side エルキドゥ
疾く疾く。
放たれた一本の矢のように。
鹿目まどかの元へと。
『まどかを守って』
マスターからの命令を順従に、確実にこなすため。
魔女結界を切り裂き、使い魔を貫き、壁をぶち壊しながら。
「……鹿目まどか。うん、まだ生きてるね。」
座り込んだピンクのリボンと桃色のツインテールの少女。その腕の中にはキュゥべえ、宇宙を救うマスターの敵。両者を目視する。
「このままじゃ、君も危ない。早く僕と契約して魔法少女になってよ。」
勢いを殺さずそのすぐそばに降り立つ。
「………キュゥべえ、私ーーひゃっ。」
瞬間、轟音。魔女結界の足元にクレーターが出来上がる。
「その必要はないよ。」
割り込む。それだけは阻止しなければならない、マスターの願いのために。
「僕が君を守るからね。」
僕は鹿目まどかにそう高々と宣言する。
「それが今の僕に託された使命だからさ。」
『……エルキドゥ。お願いだから、まどかを助けて』
『魔女からも、キュゥべえからも。』
マスターからの祈るような思念を思い出す。
「それに仮に君を失えば僕のマスターは泣いてしまう。」
「僕についてきてくれないか?」
そして僕は手を差し出す。
困惑した瞳。
ストレスに恐怖。
震える手足。
頼りになる先輩とはぐれ、訳の分からない空間にひとりぼっち。この後自分がどうなるか、どうなってしまうかまるでわからない。
この異常な状況がただの14歳の少女にとってどれほど辛いか。
「……助けて、ください。」
それでも少女はーー鹿目まどかは見知らぬ
「ありがとう、僕はエルキドゥ。信頼されたからには応えるよ。それが道具としての
だからこそ、僕は君を強いと思う。
守る、マスターのためにも。君のためにも。
そう意思を込めて僕もまたまたその手をしっかりと握り返した。
▼▲▼▲▼
sideまどか
気づいたらマミさんともさやかちゃんともはぐれていた。
私はひとりぼっちになった。
魔女っていう酷いことをする人たちの巣の中で。
「運が悪いね。戦えない君が巴マミとはぐれるなんて。」
よかった。キュゥべえは私といてくれる。
それだけで少しだけ安心できた。
でも、どうすればいいのか分からない。
ーーわたし帰れるのかなぁ。
もうママにもパパにも妹にも会えないかも知れない。
そう思ってしまったら、涙がこぼれそうになった。
泣いちゃダメ。でも怖いよ。
キュゥべえをギュッと抱きしめる。
「もし君が望むなら、僕はいつでも君を魔法少女にしてあげられるよ。」
すごく、すごく迷った。
でもマミさん達だってきっと私の事を探してくれてる。
なによりも、ほむらちゃんのことがよみがえる。
『ーー貴方は魔法少女になってはいけない。』
ほむらちゃん私よりずっと頭がよくてずっと運動ができて、いつも冷静でかっこいい。だから多分私が知らない事をたくさん知っていて、ちゃんと考えてああいったんだと思う。
それにあの顔が忘れられない。
『ほむらちゃん。ほむらちゃんは……魔法少女になるとき、何をお願いしたの?』
あの時振り向いた、ほむらちゃんの顔が。
泣き出したくなるような、悲しいような、怒っているかのような、苦しそうな顔。
だから私はキュゥべえの提案に頷けなかった。
でもただここに立っていたって何も良くはならない。
なにかしなきゃいけない。
だけど何かを考えようとしても何も思いつかない。
反対に、なんでこんな事になっちゃったんだろうって考えても仕方ない事はわかってるのに、どうしてもつらつらと考えちゃう。
ダメだなぁ、私。
私がぐずぐずしてたら少し奥の方から、二重丸を顔に引っ付けた真っ黒なお団子が歩いてきた。ネズミの尻尾も生えていた。
それが道の端に、アリのように列を作って歩いてくる。
私は知っている。それが使い魔ということ。
「に、逃げなきゃ。………あうっ。」
私は反対方向に向かって走り出す。
だけど足に上手く回せなくて、転んでしまった。
不気味な使い魔が私のところへやってくる。
「いやぁ…やめてよ。こんなのいやぁ。」
痛む体でなんとか立ち上がる。
「このままじゃ、君も危ない。早く僕と契約して魔法少女になるんだ!」
キュゥべえが急かすように私に告げる。
ほむらちゃん、ごめんね。
でもこれしか。
「………キュゥべえ、私ーーひゃっ。」
激しく地面が揺れた。
何がすぐ近くに落ちてきた。まるで雷みたいに。
「その必要はないよ。」
「僕が君を守るから。」
いつの間にか、そこには綺麗な人が立っていた。
真っ白な一枚の布に、緑の長い髪がきれいな人。
「僕についてきてくれないか?」
そう言って座り込んだ私に手を差し出す。
私はその人の事なんて何も知らなかった。分からなかった。
名前だってまだ知らない。
見つめる。
青がかった緑の目がスッと澄んでいて綺麗で。
「………助けて、ください。」
気づけば私はその手を取っていた。
自分を兵器だというエルキドゥさんの手はじんわりと暖かかった。
「ありがとう、僕はエルキドゥ。信頼されたからには応えるよ。それが道具としての矜持だからね。」
「それじゃあ今度は巴マミを助けに行こうか。」
不思議と大丈夫だって、私は思いました。