さやかside
「おはよー!」
学校に向かう生徒の群れの中に、私はまどかと仁美を見つける。まどかの方にはキュゥべえーーやっぱり見えていないーーが座っている。
「おっはよー」
「おはようございます。」
今日も2人は元気そうだ。
もう私とまどかと
『もうキュゥべえとあってから1週間経ったしねー。』
『色々なことがあると時間が早く感じるよね。』
『1週間前のまどかは魔法少女の衣装を真剣考えてたっけ。ひゅ〜、かっわい〜。』
『ちょ、さやかちゃん!その事は蒸し返さないでよ。…思い出しても恥ずかしいよう。』
こうしてテレパシーを使った会話が普通に行えるぐらいには慣れた。
「やっぱり、お二人は2人の目線だけで会話なさっているのね。2人の世界なんですね!いけませんわ!いけませんわ!お二方、女同士で……それは禁断の恋の形なんですのよ!」
「仁美ちゃんがさやかちゃんみたいな事言ってる…。」
「どーゆー意味だよまどか⁉︎」
「そういやさ、恭介の指なんかだいぶ良くなったみたい。そのうちコッチ戻って来れるかもね!」
私は嬉々として吉報をまどか達に話す。
「それは大変おめでたいですわね!お赤飯の準備ですわ!」
「仁美ちゃんそれ多分間違えてるよ…でも、上条君も良かったね。バイオリンまた弾けそうなの?」
「最近まで医者に無理だって言われたのに、急に動くようになったんだって。」
「優しい魔法使いさんが魔法をかけてくれたのかな。」
「まどかさんらしい意見ですわね。何はともかく、とても喜ばしいのは事実ですわ。」
私もまどかも、それが完全なデタラメとは言い切れなかった。
魔法も魔法使いもいる事を知ってしまったのだから。
『……もしかして、本当に誰かがキュゥベイに願ったの?』
私は唐突に示された可能性を確かめずにはいられなかった。
『いや、そんな事はありえないね。昨日僕が三滝原で交わした契約はないよ。純粋な、彼自身の幸運によるものかも知れないね。』
しかし結果はハズレ。
やはり、暁美ほむら、彼女なら何か知っているのだろうか。
私は学校であったら必ず彼女を問い詰める決心をした。
「そういえば私も昨日は上条さんに会いましてたのよ。」
「病院の屋外ベンチでバイオリンを弾いていましたの。」
「前回お聴きしたほどの精彩はなかったのですけれど、とてもお上手でしたわ。」
「…っえ?仁美昨日恭介に会ったの?」
「ええ、最近はお二人ともご用事でお忙しいご様子。私は一人寂しく帰っていましたら、バイオリンの音が聞こえてきましたので是非近くで拝聴しようと思いましたら上条さんだったんですのよ。久しぶりなので少々話し込んでいましたが、退院できそうという話は今日知ったばかりかんですの。」
「ヘッヘ〜、会ってたんだ〜。」
思わず声が上ずる。
思った以上に動揺してしまったみたいだ。
「何かありまして?」
「いっ、イヤ何も。そう言えばなんだけどさ〜。」
そっかぁ。
『さやかに、一番最初に聞かせたいと思ってさ。
一番最初は私じゃなかったのかぁ。
そっかぁ………
そういえばこの感情、最近体験したなぁ。
そうそう、あれだよ。
勝手に私だけ気にしちゃって、バカみたい。
別に恭介が私のために演奏してくれた事実は変わらない。
でも何か、薔薇の棘のような小さな針が私の心をチクリとさした。
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恭介の指が奇跡的に動くようになってから、恭介のリハビリはガラリと変わった。
恭介の取り込む姿勢も。
その内容も。
恭介は精力的にリハビリに勤しむようになって、今日は歩行訓練をしていた。
今までは指を動かす事がメインだったけど、昨日からは足がメインだ。
それに歩行訓練をする事になったのは、ベットの上の生活が続いたせいで足の筋力が落ちたからだ。
多分すぐに良くなるんだと思う。
恭介は介助士さんと共に、病院の周りのを歩いている。
私はハッと用事を思い出して、遠目から見ただけでその場を後にした。
魔法少女に休みはないのだ。
私は急いでマミさんとの集合場所に走った。
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ーー
私は今、また走ってる。
魔法少女お手伝いが終わって、今度は病院に向かって。
ちなみに走っている意味は特にない、はず。
病院の近くまでくると、歩きに切り替えて息を整えながら病院入り口を目指してゆっくりと進んでいると、不意にバイオリンの音ね。
なんとなく私はそれにつられるように近づいて
ーー病院の広場の草原で、バイオリンを弾く恭介と
私は咄嗟に隠れた。
別にやましい事は何もないのに、隠れてしまった。
すぐに演奏は終わりを迎えてた。ささやかな拍手ーー仁美のだ。
そして恭介はバイオリンを持ったままそのベンチに座って仁美と話しているようだった。
遠目から見ても、仁美はとても楽しそうだった。
恭介も満更ではない様子に見えた。
ーー仁美もあんな顔、するんだぁ。
一緒に長く時間を過ごしたはずの私でさえ知らない顔。
それが恭介だけに向けられている。
…ズキッ
まただ。
またコレだ。
何かがチクリと刺すような、この感じ。
2人が立ち上がって別れた。
仁美がこっちに来る。
私急いでその場を離れた。きた時よりもずっと早くその場を離れた。
なぜかは分からないけど、私は仁美から逃げ出していた。
結局、その日は恭介の病室には行かなかった。
……何やってんだろ。私。
私は私がわからなかった。
▼▲▼▲▼
「明日からは恭介さんも学校に来るようですよ。」
「へー、上条くんそんなに回復したんだ。」
「最近まで見舞いに行っていた身としては中々に信じがたいよ。」
「本当にすごい事なんだね!健康が一番だよ。」
まどかは元気そうだった。
私は…なんだか複雑だった。
大丈夫だよね?いつも通りのさやかちゃん、できてるよね?
私は一方的に、仁美と恭介を気まずく思ってる。
聞きたいこともたくさんある。
昨日のアレはなんだったのか、とか。
なんで今日は上条さんじゃなくて恭介なのか、とか。
でも聞けない。
聞いたら、聞きたくないことまで聞いてしまいそうな気がした。
それに明日には退院して学校に来るなんて、私聞いてない。
恭介と仁美はどれだけ仲良くなったのだろう。
もとからこんなに良かったのかなぁ。
でも二人がどれだけ仲良くしてようと、私には関係ないはずだよね。
喜ばしいことだよね。そう私の心は呟いたけど、私の気持ちは一層曇り空みたいにどんよりとしていた。
▼▲▼▲▼
恭介が学校に来るようになった。
久々だからか、恭介の席の周りにはたくさん人がいる。
「上条…お前怪我は大丈夫なのか」
「家にいてもリハビリにならないしね。できるだけ早く完治したいんだ。」
「よかったね。上条くん。」
まどかが屈託なくいう。
「うん…。」
「どうしたの?元気なさそうだけど。」
「あー、私なんか今日は風邪っぽくて。」
「さやかちゃん大丈夫?」
「珍しいですわね。」
まどかも仁美も心配そうだ。
「大丈夫大丈夫!明日には治ってるよ!」
だから精一杯、今の元気で笑ってみせる。
「さやかちゃんも行って来なよ。まだ声かけてないでしょ?」
「私は…いいよ。風邪うつしちゃ悪しい。」
「……」
まどかは納得したみたいだけど、
仁美は何か考え込むような仕草だった。
その後も結局、あたしは恭介に積極的に関われなかった。なんとなく、気後れしていた。恭介も私に話しかけたりはしなかった。
自分もそうしてるくせに、恭介が私を無視してるみたいで私はもやもやした。
だけどやっぱり、自分から話しかける勇気は無かった。
ああ、自意識過剰なのは私だって、分かってるのに。
なんでもないように恭介とお昼の時間を過ごしている仁美が、この時は羨ましかった。
次の日の放課後、私は仁美に呼び出された。
仁美にいつもの柔らかい雰囲気は無かった。
なんとなく私も、身構える。
「私、どうやら恭介さんのことが好きみたいですわ。」
仁美は不意打ちのように唐突にそう言った。
「さやかさんは恭介さんの事どう思っていますの?私はさやかのことを親友だと思っといますわ。恭介さんへのあなたの献身も少しは知っているつもりでしてよ。だから抜けがけはしたくないんですわ。もし何もないのでしたら、全て私の思い違いでしたら、私は恭介さんにこの想いを打ち明けるつもりですわ。」
「私、親友に不義理を働くような事はしたくないんですの。」
あまりにいきなりのことで。
「私は…。私は…。恭介を…。」
言葉に詰まる。
今まで考えようにしていた、その先の答え。
私は恭介をどう思っているのだろう。
魔法少女になって恭介を助けようとした私は、何を恭介に求めていたのだろう。
「今すぐに答えを言えとは言っておりませんわ。ただ何もしないようでしたら私は明後日に恭介さんに想いを告げるつもりですの。それまでに、よく考えて結論を出してほしいですわ。」
その場には1人答えを出せず佇む私だけが残された。