全く好意が隠せてない同士が悲哀装って、イチャラブする話。
大体そんな感じ。



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早坂愛は偽れない

 

 

 

 

私立秀知院学園。

かつて貴族や士族を教育する機関として創立され、200年の歴史を持つ由緒正しい名門校。貴族制が廃止された今もなお、富豪名家に生まれ、将来国を背負うであろう人材が数多く就学している。

 

言うまでもなくほぼ全員が秀才や天才と言った、家柄に相応しい能力を持っていて、生徒の99%が金持ちの子息・令嬢によって構成されており、外部入学はたった1%しかない。

 

言うまでもなく校内にもヒエラルキーというものが存在し、生徒は皆自分と同ランクの生徒とコミュニティを築く傾向がありそれによって外部入部生はとても肩身が狭い学園生活を送っているのは想像に難しくない。

 

そしてそんな私立秀知院学園に置いて有名人と言えばまずは白銀御行、時点で四宮かぐやと言った所か。

前者は外部入学にも関わらず生徒会長を務め、成績は学年トップ。

勉学1本でそこまで登り詰めた彼を知らぬものは居ないだろう。

 

後者は副会長で総資産200兆円、ゆうに千を超える子会社を抱える四大財閥の一つ、四宮グループの本家の長女である。

幼等部から連なる私立秀知院学園で幼い頃からその多才さを発揮させていた彼女は紛れもない天才だ。

 

 

そしてもう1人。

 

此方は幼等部から驚異的な身体能力を持て余すこと無く発揮させ、様々なスポーツで世界のタイトルを総ナメ。

メディアへの露出も高く、目付きは良くないがキリッとしていてそこが良いとの声も多く、それに反して良く喋り親しみ安さがあって世間での人気は高い。

成績も上位付近をキープし正に文武両道、家も世界に名を連ねるスポーツ用品メーカー。

 

名前を霧代 拓斗と言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

どうしてこうなった。

何度自問自答してもその答えが出てくる事はなく、ただやるせない気持ちがまるで拘束具のように心を締め付ける。

 

こんなにも熱く、焦がれている想いがあるのに。

名声やお金は幾らでも手に入れてきた。

欲しい物は何でも手に入ったし、手に入れてきた。

だと言うのにどうしようもなく焦がれ、欲しくて堪らないものだけは手に入らない。

 

風が吹く。

サイドに束ねられた金の髪と少し持ち上げられ、膝上にあるスカートが揺れる。

ただそれだけだと言うのに、うるさい程高鳴る心臓。

髪を抑える仕草、まっすぐと此方を射抜く澄んだスカイブルーの瞳、綺麗な金髪。

気付けば全部を目で追っていた。

いつから、とかそんな事は分からなくて知らぬ間に夢中になっていて。

 

 

「俺、この前また優勝したんだよ」

「流石ですね。おめでとうございます」

 

 

違う、そうじゃない。

スポーツは好きだ。

やっていて面白くないと思った事なんてないし、色々な事をやってきたがそれを後悔した事はない。

でもそうじゃない。

ただ事務的に、祝いの言葉を述べる彼女の言葉。

嬉しくない訳じゃない、でもそれ以上に彼は悲しいかった。

 

何か出来るようになる度に自分のように喜び、優勝でもするならば本人よりも大喜びしてはしゃいでいた。

忘れた事なんてなかった。

ずっと、ずっと残っている。

あの笑顔が見たくて、ただ彼女に喜んで欲しくて。

天才だとかスポーツの申し子だとか色々言われていても、本当はただ1人の女の子に良い所を見せたくて、喜んで欲しいだけなのに。

 

感情の読み取れない仮面を被った彼女。

それがただただ悲しかった。

 

「なぁ、愛」

「霧代様」

 

壁を背にする彼女に近付き背の壁に手を起きながら、ずいっと身体を寄せる。

それこそ少し進めばキスをしてしまうぐらいに。

だと言うのに帰ってきたのは熱も何も感じない言葉。

言葉から読み取れる壁にまた心が軋む。

 

「霧代様はこれからの次代を担うお方です」

「..............」

「それに対して私はただの近侍です。お戯れを」

 

―――こんなにも俺はドキドキしているのに、お前はどうしてそんなにも平然としてられるんだよ。

 

顔色一つ変わらない。

お互いに吐息が吹きかかるような距離、視線を少し下ろせばピンク色の小さな唇が目に入って嫌でも意識させられる。

それでも彼女は顔色1つ変えない。

 

いっそこのままキスしてしまおうか。

きっと彼女は抵抗しない。

彼は立場のある人間で彼女はただの近侍なのだから。

それに幼少期より四宮家と家同士の交流があった彼の家、霧代家は四宮程でないにしろ影響力は凄まじい。

そんな家柄の彼と四宮家直属とは言え近侍である彼女、立場故に断ろうに断れない。

 

したい、したいに決まっている。

でもそれでも彼にだって譲れないものだってある。

そっと身体を離すと、すぐさま距離をとる彼女に意味もなく傷付く。

 

失礼します、と過ぎ去る彼女をただ見ているしか出来ない自分に嫌気がさす。

 

「どうして、こうなったんだよ.......」

 

情けなさと苛立ちを吐き出すように壁を殴りつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙.......」

「ちょっとこの世の終わりみたいな声出さないで」

「お前にはわからんだろう.......俺の傷付いた恋心が」

「うっわ、気持ち悪っ!?」

「ちょっとガチ引きやめない?」

 

 

此処はなんの変哲もないただの一軒家。

金持ちが住むには平凡過ぎる一戸建てだが、学生2人が住むだけに建てられたとなれば話は違ってくる。

別荘という意味ではもっと立派な屋敷があるのだが、家庭の方針でこうして高校生2人で家事を分担しながら生活している。

 

ソファに仰向けに寝転がり呻き声を上げる彼、霧代 拓斗。

そしてそんな彼をゴミを見るかのように吐き捨てる彼女、伊井野 ミコ。

 

年頃の男女2人が、と思うかも知れない。

2人の母親が知り合いで初等部の頃から交流があり、すれ違いに会釈する程度の仲であった。

と言っても学年が1つ違うので会う事は殆どなかったのだが。

そして転機を迎えたのが拓斗が中学2年に上がり、ミコが中等部に入った頃だ。

家の方針で既に中等部に入った頃から1人暮らし、と言っても週に何度か家政婦が来たりもしていたのだがそんなとき。

 

そして1年経ちやっと慣れてきた頃。

伊井野ミコがこの家にやって来た。

経緯はこうだ。

 

「いつも帰りが遅くてミコには寂しい想いをさせているのよね.......」

「ならウチの息子が1人暮らししてるから一緒に住めばいいじゃないっ!?」

「っ!?天才だわ!」

 

こんな感じ。

因みに伊井野父は猛反対したそうだが、テンションが吹っ切れた伊井野母に押し切られたそうな。

 

そんな訳で2人の共同生活は始まった。

そして現在拓斗は高校2年でミコは1年。

この間本当に色々あった。

 

顔見知りであっても2人の仲は良くも無ければ悪くない。

そんな2人が突然同居をして何も起きない筈もなく。

 

 

 

 

 

ラッキースケベ

割とあった。

 

 

 

 

 

 

添い寝

めっちゃあった。

 

 

 

 

 

 

混浴、は流石になかったがトイレ同衾はあった。

 

 

本当に色々あったのだ.......

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな数々のイベントを乗り越えて2人の絆は深まった!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほんと女々しい.......男ならもっとシャキッとしたらどうですか?」

「お前俺が年上だって自覚ないでしょ?」

「ないですね」

「変わらないお前の切れ味が今は心地いいよ.......」

 

 

ふ、深まったのだ!

 

うわきっも、と更に距離を取るミコ。

少し心が病んだ霧代には程よい罵倒が心地よかった。

 

 

「でもそんなに好きな人がいるのは正直羨ましいです」

「あー、お前なんか恋に恋してるって感じだもんね。でも昔貰った手紙に頬擦りすんの止めた方がいいよ」

「あ、あれは違うのっ!?」

 

夢見る乙女、伊井野ミコ。

または妄想が激しい夢女子とも言う。

 

「あと重い、そして若干病みというか闇っていうか垣間見得るの女子として事故物件だろ」

「事故物件.......私、重い.......ですか?」

 

え、自覚なかったん?

それはそれでびっくりなんだけど。

とは声には出さない。

光を宿さない目でブツブツと何かを呟くミコに顔を引き攣らせる。

同居人が割と洒落にならない闇を抱えている件に付いて。

 

「ま、まぁそれぐらいの方が可愛げがあった良いと思うぞ」

 

嘘である。

可愛ければ許されるの範囲を大きく越えている。

正直ミコの持っているプレイヤーの中身と、あるノートの中身を見てしまえば100年の恋すら冷めるまである。

 

「.......そうなんですか?」

「も、もちろんだ」

「あのステラの人もそう思ってくれてるかな.......」

「思ってる、思ってるに決まってるさ。だってお前頑張ってるもんな」

 

嘘は言ってない。

心にもない事は言っているが。

何故ならあの手紙を書いた人物を知っている霧代は、勿論その人物がどういう感情をミコに向けているのを知っているから。

 

今でこそ昔に比べて融通が効くようになったが中等部に入った頃はテコでも動かない程融通がきかなかった。

その当時の事を思えば今のミコはある程度相手の事情や気持ちを推し量り、見て見ぬふりをするぐらいのことは出来る。

 

そういう意味ではこの2人の同棲を決めた伊井野母は英断だったと言えるし、ミコ自身に自覚があるかどうかは分からないが感じていた孤独感や寂しさを霧代の存在のおかげで多少拭えた事で、心に余裕が出来て人当たりが良くなったミコは「クソ真面目だけど話は通じるし、小柄で割とチョロいのも可愛らしい」というメタい言い方をすれば本来と比べ人付き合いは上手くいっている。

 

 

「霧代先輩も、そう思ってくれてるんですか?」

「まぁな。なんやかんやで多分お前に1番近いのは俺だからな、必死こいて勉強してんのも委員会活動頑張ってんのも分かってるよ」

 

 

3年間も同居していれば相手の悪いところも良いところも勝手に見えてくる。

人知れず泣いていたのも知っているし、復習や予習を欠かさない事もしっている。

 

霧代自身今まで出してきた成果を才能だ、天才だと一言で片付けられる事が嫌いで、確かに自分は多くの人よりも恵まれた才能があるんだろう、しかしその上で誰にも負けないぐらいには努力をして来ている。

才能に甘んじる事は己自身が許さない。

そんな自分だからこそ気持ちいいぐらいにがむしゃらで、泥臭くても努力をしている人というのが好きだ。

 

「実際お前はよく頑張ってるよ」

「.......ふんっ、気安く頭触らないで下さい。通報しますよ?」

「はいはい。悪うございました」

 

そうやってなんやかんやで言いくるめられる程度には伊井野ミコはチョロかった。

私立秀知院学園でなければ何度も悪い男に引っ掛けられていただろうことは、想像に難しくない。

 

正直ミコが病んでようがどうなってようが拓斗はどうだっていいのだが、鳥肌が立つ音楽や謎のポエムを口ずさまれると夜が怖い。

誰だって理解出来ないものは怖いものだ。

 

ふふん、と誇らしげに霧代に寄り添うミコはカップルというよりも兄と妹のようだった。

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

今日も1日が終わる。

今日も主人のどうでもいい話に付き合わされ、やっと解放されたと思えばもう日付が変わる手前だ。

 

己の主人は良い意味でも悪い意味でも変わった。

いや本当はとてもいい変化なのだと思う。

それでもその変化を手放しに良かったと言えないのは、しょうもない実りのない話を永遠と毎晩話され、無駄に仕事が増えたせい。

 

やれ会長が気が付いてくれないだの、鈍感野郎だの、かっこよかっただの、藤原さんの無駄脂肪死すべしだとか。

後半部分は激しく同意していた。

 

不満そうにしながらも昔とは違い、何処か嬉しそうに語る主人。

 

 

しゅるしゅると布が擦れる音。

身に固めていた給仕服を脱ぎさって、ラフな寝巻きへと着替える。

彼女、早坂 愛にとって仕事服は鎧で私立秀知院学園の制服もそうだ。

己を取り繕い仮面を被る。

本心や感情を完全に閉ざしている訳では無いが、それでも大部分は隠して過ごしている。

 

 

「.....................」

 

 

鏡に映る自分を見詰める。

自慢ではないがクォーターらしくとても整っていて美人だと思う。

ニコッ、と笑顔を浮かべて見ればそれこそ初心な男子ならば恋に落ちるとは言わないが顔を赤くするぐらいには可愛いと客観的に分析する。

自分で見ても完璧だと思うのだから大抵の人は騙せるだろう。

そんな完璧な作られた笑顔を見て思う。

 

―――いつから自然に笑顔を浮かべなくなったっけ。

 

分からない。

自分の仕事は四宮家専属の近侍であり、その長女に幼い頃から仕えている。

演じ、状況に応じて主人の命令を確実にこなす。

だから自分を出すなんて事は殆どない。

幼い頃からずっと仕えている主人にだってその本心は殆ど見せていない。

その反動で肉親、特に母と会った時には感情を爆発させてしまうのだがそもそも、母と会う事は多くても月に1度あるかないかだ。

 

屋上で自分を見ていた彼はとても悲しそうな顔をしていた。

 

誰のせいだ。

そんなのわかりきっていた。

 

それは自分だ。

 

ズキズキと締め付けるように、針のようなもので突き刺されているかのように胸が痛い。

息が出来ないぐらいに苦しい。

でも彼の方が苦しかっただろうから。

 

彼は大企業の長男で世界的に有名なスターで、自分はただの近侍。

 

キュッと、自分の座るベッドにシワが寄るのも気にせずシーツを握り込む。

 

苦しい。

今すぐ身を投げてしまいたいぐらいに。

思い出すのは壁に追いやられ至近距離にある彼の顔。

軽く押し付けられるように当てられた足、逃がさないと自分が背にした壁には手が押し当てられて。

 

「.......そんなのドキドキしない訳ないっ」

 

まるでりんごの様に、本人は認めないだろうが先程の主人が好いている相手の話をしている時のように顔を朱に染めてギュッと枕を抱き締めベッドに倒れる。

 

 

 

 

―――あんな強引に.......ちょっと良かったかも。

 

 

 

再びぽっ、と赤く染まる顔。

早坂ここで己の性癖を自覚。

 

 

 

 

「私だって.......好き.......」

 

流れた雫は誰にも見られぬまま枕へと染み込んでいった。

 

 

 

因みに外野からは2人が相思相愛なのが丸分かりだったりする。

 

 

 




需要あれば続き書きます!多分!


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