聖なる夜の栗東寮で起こったひと悶着
なお、登場人物のIQは低いものとする

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一度、登場人物全員バカの小説を書きたかった


聖なる夜、栗東寮で

 12月24日、クリスマスイブ。聖なる日の前日、子供達はよくこう言われた事だろう。

『良い子にしていると、サンタさんがプレゼントを持ってきてくれるよ』──と。

 

 そして、ウマ娘とは、人並み外れた身体能力を持つ種族である。けれども人間と同じように育ち、考え、成長する彼女らもまた、プレゼントを受け取るに相応しい"良い子"なのだ。

 

 そのためトレセン学園所属・ナリタブライアンのトレーナーは、赤い戦闘(サンタ)服を身に纏い、彼女の寝泊まりしている栗東寮に訪れていた。

 

「──誰だっ!」

「見付かるのが早い!?」

 

 カッ! と向けられた光。それが懐中電灯だと気づいたトレーナーの声に、向けた張本人が光の強さを弱めながら小声で語りかけてくる。

 

「君は……ブライアンのトレーナー君!? な、何故こんなところに居るんだ!?」

「そういう君は……ハヤヒデか、その服装……どうやら目的は同じのようだな」

 

 まぶたを細めて光から目を守りながら、トレーナーは声をかけてきたサンタ服のウマ娘──ビワハヤヒデにそういいながら体勢を整えた。

 

「おお、トレーナー君も、ブライアンにプレゼントを渡しに来たのか。──いや待てここは栗東寮だぞどうやって入ってきたんだ」

「えっ、不法侵入……」

「シンプルに犯罪……っ!!」

 

 しれっとそう言うと、彼は廊下の半開きの窓を指差す。──ここは3階だぞ……と呟くハヤヒデだが、妙なところで行動力を見せるブライアンのトレーナーなら『やる』だろうと察する。

 

「まあ、いい。よくないが。……それで、トレーナー君もブライアンへのプレゼントを持ってきたのだろう? 何を持ってきたんだ?」

「ふっふっふっ、聞いて驚くなよ?」

「もう既に不法侵入の件で驚いてるがね」

 

 トレーナーが背負っていた袋から取り出されたのは、両手で抱えられる大きさの長方形の箱だった。ひんやりとした冷気を感じ、恐らく中に保冷剤が入っているのだろうそれをハヤヒデに見せると、トレーナーは自信満々で言う。

 

「でん、A5ランク高級牛肉詰め合わせ」

「クリスマスのプレゼントだぞ?」

「ブライアンに昨日それとなく聞いたら『肉』としか言わなかったんだもの」

「どうして野菜も付けないんだ!?」

「問題点はそこか?」

 

 わなわなと拳を震わせるハヤヒデに、そう返しつつトレーナーも質問を投げ掛ける。

 

「そういうハヤヒデはいったい何をプレゼントするつもりなんだ?」

「ふふふ、私のプレゼントはトレーナー君とはひと味もふた味も違うぞ」

「……ふぅん? 言うじゃないか」

 

 くいっ、と眼鏡の縁を指で持ち上げたハヤヒデは、トレーナーと同じように背負っていた袋から箱を取り出す。ん? と呟いた彼の前で、ハヤヒデは自信満々で言った。

 

「A5ランク高級牛肉詰め合わせだ」

「俺今リプレイ映像見せられてる?」

「もちろん私の方は焼肉に使う野菜もセットで入っている。つまりこちらの勝ちだ」

「なにぃ──っ!?」

 

 ハヤヒデがドヤ顔でそう言うと、眼前でトレーナーは悔しそうに表情を歪める。

 

「くっ……玉ねぎさえ入れていれば……!」

「そう悔しがるなトレーナー君、明日改めて野菜を買い足せばいいだけだろう?」

「それもそうだな」

 

 すっと表情を戻し、トレーナーはハヤヒデと共にブライアンの部屋に向かおうとする。その直後、更に背後から怒号を浴びせられた。

 

「──なにやってんだいアンタらァ!!」

「何奴!?」

 

 驚きながらも、胸元でタイマーが青く光っていそうなファイティングポーズを取るトレーナー。その傍らで声の主を冷静に確認するハヤヒデは、一拍置いて眉をひそめながら返した。

 

「その声は……!」

「ん? ……って、ブライアンのトレ公とビワハヤヒデか! なんだい驚かさないでおくれよ」

 

 ぼんやりとした薄暗い廊下の奥から現れたのは、褐色の肌が引き立つ赤と白のサンタ服に身を包んだ──美浦寮の寮長・ヒシアマゾンだった。

 

「いやアンタもかい」

「貴女もか寮長……」

 

 栗東寮の廊下に不審者(サンタ)が三人。渋滞が起きつつある現場で、ヒシアマゾンがおもむろに近づきながらハヤヒデとトレーナーに声をかける。

 

「アタシはフジに許可取って玄関から入ってきたけど、アンタらはなにやってんだい」

「私はそもそもこの寮を使っているので……。まあ、就寝時間を過ぎているのにこうして起きているのは良くないことではありますが」

「俺はただの不法侵入だ」

「堂々とし過ぎじゃないか?」

 

 ぐっ、と親指を立て(サムズアップす)るトレーナーに呆れた表情を浮かべるヒシアマゾン。彼女はああと口を開くと、続けて手元の袋から荷物を取り出す。

 

「ところでアンタ達もプレゼントを持ってきたんだろう? 実はアタシも、良いものを持ってきたんだ。きっとブライアンも喜ぶ筈さ」

 

 よいしょ、と言って取り出された箱は、不思議なことに見覚えがあった。

 

「じゃん、A5ランク高級牛肉詰め合わせ!」

「…………これもうただの焼肉パーティ提案しに来た人たちじゃん」

「何が悲しいと言うとだな、私たちの魂にはブライアン=肉の方程式が刻まれている事実だ」

 

 二人して顔を手で覆う様子を見て、ヒシアマゾンは察した様子で小さく続ける。

 

「まさかアタシたちは、揃いも揃って肉をプレゼントしに来てたってわけかい」

 

「朝起きて枕元に牛肉セット×3箱が置かれてたら、流石のブライアンも困惑するよなぁ」

 

「どうしたものか……いっそのことフジキセキ寮長に肉を渡しておいて、翌日に栗東寮でバーベキューを開催するという手もあるが──」

 

 うんうんと悩んでいる三人。そんな彼らのもとに、新な第三者が介入してきた。

 

 

 

「フフッ、さしずめ、三択(サンタク)ロースでサンタ苦労す(クロース)……といったところか」

 

「──こ、この妙に上手いせいでなんか逆に腹立つ感じのギャグは……!?」

 

「シンボリルドルフだ、待たせたな。それとブライアンのトレーナー君、君の発言に関しては暫くのあいだ根に持つぞ」

 

「ウワ──ッ! 四人目!」

 

 寒さもなんのそのと言わんばかりのミニスカートのサンタ服を着こなす、トレセン学園生徒会長・シンボリルドルフ。彼女もまた、ブライアンにプレゼントを渡しにやってきていたのだ。

 

「おいおい会長、アンタもアンタで美浦(ウチ)の寮のウマ娘だろうに……」

「まさか会長……貴女もこのトレーナー君のように不法侵入を?」

「──わかりきったことを」

 

 ルドルフはまさに生徒会長、まさに皇帝の如く凛とした表情でこう言った。

 

「職権濫用だ」

「嘘でしょ……俺より質が悪い……」

 

 不法侵入と職権濫用のどちらの罪が重いかというドングリの背比べはともかく、この場のサンタトリオが気にしているのは、ルドルフが持ってきたプレゼントは何かという一点に尽きる。

 

「……まあ、それで、だな。会長。アンタは……なにを持ってきたんだ?」

「ああ、安心していいぞヒシアマゾン。私が持ってきたのは肉ではない」

 

 そう言いながらルドルフは、袋に手を入れると中身を取り出す。それはまるで、辞書のように分厚い、一冊の本であった。

 

「『世界のジョーク全集 ~ダジャレと呼ばないで~』だ。実は先程のダジャレもこの本の一文を引用させてもらっていた」

 

「ダジャレって言ってるじゃん」

 

「何故だろうか、四連続で肉がダブらないで良かったと思う反面、微妙な感覚があるのは」

 

「会長らしいとは言えるけどなぁ、アタシはいっそ四人とも肉の方が良かったと思うぞ」

 

「……私が何をしたと言うんだ」

 

 強いて言うならタイミングだろう。しょんぼりとした顔のルドルフだったが、そのピンと立つ耳は、廊下の奥の階段から誰かが上がってくる足音を鮮明に捉えていた。

 

「むっ──いかん、誰かが上がってくるぞ」

 

「たぶんフジだね。アタシが何時まで経っても戻ってこないから見に来たんだろう」

 

「不味いな……このままではルドルフが罰則を受けてしまうぞ……!」

 

「どうして不法侵入したトレーナー君が先に会長の心配をしているんだ……?」

 

 神妙な面持ちのトレーナーに、ハヤヒデが静かにツッコミを入れる。顎に指を当てて思案するルドルフは、コツコツと一階から三階に上がってくる足音を聞きながら口を開いた。

 

「会長の私、許可を得ているヒシアマゾン、栗東寮住みのビワハヤヒデは幾らでも誤魔化せるが……トレーナー君は不味いだろう──とでも言うと思ったかい? この程度は想定の範囲内だ」

 

「ルドルフ、妙案があるのか?」

 

「うむ。これから窓の外……あの木が見えるだろう。そこにトレーナー君をぶん投げる」

 

「なんて???」

 

「プレゼントはこちらで預かっておく。なあに、あとは強いサンタに任せたまえ」

 

「しかもマウント取ってきた……」

 

 おもむろに指差した方向にある、トレセン学園内の大きな木。窓を開けながらそう言ったルドルフは、トレーナーをあっさりと持ち上げると──思い切り振りかぶって外へと放り投げた。

 

「えっちょっぬわあああぁぁぁぁぁぁ……!?」

 

 消灯され、最低限の灯りだけとなった敷地の奥に飛んで行き、お星さまとなったトレーナー。彼を見送ったルドルフは、一仕事終えたような顔をして満足げに頷く。

 

「──ヨシ!」

「さ、殺人現場……!」

「おかしい奴を亡くしたよ……」

「問題ない。あの木の辺りには緊急脱出用にネットを張っておいてある」

 

 戦慄するハヤヒデとヒシアマゾンをよそに、ルドルフはあっけらかんとそう言った。

 

 

 

 

 

「──ぁぁぁぁぁぁぁぁああああぉうっ!?」

 

 ぼふんっ! と、木の枝あるいは地面とは違う柔らかい感触。伸縮性のある紐で編まれたそれ(ネット)に引っ掛かって勢いを削がれたトレーナーは、もぞもぞと悶えながらなんとか地面に着地する。

 

「おやルドルフ……じゃないな、誰だ」

「それはこっちのセリフ──いやマジで誰!?」

 

 ひょこりと現れ自分を見下ろしてくる女性は、トレーナーをルドルフと勘違いしていたが、違うと見るや不審者を見るような目を向ける。だがトレーナーからすれば、トナカイのコスプレをしている女性こそ不審者そのものであった。

 

「って、なんだ。ブライアンの担当か」

「そういうアンタは……ルドルフのトレーナー。てっきり不審者かと思ったぞ」

「それは寮の方から降ってきた人に言われたくないセリフNo.1なんですよね」

 

 ルドルフのトレーナーは、ブライアンのトレーナーを助け起こしながら呟く。

 彼女はブライアンのトレーナーの説明を受け、少し考えてから口を開いた。

 

「さしずめ三択(サンタク)ロースでサンタ苦労す(クロース)、といった所ですかね」

「ど、同レベル……」

「同レベル? ……どう、どー、ドーベルと(ドー)レベル……いやもう一捻り欲しいな」

「畳み掛けないでくれない?」

 

 ブライアンのトレーナーは彼女がトナカイのコスプレをしながら真面目にダジャレを考案している様子を見て、そういえばと思い出す。

 ルドルフのトレーナーは、頭の回転の早さをルドルフ同様ギャグに割り振っている、いわゆる残念な美人の類いであった。

 

「アンタらのくっそしょうもないダジャレはどうでもいいんだよ」

「グーで殴りますよ」

「それで、こっからどうやって脱出するんだ? というかアンタはどうやってここに」

「うちのルドルフが敷地の端にロープを垂らしてくれていたので、それを登って」

「職権濫用ってそういう……」

「貴方こそ、どうやって寮に?」

「いやまあ、不法侵入」

「シンプルに犯罪……!」

 

 彼のあっけらかんとした態度に、人の事を言えないルドルフのトレーナーは頭──を覆うトナカイのコスプレのツノ辺り──を抱える。そういえばコイツは、トレセン学園の中でもかなりの問題児だったなと彼女は不意に思い出した。

 

 ビワハヤヒデの髪に静電気を溜めた下敷きを当てたことで起こった彼主犯の『雷神事件』を思い返しつつ、学園から逃げるべく件のロープがある方にブライアンのトレーナーの先導をする。

 

「さあ、とりあえずここから逃げましょう。そろそろ巡回の警備員が来る頃です」

「なんで把握して……職権濫用ってそういう」

「何回同じ事を言うんですか」

 

 ──無駄話はともかく、ウマ娘というアスリートの育成をする以上は、彼ら彼女らもまたある程度の『走り』が出来なくては話にならない。

 まるで未来からやって来た液体金属型サイボーグもかくやと言わんばかりのフォームで走る二人は、視界の端で鮮やかに光り輝く学園内のホールに意識を向けていた。

 

「ホールの方に駅前広場のイルミネーションみたいな暖色系の輝きが見えるんですけど」

「アグネスタキオンのトレーナーでしょ。確かクリスマス仕様とかなんとか言いながらホールにあるツリーに縛り付けられてたはず」

 

 ルドルフのトレーナーの問いに、ブライアンのトレーナーが答える。

 脳裏に電飾のケーブルでぐるぐる巻きにされたタキオンのトレーナーが、タキオン本人とマンハッタンカフェに運ばれていた光景を思い出しながら、彼は彼女の言葉に静かに返す。

 

「人権ってなんなんですかね」

「あれは自分から投げ捨ててるだけだから」

 

 そんな会話を交わしながら、ガサガサと草木を掻き分けて、壁の一部に垂れ下がったロープを見つける。ふむ、と呟いて、ブライアンのトレーナーはロープに手を伸ばしながら言う。

 

「ここからなら侵入できるってわりと不味いだろ。ちょっと防犯意識低くないか?」

 

「まあ、ここを使うのは今回限りですね。後日、ルドルフを通して意見してもらって、監視カメラと……有刺鉄線の設置が妥当でしょう」

 

「急にトレーナーみたいな事言うな」

 

「トレーナーですが……??」

 

 いやトナカイでしょ、と小さく呟きつつ、彼は先に登ってからルドルフのトレーナーを引っ張りあげる。巻き取ったロープを外側に垂らし直して降りると、彼女は器用に波打たせたロープを塀から外して回収していた。

 

「さてと、じゃあここらでお別れしましょうか」

「トレーナー寮の方角は同じなのにサンタとトナカイで別れて帰ったら余計に怪しまれるぞ」

 

 歩道を歩きながら、隣で並走するルドルフのトレーナーを見ながらブライアンのトレーナーはそう言って、はぁ……と白い息を吹かす。

 

「あー……それもそうですね。ついでに私の部屋で寝酒でもします?」

「やだよ。お前は寝酒って言いながら一升瓶をらっぱ飲みするからモテないんだぞ」

「……すぞ…………」

 

 ──サンタは駆けた。トナカイは追いかけた。クリスマスイブの深夜、歩道を走る謎の二人組がカメラに映っていたのは、また別の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーブライアン、なんでも牛肉詰め合わせがプレゼントされていたらしいじゃないか」

「なんだその棒読みは……まあいい、アンタも食うだろ? 今燃料を追加する」

「なにその本」

「ジョーク全集とかいうよくわからんモノだ。要らんからこれを燃やそうと思ってな」

「………………やめてあげな」

「……?? まあ、それもそうか」

 

 ──と、ジョーク全集がバーベキューの燃料にされかけていたのは余談である。




ブライアンのトレーナー(♂)
・堂々と正門から不法侵入したアホだが、こんなんでもブライアンを担当できる程度には有能。ただし、度々何かを思い付いては問題を起こしている。過去にハヤヒデの髪に静電気を溜めた下敷きを近づけて大変な目に遭った

ルドルフのトレーナー(♀)
・監視が行き届いていない場所から不法侵入してきたアホ。頭の回転は早いがダジャレに才能を割り振っているため、男友達は出来るがモテないタイプ。蟒蛇レベルの酒豪でちなみにAカップ

タキオンのトレーナー(♀)
・クリスマス仕様で駅前のイルミネーションのような暖色系の光を放っていたため、学園内のホールのツリーに縛り付けられていたアホ。タキオン本人が縛っておいたのを忘れていたせいで丸一日放置されたが風邪は引かなかった

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