問題児たちと(常識人の)幼馴染が異世界から来るそうですよ? 作:gobrin
では、どうぞ。
″ノーネーム″は″ペルセウス″を下し、レティシアを取り返した。
ご丁寧にレティシアは石化させられていた。
その石化を解いて、覚醒したレティシアに問題児三人と均――いや、問題児四人は完璧に口を揃えてこう言った。
「「「「じゃあこれからよろしく、メイドさん」」」」
「「「は…………?」」」
ジン、黒ウサギ、レティシアが固まる。
そんな三人に問題児たちが優しく告げる。
「だって今回活躍したのって私達だけじゃない?貴方達はくっついてきただけだったし」
「うん。まあ私もあんまり活躍できなかったけど。本物のハデスのギフトを持ってた人には気づけなかったし、石化させられちゃったし」
「俺もお坊っちゃん潰しただけだけどな。均にアルゴール任せたから。でもまあ挑戦権持ってきたの俺達だろ。なあ、均?」
「うん。僕は我が儘言ってやらせてもらったし、アルゴールも隷属させたけど、それはみんなのおかげでもあるから僕の貢献度は十六夜と耀に少し返すとして。所有権は僕:十六夜:飛鳥:耀で2:3:3:2で話はついたんだよ」
「何言っちゃってんでございますかこの人達!?」
黒ウサギが素っ頓狂な叫び声をあげる。
その横でレティシアも驚きに目を見開いていた。
「あ、アルゴルの魔王を?隷属?均がか?」
まあ、驚きの内容は黒ウサギとは違うが。
それに均が答える。
「あ、うん。実際はあのクサレお坊っちゃんにギフトゲーム仕掛けて奪ったんだけど。魔王って、ちょっと使ってみたかったんだよねー」
ニコニコしながらそんなことを宣っているが、魔王はちょっと使ってみたいなどという理由で隷属させるものではない。
均の問題児の一端がここに見て取れた。
そして、ジンと黒ウサギが混乱する中で、レティシアだけが回復した。
「だが……ふむ、そうだな。今回の件で、私は皆に恩義を感じている。君達が家政婦をしろというなら、喜んでやろうじゃないか」
「レ、レティシア様!?」
黒ウサギが驚愕の声をあげる。
そんな黒ウサギを無視して、飛鳥は晴れやかな笑みを浮かべる。
「私、金髪の使用人に憧れていたの。これからよろしく、レティシア」
「よろしく……いや、主従なのだから『よろしくお願いします』のほうがいいかな?」
「使い勝手がいいのを使えばいいよ」
耀の言葉を受けて、レティシアがさらに考え込む。
「そうか。……いや、そうですか?んん、そうでございますか?」
「黒ウサギの真似はやめとけ」
十六夜が笑いまじりに言う。
そこに均が乗っかった。
「そうだよ、はっきり言ってそれは気持ち悪いよ?あと、僕には敬語はいらないから」
「気持ち悪いってなんでございますかこのお馬鹿様!!」
復活した黒ウサギが均の頭をハリセンで叩く。
いや、正確にいえば、均をハリセンで叩くために、黒ウサギが復活した。
スパァーン!という小気味いい音が響く。
「痛いなぁ。何するんだよ黒ウサギ」
「誰のせいでこうなったと思っているんですか!」
言ってから、黒ウサギは後悔した。
このパターンは―――
「「「「黒ウサギ?」」」」
「いやホントこのくだりもういいから!!」
いつもの口調がどこかへ行くほどに黒ウサギは荒れていた。
「ヤハハ。まあ許してやれよ。均がここまで自然体でいるなんて、お前らかなり信頼されてるぞ?」
「まあねー。ここの人達、いい人が多いから」
十六夜が思ったことを告げた。
均の自然な言葉に黒ウサギの怒りがするすると消滅する。
そこで、黒ウサギがあることを思い出した。
「そういえば、均さんに触れられてルイオスさんがかなり動揺されていましたが、何をしたんですか?」
その質問を受け、均は言ってもいいものか瞬時に検討する。
導きだした結論は、『ま、この人達なら大丈夫かな』というものだった。
「ああ、それね。僕がギフトを使ったんだよ」
「ギフトでございますか?」
「うん。前に黒ウサギが言ってた質問に答えるよ。あ、黒ウサギには貸し一つ追加ね。
「だから何でですか!?」
僕が持つ先天性のギフトは四つ。
一つ目は″模倣投影″。皆の前でやってみせたよね。一部例外はあるけどギフトをコピーできる。創作系のギフトなら大体はいけるね。
二つ目は″イージーチューン″。これも皆の前でやったね。自分の持つギフトを能力的に劣るギフトに作り変えるギフトだね。これも創作系のギフトを対象にすることが多いかな。
三つ目は″ジャッジ・アイ″。これはパッシブ的なものだから使うって感じじゃないけど……。相手の霊格が自分との比で見えるってやつ。
そして最後。四つ目は″均等分配″。これは僕が触れている二物体のある数値を平均して分け与えるっていうものだよ。
ルイオスに使ったのは四つ目」
「それで何が起きるのですか?」
黒ウサギでもわからないようで、首を傾げている。
「うーん。白夜叉様は当てられたんだけど、わざわざ時間を使う必要もないか。絶対に他言無用でお願いね?」
均の言葉に六人が頷く。それを見届けた均は口を開いた。
「僕とルイオスの″霊格″を数値化して、平均した」
場に静寂が訪れる。
たっぷり二分ほど経過したところで、黒ウサギが素っ頓狂な叫び声を大音量で上げた。
「は、はああああぁぁあああぁぁあぁぁ!?」
その叫び声に均は顔をしかめる。
「うるさいよ、黒ウサギ」
「い、いやいやなんでございますかそのギフト!?つまりなんですか!?均さんは相手と霊格を合わせることができると!?」
「まぁ端的に言えばそういうこ」
「すごいです!!すごいです均さん!!うっきゃー!!!!」
黒ウサギが奇声を上げてそこら中を跳ね回る。
他の五人は均のギフトの恐ろしさがわかるものは愕然と、わからないものは展開についていけずにボケっとしていた。
均は黒ウサギの奇声に不愉快そうな表情を浮かべている。
黒ウサギが近くに来たタイミングを見計らって、
「うるさい黙れ」
「ギニャー!!」
均は──ウサ耳を全力で引っ張った。
黒ウサギは絶叫する。
「さっきから騒ぎすぎ。とにかくこのことは他言無用だよ。皆もいい?」
黒ウサギも含めた六人はコクコクと頷いた。
場が落ち着いたところで均がこう締めくくって、この場はお開きとなった。
「ま、これからよろしく、レティシア」
――次の日。
均はコミュニティの外に出て、世界の果てに向かう方角へ歩いていた。
均がこんなことをしているのにはもちろん理由がある。
「――よし、ここならいいかな」
ある場所で均は立ち止まる。
そこはとても開けた場所だった。ぶっちゃけ何もない。
「さてと、じゃあやろうか。――――――出てこい、″アルゴールの魔王″」
均が呟くと同時に、均のギフトカードが光りだす。
その光が晴れるのと同時に、耳障りな絶叫が辺りに響き渡った。
「GEEEEEEEYAAAAAAAA!!」
「うるさい」
均の呟きはアルゴールには届かない。
それに届いたとしても、アルゴールは均の言うことを聞かない。
ルイオスが所持していた時と拘束具のレベルは変わっていない。
ルイオスの霊格が十分な状態で、かつ伝承のおかげで一応命令できる状態であったアルゴールが、伝承もなくそれよりも少ない霊格の持ち主の言うことなどどうして聞こうか。
ギフトゲーム中はルイオスに隷属していたから、ルイオスの霊格が縮小してもそのまま従っていたが、新しい主なら関係ない。
アルゴールは叫び続ける。
「RaaaaaaaaAAAAGEEEYaaaaaAAAAAA!!!!」
「だからうるさいって」
叫び続ける。
「GEEEYAAA――」
「うるさいって言ってんのが聞こえないの?」
「aaa…………」
先ほどと声の音量は変わらない。
しかしアルゴールは押し黙る。
均から放たれる殺気に、アルゴールは恐怖する。
アルゴールの元・魔王としての本能が告げていた。
――逆らってはいけない。殺される――
「Ruruuruu………」
「お、えらいね。自分の立場がやっと理解できたんだ。あと二秒遅かったら
アハハ、と笑いながら均が軽やかに告げる。
とても笑いながら言うことではない。
「僕は君を使ってみたいとは思ったけど絶対必要ではないし。むしろ君の霊格を盗れるなら丁度いいかな、って思い始めてたところだよ」
その言葉にアルゴールがますます縮こまる。
今やアルゴールの均に対する認識は『霊格は自分よりも小さいが、自分よりも確実に化け物の何か』であった。
消されたくはないアルゴールはおとなしくなる。
「これで僕の言うことは聞いてくれるのかな?」
均の問いにアルゴールが首を思いっきり縦に振る。
先ほどの『うるさい』が効いていて、とても声を出そうとは思わなくなっていた。
「そっか。ありがと。君は素直でえらいね。僕としては君をこき使う気はないんだ。命令には従ってもらうけど、極力君の意志を尊重したい。その拘束具も外そうと思ってる。もちろん君が暴れなければ、だけど。できる?」
アルゴールがコクコクと頷く。
その態度はもはや犬と言って差し支えなかった。
「君って今の姿で僕達の言葉を話せる?」
今度は首を横に振る。
それを受けて均は何か考える姿勢を見せた。
「ふーむ。それだと何かと不便だな。アルゴールは人化とかできないの?」
「RU?」
アルゴールが小首を傾げる。
そして考え込む様子を見せる。
「Ru……RuRuru?……………RU!」
アルゴールは何かを数秒考えた後、一つ大きく頷いた。
――そして、一瞬で人の姿に変わっていた。
「ふぅ………。これでよろしいですか?ご主人様」
人へと変幻したアルゴールが流暢な日本語を話す。
それには均も驚いた。
「うわ、すごいね。やってもらいたかったけど、まさか本当にできるなんて」
「はい、やろうと思ったらできました。このような容姿でよろしいでしょうか?」
アルゴールの見た目はレティシアよりも年上か、というくらいの容姿だった。均よりは年下に見える。
ちなみに服はどこから出したのかメイド服である。
「うん、完璧。というかさっきのご主人様ってなに?」
「今私を隷属させているのは貴方様なのですから、ご主人様とお呼びするのは当然のことです」
「へえ。でもそれって認めてなかったらそんなことしないよね?」
均が先ほどから聞きたかったことを口にする。
ビックリするほど従順だったからだ。
「はい。それはもちろん」
「じゃあ僕は認められたってことでいいのかな?」
「はい。先ほどは本気で死を覚悟しました。あれで認めないなどと愚かなことは考えません」
アルゴールは自分で言葉にしながら身震いする。
(――ちょっと怖がらせすぎた)
少し反省する均だった。
「そ。じゃあ君の拘束を解くね。基本的には君が自由に動いていいけど、命令には従うこと。あと、勝手に暴れないことと、仲間に危害を加えないこと。これさえ守ってもらえれば、僕は君の言動を尊重するよ」
そう言いながらアルゴールにずっとついていた拘束具を外す。
人化した後も腕やら腰やらに拘束具がついていたのだ。
「ありがとうございます、ご主人様」
アルゴールが綺麗な礼をした。
(いつ練習したんだ、こんな完璧な礼)
均がそう思うくらい、綺麗な四五度の礼だった。
均は心の中で密かに戦慄する。
「これからは君のことアルルって呼ぶね。いちいちアルゴールじゃ長いし」
「はい。わかりましたご主人様」
「………あと、その『ご主人様』ってのやめてくれない?」
無駄かもと思いながらもそう言わずにはいられない均。
すると、アルルはあっさりと従った。
「わかりました。では、均様と呼ばせていただきます」
「…………いや、あの………これは命令じゃないから、君の自由にしていいよ?自分で言っといてなんだけど。命令の時はちゃんと命令だって言うから」
本当に自分で言っておいて、という感じだったが、均はアルルのあまりの従順さについ口を出してしまう。
均はこういう対応には慣れていない。
「いえ、均様でお願いします」
「そ、そう?わかった………」
ここで均は気を取り直し、アルルに聞きたかった質問をすることにした。
「いまから色々質問するから、可能な範囲で答えてね」
「はい」
まだ従順すぎるのには慣れないが、そこはもう無視することにした。
「まず、その状態でどのくらいの力が出せる?」
「どのくらい、と仰られましても…………。拘束を解いていただいたので全力が出せますが」
「うーんと、そうだなぁ……………。じゃあ、そっちに向かって全力で拳を打ち出してみてくれる?」
そっち、と均が指差したのはかなり遠くに森が見える方向。
世界の果ての方向だ。途中には何もない。
これなら余程のことがない限りは大丈夫だろう。
均はそう思った。
「かしこまりました、均様」
均に向かって一礼した後、そこまで気負った様子もなく拳を振り抜く。
ドンッ!と空気が割れる音がして、遠方に見えていた木々が倒れた。
その衝撃波は留まるところを知らず、どこなのかもわからない遠くで水飛沫をぶち撒けたところで行方の把握ができなくなった。
これには均も動揺を隠せなかったようで、
「…………………え?」
と、一言だけこぼした。
「どういうことだ?僕とやりあったときはこんなに威力がなかったのに」
いくら拘束具をつけれらて力を制限されていたとはいえ、これほどならもう少し手応えがあった……というより、今の均なら少々苦戦したはずだ。
「恐れながら意見を申してもよろしいでしょうか?」
アルルがものすごいビクビクしながら均に尋ねる。
「うん、いいよ。というかそんなに畏まらないで。さっきはちょっとやりすぎた。謝る。さっき言った通りに、命令した時に従ってくれればいいから。意見とかは気軽に言っていいよ」
均は先ほどのことを結構反省していた。
いくら躾けるためとはいえ、やりすぎたと後悔する。
アルルは均の言葉を受けて少し安心したようだった。
「は、はい。わかりました。恐らくですがこの姿になったことで
同じ人口でも、小さい範囲の方が人口密度は大きくなる。そんな感じだと均は考えた。
「なるほど。そういうことか。アルルはどのくらいの知識を保有してるの?」
「申し訳ありません。ここ最近はずっとあの姿でしたので知識の収集などの行為をしたことがありません。この世界の常識程度ならある程度わかりますが、なにかの詳しい知識と言われると………」
「あ、そうなんだ。わかった。気にしなくていいよ。アルルは頭はいいみたいだから、これから頑張っていけばいい」
均は思ったことを素直に述べる。
「ありがとうございます。精進します」
「というか言葉が完璧なんだけど。なんで?」
「私にもわかりません。この姿になった時に逆らってはいけないと思ったらこの話し方ができるようになっていました」
アルルの嫌味ではない言葉が均の心に突き刺さる。
「………うん、ホントごめん。ちょっと怖がらせすぎた」
「いえ、大丈夫です。命令に逆らわなければ優しくして頂けるのもわかりましたので。逆らおうとしていた私が愚かだったのです」
「………ありがとう。じゃあ、僕が聞くことは今はもうないかな。アルルは何か僕に言いたいこととかやってほしいこととかある?現実的なら要望に応えられるかもしれないし」
ひとまず聞きたいことを聞き終えた均はアルルに尋ねる。
これくらいは均は当然だと思っていた。
こういうところはまともなのだ。
「…………では、まずは一言。このたびは、私をルイオス・ペルセウスから救い出していただき、ありがとうございます」
「あれ?そういう認識になるの?」
「はい。ご存知の通り、あの者では全力の私をコントロールできず、私は力を抑えられていました。均様は拘束を解いてくださいました。本当に感謝しています」
ここでふと均に疑問が湧いた。
「でも、僕に呼び出された時点じゃ僕が拘束を解くかわからなかったよね?あのときはどう考えてたの?」
その質問を受けて、アルルが均から目を逸らした。
そしてとても言いにくそうに言葉を発する。
「……………言わなくてはいけませんでしょうか」
「うーん、僕が考えついてないからなぁ。でも、強制はしないよ。できれば教えてほしいな、って感じかな」
均は極力プレッシャーをかけないようにして言う。
こういうのも結構神経を使う。
「……わかりました。あのときの私の心情を言葉にすると、
『やったー自由だー!あとはコイツ殺せば完璧に自由の身だ!わーい!』
といったところです。生意気なことを考えていて申し訳ございません!」
アルルが深々と頭を下げる。
「ああ、いいよ。僕みたいに大したことない奴が隷属してるって知ったら嬉しくもなるよね。逃げられる可能性が上がるし。それであんなに叫んでたのか」
「本当に申し訳ございません」
さらに頭を下げる。
「ああっ、だからそんなに畏まらなくていいってば!」
均は放っておいたら土下座でもしそうな雰囲気のアルルを止める。
「もうさっきのことで謝るの禁止!これ命令ね!それで、他には何かある?」
いい加減に疲れてきた均は命令を使って黙らせることにした。
「はい、もう一つだけ。――均様、可能であれば私に毎日稽古をつけてくださらないでしょうか?」
「――稽古?」
均は一瞬自分の耳を疑った。
魔王が人間に師事をしたいと頼むとは何事か。
「はい。私も元・魔王としてある程度は生きてきましたが、力でねじ伏せられることはあっても、均様のように力で劣る者に投げ飛ばされた経験は今までありませんでした。そこで私もこのような姿になったことですし、師事したいと思った次第です」
その申し出に均はたじろぐ。
「……いや、あれはアルルが大きくて攻撃が大雑把だったからできただけであって、今のアルル相手にできるとはとても思えないんだけど」
大雑把な攻撃に、掴みやすい拘束具。それにあの威力。
全てを利用すれば、あの状態のアルルを投げ飛ばすのは均に取っては簡単なことだった。
「そうなのですか?」
アルルがきょとんと首を傾げる。
なんとも可愛らしい仕草だった。
「うーん、じゃあここで手合わせしてみようか。丁度ここは周りに何もないしね。でも、最初から全力でこられて僕が木っ端微塵にされても困るから、最初は五〇%くらいの力でお願いするよ」
「かしこまりました。よろしくお願いします」
少し距離を取って向かい合った二人。
準備が整ったところで均はアルルに声をかけた。
「じゃあ、どこからでもかかってきていいよ」
「はい。では、よろしくお願いします!」
アルルが言葉とともに飛び出す。
二人の間にあった距離が一瞬でなくなった。
アルルが拳を突き出す。
五〇%という言いつけを守っているのか、今回はソニックブームは出なかった。
均はそれを軽々と躱し、アルルの伸びた腕を掴む。
アルルに躱されることなく投げることができることを確認した均は、アルルに話しかける。
「七〇%まであげていいよ」
「はい!」
アルルが再び拳を打ち出す。
それも難なく躱した均だったが、均の服がバタバタと煽られた。
それだけの拳速だったのだ。
(これは、これ以上はキツいかな…………)
自分とアルルの地力の差を考えながら、均はアルルの腕を取る。
事前にアルルにはこちらの接触をできる限り躱すように言ってある。
だが、今回も掴むことが出来た。
(七〇%も一応は問題なし、と………。じゃあ、無理だと思うけど次もやってもらうかな)
「アルル、一回の攻防だけ、一〇〇%で来て」
「わかりました」
均の懐に飛び込んできたアルルが手を握りしめる。
そして見た目は無造作に、拳を振り抜いた。
(くっ…………!)
均はかろうじてその拳を躱す。服の端が拳圧で切り裂かれる。
が、その直後、身体を強烈な風に煽られ、体勢を保っていられなくなった。
(こんなにすごいのか………!これは無理に堪えようとすると身体がバラバラになる!ここは無理せずに飛ばされよう……!!)
均は風から受ける影響を少しでも抑えようと、後ろに飛びながら退避しようとする。
だがしかし、身体が宙に浮いた瞬間に思いっきり吹き飛ばされた。
(うわっ………!?)
なんとか地面に着地した均。
アルルとの距離は、最初の時よりも離れていた。
(なんて力だ…………。これが元・魔王の星霊の力………。今の僕じゃ肉体の強度が足りなくて絶対に受けられない。十六夜なら大丈夫だろうけど、飛鳥や耀は一瞬でやられちゃうだろうな)
均は元・魔王の力に戦慄しながら、アルルを呼ぶ。
「おーい、アルル!こっちに来て!」
「はい、お呼びでしょうか均様」
均がアルルを呼ぶと、ほとんどタイムラグなしにアルルが均の前に現れた。
ちなみに今のアルルの移動のせいで、均の周りには突風が吹き荒れている。
均は引き攣った笑顔で目を細める。
突風が収まってから均はアルルに話しかけた。
「やっぱり今の僕じゃアルルの一〇〇%を受けきるのは無理。七〇%くらいなら大丈夫だと思う。それでいいならだけど、どうする?」
「ぜひお願いしたいです」
さらに大事なところを確認する。
「毎日は無理だと思うよ?僕にも色々用事があるだろうし、場所の問題もあるし」
「はい。毎日というのはただの要望にすぎませんので、大丈夫です」
「あと、僕が教えるのは無駄の少ない体捌きが中心になるけど大丈夫?」
「はい。むしろそれをお願いしたいです」
アルルの決意は固いようだ。
最後に均は約束をさせる。
「僕に習う以上、無闇矢鱈に力を使うことは許さない。アルルの力は十分に脅威に値するからね。それと、自分よりも弱い者に力を振るうことは基本的に許さないからそのつもりで。僕が許可した時か、そいつの性根が腐ってるとかいう場合は別だけど。いい?」
「はい。心得ております」
均はアルルの瞳を見て、大丈夫そうだと判断する。
「わかった。僕も精一杯師匠を頑張るよ。一緒に強くなっていこう」
「はい、均様」
ここに箱庭の世界において天敵となる″恩恵″を持つ者と、元・魔王の星霊の奇妙な師弟関係が作られた。
そしてその二日後の夜。
子供達を含めた″ノーネーム″一同は水樹の貯水池の近くに集まっていた。
ものすごい人数である。
「えーそれでは!新たな同士を迎えた″ノーネーム″の歓迎会を始めます!」
黒ウサギの号令で子供達からワッと歓声が上がる。
テーブルの上に並べられたささやかな料理に子供達が駆け寄る。
均達、問題児四人集はその微笑ましい光景を見守っていた。
「だけどどうして屋外での歓迎会なのかしら?」
「うん。私も思った」
「黒ウサギなりの精一杯のサプライズってとこじゃねえか?」
「この箱庭ならまだ何かありそうな気もするけどね」
穏やかに会話する均達。
だが、十六夜が先ほどから気になっていることを聞いた。
「ところで均、お前の隣にいるメイドは誰だよ」
「あ、そういえば会わせるのは初めてだっけ。うーん、紹介は自分でしてもらおうかな」
「かしこまりました、均様」
「「「均様!?」」」
十六夜達は、格好から少しは予想していたが、実際にその言葉が発せられると違和感が半端無いようだった。
だが、続く発言でそんな違和感など吹き飛ぶ。
「皆さん、初めまして…………ではない方もいらっしゃいますが。
私は″アルゴールの魔王″。均様に隷属している元・魔王にございます。アルルとお呼びください」
「「「はぁぁっ!?」」」
再び三人の声が重なる。
そして三人が立て続けに質問する。
「ちょっと待て!アルゴールは蛇みたいな女だったろ!?」
「均様に人のような姿になれないか、と言われ、挑戦したら出来ました」
「″アルゴールの魔王″ってあの外道が使役していた魔王よね!?なんで均君のメイドを!?」
「今は均様の所有物だからでございます」
「なんで人の言葉を話せるの?」
「この姿になると同時に話せるようになりました」
三人は一通りの質問を終えると、一旦は落ち着いたようだった。
が、そこで十六夜があることに気づく。
「そういやオマエ、拘束具してたよな?それはどうした?」
「――均様に外していただきました」
その言葉を聞くや否や、十六夜が臨戦態勢に入った。
一瞬も油断することなく均に問う。
「均、オマエなんでそんなことをした?」
「だって可哀想じゃない。力が抑えられてるんだよ?」
「んなこと言ってもオマエの霊格って今ルイオスよりも低いだろ?命令を聞かなかったらどうすんだ」
「もちろん殺すけど?」
場を沈黙が支配した。
均があまりにもいつも通りに言うものだから、十六夜達は一瞬理解できなかったのだ。
均はそれがさも当然であるかのように告げた。何の気負いもなく。
アルルはそれが当然であるかのように受け入れた。
それを見て、問題児三人は理解する。
――この二人の間には、すでに確固とした上下関係がある、と。
場の静寂を破ったのは均だった。
「もし仲間に危害を加えたり、暴れたりしたら殺すって言ってあるから大丈夫──と言っても、完璧に不意を打たれたら一人くらいは殺されちゃうかもしれないけど。早々させるつもりはない」
十六夜が臨戦態勢を解いて言う。
「ああ、そうみたいだな。ったく、緊張して損したぜ」
十六夜が悪態をつく。だが、その直後、真剣な雰囲気で均に告げた。
「だがな、均。もしオマエとアルゴールのせいで″ノーネーム″に被害が出るようなら────場合によっちゃ命を覚悟しろよ」
「──うん。わかってるよ」
均も、微笑みを浮かべてはいたが真面目な雰囲気で応える。
と、黒ウサギの大きな声が聞こえた。
「それでは、本日の大イベントが始まります!皆さん、天幕に注目してください!」
コミュニティのメンバー全員が黒ウサギに促されて頭上の天幕を見上げる。
すると、流星群が起こった。
誰もが感慨に浸っていると、均達の耳に黒ウサギの声が届いた。
「この流星群を起こしたのは他でもありません。我々の新たな同士がこの流星群のきっかけを作ったのです」
「「「「え?」」」」
これにはさしもの問題児達も驚いた。
黒ウサギは話を続ける。
「先日、同士に倒された″ペルセウス″のコミュニティは、″サウザンドアイズ″を追放されたのです。そして彼らはあの星々からも旗を降ろすことになりました」
十六夜達が絶句している。
均はその場を離れ、アルルと二人で流星群を眺めることにした。
「箱庭はホントにすごいなぁ。まさに神々の遊び場って感じだよ。アルルは知ってた?箱庭にこんなことが出来るってこと」
「いえ、存じ上げておりませんでした」
「そっか。まぁこれが見られたのはいい経験になったよ。………アルルはペルセウスに暗殺されたゴーゴンの属性を持ってるよね?彼らのコミュニティが軽く失墜したことに関して何かある?」
「…………いえ、昔のことですので。ただ、あそこに所有されていたおかげで均様にお会いすることができました。そのことには感謝しています」
「そう、それはよかった。………そうだ。この箱庭で個人的にやりたいことを思いついたよ」
「……なんでございましょう?」
「アルルを隷属してみてわかったんだけど、魔王様って面白いんだね。もっとほしくなったよ。――――というわけで」
均は瞳に楽しそうな光を宿しながら、宣言した。
「僕はこれからできるかぎり魔王を隷属させたいと思う」
「――均様ならきっとやり遂げることが出来ます。私も微力ながらお手伝いさせていただきます」
「うん。頼りにしてるよ」
無駄に壮大な野望を話す二人の上では、まだ流星群が続いていた。
第一章終了です。
番外編はありますけどね。
均がどんどんヤバい奴になってる気が………。
今回は特に感想を聞きたいです。
肯定的なものから否定的なものまでなんでもござれ、です。
どうかよろしくお願いします。
これからも頑張ります。応援よろしくお願いします。