side エルキドゥ
「それじゃあ今度は巴マミを助けに行こうか。」
まどかの安全の次に考えるのは、巴マミの生存。
そして巴マミはこの魔女と戦えば死んでしまうとマスターは言った。
だから僕は鹿目まどかを巴マミに預けることにした。
美樹さやか、鹿目まどかというか非力な少女を守らせると言う口実さえあれば巴マミはおそらく獲物を譲るしかない。
そうすれば、彼女を戦場から遠ざけつつ鹿目まどかの安全を確保できる。
だから僕は巴マミと合流しなければならない。
「待って欲しい。」
ここで水を差したのはまどかの腕に抱えられた小動物、キュゥべえ。
「そもそも君は何者なんだい?」
「もう一度名乗ろうか?僕はエルキドゥ。鹿目まどかを助けに来た。僕のマスターからのお願いでね。」
「マスターという事は雇い主でもいるのかな?ねぇ、まどか。魔女結界を探索するなんてとても普通の人とは思えないよ。それにエルキドゥは、
まどかの不安を煽るキュゥべえ。
僕が言えたことでもないけど、実際に僕は怪しい。
「…まだ出会ったばかりでよく分からないけど、私、なんとなく大丈夫な気がする。」
「だから、キュゥべえ。今は信じてみようよ。」
「鹿目まどか、君の英断に感謝するよ。」
まどかは僕の手に力を入れて、立ち上がろうとする。
「大丈夫かい?立てそうかな?」
「その、ちゃんと自分で立てます。…あれ、あれれ。」
そう言いいつも、震えるばかりでなかなか足に力は入りそうにない。
「それじゃあ失礼するよ。」
僕は左肩とまどかの右肩をつけ、左手をまどかの後ろへ通し右手でまどかの両足を抱える。
「ええ…きゃっ。……これ、お姫様抱っこ。」
「よし、それじゃあ行くよ。心の準備はいいね。」
「なんというか、は、恥ずかしいよぉ。」
まどかは顔を赤くして手で顔を隠してしまう。
「大丈夫そうだね。行くよ!」
飛び立つ。
羽は生えていないけど、僕の体をスペックを持ってすればただの跳躍で空を飛んでいるように移動できる。
「……!!」
まどかといえば、いきなりのアクロバティックな体験に驚いて声も出ないようだ。
抱きしめて入りキュゥべえが変な声をあげるくらい締め付けていた。
でも体感的には何も感じないように移動しているからか、すぐに落ち着きを取り戻した。
魔力感知を頼りに魔女のいる中央へ向かう。
そしてそこへはすぐについた。まどかをそっと腕から下ろす。
「……ジェットコースターってこんな感じなのかな。」
まどかには少し刺激が強かったのかも知れない。
その間キュゥべえは僕を推し量るように見ていた
鉄の柵のような大きな門がある。
その向こうからこの結界を形作る魔女の魔力がありありと伝わってくる。
そして待つ事しばらく。
探し人、巴マミと美樹さやかも魔女を探してここまで辿り着いた。
▼▲▼▲▼
「やぁ巴マミ、美樹さやか。待ちくたびれたよ。」
僕とまどかとキュゥべえ。
こちらに気づいた巴マミと美樹さやかが足早に近づいてくる。
巴マミは剣呑な雰囲気、美樹さやかは不安もあるが鹿目まどかを見つけた不安の方が大きいようだ。
巴マミの右手に現れる細やかな装飾の銀のマスケット銃。
「貴方は魔法少女かしら。私も争いたくないわ、鹿目まどか、その子をこちらに引き渡してもらえるかしら。私の大事なお友達なの。」
「もちろんそうさせてもらうよ。それに君にも鹿目まどかをキチンと守ってもらおうと思ってね。彼女を連れたままの戦闘には少々不安が残るからね。リスクは極力減らすべきものだ。それと僕は魔法少女じゃないよ。」
「あら、随分と物分かりがいいのね。キュゥべえもあるわね。それに魔法少女じゃないってどういう事?」
「僕はエルキドゥ、マスターに使えるサーヴァントさ。」
「
「本気で説明する気はないからね。」
「馬鹿にしないでくれるかしら。」
ーー至近弾。
僕のすぐ脇の横を、巴マミの魔力弾が通り過ぎる。
「
「それは脅しのつもりかしら?」
彼女の手には新たなマスケット銃が握られている。
彼女にとって気に入らない発言をすれば、いつでも打てる体制だ。
「そんなつもりは全くないけど先に脅しをかけてきたのは巴マミ、君の方だよ?」
「埒があかないわ。貴方とここで議論するつもりはないの。早く鹿目まどかをこちらに引き渡して。」
「…あの!マミさん。エルキドゥさんは悪い人じゃないと思うんです。だから…喧嘩、しちゃダメです。」
「いい人、確かにそうかも知れないわね。でもそうじゃないかも知れない。私はこの中で1番の先輩でまどか達を守る義務がある。だからまどかが信じたとしても安易に貴方を信用することはできないの。そもそもどうして私達の名前を知っているのかしら、全く不思議な事だと思わない?」
「うーん、これはどうしようか。」
はやくも事態が難航し始めた。
ならもう最終手段しかないと腹を括る。
くるりとまどかに向き直る。
「まどか、ごめんね。」
「…え?エルキドゥさん…ひゃっ。」
鹿目まどかを抱き上げ、
「………!まどか!」
魔法少女の力を持ってすれば鹿目まどかを受け止める事は全く難しい事ではない。
巴マミが慌ててまどかを捕まえる。
まどかがマミの腕の中でホッと息を撫で下ろす。
「貴方何を…!」
巴マミが僕を糾弾する。
しかし、その場にもう僕はいない。
「マミさん、緑の人門の中に入ってった!」
そうさやかの言う通り、僕はもう魔女がいる部屋に突入した。
巴マミが魔女を譲らないと言うなら、先に魔女を倒すまでだ。
真っ白なティーテーブルで高い椅子にチョコンと座る魔女を僕ははっきりと捉えた。
▼▲▼▲▼
魔女を見た時僕は一つの予想をした。
『巴マミがこの魔女に殺されるのは、殺したと確信した時では無いだろうか』と。
理由は簡単で、この魔女は構造が魔法少女ととても似通っている。
具体的に言うと今魔女として見えているのはあくまで魔力で作った体にすぎず、魔女のコアとなるものが別に存在している。ーー魔法少女の体が魔力で再構成したい肉体に過ぎず、魂はソウルジェムにあるのと同じであるように。
魔女というのが魔法少女から生まれるというか事を踏まえれば当然と思うかも知れないが。
そしてこれはマスターに限っては例外だから気づきにくいけど、魔法少女の魔力を感じる能力はお世辞にも高く無い。
巴マミで確信を得たが、巴マミら魔法少女は自分のソウルジェムを持って街を歩き回り、その反応の良し悪しを見て魔女の居所を探す。
それにマスターが例外たり得るのは時間を繰り返すことで探知機能がなくてもほとんどの魔女の出現場所を把握しているからだ。
ほとほと強力な能力だ。
以上が示すのは少なくとも僕のような広大な魔力察知範囲は彼女には無いと言う事だ。
ここまでの情報を合わせると、巴マミはこのお菓子の魔女を見ただけではコアがどこにあるか分からず、その上目に見える魔女の実態のほとんどが後付けの部品である事に気づけない。魔力感知の精度が高く無いから。ゆえにこそ、肉体に惑わされて核を射抜けない。
だから僕のするべき戦い方は、極めて緻密な一点だけを確実に破壊する方法。コアだけを、的確に貫く。
そこまで分かれば後は実行に移すだけだね。
僕の体から鎖の本流が溢れ出す。
それらが魔女に殺到する。
魔女に付き刺さる寸前、ヌゥッ!!と巨大な魔女の捕食器官がお菓子の魔女の細身から飛び出す。
「とめられないよ。その程度では、僕は。」
僕は無慈悲に無造作に、その捕食器官ごと魔女のコアを貫く。
たったそれだけで、巴マミを殺しうるポテンシャルを持つ菓子の魔女と僕の戦いは終結した。
ポトリとグリーフシードが落ちる。
そして僕はつまむようにそれを拾い上げる。
「迷惑をかけてすまなかったね、巴マミ。これは僕には不要なものだからね、君にあげるよ。」
そして背後殺気を放つ巴マミにグリーフシード投げ渡す。
巴マミが後ろで何か言うのも気にかけず、僕はそのまま撤収した。
そのまま僕はマスターと合流する。
「マスター大丈夫かい?」
「…外してもらえるかしら。」
巴マミに縛られて必死にもぞもぞしてたのを見られたマスターは、少し恥ずかしそうだった。
マスターのソウルジェムがカケラの穢れもなくきらりと光った。