まどマギ杯期間中は毎日投稿完走できてよかったです。
なんだかもういっぱいいっぱいになって、私は学校を離れた。
でも、気持ちの整理もできなくてそのせいか家に帰るのも違う気がした。
結果、当てもなく私は今歩いてる。
フラフラ、歩いてる。
「さやか…君は重く考えすぎだよ。」
私にいつもの元気がないからなのか、キュゥべえもまどかじゃなくて私についてきてくれていた。
「どんな困り事でも解決する。それが奇跡だよ。」
「もしが望むなら、僕は今すぐにでも君の願いを叶えるよ。」
もしかしたら、これもキュゥべえ流の心配の仕方なのかも知れない。
それにしてはあまりにも不器用だけど。
でも私を気にしてくれるだけで私はこの白いネコみたいなのを憎めなかった。
「よっ、お前も魔法少女?ならさ、暁美ほむらってやつ知らない?」
「おい。気づいてないのか?お前だよお前。そこの青髪の。」
今更気づいた。
「え?私?」
「あんた以外に誰がいるんだよ、キュゥべえなんてくっつけてさ。」
真っ赤な髪を一本に纏め、ポッキーを片手に勝ち気な笑顔。
「それで、暁美ほむら。知ってるの?知らないの?」
ポッキーをぼきりと折って、赤髪は不敵に笑った。
「そもそも、お前は…。」
「あー、通りすがりの魔法少女。暁美ほむらって奴に声かけられたのにアイツどこにいるかわかんねーからさ。探しにきてやったんだよ。つーか、お前ってなんだよ。先輩には敬意払っとけよ?まぁ、私は佐倉杏子、杏子さんで許してやんよ。」
「何か誤解してるみたいだけど、私、まだ魔法少女じゃないから。あと暁美ほむらについては詳しくない。今どこにいるかも分からない。ごめんね杏子さん。」
ちょっとだけイラッときたけど、それでいちいちイチャモンつけるほど私も暇じゃなかった。
「なんだよ使えねぇ。てかなんて辛気臭い顔してやがる。なん徹後だよ。」
「ならアタシがサイコーに楽しい事。教えてやんよ。ほら、来な。」
「…え?ちょっ、まっ」
気づくと杏子さんに手を引かれて私は歩き出した。
そして間違いなく相手は魔法少女。私で引き留めらるはずもなかった。
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ピカピカ光るマシンの数々。
そこにいる人達は太鼓を叩いたり、釣りしてたり、カーレースしてたりメダルじゃらじゃらしてたり。中には競馬してる人もいればアイドルのプロデュースしてる人までいる。
「楽しい事って、ここゲーセンじゃん!」
「おっ、来たことあんだ。そうだよ!ヤな事なんて抱えすぎてもいい事ないからね。ゲームは楽しいし。」
来る道すがら何となく打ち解けて、気づいたらタメ語になってた。
杏子も笑って許してくれた。
「おっ!ゲーセン来たんだからさ、パァッとゲームして遊ぼうぜ!」
「でも私ゲームなんて詳しくなくてさ…。」
ゲーセンとかにきた回数は片手の指の数で足りるくらいかなぁ。
「やりぁ分かるんだよ!…あっ、『クレイジータクシー』じゃん。これやろうぜ!私の近所からはコイツが気づいたら消えててさぁー。ちょうどやりたかったんだよねー。」
画面では人を乗せたタクシーが人とか車とかぶつかりながら狂ったような暴走運転で客を目的地まで運んでいた。
アクセル踏みっぱなしで車体が宙に浮いたりしている。
「客も喜んでないで運転手止めなよ…。」
「バッカ、こっちの方がスリルあって早く着いて楽しいんだよ。見ろよ!チップまでよこしてきてるぜ!」
「クレイジーなのは客も同じなんだね。」
「次これやろうぜ!『スーパーリアル麻雀PⅤ』」
「普通の麻雀のゲーム?麻雀は大門道夫ぐらいでしか分からないかなぁ。…ってうわぁ!勝ったら急に脱ぎ始めたぁ!どうなってんるんだよこれ!」
「そりゃ当たり前だろさやか。これ脱衣麻雀だぜ?」
「うっひゃあなんてものやってんだよもぅ!中学生には早すぎる一品だよ!」
「まぁまぁなんでもやってみなきゃだ!次さやかな!」
「なっ、私は女の子裸とかキョーミないし!」
「勝つ前提なのかよww」
「でももうお金入れちゃったか…女は度胸!やるしかない!」
\\悪いわね。天和よ!!//
「え?なにこれ何が起きたの?」
「あちゃー。ホントこのゲーム容赦ねーよなー。初心者相手に一撃必殺とか。私もこのゲームには4回ぐらいはこれ食らってんだよな。」
「なっ!いきなり一撃必殺って!手加減で奴を覚えた方がいいよこのゲームは!ってか4回⁉︎この理不尽攻撃を4回⁉︎血も涙もない!」
ほんとうにどうしろっていうのさ。
「2人でゲーセンきたからにはやらないとなぁ」
「ストファ!待ちガイルするゲームだ!」
「あまりにもひどい偏見だなそれ!」
「さやかちゃんの真空波動拳は痛いよ!」
「へっ!当たらなきゃ威力なんて関係ない!それにしても結構できるじゃん!覇王翔吼拳を使わざるを得ないね!」
「それゲーム違うくない⁉︎」
「筋肉が全てを解決するんだよ!パワーこそ正義だ杏子!」
「だからこそ私の攻撃にはまるんだよ!喰らえ、バイパーハドロン砲!」
「うわぁぁなんでビームが曲がって⁉︎私の機体がぁぁぁ!」
「出直してきな。千年後にぐらいに。」
「すぐだね。」
「おいおい、見ろよこの台。こんだけ有ればしばらくはチョコレートに困らねーぞ。」
「でもこのクレーンゲームのアームの強さじゃ、この積まれたチョコの山は崩せない気がする。」
「まぁ見てなって。ここは一つ、プロの出番って奴だ。」
「ほほう!それではお手並み拝見。」
「ーよしいいぞ。もう少し奥。ここだ!…って少しも動かねーじゃねぇーか!」
「このアーム貧弱すぎるよ!プロテイン飲め!プロテイン!」
「プロテイン飲んでもアームに筋肉はつかねーだろ。てかムキムキのアームとか想像しただけでキモいな。大人しくチョコタワーの上澄うわずみだけもらうか。」
「やった!チョコゲットだよ!」
なんだろう。普通に楽しい。
さっきまで落ち込んでたのが嘘みたい。
「人間というのはよく分からないよ。こんな事してなにになるというのさ。」
キュゥべえは終始こんな感じだから放ってる。
でも勝手についてくるからヨシ。
「そろそろ軍資金も少なくなってきたし締めにしよう。よし!あれだな。あれやろうぜ!」
杏子が指さす方にはリズムに合わせて踊って、ステップの判定でスコアを競うゲームが。
「対戦しようぜ。対戦。ほら、さやかもやろうぜ。」
「初めてだけど負けないよ〜。」
「上等!」
結果は見るまでもなく惨敗。
流れてくる足のマークに私が咄嗟に対応できるはずもなく。
「あれ?あれれ?」
下手っぴな足移動。リズムも何もあったもんじゃない。なんだこれは。
一方横を見れば タンタンタタタンとリズミカルにステップを踏みその上ダンスの振り付けまで完璧に踊る杏子の姿が…
「完敗だよぉ〜!」
「まっ、こんなもんだね。」
遊んで遊んで遊び倒して満足した私と杏子はクレーンゲームやらガチャガチャやらの景品を持ってゲームセンターのドアを潜る。
出てきた時の私の顔は、入る時の私に比べて180度変わっているだろう。
もちろん、いい方向に。
「あ〜、今日は楽しかったな。なんか有ればまた声かけろよ。付き合うぜ?」
杏子のさっぱりした笑顔。
ふと、というかずっと思っていたけど忘れていた疑問を思い出す。
「ねぇ、なんで杏子は私をゲーセンに?」
「そーだな。お前がシケたツラしてたから。」
「あはは、ちょっと落ち込んじゃっててさ。ほら、乙女の悩みって奴?」
「なんだよそれ。」
私も杏子も笑う。
「それにさ、そんな重い顔見てたらコッチの菓子まで不味くなるだろ?つまり自分のためだよ。私はさ、徹頭徹尾、自分の人生は自分に使うって決めてるんだ。だってその方が自分がどうなっても他人を恨まずに済むだろ?だって全部自分の選んだ人生なんだからさ。」
「なぁ、さやか。」
「さやかに何があったかは知らねーけどよ。だけどさ、希望ってのがあれば絶望がある。そうやって差し引きをゼロにして世界は回ってる。なぁ、さやかは散々苦しんだんだろ?散々絶望を味わったんだろ?ならあとはやりたいようにやりな。それが一番うまく行く。」
「……やりたいようにやる。」
「そっか……。」
「そうだね……。」
不思議と杏子の言葉はストンと胸に入って、これだという確信が私の底から湧いてくる。
「決めた。杏子、私もそうするよ。」
「私もやりたいようにやる。」
「おう。周りなんて気にするな。ぶちかましてやれ!」
「おう!」
私と杏子の拳がコツンと乾杯する時みたいに真っ直ぐにぶつかって、それが私たちの別れの挨拶だった。
私の足取りにもう迷いはない。
▼▲▼▲▼
校舎の裏、私と仁美の一対一。
「ねぇ仁美。仁美は恭介が好きだってここで断言できる?」
私は真っ直ぐに瞳に問いかける。
「私は恭介さんが好きですわ。もちろんですの。」
「そっか。すごい想いだと思う。でも、私も引けない。」
「だから私から提案する。告白は同じ時にしよう。それで直接恭介に選んでもらう。それで恨みっこなし。」
「さやかさん。それがどういう事か分かっていますの?私が告白するのは明日、今日さやかさんに恭介さんに告白するだけの時間がある。そう宣言したはずですわ。」
「わかってるよ仁美。もし私が恭介を好きでいるなら、仁美は身を引く。そう言いたいんでしょ?」
「ならーー
「でもさ、仁美。仁美にとって私が親友であるように、私にとっても仁美は親友なわけ。『親友に不義理を働くような事はしたくない』、このセリフ、仁美にそっくりそのまま返すよ。仁美がここまで恭介を好いてるのに告白するチャンスすら与えられないなんてそれこそ、仁美への裏切りだ。」
「だからさ、私達で競うんだ。そして2人で恭介に告白して2人で泣くんだ。どっちちかが悲しみに泣いて、どっちかが喜びに泣く。これはそういう競争だよ。まぁ、2人して悲しみの涙を飲むことになったら、その時はその時。仁美はどう思う?」
「分かりましわ。その競争レース私もエントリーさせていただきますわ。2人で一緒に走りましょう。親友として、競走相手ライバルとして、恋敵として。」
私と仁美、私達二人の乙女の握手はひしと熱く交わされた。
▼▲▼▲▼
茜色に染まる空、その下で。
「ごめんよ。歩くのは少し辛くてね。」
「いやー、私達こそごめんね。恭介にわざわざ屋上まで来てもらっちゃってさ。」
「でも私達から恭介さんには大事な話がありますの。聞いてくださる?」
「うん。なんでも言ってよ。」
仁美と私が並んで、その向かいに恭介が立っている。
私も仁美も、いつになく真剣な顔だ。
私が一歩下がって、反対に仁美が恭介に一歩あゆみよる。
「恭介さん。私、志筑仁美は上条恭介が好きです。
少し私の事を話させてください。
恭介さん。実は私、つい最近死にかけましたわ。
自殺で。」
「「え⁉︎」」
思わず、私も恭介も声が出てしまう。
だってそんな。仁美が自殺だなんて。
「信じられませんか?でも私も始め信じられませんでしたのよ?
私、無意識のうちに自殺しようとしたみたいでしたの。」
あまりにも衝撃的な告白に息を飲む。
「ええ、でも私駆けつけた警察方のおかげで助かったみたいですわ。気づいたら私、無意識に自殺しようとした記憶だけを抱えて病院に運ばれていたんですのよ。」
「お医者の先生は、集団幻覚の一種かもしれない。そうおっしゃいましたけど、私、とてもそうは思えませんでしたの。」
「私、本当に絶望しまたんですのよ。」
「無意識に自殺したくなるほど絶望していたことに絶望しましたわ。」
「何より、私は私すら信じられない無くなりましたわ。」
「あの夜は私が私の体を抱きしめても、震えが止まりませんでしたわ。」
「今度こそ、本当に確固たる自分の意思で死のうかすら思いましたわ。」
「でも次の日です。本当に次の日でしたわ。」
「絶望の底に埋まっていた私の耳に、少しのメロディが聞こえてきたんですの。」
「それこそ無意識で、なんとなくそちらの方を見ましたの。この音はどこからだろうって。」
「そしたら、私見つけましたの。」
「あの日、病院の緑の絨毯の上で楽しそうバイオリンを弾く恭介さんを。」
「初めは少し弾いては奇妙な音が混じって止まるような拙い演奏でしたの。でも失敗しても恭介さんは嬉しそうにまたバイオリンを弾き始めるますのよ。」
「私知っていますのよ。恭介さん、事故にあってからマトモにバイオリンが弾けなくなったんですのよね。さやかさん、よく悩んでいましたもの。」
恭介に聞かれるの、ちょっと恥ずかしいな…
「だけど恭介さんは、バイオリンを弾いていました。それはもう歓喜に満ちた表情で。」
「きっとその途中はどれほど苦しかったか、どれほどの痛みがあったか、どれほどの絶望があったか。私には想像もつきませんわ。」
「ですが、想像すらできない絶望を恭介さんは見事乗り越えてあの場所でバイオリンを弾いていたのです。」
「そしてその事実がどれほど私を励ましたか、私の希望となったか。」
「ひたすら嬉しそうにバイオリンを奏でる恭介さんを見ていたら、なんだか私まで嬉しくなってきたのですわ。」
「そして理解しましたわ。ーーこの胸の奥から込み上げてくる暖かくて熱い感情。それこそが恋情、誰かを想う気持ち、恋であると。」
「私は恭介さんが好きです。
心の底からお慕い申しあげています。
どうかお付き合いしたいくれませんか?」
「ですけれど、その答えはまだ後で。」
何か言おうとした恭介を仁美が押し留めて、私に道を開ける。
仁美の告白は、あまりにも重い。あまりにも切実だ。
だけど、譲れない。
私も私に正直になる。
一歩踏み出す。
私、今から告白するんだ。
そう思うと、心がうわつく。胸が痛いほどドキドキしてる。顔がとても熱くて耳の先まで火傷しそう。
ーーああ、私、緊張してるな。
『やりたいようにやれよ。』
杏子の言葉が私の背中を押す。
もう何も怖くない。怖がらない。
「恭介。私さ、恭介のこと。どう思ってるか分からないんだ。好きなのか、嫌いなのか、この気持ちが恋心なのか、友情なのか。恋人になりたいのか、親友のままがいいのか。この後に及んでも。でも、仁美が恭介に告白するって言った時、私どうしよう無くモヤモヤした。もう頭の中沸騰したみたいでいろんな情緒が一斉に騒ぎ出して。海開きにはしゃぐ子供みたいに一斉に。多分さ、私は恭介を離したくないんだ。好きかどうかなんてどうでもいい!昔からそうだったみたいにこれからも恭介の隣にいたいんだ!」
「だから私と居てよ恭介。」
私も、仁美も、今もう最高に高調してる。
胸に秘めた情熱だけに駆られている。
私達の呼吸が重なる。
「「私と付き合ってください!!」」
2人並んでゴールに駆け込む。
恭介に伸ばされた2本の乙女の手。
「2人とも、ありがとう。」
「僕は今、言葉が見つからないよ。」
「2人がこんなに僕を思ってくれて、ぼくは本当に果報者だよ。」
「その上で言わせてほしい。」
恭介の手が伸びる。
伸びて。伸びて。
その手は仁美の手を握った。
腰は90度に折られている。
「志筑仁美さん!僕と付き合ってください!」
「はい!…はい!こちらこそ、よろしくお願いします!」
仁美が感極まって声を絞り出す。
恭介の手が遅れて私の手を取る。
「さやか!僕も君とこの関係が好きだ!だから、昔からそうしてきたように、これからも僕の
「…はは、そんなにお願いされたらしょうがないなぁ。仕方がないから一生、親友で居てあげるよ……。」
私も、泣きそうなのを堪えながらなんとか恭介に返事をした。
「さやかさん…」
「仁美…」
私と仁美。
目と目が合う。
そしてそのまま2人で抱き合って。
「おめでとう!仁美!!おめでとぉぉ〜〜」
「良かったぁぁぁ!すごく怖かったですわぁぁ〜!!」
仁美は泣いていた。
不安と安堵、受け入れられた喜び。
その全ての想いが飽和して。
心が体を追い越して、涙となって溢れ出していた。
私も半分泣いていた。
でも、泣かない。二人の前では泣かない。
「じぁああとは、
「うん。頑張るよ。」
それだけ言い捨てて、屋上から階段を駆け降り走る。
「うっ…ううっぅぅぅっ……。」
ダメだ。泣かないと決めてるのに。
どうしても涙が溢こぼれそう。
そうだ。私フラれたんだ。
恭介に振られたんだ。
もうずっとあの横には居られない。
ーー1番近くで恭介のヴァイオリンを聴くのは私じゃない。仁美なんだ。
ダメだよ。やめてよ。泣かないで私。
でも今更わかった。
この胸の痛みに分からされた。
ああそっかぁ。私恭介の事がーー。
私の中で言いようのない炎が燃え盛る。
でもいい。いいんだよこれで。
これでもう未練は無くなった。
私は私を宥めるように、言い聞かせるように頭の中で繰り返す。
走る走る走る。振り切るように、逃げるように走る。
ひたすら走って走って、無我夢中で走ってーーまどかを見つけた。杏子、それに暁美ほむらもいた。そしてまどかの肩にはキュゥべえ。
そうだ私はキュゥべえを探していた。
だってもうないから。
私に迷いはもうないから。
「さっ、さやかちゃんどうしたの?」
心配そうに私を見るまどか。
ごめんね。まどか。でも私はやるよ。
守りたいものを見つけちゃったから。
「ねぇ…キュゥべえ…。私…言いたい事が…」
はぁはぁと乱れる呼吸を整えながら、キュゥべえに伝える。
「…ねぇ、キュゥべえ。私を魔法少女にしてよ。」
「
その言葉は自然と出た。
「……え?」「……なっ!」「……ッ!」
「もちろんだよ!キセキはどんな願い事も叶える。それが魔法少女になる時の契約だからね。」
高らかにキュゥべえは言う。
「じゃあ君の願いをもう一度ちゃんと教えてよ。それで僕との魔法少女の契約は完了だ。」
私は再度告げる。確固たる覚悟と共に。
「みんなを守れるくらい、強い魔法少女になーーっえ」
バン!
直後発砲、キュゥべえに沢山の穴が空いてキュゥべえは力なく倒れこんだ。
下手人は一目瞭然だった。
私の、まどかの、杏子の、この場の全ての人間の視線が
拳銃の先から硝煙を上げる暁美ほむらに集まった。
「…その必要はないわ。」
冷淡にそれだけ告げて、暁美ほむらは蜂の巣にされたキュゥべえの死体を拾いあげる。そこにはいっぺんの躊躇いも罪悪感も、私には見えなかった。
「…ホント容赦ないな、ほむらは。まっ、お前がそんな反応をするのも少しは分かるけどさ。」
佐倉杏子もまた冷静だった。そして理解までしていた。
無意味に生命を殺しておいて。
冷や水をかけらみたいに、私も呆然として正しく事象を理解して。
「暁美ほむら!!何を考えてこんな事を!」
怒りの感情が燃え上がる。
私は怒鳴った。ずっと胸で燻ってた何かが別の形を得た気がした。
コイツには命を尊重するという最低限の倫理すらなかったのか!
熱くなったまま暁美ほむらに詰め寄る。
「何考えてやがるはコッチのセリフださやか!」
そして横合いから杏子は私をビンタした。
もう訳が分からない。
ただ激情のまま叫ぶ。
「何するんだよ!」
ぶたれた所がヒリヒリと痛い。
でも止まれない。
「お前本当に魔法少女になる事の意味を理解してんのかよ!わたしの言葉をもう忘れたのかよ!さやか!」
私の制服の襟を掴み上げる杏子。
「私だって考えてる!魔法少女になったら私たちは死と隣り合わせになる。私達は真っ先に危険に飛び込む兵器になるって!」
「でも私知ってる!来るでしょ!この街に!
「このままじゃあ街を滅ぼすような悪夢が!ワルプルギスの夜が!」
「そう、美樹さやか。貴方聞いていたなのね。」
暁美ほむらだけがひどく冷静にいう。
「私はせっかく自分の気持ちに気づいたんだ!せっかく応援したい人達ができたんだ!なら私にも何かさせてよ!私に舞い降りたチャンスの使い所はここだよ!」
「その考えが間違ってんだよ!」
杏子は力をさらに入れて叫んだ。
苦しい!けど曲げたくない!私は曲がらない!
「私は言ったぞ!『この世界は希望と絶望を差し引きゼロにして回ってる』。身の丈に合わない希望キセキは、想像もつかない絶望のしっぺ返しがあるんだよ!さやかは何もわかってねぇよ!!」
「わかってるよ!」
「分かってねぇ!」
「わかってるよ!」
「分かってねぇよ!」
「分かってーー「分かってる奴は魔法少女になるなんていいださねぇんだよ!」
「じぁあどうすればいいんのよ!みすみす破滅を受け入れろっていうの⁉︎」
「頼るんだよ!
杏子が喝破する。
その言葉には力があった。
自然と体から力がフッと抜けていく。
「…ならこの胸で暴れる感情はどこに置けばいいの?恭介にフラても燃え尽きないこの想いはどうすればいいの?」
「一人で抱えきれないなら、友達と分け合うんだよ。ちょうどさやかには、いいダチがいるじゃねえか。」
「そこのピンクとか、私とか…。」
「杏子…。」
ああ、もう。本当にこの出会って2日の親友は…。
「そうだよさやかちゃん。私にも相談して欲しいよ。友達が苦しんでるのを助けてたいと思うのは普通の感情だから。ね?」
まどかが切実な表情でうったえる。
「ねぇさやかちゃん。教えてよ。その悩み。見せてよ。心の内。」
まどかが私に歩み寄る。
本当に、ほんっとうにこの二人は…
「きょうごぉ"〜、ま"どがぁ"〜。」
ダメだ。泣かないようにしてたのに。
2人とも、極め付けのお人好しだよ。
嬉しすぎて、私は2人をきつくキツく抱きしめる。
ポロリと涙がひとつ伝うと、後から止まんなくなった。
落とし蓋をしたはずの感情が爆発する。
一度安心してしまうともうダメだった。
堰き止めた涙が決壊する。
「うっ、うぐぅ、うわぁぁぁぁぁぁ私振られちゃった!恭介に振られちゃった!嫌だよ恭介なんで私を選んでよ私といてよ!あぅ、うわぁぁぁぁ。」
滂沱の涙が頬を伝う。
「…そっかぁ。でも勇気を出したんだね、さやかちゃんは。すごいよ。さやかちゃんわ」
まどかも私を優しく抱きして返してくれた。
「うわ顔ぐちゃぐちゃじゃねえか。」
「でも、昨日のより千倍いい顔してるよ。」
そう言って杏子も優しく頭を撫でてくれた。
泣いた。
人目も憚らずワンワン泣いた。
身体中の水分も悲しみも、絞り出すみたいに泣いた。
滝のような涙がゆっくりゆっくり胸の炎を宥めていく。
ようやく形を得て産声を上げた私の初恋は、涙と共に流れていった。
泣いて泣いて、たくさん泣いて。
声も涙も枯れたころ。
「まどかも杏子も、ホントにありがとう。」
私はようやく2人にそう言った。
まどかはずっと、私の背中をさすり続けてくれていた。
「気にすんなって。」
杏子が言う。
「「だって私達、友達だからね(な)」
私の涙腺にふたたび熱いのが登るのがわかった。
頬に伝う熱い涙。人の温かみの温度だと思った。
「おい巴マミ!全部聞いてただろ!」
私を抱きしめたまま。
「ワルプルギスの夜は強ぇ!1人意地張って変える相手じゃないんだよ!」
「やるぞ!私達で!協力しろ巴マミ、暁美ほむら!!」
佐倉杏子が叫ぶ。
どこからか巴マミが現れた。
「元からそのつもりよ。」
「…今回ばかりはそうみたいね。」
杏子の決意に、2人の魔法少女が答えた。
私とまどかは対ワルプルギスの夜魔法少女同盟結成の瞬間を目撃した。
「倒すぞ、ワルプルギスの夜。」