悩むのはみんな同じ。
頼れる友人は大事です。
まあ丸投げされる側は堪ったもんじゃありませんが。
がんばってね、メガネくん。

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交差するアオい光

 相談には乗るほうだ、というか一方的に押し付けられて乗らざるを得なくなるんだが。

 メガネだから、って理由でなんでもかんでも頼ってくるバカ二人を相手にしていると、なんだか虚しくなってきたりもするけど。

 そう、二人で既に大変なんだ。それなのに、もう一人入ってくるとは思わなかった。

「ごめんね、笠原くん。急に呼び出して」

「いや、まあ暇でしたし」

 喫茶店で向かい合うのは、我が栄明高校のエース千夏先輩。大喜を水族館に誘わせたあの時、ドサマギで連絡先は交換していたのだが、何やら話があるとかで待ち合わせ。

 電話やLINEじゃなくて、ってところがどうも気になるけど。何か込み入った話なんだろうか。

 もしくは大喜のバカがなんかやらかしたか、だな。

 俺のバカな友人その一、猪股大喜。千夏先輩は現在、こいつの家に居候している。大喜は千夏先輩にお熱で、結婚したいだのなんだのと常々言っていた。とは言えまさか突然同居することになるとは思っても見なかったんだろう、特に動きがないまま平穏に日々が過ぎている。……筈なんだが。

 千夏先輩がこうして真剣な顔をしているということは、まさか。まさか、そう言うことなんだろうか。あの突撃バカが暴走したんだとすると、何が起きていても不思議じゃない。最悪、襲うとか襲わないとかそういう話になりかねない。

 姿勢を正し、身構える。警戒だけはしておかなければ。

「あの、ね。もしかしたら、なんだけど――」

 千夏先輩は目を伏せて、言いにくそうにしながらも。

 数瞬の後、瞳に決意をこめて。

「大喜くん、私のことが好きなのかもしれないの」

 ……大真面目に、そう言った。

 

 確かに。確かに大喜は、千夏先輩が好きだ。隠す気はあるけどバカだから、何一つ隠せていない。針生先輩にせよ西田先輩にせよ、多分絶対知っている。雛だってそれを知っているから、強く押していけない。大喜が千夏先輩しか見えていない視野狭窄のバカ野郎だからこそ雛は悩んでいて、事ある毎に「あんたメガネなんだから、なんか上手い手考えなさいよ」「伊達や酔狂でメガネなわけじゃないでしょ、しっかりしろダメガネ!」とか俺に無茶を言ってくる。あのバカはメガネを何だと思ってんだ。

 千夏先輩だって、気付いてると思ってた。気付いてるからこそ、翻弄して楽しんでいるんだと思っていた。と言うかあんだけ露骨に好意を向けられて、気付かない事があるんだろうか。もしかしてこの先輩、結構なバカなんだろうか。

「まあ、ほらさ。私みたいにワンパクでたくましい子を好きになる男子とか、いないと思うんだけどさ」

 いえ貴女、栄明どころかこの地域全体で見ても比類無い美人ですけど。

 あとちょっとした芸能人クラスの人気がありますけど。

 下手したら全国区で戦えるレベルですけど。

「でもなんて言うか、ね。大喜くんの反応とか見てるとさ、なんかなー私のこと好きなのかな~とか思っちゃってさ」

 あのバカは同居が始まる前から露骨に反応してたし、貴女の一挙手一投足にまでときめいてましたけど。

 俺は何度も何度もそのノロケだかなんだか分からん、特に興味もない話を延々聞かされてましたけど。

 確信出来た。この人、バカだ。鈍すぎて人生に支障が出るレベルのバカだ。

 また介護が必要なバカが増えたのか、そう思うと頭を抱えたくなってくる。一方千夏先輩は言ってて気分が良くなったのか、真面目顔から蕩けきった笑顔になっている。

 まあ、それはそれで良い。未だにその程度か、とは思うけれど。

 問題はそこじゃない、その先だ。先輩側の、感情だ。

「あ、あー……。先輩としては、どうなんですか。大喜は、その」

 もし千夏先輩が大喜を恋愛対象として見ていないのならば、気付いた事が完全に裏目に出る。下手をすれば猪股家を出ていきかねない。逆に千夏先輩がその気になれば、すぐにでも関係が進展する。俺は雛の面倒を看ることになるだろうが、あれ一人だけならまだ良い。あっちもこっちも介護して回れるか。

「大喜くんはねー……、可愛いんだよ。可愛いし素直だし、頑張ってて可愛いんだよね」

 可愛い、か。まあ好意は有るのか。いやこれ先輩も脈ありと言うか、大喜が好きではあるようだ。そうでもなければ、いくら頼まれたってデートなんかしてやらんだろうしな。何だかんだ言っても似た者同士なわけか。

「でもさ、蝶野さんがさぁ……」

 う。やっぱりそっちへ行くか。

 俺のバカな友人その二、蝶野雛。最近になって大喜が好きだと自覚したものの、その前から好意がダダ漏れだったぶきっちょ過ぎるバカ。恋愛能力が小学生だから、照れ隠しに殴ったり雑にツンデレってみたりと傍から見てる分には面白いんだが。でも大喜と同じくなんでもかんでも俺に丸投げするから、堪ったもんじゃない。

「蝶野さんは大喜くん好きでしょ、だから困っちゃってさ」

 ……そっちはとっくにお見通しなわけだ。なんだその無駄な洞察力。

 いや、でも。バスケの為に家族と離れる程の行動力があるこの人が、ライバルの存在くらいで躊躇うだろうか。

 雛と仲が良いとも聞かないし、喋ったのだって椅子を運んだあの時が初めてだったらしいし。

 気遣いをする人ではあるだろうけど、敵に塩を送るとも思えないが。

「大喜くんは私が好きだけど、蝶野さんともお友達でしょ。ここでこっちからグイグイ行ったら、気まずくなっちゃうかもだし……。それに同じ家にいるのに惚れた腫れたってのも、由紀子さんたちに悪いし……。」

 どうにも歯切れが悪い千夏先輩を見ていたら、何となくわかってきた。この人は気を遣っているわけじゃない、単に日和っているだけだと。ここから先へ進むのが怖いから、理由をつけて足踏みしているだけだ。

 あと「私が好き」と断定してるし、この人こそ大喜のこと好きすぎる。

 さて、どうしようか。とりあえず尻を蹴り上げて進ませないと、話になりそうもない。

 千夏先輩から行かせるには、多少でも焦ってもらうしかないか。と言うかそもそも同居自体が期限付きなんだから、自分でもっと焦って欲しい。この人は呑気すぎる。雛には悪いが、荷担させて貰おう。

「うーん……。遠慮して動かないってのは良くないですよ。大喜のやつ、あれで結構モテますから」

 一応嘘は言っていない。確かに顔は可愛いし女子からは意外と人気がある。ペット的な意味合いで、だけど。

「え"?」

 いつぞやの連絡先が賭けの対象になっていると知ったときみたいな顔をする千夏先輩に、更に追い討ちを見舞ってやる。

「競合先は雛だけじゃないですから、行く気なら早めにしないと不戦敗になりますよ。それに家族公認で近くにいるんだから、そういう関係になっても文句は言われないと思いますよ。むしろ、アドバンテージは活かすべきです」

 まあ俺はどっちでも良いんですけどね、と伝票片手に席を立つ。長々と話しても不毛だ、あとは一人で悩んでもらうべきだろう。

 なんでもかんでもやってあげるって訳にはいかない、相談には乗るが過度のアシストはしない。俺だって聖人君子ではないんだ。

 結果がどうなるかは、分からない。でも可能であれば、誰も傷つかないで欲しい。

 面倒は御免だから、な。

 俺としてもこれ以上バカに振り回されたくないから、助力くらいはするさ。

 さて、どう出るのやら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんな、匡。今まで気付けなくて――」

「おい待てバカ、お前千夏先輩になに吹き込まれた!?」

「いや先輩が、男の子は男の子同士で恋愛するのが良いんじゃないかなーって……」


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