問題児たちと(常識人の)幼馴染が異世界から来るそうですよ? 作:gobrin
大分時間が開いてしまいました。すみません。
勝手に書くのをやめる、なんてことにはしませんので待っていただければと思います。
では、どうぞ。
″サウザンドアイズ″旧支店に戻ってきていた均は、用意された来賓室で十六夜、ジン、あの女性店員とともに歓談に勤しんでいた。
女性店員は指名されて嫌そうにしていたが。
「そう言えば、僕らってどうやってここに来たんです?なんか、転移って感じはしなかったですけど。なんて言うか、接続先が変更したって感じ?」
均がここへ来た時から持っていた疑問を女性店員にぶつけると、彼女はあっさり答えた。今は別に嫌そうには見えない。あくまでも見えないだけかもしれないが。
「おや、中々鋭いですね。貴方の感覚通りですよ。″
「いや全然」
「十六夜、即答かよ」
「だって分かんねえし。つーか考えんのがめんどくせえ」
「だと思ったよ。なんかすごいリラックスしてるし」
均が呆れながら十六夜に突っ込む。女性店員もため息を吐いて、少し砕けた口調になって話し始めた。
「要約すると、数多の入り口が全て一つの内装に繋がるようになっているの。例えばそうね……蜂の巣――ハニカム型を思い浮べてくれれば分かりやすいはずですよ」
それを聞き、十六夜は興味津々な様子で先を促す。
「へえ?つまり本店も支店も全て兼ね備えている、ということか?」
「違います。けどそうね、語弊がありました。境界門と違う点はそこです。境界門は全ての門と繋がっているのに対し、″サウザンドアイズ″の出入り口は各階層に一つずつハニカム型の店舗が存在しているの」
「なるほど、そういうことだったんですね」
「つまり、″七桁のハニカム型支店″、″六桁のハニカム型支店″ってことか?」
「そう。無論、本店への入り口は一つしかありませんが」
均と十六夜は得心がいったように頷く。
「この高台の店は立地が悪く、閉店となった過去の店。今回は白夜叉様が共同祭典に来られるということになり、一時的にこの店へ出入り口を繋げ、私室部と店内の空間を別々に切り分けているの」
「ということは、店内に繋がる正面玄関は開かない仕組みになっているんですか?」
均が確認を取る。
「そうですね。壊してでも開けようなどとなさりませんように」
「あいよ」
女性店員が十六夜に念を押す。
「そんなことは僕がさせませんのでご安心を」
「お願いしますよ」
均と女性店員が頷き合う。
女性店員は、均の本性を知らない。何かあっても十六夜を必ず止めてくれると信頼しているようだ。
まあ、いくら均でもこういう事情の時にふざけたりはしないだろう。
「あら、そんなところで歓談中?」
話が一段落ついたところで、湯殿から飛鳥達が来た。
実は飛鳥が怪我をして戻ってきて、汚れているのを見かねた女性店員が飛鳥を風呂に放り込んだのである。
そして、飛鳥を心配した黒ウサギと耀、白夜叉やレティシアといった女性陣もお風呂に入っていたのだ。
なんでも、群体精霊からはぐれたであろう単体で行動していた精霊を見つけ、気になって追っていった飛鳥は、その先で立ち寄った展示会場で何者かに襲われたのだという。
飛鳥達は備えの薄い浴衣を着ており、首筋から上気した桃色の肌を見せている。飛鳥の玉のような肌には、傷一つなかった。流石は″サウザンドアイズ″。水からして別格らしい。
十六夜は椅子からそっくり返って湯上りの女性陣を眺めた。均は正面から眺めている。
「……おお、これは中々いい眺めだ。そうは思わないか、均、御チビ様?」
「はい?」
「激しく同意」
均の同意は十六夜とジンのどちらに向けたものだったのか。十六夜以外はわかっていない。
「黒ウサギやお嬢様の薄い布の上からでもわかる二の腕から乳房にかけての豊かな発育は扇情的だが――」
十六夜が意味深に言葉を切り、均に目配せする。
均は一つ頷き、口を開く。
「相対的にスレンダーだけど健康的な素肌の耀やレティシアの髪から滴る水が鎖骨のラインを流れ落ちる様は視線を自然に慎ましやかな胸のほうに誘導するのは確定的でそんな現象を起こすことができる素晴らしいプロポーションであることは疑いようがなk」
スパスパァーン!!
均と十六夜がかなりの早口で喋っていたのにも関わらず、これだけしか言わせずに止めるほどの速さでツッコミが入った。
耳まで紅潮させた飛鳥と黒ウサギのものである。
「変態しかいないのこのコミュニティは!?」
「白夜叉様も均さんも十六夜さんもみんなお馬鹿様ですッ!!」
「ま、まあ二人とも落ち着いて」
「均もそっち側だった。意外」
「そりゃ僕も男だからねー」
軽く頬を染めつつも慌てて宥めるレティシア。無表情なまま驚きを露わにする耀。ケラケラ腹を抱えて笑う白夜叉。さらっと返す均。一人、絶望的な顔をして両手で頭を抱えるジン。均がそっち側に付いたことが意外と応えたようだ。ジンの肩に同情的な手を置く女性店員。
「………君も大変ですね」
「………はい」
身近に問題児がいるという虚しい哀愁を分かち合う二人。
その裏側で均、十六夜、白夜叉の三人が同好の士を得たように右拳を合わせていた。
その後、レティシアと女性店員は来賓室を辞した。今は均、十六夜、飛鳥、耀、黒ウサギ、ジン、白夜叉、そしてとんがり帽子の精霊がこの場に残っている。この精霊が件のはぐれ精霊だ。
白夜叉はテーブルに肘を置き、とてつもなく真剣な声音で口を開いた。
「それでは皆のものよ。今から第一回黒ウサギの審判衣装をエロ可愛くする会議を」
「始めません」
「始めます」
「始めませんッ!」
白夜叉の提案に悪乗りする十六夜。黒ウサギは即座に突っ込むが、彼女は一つ忘れていた。
――――今日この場では、悪乗りするのが十六夜だけではないということを。
「と言いつつも、始めます」
「だから始めませんッ!!均さんまでやめてください!」
もう黒ウサギは涙目である。
ちょっと可哀想になったので、均は真面目に白夜叉に先を促すことにした。
「それで、本題はなんですか白夜叉様?」
「ん、実はだな。明日から始まる決勝の審判を黒ウサギに依頼したいのだ」
「あやや、それはまた急な話でございますね。何か理由でも?」
「うむ。おんしらが起こした騒ぎで″月の兎″が来ていると公になってしまっての。明日からのギフトゲームで見られるのではないかと期待が高まっているらしい。″箱庭の貴族″が来臨したとの噂が広がってしまえば、出さぬわけにはいくまい。黒ウサギには正式に審判・進行役を依頼させて欲しい。別途の金銭も用意しよう」
全員がなるほどと納得する。
「分かりました。明日のゲーム審判・進行はこの黒ウサギが承ります」
「うむ、感謝するぞ。……それで審判衣装だが、例のレースで編んだシースルーの黒いビスチェスカートを」
「着ません」
「着ます」
「断固着ません!あーもう、」
「喜んで着ます」
「着・ま・せ・ん!!いい加減にしてくださいお二人とも!」
茶々を入れる均と十六夜に、黒ウサギがウサ耳を逆立てて怒る。
と、これまでのやり取りには一切合切無関心だった耀が思い出したように白夜叉に訊ねる。
「白夜叉。私が明日戦う相手ってどんなコミュニティ?」
「すまんがそれは教えられん。″主催者″がそれを語るのはフェアではなかろ?教えてやれるのはコミュニティの名前までだ」
パチン、と白夜叉が指を鳴らす。すると、昼間のゲーム会場で現れた羊皮紙が現れ、同じ文章が浮かび上がる。
そこに書かれているコミュニティの名前を見て、飛鳥は驚いたように眼を丸くした。
「″ウィル・オ・ウィスプ″に―――″ラッテンフェンガー″ですって?」
「うむ。この二つは珍しいことに六桁の外門、一つ上の階層からの参加でな。格上と思ってよい。詳しくは話せんが、余程の覚悟はしておいた方がいいぞ」
白夜叉の忠告に、耀はコクリと頷く。
一方、均と十六夜は″契約書類″を見ながら笑っていた。
「へえ………″ラッテンフェンガー″?成程、″
「ということは、明日の敵はハーメルンの笛吹き道化だったりするのかな?」
え?と飛鳥が声を上げる。均はそれを耳聡く聞きつけたが、飛鳥の隣に座る黒ウサギと白夜叉の驚嘆の声に飛鳥の声は掻き消され、他の者に届くことはなかった。
「ハ、″ハーメルンの笛吹き″ですか!?」
「待て、どういうことだ小僧ども。詳しく話を聞かせろ」
黒ウサギと白夜叉の食いつきに、均と十六夜が思わず瞬きする。
白夜叉はその様子を見て幾分声のトーンを下げ、質問を具体化する。
「ああ、すまんの。最近召喚されたおんしらは知らんのだな。―――″ハーメルンの笛吹き″とは、とある魔王の下部コミュニティだったものの名前だ」
「何?」「へぇ」
十六夜と均が同時に声を出した。
「魔王のコミュニティ名は″
「しかも一篇から呼び出される悪魔は複数。特に目を見張るべきは、その魔書一つ一つに異なった背景の世界が内包されていることです。魔書の全てがゲーム盤として確立されたルールと強制力を持つという、絶大な魔王でございました」
「―――へえ?」
「面白そうな魔王ですね」
均と十六夜の瞳が鋭さを増す。
黒ウサギの説明は続く。
「けどその魔王はとあるコミュニティとのギフトゲームで敗北し、この世界を去ったはずなのです。……しかし均さんと十六夜さんは″ラッテンフェンガー″が″ハーメルンの笛吹き″だと言いました。童話の類は黒ウサギも詳しくありませんし、万が一に備えご教授して欲しいのです」
均と十六夜は何かを考えた後、お互いに視線を交わす。そしてニヤリと笑って頷くと、十六夜が隣に座っているジンの頭をガシッと摑んだ。
「なるほど、状況は把握した。そういうことなら、我らが御チビ様にご説明願おうか」
「え?あ、はい」
一同の視線がジンに集まる。ジンも承諾はしたものの、いきなり話題を振られて顔を強張らせる。が、十六夜がジンに何事かを耳打ちし、ジンは一つ咳払いをしてから話し始めた。
「″ラッテンフェンガー″とはドイツという国の言葉で、意味はネズミ捕りの男。このネズミ捕りの男とは、グリム童話の魔書にある″ハーメルンの笛吹き″を指す隠語です」
ふむ、と頷く一同。均と十六夜の頷きは他のメンバーと意味が違うものだが。
ジンはそのまま説明を続ける。
「大本のグリム童話には、創作の舞台に歴史的考察が内包されているものが複数存在します。″ハーメルンの笛吹き″もその一つ。ハーメルンとは、舞台になった都市の名前のことです」
グリム童話の″ハーメルンの笛吹き″の原型となった碑文にはこうある。
―――一二八四年 ヨハネとパウロの日 六月二十六日
あらゆる色で着飾った笛吹き男に一三〇人のハーメルン生まれの子供らが誘い出され、丘の近くの処刑場で姿を消した―――
この碑文は実際に起きた事件を示すものであり、一枚のステンドグラスと共に飾られている。
「ふむ。ではその隠語が何故にネズミ捕りの男なのだ?」
「グリム童話の道化師が、ネズミを操る道化師だったとされるからです」
それを聞き、飛鳥が何やら息を吞んでいる。
「ふーむ。″
「YES。参加者が″
「うん?なんだそれ、初耳だぞ」
「僕も聞いた覚えがないかな」
それに答えるのは白夜叉だ。
「おお、そうだったな。魔王が現れると聞いて最低限の対策を立てておいたのだ。私の″主催者権限″を用いて祭典の参加ルールに条件を付け加えることでな。詳しくはこれを見よ」
白夜叉が白い指を振ると光り輝く羊皮紙が現れ、誕生祭の事項を記す。
『§ 火龍誕生祭 §
・参加に際する諸事項欄
一、一般参加は舞台区画内・自由区画内でコミュニティ間のギフトゲームの開催を禁ず。
二、″主催者権限″を所持する参加者は、祭典のホストに許可なく入ることを禁ず。
三、祭典区画内で参加者の″主催者権限″の使用を禁ず。
四、祭典区域にある舞台区画・自由区画に参加者以外の侵入を禁ず。
宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。
″サウザンドアイズ″印
″サラマンドラ″印』
手元に現れた羊皮紙に目を通し、小さく頷く十六夜。
「″参加者以外はゲーム内に入れない″、″参加者は主催者権限を使用できない″か。確かにこのルールなら魔王が襲ってきても″主催者権限″を使うことは不可能だな」
「うむ。まあ、押さえるところは押さえたつもりだ。……どうしたのだ均。何か気になることがあるのか?」
均も羊皮紙の内容を読んでいたが、顰めっ面で何かを考え込んでいる。
「いえ、何がというわけではないんですが……どこか引っかかっていて……でも、明言できそうにないです。すみません」
「……いや、気にするでない。何か分かったら教えてくれればよい」
白夜叉の慰めるような声音を受けて、均はしっかりと頷く。
「それにしても、情報として有益なものだったぞ。しかしゲームを勝ち抜かれてしまったのはやや問題ありだの。サンドラの顔に泥を塗らぬよう監視を付けておくが―――万一の際は、おんしらの出番だ。頼むぞ」
″ノーネーム″一同は頷いて返す。
「さて、それではこの場は解散だ。――っと、均、おんしは少し残っておくれ。話がある」
「わかりました」
均と白夜叉以外の全員が宛がわれた自室に戻った。
均は白夜叉と向かい合って座り、白夜叉の言葉を待つ。
特に間をおかずに白夜叉は口を開く。
「実はな、おんしに出場してもらいたいギフトゲームがあるのだ」
「僕にですか?それは個人で?」
「いや、実は春日部に出場を勧めたギフトゲームなのだ。ほれ、おんしも聞こえたであろう?」
「ああ、三毛猫さんが騒いでたやつですね」
白夜叉が、うむ、と頷く。
「これを読んでもらえばわかるが、あのギフトゲームには一人までなら補佐が許されている。そこで、おんしにはその補佐としてギフトゲームに出場してほしいのだ。おんしも参加条件は満たしておるからの」
「確かに、僕の″模倣投影″でコピーしたギフトや白夜叉様から頂いた二つのギフトはこの条件を満たすので、問題がないことはわかります。耀の補佐をするのも吝かではありません。ですが、何故僕なんですか?そこは教えていただけますか」
″契約書類″を読んで、均は自身が参加条件を満たしていることを理解する。だが、参加して欲しいと頼むなら理由くらいは教えて欲しい。
「……なら単刀直入に言うが、おんし、春日部が他人を――コミュニティの同志であろうと頼ろうとしないことに気づいておるだろう?」
「……それはまあ、はい」
「やはりな。そんな均なら、上手くやってくれるのではないかと思っての」
「………コミュニティの同志に言われることを、耀が良しとするでしょうか」
「わからん。気を悪くさせるやもしれん。だが、キッカケの一つにはなるはずだ」
「……」
均は一度口を閉じ、瞑目する。
「そういうことなら、分かりました。ですが、やはり全くの他人に言われる方がいいでしょうね……。誰か耀の様子に気づいて、助言してくれる聡明な人が居ればいいんですけど」
「そうだの。心当たりがないわけでもないのだがな……」
「そうですか。……それにしても、意外でした」
「ん、何がだ?」
均が話題を変えようとしていることを察し、白夜叉は目元を和らげてそれに乗る。
が、続く均の発言でその表情が凍り付く。
「白夜叉様が、ここまで耀の――いえ、僕らのことを気にかけてくださっていることが、です」
「………」
「ああいえ、勘違いはしないでいただきたいのですが、僕としてはありがたいと思っています。東側最強の″
当て付けと受け取られては困る均は、速やかに補足する。
均が自分をフォローしようとしていることに気づいた白夜叉は、儚げに微笑む。
「……そう言ってもらえるとありがたいの。余り褒められたことではないと思っておる。……だが、春日部は見ていて少々心配になるのだ」
「まあ、傾倒し過ぎるのは良くないのでしょうが、今の程度であれば問題ないのではないでしょうか。確証は全くありませんけど」
「……そうだな。さて、頼みは聞いてくれるということで良いのか?」
均は頷き、白夜叉に言葉を返す。
「はい。僕にできる限り、何とかやってみます」
「そうか、助かる。では、頼んだぞ」
「任されました。では、白夜叉様。おやすみなさい」
「うむ。しっかり休むのだぞ」
均は一礼して部屋を出て、部屋に向かって歩き始めた。
コンコン。
「ん?誰だ?」
「レティシア、僕だ。こんな夜遅くにごめんね。今ちょっといいかな?」
レティシアが扉の向こうに呼びかけると、返事が返ってくる。均だ。
レティシアは立ち上がり、声を出しながら扉に歩み寄る。
「均か、大丈夫だ。ちょっと待ってくれ、今開ける」
レティシアが扉を開けると、柔らかい笑みを浮かべた均が立っていた。
「大したもてなしもできないが、入ってくれ」
「うん、遠慮なく」
レティシアは均を招き入れる。
「……ふぅ。さて」
レティシアが出してくれた紅茶を一口飲み一息吐いた均が切り出す。
「今日飛鳥にあったことを教えて欲しいんだ。飛鳥の様子はチラリとだけ見たけど、小さな傷が多かったように思う。どうしてああなったのか、ちょっと気になってね。レティシアは何か事情を知っているようだったからさ」
「そういうことだったか。わかった、知っていることは話そう」
「ごめんね。ありがとう、レティシア」
「ふっ。主の要望を叶えるのも使用人の務めさ」
そう言い切るレティシアはとてもカッコよかった。
「さて、どこから話そうか」
レティシアは顎に指を添えて考える。
均はレティシアが回答しやすくなるように、自分の知っていることを伝える。
「僕が知っていることは何もないよ。飛鳥と別れたのは高台で黒ウサギに強襲されたときだし」
「そうか、なるほど。なら最初からだな。主殿達が置いて行ったあの
「うぐっ……」
レティシアはレティシアで怒っているらしい。当て付けのように
「ふふっ、整った顔が台無しだぞ?均」
「……そりゃあ顔を顰めてるからねえ。レティシアは笑ってていつも以上に綺麗だよ」
「ッ……」
均がサラッと言った言葉で、レティシアが固まる。
「――――ははっ」
「………これは一本取られたな。均も意趣返しとは人が悪い」
均が顰めっ面を微笑に変えたことで、レティシアがからかわれたことに気づく。苦笑を浮かべて均を軽く睨む。
「はは、ごめん。でも本心ではあるから。許してもらえるとありがたいかな」
「そうやって歯の浮くようなセリフをたくさんの女に言ってきたのか?悪い奴だ」
「いやいや、そんなことないから」
お互いに微笑を浮かべて軽口を叩きあう。随分気安い関係になっていた。
「さて、話が逸れたな。まあ私は″サウザンドアイズ″に行って白夜叉にこっちに連れてきてもらえたんだ。黒ウサギが着いていることを確認してから外で色々探して、黒ウサギと合流して主殿達の捜索に加わった。と言っても、黒ウサギに付いて行っただけだがな」
「何というかざっくりとした説明だね」
「ん?均が知りたいのは飛鳥の動向だろう?」
レティシアがキョトンとした様子で小首を傾げる。均は一つ頷いてレティシアに話を促す。
「あ、うん。レティシアの説明の仕方が正しいと思う。口を挟んでごめん。続けて?」
「わかった。それで私が飛鳥を見つけたのは十六夜と一緒に居たところだ。十六夜は黒ウサギが追っていき、私は飛鳥とそこら辺をぶらつくことにした」
「ああ、それもの凄く心当たりあるわ」
均がしみじみと頷く。レティシアは再度苦笑いになる。
「そう言えば、念のためあの二人の尻拭いをしたんだったか?均も大変だな」
「いやまあ、向こうに居た時はともかく、箱庭に来てからというもの問題児側でやってるからあまり人のことは言えないんだけどさ……」
均には自分が問題児側だという自覚はあったらしい。驚愕の新事実だ。それを理解していながら直そうとしない辺りが問題児たる所以なのだろうが。
「……まあそれについてはノーコメントとしておこう。そういうわけで飛鳥と行動を共にしていたんだが、クレープを買って食べていた時に、飛鳥がはぐれの精霊を見つけてな。追いかけていってしまったんだ」
均は、先ほど集まっていた時の光景を思い出す。
「ああ。飛鳥が連れていた、手の平サイズの身長でとんがり帽子を被ってたあの女の子の小人のことだね」
「そう、それだ。私はそこで飛鳥を見送ってしまってな。今思えば失態だ……」
レティシアが俯き肩を震わせる。均はどうしたものかと少し思案し、レティシアに声をかける。
「レティシア、過ぎたことを悔やんでも仕方がないよ。これを教訓にして次に繋げる方が建設的だ」
「わかっているさ。ありがとう、均。そこで私は一旦店に戻った。飛鳥もしばらくすれば戻ってくると思っていたんだ。だが、飛鳥は暗くなり始めても店に戻って来なかった。北側の夜は街の中でも危険だ。私は慌てて飛鳥を探しに出た」
均のかけた言葉はありがちな慰めだったが、レティシアは微笑んでくれる。
「しばらく飛び回っていると、ある展示場の方角が騒がしくなった。たくさんの人々が悲鳴を上げながら駆け出して外に出てきたんだ。その内の一人を捕まえて事情を訊いたところ、長い髪の女の子と小さい精霊が真っ黒な影と赤い光の群れに襲われているらしいことがわかった。襲われているのは飛鳥だと判断して、私は中に飛び込んだんだ」
「なるほどね。そこに飛鳥が居たと」
「そういうことだ。そこで飛鳥は
「―――なんだって?」
「……どうした、均?顔が恐いぞ?」
「いや、ここで繋がるのかと思ってね……」
均はため息を吐き、先ほど話した内容をレティシアにも要約して伝える。
「……なるほど。そうなると飛鳥を襲ったコミュニティは″ラッテンフェンガー″だという可能性が濃厚だな」
「決めつけるのは良くないけどね。飛鳥は何か言ってた?」
レティシアはしばし考え、飛鳥との会話を思い出す。
「……そうだな。あれは私に言ったわけではないと思うが……『″恩恵″が効かなかった』と呟いていたのが聞こえた」
「となると、相手の支配が上回っていたと考えるのが妥当かな。ハーメルンの笛吹き道化はその名の通りに笛を吹いていたとされている。笛の音色で対象を支配するギフト……といったところだろうね」
「均の予想が正しいように思える。私も何やら不協和音を耳にしたからな。他に訊きたいことはあるか?」
「…………いや、もうないよ。夜遅くに本当にごめんね。助かったよ。おやすみ」
「ああ、均もゆっくり休むんだぞ」
「それじゃあまた明日」
均は挨拶をして部屋を出る。均が廊下の角を曲がるまでレティシアは部屋の前で見送っていた。
均は自室に戻る――――――――かと思いきや。
暖簾を潜っていた。
「この時間も風呂は解放されていることはあの女性店員に確認済み、っと」
というか、流石は箱庭というべきなのかお湯を張り替える必要がないらしい。
「さて―――アルル、出ておいで」
「はい」
均は脱衣所でアルルを呼び出す。別にいかがわしいことをしようとかそういうことではなく――――。
「アルル、今日お風呂に入ってないだろ?″ノーネーム″本拠では毎日入ってたし、入りたいんじゃないかと思って」
「お心遣いありがとうございます。それと、毎回ご迷惑をおかけして申し訳ございません」
「いいって。もう慣れたよ」
丁寧に頭を下げるアルルに手を軽く振る均。何故かは分からないが、アルルは均が居ない状況では風呂に入れないのだ。本当に意味が分からないが、そのため均は何度もアルルの風呂に付き合わされている。
「タオルはそこにあるのを使っていいそうだから。僕は先に入ってるから後から来てくれ」
「かしこまりました」
「ふぅ………さっきも入ったけど、やっぱり気持ちいいなぁ……」
均が湯に浸かりながら気持ち良さに呟く。身体の芯から温まるようだ。
「均様、お待たせいたしました」
アルルが身体を流してから湯に浸かりに来る。均の意図もしっかり理解している様子だ。
「ああ、お湯にゆっくり浸かりながらでいいから聞いてね」
「はい」
均はついでに話をしようと考えていた。
アルルが意を汲み取ってくれて均も助かる。
「僕が何を訊こうとしてるか予想はついてる?」
「はい。宿題についてではないでしょうか?」
「正解。考えたかい?」
「はい。頑張って考えました」
「そっか。なら、アルルの考えを聞かせてもらおうかな」
「はい」
そう言って、アルルは自身の考えを話し始める。
「あの時の黒ウサギ様の行動を均様が褒められたのは、黒ウサギ様が上手く逃げおおせる可能性が高くなったからではないでしょうか」
「ふむ。その心は?」
「あのゲームを見ていた限り、十六夜様と黒ウサギ様の走力はほぼ互角。つまり、あの時十六夜様の不意をついて跳び降りた黒ウサギ様を追いかけて十六夜様が跳び降りても、その間に黒ウサギ様に逃げられてしまいます。よって、黒ウサギ様の勝ちの可能性が高くなるので、均様は黒ウサギ様を褒められた。……どうでしょうか?」
アルルの考察を目を閉じて聞いていた均は、一つ頷いてから目を開ける。
そして、こう切り出した。
「うん、その回答は五十点だね」
「そうですか……。では、正解をお聞かせ願えるでしょうか」
「わかった。まず、僕が黒ウサギを褒めた理由だけど、黒ウサギがあの行動を取ったことで黒ウサギの勝ちがほぼ決まったから。まあ結果はああなったけどさ。逃げおおせるって限定しちゃったのが拙かったね」
「……悔しいですが、分かりません。均様、続きをお願いします」
「うん。十六夜はあの瞬間、黒ウサギに出遅れた。ここまではいいよね?」
アルルが無言で頷く。
「いくら十六夜でも、空中で跳躍の軌道を変えることは不可能だ。黒ウサギを追って跳べば、黒ウサギなら確実に十六夜を捕まえられる。つまり十六夜は、黒ウサギ目掛けて跳ぶことはできなくなったわけだね」
均がアルルに視線をやると、頷きが返ってくる。十分に理解できているようだ。
均は続ける。
「となれば、十六夜は黒ウサギから少し離れた地点に跳び降りるしかない。ここで問題となるのは、何処に跳び降りるのが良いのか。黒ウサギの身体能力を考えると、十数メートルは容易に合わせてくる。かと言って遠すぎれば、黒ウサギを見失い、逃げられてしまう。その時点で十六夜の負けはほぼ確定だ。だからこそ僕は、黒ウサギを褒めたんだよ」
「なるほど……。均様が私の回答に半分の点をくださったのは、逃げるという片方の選択肢は合っていたからなんですね」
「そういうこと。まあアルルはギフトゲームに慣れていない割には、十分に考えられていると思うよ。これからも頑張っていこうね」
「はい、均様」
「うん。じゃあそろそろ上がろうか。先に上がって、着替え終わったら僕を呼んでくれ」
「かしこまりました」
均はアルルから視線を逸らし、美しい夜空を見上げる。
ザパァっと水音を立てながらアルルが立ち上がる。濡れた髪の毛が月明かりを跳ね返し、キラキラと輝いた。
均は暖簾を潜って廊下に出ると、自室に向かって歩を進める。
明日は白夜叉から頼まれた大事な仕事がある。均自身も気になっていたことだ。疎かにすることはできない。
均は部屋に戻ると、明日に備えてすぐに就寝する。
――――造物主達の決闘。その決勝戦が、明日、始まる。
いかがでしたか?
色々オリジナルの展開を挟みました。
これからもこういうのが増えてくるでしょう。
次回は造物主達の決闘の決勝と、あの人達の登場ですね。今から書くのが楽しみです。
均がサポートすることで、耀はどう戦うのか!?
そして、その結末は――――!?
こうご期待!!(ノリ良く)
と言っても、また少し開いてしまうと思います。ごめんなさい。気長に待ってくださいお願いします。
感想、質問などありましたらどしどしどうぞ(作者のモチベーションアップに繋がります(笑))。
では、また次回。