問題児たちと(常識人の)幼馴染が異世界から来るそうですよ? 作:gobrin
お気に入り登録してくださった方、ありがとうございます。
ちょーっといつもより長いです。
あと、均の本性が思いっきり出ます。
均がコミュニティに戻ったとき、十六夜が水門を開けているところだった。
黒ウサギが苗の根を包んでいた布を外す。
その瞬間、もの凄い量の水があふれていった。
「ちょ、マテやゴラァ!!さすがに今日はこれ以上濡れたくねえぞ、オイ!」
十六夜は即座に離脱。慌てている様を見て、均は爆笑していた。
ひとしきり笑った後、均はコミュニティにいる大勢の子供の存在に気づいた。
「黒ウサのねーちゃん、この人がさっき言ってた最後の人?」
「YES!この人は平均さん!このコミュニティの仲間になる最後のお一人ですよ!元気よく挨拶しましょう!」
その言葉に即座に反応した問題児三人はすさまじいスピードで耳を塞いでいた。
均がその行動に疑問を覚えるのと同時に、
「「「「これからよろしくお願いします!!」」」」
という声が大音量で響いた。
これは耳を塞ぐのも頷ける。
その大音量に、しかし均は気にした様子はなく、朗らかに挨拶を返した。
「はい、よろしくね。いま紹介があったけど、僕は平均。均でいいんだけど、規律とかありそうだから呼びやすいのでいいよ。仲良くしてくれると嬉しいな」
元気がよくて何よりだ、と言いながら嬉しそうに子供たちに近よる。
そして一人一人に名前を聞いていく。しかも全て憶えているようだ。
その後ろで、子供が得意ではない飛鳥と耀が驚愕していた。
「え?均君、子供好きなの?」
「……意外」
「あー、そういえば均のやつ昔からあんなんだったな。子供は好きみたいだぞ。よく相手してんの見かけたし」
「……ロリコン?」
耀が汚物を見る時のような視線を均に向ける。
「いや、そうじゃないと信じたい。……多分、恋愛感情はないと思う。守るべき存在って感じなんだろ。……多分」
後ろでかなり失礼な話をされているのには気がついていたが、均は無視して子供たちと交流していた。
―――その夜。
女性陣が入浴しているとき、十六夜と均は総勢百二十人に達するという子供たちが寝るのに使っている別館の前に仁王立ちしていた。
正確に言うと十六夜が、だ。均は普通に立っている。
十六夜は木陰に向かって話しかけた。
「おーい……そろそろ決めてくんねえと、俺らが風呂に入れねえだろうが」
十六夜が言葉を発するが、答える声はない。
そもそも誰もいないように見える。
――あくまでも″見える″だけだが。
「ここを襲うのか?襲わないのか?やるなら早くかかってこいよ」
「無駄だよ十六夜。こんなこそこそと隠れて子供攫うしか能のないゴミどもに話しかけたって意味ないって。理解する頭がないんだから」
人当たりの良さそうな微笑みを浮かべながら、いつもの口調で辛辣な言葉を口にする均。
黒ウサギたちにはあまり見せていないが、これが彼の本質だ。
均は喋りながら十六夜に手のひらサイズの石を渡していた。
やれ、ということらしい。十六夜はため息をついた。
「はあ……お前ら、恨むんならこいつを怒らせた自分の行いを恨めよ」
そして均に渡された石を木陰に軽く投げる。
投げたときのフォームからは考えられないような破砕音がして、辺りの樹々とそこに潜んでいた人影を吹き飛ばす。
あまりの騒がしさに、ジンが慌てて別館から出てきた。
「ど、どうしたんですか!?」
「侵入者っぽいぞ。例の″フォレス・ガロ″の連中じゃねえか?」
「隠れて出てこないから吹っ飛ばしてあぶり出したんだ。ゴミにはちょうどいい待遇でしょ?」
均の辛辣な言葉にビビるジン。
そして空中から落ちてくる人影。
その中の意識のあるものはなんとか立ち上がり、均たちを見つめる。
「な、なんてデタラメな……!蛇神を倒したというのは本当だったのか」
「ああ、これならガルドの奴とのゲームにも勝てるかもしれない……」
均と十六夜は侵入者に近よって話しかける。
「おお?なんだお前ら、人間じゃねえの?」
侵入者たちは、全員が身体の一部が獣の物になっていた。
「我々は人をベースに
「そんなのどうでもいいから早く用件を言え。僕がおとなしく待ってるうちにさ」
均があからさまに不機嫌な口調で遮る。
十六夜は話を聞けなかったのが面白くないようで、均に文句を言っていた。
「オイ、均。遮んなよ。こいつらの秘密聞けなかったじゃねえか」
「十六夜、僕はイライラしてるんだよ。
正直、こいつらをグチャグチャにしたいけど我慢してるんだ。なんか話すことあるみたいだから、一応ね。
なのにグダグダと無駄な時間使ってさ。ちょっと痛い目に会わせたほうがいい気がするんだよね」
と、にこやかに笑いながら告げる。
ちなみにさっきの十六夜の分は痛い目にカウントされていない。
あれはあぶり出す目的、これは立場をわからせる目的、という判断で分かれているらしい。
「はあ……わかったよ。で、何を言いたかったんだ?ほれ、さっさと話せ」
侵入者は少しの間黙り込んでいたが、均が爆発するより早く意を決するように頭を下げて、
「恥を忍んで頼む!我々の……いえ、魔王の傘下であるコミュニティ″フォレス・ガロ″を、完膚なきまでに叩き潰してはいただけないでしょうか!!」
「嫌だね」
「黙れ死ね。君らを物理的に叩き潰してやろうか?」
決死の言葉をサラリと一蹴する。
それにしても均は言い過ぎである。
侵入者は皆絶句し、ジンも口をポカーンと開けている。
一転して十六夜はつまらなさそうな顔になった。
均は変わらず笑っていた。顔だけは。大事なことだから二回。顔だけは。
「どうせお前らも人質を取られてる連中だろ?命令されてガキを攫いに来たってとこか?」
「は、はい。そこまで御見通しとは知らず失礼な真似を……我々も人質を取られている身分、ガルドに逆らうこともできず」
「その人質ならガルドの部下が食べましたよ。わあ、話が終わりましたね!というわけで、さっさと帰れ」
この発言もニコニコしながらだ。どんな神経してるんだか。
「な、均さん!十六夜さんも!!」
「隠す必要あるのかよ。お前らが明日勝ったら全部知れ渡るだろ?」
「そ、それにしたって言い方というものが」
「え、気を使えってこと?冗談キツいよ、ジン。その殺された人質を攫ったのコイツらでしょ?
しかも今度はうちが対象だよ?いくら命令されてるからってこんなゴミどもに使う気なんて残念ながら持ち合わせてないなあ」
「そうだな。悪党狩りはカッコいいけど、同じ穴のムジナに頼まれてまでやらねえよ、俺らは」
十六夜は正論を淡々と述べているだけだが、均のは明らかに悪意を含んでいる。
侵入者の一人が最後の希望に縋るようにジンに目を向ける。
「そ、それでは、本当に」
「……はい。ガルドは人質を攫ったその日に殺したそうです」
「そんな……!」
侵入者たちが悲壮の顔を浮かべる。
そこに未だに笑みを絶やさない均の言葉が降り掛かる。
「君たち、ガルドと″フォレス・ガロ″が憎い?」
「あ、当たり前だ!今までどんな目に……!」
「でも、自分たちじゃ弱くて手も足も出ないと」
「や、やつのギフトはこちらより格が上だ。それに魔王に目でも付けられたら」
「その″魔王″を潰すコミュニティがあるとしたら?」
均と十六夜を除く全員が、は?という顔をする。
十六夜は均の狙いがわかったのか、ジンの後ろに回り込む。
「こちらにいるジン坊っちゃんが″魔王″を倒すためのコミュニティを作るって言ってるんだよ」
侵入者とジンが驚愕する。
ジンは恐らく、何言ってんだコイツ!といったような心境だろう。
「魔王を倒すコミュニティ……?それは?」
「言葉の通りだよ。魔王やその傘下のコミュニティの脅威から他のコミュニティを守るコミュニティだ。それをこのジン坊っちゃんが作るのさ。守られるコミュニティは皆こう言うことだね。″押し売り・勧誘・魔王関係御断り。まずはジン=ラッセルの元に問い合わせください″」
「じょ、じょう」
冗談でしょう!?と叫ぼうとするジンの口を十六夜が塞ぐ。
均と十六夜はお互いにアイコンタクトで労う。
「人質は残念だった。……でも大丈夫!明日″フォレス・ガロ″はジンたちが潰すし、その後は魔王を倒すために立ち上がるからね!」
ジンは口を挟もうと全力でもがく。が、十六夜の馬鹿力から逃れられるはずもない。
「さあ、さっさとコミュニティに帰るんだ。そして仲間に伝えてね!僕たちのジン=ラッセルが″魔王″を倒すって!」
「わ、わかった!明日は頑張ってくれジン坊っちゃん!」
そう言い残し、侵入者は走り去る。
ジンは十六夜から解放されたが、どうすればよいかわからず、膝から崩れ落ちるのだった。
その後、均と十六夜はジンに本拠の最上階まで引きずってこられた。
「どういうつもりですか、二人とも!」
「倒す対象がちょっと増えただけだろ。
キャッチフレーズは――″魔王にお困りの方、ジン=ラッセルまでご連絡ください″――とかどうだ?」
「うん、いいんじゃない?」
均と十六夜が頷きあっていると、ジンが机を叩いて身を乗り出す。
「ふざけていいことじゃありません!魔王の力は理解できたでしょう!?」
「あ、あれやっぱり魔王の仕業か」
均の言う″あれ″とは、この本拠の一角にある廃墟のことだ。
他の三人は説明を聞いたようだが、均は白夜叉と話をしていた分で間に合わなかった。
「ああ。魔王に襲われたのは三年前って話だぜ。ゲームできるのが楽しみだ。面白そうだよな」
「それはちょっと賛同しかねるけど。戦ってみたいってのはあるかな」
あの荒廃っぷりは、生物が住まなくなって数十年から百年単位で経過したような有様だった。
それがたったの三年でとなれば、何か特殊なカラクリがあるに違いない。魔王という存在の規格外さが感じられる。
「あ、貴方たちはそんな理由でコミュニティを滅亡に追い込むつもりなんですか!?」
「滅亡……?いや、作戦だけど」
均は本当に不思議そうな顔をする。
「作戦………?どういうことです?」
そのジンの返しを聞いた均は、浮かべていた人当たりの良さそうな笑みを消して、目に理解と失望の色を宿した。
「えっと……。ちょっと聞きたいんだけど。ジンはどうやって魔王と戦うつもりだったの?」
ジンは少し考え込むような素振りをして、答える。
はっきりとした指針はなかったかのような間である。
「まず……水源を確保するつもりでした。でもこれに関しては十六夜さんが想像以上の戦果をあげてくれたので、素直に感謝してます」
「おう。感謝しつくせ」
十六夜はケラケラ笑う。
確かに、水源は大事だ。そこは均も納得できる。
「そしてギフトゲームを堅実にクリアして力をつけて、魔王のギフトゲームに対抗するつもりでした」
「期待一杯、胸一杯だったわけだ」
「それなのに……!貴方たちは…………!!」
「うーん。悪いけど失望したよ、ジン」
均が瞳だけではなく、声にも失望の風味を乗せる。
「同感だぜ。呆れた奴だ」
見れば、十六夜も軽薄な笑みは消している。
「ねえジン。ギフトゲームに参加して力をつけるなんてのは大前提だよ?その上で″どうやって魔王と戦うか″って聞いたつもりなんだけど」
「だ、だからギフトゲームに参加して力を付けて、」
「なあ御チビ。前のコミュニティがギフトゲームで力をつけてなかったわけねえだろ?しかも、ギフトゲーム以外でも力をつけてたんじゃねえのか?」
「……それは………はい」
「僕たちはコミュニティを象徴する″名″も″旗印″もないんだよ?
そのハンデを抱えたまま、ジンは先代を超えなきゃいけないんだ。わかってる?」
「先代を……超える……!?」
「はあ……。その様子だと、ホントに何も考えてなかったんだなオマエ」
十六夜が呆れたように呟く。
「名も旗印も無いとなると――後はリーダーの名前を売り込むくらいしかないよね?」
ジンはハッとして、均と十六夜の狙いに気付く。
「僕を担ぎ上げて……コミュニティの存在をアピールするということですか?」
「悪い手じゃないと思うよ?」
「だが、リーダーがコミュニティの顔役になってコミュニティの存在をアピールするだけじゃあインパクトが足りねえ。ジン=ラッセルという少年が″打倒魔王″を掲げ、一味に一度でも勝利したという実績があれば――それは波紋となって広がるはずだ。魔王の以外の奴にもな」
「そ、それは誰に?」
「同じ様に″打倒魔王″を胸に秘めた人達に、だよ」
「今回の一件はチャンスだ。相手は魔王の傘下で勝てるゲーム。被害者は数多のコミュニティ。ここで御チビがしっかり勝てば」
均と十六夜が狙いを説明し終わる。
「一つだけ条件があります。今度開かれる″サウザンドアイズ″のギフトゲームに、均さんと十六夜さんの二人で参加してもらっていいですか?」
「僕たちの力を見せればいいの?」
「それもあります。ですが理由はもう一つあります。そのギフトゲームの賞品に元・魔王の仲間が出品されるんです」
「その人を取り返せばいいんだね?」
「はい。それが出来れば対魔王の準備もできますし、僕も二人の作戦を支持します。ですから、このことは黒ウサギには内密に……」
「あいよ」
「うん。わかった」
均と十六夜が席を立つ。そして、部屋を出る前に十六夜がジンに振り向き、声をかける。
「明日のゲーム、負けるなよ」
「はい。ありがとうございます」
「負けたら俺、コミュニティ抜けるから」
「あ、僕も」
さらっと入ってくる均。
「はい。………え?」
ジンは頷いて、固まった。
翌日。
均たちはギフトゲームの舞台である居住区に来ていた。
「ジャングル?」
「虎の住むコミュニティだ。おかしくはないだろ?」
「いえ、おかしいです。″フォレス・ガロ″の本拠は普通の居住区だったはずです。それに……この木」
ジンが木に手を触れ、状態を確認した時に均が口を挟んだ。
「鬼化しているね」
「!?……均さん、わかるんですか!?」
「うん。わかりやすく鬼化してるからね」
「いや普通わからねえよ」
均の発言に十六夜が突っ込む。耀と飛鳥も頷いていた。
均は吸血鬼に会ったことはない(はず)だが、鬼化した植物や動物を見たことがあった。
経験していれば流石にわかる。
「それよりジン君。ここに″契約書類″が貼ってあるわよ」
『ギフトゲーム名 ″ハンティング″
プレイヤー一覧 久遠 飛鳥
春日部 耀
平 均
ジン=ラッセル
・クリア条件 ホストの本拠地に潜むガルド=ガスパーの討伐。
・クリア方法 ホスト側が用意した特定の武具でのみ討伐可能。指定武具以外は″契約″によってガルド=ガスパーを傷つけることは不可能。
・敗北条件 降参か、プレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合。
・指定武具 ゲームテリトリーにて配置。
宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の元、″ノーネーム″はギフトゲームに参加します。
″フォレス・ガロ″印』
「ガルドの身をクリア条件に……指定武具で討伐!?」
「こ、これはまずいです!」
「このゲームはそんなに危険なの?」
耀が小首を傾げる。
「ゲーム自体は単純です。ですがこのルールでは、飛鳥さんのギフトで操ることや耀さんのギフトで傷を付けられないことを意味します!」
飛鳥がわからないというふうに首を捻っている。
「つまり″恩恵″じゃなくて″契約″で身を守ったんだよ。指定した武器以外では干渉できないように。″契約書類″のルールは絶対だからね。どんなにすごい″恩恵″でもガルドは倒せないってことになる」
飛鳥のために均が要約して伝える。
「″契約書類″を作ったときにルールも決めるべきでした。僕の落ち度です。すみません……」
「ジン、気にしない気にしない。誰にでも失敗はあるさ。それに、あのクソ虎にはこのくらいのハンデがちょうどいい」
均の言葉に飛鳥と耀も頷く。
さらに黒ウサギの激励に二人はやる気を見せる。
その後ろでは十六夜がジンに小声で話しかけていた。
均もジンたちに近づく。
「この勝負に勝てないと俺たちの作戦は成り立たない。だから昨日言った通りだ。予定に変更はない。いいな御チビ」
「……分かっています。絶対に負けません」
「大丈夫だよ、ジン。勝てるさ。僕らがコミュニティを去らなくていいように頑張ろうね」
自らあんなことを言ったくせに、何とも矛盾した発言である。
ジンもそう思ったようで、
「均さんが言わないでください」
と言った。だが均はそれを無視した。
「じゃあ、行こうか」
大したメンタルだ。
均たちは門をくぐる。
「かなり生い茂ってますね。これでは隠れていてもわかりません」
「大丈夫。近くから何の匂いもしない」
「耀がそう言うなら大丈夫だろうね。ちなみに、僕も何の気配も感知してないよ」
居住区は草木に覆われていて、道もわからないような状況だった。が、均と耀の索敵能力の前では関係ない。
「風下にいるのにガルドの匂いがしないから、建物の中に潜んでる可能性が高いと思う」
「なら、まずは外で指定武具を探す方がいいだろうね」
飛鳥とジンが指定武具を探す間、均と耀で周囲の警戒にあたる。
耀は樹の上に立っていた。均は歩き回り、索敵範囲をフルに使ってガルドの居場所を探る。
「駄目ね。それらしい武具やヒントも見つからないわ」
「もしかするとガルド自身が防衛の役割を担っているのかもしれません」
「なら方針を変えましょう。春日部さんのギフトでガルドを探して」
「もう頼んだよ」
「もう見つけた。この森を抜けた先の屋敷にガルドらしい人物が見えた」
均と耀はいつの間にかそんなことをしていた。
屋敷の方角に歩いていくと、ツタで全体を覆われた屋敷があった。
「すんなりと入れたわね」
「奇襲どころか罠の一つもないなんて」
そうなのだ。植物が生えまくっているこの状況なら罠なんていくらでも設置できる。だが、それがなかったことを均はひどく不気味に感じた。
「二階にガルドはいた」
「なら、戦力をわけよう。飛鳥とジンは一階で待機していて。僕と耀が行ってくる」
「ちょっと!なんで私が待機なの!?」
「そうです!僕だってギフトはあります!足手まといにはなりません!」
「二人とも落ち着いて。頭良いんだからわかるよね?今回は指定武具での討伐だよ。これじゃあ飛鳥のギフトが効かない。ジンのギフトはどんなものかわからないけど……機動力のある耀と捌くのが得意な僕が行く方がいい。あと、退路の確保もお願いしたいな。逃げられなくなりました!とか冗談じゃないからね」
均の正論に二人は渋々納得した。
「じゃあ、行こうか」
「うん」
屋敷の二階には、大きな扉の部屋があった。その扉を開け放つと、中では虎の怪物が白銀の十字剣を背に守るように立ちふさがっていた。
「飛鳥!ジン!すぐに逃げて!」
均はすぐさま声を張り上げた。さらに思考する。
(恐らくあれはガルドだ。そして鬼化された植物に白銀の十字剣。これが意味するところは――ガルド自身が吸血鬼化しているということ、かな。まずいな。捌ききれるかな)
「耀!僕がガルドの相手をする!その間に剣を!」
「わかった」
均はガルドの前に踊り出て、耀に指示を出す。
ガルドが両腕の――いや、両足の鋭い爪を均に振り下ろす。
捌けるかどうかすら怪しい一撃に、均はすぐに回避の判断を下した。
全力で横に移動し、続く連撃は後ろに下がって躱す。
いつもの癖でカウンターを入れる。が、少しだけ押すことは出来たものの、全くダメージを与えられなかった。
(くそっ、わかってはいたけど″契約″は堅いな!でも、耀が剣をとったぞ!)
しかしその瞬間、ガルドが身を翻し、耀に襲いかかった。
今まで相対していた均のことなど眼中にないかのように。
「なっ!」
想定外の行動だった。一瞬、均の足が止まる。
それ故、間に合わない。こちらは扉付近で、耀は奥の壁際だ。
「耀っ!」
ガルドの右の爪が耀の右腕を切り裂き、鮮血を散らせる。
均は飛び上がり、ガルドの側頭部に全力全開で蹴りを入れた。
(ダメージがなくても押しのけられれば......!)
その蹴りが功を奏したのか、ガルドの身体が横へ押しやられる。
(ついでだ......!)
均は自身の持つ最高の″恩恵″を使う。
ブーツを装備している状態の足による接触という、接触とも言えないような状況だったが″均等分配″は発動した。
ぶっつけで初めてやってみたが、成功するようである。″契約″に守られているガルド相手に、ブーツ越しで発動できるとなると戦略の幅が少し広がるが、今はそんなことを言っている場合ではない。
ガルドと均の霊格が平均化され、均とガルドに同じ霊格が分け与えられた。
結果的に、均の霊格が増大する。
「耀!逃げるぞ!」
痛みで辛そうな耀に声をかけながら、均は耀を連れて逃げ出した。
飛鳥たちを探し、何とか合流する。
均の腕の中には、お姫様だっこされた耀。
均の手の中には、本物の剣とコピーされた剣。
それらは見た目だけでなく、性能も完璧に同じだと均は感じていた。
コピー品は通常、僅かながらも性能に霊格の差による影響を受ける。
ガルドが持ち主に設定されていたようだ。
飛鳥とジンは、そんな様子の二人を見て、驚愕の表情を浮かべた。
均は二人に状況を説明する。
「だ、大丈夫、春日部さん!?」
「大丈夫じゃない。すごく痛い」
「ごめん、助けられなかった。……悪いけど、ジン、飛鳥。耀の介抱を任せてもいいかな?」
「え?ど、どういう意味ですか!?均さん!?」
「あのクソ虎の腹をかっさばいてくる。絶対に許さない」
「待ちなさい。私も行くわ」
「え、え?飛鳥さんも何を言いだすんです!?」
「ジン君、春日部さんのことをお願い。行きましょう、均君」
「危険だよ?僕は君を守りきれないかもしれない」
「大丈夫よ。作戦があるの。乗る?」
「……わかった、乗ろう。耀、ごめん。すぐに片付けてくるから、もう少し耐えてて。ジン、僕らはこれから勝ってくるから、安心して。真面目にやってくる」
「待っててね、春日部さん。――行きましょう」
均と飛鳥は二人を残し、森の中へ入っていった。
「それで、作戦って?」
「屋敷に火をつけるの。そして、森に命令して一本道を作るわ。そこにガルドが突進してきたら、また森に命令して縛り付ける。一瞬なら動きを止められるはずよ。そこで剣を刺すつもりだったんだけど、それは貴方に任せるわ」
「わかった。いい作戦だね」
二人は適当な場所で作戦を実行する。
ガルドはそれほど時間がかからずに釣れた。
「GEEEEEYAAAAAaaaaaaa!!!」
「思っていたより早かったのね」
ガルドは飛鳥が持っている瓦礫についた火に怯え、すぐには突っ込んでこなかった。
飛鳥は瓦礫を投げ捨て、手ぶらになる。
「さあ、来なさい」
その言葉を理解したわけではないだろうが、ガルドが飛び出す。
「GEEEYAAAAAaaa!!!」
「今よ、『拘束なさい』!」
その声に森の樹々が呼応し、ガルドを両側から圧迫する。
ガルドの動きが止まった一瞬に均はガルドの前に滑り込み、その額に白銀の十字剣を突き立てた。
すぐに引き抜き、続けてガルドの腹を切り開く。
「ナイス、飛鳥。……じゃあね、クソ虎。その頭で出来るかは怪しいけど、出来るなら僕の仲間を傷つけた罪を後悔しながら死ね」
飛鳥は均の底冷えのするような声に戦慄した。
一緒に黒ウサギをからかったりはしていたが、均からそんな言葉を聞くことになるとは思わなかったのだ。
その言葉を放ったときの均は絶対零度の瞳でガルドの死体を見下ろしていた。
こうして、″フォレス・ガロ″とのギフトゲームは呆気ない幕切れとなったのだった。
怪我が酷かった耀は、ゲーム終了後、治療のためにすぐさまコミュニティに運ばれた。
″フォレス・ガロ″に奪われた″名″と″旗印″は、元のコミュニティに返還された。
″ジン=ラッセルの率いるノーネーム″というフレーズを集まった人たちに伝え、ジンをコミュニティの顔役にするという作戦はひとまずの成功を収め、″フォレス・ガロ″騒動は終結した。
こんにちは、gobrinです。
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