ノーゲーム・ノーライフ in SAO   作:たゆな

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── 九話 ──

「──はーいッ! それじゃあ、そろそろ始めさせて貰いま〜す!」

 

 騒がしい音が散らばる広間に、だが──とても爽やか且つ、聞き取りやすい声と拍手が響く。

 

「……今日は俺の呼び掛けに応じてくれてありがとう! 俺は──ディアベル! 職業は……気持ち的に『ナイト』やってますッ!」

 

 ──ジョブシステムなんてねェだろ! ……などというツッコミと共に、場が笑い声で包まれる。

 斯くこのように、コミュ力極まれりな演説のスタートを切るディアベルという男。そんな彼のカリスマ性とは対称的に、“陰”のオーラを纏うコミュ障が二人……否──四人。

 

「……しろ、みたいな……陰キャ、には……笑い所……分から、ない」

 

「大丈夫だ白。俺達が陽キャのノリを無理に理解する必要なんてない……むしろ笑い所が分からないのなら、彼等の言動が理解に能わぬというのならッ! その全てを冷笑し……奴らとは違う生き物であることを証明し続けることこそが正しい対応であり、俺達の進むべき道だ──キリトとアスナもそう思うだろ? なぁッ!!」

 

 自称ナイトとやらを囲む様に存在する石段の十段目辺り──その隅で震えながら喚く二人を、半目で見つめながらため息を吐く──幼い顔をした黒髪の少年。

 

「お前らと一緒にしないでくれ……はぁ──このまま歳を重ねたら俺もこうなるのか? ダメだ……早く何とかしないと」

 

「わ、私も笑い所は分からないけれど──それはちょっと過剰に反応し過ぎじゃないかしら?」

 

 眼前の反面教師に己の精神性を悔い改めたキリトへ続いて、困惑気味にそう零すアスナ。

 

 戴冠式にて──数多のエルキア国民を前に大演説を繰り広げた事など、とうに記憶から滅却しているらしい空白(ふたり)

 同志であるはずのコミュ障二人による同意が無かったことに対し、割と深めのショックを受けて──だが。

 

「──今日、俺たちのパーティが……あの塔の最上階でボスの部屋を発見したッ!」

 

 その言葉で一変した空気に、四人の視線もまたディアベルへと向き直る。

 あの塔──広大なマップに公然と存在する『迷宮区』と呼ばれる円柱状のダンジョン。アインクラッドの各フロアにあるらしいそれは、依然として攻略が進まず第一層に留まり続ける彼等にとって、既に見慣れ切った建造物であった。

 

「俺たちはボスを倒し、第二層に到達してッ! このデスゲームも……いつかきっとクリア出来るって事を《始まりの街》で待っている皆に伝えなくちゃあならないッ! それが……今この場所にいる俺たちの義務なんだッ! そうだろ? 皆!!」

 

 やはりと言うべきか、第一印象の通り──そのカリスマ性を以て、瞬く間に広間へと集まったプレイヤー達の心を掴んだディアベルなる男。

 

「へぇ〜……結構アツい奴が居るもんだなぁ。あれほどの語りに、心が揺さぶられない方が珍しいんじゃないか?」

 

「……始まってから一ヶ月も経ってるのに、未だ前線が停滞中だったのは──それらを纏めるリーダーが居なかったから……なのかしら?」

 

 感慨深そうに呟くキリトと、だが疑問を浮かべた様子のアスナを一瞥すると──、

 

「まぁ──最初の報道を含め、死者は五百人弱(・・・・)。その死者のほとんどがベータテスターっつー情報がばら撒かれりゃ……元々恐怖で街を出られない初心者達は勿論のこと、ベータテスターですら足が竦んじまうのも無理ねェわな」

 

 その事実をばら撒いた──否、ばら撒かせた(・・・・・・)張本人たる彼が続ける。

 

「そんな状況下で足を止めずに──そして皆で勝つ為に、情報を共有しようッ! ……なんて吐けるあいつは、確かにアツい心を持った良い奴なんだろうな」

 

「……にぃ、が……素直に、他人(ひと)を褒め、た──気持ち悪い」

 

「──ただ褒めただけなのにッ!?」

 

 兄の含みを持ったその物言いに、あまつさえ暴言を吐き捨てた白。

 

「懸念はあるが……実際に行動を起こして、会議まで開いているのは事実だ──ま、目的が何であろうと……俺らのやる事は変わんねぇよ」

 

「──そうね。予定通り(・・・・)、進行を待つとしましょう」

 

 

 

***

 

 

 

「オッケー! それじゃあ、早速だけど……これから攻略会議を始めたいと思うッ! まずは、六人のパーティーを組んでみてくれッ!」

 

「「「「!!??」」」」

 

 六人(・・)のパーティー、この場にコミュ障は四人しか存在しない訳だが──そんな彼らが、更に二名の人員を集めるにはどうするべきか。

 

「フロアボスは単なるパーティーじゃ対抗できない! パーティーを束ねた、レイドを作るんだッ!」

 

 そもそも、勝手に集まっただけの彼らが──自ら行動し、他人に話し掛けるなど出来るはずもなく。

 

 果たして──身動き一つ取れず、孤立(・・)した四人は……尚も堂々と、まるで最初から四人で行くつもりでしたと言わんばかりの表情で座り込んでいた。

 

「よ〜しッ! そろそろ組み終わったかな? じゃあ──」

 

「──ちょお、待ってんかッ!」

 

 嗄れた男の声が響き渡ると同時に、四人が座る石段の更に上方から──トゲ頭の男が勢いよく駆け下りてきた。

 

「ワイはキバオウってもんやッ!! ボスと戦う前に言わせて貰いたいことがあるッ! ……こン中に、今まで死んでいった五百人に──詫び入れなアカン奴がおるはずやッ!」

 

 突如現れた男の口にした内容に、騒めきが広がる。

 

「キバオウさん君の言う奴らとはつまり、元ベータテスターの人達の事……かな?」

 

「決まってるやないかッ……ベータ上がり共は、こン糞ゲームが始まったその日に……ビギナーを見捨てて消えよったッ! 奴らは美味い狩場やら、ボロいクエストを独り占めして……ジブンらだけポンポン強なって! その後もずぅ〜っと知らんぷりや! ッこン中にもおるはずやで……ベータ上がりの奴らがッ!」

 

 自責の年を含んだ面持ちを下げる、ただの幼き少年を──全くもって咎める意志など持たない三つの視線が見つめる。

 

「そいつらに土下座さしてッ! 貯め込んだ金やアイテムを吐き出して貰わなッ……パーティーメンバーとして命は預けられんし、預かれんッ!」

 

 今にも前に出ようか否かと葛藤するキリト。

 

「──発言良いか?」

 

 と、そんな彼を前に……一人の大柄な男が立ち上がった。

 

「俺の名前はエギルだ。キバオウさん、あんたの言いたい事はつまり……元ベータテスターが面倒を見なかったから、ビギナーが沢山死んだ。その責任を取って謝罪、賠償しろ──という事だな?」

 

「そ、そうや」

 

 ──はて? 空が流させたはずの情報は既にアインクラッド中のプレイヤーの耳に入っているはずだが──このトゲ頭も、このハゲ頭もその事に触れる様子はない。

 キバオウなるこの男は……それを知った上で、ベータテスター達から金品を剥ぎ取ろうとしていることに──もしやこれは、茶番か?

 

 トゲ頭の返答を聞くやいなや、大男はおもむろに胸元から何かを取り出す。

 

「……このガイドブック、あんたも貰っただろ? 道具屋で無料配布しているからな」

 

「もろたで? ……それがなんやッ!」

 

「配布していたのは──元ベータテスター達だ」

 

 その事実によって再度響めきが広がる。無論、中にはそれを知っている者の反応も含まれていたのだろうが──。

 

「いいか? 情報は誰にでも手に入れられたんだ。なのに沢山のプレイヤーが死んだ……この失敗を踏まえて、俺達はどうボスに挑むべきなのか……それがこの場で論議されると、俺は思っていたんだがな」

 

 どうやら観念した様子で、石段へと腰を掛けるキバオウ。

 

「じゃあ、再開していいかな! ボスの情報だが──実は先程、例のガイドブックの最新版が配布された。それによるとボスの名前は『イルファング・ザ・コボルド・ロード』、それと『ルイン・コボルド・センチネル』という取り巻きが居るッ! ボスの武器は斧とバックラー、四段あるHPバーの最後の段が赤くなると──」

 

 そこまで静かに聞いていた空が、キリトへ向けて何やら意味深な目配せをする。

 

「曲刀カテゴリのタルワールに武器を持ち替え」

 

 その視線を受けて、緊張を浮かべた少年が悠然と立ち上がった。

 

「──発言、いいだろうか」

 

 ディアベルの説明を遮った黒髪の少年に、広間の視線が集まる。

 

「つい最近──俺達のパーティーが、西の森のとある洞窟で石碑を見つけたんだが……その石碑には、コボルドの社会図のような物が描かれていた。具体的には──コボルドの王が代替わりしている……というモノなんだが」

 

「──何だってッ!?」

 

「そのガイドブックの情報で合点がいった。曲刀のような武器を持った王が敗れ、()のような武器を持った者が新しい王座に──そんな絵だった」

 

 つい最近──もっと言えば、この攻略会議が始まる直前に得られた情報であったが……お陰で“ぼったくり情報屋”に流させる手間が省けたこの事実。

 

「なるほど──この情報を無視する訳にはいかないな……よし、彼の話を元に、俺はその刀のような武器についての情報を集める事にする。今回の攻略会議は以上だ! 最後に、アイテム分配に着いてだが──」

 

 どうやら茅場晶彦が、ただプレイヤー達へ理不尽な死を押し付けた訳ではない可能性に対して──確信を持つに至ったこの情報。

 

 ──やはり、ゲーマーであるらしいその男が……いずれは自分達と同じくプレイヤー(・・・・・)として現れるのだろうと断定して。

 

 元居た世界や盤上の世界(ディスボード)、そしてこの世界を含めた全ての世界において、性格の悪さナンバーワンを誇る男の口元が──不敵に歪んだ。

 

 

 

 

 

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