珍しく二人きりの大晦日。


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二人きりの年明け

 

 大晦日のプラネテューヌ教会。

 物置から引っ張り出したこたつに入りプリンを頬張るネプテューヌと、お茶を啜るイストワール。

 時刻は二十三時を回ったところ。年越しまで約一時間。

 

「……そういえば、ネプギアさんはどちらへ? 出かけたことは知っているのですが」

「今年の年末はユニちゃんとロムちゃんとラムちゃんと過ごすんだって。ルウィーに集まってるらしいよ」

「ネプテューヌさんは、今年はアイエフさんとコンパさんとは過ごされないのですか?」

「今年はメーカーキャラの子たちとの集まりがあるらしくて、あいちゃんとこんぱはそっち行った。女神が行くと緊張しちゃう子もいるから、わたしは行くのを遠慮したんだ」

 

 まさか『遠慮』という言葉をネプテューヌから聞くとは思わなかったイストワールは、一瞬だけとても驚いた表情をしたが、その顔をネプテューヌに見られる前に元に戻した。

 

「他の女神様はどう過ごされてるのでしょう?」

「ブランは冬の祭典の後片付けが忙しいらしいし、ベールはネトゲの年末イベントで忙しいから、二人に今年は来るなって言われちゃったよ。ノワールは今朝から連絡が付かないんだよね。多分冬の祭典でコスプレでもしてたんじゃないかな。女神ってことを隠して。うずめは初日の出を山頂から見る! とか言ってこんな寒い中登山してるよ」

 

 そういうわけで、交友関係が広いネプテューヌには珍しく、誰を誘うこともなく教会の中でゆっくりしていたのだ。

 

「……それにしても、一人で過ごされるとは、賑やかなのが好きなネプテューヌさんにしては珍しいですね」

「一人? いーすんがいるじゃん」

「確かに……そうでしたね。こうして二人きりで過ごすのなんて、いつぶりでしょうか?」

「ネプギアが生まれる前は、ずっと二人だったよね」

「そうですね。遠い昔のような感覚がします」

「実際遠い昔のことだし」

 

 アイエフとコンパと知り合うよりも、そしてネプギアが生まれるよりも昔、ネプテューヌとイストワールは二人きりだった。

 

「あの頃はわたしも女神として全然ダメダメで、いつもいーすんに助けてもらってたっけ」

 

 ネプテューヌは当時のことを思い出す。

 ネプテューヌには、生まれてから女神候補生としての期間がほぼ存在しなかった。見た目と同じぐらいの年齢の頃から守護女神としての激務に晒され、挫けそうになることも多かったが、イストワールの助力もありなんとかやっていくことができていた。

 

「あの頃だけじゃなくて今もダメダメじゃないですか」

「が〜ん!」

 

 逆に経験を積み重ね、女神に慣れてきてからは、すっかりだらけるようになってしまい、イストワールに叱られることが増えた。けど、イストワールに叱られるのはなんだか悪い気はしなかった。

 

「も〜! いーすんったら〜! そんなこと言っちゃダメなんだからね!」

「そう言うなら普段からもっとお仕事を……いえ、年末年始ぐらいお仕事について話すのは無しにしましょう」

「おっ、いーすんもたまには優しいねぇ」

「たまには、は余計です」

「冗談だよ冗談。ネプリカンジョークだよ」

「だからネプリカンジョークって何ですか、もう……ふふっ」

「あはは」

 

 ネプテューヌはふと思った。自分にとってイストワールはどんな存在であるか。

 愛する妹であるネプギアとは違う。

 愛する親友であるアイエフやコンパとも違う。

 愛する仲間であるノワール、ブラン、ベールとも違う。

 しかし、イストワールを想うこの気持ちも確かに愛情だった。

 

「……? どうしたんですか? 私の顔をじっと見て」

「んー?」

 

 すると、ネプテューヌはイストワールの方へジリジリと近き、そのままイストワールを膝の上に抱き上げた。

 

「ちょっ、いきなりなんですか……⁉︎」

「いいじゃんたまには。いーすんに甘えたい時だってあるんだよ」

「……そうですか」

 

 最初はじたばたと抵抗する様子を見せていたイストワールも、ネプテューヌに身体を預けて寄りかかる。

 

「……あったかいね」

「ええ、暖かいですね」

 

 二人が感じている暖かさが、こたつのものなのか、それとも想いであるかはわからなかったが、その確かな暖かさを、二人は感じ合う。

 

「いーすん、いつもありがとね。大好きだよ」

 

 ボソッ、とネプテューヌが呟いた。

 

「……いきなり恥ずかしいこと言わないでください」

「いーすんは?」

「……同じですよ」

「ちゃんと言ってくれなきゃわかんないなー」

 

 ネプテューヌは、まるで催促するかのように、ほんの少しだけイストワールを抱きしめる腕を強め、自分の身体を更にイストワールに寄せる。

 イストワールは観念して、なんとか言葉を絞り出す。

 

「……私もだ、大好きです。ネプテューヌさん」

「あははっ、いーすん照れてる。かわいー。かわいーすんだ」

「もう! からかわないでください!」

「ごめんごめん。でも、言ってくれて嬉しかったよ」

 

 その時、時計の針が十二時を指した。

 鐘の音を模した電子音が、部屋中に響き渡る。

 

「……あ、年明けたね」

「そうですね」

 

 イストワールは一旦ネプテューヌから離れ、向かい合う位置に座る。

 

「ネプテューヌさん。あけましておめでとうございます」

「うん。あけましておめでとう、いーすん。今年も……ううん、これからもずっとよろしくね」

「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」

 

 そして、お互いに頭を下げ、謹賀新年の挨拶を交わす。

 

「ふぁ……眠くなってきた。年も明けたし、そろそろ寝よっかなぁ」

「それがいいですよ。私ももう寝ます」

「じゃあ、久しぶりに一緒に寝ようよ。わたしが生まれたばっかの頃、いつも一緒に寝てくれてたじゃん」

「ふふっ、わかりました……けど、寝返りで潰さないでくださいよ? 何回も危なかった時があるんですから」

 

 結局ネプテューヌとイストワールは、一緒に横になりながら思い出話をしていたら明け方までなってしまったようで、元旦は昼過ぎまで寝ていたのだった。

 

 




 今年もよろしくお願いします。


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