恭介side
「…きなさい。起きなさい。起きて。」
誰かの声がする。
ぼんやりを開ける。
部屋はすっかり暗くなっている。
もう随分な夜中だ。
枕もすっかり乾いていた。
「起きて。」
ここに僕以外の人間がいる。
その事実にようやく気づいて僕はガバリも起き上がる。
そこにいたのは黒髪の凛とした同い年くらいの少女。
そして緑の髪の女とも男とも言えない綺麗な人。どちらかと言うと青年。真っ白な服を着ている。
「貴方が演奏できるようにしてあげる。」
「えっ?」
寝耳に水だった。
「またバイオリンが弾ける……んですか。」
「そう。だけど貴方も失ってしまう事になる。貴方の両手を。」
「じゃあどうやって僕はバイオリンを弾けば。」
「こうするのさ。」
緑の人が
まさか…義手?
「貴方の両手を義手にする。そしてこれは普通の義手じゃない。」
緑の人が再び右手に義手を装着する。
そしてあり得ないほど早く、あり得ないほど精密に指と関節を操って見せる。
まるで本当に手が生えてるみたいだ。
「こうすれば貴方は再びバイオリンを弾ける。」
「じゃっ!じゃあすぐにでも!」
僕は興奮した。またバイオリンが弾けるかも知れない。音楽をこの手に取り戻せるかも知れない!
「これは契約よ。
貴方は義手でバイオリンを弾ける体になる。
ただし、貴方の生まれつきの手は消える。
それともう一つ、貴方はこの事を誰にも言ってはいけない。
上条恭介、それでも貴方はこの契約を結ぶつもり?」
間髪入れず、僕は答える。
「よろしくお願いします。」
躊躇いはほとんどなかった。
例え悪魔でもなんでも良かった。
僕の両手が動くなら。
「じゃあ明日の朝を楽しみにしていて。」
そう黒髪の子が言った後、僕はそれきりその時の記憶はない。
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ーー
次の日、いつも通りに起きる。
昨日の事は夢だったのだろうか。
ぼうっとした頭で考える。
本当かどうかは試してみればいい。
徐に布団から手を出し、動かす。
ギュッ、ギュッ
開いて、結んで。
一気に目が覚める。
ーー指が動く!
動く動く!思った通り自由に動く!
「はっ……ははっ。」
「夢じゃ…なかったんだな。」
僕は確かめるように、何度も何度も手を、指を動かした。
「ありがとう。」
そして僕は両手を抱えるように抱きしめて、名も知らぬ誰かに感謝した。
昨日まで真っ暗に見えていた明日に、明るい日がさした。
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エルキドゥside
「うまくいったようね。」
『そうだね。立ち直れそうでよかったよ。』
病院からは離れた建物の屋上。
そこから見える上条恭介はとても嬉しそうだ。
「これで美樹さやかが魔法少女になる芽は摘めた。」
『おめでとう、マスター。』
「貴方が貴方の体から完璧な義手を作り出したから、この計画は上手く機能した。」
「今回は貴方の功績よエルキドゥ」
『ありがとうマスター。役に立てて嬉しいよ。最初にも言ったけど僕は何にでもなれる。これくらいならどうとでもなるさ。マスターこそよくあの状態のさやかを説得したね。』
マスターはさやかが上条恭介と険悪になって部屋を飛び出してきた時、無理矢理さやかを引き止めてさやかに1日だけ待ってもらうように説得した。結果、さやかはキュゥべえに願わなかった。魔法少女にならなかった。そしてマスターの思惑は達成された。
「そうね。これからもお願いするわ、マイサーヴァント」
「喜んで。」