さやかside
早く恭介のところに行きたい。
昨日はあんな事になっちゃってちょっと気まずいけど、会って話がしたい。
あんな顔はしてほしくない。
それに暁美ほむらが言っていた事が気になる。
「一日だけ、私に猶予をちょうだい。」
多分あの時あの転校生は私の気持ちに気づいていた。
だからあの後どうしたのが知りたい。
正直、アイツは信用ならない。
でもあんなにハッキリと「私なら解決できる」と言われたら、引き下がるしかなかった。
だから早く恭介のところに行きたい。
すぐにでも駆けつけたかった。
でも今日は魔法少女見学の最後の日。
休みたいとは言い出せなかった。
「じゃあ今日はこれくらいね。」
今日はパトロールだけで終わった。
最後だけど終わりは案外あっさりだ。
「私ね、魔法少女になるってとても素敵な事だと思うの。
魔女を倒してみんなを護ってる。
私達がこの街の平和を支えてる。
そして今はそれが私の誇り。
多分ね、それができるのって私達魔法少女だけなの。ね?素敵じゃないかしら?」
マミさんがくるりと振り向いて言う。
「色々言ったけど、最後に決めるのは貴方達自身。私からの魔法少女体験はこれで終わり。」
「最後に改めて聞くけど、貴方も魔法少女にならない?きっと素晴らしいわ。」
「僕からもお願いするよ。僕と契約して魔法少女になってよ!」
マミさんのセリフにキュゥべえも付け加える。
「……あの、マミさん。」
「何かしら?まどか。」
まどかがおずおずと言いにくそうにしながらも前に出る。
「実は私…その、まだ願いも決まってないし。…踏ん切りがつかなくて…。」
「だから今は保留にさせてください!」
まどかが頭を下げた。
「それなら仕方ないよ。僕だって強制はできないからね。」
キュゥべエは意外とあっさりと引き下がった。
ビクビクしながらも言いたい事をちゃんと言ったまどかを私は素直にいいなと思った。
だから、私も。
「マミさん、キュゥべえ。実は私も私の願いのホントのとこみたいなのが分かってなくて。だからそれが分かってちゃんと気持ちが固まったら、魔法少女になるよ。」
恭介を助けて、私はどうしたいんだろうか。
まだ答えては出ていない、
「そう、それが二人の決断なら私にはどうしようもないわ。」
「まどかも、さやかも、僕はいつでも君達を待ってるよ。」
まだはっきりと私もまどかも決心はできてない。
でもこの先の事は、私もまどかも決めていた。
「「それまでは私達にお手伝いさせてください!」」
「…つまり体験入学の延長?」
「その、魔法少女になるかどうかはともかく、マミさん達がやってるのってすごく立派な事で尊敬できる事だと思うんです。」
「だから…私達も、お手伝いしたいなって。」
私とまどかがそう言うと。
マミさんは照れたように笑った。
でもすぐにマジな顔になって。
「そう言ってくれると嬉しいわ。でもそれは同時に貴方達により危険がつきまとうと言うことよ。貴方は一般人のままなのに。魔女の恐ろしさは2人とももう知っているはずだもの。やれる事も多くない。それでも、やってくれるの?」
「もちろん、さやかちゃんにお任せあれ!」「う、うん。 」
マミさんがぽつぽつと語る。
「私ね、ずっと1人で戦ってきた。」
「孤独を誤魔化しながら戦ってきた。」
「その、今本当に嬉しいわ。」
「だから、本当にありがとう。二人とも。」
「これからも1人なんだと心のどこかで思っていたみたい。」
「マミさん今更何言ってるんですか〜。」
「マミさん、その、私達もう。」
「「マミさんとは友達だと思ってた。」」
私達が笑う。
マミさんは不意を突かれたような、びっくりしたよような、そんな顔。
でも、それもすぐに崩れてーー
「まどか…さやか…。そう、私もう1人じゃないのね。」
「私を友達と言ってくれるのね。」
「本当にありがとう。」
マミさん泣きそうだ。
私とまどかでマミさんを支える。
「えへへ、マミさん泣かないで。」
「今はもう…嬉しくて…。」
「マミさんは可愛いなぁ。」
「えへへ、そうだねさかかちゃん。」
「ありがとう…ありがとう…。」
マミさんが手でぐしぐしと目を擦っていつものかっこいいマミさんに戻る。
「私はいい後輩に恵まれたわ。」
「今日はお祝いね!今から私のお家でパーティーしましょう!お友達記念で。」
「もう、いちいち友達が出来たぐらいで大袈裟ですよ。」
「でもさやかちゃん楽しそう。」
「ありゃ、バレた?」
「それぐらいわかるよ。」
「そうと決まれば帰って支度しなきゃね。まどか達も一度お家に帰りなさい。親への連絡とか準備とかを済ませて、パーティーを存分に楽しみましょう。」
それから私とまどかはその場を離れた。
私もウキウキで家に帰ろうと思ったけど、すぐに恭介の事を思い出した。
「ごめんまどか、先帰ってて。私マミさんに用事思い出したから。」
この用事は外せない。
だからマミさんには少し遅れる事を言っておかなきゃ。
すぐにマミさんの元に蜻蛉返りする。
駆け寄ろうとして躊躇う。
マミさん以外の声がしたからだ。
そしてその声の主人はすぐに分かった。
暁美ほむら、あの謎多き転校生だ。
なんとなく私はその場に出て行けず、その二人の話をこっそりと聞いていた。
「もう話し合いでどうにかなる時は過ぎている、そう前に警告したはずだけど?」
「それでも聞く価値はあると思うわ巴マミ。貴方がこの街を守りたいなら。」
「…聞かせてもらいましょうか。」
「3週間後、この街にワルプルギスの夜が来る。協力して欲しい。」
「なるほど、それは一大事ね。その話が本当ならという前置きはつくけど。」
「信じなければ勝手にこの街が滅びるだけよ。」
ワルプルギスの夜?街が滅びる?
…ダメだ。私じゃなんの事か分からない。
「私はもう1人じゃない。もう誰にも負けないわ。話はそれだけよ。」
マミさんはそれだけ言って帰ってしまった。立ち尽くす暁美ほむら。
結構凄いこと聞いちゃったかも知れない。
でもその場で暁美ほむらに詳しく問い詰める勇気はなかった。
それにどちらかとと言うと、勝手に盗み聞きした事の罪悪感が…
私は聞いた頭の中でグルグルと考えつつ最初の予定通りに病院に行くことにした。
ーー------ーーー
-----
ーー
恭介の病室。
恭介の病室の前に着いた、けど。
っふー。
気まずい。
なんというか、気まずい。
昨日の口喧嘩がまだ後を引いている。
私、恭介にどんな顔してあえば。
いや、こんな事考えなくていいんだよ!
いつも通り、いつも通り!
ほら、笑顔笑顔!
これはこれでなんか恥ずかしい…。
恭介の病室のドアを開くだけで、こんなに苦労するなんて。
あー、もう!
こう言う時に限って、気にしてるのは自分だけでその事に後から気づいて自分が恥ずかしくなるだ!
今回もきっとそうだ!
そうと分かればさぁさぁいくよ!
ノリと勢い、大事!
私は自分を盛大に景気づけて恭介の病室に踏み込む。
「…恭介?きたよ。」
ちょっと声が上擦っちゃったかも知れない。
「ああ、さやかか。」
「あのー、昨日はなんか言い過ぎたっていうか、そのーー」
「ねぇねぇさやか!」
私の言葉を遮って恭介が話す。
恭介は普段ならこんな事しない。
だからそれだけ興奮しているようだった。
そして恭介は徐に小さな机に置かれていたケースに手を伸ばし、中からバイオリンーー京介が愛用している年季が入ったやつーーを取り出した。
そして顎と肩で挟んで
「…まさか」
私はその時期待した。
もしかして……。
もしかしてもしかしてもしかして!!
「〜〜♪」
ーー奏でる。
指が動かないはずの恭介が。
個室とは言えその音は決して大きくはない。
しかし、どこか安らぎと隠しきれない喜びを伴って。
「これ、ベートーヴェンの田園の最後」
そう、確か
『牧歌 嵐の後の喜ばしい感謝の気持ち』
多分これは、恭介なりの仲直りの意志。
そして苦難を乗り越えた喜びの発露。
それに以前の恭介にはなかった音の不器用さ。
それが私にとって、何よりも回復を意識させた。
「さやかに、一番最初に聞かせたいと思ってさ。練習したんだけど、やっぱり本調子にはまだ遠いかな。」
ささやかな恭介の演奏会が終わると、恭介はバイオリンを撫でながら照れたように笑った。
「おめでとう!すごいじゃん恭介!治ったんだ!」
世界は恭介を見捨ててなかった。
恭介はまたバイオリンを弾けるようになった。
恭介の演奏が、また聞けるようになった。
それが私にはとても、とてもとても嬉しかった。
それに私が一番、私が一番って。
恭介も、私の事を思ってくれてるだなぁ。
それにやっぱり、昨日のことを気にしているのなんて、やっぱり私だけだった。分かりつつも、どうしても気にしてた私がバカみたいだ。
自意識過剰だった過去の私がすごく恥ずかしい。
でも今は、素直な喜びの感情に湧いた。
「ーーやっぱりさ、奇跡も魔法もあるんだよ。」
「そうだね。」
私と恭介はお互いに見合って、また笑い合った。