ひぐらし業卒からにじみ出る「綺麗な想い出なんかにしてやんねーぞ!何としてでもお前に傷を残してやる!」という竜騎士07先生の熱いメッセージに「うるせー!だったら全力でカケラ紡ぎして綺麗な想い出にしてやんよ!」と約18年間竜騎士作品を追い続けた集大成として書いたつもりです。このカケラをもって、例のひぐらし卒業問題の最終的な解答としたいと思います。※Pixivと同時掲載です。

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生まれてきてくれてありがとう

ここは魔女の休戦地。皆さまどうかこの盤にはお手を触れませぬよう。

 

まぁ……生きたままキャットフードになりたいのなら別だけれど、ね。

 

 

 

 

 

 

ねぇ、指先だけでもこのハッピーエンドに触れてみなさいな。

 

あんたをチェリーフレーバーのリコリスに変えて一万年かけて齧り殺してあげる。

 

 

 

 

 

 

尊厳なる観劇と戯曲と傍観と百合の魔女の名のもとにこの書を永久に緘する。

 

この措置は絶対であり、いかなる例外をも認めぬものとす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

降り続く冷たい霧雨で濡れた石畳が途切れて、教会堂の扉に辿り着いた。

 

両手でぐぐっと力をこめて押し開けると、ひんやり乾いた空気が雨に濡れた黒髪を揺らし、頬を撫でる。朝の祈りや日曜のミサには全生徒が集うこのルネサンス様式の教会堂も、放課後の今は誰もいないようだ。

 

全身が残飯や側溝のヘドロでべとべとに汚れ、ピンクのタイも着けていない身には僥倖……といえるほど私は図太い人間じゃない。制服の替えも、もうない。タイは泥の汁が染み込んで、洗った程度ではもとに戻る見込みはもうないだろう。酷く臭う。

 

ふいに込み上げる吐き気をこらえながらふと見上げると、この学園の象徴たる聖ルチアを象った巨大なステンドグラスが雨天の薄明を透かしていた。金の皿に自分の両眼を乗せた乙女の姿。

 

聖女も盲目ではどうしようもない。もし見えていらっしゃるならなお悪い。ここまで追い詰められた私を知りながら助けようともしていないのだから。

 

あんたみたいに神様の力があれば山のように動じずどんなイジメにも耐えられるんでしょうけどね。それでも最後はみっともなく死ぬんだっけ?……どうでもいい。

 

入学式の日にはきらきらと輝いて見えたサンタルチアも、自分を責めているように感じてしまう。……今はもう、この学校の何もかもが嫌いになっていた。

 

頭を振って下らない考えをやめ、階段を登って教会堂の上階へ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わ、あぁっ、いたいっ!何、すんのよ……ぐえっ…!」

 

ゴミ捨て場の汚い床に叩きつけられる。急いで起き上がろうとするとおなかを蹴飛ばされてまた無様に転がる。せっかく運んできたゴミも床に散乱してしまった。

 

「ぷっ、ゴミが喋りましたわぁ」

 

「きったなぁ~い。くすくす……」

 

頭上で嘲笑う声を聞いて、ゴミ捨てを私に命令したこの二人が、どうして後をついて来たのかようやく分かった。もっと早く気付くべきだった。

 

「何ですの、その反抗的な目つき?あんたが全部悪いんでしょう?」

 

「よりにもよってこんな雨の中私たちがドブさらいなんて!貴女のせいですわ!」

 

昨日の数学小テストの私の班の平均点がクラス最下位だったため、担任のシスターに班全員での放課後の奉仕活動を命じられてしまったのだ。

 

内容は梅雨の長雨で溢れ気味だった側溝の清掃。私の成績が振るわないのはクラス全員の知るところ。最も点数が悪かった私のせいということにされてしまった。

 

「だから、ごめんって言ってるじゃないの……!ドブさらいだって私が一人でやったようなものでしょう?あなたたちは見てただけじゃない」

 

「それが他人に謝る態度ですの?つくづく古手さんはお育ちが悪いようですわね」

 

「謝るっていうのは、ほら!こうやって頭を下げることですわ、よ!」

 

髪の毛を掴まれ、私が運んできた側溝のヘドロだらけの落ち葉や紙くずに顔を押し付けられる。死んだザリガニの水槽のような臭気が襲い、思わずえづいてしまう。

 

「う、おぇっ!げほっ、げほ……や、やめ…っ!やめてぇ!」

 

食堂から出たゴミ袋を頭上でひっくり返され、ぐちゃぐちゃに混ざったゴミや半ば腐敗した食べ物、べたつく下水の油のような液体が全身にへばりついた。

 

あごを蹴飛ばされる。がちんと歯が音を立て、血の味が口に広がった。

ぱぁっと視界に火花が散って、ぐるぐると世界が回る。

 

「ほら!謝りなさいよ!毎日毎日毎日毎日!あんたのせいでみんな迷惑してんの!」

 

「いつまで学園にいるつもり?貴女みたいな人間、生まれてきたことが間違いだわ」

 

「ごっ、ごめんなさい、ごめんなさい……ぐすっ、もう、ゆるしてっ……」

 

気持ち悪くて怖くて痛くて情けなくて、私はぼろぼろと泣きながら頭を下げて謝罪を繰り返す。その無様な姿を指してひとしきり笑って二人は言った。

 

「今日中に荷物をまとめて、花見沢だかなんだかいう薄汚い田舎に帰りなさいな。貴女みたいに家柄もなく成績も悪い、無能で下品な人間は学園に相応しくないのよ」

 

「もし明日教室にいらっしゃったら分かってますわよね?お昼休みにはまたお水を飲ませて差し上げますわ。貴女好きでしょ?トイレのお水。くすくす、きったなーい」

 

「ひぅっ……ごめんなさい……わかった、わかりました、から……」

 

反抗しなくなった自分に興味を失い、二人は楽しそうに話しながら去っていった。私はぶるぶると小動物のように震えながらうずくまって足音が遠ざかるのを待った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この聖ルチーア学園に入学してからずっとこうだった。

 

私の猫を被った幼稚で甘えた喋り方が気に障ったのか、それとも家柄も何もないただの田舎の神社の娘だったことが気に入らなかったのか、無視や仲間外れのターゲットにされてしまった。

 

教諭やシスターもまるで私が初めからいなかったかのように扱う。家柄もコネもない小娘など何がどうなろうが彼女らにとってはどうでもいいということだろう。生徒のストレス解消のために黙認しているところもあるように見える。

 

園崎家の詩音さんのような、上品でハイソなお嬢様に憧れて入学したのに、手ひどくいじめられたことはそれなりに堪えたが、それだけならまだ我慢できた。

 

陰鬱な梅雨の時期に入ってからはそれがあからさまな暴力に変わったのだ。

髪の毛を掴まれたり蹴られるのはすごく痛くて怖い。

 

でも、ここまでひどくされたのは初めてだった。

 

特に、持ち物や制服を台無しにされるのが一番つらい。実家は由緒あるとはいえただの神社で、地元の名士、園崎家のように手広く事業をやっているわけじゃない。氏子からの寄付や賽銭と祈祷料で、親子三人がそれなりに暮らしているだけ。

 

ダムに沈んだ故郷からの高額の立ち退き料と、先祖代々の神社のある山を売った代金を合わせたお金から、泣きながら「詩音さんと同じ学校に行きたいの」と父に我が儘を言って聖ルチーア学園の入学金と授業料を出してもらった。

 

名門私立だけあって制服はおろかタイの一本がびっくりするような値段で……頻繁に強請れる額じゃない。それにこの学園からは実家への電話もできず、連絡には手書きの手紙を送るしかないのだ。間に合うはずもない……。

 

どうやって明日、登校すればいいの……。

 

昨日食堂でわざとランチをひっくり返されて替えの制服は汚れてしまった。寮で洗って干しているけど、この雨で乾いているわけがない。

 

ああ、違う。彼女らに帰れと言われたんだった……明日顔を出せば必ずトイレに連れ込まれてまたこんなひどい目に遭わされる。もう便器の水なんて飲みたくないよ……今度はもっとひどいことをされるかも……想像するのが怖い……。

 

きたない。こわい。いやだ。こわい。どうしよう。おうちに帰る?だめ。何百万円もお父さんに出してもらったのに。帰れないよ。でもこんなどろどろになった制服洗ってもきっと綺麗にならない。綺麗にしてどうするの?綺麗にして、登校したら、トイレに……どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──教会堂で最も高い鐘塔に上がる階段は施錠されていた。がちゃがちゃと乱暴にドアノブを揺すって、ふいに上下の感覚がなくなるほどの虚無感に襲われ、たまらず小心なうさぎのようにたしたしと地団太を踏む。

 

唇を強く噛んで涙をこらえる。泣いちゃ駄目だ。泣いたら私が負けたことになってしまう。あと少しなんだから。そう言い聞かせて仕方なく側廊のテラスへ出る。雨の中、手近にあった重い金属製のベンチを手すりのそばへギイギイと音を立てて引きずり、その上に登る。

 

曇天の下には学園を押し包むような深い森、視線を恐る恐る下げると、血のようにべっとりと赤い薔薇の咲く緑の植え込みが見えた。それは思っていたよりもずっと高く、高い鐘塔でなくともここから落ちれば十分に死ねそうだと思えた。自然と手すりを掴む腕が震え、足がすくんでしまう。

 

私は今まさにここから飛び降りようというのに、まだ覚悟が決まらずにいるのだ。

 

もうぜんぶどうでもいいのに、さっさと死んでしまいたいのに。首吊りは方法が分からない。高いところにロープを結ぶなんて、私の身長でどうすればいいのよ。毒物や睡眠薬なんて都合のいいものは持ってないし、刃物は怖い。だから飛び降りなきゃいけないのに、すごくこわい、こわい、こわい、こわい、こわいよ……。

 

「頭から落ちないと死ねませんよ?古手さん」

 

突然耳元で呼びかけられどきんと心臓が痛んだ。ほぼ同時に左腕をがっちりと掴まれる。振り向くと見知った顔があった。同級生の吉澤さんだ。

 

「下はほとんど土ですし……この高さでは、頭から落ちなければ死ねません」

 

経験上、ね。と無表情で囁く。

 

彼女は長い黒髪を雨に濡らし、ごく平静のように見えて何故か少し息が上がっているようにも見えた。豊満な胸を除けば、背の高い女顔の美少年にも見える美しく整った容貌をしている。彼女の冷たい紫の光を湛えた美しい瞳は、いつものように私からほんのすこしだけ逸らされている。

 

「脚や腰が砕けてひどく痛い思いをするだけ……そうですね、手すりに背中を向けて後ろ向きに頭から落ちられるとよろしいかと。後頭部は脆いですから、うまく石畳に叩きつけられれば、あなたの可愛らしい脳みそをぶちまけられるかと思います」

 

ぶちまける、と聞いて腕の震えが強くなる。舌の裏が妙に渇く。

 

「頭蓋が砕けてピンク色の脳髄がグチャグチャに飛び散って、さぞ綺麗なお花が咲くことでしょうね。最も、あの薔薇の茂みのそばにあなたが咲いたとしてもすぐに腐って臭くて汚い生ごみになるだけですけれど」

 

死の恐怖に脚が震える。支えるように更に強く痛いほど腕が掴まれた。

 

「目撃者は見たところいらっしゃらないようですし、見回りのシスターが見つけるまでは咲いたままでいられるでしょうか。あ、そうそう……この学園では問題は起こらない、ということになっておりますので、あなたの遺体はどこかに埋められてしまうと思いますよ?人間関係と成績不振に悩んだ新入生が失踪、というような発表になるのではないかと」

 

「……わ、かった……わよ……」

 

「しばらくは噂になるでしょうけれど、一週間もしないうちに下火になりそうですね……ビュッフェのブルスケッタや日替わりジェラートの話題に取って代わられるのではないかしら。くすくす……さ、早く降りなさいな」

 

ベンチから子供のように軽々と抱かれ降ろされた。小柄な私とやや大柄な吉澤さんとではいくらか体格差があるとはいえ、どこにそんな力があるのかと驚かされる。

 

しがみついたままでいると、はぁ~、とやけに大きなため息をつかれてしまった。

 

「あぁ、制服やタイの心配はいりませんよ?いらぬお節介かとは思いましたが、あなたのサイズのものをとっくに数着ご用意させて頂いております。もう替えがないのでしょう?昨日はみじめったらしくお部屋の洗面所で必死に制服を手洗いされてましたものねぇ」

 

「ふ、うぐ……ひっく……ぐす、ぐす……うぇぇん……」

 

もうぜったい泣くまいと思っていたのに、吉澤さんの人肌の柔らかさと体温に我慢できずに本格的に泣き出してしまった。ぺったんこの私とは違う豊かな胸に顔を押し付けて声を上げて涙をこぼす。恥ずかしくて顔を上げられない。

 

「はぁ……いちいちこんなことで自殺されていては困ります。私、あなたとは寮で同室、学園生活のすべてが連帯責任の"パルトネル"ですもの。シスターに呼び出されて何を言われるか、分かったものではありませんよ?私も常にパルトネルを見張っていられるわけではありません。前にも申し上げた通り、けして人目のない場所へは行かず、何かあればすぐ私にお声がけ下さるように」

 

吉澤さんはお小言を言いながらも、ハンカチで私の髪を拭いてくれている……。

 

「うん、うん……ごめん……ごめんね、吉澤さん……」

 

「せいぜい強く生きることですね。死んで咲く花など、ありはしないのですから」

 

そう言って彼女はほんの少しだけ、自嘲するように笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──吉澤さんは不思議な人だ。

 

彼女と初めて出逢ったのは、入学式の日。

寮のルームメイトとの初顔合わせのときだった。

 

どきどきしながら待っていた私の目の前に入って来た吉澤さんは、いきなり檻の中に放り込まれた犬のようにキョロキョロと困惑した様子で周囲を見渡し、最高の笑顔を作って待っていた私を目にした途端、ひゅぅっと息を呑んで涙を流し始めたのだ。

 

一目惚れだった。おかしな話だけれど何故泣き出したのかという疑問よりも、その顔の美しさに見とれてしまったのだ。

 

夜空のように黒く長い髪。お姫様のように可愛らしいのに、高身長で男の子のように凛々しく、とても同い年とは思えないグラマラスな肢体を持つ、私の好みど真ん中どストレートの美少女だった。

 

深窓の令嬢にしてはぼやけた顔の娘が多い中、とにかく彼女は顔が良くて……ほとんど現実離れした美形の少女が流す涙は美しく、心を打った。

 

物語の中の運命の王子様のようで……私は、一瞬で恋に落ちた。

 

吉澤さんはすぐに部屋から飛び出してしまい、私と同室なのがそこまで嫌だったのかと落ち込んだが、しばらくして戻って来た吉澤さんはもう泣いてはおらず、何故か無表情でほんの少し私から目を逸らしたままで丁寧な挨拶をしてくれた。

 

変わった人だけど、そういう人もいるんだろうと思った。

 

本格的に変わっていると気づいたのはしばらくしてから。

 

聖ルチーア学園にはパルトネル制度というものがあり、学園生活をお互いにサポートし、何か問題を起こせば連帯責任で同じ罰を受ける。

 

生徒を紐づけて相互監視に置く目的で作られた、非常にこの学校らしい制度だ。基本的には寮が同室の生徒と組まされることになる。

 

私と吉澤さんはパルトネル。

だからある程度の相互監視は必要なことだ。

 

でもあの子のソレは異常だった。気を抜くといつの間にか死角で私を見つめているのだ。もちろん彼女にも学校生活があるので常にというわけではなく、彼女の目が届かないところでいじめられたり、暴力を振るわれてしまったりしているのだけれど。

 

それにあの日の翌日の朝のこともだ。私は吉澤さんの服のすそをぎゅっと握ってくっつきながらも、怖くて怖くてどうしようもなかった。

 

でもいつも私をいじめる二人組はこちらを見るなり、まるで血まみれの殺人鬼にでも遭ったかのように顔を引き攣らせ、私からすーっと目を逸らしてしまったのだ。

 

首を傾げ、ふと窓ガラスに映った吉澤さんを見て、私は戦慄した。

ヒトではなくモノを見るような、殺意の籠った恐ろしい怪物のような目つき。

 

思わず吉澤さんの顔を見上げると、ひどくばつが悪そうな、何かへまをして捨てられてしまう寸前の子犬のようにすっかりしょげ返った表情をしていたので思わず吹き出してしまった。本当に不思議な子だ。

 

あれからトイレに連れ込まれたり暴力を振るわれるようなことはなくなった。その代わり彼女らからはまるで爆発物のように扱われるようになってしまったけれど……。

 

普段も何くれとなく世話を焼いてくれる……というか甘やかしてくれる。

 

能面のように無表情で、何故か私から少しだけ目を逸らしていて、冷たく感じるけれど、成績も悪くてお行儀も悪くて、迷惑ばっかりかける私をひとつも叱りもせず、見捨てたりもしないで淡々とただフォローしてくれる。

 

ちょっとヒステリックで過保護気味な私の母親とはぜんぜん違うけれど、吉澤さんはお母さんみたいだと思った。もし一人っ子の私に、頼れる姉やよくできた妹がいたらこんな感じなんだろうか、と考える。

 

本人は私の面倒を見る理由を「パルトネル同士だから」「あなたと連帯責任だから」と言っているが、彼女の父親はあの不動産開発大手の吉澤地所の社長で、彼女は社長令嬢、つまり本物のお姫様。

 

学園への寄付金は気が遠くなるような額で……その上、品行方正、成績優秀の彼女が学園でもシスターや教諭に特別扱いされているのは何となくわかる。

 

私みたいな落ちこぼれの庶民と同じ罰など受けようはずがないのだ。

 

──私のことが好きだからだといいな。

 

自分の子供みたいな容姿も、お姫様と庶民の身分も、何も考えずに思ってしまう。

 

そんなはずないのに。

 

迷惑じゃないかな、馬鹿で、落第寸前で、ちびっちゃくて、口ばっかりで、友達もいない、なんにもない、つまんない私を嫌いにならないといいな。

 

心の底からつまらなさそうに、それでも真面目な態度で授業を受ける吉澤さんを見つめる。やっぱりとっても綺麗な顔してるわね……ほんとに可愛いわ……。

 

「──手さん、古手さん!」

 

「は、はいっ!」

 

「前に出て、解答を」

 

突然の指名に混乱しつつも、教諭に言われるがまま何も書かれていない黒板の前に進み出る。授業をまったく聞いていなかったので何をすればいいのか分からない。

 

「あの、いったい何の解答を……?」

 

「あなた、話を聞いていなかったの?」

 

「ええ、その……聞きそびれてしまって……」

 

眼鏡をかけた神経質そうな教諭の表情が呆れと怒りに歪む。

まずい、と思った時にはもう遅かった。

 

「もう結構!謝りもせずその態度!ルチーア生に相応しい振舞いではありません!あなたには放課後の奉仕活動を命じます。この階の窓をすべて拭くように!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ……ねぇ吉澤さん、もういいわ。私一人でやるから」

 

「私はあなたのパルトネルですから、連帯責任があります。それにもう残りはこの廊下だけでしょう?問題ありません」

 

私は窓拭きクロスで一生懸命背伸びしつつ必死に窓を拭く。

背が低い私は踏み台があってもこのざまだ。

 

背の高い吉澤さんは軽々と台を持って移動を繰り返し、必死に全力で窓に立ち向かう私の何倍もの速度で拭き終わっていく。

 

彼女は美人で成績優秀、その上スポーツも万能な完璧超人なのだ。

窓拭き程度で息を切らす私とはもともと出来が違う。

 

「ぜぇ、ぜぇ……もう、だめ……」

 

清掃の終端となる階段の踊り場の窓を拭こうとして、息が上がり、気分が悪くなってすぐそばの階段に座り込んでしまう。

 

しばらくぐったりしていると、吉澤さんがやって来てすべて拭き終えてしまった。

 

「大丈夫ですか?古手さん」

 

隣に座った吉澤さんが甲斐甲斐しくハンカチで汗を拭いてくれる。ふっと不安になって、思っていたことをそのまま告げてしまう。

 

「吉澤さんは、どうして、ここまでしてくれるの?」

 

「……パルトネル、だからです」

 

「でも、吉澤さんはすごい人で……いつも放課後の特別なサロンにも誘われているじゃない?どうして断ってるんだろうって……私が邪魔だからかなって……」

 

「性に合いませんから。それにあなたを邪魔だなんて思うはずありません」

 

「じゃあ、どっか行ったりしないの?私のこと、嫌いにならない?」

 

ちいさな子供みたいに甘えるような声になってしまった。本当は嫌われてるんじゃないかと恐ろしくて、どんどん自信がなくなる。自己嫌悪で顔を背けてしまう。

 

「こんな馬鹿で田舎者で友達もいなくて、落ちこぼれでちっちゃくて自分勝手で口ばっかりで、甘ったれで迷惑な子なんて嫌いよね……ん?何よぉ……み゛ぃっ」

 

とんとん、と肩を叩かれ急いで振り向くと突き出されていた指でほっぺがぷにゅりと押し潰されて変な声が出てしまった。

 

「引っ掛かりましたわね?梨花」

 

八重歯を覗かせながら悪戯っぽく笑った彼女は、まるで別人のようで…。

 

「な、なにすんのよっ」

 

「もう諦めましたわ。それにけして一人にはしないって約束しましたもの……」

 

「約束?それ、どういう意味よ……」

 

「わたくし、長く生きて、生きて、ようやく気づいたんですの。あのとき、富竹さんが鷹野さんに「僕が一緒だから」と仰ったのはどうしてなのかって」

 

「レナさんが最期まで両手を広げ、抱き締めようとした理由に。あの満月の夜、屋根の上で、圭一さんが諦めずに信じ続けた理由も。わたくしにはずっとなんにもわからなかった。でもあなたを遠くに想えば想うほどに……すべてが、腑に落ちましたわ」

 

私の知らない、ここではないどこかを視るような眼。何の脈絡もない話をしているのに、彼女の口調は真剣そのもので……。思わずその横顔に見とれてしまう。

 

「だからもう、諦めたんですの。あなたは、あなたのままで、自分勝手で我が儘で鈍感で無神経でも、ありのままのあなたでいてくれれば、それでよろしいのですわ」

 

どこか呆れたような優しい表情で、私の目を見て吉澤さんは言った。

 

思考がフリーズし、頬を赤らめぽーっとしてしまう。

 

吉澤さんが何の話をしているのか分からないけど、私がここに、彼女の隣にいていいんだって、肯定してくれたことだけは分かった。

 

「それ、私のこと馬鹿にしてんでしょ?ちょっとは否定しなさいよね……!」

 

照れ隠しに吉澤さんのほっぺを両手でつまんでにゅーっと引っ張る。

 

「ちょっ、やめへくらはいまひ……もう、そういうことする方にはこうですわ!」

 

「あはは、くすぐらないで!こらっ、やめなさいよ!えっち!」

 

きゃあきゃあとはしゃぎながら子猫のようにふたりでじゃれ合った。

 

悪戯の応酬のドサクサに紛れて、吉澤さんの背中に手を回してぎゅうっと抱き着いてしまう。ふわふわであったかくて、いい匂いがして、本当に大好き。

私は、この子が好き。

 

……不思議な話だけれど、前にもどこかの階段の下で、この子とこんなふうにはしゃいで、ふざけあったような気がする。

 

そんなはずはない。

 

私が子供のころは、クラスメートの男子が下僕のように言いなりになるのが楽しくって、お姫様気取りで命令して傍若無人に振舞い、女子からは毛虫みたいに嫌われて、女友達なんか一人もいなかった。

 

忘れている記憶なのか、夢だったのか、判然としない。

それは、既視感に似た奇妙な感覚だった。

 

愛し合う運命とか、結ばれる宿命とか、そんなものだったらいいな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふ……ねぇ、私、吉澤さんのことどうしても他人だと思えないのよ」

 

 

 

「どこかで、そう、ずっと昔……子供のころに私たち、会ってたりしない?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ざあざあと雨が降り注ぐ中、剣を携えた巫女装束の梨花が叫んだ。

 

「あんた……自分が何やったのか分かってんの!?」

 

それは、神剣、鬼狩柳桜。禁じられし宝。

古手家に伝わる最も忌みなる力。繰り返す者を殺す剣。

 

「圭一も!レナも!魅音も!詩音も!他のみんなも、いったいあんた、何人殺したのよ!それで言うに事欠いて、『私が悪いんですの!?』って当たり前じゃない!人殺しのあんた以外の誰が悪いって言うのよ!」

 

梨花と同じく巫女装束の沙都子は押し黙ったまま俯いている。

その手には何もない。ヒトならざるモノ同士の戦いは、既に決していた。

 

「もういいですわ、梨花……憎ければ、私を殺したければ、殺せばいい」

 

「私が悪いって言うの!?当たり前よね!嫌がるあんたを無理やり合わない学校に連れて行った!あんたが苦しんでるのにも気づかなかった!あんたが悟史が失踪したトラウマで助けを受け入れられないって忘れてた!憐れまれるのを嫌うことだって、村八分のあんたに差し出した飴を振り払われて、とっくに気づいてたはずなのに。一番苦しい時に、あんたのそばにいてあげられなかった!でも、だからって、だからってこんなひどいこと、しなくたっていいでしょう!?」

 

「……今更、何もかも、もう遅いですわ……」

 

「そうね、そう、もう遅い……簡単な話よ。私があんたを助けなきゃよかっただけ。あんたが憎悪と疑心暗鬼で脳を焼かれて死ぬまで、間抜けな子供のフリでもして待ってればよかった。頭に穴を開けて脳みそを弄らなきゃ、私が高熱出して両親が研究に反対して殺されることもなかったわよ。あんたが死んでりゃ、悟史が狂うこともなかったわね?そうよ!そう!ぜんぶ私が悪いのよ!」

 

だんだんと梨花が何度も地を蹴った。吊り橋が大きく揺れる。

 

「ぜんぶ私が勝手にやったことよ、仕方ないじゃない!沙都子、あんたと一緒にいたかったのよ、望まれずに生まれてきて、親の愛も知らずただ狂って死ぬだけのあんたが可哀想で可哀想で……笑っていて欲しかった。ぱたぱた駆け回るあんたの足音が好きだった。抱き締めた体温に心から安らいだわ。あんたがいなけりゃとっくに狂ってたわよ!ふたりきりで一緒に暮らしたかった!だからあんたの親も、私の親も、悟史も、玉枝も、この世界にはいらないって!みんな、みんな死ねばいいって!そう思ったのよぉ……!」

 

梨花は自分の髪を無造作に掴んで引っ張り、ぼろぼろと涙をこぼした。

 

「り、梨花……?」

 

「誰かを殺して、誰かを生かして、魔女気取りで必要な犠牲だのこれが正解だの……一人遊びのチェスみたいに命を弄んで……せっかく助けた沙都子にずっとひどい嘘をついて、全員捨てて……何も知らない新しい沙都子を可愛がって、いい気になって……でも私は、ただ生きて、生き延びて、沙都子と幸せになりたいと願った……ずっと一緒にいたかった……ただそれだけ……それが間違いだっていうのなら、じゃあ私は……私は、いったいどうすればよかったって言うのよ……」

 

「梨花、違いますわ!わたくしはただあなたに振り向いて欲しくて……!少しでも梨花の視界に入れたなら、あなたに殺してもらえるなら、それでもいいと……」

 

「……そう、やっぱりそうよね、そうだったんだわ……あのとき羽入の言っていたことが、正しかったのよ。私は……私は、繰り返さず、死ぬべきだった!」

 

何度も頷きながら「死ぬべきだった」と何度も何度も何度も淡々と繰り返す梨花。

 

「分かってた。私が生まれて来なければ村に勝機などない。東京の後ろ盾のないダム戦争なんて始まる前に終わってたわ。村八分がなければ、沙都子が発症することもなかった。そもそも私がいなければ私の両親が死ぬこともない……惨劇も、終末作戦も起きなかったし、誰ひとり死ぬことはなかった……あんたがこうして私のせいで悲しんで苦しんで、いっぱい殺してひどい罪にまみれることもなかった……」

 

それは、気づいてはならない真実。

 

「私は、この世界に生まれてきてはいけなかったのよぉ……!」

 

魂の底から絞り出すような悲痛な声が渓谷に響き渡った。

叫んだ梨花の双眸は、深い絶望の闇に染まり切っている。

 

「待って、待ってくださいまし!梨花は違いますわ……!そんなの、どうにもならなかったことですもの!わたくしが、わたくしこそが黒幕、悪の元凶で……!」

 

「お生憎様。私こそがすべての元凶なのよ。昨日今日遊びで始めたあんたとはね、殺した人間の桁が違うのよっ!見たんでしょう!?百年間あんた一人だけでも何人使い捨ててみじめに死なせたかすら、もう覚えちゃいないわ。……ひどい女よね」

 

「それは……でも、梨花は結局、わたくしを想ってくれていたから……」

 

「今回も初っ端からあんたを見捨てて自殺しちゃったんだっけ?悪いけど、残されるあんたのことなんてこれっぽっちも考えてなかった。せっかく助言してやったのにあいつまたレナを殺したの?ばかなやつ。本当に使えない駒。裏切られた私はとっても可哀想、そんな考えで頭がいっぱいだった……」

 

梨花は嘲るように口元を歪め、お互いを傷つける言葉を並べていく……。

 

「私はあんたが思ってるほど優しい女じゃないのよ。いつも通り鷹野の計画が始まれば、沙都子がひどい死に方をしていっぱい苦しむって知ってたのにね……つくづく自分本位で、傲慢で、罪にまみれた自分が嫌になるわ……」

 

「梨花ぁ……」

 

「……私はどうして生まれてきてしまったの?……何もかもが、無駄だった……」

 

梨花は鬼狩柳桜を両手で握り直し、暗い雨空へ向け振りかざした。

 

「私も、あんたも……生まれた業を、犯した罪を、それぞれ償わなくちゃね……!」

 

「梨花!梨花が生まれたことが罪だなんて!悪いのはわたくしだけで……!」

 

「黙りなさい!私たちの罪は、ひとつの世界を生きるヒトには、もう裁けない。だからせめて最初だけは……人でなしの私が、あんたをこの手で殺してあげるわ。あんたは何度でも生きて、生きて、犯した罪を償いなさい……!」

 

不意に放たれた斬撃が沙都子の頸動脈を切り裂く。鮮やかな赤い花がぱっと咲いた。二の太刀が、枝分かれした黄金の刃が、ぞぶりと胸に食い込み、心臓を破壊する。

 

「ぐっ……ごほっ、げぼ……り、がぁ……」

 

沙都子から抜き去った刃を半ばから掴み、顎に押し当てる。起動。

鬼狩柳桜が眩く輝き、梨花を包むように光の羽根が辺りに舞い散る。

 

……その光は因果を書き換え、繰り返す者を盤上から消滅させる力の発露だった。

 

「じゃあね。永遠にさようなら、沙都子」

 

薄れる意識の中で、沙都子が最後に見た梨花の表情は、顎から脳天までを貫き、分かれた刃でずたずたに割れ崩れ、骨や肉、脳髄が露出した凄惨な死に顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやあぁぁぁっ!梨花っ!梨花ぁぁっ!」

 

「どうしたのよっ!大丈夫っ!?吉澤さん!」

 

叫び声に飛び起きる。

隣のベッドで吉澤さんが胸や首を掻きむしりながら泣き叫んでいた。

 

慌てて駆け寄って抱き寄せ、背中を撫でてあげる。

発作や急病かと思ったけれど、すぐに落ち着いたようだった。

 

「痛いの?苦しいの?寮母さん呼ぼうか?すぐ病院に……!」

 

「はぁ、はぁ……問題ありません。少し、悪い夢を見ただけ……」

 

私の顔を見て、まるで醜いものを見るように顔をしかめた。

視線を逸らされ、完全にそっぽを向かれてしまった。

 

……どうして?

 

「ほんとに?……ねぇ、悩みがあるなら、きっと力になるから。頼りないかも知れないけれど、吉澤さんに助けてもらったぶん、助けてあげたいのよ……」

 

「そんな資格、ありませんわ!」

 

ぴしゃりと拒絶され、身体を振り払われる。

世界がぐるりとひっくり返ったような感覚だった。

 

「……そ、そう……わかったわ……ごめんなさい……」

 

ゆっくりと彼女から離れ、自分のベッドに戻ってシーツを被る。

 

──勘違いだった。思い上がりだった。馬鹿だった。

 

「ひっく、うぅっ……んぐぅ……ふぐぅぅ……!」

 

私はベッドの中で声を殺して泣いた。

みじめで、恥ずかしくて、情けなくて……。

 

ちょっと優しくされただけで誤解して、昔からの親友みたいなつもりで。

吉澤さんを助けてあげたいのよ、なんて、上から目線で言ってしまった……。

 

自己嫌悪と嫌われる不安でいつまでもめそめそと泣き続ける。

 

やがて私は泣き疲れて、いつの間にか眠ってしまった。

 

 

 

 

──次の日の朝。

 

目を覚まし、吉澤さんを探したけど部屋にはいなかった。

 

彼女はいつも私より先に目覚めて起こしてくれていたのに。

それから一緒にお話しながら、朝ご飯を食べに食堂へ向かうのが日課だったのに。

 

本当に嫌われたのだと知って、また泣きそうになった。

 

教室で会った吉澤さんは、挨拶を返してくれなかった。

目を逸らすどころか、私の顔を見てもくれなかった。無視された。

何かをこらえるように、歯を食いしばって口を歪めていた。

 

もうついて来てくれることも、あれこれ世話を焼いてくれることもない。

手を繋いだり、抱き着いたり、甘えたりすることも許してはくれないだろう。

 

初めて出来た友達だったのに、大好きだったのに……。

ふたりで笑い合って過ごす日々がずっと続くんだって、勝手に思ってた。

彼女だけが、ちっぽけでくだらない私の世界の、すべてだった。

 

 

 

 

──その日の放課後。

 

ただ一人でまっすぐに寮へ向かう吉澤さんをこっそりと追いかけた。

寮の自室で二人きりなら、話を聞いてくれるかもしれないと思ったからだ。

 

とにかく謝ろう。出過ぎた真似をしたと。これからは身分を弁えるからと。

必要以上にあなたに馴れ馴れしくしないように気を付けるから。

 

だから──。

 

無視だけはやめてもらえるよう、頭を下げて、土下座してでもお願いしよう。

それなりに長くいじめられて来たけれど、あれだけは本当に堪えるのだ。

お前なんか生まれてこなければよかった、と言われているようで……。

 

どうか彼女が怒っていませんように。

祈りながらノブを回し、ドアを開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──小柄な影がドアを勢いよく蹴り開け、室内に飛び込んで来る。

そしてベッドに座り、ナイフを喉に向けて翳す少女に縋り付いた。

 

「何やってるのよっ!」

 

「死のうと思って」

 

吉澤は何の感情もこもっていない声で返答する。

 

梨花は彼女が握るナイフを、震える手でもぎ取ろうとする。

彼女は梨花を傷つけないよう、抵抗せずにやさしく譲り渡した。

 

梨花は取り返されてなるものか、と急いでベッドの下へナイフを投げ込んでしまう。

 

「どうして死のうなんて思うのよ!死んで咲く花なんてないんだって、飛び降りようとした私に言ってくれたのは、あなただったじゃない!どうしてよ!」

 

梨花は激情のままにベッドに押し倒し、吉澤の腕を掴んで握り締める。

長い黒髪が白いシーツに広がり、組み敷く梨花の黒髪と混ざりあった。

 

「私に吉澤さんを気遣う資格がないなんて言われなくたってとっくに知ってるわよ!でも、私たちは友達じゃなくても、パルトネル同士じゃない!」

 

「……違いますよ」

 

「何が違うってのよ!誰かにいっぱい優しくしてもらったら、いっぱいお返ししたいって思っちゃいけないの?好きな人に優しくしたいって思うのは間違ってるの?」

 

「そういう意味じゃないんです、古手さん……私には、あなたに優しくされる資格がないと言ったんです」

 

「何の話よ?優しくされるのに資格なんて、いらないでしょう?」

 

「あなたに言っても分からないでしょうが……私はけして消えることのない、重い罪を背負っているんです……だから、愛される資格なんてないんです」

 

呆然とする梨花をまっすぐに見つめながら、吉澤は語り始めた。

 

「たくさんの世界を渡って、大勢殺してしまった……お世話になった方を、大切なお友達を、みんなそれぞれの世界で懸命に一度きりの人生を生きていたのに……弄んで嘲って、まるでいらなくなったオモチャでも壊すみたいに」

 

「分からず屋の"あなた"を振り向かせたい、やりこめたい、私だけを愛して欲しい、そんな幼稚な理由で何度も何度も何度も何度も……誰を、どこで、いつ、何回、どうやって殺したかも、もう覚えていない。それがたまらなく恐ろしくて……」

 

「人の頭を何度も殴って砕いて、私の顔に飛び散った血と脳の味が……拳銃で眉間を撃ち抜いた相手の、意識が消えるその瞬間が……今も忘れられない」

 

「"あなた"を殺した感触が、血の匂いが、千切れた腸から飛び出した汚物の臭いが、掴んだ熱い臓物の感触が……この両手に残って、今も消えずにまとわりついて……」

 

風が強まり、窓を大粒の雨が叩く。室内は暗く、雨音以外には何も聞こえない。

梨花は何も言わず、真剣な表情で見つめ、常軌を逸したその話に耳を傾けている。

 

「"あなた"はそんな私の罪を責めるよりも、自分を責めた。私のせいで「生まれて来なければよかった」と絶望させてしまった……そしてあの剣の真の力で『古手梨花が生まれて来ない世界』を生み出し、その鳥篭の中に私を閉じ込めた」

 

「"あなた"は私が罪を背負うことを望んだ。"あなた"のいない世界で、たったひとりで生き続けろと……私は、自分が殺した相手と悲しい思い出しかない村で無限に人生を繰り返し続けることに疲れ果てました。せめて"あなた"と何かひとつでも繋がりを持っていたくて、だから……"あなた"の夢だったこの学園に、逃げた」

 

「この学園で"あなた"を想いながら生き、そうして気が遠くなるほどの年月が経った。いつしかもう入学よりも前に戻ることもできなくなってしまった。……この世界が、この人生が、その長い長い贖罪の旅の終着点だと私には分かる……」

 

「その旅の終わりに、ここにいるはずのないあなたに、出逢ってしまった……!」

 

吉澤の頬を涙が伝う。困ったように、泣き笑いのように表情を歪ませた。

 

「そう、"あなた"は私が罪を背負うことを望んだのでしたね……もう償うこともできない私の罪を"あなた"の百年の罪業ごと……きっとあなたには、私が何を言っているかさっぱりわからないのでしょうけれど……ふふ、うふふ……」

 

自嘲するように笑って、手をゆっくりと持ち上げて梨花の頬を優しく撫でる。

 

「だから私は。"わたくし"は……何も知らないあなたに、大好きな梨花に、こんなふうに愛されて優しくされて、幸せになってしまっては、いけないのですわ……!」

 

梨花は混乱するでもなく、ただ落ち着いた様子でその手を握った。

じっと真剣な瞳で見つめながら、ようやく口を開いた。

 

「お生憎様。あんたの話、わけわかんないわ。他の世界って何よ?人を殺したのに警察に捕まらないわけ?私が生まれて来ない世界?はっ、ぜんっぜんわかんないわよ」

 

はぁっ、と呆れたように息を吐く。

 

「でも、あんたが嘘をついてないってことだけは私にでも分かる。その出来の悪いオカルトSF雑誌の三文小説みたいな話が真実だって。あんたの頭が火星までぶっ飛んでないって保証はないけれど、その様子じゃ正気で言ってるんでしょうね」

 

さて、私の正気は誰が保証してくれるのかしらね、と自嘲する。

 

「あんたがどうしようもない人殺しのクズだって話、信じてあげるわ。子供の喧嘩みたいな理由で連続猟奇殺人鬼になった大間抜けだってね。正直なところ、キモイし、かなりドン引きよ。でも、それがなんだって言うのよ?もう終わったこと、済んだこと、今更何をどうしたって取り返しがつかないことでしょう!?」

 

「だからこそ、わたくしが、死んで、消えて償うことでしか、罪は──」

 

「あんたがどんな罪を背負ってたって関係ないわよ……犬畜生にも劣る胸糞悪い最悪の罪だろうが、この私が全部許すって言ってんのよ!……わかんないの!?」

 

梨花の手が、握った手が痛むほどに掴んだ腕を握り締める。

 

「死にたいほど苦しいなら後悔や反省だってしなくたっていい!……悪い事をしたって気付けたんだから!今のあんたがちゃんと人の痛みが分かる素敵な女の子だって、私は知ってる!死んで罪を償う必要なんかない!あんたが死んだところでもうひとつ死体が増えるだけじゃない!罪が一人では重過ぎるなら、私も一緒に背負ってあげるわよ……今あんたが生きて、私のそばにいて、幸せそうに笑ってさえいてくれれば、それで全部、もう、いいのよ……!」

 

「梨花……」

 

「……誰かを愛するって、相手が至らないことを罰することじゃない!ましてや悔い改めさせることでもない!愛することは、相手のどうにもならないことをぜんぶ諦めること、許容すること……赦してあげることだってね!相手の存在をあるがまま受け入れてあげることなんだって、私は、そのあんたに、教えられたんだからっ!」

 

 

──それは、"奇跡"だった。

 

 

繰り返す者ですらなく。ましてや百年の魔女や奇跡の魔女でもない。

 

門外不出の古文書も、雛見沢に伝わる人と鬼に纏わる悲しき伝説も。

 

狂気と惨劇、それを打ち破って見事克服してみせた仲間たちの絆も。

 

何ひとつ知らない、ただ両親に愛され、甘やかされて育っただけの小娘が……。

 

たかがヒトの身のまま、答えに至った。

 

遥かカケラの海の遠く彼方……事象の地平面の箱のその向こう側で……。

 

いつかどこかで誰かが、自らの手で討ち果たした神たる母のために愛を願った。

 

……それは、ヒトの愛の理想。

 

その愛は、母たる神のその裔の末によって……。

 

命を対価にしか禊げぬ罪業も、煌く因果も、煩わしきカケラの境界をも超えて。

 

誰に知られることもない、このカケラの片隅で。

 

真実のその先で……。

 

 

────愛は、愛はついに果たされた。

 

 

 

「好きよ。……大好きよ沙都子……愛してる……!」

 

 

「……ぐすっ……わたくしも梨花のことが大好き……!」

 

 

夏の晴天の通り雨のような暖かい涙をぱたぱたと落としながら、

崩れ落ちるように沙都子の胸に頬を寄せ、強く、強く抱き締める梨花。

 

 

「生きていてくれて、本当にありがとう、沙都子……!」

 

 

「生まれてきてくれてありがとうですわ……梨花ぁ……!」

 

 

壊れやすく繊細な硝子細工を扱うように、ゆっくりとやさしく抱き締める沙都子。

重ねた肌から、怒りや不安、焦燥や寂しさが溶けて消えていくような感覚がする。

 

ふたりは言葉よりも深く結ばれ、求めあい、ゆっくりとお互いの体温を分け合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

木立を抜けてきた涼やかな風にレースのカーテンが揺れている。

空は青く澄み、煌く陽光が夏という季節の訪れを祝福していた。

 

いつもはベッドと机と椅子とクローゼットしかない寮の部屋に持ち込まれた、小さなテーブルには、純白のテーブルクロスが掛けられ、ティーセットが用意されている。

 

沙都子がどこからともなく用意したこれは、ジノリの名品だそうで……。うっかり落としても弁償できそうにない。実家からわざわざ持って来ていたのだろうか?

 

三段のケーキスタンドのシルバーの皿の上にはそれぞれ色とりどりの洋菓子が並んでいる。ミニケーキや焼き菓子にフルーツサンド、どれを食べようか迷ってしまう。

 

「梨花ぁ、ご満足頂けまして?」

 

「え!?え、えぇ、そうね……あんたって、すごいのね、沙都子……」

 

放課後に特別な生徒の間で催されるサロンでどうしてもアフタヌーンティを楽しみたいとみぃみぃ泣いて駄々をこねて甘ったれる私を見て「はぁ~、しょうがないですわねぇ」と言った沙都子が、寮の自室に私専用のサロンを用意してくれたのだ。

 

昨日の今日で、いきなり用意してこれである。

魔女か何かじゃあるまいし……不思議な子だ。

 

お姫様特権で食堂に無理を聞いてもらったのだろうか?

それとも、沙都子本人が手ずから作って来たのだろうか?

 

どちらにせよ、この子ならそれくらいのことはやりかねない、と思えた。

 

「このお菓子はなに?」

 

「アマレッティですわ」

 

「これとこれは?」

 

「カンノーロとクロスタータ」

 

「聞いたこともないわね……」

 

小さなケーキをスタンドから直接、指でひょいとつまんでぱくりと食べてしまう。

 

「あらあら、梨花ったらお行儀が悪うございましてよ?」

 

「いいじゃないの、あんたしか見てないんだから」

 

砂時計が落ち切った。

沙都子がティーポットを持ち、私のカップに注いでくれる。

甘い香りが部屋に広がり、思わず猫のように目を細めてしまった。

 

「これぞ"ハイソ"ってやつよね」

 

今日の私はとってもご機嫌。ティースプーンをふりふり、得意満面。

 

「そうですわね、梨花と一緒にハイソな毎日を送ると約束しましたから」

 

「そんな約束いつしたっけ?……んっ!ぶふっ!」

 

啜った紅茶は、すっぱくてしょっぱい味。

カップを覗き込むと底には梅干しが鎮座していた。

 

「みぃーーっ……」

 

「をーっほっほっほっほ!トラップに引っ掛かりましたわね、梨花!」

 

まるで漫画のお嬢様みたいに顎に手を当てて高笑いをする沙都子。

 

「あんたねぇ……いい加減にしなさいよ……!」

 

パチン、と沙都子が指を弾いて鳴らす。

もう一度カップを見ると梅干しは消えていた。

 

恐る恐る飲んでみると、とってもおいしい紅茶。

何の手品よ。不思議過ぎて、いちいち怒る気力も失せる。

 

沙都子はといえば、指で弾いたポップコーンを歯でキャッチしては齧っている。

 

彼女が指を鳴らすと砂糖菓子やマシュマロ、クッキー、チョコレートなど何でも出て来る。この特技はどうやって身に着けたのだろう?私がねだるといくらでも指を鳴らして出してくれる。手品師か何かにでもなるつもりなんだろうか……。

 

「はぁ……ところであんたすっごく似合ってるけど、その髪どうしたの?」

 

何故か沙都子は美しく豊かな黒い長髪をバッサリと切ってしまった。目が覚めるようなイエローゴールドに染め、シックな黒のリボンを結んでいる。お姫様というよりは王子様……を通り越していっそ小悪魔的でコケットリーだ。

 

「レディーにも色々とございますの」

 

「何ていうか……喋り方とか、雰囲気とか、変わったわね……」

 

「梨花にだけは言われたくありませんでしてよ?入学してすぐの頃は"なのです~"とか"にぱ~☆"とか頭の悪い舌ったらずな喋り方と間抜けな笑顔で……ぷっ、とっても愛らしくてございましたのに、くすくす」

 

「もう!それやめてよ……あれ、結構気にしてるんだから……!」

 

まあ何にせよ、顔のいい同級生、金髪ショートヘアでより凛々しくなった王子様系の本物のお嬢様と放課後にお茶、なんて……戦前の少女小説の中の世界そのもので……本当に生きててよかった、人生捨てたもんじゃないわね……。とっても幸せ。

 

小動物のようにほっぺを膨らませてお菓子を頬張りながら、ついもちもちとした大福顔になってしまう。沙都子はそんな私を眩しそうに見つめ、微笑んでいる。

 

「……そういえばね、謝りたいことがあるのよ。変に思うかもしれないけれど」

 

「どうしましたの?」

 

「たぶん、夢か何かだと思うんだけど、昔どっかで……たぶん橋の上かしら?」

 

「…………」

 

「あんたにものすごく酷いことをしたような気がするの。ごめんね、沙都子」

 

「いいえ、私もひどいことをしましたもの。でも、ありがとう……梨花」

 

沙都子はそう言って頭を優しく撫でてくれた。

あからさまな子ども扱いだけれど、私は目を細めてされるがままになる。

 

この子のトラップ(って何よ?)に引っ掛かるたびに、何だかよくわからない夢だか既視感だか、とにかく曖昧な記憶が頭に浮かんでくる。何か大事なことを思い出せそうで思い出せないような、そんなもどかしさを感じるのだ。

 

案外、近いうちにパッと全部思い出せるんじゃないだろうか。

その夢に出て来るのは、決まってダムに沈んだあの村や麓の町で……。

 

「そうだ!そういえば夏休みは外出許可も出ることだし、うちに遊びにこない?」

 

「雛見沢、ですの?」

 

「そう、本当の故郷はダムに沈んじゃったんだけどね……今は興宮ってところに住んでるの。田舎でなーんにもないけれど、自然がいっぱいでいいところよ」

 

「ええ、よく存じておりますわ。エンジェルモートはまだ興宮にございますの?」

 

「あんた、本当に何でも知ってるのね……やっぱり不思議な子だわ」

 

っていうか、エンジェルモートって女性がハレンチな薄着で接客する男性向けのちょっとエッチなレストランだったような気がするんだけれど……。

 

沙都子って、ああいういやらしいコスチュームが好きなのかな……?

着てみる?でも私は胸もないし、ハイレグはちょっと、いや相当恥ずかしい。

 

「そうですわね……夏休みは梨花と一緒にどこかへ旅行というのも、悪くないですわ……思えば、二人旅なんて初めてですのね……」

 

「そりゃ、そうでしょうよ」と言ってカップを傾ける。

 

「ねぇ梨花ぁ、雛見沢へ行く前に、どこか都会で観光しませんこと?東京でも名古屋でも梨花のお好きなところで」

 

「いいわね、それ……!私田舎生まれで県外どころか村の周りから出たこともなかったから、都会ってろくすっぽ行ったことなくってね……中学を卒業してすぐ、この山奥へ来たものだから。列車の乗り換えなんかで素通りだったのよ」

 

大好きな沙都子とおしゃれな都会でデート、だなんて考えるだけでわくわくする。

沙都子と一緒ならどこへ行ったって、ぜったい楽しいに決まってるんだから。

 

「あ、でも……」

 

「梨花ぁ?旅費や遊興費の心配はいりませんわよ?わたくし、お義父様から専用のゴールドカードを頂いてますの。梨花には一銭たりとも支払わせませんわ」

 

「そういえばあんたって社長令嬢、本物のお姫様だったわね……」

 

それにしても高校生がクレジットカードって、流石に住んでる世界が違うわ……。

 

「をーっほっほっほっほ!その通りですわぁ~!文武両道、才色兼備、聖ルチーア学園最強の氷の女王、吉澤沙都子とはわたくしのことでしてよ~!」

 

この子、私の前以外では完璧に猫を被っていて、外面は以前のまま。

 

落ち着きがあって物静かで、氷のように無表情。

誰もが羨むサロンに誘われながらも一切顔を出さない。

 

一部生徒にはそのクールな振舞いから氷の女王なんて呼ばれて崇拝されてるっていうから、年頃の女の子というものはわからない。

 

私は献身的な愛の力で、その女王の心の氷を溶かした聖女なのだそう。

落第生だの田舎者だのゴミだの言われていたのに、ずいぶんと出世したものだ。

 

たまに私と一緒にはっちゃけているところを見られているはずなのに、ファンのあいだではエセお嬢様語で高笑いするこの子はどう受け止められているのかしらね。

 

「では、梨花のために更なるハイソイベントを催したいと思いますわ」

 

沙都子が取り出したのは、一冊の詩集だった。

イタリア語だろうか?授業で少し齧ったので辛うじて表紙は読める。

 

「うーん……"La vita nuova"……新しい、人生?だんて、ありぎえーり、著?」

 

「……まぁ、正解ですわね。梨花、ご褒美に詩集朗読会を開いて差し上げますわ」

 

「沙都子、私イタリア語は全然わかんないわよ……?」

 

「あら、2学期には伊語作文が課題に出ますし、3学期にはイタリア研修旅行までありますのよ?聖ルチーアではイタリア語は必修科目ですわ」

 

「伊語作文!?何よそれ……やっと英語の授業について行けるようになったのに」

 

「梨花はお勉強とっても頑張りましたわねぇ。期末考査の結果は平均以上だったのですって?わたくしも鼻が高いですわ!この分なら半年もすれば学年トップも夢ではないのではありませんでして?」

 

「買いかぶり過ぎよ……あんたの教え方がいいんじゃない?……ま、見てなさい。2学期の終わりには上位10人くらいには食い込んで見せるわ」

 

「………やっぱり、流石に梨花はどんな世界でも、本当にすごい方なのですわね……わたくしは学問を完璧に修めるまでXXXX年以上かかりましたのに……会則第一条、第二条がなければとっくに諦めてましたわ」

 

「またわけのわからないことを……持ち上げ過ぎよ、沙都子」

 

つい先月までは落ちこぼれだった私も、沙都子に勉強を見てもらい、板書の写し方や学習のコツを教えてもらったところ、ぐんぐん成績が上がっている。

 

期末考査では平均点以上どころか学年順位は上の下くらい。もうちょっとで無限に補習を受け夜遅くまで自習を強制される特別クラスに編入されるところだったのに。

 

「はぁ、でも英語だけでもつらいのに、イタリア語なんて無理かもしれないわ……」

 

「心配ありませんわ。わたくしがまた手取り足取り教えて差し上げますから」

 

沙都子はそう言ってウインクし、八重歯を覗かせ悪戯っぽく微笑んだ。

 

「ほんと?じゃあお願いするわね、沙都子!」

 

沙都子とマンツーマンでお勉強は正直とってもうれしい。

 

沙都子の髪からはいい匂いがして、優しい声で囁かれる。頻繁にあの冗談みたいな大きさの乳房が当たるのよね……。もういっそマンツーマンの勉強会っていうよりは、そういういかがわしいプレイなんじゃないだろうか、あれは。

 

「では、わたくしプレゼンツ、伊語詩集朗読会、お聞きあそばせっ、ですわ」

 

流暢なイタリア語で、詩集を朗読し始める沙都子。

その意味は分からなくとも、目を閉じ、耳を傾ける。

 

沙都子と私ふたりの、これからの人生をどうやって彩っていくかを夢見ながら……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『私の記憶という本の中の、その章の最初のページに』

 

 

『貴女に初めて出逢えた日のことが、こう書かれている』

 

 

『───新しい人生が始まる』

 

 

 

                ────ダンテ・アリギエーリ『新生』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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