だからでも、だからこそ。
狭間にあるのは、その思い。
一席どうぞお付き合いを。
インターハイまでもう間がなくなり、毎日がバスケ一色で過ぎていく。それ自体は前からかもしれないけれど、今はその濃度が違う。試合で何が起きても身体が動くよう、徹底的に技術と戦略を染み込ませていく。ほんの僅かなミスが、一瞬の迷いが、全ての努力を消し去ってしまうから。一度でも負ければ、そこでこの夏は終わる。次のウィンターカップは引退する三年生のものだし、来年の夏に今のようなコンディションでいられる保証はない。何を擲ってでも、勝たなければならない。
なのに私と来たら、余計な事に囚われている。大喜くんの事ばかり、考えてしまう。そんな暇はないのに。
あの花火大会の日、大喜くんと蝶野さんが並んで歩いているのを見掛けてしまったのが、全ての始まりだ。大喜くんは「友達と皆で行く」と言っていたのに、笠原くんや他の友達は見えなかった。そして二人はとても仲良さそうで、まるで――恋人同士にも見えた。
ああ、そうか。この二人は、そうなんだ。声をかけなかったのは、渚たちがいたからじゃない。邪魔をしたくなかったから。
大喜くんとの間に線を引いたのは、やはり正解だったんだ。同居が始まったばかりの頃は「好きな訳じゃない」とか話していた気もするけど、でも大喜くんはやっぱり。やっぱり、蝶野さんが好きなんだ。そして蝶野さんも。私が無防備にして大喜くんを惑わせたりしたら、これはなかなか申し訳ない。
考えてみれば、お似合いの二人なんだから。
だから、ゆめちゃんを本部に連れていくあの時。私は大喜くんを帰らせるべきだった。ここは良いから蝶野さんと一緒にいてあげなさい、と言うべきだったんだ。でも、でも、でも――私はそうしなかった。出来なかった。わざわざ引き留めるように、どうでもいい話をして。少しでも長く、隣にいようとした。花火の打ち上げが再開されてようやく、私は大喜くんから離れる決意が出来たくらいだ。
そして数日が経つと、大喜くんは見違えるように活発になっていた。練習会が刺激になったと本人は言うけど、それは違うと思う。蝶野さんと、色々あったからじゃないのかな。……まあ、色々と、ね。大喜くんはオトコノコだから、まあうん。蝶野さんも蝶野さんでイキイキしているし、モチベーションが上がるのは良いことだ。
なのに何故か、私はそれがモヤモヤして仕方がない。
大喜くんが私に嘘を吐いたのは、もしかしたらあれが初めてかもしれない。同居前の私たちは言葉を交わす事もそんなになかったし、一緒に住む中で大喜くんが嘘を吐けない真っ直ぐな子だと分かったし。その大喜くんが、嘘を吐いてまで蝶野さんとの事を隠そうとした。私がモヤモヤするのは、きっとそこだ。だって、他には――なにも、無い。
恥ずかしくて言えなかった、とかならあんな風にシレッと素知らぬ顔をするだろうか。言いたくない理由なんか、本人しか分からないんだろうけど。それでも、話してほしかったな。家族ではないけど、似たような間柄なんだから。
まあ、小さな事だ。引き摺る必要はない、そう思うのに。
もし、それ以外に理由があるとしたら何だろう。
大喜くんが、蝶野さんと付き合いだした。私はそれが気に障る。それは、つまり。
「蝶野さんに、大喜くんを取られたから……? それが悔しいから……?」
口に出してみて、その間抜けさに呆れてしまう。
でももしそうだとしたら、困ったものだ。大喜くんを独占したいとか、そんなのまるで私が、大喜くんを――。
「……ダメだな、これは」
ついつい良くないことを考えそうになってしまう、そんなの今は無理な事だ。今はバスケだけに集中しなければ。私はまだまだ未熟で、運と勢いでレギュラー入りしているようなものなんだから。自分のためにも周りのためにも、自身を研ぎ澄まさなければ。
今度、大喜くんに色々聞いてみようかな。蝶野さんと付き合いだしたのは確かだろうけど、直接聞いておきたい。あの嘘のせいでなんとなく感じ続けている寂しさも、それで消えてくれるだろう。今度は嘘を吐かないで欲しいけど、どうなるかな。
なんにせよ、今する事ではないけど。
夏の陽は高く、天高くから街を灼いている。この熱さに負けないくらい、燃え上がろう。一片の灰も残さず、焼き付くして、この夏を華々しく終わらそう。
全ては、その後だ。
ウィンターカップはどうなんでしょうかね?