朝日が昇って数時間経った午前10時頃のトレセン学園。
生徒の大半は授業に出席している中、外は鳥の鳴き声くらいしか聞こえない静かな雰囲気に包まれていたスピカチームルーム内には、三人の人物がそれぞれの作業をしていた。
「そう言えばトレーナー君。スペシャルウィーク君とホワイトグリント君には、三日後のレースの指示はどうするつもりだい?」
パソコンで計測結果を元にシュミレートを行っていたタキオンは、振り返って後ろで作業をしていた沖野トレーナーに声を掛ける。
すると沖野トレーナーは、記載中の書類から顔を上げ回答した。
「今回の指示は無しだ。」
「おぉ、それは随分と思い切った決断だね。」
「スペシャルウィークはレースの経験が足りないから指示通りに動けないだろうし、ホワイトグリントに至っては俺の知識や見解が未熟だ。」
そう言って、沖野トレーナーはタキオンの反対側の椅子に座り、レース場の資料と新聞を交互に確認していたウマ娘へ視線を動かす。
「何かと例外的な存在であると理解してます。」
今までの常識が通用しないウマ娘と自覚しているホワイトグリントは、資料から視線を逸らさず返答した。
「ではホワイトグリント君、君はどうやって勝つつもりだい?」
「秘匿しつつ必要最低限の労力で勝ちます。」
端的に答えたホワイトグリントの回答に、タキオンは抑えきれないように笑い声を出した。
そして目を細めてタキオンは答える。
「ハハッ、確かに君なら全力を出さなくてもメイクデビューは勝てるだろうね。周囲がどう思うか分からないだろうけど。」
「周囲がどう思おうとも関係ありません。ルールには違反していませんし、異論は実績を持って認めさせます。」
何の感情もなくバッサリ切り捨てて発言するホワイトグリントに、書類仕事をしていた沖野トレーナーは若干慌てて口を開いた。
「おいおいホワイトグリント、さっきの発言は一部からバッシングが来そうだから程々してくれよ。」
「必要無ければ話しません。」
これまで付き合いで、ある程度予想していたホワイトグリントの回答に肩を落とす沖野トレーナーを尻目に、タキオンは凶気を宿した視線で面白そうに話す。
「ふぅん。どうにもホワイトグリント君は、私と似たレースに執着していない希有なウマ娘な感じがするねぇ。」
「私やタキオンさん、他のウマ娘も本質は変わりません。自らの実力を示す為にレースという手段でトロフィーを狙うか、タキオンさんのように速さを追求する手段の一つがレースである、ではありませんか?」
資料と新聞を片付け、タキオンへ感情の無さそうな無表情を向きながら伝えるホワイトグリントに、タキオンもニヤッと口角を上げる。
その頃、ふと思い出した沖野トレーナーはホワイトグリントへ疑問を投げかけた。
「つーかタキオンはまぁ良いとしても、ホワイトグリント、授業はどうした?」
「テストで好成績を収めておけば、授業に出なくても問題ありません。他にも条件はありますが、理事長には許可を取っています。」
「理事長に許可まで取って、随分と用意周到だな。」
「備えの必要性は身に染みていますから。では私は用事を終わらせて来ます。」
ホワイトグリントがチームルームに備え付けの時計を一目確認した後、資料と新聞を片付けて立ち上がり、外に出るドアを開いたタイミングで沖野トレーナーへ振り返った。
「それと沖野トレーナー、明日は半日だけスペシャルウィークさんをお借りします。決して悪いようには致しません。」
「まぁ、半日だけなら良いだろう。それと今日はスペシャルウィークにゲート練習をするからと伝えといてくれ。残りはタキオンに任せる。」
ホワイトグリントは沖野トレーナーの了承を確認して、チームルームを後にした。
そして当日の放課後。
スペシャルウィークとホワイトグリントは練習用のゲート中に入り、ゲートが開く同時に意気よく飛び出し、20m先の三角コーンまで駆ける時間を測っていた。
「ホワイトグリントさん速過ぎますよぉ!」
既に何度もスタートの練習をしており、一度もホワイトグリントに勝っていないスペシャルウィークは、思わず口に出す。
「ほれ頑張れスペシャルウィーク。負けっぱなしは嫌だろ。」
沖野トレーナーはスペシャルウィークの負けず嫌いを煽るように言い放った。
「次は負けませんよぉ!」
すると案の定、意気揚々とゲートに入り、次のスタートを待つスペシャルウィーク。
ホワイトグリントも再びゲートに入ろうとした時、隣のコースから叫びながら光るウマ娘が走っていた。
「ヒャッハー!不沈艦抜錨ッ!!」
何故か体が虹色に輝き、目からハイビームを放射しているゴールドシップは道行くウマ娘を照らしながら駆けていた。
「えっ、なんで光ってるんですか?」
「いやまぁ、多分タキオンの仕業だろうが・・・あっエアグルーヴに照射しやがったぞ、アイツ。」
呆気を取られたスペシャルウィークに対して、沖野トレーナーが予想を言うが正解である。
ちなみにエアグルーヴが居たのはただの偶然であり、ゴールドシップが間違って照射してしまったのは、自身の発する光で前が良く見えなかったからである。
フラッシュが嫌いなエアグルーヴに高光度の光を照射してしまえばどうなるか、火を見るより明らかであった。
「ゴォォールドシップゥゥゥッ!!」
「ぬぁぁエアグルーヴだと!?済まねぇゴルシちゃんは華麗に去るぜっ!!」
完全にブチギレたエアグルーヴが全速力で追い掛け、ゴールドシップも隠れやり過ごそうとするが、遠目からでも分かる位光っている事により、直ぐに発見されて地獄の鬼ごっこが始まっていた。
「とりあえず、ゲート練習続けるか。」
「・・・そうですね。」
「はい。」
そしてもう何度かスタートの練習を繰り返した時、沖野トレーナーはある違和感に気がつく。
「んっ?ホワイトグリント、一人でもう一回やってくれないか?」
「分かりました。」
一旦スペシャルウィークを休ませ、ホワイトグリントのスタートを注意深く観察する。
ゲートが開くと共に勢いよく飛び出したホワイトグリントを見て、沖野トレーナーはある弱点に気が付く。
三角コーンのところで待つホワイトグリントを近くまで呼び寄せ、ポケットから折り畳みの30cm定規を取り出した。
「ホワイトグリント、手を出せ。今からこの定規を落とすから、素早くキャッチしてくれ。」
「はい。」
沖野トレーナーは手持ちの定規を使い、定規落しで反応時間を計測しようとしていた。
そして沖野トレーナーが定規を離して落下し始めた瞬間、ホワイトグリントが掴もうと指を動かす。
そして現れた結果にスペシャルウィークは驚き、沖野トレーナーは納得したように頷く。
「えっ?」
「やっぱりなぁ。」
ホワイトグリントが取るはずだった定規は、コースの芝の上に落下していた。
この結果は一つの結論を示していた。
それはスペシャルウィークも容易に想像がつく。単純にホワイトグリントは脊髄反射が遅く、定規を掴めなかったと。
「でも、どうして?私よりスタート早いですよね?」
ここまで反射が遅ければスタートも当然遅いと考えるスペシャルウィークに、沖野トレーナーが口頭で説明した。
「それは反応の遅さをQBの瞬発力で補っているからだ。他のウマ娘が加速する前に桁違いの瞬発力で速度が乗るからこそ、スタートが早くなるって事だ。しかし、意外な弱点だな。」
脚質次第ではあるものの、出遅れが起こった場合にはその後が不利になる事が多く。
差しや追い込みならある程度リカバリーは効くが、逃げの時は先頭を取りに行く都合上、致命傷になりかねなかった。
映像資料が表に出ていない現状は気付かれていないが、一度レースに出走してしまえば、後日スタートの瞬間をスロー再生されれば直ぐに気付かれるだろう。
特に情報の分析が得意なチームリギルのおハナさんが見逃す訳が無いと理解していた。
それにここまで反応が鈍いと別の意味でマズイことも分かっていた。
しかし現状では対応する時間が限られているからこそ、敢えて切り捨てる判断で進めようと沖野トレーナーは考えていた。
「今日やるだけやるぞ。もう一回だ!」
そうして一つ一つ気になる点を時間が許す限り、着々とレースに向け準備を進めて三日後のレース当日。
観客席には多数のファンや新しく有望なウマ娘を見つけようと、足を運ぶ人達で席は埋まっていた。
『雲一つ無い晴天、絶好のレース日和になりました。芝、距離1600m、良バ場の発表です。今日のレース、優勝するのはどのウマ娘なのか?期待が高まりますね。』
各所のスピーカで放送が流れるレース場で観客席よりも前に位置する小さな部屋に、チームスピカの面々が集まっていた。
「準備完了です、タキオンさん!」
「ありがとうスカーレット君。トレーナー君は終わったかい?」
「こっちも機器のセット終わったぞ。」
設置型のカメラと周辺機器の据付が終わった後、タキオンは試運転を行って異常が無いと確認する。
「いやぁしかし、ここが借りれて良かったよ。測定器を観客席に置く訳にも行かないからねぇ。」
何時でも起動出来るようにするタキオンの後方で、スカーレットが沖野トレーナーの方を振り向く。
「それにしてもトレーナー、よくここが借りれたわね。」
「これでも中央のトレーナー歴はそこそこ長いからな。伝手はあるんだよ。それはそうとゴルシ、その山の様なテルテル坊主は何だ?」
スカーレットの質問に回答しつつ、沖野トレーナーはゴールドシップが抱える透明な袋に嫌な予感を感じて声を掛ける。
一方質問を受けたゴールドシップはニッカリと笑って堂々と発言した。
「突然の雨にならないように作ったテルテル坊主だぜ!」
ゴールドシップはこう言っているが、外は快晴、雨を降らす雲一つ存在しない状況である。
「いや、どっからどう見ても快晴だろうが、片付けが増えるから車に閉まってろ。」
「ちぇ、折角ゴルシちゃんがトレーニング時間に作ったのになぁ。」
笑顔から一転して耳や尻尾が力なく倒れ、しょぼくれた表情で袋を持ちながら車へUターンして帰って行った。
沖野トレーナーの隣で二人の光景を見ていたウオッカが苦笑しつつ、今日のレース前パドックの様子を思い浮かべていた。
「にしてもスペ先輩、パドックはちゃんと出来て一安心だぜ。」
初めて公式レースに出場する事に加え、人の少ない田舎から来た事情も合わさって、パドックの場面では歩く際に手と脚を同時に出したり、緊張で強張った面持ちではあったものの、それ以外は特に問題なく完遂していた。
「俺はすっかりパドックの見せ方を教えるの忘れていたから助かったぞ。気になってちょいとスペシャルウィークに聞いてみたら、ホワイトグリントから教わったらしい。この前、スペシャルウィークを借りた理由を理解したぞ。」
「それはそうと、グリント先輩は・・・あれって問題無いのか?」
「ルールには反していないからどうにも言えないなぁ。」
特に問題なく終わったスペシャルウィークと異なり、ホワイトグリントのパドックは若干波乱が巻き起こった。
「まさか上下ジャージ姿で来るとか想定外にも程がある。」
G2以下の公式レースの場合、個人の体操服で出走する事になる。
基本的には走りやすさや身体の状態を確認しやすくする為に半袖半パンもしくはブルマで行うが、ホワイトグリントは上下長袖のジャージで出走すると言う過去に事例の無い方法でレースに赴いていた。
そんな奇想天外な出来事もあり、人気投票では14番人気と最下位でもあった。
仕上がりが分からない状況では当然の結果であったが、沖野トレーナーとタキオンからすれば、ホワイトグリントの実力を持ってすれば、間違いなく大番狂わせが起こるだろうと確信していた。
「あのぉタキオンさん。グリント先輩はどのくらい速いんですか?」
レース前に何気なく質問したスカーレットに、タキオンは難しそうに悩んで答えた。
「彼女は色々と特殊な体質をしているから説明が難しい。的確ではないかも知れないが、ステイヤーのスタミナを持つスプリンターと言えば分かりやすいだろう。」
「えぇ・・・こんなに矛盾した一言は初めて聞きましたよ。」
少しでもレースを知っている者からすれば有り得ないとしか考えられない内容であった。
ステイヤーとは距離2400m以上で活躍するウマ娘を指すが、スプリンターは距離1200mの短距離に対応するウマ娘を表す。
見ての通りスタミナ特化のステイヤーとスピード特化のスプリンターでは必要な適正が正反対である。
全く正反対の適正を持つウマ娘など、スカーレットはおろかホワイトグリントが現れるまでタキオンすら空想上の産物としか考えていなかった。
「彼女の身体の秘密を調べているけど、まだまだ途中さ。例えば、QBの高負荷に脚が耐えきれる理由は?スプリンターの筋肉の付き方で桁違いのスタミナがある理由は?運動強度と呼吸量が何故比例しないのか?一部例を上げただけでもこんなにある。」
「タキオン、後で現状の資料とレースのデータが欲しい。今後のスケジュールに必要だからな。」
「あぁ勿論分かっているとも。ところで学園に戻ったらケーキを用意してくれたまえ。その代わりにデータの整理はしてあげよう。」
タキオンの条件に仕方ないとばかりokを出した沖野トレーナーに、スズカが不安そうな面持ちで沖野トレーナーに声を掛ける。
「トレーナーさん。スペシャルウィークさんが勝つ方法はありますか?」
スペシャルウィークと同室のスズカは、部屋の中で転入した理由やそれまでの経緯を知っているからこそ、スペシャルウィークに勝って欲しいと思っていた。
なんとなくスペシャルウィークとスズカの関係を察した沖野トレーナーは、スペシャルウィークにとって都合の良い状況が発生した状況で想像した場合、何度考え直して同じ結論に行き当たった。
結論がスズカにとって良くないものであっても。
「スペシャルウィークには申し訳ないが、十中八九ホワイトグリントの勝つだろう。」
『各ウマ娘、ゲートに入り出走準備が整いました。』
スタート前の放送が流れた事により、会話を中止し全員の意識がゲートへと向かう。
そしてカシャンと音を立てて全てのゲートが開き、飛び出しが一番早いホワイトグリントから若干出遅れたスペシャルウィークまで、14人のウマ娘が一斉に飛び出す。
『さぁ一斉にスタートだ!おっと、少しバラついたスタートか。』
スタートしたウマ娘達はそれぞれの脚質に合わせて位置が大きく変化し、順調にレースは進む。
『まず先頭争いをする9番のセラクール、4番のビクトリーワイルドだ。そして内からは2番ナツノセンチュリー、おっとスタートで出遅れた14番スペシャルウィークは5番手だ。2バ身離れて13番クインベレー、ここまでで先行集団を形成しています。』
「スペ先輩は先方の位置ね。」
スペシャルウィークの位置を確認したスカーレットはそう口に出す。
「あれ?グリント先輩は何処に?」
ウオッカの言葉と同時にスピカの面々がスペシャルウィークの周囲を見回したが、ホワイトグリントの姿は何処にも見えなかった。
「おい、彼処だ!」
声を張り上げてゴールドシップが指を指したが、ホワイトグリントの現在地に悲鳴に近い驚愕の声を上げた。
「嘘ッ!」
「このレースは1600mしか無いのにあの位置!?」
『続いて1番ミニコスモス、内8番キズナワン、後方に12番ソルトセンコウ、10番カベルネ、1バ身差3番ステラハント、外から7番ウエノリマイン、そのまた外から5番ロイヤルコロネット、内に11番クールマ、そして最後方は6番ホワイトグリント、後方に居るウマ娘は距離的に少し厳しいか?』
『おや?ホワイトグリント、独特な走り方ですね。』
『私も初めての見るフォームです。パドックでも示された常識に囚われないスタンスは吉と出るか凶と出るか。』
ホワイトグリントの特異な走りを見た後、再び先頭へ目を動かし実況が流れる。
『先頭変わらず9番セラクール、後方4番ビクトリーワイルド、その後に2番ナツノセンチュリー、1バ身離れて14番スペシャルウィーク。』
『おや?クインベレーが様子を伺っておりますね。そろそろ仕掛けて来そうです。』
解説の後、クインベレーが加速してスペシャルウィークに接触するが、パワーの差でスペシャルウィークが軽く弾かれる。
転倒したりは無いものの、フォームが一瞬崩れたことによりスペシャルウィークは若干減速して間が開く。
『クインベレーがスペシャルウィークを弾き飛ばした!力強い走りです。』
『強靭なパワーが持ち味ですからね。』
『アームレスリングで負け無しだそうですよ。』
解説と実況がクインベレーについて話している間に、レースは着々と進行する。
『第3コーナを通過、残り600mだ。現在ハナを進むのは9番セラクール。』
そしてその時、走行中のクインベレーから蹄鉄シューズに付いた芝と土がスペシャルウィークの元へ飛ぶが、咄嗟に体を傾け華麗に回避する。
何度も飛んでくる土を回避するスペシャルウィークに沖野トレーナーが関心してレースの様子を眺めた。
「上手く避けるな。」
「お母ちゃんとの練習の成果ね。」
「お母ちゃん?」
スズカが口にしたお母ちゃんとの練習に疑問が浮かび、沖野トレーナーがスズカに視線を下げるが、レースに集中しているスズカを見て再び視線を元に戻した。
『さぁ第4コーナを廻り、残り400mだ。おぉっとクインベレーが仕掛けて一気に先頭へ。』
スピードを上げ、先頭三人を軽々抜き去るクインベレーに盛り上がった観客の歓声が立ち上る。
『最初に最終直線に入ったのはクインベレーだ!』
そしてゴール手前の直線になった時、スペシャルウィークもスパートを掛ける。
減速した前方のウマ娘達を抜き去り、クインベレーの隣まで巻き上げる。
『クインベレーとスペシャルウィーク、二人のデッドヒート!』
ほぼ同位置に存在する二人は、素早く呼吸を何度も繰り返し、相手を追い抜かそうと脚の回転を早める。
片方が加速すればもう一人も速度を上げ、一騎打ちの様相を呈していた。
『これはクインベレーが僅かに優勢か?スペシャルウィークの速度を上げて再び並んだ!』
当然二人はお互いに全ての意識を向け、それぞれの願いや思いを叶える為、賢明に相手より早くゴールしようと強く一歩を踏み出す。
二人の独断場と化したレース場は、観客や実況者の意識がほぼ全て集中していたからそこ、気づくのが遅れた。
死神は気を抜いた瞬間に首を掻っ攫って行くと言う事を。
『あっいや、いつの間に!二人の後方、大外なら上がってきたのはホワイトグリント!凄まじい末脚だ!』
先頭争いをしていた二人が気づき意識を向けた頃には、白き閃光は既に左前を走っていた。
『残り200m、二人を追い抜かして先頭を取り返したのはホワイトグリント!リードは1バ身!』
スペシャルウィークはホワイトグリントの出現に一瞬呆気を取られたものの、目の前に迫るゴール板でやる事を思い出し、火事場のバ鹿力とばかりに増速してホワイトグリントの背中を追う。
『先頭は以前変わらずホワイトグリント!しかしスペシャルウィークの追い縋る。』
少しづつ、少しづつ近づく背中に希望を持って懸命に走るが、ホワイトグリントがQBで加速した途端、その希望は崩れた。
『今ゴールイン!』
ゴールラインをホワイトグリントが最初に通過した後、スペシャルウィークとクインベレーの順でくぐる。
『勝ったのはホワイトグリント、何という大番狂わせだ!見事、デビュー戦を制しました!』
既に二人の先頭争いで盛り上がっていた観客達は、颯爽と追い抜いたホワイトグリントへ大きな歓声を上げ、勝者を称えた。
「これはこれは・・・スペシャルウィーク君には悪いが、良いデータが取れたよ。」
大変興味深そうにタキオンは、レースの優勝者へ視線を合わせる。
しかしタキオンは興奮が落ち着かないようで、耳がピコピコと動く。
「それにまだ余力を残しているようだよ。全力を出さず、マイルの短い距離とは言え、ゴール直後の息切れも殆どないとは・・・やっぱり面白い。」
「スペシャルウィークも仕掛けるタイミングはほぼ完璧だった。加速も良かったが、如何せん相手が悪すぎる。」
スペシャルウィークの敗因は、沖野トレーナーのこの一言に纏められていた。