▼「ルキアサええで」と聞いたので蒼銀を買ったのですが(動機が不純)予想以上にルキウスがスーパー攻様だなって印象だったので……これは死体を埋めてもらわないとなって……はじめて書きますよ死体を埋めに行く話
pixivより転載
山の、濃色の闇夜を切り拓くヘッドライト。それがなんだか憎々しかった。車中から恨みがましく睨み付ける。ところどころに転がる石ころ、ひび割れたアスファルト。それらがここは車通りも人通りもないような道だと示していた。鬱蒼と暗い林が両脇に拡がっている。
好都合だったはずだ。今の自分たちには――正確には、自分には。
「そろそろいいな」
それまで黙っていた男が呟く。大して大きい声ではなかったが、それでも車の中に――自分の耳に強かに響く。運転席を陣取りハンドルを握る男、ルキウス。彼はゆるゆると車の速度を落としはじめた。彼を、僕は横目で見る。
わからない男だ。もっとわからないのは自分だ。顔を手で覆ってしまいたいのを堪えながら、なんとか姿勢を正していた。意地だった。
なぜ自分はこの男に助けを求めたのだろう。それも、犯罪の幇助だ。
人を殺した。親しい友人だった。口論の末、衝動でガラスの灰皿で殴りつけていた(愛煙家の友人だった)。あとに残ったのは、冷たくなっていく死体。流れていく血。呆然と見下ろす中、「どうにかしないと」という言葉が浮かぶ。体が震える。出頭しなければ、と思う。情状酌量をされるかも知れないし――何より、罪は罰せられるべきだ。
しかし、僕がスマートフォンで連絡を取ったのは、警察でも救急でもなく。
『どうした、アルトゥールス』
なぜか、日ごろ嫌っているこの男だった。
僕がなんとか状況を説明すると、ルキウスは早かった。車種をいくつも持っている富裕層の男だが、最もその中で目立たない車を運転してきた彼は、友人宅にいた僕に死体袋を持ってきて運ばせた。運ばせた、とは言っても半分は担いでくれた。監視カメラのないマンションだったから、自分たちの姿は見られなかったと思う。
車の中にはスコップが2本。まるで死体を埋めに行くようだな、と思った。
ルキウスの思惑の正鵠を射ていたと知るのは、「乗れ」と言葉少なに命令してくる奴の言葉だった。当惑する僕に、奴は言ってのけた。
「お前が望んだことだ」
――あぁ、確かに。このアーサー・ペンドラゴン。電話口で望んだ。心の中で。助けてほしい、と。ただ、それは口には出せなかった。ただ、人を殺した旨だけを告げた。警察に出頭したいがどうにも震えが止まらない。それが声音に出ていたのだろうか。普段あれ程煩いルキウスが、静かに頷いたようだった。
『そこを動くな』
友人宅はルキウスも知っている住所だったのが幸いしてしまった。殺した友人の名を告げると、ルキウスはそう言って電話を切った。そこからルキウスが部屋に来るまで、死体と共にいた時間が、恐らくこの生涯で最も長い時間だっただろう。
扉が開かれたとき。安堵してしまった。
「このぐらいだな」
穴を掘った。2人がかりで。
大の男2人でも、大人ひとりをわからないように埋める穴を掘るには酷く時間がかかった。夜が明けなかったのが救いだ。土まみれになった私服。それはルキウスも同様で――いつもの高そうな服だったのに、彼は構わない様子だった。スコップを地面に突き立てたルキウスは、独り言のようにそう僕に告げると、背中を向けた。意図はわかるから、無言でついていく。常ならば決してしない行動だった。けれど、今の僕は――
路駐していた車のトランクを開ける。そこから、2人がかりで死体袋を運び出した。人の死体は酷く重い。できれば得たくなかった知識だった。
そこから、マンションから運び出したときのように死体袋を運んでいく。僕たちが2人がかりで掘った穴へ。無言で運んでいく。声高におしゃべりをするわけにもいかないし、そもそもそんな仲でもない。
そう、そんな仲ではないのだ。
「降ろすぞ」
不意に声がする。気が付けば穴の前にいた。言われるがまま、僕はルキウスと共に死体袋を降ろす。穴の底へと。暗い、くらい土の下へと。途端に友人への申し訳なさが募る。こんな寂しい場所に埋めるとは。
けれど、もう引き返せなかった。特に――既にルキウスを巻き込んでしまった。
……再び土にまみれる作業になった。死体に、少しずつ土をかぶせていく。どんどん、友人だったものは遠くなっていく。僕とルキウスが遠ざけていく。特にルキウスの勢いが凄い。掘っていたときも精力的だったが、今は仕上げと言わんばかりに勢いよくかぶせていく。僕にも土がぶつかり、ふと思う。
このまま、友人の死体と共に、埋まってしまいたい。
スコップの手を止めた自分をどう見てか、ルキウスは穴に降りて来た。そして僕を引っ張り出すと、その辺りの樹にもたれさせた。
「疲れたならそこにいろ。残りは俺がやる」
そう言い切ってから、ルキウスは本当に残りをひとりで片付けてしまった。埋め終えたときには、そろそろ日が昇ってくる時刻になっていた。
「撤収するぞ。今日は俺のマンションに泊まれ。寝ていないだろう」
そう言って、スコップを2本まとめて担いでいったルキウスのあとをついていく。けれど、そろそろ限界だった。
土まみれのスコップはトランクに。土まみれの服は、車のシートを汚した。それ以上に汚れているのは自分だともわかっていたし――その穢れをルキウスにうつした自覚もあった。だから、問う。車が発進される前に。
「なぜ」
声が震えた。
「僕を、助けた。貴様は、もう共犯だぞ。これでは」
それでもなんとか言葉にできたとき。ハンドルを握る男は、眩しそうに東の空から上る太陽を見ていた。
「言っただろう」
ルキウスは言った。
「お前が望んだことだ、と」
僕はそれ以上二の句を継げず。
ただ、彼の服の裾を掴み。代わりの言葉を発した。
「抱いてくれ。手酷い方がいい」
そう小さく小さく呟くと、顎を指で引かれた。
ルキウスの相貌は、得体の知れない焔が灯っていた。
「いいんだな? アルトゥールス」
僕は小さく頷き――約束が実行されたのは、使ったスコップを処分し、車も処分し、そのあと。
僕はルキウスに抱かれた。それでも「手酷く抱いてくれ」という要望は叶わず、ひどく、真綿で包むような抱き方をされた。
それを屈辱と取るか優しさと取るか、僕には判断がつかなかった。
僕はもう戻れなかったからだ。ルキウス・ヒベリウスを嫌い、善を愛し、善を為した人間には。
朝の光が、僕らを包み込んだ。
――山に埋めた友人に日が差すのはいつのことだろう。そう思いながら、僕はルキウスに体を暴かれるのだった。
End.