問題児たちと(常識人の)幼馴染が異世界から来るそうですよ?   作:gobrin

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お久しぶりです、gobrinです。

なんとか一年期間が空いてしまう前に投稿できました。

では早速、どうぞ。


第八話 ギフトゲームは一時休止だそうですよ?

魔王達とすれ違い、大祭運営本陣営へと戻ってきた均。

戻ってきて最初の行動は、耀を探すことだった。

 

(えっと、耀は……いた)

 

しばらく負傷者達がいる一帯を飛んでいると、怪我人を手当てしている耀を見つけた。

均は、ゆっくりと通路に降り立つ。

 

 

「……うん、これで一先ずは大丈夫。安静にしてて」

 

「かたじけない……」

 

「ううん。こういう時は助け合わないとだから。じゃあ、私はこれで」

 

「助かった、感謝する……」

 

その言葉に耀は曖昧な笑みを返し、均の方へと振り向いた。

 

「均、おかえり。どうだった?」

 

「ただいま、耀。残念ながら、飛鳥は見つけられなかった。ごめん」

 

「そう……でも、均が謝ることじゃない。捜しに行ってくれて、ありがとう」

 

耀は残念そうな表情を浮かべたが、頭を軽く振って気持ちを切り替えたようだった。

均は軽く頷きを返す。

 

「うん、わかった。僕らの同志のことだもんね。謝罪は、違うか」

 

均と耀は互いに顔を見合わせて頷くと、すぐにこれからのことを話し合う。

 

「私は、このまま負傷者の手当てを手伝う」

 

「僕は、ジン達と情報を共有したらこっちに来て手伝うよ。それまでは、お願い」

 

「うん、じゃあ」

 

「また後で」

 

均と耀は別の方向に走り出し────均は、違和感を感じて振り向いた。

耀の足音が、しない。

 

「────耀?」

 

目に飛び込んできた光景に、驚愕した。

 

……耀が、柱にもたれかかって息を荒げている。

 

「耀ッ!?」

 

均はすかさず耀に駆け寄り、肩を抱く。

その体温は、非常に高い。

念のため額に手を当てると、明らかに発熱している。

 

「これは……チッ、やってくれるね、ペスト」

 

この症状は恐らく、黒死病を発症し始めたのだろう。

均は耀を横たわらせると、辺りを見回した。

″サラマンドラ″のコミュニティに所属している、無事な戦士はいないものか。

 

残念ながら見当たらず、知り合いが通りかかるのを待っていると。

 

「あっ、オイお前ら!?どうしたんだ!?」

 

「ヤホホ、何やらお困りのようですね」

 

慌てながら駆け寄ってくるアーシャと、真剣な雰囲気を漂わせるジャックが声を掛けてきた。

均は助かったとばかりに息を吐いた。

 

「ああ、ちょうどよかった。″サラマンドラ″の方を捜してきてもらえませんか?隔離できる部屋が必要になりました」

 

「あ、ああ、わかった!待ってろ!」

 

「しばしお待ちを。すぐに呼んでまいります」

 

「お願いします」

 

 

 

 

数分後、アーシャとジャックが連れてきたのは、マンドラだった。

 

「あ、マンドラさんを連れてきてくれたんですか」

 

「……何の用だ。――いや、そういうことか。想像以上に早いな」

 

マンドラはムスっとした顔で声を掛けてきたが、均に頭を預けて横たわる耀を見て事態を察したようだった。

念のため均も状況を説明する。

 

「耀が体調を崩しました。……あの魔王の正体については?」

 

「″黒死斑の魔王″の正体がペストだということは先程知った。つまりそれは、黒死病の症状ということなのだろう?」

 

マンドラの問いかけ。均は頷いて肯定を示した。

 

「ええ、間違いないと思います。なので、隔離できる部屋を貸していただきたいのですが」

 

「いいだろう。案内する、付いてこい。手を貸す必要はあるか?」

 

「いえ、問題ありません。ありがとうございます」

 

均は耀を抱きかかえると、マンドラの後に付いて行く。

アーシャは不安そうな表情を浮かべていたが、均にできることをしてほしいと頼まれて、頷いて走り去っていった。

 

 

 

 

「ここを使え。他に必要な物があれば言うといい。用意させよう」

 

「ここは……個室?いいんですか?」

 

均が驚いたように、マンドラに案内されたのは個室だった。

隔離できる場所の提供を求めたが、個人のために部屋を用意してくれるのは意外だった。

しかも、タオルや水桶など、簡易的な看病ができる環境と道具が整えてある。

 

「私はここまでする必要はないと言ったのだがな。これはサンドラの計らいだ。せいぜい感謝することだな」

 

なるほど。サンドラの意向で仕方なく、といったところか。

 

「ええ。ありがとうございます。サンドラにも後でお礼を伝えておきます」

 

「敬称を付けろ」

 

「嫌です。彼女はジンと同い年なのでしょう?畏まった場でなければ敬語を使う気は起きませんね。彼女も窮屈そうに見えましたよ」

 

にっこり微笑みながら伝えると、マンドラは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。

 

「……サンドラはこれから″サラマンドラ″の頭首として同志を引っ張っていかなければならない。窮屈そうだろうがなんだろうが、慣れてもらわねば、やってもらわねば困るのだ……」

 

「…………」

 

それを聞いた均は、笑みを消した。

 

「……貴方の考えはわかりました。心情では納得できませんが……″ノーネーム″ではわからない苦労なんでしょうね。……これから()()()()()に会う時は意識しますよ」

 

サンドラ様、と言った均にマンドラは驚いた顔をする。

 

「耀のために個室も用意してくれましたしね。……貴方がジンに対して剣を向けたことを許すつもりはありませんが、貴方にも立場があるでしょうから」

 

マンドラは驚愕を浮かべたまま、均に向かって頭を下げた。

 

「……かたじけない。感謝する」

 

「ああそうだ、ジンには僕がここにいることは内緒にしてください。逆に十六夜には伝えてもらえるとありがたいです。十六夜ならここにも平気な顔して来そうですし」

 

均は意図的にマンドラの礼を無視して、自分の要件を伝える。

マンドラは「確かに、あの男ならやりかねんな」と苦笑しながら退室していった。

 

均とマンドラの関係は多少改善したかもしれないが、互いに謝ることはない。

お互いに、譲れない立場や矜持があった。今は、これが限界だ。

 

「さて、と……ジン達の考察が出来上がるのは何時になるかな?」

 

呟きながら桶の水にタオルを浸けて、絞ってから耀の額に乗せる。

耀は既に意識がぼんやりとしているようだ。

呼吸が荒く、目を開ける様子がない。

 

「辛いと思うけど……負けないでね、耀」

 

そう言うと、均は椅子に座って耀の様子を見守り始めた。

 

 

 

 

 

 

数時間後。

耀が若干苦しそうながらも寝息を立て始めてからしばらくした頃に、個室の扉が開いた。

 

「よう、均。春日部の様子はどうだ?」

 

「十六夜。良くはないね。今はぐっすり寝てるよ」

 

現れた十六夜に、均が容態を説明する。

十六夜は深刻そうな表情を浮かべて、均に問いを重ねた。

 

「ゲーム再開は一週間後だ。それまでは保たせてもらうしかねえが……その様子だと、春日部は再開後のゲームに参加できなさそうだな」

 

その言葉に、均は本気で驚いた表情を浮かべた。

 

「え?再開、一週間後なの?本当に?」

 

「……?ああ。一週間後で取り付けたぞ。ほら、″契約書類″。ていうかオマエ、どうなると思ってたんだよ?」

 

「正直、二週間後くらいの再開になると思ってた。だから、相当厳しい戦いになるだろうなって……えーと、どれどれ?」

 

均は自身の予想を告げながら、″契約書類″を受け取って目を通す。

そこには、このような内容が記されていた。

 

『ギフトゲーム名″The PIED PIPER of HAMELIN″

 

   ・プレイヤー一覧

         ・現時点で三九九九九九九外門・四〇〇〇〇〇〇外門・境界壁の舞台区画に

          存在する参加者・主催者の全コミュニティ(″箱庭の貴族″を含む)。 

 

   ・プレイヤー側・ホスト指定ゲームマスター

         ・太陽の運行者・星霊 白夜叉(現在非参戦の為、中断時の接触禁止)。

 

   ・プレイヤー側・禁止事項

         ・自決および同士討ちによる討ち死に。

         ・休止期間中にゲームテリトリー(舞台区画)からの脱出を禁ず。

         ・休止期間の自由行動範囲は、大祭本陣営より500m四方に限る。

 

   ・ホストマスター側 勝利条件

         ・全プレイヤーの屈服及び殺害。

         ・八日後の時間制限を迎えると無条件勝利。

 

   ・プレイヤー側 勝利条件

         一、ゲームマスターを打倒。

         二、偽りの伝承を砕き、真実の伝承を掲げよ。

 

   ・休止期間

         ・一週間を、相互不可侵の時間として設ける。

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

                      ″グリムグリモワール・ハーメルン″印』

 

 

「……へえ、なるほど。同士討ちの禁止と時間制限、それと黒ウサギを餌にここまで持っていったわけか。十六夜、これは全部十六夜が提案したの?」

 

そう均に訊ねられて、十六夜はニヤリと笑った。

 

「いいや?同士討ちと黒ウサギは俺の提案だが、時間制限を言い出したのはうちのリーダーだ」

 

「……ふーん、そうなんだ。ジンも、やるじゃない」

 

均は再び驚いたようだったが、面白がるような声音でもあった。

ジンの成長を素直に喜んでいるらしい。

そして、内心で白夜叉に謝罪した。

 

(白夜叉様、すみません。会いに行くことを禁止されました。暇を持て余していただく以外になさそうです)

 

「ところで、″契約書類″の考察は進んだのか?」

 

十六夜の問いに、均はあっさり頷く。

 

「うん。多分間違いないってレベルの答えは僕の中にあるよ。十六夜は?」

 

「まだだ。これから本格的な考察を進めようと思っていたんだが……その前にやることがあってな」

 

「やること?」

 

「ああ。オマエを連れていくことだよ」

 

「僕を?何処に?」

 

理由が思い当たらないのか、均はキョトンとした表情を浮かべている。

十六夜は呆れたような表情で続けた。

 

「俺達″ノーネーム″が割り当てられた部屋だよ。均、オマエなんで″アルゴールの魔王″を戦闘で使わなかった?」

 

「……もしかして、皆お怒り?」

 

「そう言うってことは、わざとか」

 

「…………うん」

 

「全員、()()お怒りじゃねえよ。ただ、理由によっては黒ウサギあたりは大層お怒りになるんじゃないか?」

 

均はため息を吐いて、諦めたように言った。

 

「だよねえ……」

 

「つーわけだ。行くぞ」

 

「はぁい……」

 

最後に耀の額に乗せていたタオルを替えてから、均は十六夜に付いて部屋を出る。

十六夜に先導される形で、向かうは法廷。弁護人はなし。そんな気分だ。

 

「実際、なんで使わなかった?″アルゴールの魔王″――今はアルルだったか?あいつ、かなりの戦闘力だろ」

 

「だから、なんだけどね。まあ、僕の勝手な我が儘だからしっかり怒られるよ。それはそうと、考察、まだ共有しなくていいよね?」

 

「ああ。俺自身の考察がしっかり練れてから均の考察も聞くことにするさ。うちのリーダーにもしっかり考えてもらわねえとな」

 

「だね。まあ、ゲーム再開のことを考えたら遅くても六日後には結論を出さなきゃね」

 

若干、挑発するような物言いに、十六夜が反応した。

 

「均……それは、俺が考察にそこまで時間が掛かると思ってるってことか?」

 

「いや?気づいちゃえば早いと思うよ。気づかなかったら結論は出ないとも思うけど」

 

「ほーう。その喧嘩、買った」

 

「だから、喧嘩売ったわけじゃないんだけどなあ」

 

「言い方がわざとらしすぎんだよ。まあ、均の思惑に乗って、早く考察を詰めてやるさ」

 

不敵に笑う十六夜。それを受けて、均も微笑んだ。

 

「うん、期待してる」

 

「先に考察終えたからって若干上からなのが腹立つが……まあいいや。着いたぜ、この部屋だ」

 

到着した部屋は、両隣の部屋の扉の位置から推測しても中々に大きそうだ。

自業自得だけど、憂鬱だなあ……なんてことを考えながら、均は扉を開けて部屋に踏み込んだ。

 

 

 

 

 

 

「均さん、待っていましたよ。十六夜さんから話は聞いているかと思いますが……?」

 

「うん、聞いてる。皆、僕に訊きたいことがあるんだよね?」

 

「ええ。取り敢えず、どうぞ」

 

均が部屋に入ると、黒ウサギとジン、レティシアが席に座っていた。

黒ウサギに促されて着席する均。十六夜は何も言わずに座り、均の言葉を待つことにしたようだった。

 

「では、まず……耀さんの容態はどうですか?」

 

最初は当たり障りのない質問。

均は苦笑しつつ答える。

 

「うん、十六夜にも言ったんだけど、良くはない。今すぐ如何こうってわけじゃないとは思うけど、ペストのギフトゲームに参戦できるかは怪しいところだと思う」

 

「そうですか……耀さんも僕達″ノーネーム″の主力の一人。参戦できないのは厳しいですね……」

 

ジンが悔しそうに本音を零した。それには均も同意だ。ペストの風を散らしてもらおうと思っていただけに、耀の不参加は手痛い。

 

「……というか、均さんはあの魔王がペストだと気付いていたんですね」

 

「うん、まあ。ちょっと考えたら推測できるよ」

 

「なんなら均は″黒死斑の魔王″と戦闘している最中に気付いていたぞ。あの時、『無知な僕に教えて』などと言っていたが、どうせ自分で気付いていたんだろう?」

 

黒ウサギの若干失礼な物言いに軽く返していたら、レティシアが援護射撃してきた。

均は微笑むことを答えとする。

 

「ほ~、流石ですね、均さん」

 

「ありがとう。さて、単刀直入に来ちゃっていいよ。本題は別にあるでしょ?」

 

均がそう切り出してみると、黒ウサギとジンは目配せし合う。

そして、ジンが話すことに決めたらしい。

 

「では、僕から……均さん、″アルゴールの魔王″を呼び出さなかったのは何故ですか?」

 

「……僕の個人的な、下らない理由。アルルに暴れてもらったら、()()()()()()()()()()()()()()()

 

その返答に、均以外の全員が理解できないという表情を浮かべる。

敵を倒せるのは良いことではないのか……?

皆の思考がそれに行きついた瞬間、十六夜だけが理解の色を浮かべた。

 

「……オイ均。オマエ、其れはやっちゃダメだろ。やるにしても、他の連中には一切の被害を出さないようにするか……春日部がダウンしたり、お嬢様が連れ去られたのはオマエが魔王の実力を見くびってたのも原因の一つってことになる」

 

「うん。そうだね」

 

「チッ、均。らしくねえぞ、オマエ。優先順位、間違えてねえか」

 

「……うん、ごめん」

 

「俺に謝ってんじゃねえ。春日部と、お嬢様取り戻してから二人に謝れ」

 

「うん。そうする」

 

二人で理解し合っていた均と十六夜に、黒ウサギが待ったをかける。

 

「ちょちょちょ、ちょーっと待ってください御二方。御二人だけで理解されても困ります。黒ウサギ達にもわかるように説明してください。如何いうことなのですか?」

 

「……もし此処で俺に説明させたりなんざしたら、オマエのことぶん殴るからな」

 

「流石に、そこまで堕ちちゃいないよ」

 

苦笑を浮かべつつそう言ってから、均は表情を真面目なものに変えた。

その瞳には、後悔が宿っているように見える。

 

「皆は僕のやりたいことを薄々察してると思うけど……改めて明言すると、僕は魔王を隷属させたいんだ。以前、白夜叉様に訊いたんだけど、魔王が開催するギフトゲームで魔王を隷属させようと思ったら、勝利条件を全て満たしてギフトゲームをクリアする必要があるんだよね?」

 

「はい、そうです……って、もしかして、其の為に……?」

 

「ただ単に魔王を倒すだけでは、隷属させる条件が満たされないから……!」

 

黒ウサギとジンも察したらしい。

均のエゴでしかない、その真意を。

 

「そ……そんなこと、許されることではありません!黒ウサギ達は、ジン坊っちゃんの宣誓の下に″サウザンドアイズ″と″サラマンドラ″に協力すると約束しました!此れは、″ノーネーム″全員が守るべき約束です!個人の考えで破るなんてこと……!」

 

正論だ。黒ウサギの言ったことは、何処までも正論。

その正論に、均は反論する術を持たない。なにせ、正論なのだから。

 

均は、少し悲しそうな笑みを浮かべながら、言った。

 

「うん。正直に言うと″サラマンドラ″に協力する気が失せかけているんだけど、それは他のコミュニティを見捨てていい理由にはならないしね。僕の行動は、個人的なエゴしかない傲慢なものだった。見通しも甘かった。耀があそこまで弱るとは思ってなかったし、飛鳥が連れ去られることも想定してなかった。飛鳥達なら、あのくらいなら何とかできると考えていたから。其処は凄く反省してる」

 

「″サラマンドラ″に協力する気が失せた……?何故なんです?」

 

ジンの問いかけ。その声には疑念と失望が込められている。

均の行動は全く褒められたものではない。ジンの態度も当然だろう。

この質問に答えなければ、均の印象は更に悪くなってしまう。

 

だが均は、首を横に振る。

心象の悪化を理解した上で、自分の評価などどうでもいいかのように。

 

「理由は言えない。……強いて言うなら()()()()()()()()()。これ以上は言えないかな」

 

その発言に、首を捻る箱庭組″ノーネーム″一同。流石にわからなかったらしい。

しかし均は、十六夜の目が細められたのを見逃さなかった。

 

(──やっぱり、ここまで言えば気付いちゃう?)

 

(――全部ではねぇが、な。まあ、くだらねえ話だってことには変わりなさそうだ)

 

アイコンタクトで会話する均と十六夜。

長年の付き合いが為せる業だ。

 

「……とまあ、僕の勝手な事情はこんなところ。再開後は、反省を活かして――――」

 

「オイコラ。なーに話終わらせようとしてんだ。それだけが理由じゃねえだろ」

 

話を纏めようとした均を、十六夜が制止する。

その目は、全部吐けと言っていた。

 

「……ええ~、そんなにわかりやすかった?僕」

 

「いや、俺だから気付いただけだろ。現に三人ともぽかんとしてる」

 

「う~ん、でも自己弁護みたいなこと、カッコ悪いし……」

 

均がそう言うと、十六夜は鼻で笑った。

 

「ハッ。しくじった時点で均は充分カッコ悪ぃんだよ。だから、吐け。全部」

 

「うう……わかったよ。…………えっと、アルルに頼って魔王に勝っても、僕達の成長には繋がらないと思って。正直に言うと、アルルに戦闘させる気はなかったです……」

 

めちゃくちゃ逡巡しつつ、均がもう一つの本音を白状する。

 

「「「………………」」」

 

均の本音を聞き、黒ウサギ、ジン、レティシアが目を丸くする。

直後、呆れた様子でため息を吐いた。

 

「あのですね、均さん。コミュニティのことを考えてくれるのは本当にありがたいですよ?でも、先に相談してください。皆さんで、考えましょう?」

 

と、黒ウサギ。

 

「均さん。僕や黒ウサギに、隠し事をするなと二度も優しく叱責してくれたのは貴方でしょう?同志なのだから、と。その言葉、僕からもお返しします。そういう大事なことは、僕達にも話してください。僕達は、同志なのですから」

 

と、ジン。

 

「均は――賢いのだと思っていたが、存外阿呆だったのだな。此れからは、そのことを念頭に置いて接するとしよう」

 

と、クスクス笑いながらレティシア。

 

「れ、レティシア……阿呆はないんじゃない?――コホン。ともかく、皆、ごめん。僕は皆のことを信用はしていても信頼はできていなかったみたいだ。一番反省すべきはこのことだね。今度からは、時間があれば必ず相談する」

 

「はい。こうやって少しずつ、信頼関係を築いていきましょう」

 

「おっ、御チビもリーダーらしいこと言うじゃねえか」

 

「茶化しちゃダメだよ、十六夜。ジンは立派な、僕達のリーダーだ。今、それを痛感した」

 

均の信頼の言葉に、ジンがくすぐったそうな顔をする。

それを穏やかな表情で見ていた黒ウサギが、手を叩いて声を上げた。

 

「では、均さんの考えもわかったことですし――これからのことを話し合いましょう!」

 

時間は無駄にできない。

一週間なんて、あっという間だ。

 

 

 

 

「っと、その前に確認。アルルの使い方はどうする?」

 

均の発言に、考え込む一同。

 

「うーん、難しいところですね。ギフトゲームは持ちうる手札を全て使って臨むモノですが……僕達の成長にはならないというのは、その通りです」

 

「だが、成長と言っても状況が状況だ。お嬢様は連れ去られ、春日部は戦力外通告も同然。成長できる人材がほとんどいねえぞ?」

 

「……あ、そういえば再開時の戦力分配はどうするつもりなんだろう?黒死病のせいで参戦できなくなる可能性はあるにしても……誰が誰の相手をするか考えておいて、アルルに足りないところを補ってもらうのは如何かな?」

 

「────ひとまずはそのつもりでいましょう。実際に如何なるかはゲーム再開の直前になってみないとわかりませんが……均さん、十六夜さん、レティシア様にお訊ねします。敵と実際に戦ってみた感触として、誰に誰を当てるのが正解だとお思いですか?」

 

答えの一言一句も聞き逃すまいと黒ウサギのウサ耳がピクピク動く。

ある程度、″ノーネーム″での意見を統一しておきたいということだろう。

 

三人は目配せし合い、均が発言権を譲られる。

 

「僕の所感は、そうだなぁ……ペストの相手は、サンドラに加えてサンドラ並みの火力を持つ誰か。それと死の風に対処するために耀に援護してもらうのが一番だと考えてたんだけど………耀が参加できるとは思えないからこの案は却下かな。……そういえば、黒ウサギって実際どのくらい強いの?」

 

均が唐突に黒ウサギに質問する。

急に話題の矛先を向けられた黒ウサギは、一瞬身体をビクつかせた。

 

「え、何ですか突然」

 

「いや、黒ウサギって帝釈天の眷属じゃない?それに、″箱庭の貴族″と呼ばれてもいる。強いっていうのは見たらわかるんだけど、どの程度なのかなって。ペストを倒せる?相性的な問題も含めて」

 

「……うーん、なんだか微妙に褒められていないような気がします。まあいいですけど。かの魔王を倒す手段は持ち合わせています。サンドラ様と一緒に戦うのであれば、魔王を抑えることも可能だと思います。ですが、抑えることで手一杯になってしまうかもしれません。無茶をしたら魔王を倒すことも不可能ではないかもしれませんが……それでも断言はできません」

 

均は一つ頷いて、理解を示す。

 

「黒ウサギがそう言うなら、僕の意見はこうだ。ペストの相手は、サンドラと黒ウサギで。ヴェーザーの実力がいまいちわからないけど、十六夜が相手できるだろうしヴェーザーは十六夜に。ラッテンは僕とレティシア。十六夜にはさっさとヴェーザーを倒してもらってから僕達が抑えているラッテンを倒しに来てもらう。そして最後に全員でペストを叩く。他の人にはやってもらいたいことがあるから、そっちに多く人員を回すべきだと思う。アルルには、他の人達を護ってもらいたいかな。僕達の戦闘の余波が及ぶかもしれないし」

 

皆真剣に均の意見に耳を傾けていたが、黒ウサギだけが瞳をぱちくりさせていた。

それを疑問に思った均が訊ねる。

 

「どうしたの、黒ウサギ?鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして」

 

「い、いえ……随分あっさりと私の意見を取り入れるんですね?」

 

「だって、黒ウサギはこういう状況で自分の力を誇張したりしないでしょ?黒ウサギができるというなら、できるはずだ。それとも、できないのに可能だと思うなんて言ったの?」

 

「いえ、そんなことはないですけど……」

 

「なら、いいじゃないか。それで、十六夜とレティシアの意見は?」

 

均が残りの二人に水を向ける。

 

「まあアルルの配置は要相談だとしてだ。他は均の意見で問題ないんじゃねえか?つーか、ヒント出されまくってて腹立ってきた」

 

「無茶苦茶言ってるな、十六夜は……。私も、均の案を基本としていいんじゃないかと思う。″サラマンドラ″とも話し合わないといけないだろうがな」

 

「それはそうだね。優先されるべきは″契約書類″の謎解きだけど……ま、そこは皆も頑張って」

 

無意識とはいえ均の上から目線な発言に、面々がイラついた表情を浮かべた。

 

「……黒ウサギも珍しくイラッと来ました。十六夜さんの気持ちがわかった気がします」

 

「だろ?」

 

「僕も同じ気持ちです。……意地でも謎を解きます」

 

「ジンがそういう風に断言するのも珍しい印象だなあ……」

 

「ふふ。これを狙っての発言だったのなら、均もやるな」

 

「全く狙ってないんだよね、これが」

 

「なら天性の煽り屋か?流石だな、均」

 

「それ褒めてる?いや褒めてないよね絶対?ねえ十六夜?僕の目を見て答えよう?」

 

そっぽを向いて口笛を吹きだす十六夜。こっちの方が煽り屋としての才能に恵まれていそうだ。

 

「均さんにピッタリかもしれませんね。これから名乗ってみてはいかかです?」

 

「ジンも言うねえ……」

 

頬をヒクつかせる均。煽ったつもりはなかったので、そろそろ勘弁してほしいところだった。

 

「まあ、均をいじめるのはこれくらいにしようか。話し合いも今日のところはもういいんじゃないか?黒ウサギ」

 

「ですね。では均さん、これからはキチンと報告と相談をすること!いいですか!?」

 

「うん、わかった。時間がある時はそうする。肝に命じるよ」

 

「オーケーです。では、今日はお開きにしましょうか。ジン坊っちゃん、問題ありませんか?」

 

「うん、大丈夫。それぞれ″契約書類″の考察をすることにして、今日は取り敢えず解散にしましょう」

 

ジンの号令で、解散が宣言された。

均は部屋を出る。十六夜も一緒だ。ジン、黒ウサギ、レティシアの三人は、部屋に残って議論するらしかった。

 

扉を閉めてから、均は十六夜に問いかける。

 

「十六夜は一人で考察したいでしょ?」

 

と言っても、ほとんどただの確認だったが。

 

「まあな。つーわけで、俺は適当にぶらぶらしてくる。じゃあな」

 

「うん、また」

 

歩き出す十六夜が角を曲がるまでその背中を見送ってから、均は十六夜が消えた方向と逆方向に歩き出した。

 

 

 

ギフトゲームが再開されるまで、あと一週間。

その時が訪れるのを、皆は様々な想いを抱えて待っている。

 





いかがでしたか?

前回、魔王の襲撃の際に独断でアルルを使わなかったことを怒られる均でした。
今回のことで反省したはずなので、これからはきちんと相談するようになることでしょう。

問題児組の中では比較的性根を改善しやすそうですからね、均は。ジン達には頑張ってほしいものです。

次回は、ギフトゲームが再開されます。
頑張って書く時間を確保したいと考えていますが、気長にお待ちください。

では、また次回。

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