やはり俺が吸血鬼なのは間違っている。続 作:角刈りツインテール
「やぁ比企谷くん。待ちくたびれたよ」
「いや嘘つけ」
———と言いつつ、その言葉が嘘ではないことをなんとなく察せていた。俺がまだ吸血鬼だったころにも何度か由比ヶ浜たちの来訪を言い当てたことがあったし、何より彼の全てを見透かしたようなその態度は俺の108のスキルを使っても虚勢には見えない。どういった手段を用いているのか、それが怪異的な何かなのかさえ分からないがこいつなら、と思えてしまった。…いや、どうして正体不明のアロハシャツのおっさんにこれほどまでの信頼を寄せているのだろうか…。
ちらりと横目で壁にいる人物を確認する。
旧キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード。
美しき鬼の成れの果て。
吸血鬼の搾りかす。
すぅ、と挨拶がわりに軽く手を挙げる。だがめぼしい反応は見られず、体育座りを徹底させていた。
いつになったら話してくれるんだよ。お前は喧嘩中の小町か。
まぁ仕方がないといえば仕方がないのかもしれんが。しかし無視されて悲しくないはずがない。俺は近寄って彼女の頭をぐわんぐわんさせてみる。
ぐわんぐわん。
ぐわんぐわんぐわん。
「………。」
回しすぎたのだろうか、彼女は初めて俺に反応を取る。
というか、腕を払い除けた。
「…ヒッキー?」
悲しみが増大した。
「なんでもねぇよ」
「はっはー。それで比企谷くん、一体何の用事だい? …て、ありゃ、団子頭ちゃんじゃないの。やっはろー」
忍野はまるで由比ヶ浜の存在に今気が付いたかのような反応を見せ(白々しいことこの上ない)、由比ヶ浜お馴染みの挨拶をやってみせた。由比ヶ浜は一瞬どう返すか迷って、
「や、やっはろー…?」
と返した。
「お前ですら困惑すんのな…」
由比ヶ浜のやっはろーなら可愛いので許せるが中年のおっさんがやったところで何処にも需要はない。つーかそもそもやっはろーって何なんだよ。ほんと今更だけど。
「な…!馬鹿にすんなし!年上への礼儀ぐらいあるから!」
「そうか。お前誕生日いつだっけ」
「え?えーっと、6月18日」
「俺5月20日。はい敬え」
「それは流石に酷すぎない!?」
嘘である。俺の実際の誕生日は8月8日で、お察しの通り八幡という名前はここから来ている。小町と違って名付け方安直すぎるだろと苦言を呈したくなる気持ちもあるのだが割とお洒落な名前で気に入ってはいるので許容する。
「はっはー、夫婦喧嘩はよそでやってくれ———おや、団子頭ちゃん、それ」忍野は静かにゆっくりと腕を動かし、そして最終的にある一点を指差した。
「その包帯———なかなか格好いいじゃない」
その言葉を待っていたように、由比ヶ浜はスルスルと包帯を外し、再び毛むくじゃらの腕を露わにさせる。ふぅん、と面白そうな表情で頷いた忍野はタバコケースからタバコを取り出し———宙へ投げ———そして口でキャッチした。横で「おー」と感激する声が聞こえる。いやしなくていいから。ピュアかよ可愛いなおい。
「なるほどねぇ…」
本当に。
本当にどこまでも見透かしてやがる、と俺は苦虫を噛んだ気分になった。
♦︎♦︎♦︎
「先に言っておくけどそれ猿の手じゃないよ」
経緯を説明し終えた矢先、突然忍野はそう言い放った。
「「え」」
声がハモる。目が合う。照れるの三段構えで頭がどうかなりそうだったがいい加減忍野から見放されそうなので気を引き締め、さりげなく由比ヶ浜の腕を見る。
包帯が外された彼女の右腕は確かに禍々しい。とはいえ、どこからどう見ても猿にしか見えないが…。
いや、普通にこれ猿の手じゃないの?
だったら何なんだ?
「でも忍野。猿の手って確か『持ち主の意に沿わぬ形で願いを叶える』怪異だったと思うんだが間違ってるか?」
「間違ってないよ?」
「なら違うかどうかなんて分かん」
「でも致命的な違いが一つある」
びし、と人差し指を天に突き出す。
怪しいホームレスなくせ、異様に様になっているそのポーズはこの上なくウザったらしかった。
軽く戸部と並ぶレベルである。
「国ごとに色々とアレンジはあるんだろうけど———少なくとも猿の手が持ち主の腕と同化するなんて聞いたこともないね」
そういって忍野は咥えていた煙草をゆらゆらを揺らし遊び始めた。
あぁ、と俺は納得する。そもそも原作を知らない由比ヶ浜はパッとしていないようだがたしかにその通りだ。この違和感については最初から分かっており、しかしまぁフィクションなんだからとどこかでなんとなく解釈を付けていた。
だけど。
だけど、もし本当に違うのだとすれば。
「じゃあ…
忍野メメの口から出された俺の質問への答え。
それは猿なんて恐ろしいものではなく。
「悪魔さ」
それよりももっと———
♦︎♦︎♦︎
「その説明の前にひとつだけいいかな」忍野は再び人差し指で『いち』を表現する。「その腕の元所有者の名前とか聞いてたりするかな?」
「え?あ、あー、えっとぉ」
まさか自分への質問だったと思っていなかったらしく、突然慌てふためく由比ヶ浜。いや、どう考えても貴方の問題なんだから貴方への質問以外ないでしょうよ…。
「確か聞いたんだよね…なんだっけな…カッコいい名前だった気がするんだけど。あ、ヒッキー、ちょっと厨二病っぽい言葉並べていって」
なんで厨二病と言ったら俺、みたいな漢字になってんだよ。お前の中での俺そうなってんの?こちとら厨二病はもうとっくに卒業してるわ。
「大天使ミカエル」
「そういうのじゃない」
「龍」
「違うなぁ…」
「一方通行」
「名前にそれが入ってるわけないよね!?ヒッキーそれ真面目に考えてる!?」
「あぁ、勿論初めから至極真面目に答えてるぜ。何故なら
「いや、意味わかんないし」
だろうな。
えーとあと他に何があるだろうか…名前に使われそうな厨二ワード…もっとシンプルなやつでそういうのあった気がするんだけどな———そう思っていた矢先、答えは唐突に降ってきた。
しかしそれは自分自身から出たものではなく、他者からの言葉———つまり、忍野が導き出したものだった。
いや、そうじゃない。
忍野は最初からなんとなく検討がついていたのだろう。
でなければ流石に触診もせずその正体を確かめることなんてできまい。俺だって一時期(厨二病時代)に都市伝説にハマって様々な書籍を漁りまくったがこんな悪魔は聞いたことがない。恐らくかなりマイナーな怪異だ。
なのに何故知っているか。
可能性①は、純粋に、俺には想像がつかないほどの知識の膨大さ故。
可能性②は。
「
「え」
「
忍野メメは、これの持ち主を知っている。
ちなみに
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前作から見てる。
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続から見てる。