問題児たちと(常識人の)幼馴染が異世界から来るそうですよ? 作:gobrin
「ところで、均よ。おんし、師事していたのは徒手格闘だけなのかの?」
「いえ、一通りの武器を使った戦い方は習いました」
「そうか。ならば勝利の褒美にこの短剣とブーツをやろう。
短剣の名は″ホワイトダガー″でブーツの名は″クリアブーツ″。まあネーミングセンスはちとアレだが、ダガーの材質は金剛鉄。
ブーツのつま先と踵、脛とふくらはぎの部分にも金剛鉄が仕込んである。しかもクリアブーツには一部の恩恵を無効化する力がある。ブーツを履いて恩恵を蹴りつけろ。こちらから蹴りつけても反動が返ってこないという優れ物だ。昔、鍛冶の友人からもらったものが、私は使わん。おんしが持つ方がよかろう」
白夜叉が白い短剣と透明なブーツを取り出して均に渡す。
「え、でも……」
「もらっておけ。おんしは人の身だ。人は脆いからの」
「……わかりました」
均は短剣を振ってみる。手に馴染む感覚があった。クリアブーツも履いてみる。ブーツは透明なはずなのに、内部が透けていない。さすがはギフトといったところだろうか。
「ちょ、白夜叉様!?金剛鉄の武器をそんな簡単にあげるって何をお考えですか!?金剛鉄の価値は──」
「うるさい。私がやると言っているのだからいいのだ。それより、今日は何の用件だったのかの?」
白夜叉が話を切り替えると、黒ウサギが思い出したように手を合わせた。
「あ、そうでした。白夜叉様。今日はギフト鑑定をお願いしたかったのですが」
「げっ。よ、よりにもよってギフト鑑定か。専門外どころか無関係もいいところなのだがの」
そう言いながらも引き受けるようで、白夜叉は四人をじっくり観察する。
「ふむ。四人とも素養が高いのはわかるがこれでは何とも言えんの。おんしらは自分のギフトの力をどの程度把握している?」
「企業秘密」
「右に同じ」
「以下同文」
「他と同様」
十六夜、飛鳥、耀、均の順で息の合った回答をする。白夜叉はずっこけた。
「お、おい。それじゃ話が進まんだろうに」
「別に鑑定なんていらねえよ。人に名札を貼られるのは好きじゃない」
残りの三人も同意するように頷く。ちなみに均は、それに加えて自分のギフトを把握しているからでもある。
「ふむぅ。まあ何にせよ、試練を見事クリアしたおんしらには″主催者″として、星霊のはしくれとして″恩恵″を与える。ちょいと贅沢な代物だが、コミュニティ復興の前祝いとしては丁度よかろう」
そう言って白夜叉が手を叩くと均たちの前に四枚のカードが現れた。
(十六夜はコバルトブルー、飛鳥はワインレッド、耀はパープルエメラルド、僕は透明。………ん?なんか僕のだけ色じゃなくない?)
それぞれのカードに
逆廻 十六夜・ギフトネーム″
久遠 飛鳥・ギフトネーム″威光″
春日部 耀・ギフトネーム″
平 均・ギフトネーム″均等分配″ ″
と書かれている。
「ギフトカード!」
「お中元?」
「お歳暮?」
「お年玉?」
「誕生祝?」
「ち、違います!というか何で皆さんそんなに息が合ってるんです!?このギフトカードは顕現しているギフトを収納できる超高価なカードですよ!」
「つまり素敵アイテムってことでいいのか?」
「適当に聞き流しすぎです!ああもうそうです!超素敵アイテムなんです!」
「投げやりだね黒ウサギ。僕はそういうのはよくないと思うな」
「誰のせいですか!誰の!」
「「「「黒ウサギ?」」」」
「こんなときまで息を合わせないでください!」
四人のボケと黒ウサギのツッコミが炸裂したところで、白夜叉が口を開いた。
「我らの双女神の紋のように、本来はコミュニティの名と旗印も記されるのだが、おんしらは″ノーネーム″だからの。少々味気ない絵になっているが、文句は黒ウサギに言ってくれ」
四人の後ろでは黒ウサギが「聞き流されました!」などと騒いでいたが、全員が無視していた。
「へえ……もしかして水樹ってやつも収納できるのか?」
十六夜が水樹にカードを向けると水樹は光の粒子になってカードに吸い込まれた。すると十六夜のギフトカードに水を生み出す樹の絵が差し込まれ、ギフト欄に″水樹″と追加されている。
(へえ、面白そうだな。僕もやってみよう。……お、できた。ギフト欄に″ホワイトダガー″と″クリアブーツ″って入ったぞ。……名前がださいなぁ。んー、それはそうと、ちょっと試してみようか)
「十六夜、ちょっと水樹を出してくれない?」
「ん?何すんだ?」
「ちょっと実験」
「わかった。おい、白夜叉。どうやって出すんだ?」
「念じれば出るぞ」
「……お、ホントだ。ほい、均」
「さんきゅ、十六夜。じゃ、やるね」
均は水樹を受け取り、力を使う。その瞬間、均の手の中に水樹がもう一つ現れる。それは元の水樹と比べても、見分けがつかないほどそっくりだった。
「え?え?な、何が起こったのですか!?水樹が増えましたよ!?」
「僕のギフトだよ、黒ウサギ。僕の″模倣投影″は″僕が触ったギフトをコピーする″っていうものなんだ」
「何ですかその便利ギフト!?」
「でも、コピー製品は僕しか使えないんだ。いろいろ制約もある。物質しかコピーできないとかね」
「十分強力ですよ!」
「まあ黒ウサギは無視して」
「無視しないでください!」
均は本当に黒ウサギを無視して、耀に向き直った。
「耀、君の″生命の樹″をコピーさせてくれないかな?」
「……なんで?」
「戦いの幅が広がると思ったから。あと、動物とも話したいっていうのもあるかな」
「……正直だね」
「お願いしてる立場で余計な御託は並べないよ。で、どうかな?」
耀が均の瞳を見据える。均も視線を逸らさず耀の目を見つめ返した。
「……いいよ。三毛猫たちと仲良くしてくれるなら」
耀の中で何か納得がいったのか、耀が頷いてペンダントを手に取る。
「もちろん。言ったでしょ、動物と話せるのも魅力的だって」
「わかった。はい」
「ありがとう。……はい、終わったから返すね」
一瞬で生命の樹を複製し、均は本物を耀に返す。
「うん」
「さてさっそく………ん?このギフト………。……そうか。なら仕方ない。″イージーチューン″」
均は生命の樹を使おうとして、あることに気がついた。そして何やら独りごちるとさらに力を使う。
コピーされた生命の樹は光を放ち、その光が晴れた時には全く別の形状の物に変わっていた。ペンダントからブレスレットにだ。
「な、何をしたんですか均さん!というかいくつギフトを持っているんですか!」
「さっきからうるさいよ黒ウサギ。そんなの秘密に決まってるでしょ。……って言いたいところだけど、まあ、ここにいるメンバーになら知られても大丈夫かな。ただ、黒ウサギには貸し一つね。「何でですか!?」今のは″イージーチューン″。僕の持つギフトを、元のギフトに近く、かつ低い能力を持つギフトに作り変えるギフトだよ。元が″動物の特性を手に入れる″だから、話をするくらいはできると思うけど……。うん、大丈夫。いけそうだ。これを付けて……よし。こんにちは、三毛猫さん。今までの会話は知ってるよね?」
『もちろんや!よろしくな、坊主!』
「うん、よろしくね。そちらのグリフォンさんも」
『うむ。先ほどの白夜叉様との戦い、見事だった。名前を聞いてもいいだろうか?』
「僕は平均と言います。グリフォンさん、貴方は?」
『私はグリーだ。友と呼ばせてもらってもいいか?私はグリーでいい』
「光栄です。よろしくお願いしますね、グリー」
『うむ』
「それで、この便利グッズってなんなの?」
「それは、正式名称を″ラプラスの紙片″、すなわち全知の一端だ。そこに刻まれるギフトネームとはおんしらの魂と繋がった″恩恵″の名称。それを見れば大体のギフトの正体は分かるというもの」
全くである。下手したら均の能力など名前だけでほとんどバレかねない。
と、そこで十六夜が面白そうな声をあげた。
「へえ?じゃあ俺のはレアケースなわけだ?」
十六夜のカードには″正体不明″と書かれている。均はその可能性すら師匠に聞かされていたので、そこまで驚いてはいない。まあ、こんな形で目にするとは思わなかったが。
自分のギフトネームがハッキリと表示されているのに対して十六夜のが正体不明なのはズルいなぁ、などと呑気に考えていた。
しかし白夜叉は驚愕した様子で十六夜からカードをひったくり、睨みつけるように見ていた。
均は驚いていないことを白夜叉に悟られないように、ゆっくりと白夜叉の視界から外れる。
「もしかしてバグ?」
「いいやありえん、全知である″ラプラスの紙片″がエラーを起こすなど」
「何にせよ鑑定は出来なかったってことだろ。俺的にはこの方がありがたい」
十六夜が白夜叉からカードを取り返す。白夜叉は怪訝そうな目で十六夜を睨んでいた。
「今日はありがとう。また遊んでくれると嬉しい」
「駄目よ春日部さん。次は対等な条件で挑むのだもの」
「吐いた唾を飲み込むなんて格好つかねえからな。次は渾身の大舞台で頼むぜ」
「僕は遠慮しておきます」
「ふふ、よかろう。楽しみにしておけ。……ところで」
均は話を聞いてくださいよとツッコミを入れようかと逡巡したが自重した。
白夜叉がえらく真面目な表情をしていたからだ。
「今更だが、一つだけ聞かせてくれ。おんしらは自分たちのコミュニティがどういう状況にあるのか、よく理解しているか?」
「名前と旗の話か?それなら聞いたぜ」
「最初は隠されてましたけどね」
均がさらりと毒を吐く。
黒ウサギが、ビクリと身体を震わせていた。
「なら、″魔王″と戦わねばならんことも?」
「聞いてるわよ」
「……では、おんしらは全てを承知の上で黒ウサギのコミュニティに加入するのだな?」
「そうよ。打倒魔王なんてカッコいいじゃない」
「カッコいいで済む話ではないのだがの……全く、若さ故なのか。無謀というか、勇敢というか。まあ、魔王がどういうものなのかはコミュニティに帰ればわかるだろう。それでも戦うなら止めんが、そこの娘二人は確実に死ぬぞ」
まるで予言だった。
白夜叉は真剣な声音のまま続ける。
「魔王の前に様々なギフトゲームに挑んで力を付けろ。小僧と……まあ均はギリギリだが、技量はあるしの。生き残れる可能性はあるやもしれんが……。この二人はともかく、おんしら二人の力では魔王のゲームは生き残れん。嵐に巻き込まれた虫が無様に弄ばれて死ぬ様は、いつ見ても悲しいものだ」
「……ご忠告ありがとう。次は貴女の本気のゲームに挑みにくるから、覚悟しておきなさい」
白夜叉に虫呼ばわりされて神経を逆撫でされた飛鳥が、少々不満気に言う。
「ふふ、望むところだ。私は三三四五外門に本拠を構えている。いつでも遊びにこい。ただし、黒ウサギをチップに賭けてもらうがの」
「嫌です!」
「いいですね。それならこちらに痛手はありません。それで手を打ちましょう」
「何言っちゃってるんですか均さん!」
「冗談です」
「冗談に聞こえません!」
「おお、そうだ。均よ、おんしは少し残れ」
「「「「「?」」」」」
白夜叉が均を呼び止めたため、均以外の四人はコミュニティに帰った。
均は仲間を見送り、白夜叉に向き直る。
「それで、何でしょうか?」
「おんし……あれは全力ではなかったな?」
「…………」
均はのらりくらりと躱して明確な答えを出さないつもりだったが、白夜叉の真面目な表情を見て考えを改める。
「……何故、そう思われたのですか?」
「ギフトを使わなかったというのもそうだが……おんしの眼が、な。
見下している……とは違うが、何か……そう、余力を残して相手のことを観察しているというか……。どう遊ぶか考えているというか……。とにかく、強者のそれに思えたのだ」
「先ほども言いましたが、ギフトは使わなかったのではなく、使えなかったんです。正確に言うなら、使ったら大変なことになった、ですけど。思い違いですよ。僕は全力でした」
「ううむ……」
白夜叉が納得がいかないというように唸る。そこに、均がさらりと続けた。
「まあ、僕は
「…………は?」
白夜叉が素っ頓狂な声をあげる。無理もない。目の前にいる少年が、相手に触れれば勝てるなどと豪語したのだから。
「先ほどの間違いを訂正させてもらうなら、『どう遊ぶか』などではなく『どうやって触るか』を考えているんです。相手の名前と容姿、相手が有名な者なら、その者に関する僕の知る伝承……それらから相手の出来ることを予想して、そこから自分がどう立ち回れば有利な状況にできるかを考えてました。それと――」
「ちょ、ちょっと待て!触れば勝てるだと?私にもか?」
フリーズから立ち直った白夜叉が声を荒げる。
「はい、恐らく。いくら白夜叉様が全力ではなかったとはいえ、あれなら少なくともギフトを使えば一方的に負けることはないかと」
「……おんしのギフトは、何なのだ?」
「……白夜叉様だから言いますが。あまり言いふらさないでくださいね?」
「うむ、約束しよう」
白夜叉が頷いたのを見て、均が顔を近づけて囁いた。
「僕のギフトは、先ほど見せた物と、″均等分配″というものです。
これは僕が触れている二つの物体のある数値――質量でも体積でも構いませんが――を平均して、その二つの物体に分け与える、というものです」
「数値を平均……?……おんし、まさか!?」
「はい。これで霊格を数値と見なして平均、僕と相手に分け与えることが出来ます」
白夜叉が絶句する。無理もない。相手の霊格を強制的に奪えるなど、反則だ。
霊格とは、そのものの存在の大きさ。強さ。密度。そこにそれがいる、という証。それを勝手に削り取るなど、神に唾を吐くような行為だ。
普通は、そのようなものが″ギフト″として宿ることなどあり得ない。
あり得ないはずのことが起きている。
であれば、平 均という存在自体が普通ではないことの証左に他ならない。
「この箱庭では霊格の大きさがものを言います。神格をもらうと霊格は肥大し、強くなる。特技、身体能力も霊格の大きさが関わります。
僕はそれを相手と同じに――つまり強制的に基礎スペックを同じにできるようなものですね。これがあったからこそ、僕は師匠に技術を叩き込まれた。
霊格が低くても戦えるように――そして霊格において同格の相手に負けないように」
「そんな……そんなギフトがあってよいのか……」
「霊格の大きい存在って自然と霊格頼りな戦い方になりますからね。やりやすいですよ。僕はこの世界に入った天敵、という認識が正しいと思います」
均の告げた、箱庭の天敵という表現。
これは、正しくそのままの意味なのだが、この時の白夜叉は比喩として受け取った。
そして、均も。知らず知らずのうちに正確な表現をしてしまっただけで、比喩の意味で言っていた。
均自身がこの表現の真の意味に気がついてしまうのは、もうしばらく先の話になる。
「……恐ろしいギフトだの」
「ちなみに″模倣投影″によるコピー品の性能は、コピー時の相手との霊格の比率を基準にして変動します。相手の値に関わらず、ね。わかりやすく言うなら、″模倣投影″をした時の僕と相手の霊格の比率を1:1として扱うということですね。
つまり、僕と十六夜の霊格が同程度になったら、さっきの水樹は一戦級の兵器と化すと思います。現状はかなり差があるので」
「…………おんしにぴったりだの」
「そうですね。話はそれだけですか?」
「……なら、おんしは何故、私にギフトを使わなかった?自分で言うのもなんだが、私に使えばかなり霊格を上げられたと思うのだが」
「……僕は、味方を蹴落としてまで強くなるつもりはありません。白夜叉様は味方で良い方だ。僕は、僕たちに不利益を持ち込むものだけを、全力で倒します」
均は自分の信念を述べる。
「それに、″階層支配者″が弱くては困るでしょう?」
笑いながらそう宣う均に、白夜叉が畏怖と疑念の目を向ける。
「……おんしの目的は、何だ?」
「さあ?何でしょう?」
その問いを均は答える気がない。
――――今は、まだ。
為すべきことを為すことになるよ────その言葉の意味を、均もまだ理解できていないのだから。
「それは答えられませんが、僕がここに来るのは必然だったそうです。師匠に言われました。教えてもらったので、箱庭の知識はある程度あります」
「……その師匠とは誰だ。はぐらかさずに答えよ」
「すみません、お断りします。でも、白夜叉様もご存知の方ですよ」
「……そうか。では最後に、頼みがある」
「何でしょう?」
均は小首を傾げる。白夜叉は均に向かって深く頭を下げた。
「黒ウサギの助けになってやってほしい。おんしの目的はわからんが、それに反しないのであれば、黒ウサギに協力してやってはくれんか」
「もちろん。彼らのコミュニティに入ると決めた時から、そのつもりですよ」
そう言って均は立ち去り、自分のコミュニティ目指して歩いていく。
白夜叉の不安そうな視線は、均が見えなくなるまでその背中に突き刺さっていた。
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