問題児たちと(常識人の)幼馴染が異世界から来るそうですよ? 作:gobrin
自分で今まで投稿したものを読み返してみて、矛盾を感じたので直しておきました。
″均等分配″の効果に関してですね。大きく変わったわけではありませんので、読み返さなくても大丈夫だとは思います。
ついでに細部も直したので、多少は読みやすくなったかなと思っています。
今回長いです。ごめんなさい。
キリがいいところまで進めたらこんなことに……。
では、どうぞ。
二人の宣誓をしっかりと耳で捉えたアルルが、その内容を均に伝える。
その内容とは、
・ゲーム開始のコールはコイントス。
・参加者がもう一人の参加者を、″手の平で″捕まえたら決着。
・敗者は勝者の命令を一度だけ強制される。
均はそれを聞いて一つ頷くと、アルルに最初にやることを伝えた。
頭上の二人の手元に″契約書類″が舞い落ちたところだった。
「まず、ゲームスタートと同時に黒ウサギが逃げるように走り出すはずだから、それを追おう」
「後ろに……ですか?」
「うん、何故なら――って、ゲームが始まる。続きは移動しながらだ。
あの二人が本気で走ったら僕じゃ追いつけない。アルル、頼んだよ」
「はい、均様」
均の言葉通り、ちょうど十六夜がコインを投げたところだった。
――――キンッ。
コインが地面に落ちるのと同時に、十六夜は全力で前にダッシュした。
黒ウサギは同じ方向に逃げようとしている。
「あらら。やっぱり気づかれていましたか」
「ハッ、当然だ!!」
黒ウサギの耳は箱庭の中枢と繋がっている。ということは、さぞかし耳はいいはずだ。
そんな黒ウサギを相手に、かくれんぼと鬼ごっこが混ざったようなこのゲームで十六夜が勝つためには――。
「お前を見失わないことが最低条件ってなあ!!」
十六夜は獰猛に笑うと、全力で黒ウサギの後を追った。
「――ってわけだよ」
十六夜が考えていたのと同じ頃、均もアルルに同じ内容の説明をしていた。
均や十六夜が知る由もないが、箱庭の中枢と繋がっている″月の兎″のウサ耳は、審判時ならゲームの全範囲、プレイヤー時でも1kmの範囲までなら情報収集できる。
つまり、二人の考えは大正解だったというわけだ。
「なるほど、そういうことでしたか。さすが均様です」
アルルはいたく感心していた。均への尊敬の念が一段と高まったようである。
「これくらいなら思いつく人はいっぱいいるよ。アルルも慣れれば大丈夫さ。心配することはないよ」
「―――はい」
均に密かに少し落ち込んでいることを見破られたアルルは、恥ずかしさに頬を染めつつも嬉しそうに微笑んでいる。
ところで、今の二人は十六夜と黒ウサギに引き離されないように、アルルが均をおぶって全力疾走している。もちろんギャラリーに被害は出さないようにしつつだ。
その状態で、先ほどの会話をしていたのだ。酷くシュールな光景だった。
一方その頃。
追いかけっこをしている二人はと言うと。
「オイどういうことだ黒ウサギ!?スカートの中が見えそうで見えねえぞ!!」
尖塔群の中心にある巨大な時計塔の頂上に上った黒ウサギを見上げる十六夜が、そんなことを抜かしていた。
「あやや、怒るところはそこなのですか?」
黒ウサギは呆れたように呟くと、スカートの端をつまみながら続けた。
「この衣装は白夜叉様のご好意で、絶対に見えそうで見えないという鉄壁ミニスカートなギフトを与えられているのでございますよ♪」
「はあ?あの野郎、チラリストかよ。ふざけんなクソが」
十六夜は舌打ちとともに吐き捨て――。
「こうなったら直接、スカートの中に頭を突っ込むしかねえ!」
「何言っちゃってるんですかこのお馬鹿様!!!」
しかし黒ウサギは余裕を保っていた。
眼下を一望できる高さにいる黒ウサギ。
自分を見上げる十六夜に舌を出して悪戯っぽく笑った黒ウサギは、勝利宣言をした。
「もっとも、そんなお馬鹿なことを言えるのはそこまでです。黒ウサギの勝利なのですよ、十六夜さん」
「何?」
十六夜が疑問の声を上げるのと同時、黒ウサギは眼下の歩廊に向かって全力の跳躍を見せた。
「上手いな、黒ウサギ」
「均様、どういうことですか?」
追いかけっこをする二人に追従してきた主従の主は、歩廊目掛けて跳んだ黒ウサギを見て賞賛の声を出していた。
主従の従の方は、意味を理解できず自らの主に尋ねる。
「うーん、教えてあげてもいいんだけど、この後すぐに十六夜が何かしらの行動を取ると思うんだよね。それの対処をしなくちゃならないし……宿題ってことで。自分で考えておいてみて。多分わかるよ」
「かしこまりました」
「うん。さあ、来るよ!」
均がアルルに呼びかけた瞬間、十六夜の楽しそうな声が響く。
「やるじゃねえか黒ウサギ。お前のゲームメイク、中々のもんだったぜ。だがここからは、俺のゲームメイクだ!」
そう言うや否や、十六夜は時計塔を力いっぱい蹴りつけた。蹴り飛ばされた時計塔の上半分は第三宇宙速度に匹敵する速度で黒ウサギが降りた歩廊に向かって飛んでいく。
「……は?え、ちょ、な、何してるんですかお馬鹿様ああああああ!!?」
小躍りしながら喜んでいた黒ウサギだが一転、十六夜の暴挙に絶叫する。
「「「あ……あの人間滅茶苦茶だあああああ!?」」」
遠くで見ているギャラリーも、絶叫した。
パニックを起こし、逃げ惑う。
「やっぱりこうなったか……僕が十六夜の立場でもそうするし、しょうがないのかなあ……。
取り敢えずアルル!飛んでくる大きな瓦礫を砕くよ!」
「はい」
あの位置ならギャラリーに人的被害はないだろうが、念のためだ。
均はギフトカードからホワイトダガーを顕現させ、主に柄の部分で瓦礫を割り砕く。さすがは金剛鉄製の武具。たまに使わざるを得ない刃の部分も、刃こぼれする兆しが一切ない。
アルルは拳で瓦礫を叩き割っていた。原始的な方法だが、元・魔王の星霊の膂力なら容易いことだ。
二人が被害を抑えるのに尽力している中、事を起こした張本人は黒ウサギを捕まえるために追って飛び降りていた。
「射程距離だぜ、黒ウサギ」
「ッ、十六夜さん……!」
瓦礫を蹴り飛ばしその影から十六夜の手が伸びる。
黒ウサギは間一髪でそれを手の甲で弾き、お返しとばかりに手を伸ばす。
十六夜は手首で弧を描くようにしてそれを躱し、再び掴みかかる。
二人が刹那の時間に数えきれない程の攻防を繰り返す中、頭上から倒壊した建物の塊が降ってきた。
そこが勝負の分かれ目となった。二人は頭上に拳を振り上げ建物を吹き飛ばす。
その一撃に割いた分、守りが薄くなる。お互いに掴みかかった二人の手は――。
「「あっ」」
同時にお互いの腕を掴み取った。
二人の″契約書類″が発光し、勝敗を定める。
『『勝敗結果:引き分け。以降この″契約書類″は、命令権として使用可能です』』
「…………は?」
黒ウサギの腕を掴んだまま、十六夜は訝しげな声を上げた。
「ふぅ……さてアルル、二人のところに行こうか」
「はい」
降ってくる瓦礫を粗方壊し終えた均は、二人の下に駆け寄る。アルルがその後ろに付いて行った。
「あー…………コレは、アレです。引き分けなので、互いに命令権を一つ得たみたいです」
「そんなことはどうでもいい。俺が気に入らないのは、″引き分け″の結果だけだ。どう見ても俺の方が速かっただろ」
「やや、そんなことはないのですよ?箱庭の判定は絶対なのです」
駆け寄る均の耳に十六夜と黒ウサギの会話が聞こえてくる。
「はぁ?なんだそれどこの神様が決めた判定だよふざけんな今すぐ――」
「ふざけるなはこっちの台詞だよ馬鹿十六夜」
――――そして均は二人の下に着いたその勢いで十六夜の頭を殴りつけた。ボコンッという鈍い音が響く。
「痛ってえな」
「痛ってえなじゃないよ何やってんのさ。確かにあの状況ならああするしかなかったのもわかるけど、少しは周囲の被害も考えろ」
文句を言う十六夜をピシャリと切り捨て、そのまま黒ウサギに向き直る。
「そして黒ウサギ」
「は、はい」
怒っているのは黒ウサギの方だったはずなのだが、十六夜との色々と今の均の気迫に押されそのことがすっかり抜け落ちている黒ウサギは、ウサ耳を垂れて均の言葉を待った。
「確かに、僕らの冗談は悪質だった。それは認める。そのことに関しては後で僕を叱ってくれてもいい。でもね?」
そこで一旦均は言葉を区切ると、黒ウサギに顔を近づけてニッコリ笑って言った。
「前に僕、ジンにも怒ったんだよね。隠し事するなって。あの後黒ウサギにも個別にちゃんと言った記憶があるんだけど、それは僕の勘違いだったのかな?それなら僕がさらに謝るけど…………そうじゃなかったら後でもう一回説教な。骨の髄まで思い知らせてあげるから覚悟してね?」
目が笑っていない均お得意の笑顔を至近距離で向けられ、黒ウサギは今にも泣きそうだった。
「は、はいなのですよ……」
「んじゃあ、お迎えも来たようだしこの場はここまでだね」
「そこまでだ貴様ら!!」
厳しい声音が歩廊に響く。
均の言うように、四人の周囲を蜥蜴の鱗を肌に持つ集団が囲んでいる。
北の″階層支配者″――″サラマンドラ″のコミュニティが騒ぎを聞き付けてきたのだ。
均と黒ウサギは両手を上げて降参するのだった。
――境界壁・舞台区画。″火龍誕生祭″運営本陣営。
均達は″サラマンドラ″のコミュニティに連行され、″火龍誕生祭″を行うための本部まで来ていた。
真っ赤な境界壁を削り出すように造られた宮殿と繋がっている輪郭を円状に造られたゲーム会場では、現在白夜叉が持っていたチラシのギフトゲームが開催されており、最後の決勝枠が争われていた。
ちなみに客席は会場を取り囲むように設けられている。
『お嬢おおおおおおお!!そこや!今や!後ろに回って蹴飛ばしたれえええええ!!』
「あれ、三毛猫さんも付いて来てたんだ」
舞台の側から聞こえてきた大きな歓声に、均が呟きを漏らす。
この歓声からもわかるように、今舞台で戦っているのは″ノーネーム″の春日部耀だ。
相手は″ロックイーター″のコミュニティに属する
ちなみに、均と一緒に連行されて来たのは十六夜と黒ウサギだけでなく、アルルもだ。ギフトカードに戻すタイミングがなかったのである。
「これで……終わり……!」
旋風を巻き上げ石垣の巨人の背後を取った耀は、その後頭部を蹴り崩す。
そして間髪入れずに自身の体重を″象″へと変幻させ、落下に合わせて巨人を押し倒す。
観衆が沸いた。
『お嬢おおおおおお!うおおおおおおおお!お嬢おおおおおおおおおおお!!』
ついでに三毛猫も沸いた。
大半の人間にはにゃーにゃー鳴いてるようにしか聞こえないだろうが、当然耀は聞き分けられたのだろう。
耀は三毛猫に目配せと片手を向け、微笑を見せる。
宮殿の上から見ていた白夜叉が柏手を打つと、歓声がピタリと止む。
白夜叉はバルコニーから朗らかに笑いかけ、耀と一般参加者に声をかけた。
「最後の勝者は″ノーネーム″出身の春日部耀に決定した。これにて最後の決勝枠が用意されたかの。決勝のゲームは明日以降の日取りとなっておる。明日以降のゲームルールは…………そうだな、もう一人の″主催者″にして今回の祭典の主賓から説明願おう」
白夜叉が振り返り、宮殿のバルコニーの中心を譲る。
テラスに現れたのは、深紅の髪を頭上で結い、色彩鮮やかな衣装を纏った少女。
龍の純血種――星海龍王の龍角を継承した新たな″階層支配者″。
炎の龍紋を掲げる″サラマンドラ″の幼き頭首・サンドラが玉座から立ち上がる。
サンドラは大きく深呼吸し、凛とした声音で挨拶した。
「ご紹介に与りました、北のマスター・サンドラ=ドルトレイクです。東と北の共同祭典・火龍誕生祭の日程も、今日で中日を迎える事が出来ました。然したる事故もなく、進行に協力くださった東のコミュニティと北のコミュニティの皆様にはこの場を借りて御礼の言葉を申し上げます。以降のゲームにつきましては御手持ちの招待状をご覧ください」
観衆が招待状を手に取ると、書き記されたインクは直線と曲線に分解され別の文章を紡ぎ始めた。
『ギフトゲーム名 ″造物主達の決闘″
・決勝参加コミュニティ
・ゲームマスター・″サラマンドラ″
・プレイヤー・″ウィル・オ・ウィスプ″
・プレイヤー・″ラッテンフェンガー″
・プレイヤー・″ノーネーム″
・決勝ゲームルール
・お互いのコミュニティが創造したギフトを比べ合う。
・ギフトを十全に扱うため、一人まで補佐が許される。
・ゲームのクリアは登録されたギフト保持者の手で行う事。
・総当たり戦を行い勝ち星が多いコミュニティが優勝。
・優勝者はゲームマスターと対峙。
・授与される恩恵に関して
・″階層支配者″の火龍にプレイヤーが希望する恩恵を進言できる。
宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、両コミュニティはギフトゲームに参加します。
″サウザンドアイズ″印
″サラマンドラ″印』
これで今日の大祭は御開きだ。日が傾き始め、巨大な境界壁の影が街を包んでいた。
「随分と派手にやったようじゃの、おんしら」
「ああ。ご要望通り祭りを盛り上げてやったぜ」
「胸を張って言わないで下さいこのお馬鹿様!!!」
スパァーン!と黒ウサギのハリセンが奔る。
「黒ウサギも人の事はそんなに言えないよね」
「うぅ……ごめんなさいなのですよ……」
均のツッコミも奔る。
ジンが後ろで頭を抱えていた。
「いやあ、ジンも悪いね。僕じゃ全く止められなかったよ」
「いえ……もういいです……」
「というか、均も発端の一人じゃろ?おんしも人の事は言えまい」
「そうなんですよね」
均が頭を掻いて笑う。
喋っていないアルルも含めた四人は連行された後、運営本陣営の謁見の間まで連れてこられたのだ。
白夜叉が笑いを必死に噛み殺しつつも、なるべく真面目な姿勢を見せる。
ここにはサンドラもいる。主賓にいつも通りのはしたない姿を見せるわけにもいかないのだろう。
「ふん!″ノーネーム″の分際で我々のゲームに騒ぎを持ち込むとは!相応の罰は覚悟しているだろうな!?」
サンドラの側近らしき男の高圧的な物言いに、均の片眉がピクリと上がる。
「これマンドラ。それを決めるのは頭首のサンドラであろう」
白夜叉がマンドラと呼ばれたその男を窘める。
サンドラは謁見の間の上座にある豪奢な玉座から立ち上がると、均達に声をかけた。
「″箱庭の貴族″とその盟友の方々。此度は″火龍誕生祭″に足を運んでいただきありがとうございます。貴方達が破壊した建造物の一件ですが、白夜叉様のご厚意で修繕してくださいました。負傷者は奇跡的になかったようなので、この件に関しては私からは不問とさせていただきます」
「チッ」
「……ぁ?」
サンドラの沙汰を聞いて舌打ちするマンドラ。
本当に小さく苛立ちの声を漏らし、もう片方の眉も上げたあと両方下げる均。
そして十六夜が意外そうに声を上げる。
「へえ?太っ腹なことだな」
「うむ。おんしらは私が直々に協力を要請したのだからの。路銀と修繕は報酬の前金とでも思っておくがよい」
均は軽く頷き、黒ウサギは胸をなで下ろす。十六夜は軽く肩を竦ませた。
「……ふむ。いい機会だから、昼の続きを話しておこうかの」
白夜叉が連れの者達に目配せをする。
サンドラも同士を下がらせ、側近のマンドラだけが残った。
この場に残ったのは彼らを除けば均、十六夜、黒ウサギ、アルル、ジンの五人だ。
サンドラは人がいなくなると、硬い表情と口調を崩してジンに駆け寄り、愛らしい笑顔を向けた。
「ジン、久しぶり!コミュニティが襲われたと聞いて随分と心配していた!」
「ありがとう。サンドラも元気そうでよかった」
二人は年相応の笑顔になる。微笑ましい光景だった。
「ふふ、当然。魔王に襲われたと聞いて、本当はすぐに会いに行きたかったんだ。けどお父様の急病や継承のことで中々会いに行けなくて」
「それは仕方ないよ。だけどあのサンドラがフロアマスターになっていたなんて――」
「その様に気安く呼ぶな、名無しの小僧!!!」
ジンとサンドラが親しく話していると、マンドラが獰猛に牙を剥き帯刀していた剣をジンに向かって抜く。
白刃がジンの首筋に触れる直前、その刃を十六夜が足の裏で受け止めた。
同時に今の一瞬で、均が逆手に持ったホワイトダガーをマンドラの首筋に押し当てている。
「くっ、貴様……!?」
「…………あんた、どういうつもりだ?」
均が怒りを滲ませながらマンドラに詰問する。さらに押し当てたのか、マンドラの首から血が一筋垂れる。
均の顔にはいつものにこやかな笑顔すら浮かんでいない。
「……知り合いの挨拶にしちゃ穏やかじゃねえぜ。止める気なかっただろオマエ」
十六夜は軽薄な笑みを浮かべてはいるが、目は笑っていない。
均は十六夜が止めると信じていたから攻めに転じたのだ。そして手加減ができそうにない(面倒だったとも言う)十六夜は、攻めを均に任せることにした。息がピッタリだ。
十六夜にも睨まれたマンドラが声を荒げる。
「当たり前だ!サンドラはもう北のマスターになったのだぞ!誕生祭も兼ねたこの共同祭典に″名無し″風情を招き入れ恩情を掛けた挙句、馴れ馴れしくされては″サラマンドラ″の威厳に関わるわ!この″名無し″のクズどもが!!」
マンドラがその言葉を吐いた瞬間、部屋の一角から濃密な殺気が迸る。
「…………今のは、均様への侮辱と受け取っても、よろしいですか?」
アルルだった。
「……やめろアルル。今の発言で僕が貶められたわけじゃない」
「……かしこまりました」
アルルが均に言われて殺気を収める。
均は怒りを声音に乗せながらもホワイトダガーを仕舞った。
今、アルルは本気でマンドラを殺すつもりだった。それはさすがにマズイので止めたが、窘めた均が武器で脅しつけたままというのは言っていることと矛盾するためだ。ジンにも被害はなかったことだし、ここは退く。
(…………まあ、怒ってないわけじゃないんだけどね……)
″ノーネーム″を馬鹿にする発言を平然と受け流せるほど、均は薄情ではないが。
均は一度深呼吸すると、いつもの優しげな微笑に戻る。表面上は全く怒っているようには見えない。
剣呑な雰囲気が流れる十六夜とマンドラの間にサンドラが割って入る。
「マンドラ兄様!彼らはかつての″サラマンドラ″の盟友!此方から一方的に盟約を切った挙句にその様な態度を取られては、我らの礼節に反する!」
「礼節よりも誇りだ!そのようなことを言っているから周囲から見下されるのだと」
「これマンドラ。そこまでにせんか」
白夜叉が呆れた口調でマンドラを諌める。しかし、マンドラはなおも食ってかかった。
「″サウザンドアイズ″も余計な事をしてくれたものだ。同じフロアマスターとはいえ、越権行為にもほどがある。『南の幻獣・北の精霊・東の落ち目』とはよく言ったものだ。此度の噂も、東が北を妬んで仕組んだ事ではないのか?」
「マンドラ兄様ッ!いい加減にしてください!!」
サンドラが厳しい口調でマンドラを叱りつける。
その叱責がなければ、均の怒りが再び爆発していたかもしれない。
マンドラは、白夜叉までをも馬鹿にしたのだ。
その一瞬の怒気に気がついたのか、白夜叉が均を見て微笑む。
均は怒りを霧散させ、白夜叉に目礼を返した。
そして″ノーネーム″側は、先程のマンドラの発言の事情がわからず首を傾げている。
「おい、噂って何の事だ?」
「僕達に協力してほしいことと何か関係が?」
十六夜と均が白夜叉に尋ねる。
白夜叉は頷いて全員の顔を見回すと、一枚の封書を取り出した。
「この封書に、おんしらを呼び出した理由が書いてある。己の目で確かめるがいい」
怪訝な表情のまま十六夜が封書を受け取る。
均も一緒に覗き込み……均の顔から笑みが消えた。見れば、十六夜の表情からもいつもの軽薄な笑みが消えている。
そこには、こう書かれていた。
『火龍誕生祭にて、″魔王襲来″の兆しあり』
均と十六夜の表情を見て不思議そうな顔をした黒ウサギが軽く跳ねて二人の後ろに立つ。
「均さん、十六夜さん……何が書かれているのです?」
「自分の目で確かめな」
「その方がいいよ」
十六夜が背中越しに手紙を渡す。二人の声には抑揚がなかった。
「………なっ」
後ろから黒ウサギの驚愕した声が聞こえてきた。次に見たジンも同様だ。
均と十六夜は鋭い視線のまま、しかし無表情で白夜叉に問い返す。
「正直意外だったぜ。てっきり、マスターの跡目争いとかそんな話題かと思ってたんだがな」
「僕も、もっとくだらないことかと思ってたよ」
「何ッ!?」
いきり立つマンドラをサンドラが慌てて止める。
しかし三人は無視して進める。
「謝りはせんぞ。内容を聞かずに引き受けたのはおんしらだからの」
「全くもってその通りですね」
「だな。……それで、俺達に何をさせたいんだ?魔王の首を取れって言うなら喜んでやるぜ?」
「それをするならその前に僕にちょっとやらせてほしいことが……」
均がすっと十六夜の言葉に割り込む。十六夜は苦笑して均に訊く。
「なんだ?また
「そう、
「ヤハハ。ま、もし余裕があったらやってみろよ」
「うん」
そんなことを話す二人。あまりに軽く話すものだから、マンドラとサンドラは場違いな印象を覚えた。これがまさか
「んで、何をさせたいんだ?つーかこの封書は何なんだ?」
少し脱線したが十六夜が話題を元に戻す。
「うむ。まずはそこから説明しようかの」
白夜叉がサンドラに目配せする。
サンドラが頷いて了承の意を示すと、白夜叉は神妙な面持ちで話し始めた。
「まずこの封書だが、これは″サウザンドアイズ″の幹部の一人が未来を予知した代物での」
「「未来予知?」」
均と十六夜が声を揃える。
「うむ。知っての通り、″サウザンドアイズ″は特殊な瞳を持つギフト保持者が多い。その中には未来の情報をギフトとして与えている者もおる。そやつから誕生祭のプレゼントとして贈られたのが、この″魔王襲来″の予言だったわけだ」
「その人性格がいいんだか悪いんだか判断に困りますね……誕生祭のプレゼントって……」
確かに事前に教えてくれるのはありがたい。しかしそれを祝いの場のプレゼントにするのはどうなのかと思わないでもない。
「なるほどな。予言という名の
「上に投げれば下に落ちる、という程度だな」
白夜叉の例えに、十六夜は一瞬疑わしそうに顔を歪ませた。
それは要するに、絶対に当たるということだ。
均は何かを少し考え込んでいる。その例え方に、引っ掛かりを覚えていた。
「…………それ、予言なのか?上に投げれば下に落ちるのは当然だろ」
「……白夜叉様。まさかとは思いますが、その人には他の要因が見えている、などと仰いませんよね?」
「恐らく、おんしの想像通りだと思うぞ」
自身の考えを口にする均に、白夜叉が素っ気なく答える。
それで納得したのか、均は二、三度頷いた。
「均、どういう事だよ?いや、待て。まさか……」
十六夜が均に尋ね、そしてすぐに何かに思い当たる。
「多分それで正しいんだよ。白夜叉様の例えが何故さっきのだったのか疑問だったんだけど……少し考えたら推測はできた。″投げる″という行為には、″誰が″″何故″″どうやって″という他の要因が関わってくる。そしてそれがわかれば……″何処に落ちるのか″ということも推理することができる。これはそういう予言……ということですか?」
「うむ。均の推測は完璧だ」
十六夜は理解したものの、どこか釈然としない表情だ。他の面々はその事実に言葉を失っている。
犯人、犯行、動機。その全てがわかっているのに未然に防げないというのだから無理もない。
マンドラが何か喚いているが、十六夜は無視して思考を続ける。そして、頭の中で情報を整理し終えたのか、確認するように白夜叉に問う。しかしそれは、確信を得ているような響きだった。
「今回の一件で、魔王が火龍誕生祭に現れるために策を弄した人物が他にいる――その人物は
ジンがハッとした表情でサンドラを見る。ジンは北側に来る際の白夜叉の話を思い出していた。
『幼い権力者をよく思わない組織がある』と白夜叉は言っていた。
それらの事が意味するのはつまり――――。
「まさか……他のフロアマスターが、魔王と結託して″火龍誕生祭″を襲撃すると!?」
ジンの叫び声が響く。秩序の守護者である″階層支配者″が、秩序を乱そうとしているのだ。確かに恐ろしいことだ。
「まだわからん。この一件はボス直々の命令で、私はまだ確信には至っていない。……しかし、北の他のマスターがサンドラの誕生祭に非協力的だったのは認めねばなるまい。私に御鉢が回ってきたほどだからな。その理由が″魔王襲来″に深く関与しているのであれば……これは大事件だ」
白夜叉は唸り、ジンと黒ウサギは絶句する。
しかし均と十六夜の二人は、得心がいかないように首を傾げていた。
「それ、そんなに珍しいことですか?」
「だよなあ?」
二人は首を傾げたまま顔を見合わせ、同時に頷く。
「へ!?」
「珍しいも何も、最悪ですよ!フロアマスターは魔王から下位のコミュニティを守る、秩序の守護者!魔王という天災に対抗できる数少ない防波堤なんですよ!?」
「だが所詮は脳味噌のある何某だ。秩序を守る者が謀をしないなんてこと、幻想にすぎないだろ?」
「そうだよね。それが考える頭と感情を抱く心を持っているなら、そんなことは儚い幻想だ」
この二人は、そんなことが珍しくない冷めた時代から来ている。二人は一瞬冷めた笑みを浮かべていた。
それを察した白夜叉は首を振る。
「なるほど、一理ある。だがなればこそ、我々は秩序の守護者として正しくその何某かを裁かねばならん」
「けど目下の敵は予言の魔王。ジン達には魔王のゲーム攻略に協力してほしいんだ」
サンドラの言葉に、一同は合点がいったという表情で頷く。新生″ノーネーム″の初仕事だ。
事の重大さを理解したジンは、重々しく承諾した。
「わかりました。″魔王襲来″に備え、″ノーネーム″は両コミュニティに協力します」
「うむ、すまんな。おんしらからすれば敵の詳細がわからないことは不本意であろうが、これは魔王を退ければいいというだけのものではない。箱庭の秩序を守るためにも、この一時の秘匿は必要なことなのだ。主犯には何れ相応の制裁を加えると、我らの双女神の紋に誓おう」
「″サラマンドラ″も同じく。――ジン、頑張って。期待してる」
「わ、わかったよ」
ジンは緊張しながら頷く。白夜叉は表情を一変させ、哄笑を上げた。
「そう緊張せずともよい!魔王はこの最強のフロアマスター、白夜叉様が相手をするからな!おんしらはサンドラと露払いをしてくれればそれでよい。大船に乗った気でおれ!」
扇をパンッと広げ、白夜叉は明るく笑う。
その発言を聞いて、目を細めて不満そうにする男が二人。
白夜叉は口元を扇で隠しながら苦笑を向けた。
「やはり露払いは気に食わんか、おんしら」
「いいえ?白夜叉様に免じて、今回は黙って見ていましょう。現魔王というのがどの程度か知るにはいい機会ですし」
「そうだな。今回は露払いでいい。――――だが、
「ないんじゃない?それと同様に、
前半は十六夜に、後半は白夜叉に向けて均が言う。
好戦的な二人に、白夜叉は呆れた笑いを返す。
「よかろう。隙あらば魔王を好きにして構わん。私が許す」
こうして交渉は成立した。
均の笑みが深まったことに気づくことができた人間は、この場に何人いただろうか。
本当に長くなってしまった……。
あと二話くらいであのロリッ子が登場するかと思います。いや、三話かな……。
感想などありましたら、びしばし言ってください。どんなキツい意見だろうと受けとめます。
では、また次回。