良いなって。
「“オルガ”だって、そう思ってるだろうし」
「……ったく、お前らの“夢”はデカいな」
「“目標”って言ってよ」
夢なんて儚いもんじゃないんだ。
そのためには、先ず――『腹が減っては戦はできぬ』ってね。
このあと、みんなで滅茶苦茶に肉を喰った。
キャンプはまだ続いていた――仕事上がりの連中の途中参加があるから、多分、明日になっても終わってないかも。
まあ、肉が食い尽くされるまでは続くだろう。
縞パ…コーリスは風紀がどうとか言ってたけど、お前だって肉食ったじゃないかと突っ込めば、大人しくなった。共犯だからね。
散々食べて脂臭くなったから、一度離脱してシャワ―を借りた。
そのまま展望ブリッジに上がって、星の海に浮かぶ地球を眺める――ホントに青いな。
みんな格納庫の方に行くから、ここは割りかし静かだ。
格納庫で流してるだろう音楽が、ここのスピーカーからも控えめに流れていた。
「……三日月」
遠慮がちな声に振り返れば、カラメル色の瞳を、いつもよりウルウルさせたアトラが居た。
情けなく眉が下がって、服の裾をギュッと握って。
「アトラ、どーした?」
誰かに虐めれたんなら、ソイツ殴ってきてやるけど。
聞けば、ふるふると首が横に振られる。それに合わせて、長くなった髪も揺れた。
「ねえ、三日月。わたしも、“エリオン三佐”って呼ばないと駄目なのかな?」
「は?」
泣きそうな顔で何をいうかと思えば。
「そう呼んでるやつ、縞パ…コーリス・ステンジャ以外に誰かいた?」
少なくとも、このグラズヘイムで。
「むしろ、そう呼ばれても、おれ返事しないけど」
だから最近、アリアンロッド艦隊でも“オーガス三佐”で通ってるってのに。
答えれば、『あれ?』って顔で瞬きをしたアトラは、次の瞬間にパアッと笑顔になった。
「三日月!」
甘い声。以前の、小さかった少女と変わらない明るさで、だけど、娘特有の艶やかさをどこかに添えて。
ん。ホントに綺麗になったね。
「アトラにも土産あるよ」
ゴソゴソと引っ張りだして、手渡す――そこまで値の張るもんじゃないけど。それなりに。
「クーデリアとフミタンとお揃いな」
彼女達には、先に送ってあるんだ。色とデザインはちと違うが。
「もーーッ! そーゆーとこだからね‼ 三日月‼」
満面の笑顔が一転して、鬼女のそれ――にはなれてないね。膨らんだ頬が可愛らしすぎて。
プククと、笑いが落ちれば、アトラは更に拗ねた顔になったけど。
「開けてみなよ。アトラに似合うと思った」
促せば、唇を尖らせながらも、その指が包みを開いた。
小さく精緻な花を幾つも束ねた、小さなブーケみたいな髪飾り。
「わぁ、綺麗‼ でも……ホントに似合うかな?」
瞳をキラキラさせて、期待と不安が入り混じった表情。
「似合う」
断言。おれが選んだんだからね。
くるりと後ろを向かせ、ミルクティーみたいな色の髪をかき上げる。途端に、ビシッと硬直したみたいに固まられた――そんな直立不動にならなくても、髪くらい結えるから。
緩いハーフアップアレンジにして、髪留めで飾る。
「ほら。綺麗だ、アトラ」
予想以上。今度は、これに合うイヤリングとネックレスも良いな。
チョコ…マクギリスの挙式も近いわけだし。
真っ赤になってるアトラの指先をそっと取って。
「アトラと最初に踊る栄誉を、おれにくれる?」
「え? えええっ⁉」
踊れないよ、と、慌ててるアトラの手と腰をとって、少し強引なくらいに引き寄せれば、タタンとつま先が追いかけてきた。
そのまま流れてる曲に乗り、スキップみたいなステップ。跳ね回るみたいな軽い動きに、アトラはよく付いてきた。
戸惑う表情は、すぐに楽しそうな笑顔に変わる。
そうそう。女をいかに楽しく踊らせるかが、男の技量だって、Daddyが。
楽しげに踊る女は美しい。その美しさを引き出せるようになれと。
猛獣娘を相手に、散々、頑張ってきた甲斐があったね。
「三日月、ありがとう!」
腕の中で、頬を赤くしたアトラが笑ってる。
髪飾り、気に入ってくれたみたいで何よりだ。
「どういたしまして」
星の海に浮かんでいるブリッジを所狭しと踊っていれば、やがて曲か終わる。
ふわりと持ち上げた体を、またふわりと降ろしてやって、最後の礼まで。
少し息が上がったアトラが、名残惜しそうな視線を寄越したけど、どうやら時間切れだ。
「三日月さん! いた‼」
「あ! アトラも一緒にいる‼」
「イチャイチャしてるー?」
「ラブラブだー!」
「やめろよお前ら! リア充に爆撃されるぞ‼」
「マシンガンで?」
「機関砲じゃないか?」
「レールガンだよ!」
――ライドとチビ共が揃って雪崩込んで来たからね。
って、エルガー、リア充が爆撃するんじゃない。リア充を爆撃するんだ。
そして跡形も残す気ないな、ウタ、ヒルメ、イーサン。
「お前等も踊る?」
「マイム・マイムがいい!」
「ジェンカもやる!」
「あっちに戻ろうぜ‼」
「早く早く!」
「アトラも‼」
両腕を引っ張って連れて行かれる。
さて、またあの肉祭りの最中に戻ろうかね。
グラズヘイムへの滞在は、7日目で強制終了された。
本当は、“オルガ”の休暇にあわせて、きっかり10日間を予定してたのに、Daddyが迎えに来たからだ。
まだ帰らないと駄々をこねたけど、さすがにおれの元学友部隊が海賊討伐に出撃と聞いては、戻らないわけには行かなかった。
鉄華団は“家族”だけど、ヤツラは“仲間”だからね。
悪党ども、最近、ユニオンらしきものを組みやがって、アチコチで出没しやがるんだよ。
略奪やら誘拐やらを取り締まるのも、ギャラルホルンのお役目だ。
「おれの“幸せな時間”を邪魔しやがったツケは、しっかりキッカリ支払わせてやる」
ギリキリと奥歯を噛み締めて呟けば、
「そうだな。散財分しっかり働け」
と、厳しい声が。
今回の出費額を知ったDaddyは、結構なオカンムリだ。
激烈に説教された挙げ句、おれの今後の給料は、大半が積立てられることになった。
なんてこった。
自由にできる金が欲しければ、余計に働くしかないってこと――世知辛い世の中だよね!
地上で言うところの4月と5月は、ほとんど艦の中で過ごした。
その間で、2つの海賊団を潰してやった――勿論ヒューマン・デブリはガッポリいただいた――けど、海賊側から賞金をかけられるという良く分からない事案も発生した。
思ったよりショボイ額でガッカリ。BBQキャンプ2回分くらいかな。
元学友現部下sには、『お前を売ればMSのカスタムできるかな?』とか真顔で聞かれた――友達とか部下ってなんだろうね?
ともあれ、いまは6月。
マクギリス・ファリドとアルミリア・ボードウィンの結婚式に出席する為に帰還したおれは、屋敷につくなりピカピカに洗われ、磨きたてられてセブンスターズの礼服を着せられた。
鉄華団のコートは取り上げられたけど、礼服の胸元には、七星勲章に加えて鉄の華のエンブレムが縫い付けられていた。
眼をかっぴらいて衣装係を凝視すれば、得意げな顔でサムズアップされた。
「良い仕事してる!」
と、思わず拍手が出た。
例によってラスカ…ラスタル・エリオンは文句をつけてきたけど、「また制服全部に訳のわからないアップリケ付けられたいんですか」と、素気なくあしらわれていた。ザマァ。
でも、“訳のわからないアップリケ”じゃなくて、“記憶を頼りに描いたラスカル”な。
――確かに、なんかコレジャナイ感が満載だったけど。
そんなこんなで、カテドラルへ。
正装したヒゲなしラスタル・エリオンと仮面なしのヴィダール、それからネモフィラみたいな青のドレスを纏ったジュリエッタと一緒に式場へと降り立てば、既に見知った面々の姿があった。
駆け寄ってタックル。
「「うわぁ⁉」」
立ち話に興じてたらしきビスケたんとユージンが、振り返るなり。
「三日月!……『馬子にも衣装』だっけ?」
「お前、本当にセブンスターズなんだな――って、そのエンブレム、やっぱり鉄華団かよ!」
うん、君らも相変わらず――なんて、おめかしのフォーマルスーツ、サマになってる。
さすがに鉄華団団長さまと、参謀さま。貫禄出てきたよね。
「よう、三日月・オーガス・エリオン様。ご機嫌麗しいかぁ?」
トド。お前も来てたのか。
剽げた風貌は変わらず。だけど、いまやこのチョビヒゲは、情報を操る方面では怪物並みに畏れられてる。
「「三日月さん、お久しぶりです!」」
おお! 小さな淑女たち、久しぶりだね。
クッキーとクラッカ――ビスケたんの双子の妹たちは、淡いピンクとオレンジの色違いのワンピースだ。
裾がフワフワと広がったスカートは、少女らしくて可愛らしい。
「見違えた。花の妖精かと」
スイートピーの乙女たちの伸ばされた指先に、触れるか触れないかのキスを。
きゃあきゃあと嬌声が上がって。
「三日月さんたら、本当に三日月さんなんだから!」
「そーゆーとこですよ、三日月さん!」
満更でもなさそうに、裾を摘んでくるりと回って見せるくせに、口から溢れるのはそんな言葉。レディたちは複雑だね。
「三日月、離れて。ほらほら、ほら!」
ビスケたん、そんなに追い立てないでよ。
苦笑いして視線をめぐらせれば、
「女神か⁉」
大輪の花々が居た。
濃紫のアイリスみたいなフミタン・アドモスと、真紅の薔薇みたいなクーデリア・バーンスタイン、そして金糸雀色のフリージアみたいなアトラ。
それぞれに贈った髪飾りを付けてくれてるし。
あまりの麗しさに、一瞬クラリときた。
その場の空間さえ輝いて見えるってどーゆーことさ。
ポカンと見惚れていれば、女神たちは艶やかに笑いながら近づいてきた。
「三日月! 見て見て! 似合うかな?」
うん。めちゃくちゃ似合ってるよ、アトラ。
「三日月、髪飾りありがとう。似合いますか?」
もう薔薇の女神で良いんじゃないかな、クーデリア。
「三日月、私にまでありがとうございました。如何でしょう?」
色香に迷って帰れなくなりそうです、フミタン。
一人ずつ、指先にキスを贈る栄誉を貰う。
ふわりと漂う柔らかな香りに、心拍数が跳ね上がった。
「三日月!」
邪魔をするのは誰だ――って、イオク・クジャンか。更迭されたとは言え、クジャン家当主は、変わらずにこの男だ。
「ご無沙汰しております。クジャン公、お変わりなさそうで…」
「堅苦しい挨拶はいい。お前はわたしの義息子でもあるわけだしな! 活躍は聞いている、クジャン家としても鼻が高い!」
キラキラした眼で、上機嫌に言ってくる。うん。セブンスターズの中で、おれの“活躍”を純粋に評価しちゃうのは、この男だけなんだよね。
士官学校占拠事件すら、未だにラスタル・エリオンの指示だったって信じてるくらいだし。
コレじゃ“オルガ”は苦労してるだろう――あんまり『ばかわいい』は好みじゃないから。
やんわりと離れようとしたけど、がっつり腕を取られ、セブンスターズ用の貴賓席へと引きずって行かれた――ああ、女神たちが遠ざかる。
カルタ姫はいつもの笑い上戸。“オルガ”の唇が、『Behave good!』って動いてた。
バクラザン家とファルク家の当主たちは、生温い眼差しを向けてくるし。
「ご無沙汰しております、バクラザン公、ファルク公」
お行儀よく頭を下げてみれば、
「ほう。あの“悪タレ”が、まともに挨拶できるようになったか」
ヒドイなネモ爺ちゃん。
たけど、仙人みたいな容貌で笑うバクラザン公からして見れば、おれも“オルガ”も、ラスタル・エリオンでさえ、一括りで“悪タレ小僧”なんだそうな。前に会ったとき、そう言ってた。
ちなみにカルタ姫は“跳ねっ返り”で、ガエリオとイオクは、それぞれの意味で“ボンボン”。マクギリスは“猫っ被り”だってさ。
用意された席につけば、
「まったく。あなたは少しの間も大人しくしていられないのですか!」
眉を逆立てたジュリエッタからお叱りがくる。
「まあまあ、三日月なんだから仕方ないだろ? いつもより大人しいじゃないか」
って、ちゃっかり隣を陣取ってるガエリオが変な取りなしをしてくれた――ちょっと離れた席から、ボードウィン家の当主が複雑な顔で息子を眺めている――あ、こっち見た。どーも。
「よそ見をするな。そろそろ式が始まるぞ」
「はいよ、Daddy」
良い子にしてるさ。
ラスタル・エリオンは一瞥もせずに、ずっと壇上を睨みつけてた。
静謐な青の空間。
ステンドグラスを通した光は、その場を神聖なものにしていた。
壇上には三人の人物。
老齢の司祭と、うら若き花嫁、そしてその夫となる男。
純白のドレスとヴェールを纏ったアルミリアは、まるで自身が柔らかな光を放っているかに、美しかった。
初々しさ、愛らしさ、そして凛とした勁さとしなやかさ――そんなものを全部、その小柄な躰に収めて、少女はこの場に立っている。
その隣で、マクギリス・ファリドは、微動だにしない。その自信に満ちた姿ときたら。
セブンスターズの正装は、その容貌によく映えた。生まれ育ちがどんなものであれ、この男には、きっと、これが相応しかったんだろう。
年の差こそあれ、互いに見交わす眼差しには、慈愛と熱情が浮かんでいた――末永く幸せに爆ぜろ。
誓いの言葉。いつかの時間軸では叶うことのなかった少女の恋が、いま、ここで実を結ぶ。
赤く染まった頬を流れ落ちた涙は、悲しいものでは決してない。
――良かったね。
今も何処かで悲劇は起こってるし、おれの手はいつだって血で汚れてて、ずっと煉獄に繋がれてたとしてもさ。
ときおりこんな、楽園みたいな光景を目にするから、思うんだ。
楽園なんて、煉獄にしかないのかもって。
天の国は遠くても、幸せは、いま、確かにここにあるから。
誓いのキスに、参列者が大いに湧いて、暖かい拍手に歓声――ガエリオは号泣してるけど。
厳かな式は滞りなく終わり、それから、みんなで外に出て、改めて新郎新婦がカテドラルから出てくるのを待ち構えた。
これからブーケトスもあるからね。未婚の乙女たちはこぞって階段下に並んでいた。
「ジュリエッタは行かないの?」
ガエリオがションボリしてるじゃないか。
「わたしは嫁になど行きません!」
「ジュリエッタの花嫁姿も凄く綺麗だと思うけどな」
「またそんなことを」
「だよね、Daddy?」
「ああ。美しいだろうとも」
穏やかな微笑みを向けるDaddyに、ジュリエッタの頬が赤く染まる――ガエリオ・ボードウィン、敵は強大だぞ。
「ジュリエッタは嫁になど行かぬでも良い」
ラスタル・エリオンが拗ねているけどさ。
「ほら、花嫁たち出てくるよ」
言って手を引けば、渋々を装って、だけどワクワクした素振りを隠しきれてないジュリエッタが付いてくる。
階段下は、まさに花園だった。
「締まりのない顔をするんじゃありません!」
って、ジュリエッタは言うけどさ。
紅薔薇にアイリス、フリージアにスイートピー達、それからネモフィラだろ。
その美を如何に褒め称えん――詩人の才がないことが悔やまれるね。
少し後ろに控えて、その様を眺めていれば、聖堂の扉が開いて、いまや夫婦となった二人が姿を現した。
輝かんばかりの笑顔って、多分、こーゆー感じなんだろうね。
アルミリアが、そりゃ晴れ晴れと笑っていて、マクギリスの顔も明るくて――でも、ちょっと涙目になってる。感極まったのかな。
わぁっと、歓声と祝福の声が。
アルミリアが華奢な手を振って、それから、蘭に百合に薔薇、白い花だけを束ねたブーケを、大きな身振りで空に放った。
花は綺麗な放物線を描いて――手を伸ばした乙女たちの頭上を軽やかに飛び越えた。
――え?
ぽすり、と、目の前に落ちてくるから、思わず受け止めちゃったけど。
手の中で、白い花びらたちが笑うみたいに揺れてる。
――えええええええっ⁉
「三日月!」
乙女たちの驚きの声――そりゃそうだろう。おれもビックリだ。
「すごーい、三日月!」
いや、凄くないよクッキー、これは事故だ!
「次は三日月の番かぁ!」
どーしてそーなるんだよ、クラッカ⁉
「よう三日月、次の花嫁になる気分はどうだぁ?」
調子に乗るなチョビヒゲ、と、トドの顎を下から掌底でパシンと。
そして、マクギリスは笑いすぎだ。
しかし、どーしたもんかね。
ブーケなんて、おれが貰っても仕方ないし。誰かに渡すか、と、顔を上げれば。
なんか、キラキラを通り越してギラギラ光る三対の瞳があった。
ブワッと冷や汗が吹き出す。
「み、三日月……それ、わたしに頂戴」
カラメル色の瞳をカッと見開いたアトラが、ジリジリと。
「三日月、それは是非とも私に」
クーデリア、ちょっと瞳孔開いてないかな⁉
「三日月、お嬢様のために、それは私にくれるのでしょう?」
唇は笑みの形だけど、瑠璃色の眼は全く笑ってないよフミタン‼
ヒールのつま先がジワジワ迫ってくるのに、モビルアーマー以上の脅威を感じるのは何故だ⁉
ああ、もう後がない――背中が植え込みに当たってチクチクしてる。
ヘルプ! 誰かヘルプ‼
視線を彷徨わす先で、Daddyが大きく手を振るのが見えた。
「――三日月! 出動だぞ、来い‼」
なんと! 出動とあらば仕方ないよね、レディたち。
キリリと表情を引き締めて、一礼。
「はいよ、Daddy!」
答えて、白いブーケを再び空に返す。
さあ、仕切り直しだ。
染み入るような青い天蓋にむけて、女神たちの楽しげな歓声が舞い上がる。
伸ばされた指の先、誰がブーケを手にするのかは知らないけど、みんな幸せな花嫁になれるだろう――とびっきりの乙女たちなんだからさ。
Daddyの元に駆け寄れば、聞き知った海賊団の名を告げられた。あれ、それおれに賞金かけた奴らじゃないか。
よし、世界の平和とおれの為に、思い切り搾り取ってやろう。
踏み出す足は力強く。
いつかの時間軸が終わりを告げても、この時間軸はまだまだ続いていく。
――ねえ、“オルガ”。
ゴールなんて無さそうだからさ、皆で駆けてかなくちゃね。
今日に続く明日も、ずっと――。
最後までお読み戴きありがとうございました。
鉄オル成り代わりは、これにて完結です。
以下は、“オルガ”と“三日月”の“昔”について疑問を戴きましたので。
さて、本当の“昔”は、次のうちどれでしょう。
①土方&沖田
②頼朝&義経
③吉宗&有馬氏倫
④ロベスピエール&サン・ジュスト
⑤アレクサンドロス&ヘファイスティオン
⑥ハドリアヌス&アンティノウス
⑦聖武天皇&吉備真備
⑧藤原道長&藤原行成
⑨上記全部
⑩んなわきゃねぇ!!
……宜しければ、続編(?)の「ザビ家成り代わり」もご覧くださいませ。