霊長ですから。
でもま、とりあえず勢いでなんとかなるもんです。
なにせ若いから。
言葉にすると、心がその通りに動いていく。
考えながら動くより、動いた結果が自分の考えになる。
難しいけど、要するに私は物を考えるのが苦手なのだ。
だから、どうしていいか分からない。
他ならぬ、大喜くんの事だ。居候先の子で、背中を押してくれた子。
あの時の私は、モヤモヤしてはいてもそれをハッキリと形に出来なかったから。大喜くんと話して、あの日の後悔を思い出して。そこで漸く、思いが結実してくれた。
栄明に残りたい、と強く思えるようになった。
一緒に住むようになって、色々と知ることは多かった。男の子なんだな、と思うことも色々とあった。
でも、それはどういう感情と言えば良いのか。見当も付かない。
私は何をしたいんだろう、どうなりたいんだろう。
考えが上手く形にならないまま、私は今日も練習に耽る。
バスケは、大事だから。
とにかく動く、動く、動く。何も考えず動いていくと、頭に残っていた色々な感情も消えていく。
それが、心地良い。その筈なのに。
どういうわけか最近は、そういう風に行かなくなっている。
きっとそれは、答えが見えないからだろう。大喜くんへの、答えが。
私は大した人間じゃない。それなのに大喜くんは、私を尊敬してくれている。だから大事なんだろうか。いや、違う気がする。
ああ、面倒だ。こういうのは、得意じゃないのに。
もっとシンプルに生きたい、子供の頃みたいに。お母さんから貰った夢が、そのまま私の夢。そう思えた頃みたいに。
練習後に整体院でたまたま一緒になって、蝶野さんとの帰り道。
この子も背負うものはいっぱいあるだろうに、それを感じさせない。私と違って、考えがあって、それを実行するために動ける人。起きたことに理屈を後から付け足す私にしてみれば、羨ましい限りだ。
そんなことを考えながら、おしゃべりをして。その話の内容は、やっぱり。
「大喜って、ホントどうしようもないバカですよね」
「んー、かもねぇ」
やっぱり大喜くんの事だ。蝶野さんは大喜くんの話をするのが大好きで。大喜くんが、大好きだ。
輝く笑顔で、嬉しそうにその名前を口にする。とても可愛らしい、そう思える。思えるのに。
――どうして、胸がザワめくんだろう。
別に誰が誰を好きになろうと、それで良いじゃないか。どうして私がこんな気分になるんだろう。
猪股家へ戻って、部屋へ上がりベッドに倒れ込む。
蝶野さんと話すのは楽しいけど、圧が強いから結構疲れる。
そしてそれ以上に、あのザワめきに疲れた。
ああもう、なんなんだろう。
頭を使うのは苦手だけど、整理でもしてみるしかないかな。
まずは、大喜くんの立ち位置。猪股家の息子さん、仮の家族。私が日本に残る理由を、形にしてくれた人。それは重々承知だし、疑いようもない。
大喜くんを大事に思う理由としては十分だけど、それだけではザワめきの説明がつかない。
大喜くんが幸せになるなら、それは歓迎するべきだ。それなのに。
「羨ましい、かな」
言葉に出してみると、思考がそれに引き摺られていく。ああそうか、羨ましいのか私は。
大喜くんと仲が良くて、大喜くんを大好きな蝶野さんが、羨ましいんだ。
はて。それは、もしかして。
「私は、大喜くんが――好き?」
いやまさか、と思いはすれども。一回口にしてしまったせいで、心は勝手にそっちへ流れていく。
大喜くんが、好き。私は、大喜くんが好き。好きだから、取られたくない。なるほど、辻褄があう。辻褄は。
「いやいや、いやいやいやいや。違う違う」
辻褄があっても、その、困る。
そうなると壁一枚向こうに、好きな人がいることになってしまう。不味いじゃないか。
なにぶん私は普段から考えない生き方してるから、一回方向が決まると自分でも止まれなくなってしまう。
そう言えば、匡君の提案で水族館に行ったのもそうかもしれない。色々謝りたい事もあったけど、デートしたかったんじゃないか私は。
しかしなあ、だからって大喜くんにそんな事言えないし。
だって大喜くんは蝶野さんが好きで、蝶野さんも大喜くんが好きだ。そこに私風情が割り込める訳がない。
でももし、そうでなかったら。大喜くんと蝶野さんの間に、そこまで強い気持ちがなかったなら。
こんな私でも、どうにかなるかもしれない。
いや、どうにかなっても困るんだけど。
さぁ、どうしよう。グルグルと回るばかりで、考えは纏まらない。
一睡も出来ないまま、朝を迎えて。ただでさえ回転の悪い頭が寝不足で更に鈍ったまま、それでも朝御飯を頂きつつ大喜くんの様子を伺ってみる。
うん、今日も大喜くんは大喜くんだ。間違いなく。あと良く良く見れば、結構可愛い顔をしているんだな。昨日悶々としたせいか、そんな事ばかり考えてしまう。
「千夏先輩、どうかしました?」
さすがにジロジロ見すぎたか、大喜くんは不思議そうな顔。
大喜くんが好きだから見てました、とか言ったら驚くだろうか。
驚くだろうな。うん。
「ん、何でもないよ。大喜くん好きだな、って」
――あれ。
口に出た言葉に、自分自身が驚いてしまう。何で言っちゃうんだろう、私は。眠いからか。
大喜くんは見る間に真っ赤になり、由紀子さんも絶句したまま固まっている。
なにやってるんだ、私は。
まあ、いいか。物を考えるのは、苦手なんだ。
もう言ってしまえば良いや、後で色々考えよう。
「大喜くん、好きだよ」