【 】が望んだもの。   作:【 】が否定したもの。


原作:インフィニット・ストラトス
タグ:R-15 残酷な描写
蛇足なんて必要なかった、そういう事だろう。

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【 】が望んだもの。

月満つる夜にさらりと響くさざ波の音、蒼く白い光は月虹を空に架けて煌びやかに彩る。しかし幻想的な(そら)の下には、水面に映る己を覗き込む孤独な男が一人いた。

 

虚ろなる黄金

【彼】が薪の王となった代償は、彼自身の“色”の消失だった。

懐かしい温もりも、覚えた感動も…何もかもを火にくべて篝火とする、そうして今薪の王は再び現世へと呼び起こされたのだ。

形こそ何処かメルヘンチックだが本質は嘗ての火継ぎと変わっていない…巡礼の過程にて情を捨て、老木のように乾ききる。乾いた薪程よく燃えるのだ…強い火はそれだけで世界を温めてくれる。この合理的なシステムに人の情が入る余地はない、そんなものはあったとしてよく燃える燃料の一つでしかないのだから。

最初に何を言ったのか

彼はそれを理解した上で二つ一つの返事…いや、心に誓いを唱えただけで何も言わず、それだけでこの過酷な道を引き受けた。

全ては霧に隠れている

悔いなど無かった。

元より【彼】はこの為に今ここでISを纏い一人の人間に扮してまで生活をしているのだ。正義も愛も追い求めず、引き継がれてしまった呪いの残滓を焼き尽くし、最後の呪いたる自分すらも未来永劫滅するのが定めとして。

 

あの時を思い出せ

 

 

彼は眩く輝く満月へと手を伸ばした。しかしその手が月を掴むことはおろか触れる事さえない。

月よりも遥か手前にあるはずの月虹にさえも。

灰の本質

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆ ◆   ◆ ◆   ◆ ◆

 

 

時刻は数時間前…まだ太陽が地平線の彼方に沈むずっと前の時間帯だ。

福音との戦闘時、臨時の司令室となっていた旅館の一室は今、【彼】の為だけに用意された検査用の機材で溢れかえっていた。

 

食堂から借りてきた椅子へ前かがみに腰かける【彼】の体中にコードのような物が至る所に繋がれていた。

 

 

「――――やはりISコアの反応は体内から検出されていますね。

レントゲン検査では何も映らなかったハズなのに…」

 

「全く、物理法則もあったモノじゃないな。アックスマン、いや、今はロードオブシンダー(燃え殻の王)か…。

極めつけが【薪の王】…これの原理は一切不明と来た」

 

「そうですね。

最初は形態移行と同じ原理だと想定していましたが、どうも違うようです」

 

「…本人の口から説明して貰えばそれで楽なのだがな」

 

ため息をついた千冬は、相も変わらず無表情なままの【彼】を見る。

解析不能のISは置いておくとして、どうも彼は帰還して以来様子がおかしい…何か、“昔”に戻った様にも思えるというのが彼女ら教師の意見だった。

 

“昔”…と言っても然程時は遡らない、数か月前程度であるがその頃の【彼】と言えば、人を寄せ付けないような雰囲気を常に放ち、眼は常に殺伐とした世界を見続けているような生気を感じさせない人物だった。ここ最近はクラスメイトとの関わり合いもあってか、ユーモラスな一面も見せる様になってきたのだが…今回、何かの拍子(大方の予想はついているが)で逆戻りしてしまったようだ。

 

 

生気を感じさせない…というのも、彼女らにとっては今合点が行くものであった。

何せ【彼】は今も昔も、生物学的に生きていると言えないのだから。そして、それらが二次移行の副作用であるかどうか…それは誰にも分らなかった。

 

 

 

「それで…バイタルの件は相変わらずか」

 

彼の非生物性を再確認するように千冬が尋ねる。

 

「はい。

更に詳しい検査で、佐々木君の身体は生物というより…その…」

 

余程言いづらい事実なのか、山田先生は言葉を詰まらせ斜め下を向く。

その様子を見た【彼】が自分は気にしていない事を告げ、赤裸々に話を続けてもらう様に頼んだ。

 

 

「佐々木君がそう言うなら…。

――――結論から言って、佐々木君は生物というより…物質に近いです。脈拍は知っての通り、消化吸収活動に新陳代謝…その他の生命活動が行われている形跡が一切見当たりません。

…人の身体を使った自動人形、という風に想像してもらえるのが一番わかりやすいかと」

 

「まるで古代魔術のゴーレムだな」

 

彼は千冬の例えに対し深く納得した、彼女の言うゴーレムが如何なるものかは分からなかったが【彼】の思うドラングレイグに居たソウルを注入することで起動するゴーレムとあれば【彼】により近いかもしれない。

つまりは単一性の物体にソウルを入れただけの存在である。

 

 

 

 

 

――――――――これ以上の進展は無いという事で、【彼】の検査はここで打ち切られた。

彼に繋がれていたコード類は全て外され、上半身のみ脱いでいたISスーツを再び着込む。

 

そして何事も無かったかのように立ち上がり、部屋を退室しようとした時に千冬が「ああそうだ」と彼を呼び止めた。

 

「佐々木、貴様の度重なる命令違反についてだ…一度殺されて生き返った奴には流石に酷だと思うが――――そうか、気にしない…か。ならば遠慮なく言うぞ、貴様には学園への帰還後直ちに反省文の提出及び一定期間特別トレーニングへの参加を強制する。

…いいな?」

 

彼は深く返事をして、今度こそ退室する。

 

 

 

その生気を纏わない哀しい背中を見て、心配げな山田先生が言葉を漏らす。

 

「…戻れるのでしょうか、佐々木君」

 

「さあ、な。

だが…こうなる事は奴もよく分かっていたのだろう。束はそう言っていたが…私もそう思うよ、腹立たしいが」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――閉ざされた王国

―――――――――――――――横行する暴食獣の蹂躙

――――繋げる

 

――――――――悲劇に終止符を…!なりそこないの最後

 

 

 

 

…久方ぶりに【彼】は長く、色の無い何かを見ていた。

彼は冷たい地面から身体を起こして再び前に進み始め、旅館を出た。

 

恐らく他の専用機組は今頃、部屋で寛いでいる事だろう…それか千冬女史にしごかれているのだろうか。何にせよ【彼】は今、あの面々と関わろうと思えなかった。己という塵芥は古き時代の業を受け持ってしまったのだ、今更寄る辺など何処かにあろうものか。

 

 

そうだ、寄る辺は火なり。

 

 

 

 

 

 

――――…それは余りにも突然だった。

一瞬、黒い影が【彼】の真横を通り過ぎて行った。

 

黒い影の正体を彼は良く知っていた…あの灰の大地で刃を交えた男、確か何処かに奴の呼び名を【悔やみ続ける者】とする記憶が…いや、そんなことはどうでもいい、何故その悔やみ続ける者が現れたのか。何も覚えのない彼は一瞬動揺するが、理解の外側にあるのならばそこまで踏み込まないのもこの【彼】という人物。直ぐに頭を切り替えて歩みを続ける。

 

 

歩みの最中、ふと己の掌に揺らめく炎の様な物体を出現して見せた。

これは言うまでも無くソウル…生命の根源たるもの。誰のものでもない、他でもない【彼】本人のソウルだ。そしてここに教師達が探しても探しても見つからなかったものがある。

 

 

…ロードオブシンダーのISコアの在り処。

彼女らはソウルという概念を知らなかった…故に最後の最後までコアを見つけることが叶わなかった。

 

 

 

始まりの火と共にどうとも言えぬ虚無も放つソウルを彼はもう一度、体の奥底に閉じ込める。

今度こそ、身を離れぬよう…より固く…より深く。

 

 

◆ ◆   ◆ ◆   ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月虹は絶えず夜空を彩り、さざ波を空気を優しく震わす。

その全てを無情に受け流すが如く【彼】は海辺に足首まで浸して、暗い水平線の彼方をじつと見つめていた。

 

何も待ってはいない、暗い底から這い出る太陽も…それが再び水平の果てに消えるのも…どうでもいい話だった。全ては火の時代を再び誰の手にも届かぬよう虚無の底へと送り届け、静かに焼き尽くすため。

 

 

 

――――そしてまた気配がする。

己の立つ浜辺の、その奥にまた悔やみ続ける者が海辺に膝まで浸して何かに手を伸ばしていた。

 

悔やみ続ける者が手を伸ばして先にあるモノ…それは同じく腕、【彼】がクレーターの底の液体溜まりで見たものと同じだ。悔やみ続ける者はその腕を優しくなでるのと同時に、腕もまた悔やみ続ける者の顔を包み込むように撫でた。よく見れば腕の指には銀猫の指輪が嵌められている。

 

 

 

彼は訳が分からなかった…が、一つの話を思い出した。

“電脳ダイブ”。博士によればこの機能は操縦者の意識をISを通して電脳世界へと導くものらしいが…仮にあの灰の大地が電脳世界だったとして、あの男は何なのだろうか…と考えた所で悔やみ続ける者は腕に引き込まれて暗い海中へと消えた。

 

何を見せられているのか理解し得ないまま、彼は流れる時間を感じることも無く立ち尽くす。

それに気が付いた時、また【彼】は歩み出そうとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それ以上進むと、また溺れるよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

声に不意を突かれて、彼は反射的に背後へと振り向いた。

――――そこには脅威など何もなく、彼に声をかけたのはシャルロットだった。

 

ため息をついて心を和らげ、彼は再び水平線を見つめ直した。

 

 

まるで彼女など居ないかのように接する【彼】に対してヤキモチを焼いたシャルロットは、周りを丁寧に見回した後、そっと後ろから近づきその広く冷たい背中にその身を預ける。温かみをじんわりと感じた彼は、それでも視線を一切逸らさずにいた。

 

「心配したんだよ、夕食にも来なかったし……それに、さ…」

 

彼女はより【彼】に体重をかけ、明るかった表情も次第に暗くなっていく。

そんな彼女の想いを知ってか知らずか、彼の視界がだんだんぼやける様にブレてきた。

 

 

彼女を己の業に巻き込んではならない、これから彼が臨むものは古き残滓…今の人々からは切り離されるべき、悍ましき遺物。そんなものをシャルロットに見せる訳にはいかないと、彼は最後の最後まで彼女を突っぱねるつもりでいた。

…なのに、それが出来ない。しようと思うと己の中の己が止めに入る。自分が何を躊躇しているのか分からないまま彼はシャルロットの温かみを甘んじて受ける。

 

 

「…潤、聞こえてる?

ありがとう、って、もう一度言いたかったんだ…僕が今も学園に居られるのも潤のおかげだから。でも…一つだけ…それだけでいいから、わがままも言いたいな」

 

彼はシャルロットの言葉を黙って聞く。

 

「もう、絶対に…居なくならないで…。

――――潤にとって、それがすごく難しいって事も分かってる。きっと…何かに縛り付けられてるから、潤の身体も冷たいんだよね。それを解こうとして。でも…そんなのが辛くない訳がないじゃないか…!

僕は…潤が辛そうにしている所なんて見たくない…そんなの嫌だよ…!」

 

 

彼女の声が震えているのを感じて、【彼】は何かに心臓を締め付けられている感覚を覚えた。

何に苦しめられているのか分からない彼は、いよいよ水平線から完全に視線を外して辺りを見渡した。

 

 

 

 

 

――――そしてまた突如現れる。

悔やみ続ける者は水面に立ち、彼をじっと見つめて動かない。急遽動いたかと思うと男はゆっくりとその右腕を挙げて、彼の胸めがけて指さしてそのまま動かなくなり…やがて炎に焼かれ燃え尽きた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まさか…彼は咄嗟に己のソウルを取り出し見つめた。

やはり在るのは火と虚無。彼はそれをじつと見つめたまま――――突然、何かが流れ込んで来た。声…いや、それは意思にも似ていた。それもかなり強烈なものであり、思わず引き込まれそうになる。

 

…この時になって、【彼】は悔やみ続ける者の真意を“意思”に導かれるようにして理解した。

いや…悔やみ続ける者の燃え殻、というべきか。

 

そうか、そうだったのか…苦しさの理由が、なんて事もない当たり前だと気づいた時やっと理解できた。約束の果たし方の、より良い手段を。

 

 

彼は静かに笑った。寄る辺はもう…孤独ではない事に。寄る辺は今そこにある。

そして寄る辺は何も彼女だけではない…クラスメイトは皆、そうなのだろう。何せ一度流れた自身の死亡を覆す生存報告に心から喜んでくれた連中だ。そこに根を下ろすとあれば悪い気もしない。

 

 

 

「…潤?」

 

彼は静かに、シャルロットに対して空を見上げるよう指示した。

あの月虹が空に架かった夜空だ――――最初は何のことか分からず、言われるがままに見上げたシャルロットも月虹を目にして「わぁ…!」と驚きを隠せなかった。

 

今度こそ、彼女と向き合った【彼】は一つ、何処か(火の時代か、それともこの世界でかは定かではない)で聞いた話を思い出す…月虹が空に架かる日にする約束は必ず守られると。彼の曖昧な記憶から絞り出した言い伝えは本来の物との詳細は大分違うだろうが…【彼】が本当に言いたかったことは彼女にも伝わるはずだ。

 

 

「そ、それって……」

 

【彼】は涙で滲んだ彼女の目元を優しく拭い、その頭を撫でる。

無表情…というより仏頂面のまま行われたその行動にシャルロットは一度呆然とするが、直ぐに【彼】の言いたいことを理解して、徐々に笑顔を戻した。

 

シャルロットはもう一度彼に身を寄せ、「ねえ」と話を続ける。

 

 

「…僕も潤のこと、“兄さん”って呼んでもいいかな?

僕と二人っきりの時だけでも…」

 

一つだけのわがままといった傍からまたわがままを…そう言いながら彼はシャルロットに好きなように呼ぶように言った。

その後にシャルロットの後ろから、小柄な影が近づいているのを【彼】は見逃さなかった。

 

無論、ラウラだ…何となくだが、彼は彼女が最初から見ていたことを察する。無論根拠などないが…。

 

 

「なんだ、ここにいたのか兄さん…それにシャルロットも。

もうそろそろ門限が近い、戻らないと教官からも雷が落ちるぞ」

 

何処か白々しく語る彼女の存在に驚き、シャルロットは【彼】から咄嗟に離れてラウラの方へと振り向き必死な顔をした。

 

「ら、ラウラ…!?」

 

「…?

驚く事か?シャルロット」

 

「い、いやぁ…別にそうじゃないけど…。

…というよりもうそんな時間なの?早く戻らないと」

 

「うむ。

それじゃあ兄さんも戻るぞ、新たな時代がお前の名を告げている…とな」

 

「…ラウラ、それ何のセリフ?」

 

「さあ?

一先ず浮かんだだけだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

尋常に寄る辺など今は無く、されどかつての寄る辺は忘却の朱い空へ。

落ちてきた亡者の死体から…解呪の旅の果てから…棺桶からの目覚めから…幾度かの始まりから連なる血生臭い、凄惨な巡礼。

 

だが、孤独な宿命の中にも…求める“(寄る辺)”は隠せなかった。

 

 

今、“火”はいつもそこにある。

ようやく手にした希望

夢にも見たぬくもり

炎の光

 

そこに罪があったとしても、彼は背負いゆくだろう。

己の寄る辺と共に…何もかもを。

そして暴く者たちに賛美を    0810

 

 

旅の動機は…。世界が終焉を迎える未来を変える為

希望にも、絶望にも、等しく可能性がある

 

 

 

 

 

 

 

「何してるの?潤、帰ろ?」

また何処かで、巡礼の幕が開いた

握られた、その手を忘れはしない。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

未来――――悲しみが終わる場所は何処にある?結局俺は何なんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Youは何故こっちに?

  • 総当たり、興味本位
  • 正直TGWPは蛇足だった。
  • GNドライブ搭載がんたんく(無効票)

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