せめて少しでも長く、その時を。
一緒に過ごした裏側に潜む、その思い。
見えはせずとも、そこにある。
まあ無節操な。
まあ、可愛いとかそういう柄ではないけれど。ワンパクでたくましい子だし、膝がしっかりしてるとか言われるけれども。……そんな吹き出す事無いと思うんだけどな、大喜くん。
迷子の女の子を本部に連れていって、無事お母さんと合流させて。その子がくれたアニメキャラの髪留めを着けた私を見て、大喜くんは声を殺して全力で笑い出したのだ。一応堪えているつもりなのが腹立つ、失礼な。と言うかそこまで変かな、私。文句を言うとそれをネタにして話を拡げられかねないし、人目もあるからここでは怒らない。帰ったら覚えてなさい。
――帰ったら、か。花火大会には別々に来ているけど、帰る家は同じだ。私は大喜くんの家の、居候だから。不思議で歪な関係だけど、私は今の関係が気に入っている。と、思う。よく分からないけど。
このまま別れても、何時間もしないで一緒になる。それでもなんとなく、二人ならんで歩いてしまう。せっかく逢えたんだし、今離れるのはなんだか勿体無い。……何故なのか、はやっぱり分からないけど。
大喜くんは、蝶野さんたちを待たせている筈だ。すぐにでも行かせるべきだろう。そもそも、迷子の相手くらい私一人でも良かったんだ。強めに言えば大喜くんだって戻っただろうに、私はそうしなかった。連絡しておきなさい、とも言わなかった。私のワガママで、振り回してしまった。
どうせワガママを言うなら、もっと前に言えばよかった。二人で花火観に行こう、と言えばよかった。そうしなかったくせに、蝶野さんと歩いている大喜くんを見て、悔やんでしまった。練習帰りの大喜くんと、浴衣姿の蝶野さんは、とてもお似合いで。仲の良いカップルにも見えて。とても微笑ましい筈なのに、胸がざわめくのを感じた。もし隣にいるのが私だったら、とさえ思ってしまった。じゃがバターの匂いで我に返らなかったら、声をかけてしまっていたかもしれない。
私はズルくて弱くて、嘘つきだ。大喜くんを振り回しているだけで、自分からは何も与えない、何も許さない。一方的に距離をおくと言って突き放したのに、都合の良いときだけ側に置きたがる。我ながら嫌な女だ、と思う。
写真撮らせてくださいと言う大喜くんに、不許可のチョップを入れながら。まるで姉弟のようにじゃれ合いつつ、人混みをゆっくり歩いていく。ああ、楽しいな。こういうのは、楽しいな。
彼氏とかデートとか、そういうのは分からない。女子だけで行動する方が、気楽だし楽しい。でもたまに、こういうのも良いと思う。つくづく、私は嫌な女だな。大喜くんをペットみたいに扱って。大喜くんはきっと、蝶野さんが好きなんだ。だから私がこうやっているのは、多分良くない事だ。
でも、……でも。私はこうしていたい。
気が付くと、私は大喜くんへと手を伸ばしていた。この時間を、終わらせたくない。
その思いが口を突き、表へと出ようとした、その刹那。
空を大輪の花火が彩り、その大きな開花音が私の声を封じ込めてしまった。
会場アナウンスは第二部の開始を告げ、周囲の人々も一斉に天を仰ぐ。勿論大喜くんも、そして私も。
ああ、そうか。これで――。
「……早く、行かないと」
一度閉じ込められ形を変えた私の声は、まるで自分の言葉ではないように思える。このまま一緒にいたいけど、でも。それは、大喜くんが望むことじゃない。
「私も、渚たち待ってるから」
大喜くんが蝶野さんの所へ戻れるように、こちらから話を切り上げる。そんな小細工ばかり、私は上手なんだな。
「じゃあまた、家で」
「うん、家で」
社交辞令的な笑顔をかわし、踵を返して。胸のモヤモヤは残ったまま、それでも。これで良い筈だから。
「なんで寂しそうな顔してんの?」
そう渚たちに言われて、考えてみる。
理由は分からない、理屈も分からない。すぐに会えるのに、ほんの
見当も付かないけど、でも。原因が大喜くんなのは、明らかだ。
これは、難しいな。私が考えて、わかることでも無さそうだ。
まあ、――良いや。この夏ももうじき終わる。考えるのはあとで良い、楽しもう。きっとこの先、分かる日が来るんだろう。
音に余韻残して消えていく花火を見上げながら、そう思った。