これは青山優雅に転生した主人公が便意に抗い時に便意に敗北しながらヒーローを目指す物語である

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あの設定がジャンプ本誌で明らかになる前に書いた文章の供養。
続きません。


ただしう◯こが尻から出る

 道を転がる十円玉を追いかけて、どでかいトラックに轢き潰された。

 全身をぐしゃぐしゃにしながらアスファルトを転がる感覚を僕は未だに覚えている。脚が千切れ、ガツガツと頭をぶつけ、右目に突き刺さった異物の正体は拾おうとした十円玉に相違なかった。

 ああ僕は死ぬんだな、僕の人生は十円で終わるんだな。そう思っていたら、気づけば10歳の少年になっていた。

 目の前には中世の城もかくやと言うような天蓋付きのベッドと天使やら何やらが描かれた天井が広がっていた。

 随分と金持ちで、メイドまでいるような暮らしぶりだ。

 目覚めた直後は神に感謝したものである。きっと十円玉の神様が僕を哀れんで下さったに違いない。毎日自販機を巡礼して釣り銭を漁っていた僕の信心が届いていたのだろう。

 

「ああ、よかったわ優雅!」

「心配したんだぞ優雅……!」

 

 ベッドから上半身を起こした僕を泣きながら抱きしめてきたのは、僕の今世での両親だ。

 優雅な生活をしているから語尾が優雅になってしまったのかと思ったがそうではなく、優雅とは僕の今世の名前であるらしい。

 変わった名前だ。どこかで聞き覚えもあるけれど。

 

 両親によれば、どうやら僕は『個性』が覚醒した影響で五日間も眠っていた、とのこと。

 個性ってなんだよ誰にだって個性はあるだろ覚醒するもんでもねーだろ、と思いながらも両親やメイド、加えてテレビやネットニュースから情報を集めた。自分が前回の生で死んでからどれだけの時間が経過したのか、どんな差異が生まれたのかを知るためだ。

 そうしたら、なんとも興味深い用語がそこら中に散見された。

 

 個性。

 ヒーロー。

 

 それに加えて僕の名前『青山優雅』。

 これらを合わせて考えるに、どうやら僕は、ヒロアカの世界に転生してしまったようだ。

 ストーリーや設定は正直そこまで覚えていない。たまにコンビニで立ち読みするくらいだった。

 デクくんがとてもパワフルな個性を持っているとか、学校祭でバンドをやったとか、女の子キャラの脚が太いとか、今思い出せるのはそんなところだ。

 おそらく学園青春ものだろうと思われる。専門学校に通いながらたまにトラブルに巻き込まれつつ級友との絆を紡ぐようなそんな感じの。

 正直勿体ないと思う。もっとちゃんと読んでおけば買うべき株の銘柄と時期を予測できたかもしれないのに。デカめの企業の株価が急落するようなイベントはなかっただろうか。まあ青春ものの世界でそんなイベントが語られるようなことはないか。

 それはそれとしてヒーローである。

 ヒーローとは『個性』なる能力が蔓延る社会で戦う、地位と高給が約束されたアイドル的職業。10代の学生なりたい職業ランキング第一位。高額納税者番付では20位まで独占。それがヒーローだ。

 僕もこうなりたい。

 みんなにチヤホヤされながらお金を稼ぎたい。

 もちろん青山家に生まれた以上おそらく金銭に困ることはないだろう。どれだけ僕が散財しようとそれを咎める人なんて一人もいない。

 でもそれでは足りない。足りないのだ、まるで。

 もっと欲しい。欲しくてたまらない。円を、ドルを、ユーロを。

 僕は自分の全霊を持って稼いで、稼いで、稼ぎまくらなくてはならない。

 それこそが、僕をこの世界に転生させてくれた十円玉の神様への恩返しになるだろうから。

 

 

 

 

 

 

「優雅様ってば、う◯こをお漏らしになられて以来ずっと引きこもってらっしゃるのね」

「仕方がないわよ、だってう◯こをお漏らしになってしまわれたのよ?」

 

 メイドのそんなヒソヒソ声が今日もドアの向こうから聞こえてくる。

 僕が扉を開けないせいで彼女たちは掃除やベッドメイクができなくて困っているのだろう。

 原作についてろくに知らない僕は思い出すのに時間がかかってしまったが、『青山優雅』という人物はへそからレーザーを出すたびにう◯こ漏らしていたキャラだったのだ。自宅の庭というかもはや自然公園とも言える規模の緑豊かな空間で開かれた個性お披露目会の際に思い出した。

 

「もう少し早く思い出したかったなあ☆」

 

 個性の覚醒が遅れた僕のために両親がお披露目会なんて開いてくれちゃったものだから、それにお呼ばれした親戚や外戚、取引先のお偉いさんからクラスの友人に至るまで。

 その次の日から僕は友達がいなくなった。

 クラスでのあだ名がう◯こビームになった。

 ビームじゃなくてレーザーだつってんだろ、なんて反論はなんの意味もなかった。うるせえクソ野郎、と口汚く返されてもなんの反論もできなかった。ズボンのケツを茶色く汚した僕がクソ野郎なのは事実だからだ。

 僕は引きこもりになった。

 すでに時間の感覚すら曖昧で、何日部屋から出ていないのかわからない。

 真っ暗な部屋の中で、テレビの光だけが僕の顔を照らす。

 目に悪いことこの上ない環境だけれど、もはやそんなことを考えることすら僕には億劫だった。

 眠い頭で、それでも辛うじて僕は、どうして、と思う。

 どうして原作の青山優雅くんは、こんな欠陥個性でヒーローを目指そうなんて思ったんだろう。誰かに脅されたりでもしたのだろうか。それくらいでないと説明がつかない。ヴィランを捕まえようと個性を使うたびにう◯こを漏らすのだ。テレビに映すこともできない痴態を毎回晒すヒーローなんてどこにも需要がないだろう。仮に日本最難関の雄英高校を卒業したところで、どこのヒーロー事務所も雇ってはくれないはずだ。

 

「ヒーロー名う◯こビーム、なんてヒーローを雇う事務所なんてあるわけないよね☆」

 

 すっかりやさぐれてしまった僕は、それ以来ずっとこうしてテレビを見るかドアの前に運ばれる食事を取るか部屋に備えられたトイレで脱糞するかの生活をしていた。高級食材で作られた料理からひたすらう◯こを錬成するだけの生活。まさにう◯こビームに相応しい生活と言える。

 十円玉の神様には本当に申し訳ないことをしたと思う。たくさん金を稼ぐと誓っておきながら早々にその誓いを反故にしてしまった。

 でもしょうがないじゃないか。こんな個性ではヒーローなんて目指しようがない。仮にヒーローになれたとしてもきっと収入より服のクリーニング代で赤字になってしまうだろう。

 

 そんなしょうもないことを鬱々と考えているうちに、テレビでは年間ヒーロービルボードチャートJPの中継が始まった。

 そこには毎年のチャートや日々のニュースでよく見るありふれた顔ぶれが並んでいた。観衆や視聴者にチヤホヤされ、恵まれた個性を駆使して華々しくヴィランをぼこぼこにする彼ら。多少の順位の変動はあれど、一位と二位はやはりというかオールマイトとエンデヴァーだった。圧倒的な人気を誇り、歓声に対して濃厚な笑顔と共に手を振りかえすオールマイトト、そんな彼を焼き尽くさんとばかりに睨みつけるエンデヴァーのどぎつい眼差しが印象的だった。いつものことである。

 しかし今回は、並んだヒーローの中に一人、変わり種のヒーローがいた。

 今回初めてチャートに載った割と新人のヒーローらしい。彼はエンデヴァーやオールマイト並に大柄で、色白で、四角くて、まるで洗濯機のようだった。

 というか洗濯機だった。

 ヒーロー名を洗濯ヒーローウォッシュというらしい。

 その外観は家電メーカーのマスコットのようで、ウォッシュという名前でありながらワッシャワッシャ! と叫ぶ。鳴き声なのだろう。その動きもどこか愛嬌があって、僕みたいにひねくれた人間の目から見れば子供に媚を売るあざとさに映る。

 インタビューのマイクがウォッシュに向けられる。

 マスコットキャラがマイクを向けられても鳴き声以外に声を出せないだろう、そんな予想を抱いていたのは僕だけではないはずだ。全ての質問にワッシャとだけ返す絵面もそれはそれで面白いだろう。そんな大方の予想を裏切って洗濯ヒーローウォッシュは向けられたマイクに向かって、

 

『この度このような栄えある場にお呼びいただき感謝の念に耐えませんこうして錚々たる顔ぶれの先輩方の横に並び立つことができたのも偏に皆様からのご声援の賜物と愚行しております』

 

 お前めっちゃ流暢に喋るやん。オールマイトを鋭く睨みつけていたエンデヴァーすら両目をかっ開いてお前を見てるんだけど。

 その後も長々と謝辞やら今後の抱負やらを述べ、最後にファンへのメッセージをと聞かれて、

 

『私がヒーローを志したのは社会に蔓延る汚れを少しでも落とそうと考えたからです。そのためであれば自身がどれだけ汚れようと、泥に塗れようと構わない。例え皆様から今向けられる歓声が罵声であったとも私が抱く志は決して色褪せることはありません洗濯機なのに』

 

 ウォッシュのインタビューはそんな洗濯機ギャグで締められた。

 会場はウォッシュの突然のトークの衝撃もあってすっかり沈黙が支配してしまった。その空気を今度はオールマイトが細かい泡の塊を吐き出すウォッシュを抱えて「わたがし機だ!」と渾身のオールマイトギャグを披露することで場の空気を和ませ事なきを得た。

 しかし僕は、一言も言葉を発することができなかった。

 それは白けたのではなく、ウォッシュの言葉に感動して身じろぎもできなかったからだ。

 志のためならば自身が泥に塗れても構わない。言葉だけならただのパフォーマンスにも取られかねない単なる綺麗事、しかしウォッシュの声からは決してその言葉を違えないという断固たる決意が感じられた。

 きっとこのヒーローは、本当に民衆から罵倒がぶつけられるような状況になったとしても、その膝を折ることはないだろう。罵声をあげる民衆のために個性を使い続けるだろう。

 その様がまざまざと想像できて、僕は涙を止められなかった。

 

「……馬鹿か、僕は☆」

 

 自分は、一体何をしているのだろう。

 ちょっと個性が期待と違っていたからってやさぐれて。十円玉の神様との誓いを蔑ろにして。

 布団に包まってう◯こ製造機としての日々を過ごして。

 ようやく気づく。

 僕に足りなかったのは円でもドルでもユーロでもない。

 覚悟だ。

 どれだけ泥に塗れ、人々に笑われても金を稼いでみせるという覚悟が。

 

「ありがとうございます、ウォッシュ☆」

 

 僕はベッドから立ち上がり、オールマイトのインタビューを映すテレビの片隅で見切れているウォッシュに向かって深々と頭を下げた。

 これが、僕という人間の本当の意味でのオリジンだ。

 

 

 

 

 

 

 

 ウォッシュを心の師匠と勝手に呼ぶようになって、僕は個性訓練に勤しむようになった。

 無駄に広い庭に簡易トイレ(簡易と言ってもそれは青山家基準であって普通の民家程度の坪が費やされている)に篭ってレーザーとう◯こを交互に出している。トイレの壁面は鏡が計算され尽くした角度で配置され、八方に拡散するレーザーが全て床に開けた穴から地中へと吸い込まれるようになっている。

 すでにこのトイレに篭って2ヶ月が経とうとしている。

 結局引きこもりである。

 しかしこうして肛門に負荷をかけることで便意に耐える括約筋を鍛えつつレーザー照射による便意への耐性を強化しようという試みだ。

 コンコン、とトイレの扉がノックされた。

 

「優雅、今平気か」

「うん今ちょうど出たところだよパパ☆」

 

 父だった。

 

「何かあった? 学校から何か言われた?」

「あんなイジメを放置するような学校からの連絡なんか執事のところで止まっているよ。そうではなくてな、I・アイランドからサポートアイテムが届いたぞ」

「本当かい⁉」

 

 僕は尻を拭きながら返事を返す。出しすぎと拭きすぎでそろそろ肛門がヒリヒリしてきた。

 トイレで個性の訓練をすると決めてからこのトイレが完成するまで(流石に家のトイレでレーザー乱射してたら自宅が穴だらけになって最悪倒壊してしまう)の間、僕は父に連れられて学術人工移動都市I・アイランドに赴き、僕の個性を制御するためのアイテム作成を依頼したのだ。

 へそから出るレーザーは八方に拡散するし、時々勝手に漏れるし、一発出すとすぐ腹痛くなる。そのことをI・アイランドのトップレベルの科学者数人に青山家の財力とコネを活用してアポイントを取って相談した結果、レーザーを収束させるヒーローアイテムを作ろうって話になった。

 

「入れておくぞ、修正点があれば連絡してくれとのことだ。学校に払っていた補助金を回しただけなのにな、最優先で修正するし呼び出してくれれば直接こちらに出向くとまで言っていたぞ」

「うん、ありがとうパパ☆」

 

 拭き終わったけつをズボンで包み、鏡張りの扉の横に備えられた食事や食器を出し入れする穴から大きな箱が入れられた。開ければ、中からは仮面ライダーの変身ベルトのような形の代物が緩衝材に包まれていた。

 へそに巻いてレーザーの指向性と照射量の微調整が効くようにし、レーザーの無駄な消費をカットすることでう◯こ耐久時間を伸ばそうという試みである。

 それが腹部メインパーツ。

 これに加えて、メインパーツの箱とは別の箱を開封していく。

 中には手甲や脚甲、細めのベルトなどが丁寧に隙間なく並んでいた。

 へそから出たレーザーを受け止めた腹部メインパーツに内蔵された光ファイバーを経由し体の各部に装着したサブパーツからもレーザーを出せるようにしてもらった。

 確か、学園祭のワンシーンとか仮免試験だとかでへそ以外からもレーザーを出していたような気がしたのだ。

 そこまでファンだったわけじゃなかったから記憶がうろ覚えだ。それでもへそから出すだけでは明らかに不便だよねというのは自然な発想であるし、手掌や足の裏からレーザーを出せば空を飛べたりするんじゃないかというイメージもあった。イメージ元はトニー・スタークである。

 早速サポートアイテムを装着していく。へそと手足、さらに肩と肘、膝、踵である。さらに説明書を読みながらそれらサブパーツをファイバーでメインと繋ぎ、その上からファイバーと装着者の体を同時に保護する装甲を四肢や腰に取り付けていく。軽く、薄く、しかししなやかで耐刃耐熱耐衝撃と至れり尽くせりの新素材なのだとか。壁の鏡で姿を確認すれば、まるで中世の騎士のような外見である。

 

「うん、悪くないね☆」

 

 試しにレーザーを一発出してみる。装着前の拡散していた頃のそれとは明らかに威力は高く、しかし腹痛の度合いは今までの十分の一程度。無論それでも余人であれば即トイレに駆け込むレベルの緊急度だろうが、こんなもの、この2ヶ月便器を相手に耐久訓練を続けていた自分には屁でもない。屁も出ない。

 

「頑張ります、ウォッシュ、神様☆」

 

 そんなことを口にして、僕はようやく個性訓練を応用へと進めることにした。

 

 

 

 

 

 

 サポートアイテムを手に入れてから5年。

 二月二十六日、晴天。僕は日本ヒーロー科最難関、雄英高校ヒーロー科の実技試験を受けるべく雄英高校の校門前に立っている。

 体調は万全。二日前から食事はI・アイランドの食品部門に以来したゼリー食品と水のみである。これで万が一の場合でも固形物を漏らすことはないのだ。

 

「よし、行こう☆」

 

 ヒーローになるための第一歩だ。そしてそれはより多くの金を稼ぐためだ。稼いで稼いで稼ぎまくって、ナンバーワンヒーローオールマイトを超える額を稼いで見せる。

 気合いを入れて足を踏み出せば緑のモジャ毛少年が目の前をすっころび、かと思えば丸っこい愛嬌のある顔立ちの女の子が少年を転ぶ前にふわっと持ち上げ優しく地面に立たせていた。なんてパワフルな少女なんだ。緑髪の少年を持ち上げた際にも反動をつけたりとか足で踏ん張ったりといったことがまったく見られなかった。

 

「あれは要注意だね☆」

 

 そんな感じで周りの受験者を注意深く観察していけば、去年の四月頃にニュースやネットで話題になった爆発少年ことバクゴーやピンク色で頭に触覚の生えた女の子とかが目についた。

 というか見ただけじゃ強さとかわかんねーわ。わかったら達人だわ。ジロジロ見すぎてピンクの女の子から不審者を見る目で見られたわ。

 

「あ、三奈おはよー……どしたの?」

「んー、なんか知らない人に見つめられて怖かったんよ」

 

 えーこわーい先生に言っとく? なんて声まで聞こえたあたりで、僕は説明会場とされている講堂へと道案内を頼りに全力の早歩きで向かった。

 受験生をチェックしてたら自分がチェックされちゃったぜ。

 ……いやね? そりゃ先月も透視の個性持ちの男が女性を凝視しているところを警察に捕まった、なんてニュース出てたしね? 知らない異性に見つめられてたらそりゃ怖いよね、個性社会だもの。ごめんて。

 ピンク少女に見つからないよう、説明会場で自分の席を見つけてからはずっと腕で顔を隠して寝たフリをしていた。

 そうしたら、本当に眠ってしまっていつの間にか説明会が終わり、気づけば受験生たちが既に席を立ち始めていた。

 え、どこ行くの、説明何も聞いてなかったけど……まあいいや。配布されてるプリントに大体書いてるっしょ。

 ざっと読むと、つまり指定されてる演習会場に行って、会場のロボットをサーチアンドデストロイ。

 ピンク少女を避けるため、最後の一人になるまで寝たふりを続けた僕は、試験会場であるB会場へと開始時間ギリギリに駆け込んだ。

 

『はいスタートー』

 

 かと思えば駆け込むのとほぼ同時に試験開始の合図が聞こえたので、僕は駆けていたスピードをそのままに右脚で踏み切り跳躍、空中で四肢の向きを調整してその先端から一気にレーザーを四本同時に射出した。

 スタンバってた受験生たちの頭上を飛び越える。

 1秒足らずで全受験生の先頭に達し、次の1秒で僕は受験生の群から少し距離のある、かつ背の高いビルの屋上の縁に着地した。

 今の僕は数年の耐久訓練の結果、連続射出時間は3秒、1時間あたりの合計射出時間は30秒、う◯こを漏らさずに耐えることができるようになった。これらの時間はあくまで目安で、飛んだり跳ねたり走ったりなどすれば30秒立たずにう◯こが顔を出すことはあるし、逆に例えば足を交差させて立つ『スタンディングクロス』や跪いて立たせた踵によって門を押し留める『ヒールストップ』などの必殺技を活用すれば耐久時間を伸ばすことができる。

 特にスタンディングクロスは手軽かつ効果が高いのでおすすめだ。

 

「さて☆」

 

 ビルの屋上から下界を覗き込むと、ここまで受験生が到着するにはまだまだ時間がかかりそうだ。その進行方向にはヴィランロボが群を為して彼らを威嚇している。一部の戦闘向けの受験生以外は何もできずに右往左往している。

 そのあたりのヴィランロボならタゲ被りは起こらないだろう。

 一応試験概要には非ヒーロー的行動は減点と書かれてあったからね。タゲ被りが非ヒーロー的な妨害行為と取られる可能性もある。

 

『ハハハ、コノ程度カ人間メ!』

『サア逃ゲ惑エ、豚ノヨウナ悲鳴ヲアゲロ!』

『貴様ノ断末魔ガ俺ノ子守唄ダ!』

 

 なので逃げる受験生を追いかけ回してイキってるロボットへ両手とへそを向ける。

 射出時間は0.2秒。

 それぞれがヴィランロボの真ん中を射抜き、その動きを停止させる。

 キリッとした腹の痛みに一筋の冷や汗が額を流れる。

 それを無視して別の標的にさらに打ち込む。1ポイントヴィランなら0.2秒で十分だが、3ポイントともなると両手とへその斉射0.5秒でようやく動力機関を破壊できる感じだ。

 万が一にも人に当たらないよう絞っているとはいえなかなかに硬い。

 そして、数が多い。ビルから見える範囲でも数え切れない数のヴィランロボが走り回っている。それを見つけるたびにレーザーを放つ。レーザーを放つ。レーザーを放つ。

 放つたびに痛みが走る。

 顔が歪む。痛みに体を折り、膝を着きそうになる。

 そんな自分を、笑い飛ばした。

 

「この程度、痛いうちにも入らないさ☆」

 

 語尾の☆は虚勢にも程があった。

 それでも僕は、虚勢を真実にするために、足を交差させてレーザーを撃ち続けた。

 

「……あれは」

 

 目ぼしい群を駆逐した頃、3ポイントヴィランが4体連なって細い路地を駆けているのが見えた。

 その先には、試験開始直後から猛スピードで駆け回りヴィランを蹴り飛ばしまくるメガネの受験生が走っていた。

 威力の減衰する遠距離狙撃では3ポイントヴィランの破壊には時間がかかってしまうため、このままではあの4体、計12点分があのメガネくんのものになってしまう。

 

「……仕方ないね☆」

 

 痛みに怯える体を鼓舞するように笑みを浮かべる。

 僕は決めたはずだろう。例え泥に塗れても誓いを裏切らないと。

 僕は屋上の縁ギリギリに立ち、そこからとんっと飛び降りた。

 足から地面に垂直に落ちていく体にかかる重力と風圧をレーザーで小刻みに相殺しつつ、地面に達する直前に出力を上げて急停止。

 その足元には滑り込むように3ポイントヴィランの列の先頭の個体がやってきていて、僕の両足から射出されていたレーザーに体を僕の足ごと貫通されて動きを止めた。

 僕は下半身がヴィランロボにめり込むようになっている。

 仲間同士の攻撃はプログラムされていないのか、後続のヴィランたちが攻撃を選択せず渋滞を起こす。もし感情があればきっとおろおろしているとでも表現できそうな挙動でアイカメラを明滅させる。

 即座に僕は腹部のメインパーツから最大出力の一撃を放つ。

 その一撃は僕の体がめり込んでいる個体を引き裂き、後続の一体を沈黙させた。しかし残りの二体は二手に別れるように飛び上がって壁に着地、そのまま壁を蹴って左右から同時に僕に迫る。

 僕は両手を振り上げる。

 射出では狙いを定めるのに時間がかかる。それでは近距離での白兵戦には役に立たない。

 その欠点を補うため、僕は両手から出したレーザーを剣の形に固定するレーザーサーベルを編み出した。

 僕の両手から作り出された青白い二本の剣は即座に二メートル近く伸び、高速で迫るヴィランを下から上へと袈裟懸けに斬り上げ両断した。

 

「むっ、このあたりにはもうヴィランはいないか……!」

 

 直後に駆け込んできたメガネくんはそんなことを言ってまたどこかへと駆けて行った。

 行ってくれてよかったと思う。

 今のレーザーサーベルの同時使用で、僕の便意が限界に達したのだ。

 レーザーサーベルはただ射出するだけのときより消耗が激しい。一メートルの長さであれば連続2秒で漏れてしまう。それを二メートルでしかも二本、単純計算で0.5が限界である。

 しかも今日は雄英の入試当日。身体的には健康そのものでも精神面では多大なプレッシャーを感じていて、ただでさえ短い耐久時間をさらに縮めることになってしまっていたのだ。

 

「……もう、無理☆」

 

 まだあと数分残っているが仕方ない。30秒で全てを済ませて再び試験に参加しよう。

 とはいえ野外プレイは動物の所業である。

 文明を享受する社会的動物の一員たる僕はそんなことはできない。

 というわけで目の前の建物の窓を開け、するりと体をねじ込み、四方を壁に囲まれていることを確認してから僕はシリを丸出しにしてうんチングスタイルに移行する。

 すぐに解放が始まる。

 僕という存在が痛みから解放されつつある。固形物を全く摂っていなかったのに、一体どこからこいつらはやってくるんだろう。どこからやってきてどこに行くんだろう。そもそも僕という存在はどこからきたのだろう、そしてどこに向かっているのだろう、僕ってなんだ、生きるってなんだ、そんなことを考えながら脱糞に勤しむこと10秒。

 突然地面が揺れた。

 

「MA☆JI☆DE☆」

 

 まさかの。

 まさかの、うんチング中の地震である。焦る。試験なんて目じゃないくらい焦る。けつ丸出しでしかも出している途中に建物が崩れるのではないかという規模の大揺れである。もしかしたら僕けつ丸出しのまま死ぬのではないか、そんな恐怖のせいで便意がさらに加速し、この世の不条理に神への救いを求め本気で祈ろうとした時、自分の正面の壁が吹き飛んだ。

 

 これは後になってからわかったことだけど、この時僕が使用していた建物は、ゼロポイントヴィランの出現によってその壁面の一部が壊れてしまったらしい。確かにこの時、機械の巨大な脚が排出に精を出している僕のすぐ隣に踏み下ろされたのは覚えている。

 耳をつん裂く轟音、崩れる壁、舞い上がるコンクリの破片と粉塵。

 唖然と目を見開く僕の視線のその先に、

 

「いったぁ……」

 

 大通りの真ん中で横たわる少女がいた。

 僕を社会的に守ってくれていた壁が取り払われ、苦痛に顔を顰めていた少女が視線を上げ、ケツを丸出しにしている僕と真正面から目があった。

 歪んでいた少女の顔にポカンとした空白が生まれる。

 しかし空白は数秒。

 僕らは同時に悲鳴を上げた。

 

「きゃああああああああああ!」

「ぎゃああああああああああ!」

 

 なお濁音混じりの汚い悲鳴を上げたのが目の前の少女である。

 

 

 

 

 

 この時、僕は悟ったのだ。

 無理矢理我慢するから苦しむんだって。

 出しちゃってもいいさって考えるんだ。

 出しながらレーザーを出す戦闘スタイルなら、それはなんの障害もなくレーザーを乱射できるということじゃないか。

 

 

 

 

 

 

 その部屋は薄暗く、モニターの光だけが光源として機能していた

 雄英高校の教師陣が揃ってモニターの画像を見据え、喧々諤々と画面の向こうで動き回る受験生たちの評価を話し合っている。

 全体を俯瞰して見れば、やはり合格基準を満たすような傑出した生徒というのは数が限られている。例えばBブロックで言えば縦横無尽に駆け回り蹴りまくる飯田天哉、個性は『エンジン』。ヒーローに必要な機動力と攻撃力を備える良い個性だ。

 例えば増やした腕での打撃で3ポイントヴィランも一撃で粉砕している障子目蔵、個性は『複製腕』。しかも増やせるのは腕だけでなく目や耳も増やすことができ、情報収集にも長ける。

 そして、手足からレーザーを射出することで飛行、高速移動、狙撃、近距離での斬撃などを状況に応じて使い分けている青山優雅、個性は『ネビルレーザー』。

 そんな、現役ヒーローである教師陣からみても将来有望な彼の履歴書、その備考欄にはこんな一文が記されている。

 

 備考:ただしう◯こが尻から出る

 

 それは、当たり前では? 相澤含むその場にいる雄英教師全員がそう思った。

 

 

 


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