王都へと向かう途中に出会った貴族令嬢のスゥシィ。そんな彼女の家であるオルトリンデ公爵家を訪れた俺たちは、過去の大病で視力を失っていたスゥの母親であるエレン夫人の目を、リカバリーという無属性魔法で治療する事に。治療は無事に終了。報酬を貰い、公爵とも身辺警護の依頼を交わした。王都での用事も済ませた俺たちは、リフレットに戻るため、王都を出立したのだった。
~~~~~~
王都を出てから数時間後。俺たちは既にリフレットの町の近郊まで来ていた。行きは数日かかった道のりをなぜこれだけ早く帰ってこれたのか。その理由は単純に、俺が『ゲート』という移動用の無属性魔法を使ったからだ。これは、離れた地点同士をつなぐ、文字通り光のゲートを作り出す魔法だ。明確なイメージが出来る、つまり一度訪れた事がある場所であれば、簡単に、瞬時に移動できる使い勝手のいい魔法だ。
そして実験は見事に成功。数日かかる帰りの道を大幅に短縮出来た。流石にリフレットに近すぎると誰かに見られる恐れがあるので自重したが。今はリフレットから数キロの所をのんびり馬車に揺られている。
「しかし、スネーク殿は凄いでござるなぁ。あらゆる魔法に驚異的な武具、加えて医学の知識に屈強な配下まで従えているとは」
「無駄に歳は食ってない、と言った所だ」
馬車の運転席に座り手綱を握る。後ろの席に座るエルゼ、リンゼ、八重の3人。
「それにしても、スネークの部下の人たちを残してリフレットに戻っちゃって良いの?」
「あぁ問題ない」
後ろから聞こえる心配するようなエルゼの言葉に振り返らずに頷く。
「あいつらには公爵一家の護衛という明確な指示を伝えてあるし、万が一戦闘になったとしても問題ない程度には銃火器などの物資を既に邸宅に運び込んである。幸い公爵が屋敷の一角を使って良いと言ってくれたおかげで、待機する場所にも困らん」
「しかし大丈夫なのでござるか?聞くところによると、暗殺の黒幕は不明なまま、なのでござろう?」
八重の心配そうな声が聞こえてくる。
「確かに黒幕が分かっていないのは気がかりだが、流石に黒幕もバカではないだろう。短期間に動き過ぎれば、周囲からの目に晒される危険がある。計画の一つが失敗したからと焦って動けば、その分ボロも出やすい。そして結果的にボロを出す奴なら、策略家としては三流以下だな」
「じゃあ、今すぐは動かないって事?」
「恐らくな。だが俺の予測が当たるとは限らない。黒幕の目的が見えない以上、断言は出来ん。一応、今回呼び寄せた連中は要人警護や施設防衛のための警備などの経験がある奴らだから大丈夫だとは思うが。まぁ、いざとなればまた俺が動く」
「そう。まぁ、いざとなったら声をかけなさいよ?私達も協力するからさっ」
「うん、そうだねお姉ちゃん」
「無論、拙者もでござるっ!」
「ふっ、頼もしいな」
彼女達の言葉にそんな返事を返しながら、前方を見やる。
「見えて来たぞ、リフレットの町だ」
こうして、俺たちはリフレットの町へと帰還した。
~~~~~~
俺たちがリフレットの町に戻ってから2週間ほどが経過した。リフレットに戻った俺たちは、まず八重の冒険者登録を済ませ、タイガーベア、簡単に言うと縞柄の熊の討伐などの依頼をこなしていった。他にも、パレントで仕事をしていたマリーの元に顔を出したり、ここ数日は雨続きで、リンゼ達が退屈していたので、仲間の提案で将棋やらチェス、リバーシやトランプと言った物を、俺が新しく覚えた無属性魔法である『モデリング』で作ったり、暇つぶしでダイヤモンドドッグズの技術班が作った物を周りの連中に与えたりしていた。
そんなある日。ここ連日雨が続いていて、エルゼやリンゼ、八重は依頼を受けずにのんびり過ごしている。幸い公爵より頂いた金があるから、今すぐ働く必要は無い。とは言え、此の雨程度で依頼を休むとはな。俺は3人に一言だけ言うと、ギルドで簡単な薬草採取の依頼を受けた。
支援物資でレインコートを輸送してもらい、それを纏って森へ。薬草採取など簡単な依頼だが、それでもここは俺たちの居た地球とは違う。この薬草が何か新しい物を生み出すきっかけになるかもしれない。元衛生兵として、その辺りはやはり気にもなる。
その後、何事もなく薬草を採取しギルドに提出。雨天なので空いていた事もあり、すぐに報酬を受け取り銀月へと戻った。店の入り口でレインコートを脱ぎ、水気を払ってから畳んで中へ入る。
「あら、おかえりなさい」
「あぁただいま」
中に入るとカウンターで暇そうにしていたミカが居て迎えてくれた。それに答えつつ、周囲を見回す。周囲にエルゼたちの姿は無い。
「エルゼたちは?部屋にいるのか?」
「え~っと。リンゼちゃんは部屋だけど、エルゼちゃんと八重ちゃんは出かけてるわよ」
「そうか」
出かけている?買い物か何かだろうか?さっきギルドでは遭遇しなかったから、依頼を受けている可能性は低いと思うが。
と、そんな事を考えていると……。
「ただいま~。濡れたわ~」
「ただいまでござる~」
俺に少し遅れて、傘を差したエルゼと八重が戻って来た。
「あっ、スネークも戻ってたのね、おかえり」
「あぁ。そちらも今戻って来た所か。買い物か?」
「えぇ。パレントの新作をね」
そう言ってエルゼが手にしていた袋を掲げて見せる。そうだったのか。
確かにパレントはマリーの協力もあって最近新作を発売し、爆発的な人気を集めていた。それを買ってきたという訳か。
「おかえり2人とも。ちゃんと買えた?」
「もちろん。雨のおかげでお客さんも少なくて助かったわ」
「美味かったでござる」
成程、店で食して更に土産として買ってきたという訳か。
「はいこれ、ミカさんの分」
「どうも~♪お金は後で払うからね」
エルゼから袋を一つ受け取るミカ。しかし……。
「随分買って来たな。まさかお前たちで残りを食う気か?」
エルゼと八重が手にしていた袋はまだある。一つはリンゼへの土産だとしても、まだ袋は2つある。
「違うわよ。一つはリンゼのお土産。一つは私達の。最後の一つは公爵様へのお土産よ」
成程、公爵への。
「って事で、はい」
エルゼはそう言って俺に袋の一つを差し出す。最初はなぜ?と思ったがすぐに察して苦笑を浮かべた。
「俺にゲートで届けてこい、という事か?」
「えぇ。お願いね?」
そう言ってにっこりと笑みを浮かべるエルゼ。全くこいつと来たら。ちなみに、一緒にどうだ?と誘ったら恐れ多いから、と辞退されてしまった。
やれやれ仕方ない。あぁそうだ。確かまだ将棋の予備とかあったな。将棋は、銀月の店主、つまりミカの父である『ドラン』や町の武具屋の店主『バラル』が嵌っており暇を見ては2人で対局している。また誰かが欲しくなった時ように、と作っていた物があったし、折角だ。土産は多い方が良いだろうから、持っていくか。スゥ用には、リバーシが良いか?
~~~~~~
という事で、俺はパレントの新作の『ロールケーキ』と将棋などの土産を手に公爵家に向かった。幸い、俺の事は周辺を警備する兵にも伝わっているのか、軽いボディチェックを受けただけで内部へ通された。
スゥもこの連日の雨で暇を持て余していたようで、俺が土産を持ってきたと伝えると、大層喜んでいた。
「うまぁ♪これうまぁ♪」
ロールケーキを美味しそうに頬張るスゥ。
「もう、はしたないですよスゥ。でも、ホントにおいしいわ。このロールケーキと言うの」
その隣で美味しそうにロールケーキを食す夫人。
「エレン夫人。その後目の様子はいかがかな?」
「はい。これと言った異常もありません。スネークさんの提言のおかげで、夫や周囲の者たちも事あるごとに心配してくれているので、助かっています」
「そうか。とにかく、異常があれば即座に公爵様か、俺の部下に声をかけてくれ」
「えぇ。分かりました」
と、そんなことを話していると、2人より先にロールケーキを食し終えた公爵が俺の持ってきたものに目を向けた。
「そう言えばスネーク殿。そちらのお土産は一体?」
「あぁ。これは俺たちの世界の遊具みたいなものだ。この連日の雨で暇だろうと思ってな」
「ほう?それは一体?」
俺は興味を持った公爵たちに将棋とリバーシの説明をし、軽くやってみた。スゥとエレン夫人はリバーシをやっていて、俺は公爵と将棋を指した。
「もう一回ッ!もう一回だけっ!」
「悪いが今日はここまでだ」
公爵様の相手を何回もする羽目になった。流石にもう日も傾いているので、ルールを紙に書いて、控えていたレイムに手渡し、同じ初心者同士、レイムか他の者に相手してもらえ、と言って少々強引に屋敷を後にした。
やれやれ。あの嵌りようからして、リフレットにはそこまで娯楽が無いように思えるな。そして屋敷を去る時。
「お疲れ様です、ボス」
「大変でしたね、公爵様の相手」
屋敷の警備に参加していた部下たちが苦笑交じりに声をかけて来た。こいつらはスゥ達の護衛を務めているので、さっきは部屋の隅で待機していて、俺が何度も勝負を挑まれる所を見ていたのだ。
「全くだ。まさかここまで時間をかけられるとはな」
正直、予想外だった。……だが、折角だ。
「お前たち」
「「はっ」」
俺の言葉が真剣みを帯びると、傍にいた二人が姿勢を正す。
「この数日はどうだ?怪しい人物などは見かけていないか?」
「自分たちは目撃しておりません。ここ数日は雨続きでスゥシィ嬢もエレン夫人も外出されておりませんので」
「また、屋敷の周辺で怪しい人物の目撃例もありません」
「そうか。……分かった、お前たちは引き続き警戒を頼む。スゥの一件が失敗したから、と言って諦める奴かどうかも分からんからな」
「「了解ッ」」
「ではな。何かあればiDROIDで連絡をくれ。すぐに駆け付ける」
「「はっ!お気をつけて!」」
「あぁ」
俺は2人が戻って行くのを確認すると、屋敷を出た。あぁ、雨はすっかり上がっているな。
晴れた空を見上げながら、ゲートを開きリフレットへと戻るのだった。
~~~~~~
それから数日後。
「下がれ八重ッ!」
「承知ッ!」
今、俺と八重は首の無い黒い甲冑の化け物、デュラハンと対峙していた。デュラハンの大剣と刀で切り結んでいた八重が後ろへと飛ぶ。そしてデュラハンを、アサルトライフルの『UN アルク自動小銃』で撃つ。アームズマテリアスの5.56ミリより口径の大きい7.62ミリを放つこのアルク自動小銃。
弾薬が大きい分反動も大きいがそれに比例して威力も大きい。無数の銃弾がデュラハンの胴体に風穴を開け、デュラハンは大剣を盾にして銃弾を防ぐが、無意味だ。大剣で防ぎきれていない、片足。その膝目がけて、残弾を叩き込む。
銃弾が片足の膝に殺到し、デュラハンが気づいて防御しようとしたが、遅い。中身の無いデュラハンの鎧を、銃弾が前後に貫く。穴が開けば当然強度が足りなくなる。そして穴だらけの膝はついにデュラハンの体重を支えられず折れた。膝が折れ、デュラハンの巨体が地に倒れ伏す。
よしっ!追撃するっ!スリングベルトでアルク自動小銃を体に下げる。
「八重ッ!距離を取って遮蔽物の影に入れっ!手榴弾ッ!リザードマンの時の奴を使うっ!」
「ッ!?は、はいっ!」
八重は慌てた様子で遮蔽物に飛び込むっ!
「絶対に頭を出すなよっ!」
そう叫びながらポーチより取り出したグレネードのピンを抜いてデュラハンの元に投げつけた。直後、俺も遮蔽物の影に飛び込む。そして爆発音が響いた。
すぐさまアルク自動小銃を構えながら、遮蔽物より半身を晒す。見ると、デュラハンの大剣には大きな罅が入り、左腕も肩口の辺りから吹き飛んでいた。今が好機かっ!
すぐさま残っていたアルク自動小銃の残弾をデュラハンに叩き込む。残った腕で何とか大剣を掲げて防ぐ。が、それもすぐに限界がやってきた。『バギンッ』と音を立てて大剣が中ほどから砕ける。そして、盾を失ったデュラハンの体をいくつもの7.62ミリの銃弾が貫通していく。開いた銃創から瘴気が吹き出し流れていく。まるで、全身から血を流すように。更に俺が残弾全てを叩き込んだ直後。
「はぁぁぁぁぁっ!!!」
俺の攻撃の対応に集中していたデュラハン。その隙に側面に回り込んだ八重の一刀が残っていた右腕も切り落とした。もはや両腕と片足を失ったデュラハンはその場に倒れ伏すしか出来なかった。
「トドメッ!!」
そして、返す刀で繰り出された一撃、逆手持ちにされた八重の刀が、デュラハンの胸部を貫いた。八重が刀を抜いて後ろに飛びのいた直後、胸部の穴から一層瘴気が吹き出す。そしてデュラハンの体である鎧がしばし震えた直後、デュラハンは動かなくなった。
八重は刀を構えたまま動かない。俺もそんな彼女の傍に近づく。もちろん既にリロードしたアルク自動小銃を構えたままだ。
「……動きませんね?」
「確認する。援護を頼む」
「承知」
短いやり取りの後、俺は最近アップグレードを施した、サプレッサーとフラッシュライト装備のハンドガン、AM D114に持ち替え、近距離まで近づいてから1発、2発と弾を打ち込んでみる。が、反応は無い。次いで、更に近づいて鎧の中を覗き込む。内部は空だ。瘴気も残っていない。
「どうでござるか?」
「内部に瘴気が残っていない。デュラハンと戦った経験が無いので断言は出来んが、恐らく大丈夫だろう。念のため警戒しつつ下がるぞ」
「はいっ」
念のためにD114と刀を構えたまま俺たちは下がり、距離を取った所でようやく構えを解いて息をついた。
「お~いっ!スネーク~!」
エルゼとリンゼが戻って来た。エルゼの声が聞こえ振り返ると、2人がこちらに向かって歩いて来た。
「2人か。どうだった?一角狼の群れは?」
「何とか片付けたわ。最初の攻撃でスネークが半分近く倒してくれたから何とかなったけど」
「大変でしたぁ」
2人とも、怪我をした様子はないがかなり疲れた様子だ。
俺たち4人は今日、依頼で旧王都に来ていた。ここは1000年前の遷都ののちに放棄されたベルファストの旧王都で、今は僅かに残った瓦礫が王都の残骸として残るばかりだ。人も残っておらず、しかしそれ故に獣や魔物が住み着きやすい。俺たちはそれを間引くための依頼としてここにやってきた、という訳だ。
「ゲートもあるから、帰りの時間は問題ない。少し休んでいくか?」
改めて2人と八重を見るが、3人ともかなり疲れている様子だ。俺も、正直息が上がりつつある。それを整えたかった。
「賛成~」
「拙者も疲れたでござる~」
「私も同じく、です」
エルゼが真っ先に同意し、八重とリンゼも頷く。
「決まりだな」
俺たちは少しこの場で休憩をしてから、リフレットへ戻る事とした。三者三葉で、適当な瓦礫に腰かける。
「それにしても、前の王都って言う割には何もないわね、ここ」
「1000年も昔の話だからな。人一人が100年生きたとしても、10回は世代交代する程の時間だ。建物が残っていても、補修する人間も居ないだろう。そうなれば四六時中雨風に晒される事になる。そうなれば時の流れと共に朽ちていくだけだ」
「……時の流れ、というのは残酷でござるなぁ。ここにもかつて王城があったと言われても、その影も形もないでござる。今はこうして瓦礫が残り、僅かに人々が生きていた名残を残すばかり」
八重の言葉を聞きながら、周囲を見回す。周りにあるのは、彼女の言葉通り、壊れて崩れ落ち、今は蔦やコケに覆われた城壁や壁、柱ばかりだ。
「あ~~あ、どうせならお宝とか無いのかしら?」
「それは難しいでござろう。戦争によって滅んだ訳ではなく、遷都したのでござるから。恐らくそう言った類の物はその時持ち出されているはずでござるよ」
「まぁ、そうよねぇ」
エルゼと八重のやり取りを聞きながら、周囲を見回していた。
と、その時だった。
『ピピピッ!!』
「ん?」
不意に耳のインカムに届いたマザーベースからの通信音。
「すまん。仲間から連絡が来た。少し待ってくれ」
エルゼたちに一言伝えた後、すぐさまスイッチを操作し、通信に答える。
「こちらスネーク、どうした?」
『失礼しますボス。今は大丈夫ですか?』
「あぁ大丈夫だ。何か用か?」
『はい。実は、ボスが依頼を受ける、という事でベルファストの旧王都に行っている、という事は聞いていたのですが、今念のために旧王都の情報を精査していて気になる部分がありまして。念のためにとご連絡させていただきました』
「ん?なんだ?」
何やら穏やかな報告、という訳ではなさそうだな。内心そう零しながらオペレーターの言葉を待つ。
『元々各地の地理状況などを確認するために、諜報班内部で編成された調査班が各地を巡っているのですが、その旧王都での調査の際、地下から微弱な未確認の反応を検知しておりまして』
「何?地下からの微弱な反応だと?」
『はい。ただ、とても微弱な事に加えて、音波探査の結果地下通路が埋没している事や生物的反応が一切見られなかった事から、何かしらのエネルギーが滞留した構造物が、地下に残されている、と判断したようで。それも微弱だった事から危険性は無いだろうと判断しボスまで報告が上がらなかったようです。私は念のため気になったので報告させていただいたのですが、どうですか?そちらの様子は?』
「いや。何もおかしな所は無い」
『そうですか。どうやら自分の杞憂のようです。失礼しました』
「いや良い。よく報告してくれた。ではな」
『はい、通信終了します』
その言葉を最後に通信が切れた。しかし、地下に未確認のエネルギー、か。
「スネークさん?今のお話は、一体?」
と、その時。リンゼがこちらに問いかけて来た。見ると彼女だけでなく他の二人も通信の内容に興味がある、と言わんばかりだ。
「あぁ。少しな。実は以前、俺の部下がこの辺りを調べたんだが、その際地下に微弱な『何か』の反応を捉えたそうだ」
「反応?もしかして、魔物ですか?」
「いや。生物的な反応は無かったそうだ」
少し心配そうなリンゼを宥めるために、そう言って首を横に振る。
「調べた連中の見解では、地下に何か、エネルギーを発する物体が残置、つまり取り残されているだけじゃないか、との事だ。実際、エネルギーと言ってもかなり微弱だったそうだ」
「でもそれって、確実に『何か』はある、って事よね?」
「ん?」
ふと聞こえた声の方に視線を向けると、何やら笑みを浮かべるエルゼが。
「1000年前の古の都に、謎の物体ッ!拙者気になるでござるっ!」
更に八重まで好奇心で目を輝かせている。おいおいまさか?と思いつつリンゼに視線を向けるが……。
「探しましょう、スネークさん……!」
リンゼ、君もか。
「ハァ。しょうがない。ちょっと待っていろ」
その後結局、俺はマザーベースに折り返しで通信を行い、その調査データを送信してもらうハメになった。
~~~~~~
データを受け取った俺は、iDROIDに地中のデータなどを表示。その地中へ続く扉は瓦礫で塞がっていたが、それをリンゼの魔法で吹き飛ばし、瓦礫を撤去した下から出て来た、謎の扉をくぐって俺たちは地下へと降りて行った。
「≪光よ来たれ、小さき照明、『ライト』≫」
リンゼが光魔法で光を放つ光球を生み出し、俺もD114のフラッシュライトのスイッチを入れた。
「よし。前衛は俺が務める。エルゼと八重はライトを使っているリンゼの護衛をしながら俺の後ろに続け」
「はいっ」
「わ、分かったわ」
「了解したでござる」
心なしか、エルゼ、それに八重が怯えているように見える。こういった暗い所は苦手なのだろうか?まぁ無理もないが。
「よし、行くぞ。離れるなよ」
俺が戦闘でD114を構えながら歩き出した。周辺を照らし、頭上も照らす。古い通路だ。崩落の可能性も0ではないだろう。その辺りも気を付けなければ。
そうやって進んでいた先で……。
「ッ!これは……ッ!」
「な、なになにっ!?なんかあったのっ!?」
思わず声が出てしまった。それに、背後にいたエルゼが反応する。
「壁を見てみろ、壁画のようだ」
「「「えっ!?」」」
俺の言葉を聞いた3人が、正面に現れた壁を見上げる。そこには、独特なレリーフが彫られた壁画があった。
「なに、これ?」
「一体全体、なんでござるか、これはぁ」
古い王都の地下の、異様な雰囲気の壁画にエルゼと八重は少し怯えていた。
「誰か、あの壁の文字らしきものを読めるか?」
「う~ん。……ごめんなさい、私にはさっぱり。古代魔法言語とも違うみたいですし」
「わ、私も」
「拙者もでござる。スネーク殿は、どうでござる?」
「……俺も読めんな。少なくとも、俺の知る言語でこんな文字を使っている物は無い」
ハングル文字やアラビア語などとも違う、独特な形状だ。いや、そもそも文字なのか?それすらも怪しくなってきたな。……念のため、データを取っておくか。
「全員少し下がってくれ。こいつに情報を覚えさせる」
そういってiDROIDを取り出す。
「そ、それで情報を覚える事なんて、出来るんですか?」
「あぁ。こいつには、カメラという機能があってな。早い話、一瞬の風景を絵のように保存する事が出来る」
「「「へ~~」」」
3人娘の声が被る中、俺はiDROIDを構え、写真を撮る。これは神様のじいさんが後付けで追加してくれた機能だ。だが情報の保存という意味では助かる。そしていくつかの写真を撮っていると……。
「あっ。ねぇみんなっ。ちょっとこっち来てっ!」
「ん?どうした?」
エルゼが何か見つけたか?すぐさま俺たち3人が彼女の元に歩み寄る。
「ねぇ見て、ここ。何かここに埋まってるみたいなの」
「何?」
エルゼが指さす先を見つめる。……確かに、僅かだが土壁とは色の違う何かが埋め込まれていた。
「こいつは、まさか土属性の魔石か?」
「はい。私もそうだと思います」
思わず言葉を口にすると、リンゼがそれに同意した。
「しかし、なぜこのような壁の中に魔石が?」
「何かのスイッチとかじゃない?罠のスイッチ、にしてはあからさま過ぎるし」
八重とエルゼも魔石を見つめながら言葉を交わしている。しかし、何かしらのスイッチ、か。
「エルゼ、リンゼ、八重。念のため下がってくれ。試しに俺が魔力を流し込んでみる」
「ッ、大丈夫ですか?危険は?」
「無い。とは言い切れんな。確かに今エルゼが口にした通り、罠のスイッチとしてはあからさま過ぎるが、その考えの裏を呼んだ、本当に罠のスイッチの可能性もある」
リンゼの言葉に、ひとまず自分の予測を話す。無論、罠ではない可能性もあるが、如何せん確証は得られん。ならば、用心するに越したことは無い。
「だから念のためだ。3人は離れてくれ」
「わ、分かったわ」
エルゼの言葉に八重とリンゼも頷き、3人は少し離れた場所で待機する。
「行くぞ」
右手にD114を持ったまま、左手で魔石に触れ、魔力を流し込んでみる。すぐさま壁から離れ周囲の様子を伺う。と、その時。ズズズズッ、という振動と共に件の文字が刻まれていた壁が砂と化して崩れ落ちた。
「か、壁がっ!」
「崩れ、いや、これは意図的に砂になったのでござるか……ッ!?」
突然のことに戸惑うエルゼたち。しかしやがて揺れも収まり、僅かな砂煙だけが洞窟の中を漂う。少し間をおいてから、慎重に洞窟の奥へとライトを向ける。……どうやら開いた穴から怪物が飛び出してくる、なんてホラー映画のような展開は無さそうだ。
「これって、扉だったのかな?」
「だとしたら随分ワイルドな開け方よねぇ」
エルゼとリンゼのやり取りが聞こえる。が、『扉』、か。正直その表現には違和感を覚える。むしろ俺には、緊急時に通路を閉鎖する、緊急用のシャッター、その逆のように思えた。詰まる所、あのスイッチは緊急時の解放スイッチだったのではないか?そう思えて仕方ない。現に壁は砂となって消え、再生する様子はない。開ける度に新しい扉を付け替えるなど、コストがどれだけ掛かるか。
だが、ここで一つ疑問が生まれる。あの扉を解放したとして次はどうする?外から開ける、となると中にある『何か』を迅速に運び出すため、と考えるのが自然だが……。
入口の前に立ち、奥にD114のライトを向ける。
「ん?」
その時、通路の先で何かが一瞬、反射したような気がした。
「奥に、何かあるのか?」
「「えっ!?」」
「ホントにっ!?もしかしてお宝かもっ!行ってみましょうっ!」
八重とリンゼの声が聞こえ、次いでエルゼがハイテンションのまま進んでいく。
「あっ、おい待てっ!あまり勝手に動くなっ!」
まだここが何なのかも把握できていないのだ。俺は足早に先を行くエルゼの後を追った。更に後ろから八重とリンゼの足音が続く。
幸い、道中に罠などは無かったが。たどり着いた先で待っていたのは。
「何、これ?」
落胆した様子の声を漏らすエルゼ。しかし無理もない。
そこにあったのは、何かしらの像らしきものだ。人間よりも一回り大きく、アーモンド形のボディから足らしきものが生えた、謎の像。放置されて長いのか、体全体は埃に覆われ、足の一部も欠けている。少なくとも、宝の類では無さそうだ。……だが、なぜこんな物がこんな場所に?特定の属性を持たない人間でなければ、入れないような場所に残置されていたのだから、全くの無価値とも思えんが?それに調査班が観測したという、微弱なエネルギーの出所もこいつなのだろうか?
念のため、義手である左手で表面に付着していた埃を振り払う。材質は、ガラスに近いか?半透明で、内部に何か、うっすら赤い球体のような物も見える。だがあれはなんだ?
D114をホルスターに収め、警戒しつつも近づいて覗き込む。が、暗くてよく見えん。……ん?暗く?
バッと上を見上げると、リンゼの展開していた光球が目に見える速度で小さくなっていく。それを見るだけで、嫌な予感がする。
「リンゼ、念のために聞くが、君の光属性のライトの持続時間はどれくらいだ?」
「え?そうですね。私は光属性が苦手ですが、それでも2時間くらいは……。あれ?」
俺が光球を見つめている事に気づいたのか、彼女も視線を追って光球を見上げ、首を傾げた。
「光が、弱くなって?」
「ッ!スネーク殿っ!」
リンゼの言葉を遮る八重の叫び。咄嗟に視線を、彼女の視線の先、例のオブジェらしきものに向ける。見ると、体内にあった赤い玉が、小さくなっていくライトの光球と反比例するように輝きを増していく。
「ッ!」
危険だ、と本能が訴えた。目の前のこいつは、ただの像ではない。生物なのか人工生命体なのか、はたまた魔物かは知らんが、こいつは生きている。
「『ゲート』ッ!」
即座に外へとつながるゲートを開いた。
「全員今すぐここを出ろっ!」
俺が叫んだ直後、謎の物体の、手足が再生しまるで超音波のような甲高い音が響き始めた。
「くぅっ!?」
「なに、これっ!?」
「耳がっ!?!?」
エルゼ、リンゼ、八重が耳を抑えながら苦悶の表情を浮かべるっ!が、不味いっ!超音波の影響で周辺の壁に罅がっ!
「早く飛び込めっ!」
俺の言葉に、エルゼ、八重が答えすぐに飛び込む。一拍遅れてリンゼが飛び込み、最後に俺が続いた。そしてゲートを閉じる刹那、天井が崩落するのを横目に、俺は外へと飛び出した。
『ドドォォォォォォンッ!!!』
凄まじい音と共に、閉じかけたゲートから砂煙があふれ出した。
「スネーク殿っ!」
「大丈夫だ」
心配そうに声をかける八重に手を上げて制す。
「なんだったのかしら、あれ?」
「魔物、でも無さそう」
エルゼとリンゼは、入り口があった辺りを見つめながら語っているが……。
「2人とも、気が早いぞ。武器を構えろ」
「「え?」」
俺はアルク自動小銃を取り出し、マガジンを抜いて残弾をチェック。それを戻してチャンバーチェックも行う。
「奴がこれで終わりだと決めつけるのは早いぞ」
「「「ッ!」」」
俺の警告じみた言葉に、3人はすぐさま武器を構えた。直後。
『ゴゴゴゴゴッ!!!ドバァッ!!!』
振動。次いで炸裂。地面が割れ、瓦礫が砕け、その下からあの化け物が飛び出してきた。
「来るぞぉッ!!!」
相手は未知の化け物。俺は化け物に向けて狙いを定めながら叫んだ。
第7話 END
感想や評価など、励みだったりやる気に繋がるのでよろしくお願いします。