※主人公ハンターはネームレス
※一部の登場人物の関係に盛大な捏造あり
「ねぇ。近々、どっかで時間空かない?出来れば丸一日くらい」
ある日、集会所の出発口からクエストに出掛けようとしていた私に、アヤメさんが声を掛けてきた。お喋りはしょっちゅうしているけれど、向こうからというのは何気にちょっと珍しい。
「来週はまだ何も入ってないよ。なになに、アヤメさんの奢りで潰れるまで飲む?」
「里で一番稼いでる癖して、無職に毎度毎度たかるんじゃないよ。……って、今までなら言う所だけど」
私が調子に乗った時にいつも見せる呆れ顔をしながら、腰のポーチから何か、綺麗に折り畳んだ紙切れを取り出すアヤメさん。端っこを一目見ただけで分かった。私は、その紙の色や材質をよく知っている。だって──私もおそらく今、同じ物を持ってるから。
「……まさか」
緊張と興奮で言葉に詰まった私の顔の前で、ついさっき私がミノトさんから受け取ったのとそっくりなその紙切れを、アヤメさんはピラッと広げて微笑む。
「そ、ついに無職卒業。……付き合ってくれる?」
それは、クルルヤックの狩猟クエストの依頼書。受注者名を記入する欄の一番上には、アヤメさんの名前がしっかりと書き込まれていた。
「──うっ、うわぁぁぁぁーーー!!」
思わず声が割れるほど絶叫して、アヤメさんに正面から飛び付いてしまった。少しよろけながらも私の全力ダイブをしっかり受け止めてくれたアヤメさんの腕や身体はとても温かくて、頼もしさや自信がひしひしと伝わってくる。顔を見上げるとアヤメさんは、クールの隙間から照れと喜びが零れ出すような、今までに見た中で一番素敵で、魅力的な笑顔をしていた。
「ホントに!?ホントに!?やばい夢みたい夢じゃないよね!?えっ、私ついてっていいの!?」
「もちろん。むしろ復帰第一戦は一緒に行こうってこっちから言い出したのに、随分待たせて悪かったね」
「いいよいいよぉそんなの!!ああぁもう嬉しすぎて訳わかんない、良かった、良かったねぇアヤメさん!!おめ、おめでとうぉぇっ、ぐすっ」
「あはは、何も泣くことないのに」
感極まって涙と鼻水を垂らし始めた私の頭をグリグリと撫でたアヤメさんは、私の目を真っ直ぐに見つめながら言う。
「やっと胸張ってアンタの隣に……いや、まだ隣じゃないな。当面は、アンタの背中を全力で追っ掛けるけど」
一瞬目を逸らして、それからもう一度、今度は挑戦的な光と熱を帯びた目で、不敵に微笑んで私を見た。
「絶対そのうち捕まえて、追い抜いてやるから。──改めて、これからよろしくね」
「うん!!」
握った拳と拳をぶつけ合い、しっかり見つめ合って、笑顔を交わした。
それから一週間のことは、浮かれすぎて正直あんまり覚えていない。それくらい、アヤメさんが復帰できるのが嬉しかった。
◇◇◇◇
ついに、アヤメさんの復帰戦の日がやって来た。
何を持って行こうか悩んだ末、私は片手剣にした。アヤメさんはライトボウガンのはずだから、万が一被弾してしまったらダメージが大きい。そんな時に少しでも早く回復してあげられるように、抜刀中も手が空く武器を選んだ。粉塵も回復薬も調合分までポーチに詰め込んで、広域化スキルを積んで、早食いの練習もしてきた。アヤメさんに二度と大怪我なんかさせたくないから。
里の皆に見送られながら門を出て、その姿が見えなくなると同時に、私達は猛然と走り出した。かけっこでもするように追い抜いたり抜かれたりしながら、思い付くがままに口を開いては会話する。
「心機一転しての再出発だし、どうせなら見たことないモンスター見に行きたいって言ったら、このクエスト勧められたんだ」
「うんうん!良いの選んでくれたと思うよ、流石ミノトさんだね」
今日の狩り場は、カムラの里から行ける狩猟地の中で、一番近場である大社跡。子供の足でも歩いて行けない事はない距離なので、あそこなら大抵の狩りは日帰りで終えられる。ミノトさんが、復帰明けのアヤメさんへの負担をしっかり考慮してこのクエストを選んだ事が、狩猟地の選定からもよく分かった。
しかし当のアヤメさんが『走れるだけ走って行ってみたい』と言うので、私たちは里を出てからもう小一時間、ずーっと走りっぱなしだ。もちろん、現役ハンターの私にとってはこれくらい何でもない。でも、長い空白期間を経てもそれを平然とやってのけるアヤメさんの体力には驚かされる。きっと休んでいる間も出来る限りの鍛練は続けていたのだろうし、何より今は、とにかく駆け回りたくて仕方ないのだと思う。
太陽に照らされてキラキラと輝く銀髪、それをなびかせながら走るアヤメさんの横顔はいつも通りクールだけれど、綺麗な漆黒の瞳はその髪と同じくらいキラキラしている。この人は本当に、自然や狩りが大好きだったんだ。そう思ったら、彼女がようやくここへ戻って来られたことへの喜びで、また胸がいっぱいになった。
道中は特にモンスターもいなくて平和なので、他愛ないお喋りも沢山できる。普段から仲良くしてもらってはいるけれど、改めて何でも話せるお姉ちゃんができたみたいで、アヤメさんだけでなく私もご機嫌だ。
「今日のアンタの格好、可愛いじゃん。何の装備?」
「えへへ、でしょ!脚だけスパイオなの、最近ハマッてるんだ。ってかアヤメさんさ、今から狩るクルルヤックの装備めっちゃ似合いそうだよね。楽しみだよぉ」
こんな女の子っぽい話題なんかは特に、軽率に全身バルファルクで固めて重ね着もしない脳筋ハンターなどが相手では全然できないから楽しい。たとえ、物騒な大荷物を背負って、どう見ても常人の女ではない速さで走りながらであっても。
「クルルってぴらぴらした踊り子みたいなやつでしょ?着ないよ」
「えーっ、なんでー?見たいー見たいー」
「露出が多くて趣味じゃない」
「あはは、今着てるそれと何が違うの」
「……エ?」
「まさか自覚なかったとか言わないよね?」
元気だったはずの親が突然死んだと聞かされた瞬間の人みたいな顔になったけど大丈夫だろうか。アヤメさんの事を“そういう目”で見てる奴も結構いるし、教えてあげて正解だったと信じたい。
◇◇◇◇
結局一度も立ち止まることなく走り通して、狩猟エリアに入ることが出来た。流石に汗は少しかいたが、私もアヤメさんもまだまだ元気は有り余っている。キャンプに着いたらすぐ、クルルヤックを探して来てもらうために、私のフクズクを空に放った。
休憩がてら荷物の整理や最終チェックをしているうちに、ターゲットを発見したフクズクが戻って来る。予定通りだ。案内するフクズクの後を追う形で、クルルヤックの居場所へと出発した。
「ちょっと予習して来たよ、クルルヤック。とにかく卵が好きで、ガーグァの巣とかから卵を盗む……あと、鳥竜種なのに、岩とか掴んで投げて来るんだって?あれはどういう事よ。そんな鳥竜種見たことないんだけど」
シュバッ!
宙に放って制止させた翔蟲の鉄蟲糸を辿って跳躍し、ぶら下がる要領で岩と岩の小さな谷間を飛び越えながら、アヤメさんが尋ねてきた。走る以外の移動も、翔蟲の扱いも完璧だ。会話をしながらでも全く調子を落とすことなく、軽やかに岩や段差を飛び越し壁を駆け上がり、空を飛ぶフクズクとそれを追う私にきっちり追随している。こういった基礎も嫌がらずに鍛練して身に付けたり、きちんとクエスト前にターゲットの事を調べて来たりする真面目さこそ、本来のアヤメさんが上位の実力を持ったハンターである事を、一番まじまじと見せつけてくれる部分だ。
「他の鳥竜種と比べて前脚がすごく発達してて、器用なの。直接殴りかかってくる事もあるけど、そこら辺から上手に壺とか岩とか掘り出して来て、それを投げたり叩き付けたりしてくるのが、アヤメさんも言う一番の特徴だね。頭も良いから、持ってる物を上手いこと盾に使う事もあるよ」
「武器にする物は常に持ち運んでるんじゃなくて、必要に応じてその場で調達?それはイメージと違ったな。ふーん」
いつの間にか真剣な顔になって、私の説明を聞きながらふむ、ふむと唸るアヤメさん。きっと、自分が過去に見てきた鳥竜種や道具を利用するモンスターの知識、事前に得られる情報を総動員して、未知なるクルルヤックの姿を想像してるんだろう。プロの顔だ。
「そうそう。そんなクルルヤックの特異な生態を通じて私は、この世の地面という地面には必ずいい感じの壺が埋まっているという大自然の摂理を発見し……むぐっ」
突然アヤメさんに後ろから口を塞がれた。振り返ると『それ以上いけない』みたいな感じの神妙な顔で小さく首を振っている。大自然の摂理とか話を大きくしすぎたからだろうか。
至近距離で向かい合ったことで、アヤメさんが背負っている緑色の武器の端っこが、肩口から覗いているのが視界に入った。その肩口から見て斜め下、アヤメさんの腰辺りに目をやると──
逆さに吊られたミニからくり蛙が、虚ろな目でこっちを見ている
私は膝から崩れ落ち、土下座のような格好になって、今に至るまでずっと堪えていたものを、地面に向かって盛大にぶちまけた。
「ぶわっひゃひゃひゃひゃごめんもうダメ耐えられないヒーうひー」
「もう二週間くらい前からずっと担いでるのに何も言わなかったから、あー見ないフリしてくれてるんだなー大人になったんだなーと思ってたのに」
「今の今まで我慢してた事を誉めてよ、あははははは、うへっ、えほっ」
笑いすぎてえずき、ボロボロ涙を流しながら、一応確認してみる。
「……やっぱり、口から弾が出るの?」
「出た」
「いひひひひゃあはははははは」
またしても地面を抉る勢いで笑い転げた。でも、次の一言で急激に冷静にならざるを得なくなった。
「しかも状態異常弾と回復弾しか撃てなかったよねコレ」
「ちょっと待って出来ればそれ出発する前に聞きたかった。なんで黙ってたの」
「コレについて可能な限り言及を避けたかった」
「分からんでもないけど、大きな問題ほど先送りはしちゃいけないって、ウツシ教官が言ってたよ」
アヤメさんは、悟りを開いた僧のような目で、どこか遠くを見ながら続ける。
「ちなみに回復弾は十発装填で三連速射対応、さらに百竜強化で特別にって最大まで弾丸節約つけてくれた」
「チートじゃん。甘やかされててすっごい羨ましいんだけど、ピーキー過ぎる性能がさらに尖ったね」
「初っ端からあんまり強い武器持たせてアタシが調子に乗らないように、とにかく無事に帰って来られるようにって。……ははっ、ハモンさんたらホント心配性なんだから。参っちゃうよね」
「回復弾は自分には撃てないよ」
「アタシの安全を心から願ってくれる真剣な目を見てたら言い出せなかった」
「強気そうな見た目に反して全然自己主張が出来ない所、私は好きだよアヤメさん」
途中から追って来なくなった私達に痺れを切らしたらしいフクズクがまた戻ってきて、ポッポーと抗議の声で鳴きながら私達の頭上を旋回する。笑いすぎて掠れた声でフクズクに謝り、気を取り直して追跡を再開した。
◇◇◇◇
程なくして私達は、クルルヤックがガーグァの卵を拝借しようとしている現場に到着した。
「あ、いた。あれだよクルルヤック」
「へー、可愛い顔してるね。温厚そうだし」
クルルヤックは大好物の卵に夢中で、私達の存在にはまだ気付いていない。それを察したらしいアヤメさんが、そっと鬼人の粉塵を撒いた。私の身体にモリモリと力が溢れてくる。
「卵さえあればご機嫌だからね、あの子は……でも、卵を扱ってる行商人さんとかからすれば脅威なんだよ。普通の人間があんなのにブン殴られたらひとたまりもないもの」
状態異常弾しか撃たないのに、アヤメさんは何故か鬼人薬グレートをがぶ飲みしながら、こくりと頷いた。
「そりゃそうだ。これも人間とアイツらの縄張り争い。仕方ないね」
更に怪力の種をガリガリ齧り、クルルヤックに気付かれないよう、静かにライトボウガンを構えるアヤメさん。しっかり鍛練してきたと言うだけあり、ちゃんと様になっていてカッコいい。装填弾の種類を確認して引き金にゆっくりとかけた瞬間、アヤメさんが纏う空気が引き締まり、涼やかな漆黒の瞳が“ハンターの目”になった。
「じゃ……久しぶりに、一狩り行きますか」
ドンッ!ドンッ!ドンッ!
ミニからくり蛙の口から徹甲榴弾が射出され、全弾が見事にクルルヤックの頭部へ命中。クルルヤック(と私)が何がなんだか分からないという様子でポカンとした次の瞬間、設置された徹甲榴弾が次々に爆発した。爆風と爆煙が消えると、クルルヤックは目を回して、ピェェピェェと情けない声で鳴きながら地面で蠢いている。そこへ無情に斬裂弾の速射をお見舞いするアヤメさん。もがいているクルルヤックの小さな頭部を正確に花火状態にする腕前には惚れ惚れするが、私には、どうしても気になる事がある。
「初手から何もかもがさっきの話と違うくない?」
目にも留まらぬ速さでリロードと弾種の入れ替えをしながら、平然とアヤメさんが答える。斬裂弾とは違うバチバチッという射撃音がした。
「言わなかったっけ。これ、見た目はカエル、中身は王牙弩【野雷】」
「全くもって初耳だね。てっきりもう私一人で倒さなきゃいけないもんだと思ってたよ」
ようやくクルルヤックがヨレヨレと立ち上がり、私達の存在に気付いた……が、一歩こちらへ踏み出した瞬間、全身を痙攣させながら、またピェェピェェと哀れな悲鳴を上げる。麻痺だ。
「せっかくアタシのリクエスト聞いて、一生懸命考えて作ってくれたのにさ、いきなり別のライト持ってたらハモンさん凹むでしょ」
すかさずまた弾を切り替え、頭部から上半身にかけてを微塵切りにする勢いで斬裂弾を撃ち込みまくる。
「だから……えーと、よし。まだ余裕」
斬裂弾の炸裂が続いている間に、徹甲榴弾の調合と残数確認。これまた一切モタつかない流れるような手付き。相当練習したんだろうなぁ。
「ナカゴくんに無理言ってやってもらった」
麻痺が切れる寸前で数え切れないほどの徹甲榴弾をブチ込まれたクルルヤックは、麻痺から解放されるや否や、また頭を花火にして昏倒してしまった。さらに降り注ぐ斬裂弾の雨。クルルヤックの頭部を彩る鮮やかな飾り羽が、ボロキレのように辺りへ飛び散った。
「ズルーい!私もやりたい!ニンジャソードみんな持ってるからイヤだなって思ってたの!見た目だけねこぱんちにする!」
「会心100%に踊らされた数字厨が脳死で飛び付く没個性代表武器ー。やーいやーい」
「復帰早々ジンオウガのライトに堕ちた人間が言っていい台詞じゃないと思うの」
麻痺弾を調合し、フラフラと立ち上がろうとするクルルヤックに容赦なく浴びせかけるアヤメさん。長いブランクを全く感じさせない的確な判断。素晴らしい。
「あの体格ならもっかい行ける……?……あ、入った」
アヤメさんの読み通り、クルルヤックは状態異常への耐性が低い。ようやく起き上がって二歩ほど歩いた所で、また麻痺してしまった。更にこれでもかと言わんばかりに斬裂弾で全身を切り刻まれ、多分もう心も恐怖でズタズタに切り刻まれてしまったのであろうクルルヤックは、麻痺から解放されるなり、クゥクゥと小さな悲鳴を上げながら脚を引きずって、私達の傍らを抜けて逃げ出そうとする。
「あとちょっとか」
完全に戦意を喪失しているクルルヤックをなおも襲う無慈悲な斬裂弾の嵐は、敗走する事さえ許さない。ついに断末魔の悲鳴を上げて、クルルヤックはバッタリと地面に倒れ伏した。討伐完了。
「……」
「ふう。今日の為に大分鍛練したつもりだったけど、やっぱり実戦でいきなり百発百中とはいかないね。……ま、それもこれからだな」
狙いを外れた弾が周辺の草木や地面を抉った跡を見回しながら、それでも上々といった様子でライトボウガンを背中のホルダーに収めるアヤメさん。無駄口を叩いただけで結局一度も抜刀することすらなかった私をくるりと振り返り、ちょっと不満そうな顔で言う。
「ところで……岩掘って投げるって話はどこ行った?見てみたかったのに」
「あの子初期位置から四歩しか歩いてないし、ちょっと難しかったんじゃないかな」
◇◇◇◇
倒したモンスターの素材を剥ぎ取って有効活用するのは、命を奪った相手への最低限の礼儀だと教官から教わった。私は目を奪われてただけで命は奪ってないけど、その教えに従い、アヤメさんと並んでせっせと剥ぎ取り作業に勤しむ。
「ねえ、加工屋のメニューにない外装変更、どうやって頼んだかまだ聞いてない」
手は動かすが口は暇なので、気になっていた事を改めて尋ねてみた。武器の性能を変えずに見た目だけをカスタムする外装変更は、百竜武器という特殊な分類の物でしか出来ないと聞いている。アヤメさんのからくり蛙は百竜武器ではないし、王牙弩をカエルにすることも出来ないはずだ。
私に問われたアヤメさんは、一度も地面を掘ることなくその役目を終えたクルルヤックの前肢から丁寧に爪を取り外しつつ、意味深に頭を巡らせながら答えた。
「どうやって……うーん、アンタでもいけるかなぁ。大丈夫だと思うけど、保証はできないかも」
「英雄だから金ならあるよ?」
「やらしいよ言い方が」
ペンッと頭をはたかれた。呆れたような顔で私をチラ見してから、剥ぎ取り作業に戻りながらアヤメさんが語り出す。
「まず、退勤後のナカゴくんに、集会所でお酒をたらふく飲ませる」
「うん」
「ある程度酔っ払ったらナカゴくんは大体『二階の準備エリアで仮眠する』って言い出す」
「うん」
「それについて行くと、三日後の夕方くらいには頼んだ物が出来上がる」
「……」
「『えへへ……お代は十分過ぎるくらい貰っちゃいましたから……』って言わせたら勝ち。お金は取られない」
「やらしいのはどっちよ、ホント聞かなきゃ良かった最悪」
「療養期間中にだいぶ貯金減ったから正直助かってる」
「お願いもうそれ以上喋らないで」
私は可哀想なクルルヤックの亡骸にすがり付いて慟哭した。もう明日から集会所の二階に普通の顔して上がれない。ナカゴさんを見たら脊髄反射で消臭玉を投げつけてしまう自信がある。
◇◇◇◇
アヤメさんは華々しくハンターとしての復活を遂げたけれど、アヤメさんと一緒に狩りが出来るとはしゃぎまくっていたのにボケッと突っ立っているだけで終わってしまった私は、不完全燃焼どころの話ではない。『私もアヤメさんにカッコいい所見せたい』と三歳児のように駄々をこね泣きわめき地面を転げ回って、じゃあもう一体狩ろうと言わせることに成功した。
一旦キャンプに戻り、偵察に送っていたフクズクを呼び戻して作戦会議。山頂でアケノシルムがえらく暴れているらしい。おそらく別のクエストで討伐依頼が出ていた個体だ。それならメインターゲットのついでに狩って帰っても多分怒られない。アヤメさんはアケノシルムも見たことがないそうで、それならばと乗り気になってくれた。決まりだ。
意気揚々とキャンプ横の小川を滑り降りて、下の草っぱらへ元気に飛び出す。二人揃って華麗に着地し、さて散策でもしながら山を目指そうかと歩を進め始めた瞬間、アヤメさんの足元にボトリと、湯気を立てる黒い物体が降ってきた。
「……う○こ?」
「女の子がそんな言葉使うんじゃありません!!」
目をパチクリさせているアヤメさんを、ヤケクソで小脇に担いで飛び退いた。刹那、周辺にもばら蒔かれていた無数の黒い落下物が次から次に爆発する。近くにいたブンブジナ達も巻き込まれて爆発四散し、穏やかだった草原は一瞬で地獄絵図と化した。
続いて、耳をつんざくような恐ろしい咆哮。堪らず耳を塞いだ私達の頭上で、巨大な影が太陽の光を遮る。目の前に着地したその影の正体を確認し、私は改めて真っ青になった。
「爆鱗竜バゼルギウス!?あんな奴がうろついてるなんて情報なかったのに……!」
「へぇ、あれが。名前は聞いた事あったけど、空飛ぶぼんち揚とは。これだから大自然ってやつはよもやよもやだ」
「思い付いた事テキトーに詰め込んで喋るのやめようよ、小出しにして小出しに」
バゼルギウスが高空から爆撃を行うのは、獲物を焼き殺して食う為だ。歯を剥き出しにしてこちらを睨むバゼルギウスの顔は、その“獲物”が私達であることを表している。少しでも隙を見せれば食い殺してやると言わんばかりに燃え滾るバゼルギウスと睨み合いながら、私はライトボウガンを手にして身構えるアヤメさんを制した。
「アイツはリハビリでやるには危険すぎる。一旦退こう、アヤメさん」
「もうヤル気になってるアレに、背中見せる方が危ないと思うけど。それに、退避するにもサブキャンプは遠すぎる、メインキャンプは近すぎる。キャンプまで追って来られて場所を覚えられたら、今後の狩りにも支障が出るよ」
「っ……でも……!」
「いいじゃない、やろうよ。アンタはアタシにカッコ良い所を見せる、アタシは下がって後方支援。それならどう?」
バゼルギウスから視線を外せないので顔は見えないが、アヤメさんの声色からは、落ち着きの中にも命懸けの狩りを前にした緊張と昂りが感じられる。敵に負けず劣らず、すっかりヤル気だ。
でも、言っている事は間違っていなかった。幾度もの死線と長い地獄を乗り越えて来た上位ハンターの貫禄。それを侮って冷静さを失っていたのは私の方だったのかもしれない。きっとアヤメさんは危険な賭けであることも承知の上で、私なら大丈夫だと信じて『やろう』と言ってくれたのだ。だったら応えなければ、猛き炎の名が廃る。
自分で自分の頬を一発張り飛ばし、迷いを捨てた。それを合図に私は前へ、アヤメさんは翔蟲を飛ばして扇回移動で後方へ。ウツシ教官が考案したばかりで、まだ他の地域では知られてもいないその鉄蟲糸技を、もうすっかり自分のものにしているアヤメさん。ブランク明け早々に『追い抜いてやる』と宣言してくるだけの事はある。腑抜けていたら本当にすぐ追い付かれてしまいそうだ。心に火がついた。カッコ良い所、見せてや──
「るうっ」
めちゃくちゃに気合いを入れて猛然とダッシュしようとしたら、背後から飛んで来た徹甲榴弾に怯まされてよろけた。
「あ、ひるみ軽減つけてないんだったら気を付けてね。こっちも当てない努力はするけど」
「……」
気を取り直して一気に接近する。頭に徹甲榴弾を山ほど刺したまま、バゼルギウスが大きく息を吸った。またあの咆哮が来る。この機を攻撃に転じるための新技を披露する時だ。いくぞ、滅・昇龍──
「擊!!」
スカッ。既にバゼルギウスはそこにいなかった。
虚しく空を切った盾の向こうには、フォォォ、フォォォと情けない声を上げながら気絶してジタバタもがいているバゼルギウスの姿が。
「……」
着地して振り返ると、アヤメさんが遠くで力強くサムズアップをしている。スタンを取ってもらったのだからラッシュをかけなければとバゼルギウスの方に向き直ったら、余った徹甲榴弾がやたらめったら爆発していて一寸先も見えない。ここはどこだ私は誰だ、頭はどこ行ったと狼狽えていたら斬裂弾が飛んで来て、私はまた千鳥足になった。
「あうっ、あうっ」
「ごめーん、遠いから細かい所まで見えなくてー」
斬裂弾にメタメタにされたバゼルギウスが、顔を真っ赤にするどころか全身を真っ赤にして立ち上がった。赤熱化。いよいよ怒り心頭で本気を出す時の変化だ。
スタンはアヤメさんが取ってくれるだろうからもういい。怒りに燃える咆哮をカッコ良くバクステで避けて──食らえ、ジャストラッ
シュ。バックステップから勢いよく踏み込んで放ったジャストラッシュの初擊は、またしても虚空を斬った。頭部に斬裂弾の束を食らったバゼルギウスは咆哮する前にもんどり打ってダウンし、またフォォォ、フォォォと泣き叫んでいる。
「キイィィ!!」
泣きたいのはこっちだと盾でブン殴って八つ当たりしていたら、斬裂弾でまた撃たれた。
「あうっ、あううっ」
私がヨロヨロしている間に、今度はバゼルギウスが麻痺した。足掻くことすらさせてもらえないバゼルギウスに撃ち込まれ続ける斬裂弾。私の剣より斬裂弾の方がずっと沢山斬っている。悔しすぎるだろこちとら手数がウリぞ。腹が立ってきたので全身に力を込められるだけ込めて、スーパーアーマーを纏った渾身のジャストラッシュを、今度こそきちんと最初から最後まで決め切った。
「どやァ!!」
なおも斬裂弾の斬擊が炸裂しまくる渦中から振り返ると、なぜかアヤメさんは扇回移動でスイーッと離れていく所だった。ハッとしたけれど振り返る間もなく、怒り狂ってアヤメさんに突撃しようと突っ込んできたバゼルギウスに轢かれ、無様にベシャッとこける私。
そんな私に足を取られて、バゼルギウスも再びダウンした。降り注ぐ斬裂弾、斬裂弾斬裂弾斬裂弾
「おーい。罠置いてくれるー?」
「あっハイ」
言われてほとんど条件反射的に落とし穴を設置した私の鼻先を、捕獲用麻酔弾がかすめていく。直後、立ち上がろうとしたバゼルギウスは落とし穴に墜落し、安らかに寝息を立て始めた。
「……」
「よし、捕獲完了。危険だって言ってたから、早く終わる方がいいかなと思って。怪我はない?」
アヤメさんの判断は正しい。そこに異論はない。
「……ない」
「ん、良かった」
「つまんない」
「え?」
言っちゃった。
「やーーだーー!!つーまーんなぁぁーーい!!」
私は五体投地で癇癪を起こした。
「また私なんっっにもしてないのにもう終わりってどーいう事!!三分よ三分!?協力プレイって何!?狩りとは!?躍動もクソもあったもんじゃなくない!?解き放ち損ねた私の狩猟魂はどうしてくれるの!?」
「ダウン中にはちゃんと攻撃してくれてたじゃない。カッコ良かったよ」
「どーーせ斬裂弾の炸裂エフェクトで何も見えてなかったに決まってる!!そうでしょ!?私知ってるんだから!!」
「そんな事ないって、見てた見てた」
「……じゃああの時私が何してたか言ってみてよ」
「斬り下ろしからの旋刈り」
「見てないじゃん!!」
◇◇◇◇
──その後、カムラの猛き炎は剣を捨て、目につくもの全てを膾切りにする非情のガンナーとなった。
おしまい
感想などはこちらでも受け付けております
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質問箱ですが質問じゃなくても全然OK
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◇◇◇◇
タイトルは「ヤツらへの抵抗」、themは効率厨をイメージしました
作者自身はTAとは無縁のおふざけハンターですが、ジンオウガライトには大変お世話になっております