(銀河水平波間を超えて、目指す恒星ケンタウリ)
朗らかに歌う男達の歌声が彼女の頭の中にこだます。
(星の瞬き、遥かに越えてう宇宙に輝く星の船)
唱和する歌声に交じる爆発音。衝撃波で揺れる艦内。
致命弾を何度も躱してのける彼女も、歌う男達に交じって歌詞を口ずさむ。
私は浮沈艦。どんな厳しい戦いをも乗り越えてきた歴戦の駆逐艦。
私は宇宙(そら)を駆ける宇宙の駆逐艦。
(抜錨、船出だ。錨を上げろ。進路そのまま、ヨーソロー)
彼女をかすめる陽電子ビームの数々。飛散粒子が艦体を叩くが彼女と航海長の巧みな操舵で致命傷を躱していく。
そんな攻撃は当たらない!
ギリギリのところで赤いビームを躱しながら彼女は誇らしげに胸を張る。
(星に向かって舵を切れ。俺たちゃ宇宙の)
「皆……すまない……」
ふと朗らかに歌う男達の歌声に隠れるように、若い男の詫びる言葉が彼女の耳に入る。
良いんですよ、守さん……雪風達は守さんと一緒に……。
艦隊旗艦の離脱までの時間稼ぎの為に生還を期さない単独行動に出た彼女と男達。その決断を下した若い男が静かに部下に詫びるのを、彼女は穏やかな笑みを浮かべて赦した。
集中砲火を受ける彼女、宇宙駆逐艦雪風は一〇〇メートルに満たない全長から出せる高機動力をもって、その全てを躱してのける。
(俺たちゃ宇宙の船乗りさ)
宇宙駆逐艦雪風とその艦長古代守三等宙佐、副長石津英二一等宙尉達が砲撃の雨を受ける中、朗らかに歌い続ける。
生還を期さない行動。生きて帰る事は出来ない悲壮感しかないこの状況でありながら、歌う男達の歌声は陽気さそのものだった。
最後は宇宙の花となって散ろう。赤茶色に焼け爛れた地球で何も出来ないまま、何もしないまま終わるより、軍人として軍艦として戦って散ろう。
それが俺達らしい最期じゃないか。そう言う空気に包まれた雪風の艦内で、彼女、宇宙駆逐艦娘雪風もそうですね、と笑みを浮かべて頷く。
激しい砲撃の雨はいつしか同士討ちすら辞さないほど濃密なものとなり、一隻の敵戦艦が同士討ちの砲火に消える。
やった、一隻同士討ちでやった!
彼女が思わぬ戦果にはしゃいだ時だった。一瞬の隙を突くように陽電子ビームが彼女の艦後部に命中する。
きゃあ! と悲鳴を上げる彼女の小さな身体を古代艦長が受け止める。
艦内に非常ベルが鳴り響き、艦内灯が赤く明滅する。
「大丈夫か、雪風?」
小さな身体を受け止めてくれた古代艦長に雪風は笑顔で頷く。
「絶対、大丈夫! 雪風は沈みません! だって……」
舵がうまく効かなくなった事を伏せながら雪風は精一杯の機動を行って更に来る砲撃を躱す。
だって雪風は浮沈艦なんですから……!
そう古代艦長に言おうとした時、まぐれか偶然か、もう一発が雪風の艦体、正しくは艦後部のドロップタンクに命中する。
ドロップタンクが爆発しさっきより大きな爆発が生じる。
さらに大きな衝撃が艦内に走り、雪風の身体は守の手からいとも簡単に引きはがされて宙を舞った。
何かに頭を強く打ち付けた雪風の意識はそこでぷつりと途絶えた。
それからどれほどの時間が過ぎたのだろうか。
雪が積もる氷原に横たわる雪風の艦内で、宇宙駆逐艦艦娘雪風も眠りについていた。
ちくりと痛む痛みが眠りにつく彼女の意識を呼び覚まし、雪風の意識が覚醒する。
誰だ、と身構える雪風の目の前に一人の男が姿を現した。
「古代艦長⁉」
一瞬だが古代艦長に見えた。しかし、着ている服は国連宇宙海軍の制服ではなく、宇宙服だった。それに容姿も幼さがある。
知っている顔だと理解するまで少し時間がかかった。
「君は……」
意外そうに自分を見る男、古代進は構えていた銃を下ろして彼女の事を見つめる。
艦橋のコンソールにもたれるように座り込む雪風に歩み寄ると、そっと髪に積もっていた雪を払いのけてくれた。
久々に動かす体の節々が痛む中、雪風は進の顔を見て彼の名を呟く。
「進ちゃん……」
雪で真っ白になっていた彼女に名を呼ばれた進がハッとした表情になる。そして手に構えている銃を見て震えだす。
「古代君?」
進の背後から宇宙服を着こだ一人の女性が顔を出す。
女性の方は初めて見る顔だ。そう雪風が思っていた時、うなだれる様に銃を見ていた進ががっくりと膝をつく。
雪で真っ白になっていた雪風がそっと進に近寄った時、進が震える声で呟いた。
「これは兄さんのだ……」
震える声で進が呟く。雪に包まれた雪風に自身の名を呼ばれて、疑念から確信したように進は顔を上げ、雪風の顔を見据えて背後の女性に振り返らずに告げた。
「この艦(フネ)は兄さんのだ……兄さんの雪風だったんだ!」
その言葉に女性は痛まれなさそうな表情になる。
彼の持つ銃を見て雪風も気が付く。進が持っているのは兄、古代守が持っていた古いコスモガン。今はいない兄の形見の様なものだ。
進の背後にいた女性が雪風に歩み寄ると、体にかかっていた雪を払い落としてくれた。
「可愛い子ね」
「みんなそう言ってくれました……雪風は嬉しかったです。可愛いって言ってくれるみんな好きでした」
皆、雪風の乗員達の事に触れる彼女に進は、彼女の両腕をつかんで縋る様に聞く。
「雪風、教えてくれ。兄さんは、雪風の乗員達はどこへ行ってしまったんだ? メ号作戦の時、君は、兄さん達はどう行動していたのか」
自分の両腕を掴む進の両手を優しく握りながら雪風はこくりと頷いた。
そして自分が見て来た事を全て話した。
メ号作戦で旗艦霧島の撤退支援の為に、雪風を含む古代守艦長以下全員の意思で踏み止まった事。
敵艦隊内で同士討ちを起こさせるほど自身も奮戦したこと。
一瞬の隙をつかれて被弾し、その後操舵の自由を奪われた自分にもう一撃食らって意識を失った事。
自分の覚えている限りの事を話した雪風に進は神妙な顔で聞き届けた。
「そうか、ありがとう……」
「雪風は……沈められてしまったのは悔しいですが、最後の時にみんなで歌を歌えたのは楽しかったです」
「歌?」
どんな歌だ、と問う顔になる進に雪風はメ号作戦の最中に雪風と守や石津たちで歌っていた歌の名を口にした。
「『銀河航路』です」
笑みを浮かべて曲名を口にした雪風の脳裏に、メ号作戦で雪風の乗員達が口ずさんでいたあの時の光景がよみがえる。
皆、朗らかに、陽気に、楽しそうに歌っていた。
死地に赴く者達には思えないほどそれは楽し気に、笑顔で、歌っていた。
宇宙の船乗りの歌、「銀河航路」を歌う雪風の乗員達の顔を思い出すと、雪風の顔も自然とにこやかなものになった。
彼女の笑顔を見て、全てを察した進の表情もいつしか穏やかなものになっていた。
穏やかな表情になる進の前で、雪風は「銀河航路」を口ずさみ始めた
「青い地球を今後にして、カイパーベルトをひとっ飛び。
空間航跡、たなびく果てに、目指す地平が見えてくる」
「抜錨、船出だ。錨を上げろ」
進も歌いだし、女性も口ずさむ。
三人で歌う「銀河航路」の歌声が、氷結した雪風の艦橋内に静かに響く。
「進路そのまま、ヨーソロー。
船行く先は星の海。
俺たちゃ、宇宙の。
俺たちゃ宇宙の、船乗りさ」
静かに雪が降るエンケラドゥスの大地に眠る宇宙駆逐艦雪風の艦内で、その宇宙駆逐艦の艦娘雪風と艦長の弟古代進、随伴者の森雪が歌う「銀河航路」が陽気で楽し気に響いていた。
リメイクヤマト2199の雪風をベースに息抜きに作りました。
雪が降った事からTwitterで雪風の模型を雪の上に置いて墜落した雪風の残骸の再現をしているのを見て、ふと思いついたネタでした。
「ANDROMEDA 人間の宇宙艦娘」の時のような艦隊これくしょん×宇宙戦艦ヤマトの短編小説となっていますが、こちらはアルペジオ形式の艦これスタイルとなっております。