ウマ娘たちと担当トレーナーの日々   作:室賀小史郎

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モンスターズの4月

 

 入学式が終わると、トレセン学園では一番のビッグイベントであるファン感謝祭が開かれる。

 クラスごとの企画展示や出し物はもちろん、委員会や部活による出し物にチームの出し物と様々なものが無料で楽しめるため、来場者数は毎年軽く4桁を超えるファン待望のイベントだ。

 

「えっと……グラスたちのクラスは……あっちか」

 

 一方で山場武を含めたトレーナーたちはファン感謝祭中は見回りを行っている。

 実行委員や生徒会役員も見回ってはいるが、学生の身でもあり彼女たちもファン感謝祭を楽しんでもらうため、トレーナーたちも教員たちと共にトラブルがないか見て回る必要があるのだ。

 とは言っても飲み食いしてもいいので、山場武も見回りをしつつも教え子であるグラスたちのいるクラスへ向かっているところ。

 

 チーム『モンスターズ』はチームとしての出し物は毎年していない。何故なら彼女たちはみんな同期であるため、6人がごっそりといなくなるとそのクラスの出し物の人手が減って大変だからだ。

 グラスたち自身もチームでの出し物も考えたことはあるが、何か一つに絞ることが難しく、クラスの子たちに迷惑もかけられないよね、ということでだったらクラスの出し物に注力しようという話に落ち着いたのである。

 

「グラスさん、この抹茶ラテ運んでくれる?」

「はい、お任せを」

 

「エルちゃん、この段ボール潰しちゃってー」

「任せるデース!」

 

「ツルちゃん、無理しないで休んでていいよ」

「あ、ありがとう、スペちゃん……ゴホッ」

 

 この通りグラスたちは一丸となってクラスの出し物を持ち前のチームワークでこなしていた。

 グラスたちのクラスの出し物は和と洋を取り扱う喫茶店。当初は茶屋の予定だったが、それだとグラスの負担が大きいのでこのようにしたそうな。

 接客時はみんなお揃いの紫色の着物に白の割烹着を着用。学園の制服とリボンの色に合わせた物だ。

 飲み物とお菓子がセットになっており、飲み物はテイクアウトも可能。テイクアウトの際はコンビニにもあるようなテイクアウト専用カップで、そのカップにはクラスのみんなでそれぞれマジックペンで絵を描いている。因みにグラスはたんぽぽ、エルはコンドル、ツヨシは三日月マーク、キングは王冠、ウンスは猫の肉球、スペはニンジン。

 教室を仕切りで区切り、お客用スペースと飲み物とお菓子を盛り付けるスペースとで分けており、食品を取り扱う子たちは全員ゴム手袋、白の三角巾、尻尾カバーを着用。

 

「おー、やってるなー」

 

 山場武が教室に入って声をかければ、席に案内してくれた青鹿毛のウマ娘の計らいでグラスたちが接客してくれることに。

 

 みんなはいそいそと山場武の元へやってきて、早く注文をしてほしそうに身構えている。

 

「何が食べたいですか、トレーナーさん?」

「エルのオススメはデスソース饅頭デース!」

「絶対いらない」

「ノォォォォォウ!」

 

 エルはまさかの山場武からの拒絶に大絶叫するが、他のみんなは『そりゃそうだ』と苦笑い。そもそもデスソース饅頭とはただ単に白玉団子の中にデスソースを入れた罰ゲーム級の呪物でしかないのだから。

 

「煎茶とすあまにしようかな」

 

 山場武が注文をすると、グラスがオーダーを書いてツヨシがオーダー票を調理場の子に渡す。

 

「結構賑わってるな」

「はい! マックイーンさんから教えてもらった老舗の和菓子屋さんと洋菓子屋さんから仕入れたので好評なんです!」

 

 鼻息荒く説明するスペだが、口の端からはヨダレが垂れてしまっているので、キングが苦笑いでポケットティッシュで拭いてあげていた。

 

「トレーナーさんはここで過ごしたあとはどうするんですー?」

 

 いつの間にか正面の席に座っていたウンスが質問すると、山場武は「見回りを再開するぞ?」と返す。

 すると、

 

「じゃあエルたちも一緒に行ってもいいデスか?」

「私たちもこのあと自由時間になりますので、よろしければ……お邪魔はしませんので」

 

 エルとグラスがチームを代表して申し出て来たので、山場武は快く承諾した。

 

「ただ、見回り優先だから何か問題があればそっちを優先させてもらうからな?」

 

 注意点を山場武が言うも、グラスたちは彼と過ごせるだけで大満足なので気にすることなく頷きを返し、彼が煎茶とすあまを堪能するところをグラスたちもまた堪能して一緒にファン感謝祭を回ることに。

 

 ◇

 

「トレーナーさ〜ん……」

「ダメです」

「うぅ……」

 

 そして一緒に回ることになったものの、山場武はスペが誘惑に負けそうになる度に担当トレーナーとして対処する方が多くなってしまった。

 

「トレーナーの仕事が増えてるわね……」

「あはは〜、でも流石のスペちゃんもトレーナーさんに逐一確認取ってるし、暴食しなくて済んでるからある意味でいいことなんじゃない? 私たちじゃスペちゃん止められないし」

 

 呆れるキングに対してウンスがヘラヘラと笑って返せば、キングもキングで「確かにそうね」と納得してしまう。

 

「それにしても毎年色んな出し物があって凄いよねー」

「メイドカフェや執事カフェといったコンセプトカフェもありますからね」

「プロレスカフェがないのが残念デス」

「流石にそれは教室じゃ無理だと思うよ、エルちゃん」

 

 嘆くエルにツヨシが苦笑いで言えば、エルは頭では分かっていてもやるせなさで肩をすくめる。

 

「まだ今日はゴールドシップさんの焼きそばしか食べてないー」

「普通の一人前だろうな?」

「も、もちろんです!」

 

 一方でスペはガックリと項垂れていたところに山場武から疑いの眼差しを向けられ、懸命に弁明していた。因みにゴールドシップの焼きそばは人気で在庫も限りがあるため、ウマ娘サイズではなく通常の人間サイズの大盛りまでしか買えないのだ。

 

「ニンジン飴なら許してやろう」

「やったー!」

 

 お許しをもらえて飛び跳ねて喜ぶスペ。それを見るグラスたちも思わず笑みが浮かぶ。

 

「じゃあ私たちもいただきましょうか」

 

 グラスの一声にエルたちも揃って頷き、ニンジン飴を片手に山場武と束の間のファン感謝祭を楽しむのだった。

 また『モンスターズ』はファン感謝祭特別レース『トレーナーリレー』では惜しくも二着で終わり、チーム『百花繚乱』に大差をつけられた。

 出走者はグラス、エル、ツヨシ、スペの四人で、ウンスは山場武を至近距離で見るのが出来ないと断念し、キングは『一流のトレーナーは私の隣に居るべきよ』と出走を拒否した結果だ。

 因みに山場武はお姫様抱っこされた際に死んだ魚のような目をしていたとか。

 

 ―――――――――

 

 ファン感謝祭も終わり、トレセン学園は平時の賑やかさが戻る。

 しかし学園では秋川理事長の理念のもとでウマ娘たちにより良い日々と思い出を提供するため小さなイベントが日々目白押しだ。

 そんな中、本日はトレセン学園では『ウマ過ぎ春のパン祭り』が開催されている。

 4月のカフェテリアではある意味毎年の風物詩であり、パン好きのウマ娘たちにとっては夢の祭典とも言われて、毎年この日はカフェテリアに長蛇の列が出来る。

 中でも人気なのは有志によるアレンジパンメニューで、今年も多くの有志による創作パンが並び、生徒たちの食欲を刺激していた。

 

 中でも人気なのはあのライスシャワー考案の米粉パンを使った『欲張りランチサンドセット』で、内容はタマゴ、ツナ、ニンジンサラダ、ヒレカツ、ニンジンジャムの5種類入りの豪華なセット。それに加えてどれもB6判サイズの大ボリュームで、大食いのウマ娘はもちろんだが、少食のウマ娘たちも分け合って食べられる。

 他にもゴールドシップ考案の『ゴルシちゃんのはみ出る大盛り焼きそばパン』を始めー

カレンチャン考案の『シェアするメロメロトースト』

ナリタブライアン考案の『ミックスグリルドッグ』

ビワハヤヒデ考案の『バナナクリームコロネ』

ナカヤマフェスタ考案の『ロシアンルーレットちぎりパン』

ホッコータルマエ考案の『ハスカップパン』

エイシンフラッシュ考案の『クヴァルクベルヒェン』

 ーと様々なパンがあるのだ。

 因みにクヴァルクベルヒェンとは小さなドーナツのような見た目の甘いお菓子で、生地にはクヴァルクというドイツのフレッシュチーズが練り込まれており、ふんわりしっとりとした食感が特徴。揚げた後に砂糖をまぶし、一口サイズで食べやすいという点とケーキ屋の実家を持つエイシンフラッシュが監修したのもあって、飛ぶように注文されている。

 

「これがグラスちゃん考案のアンパンとエルちゃん考案のカレーパン?」

 

 そしてウンスが訊いたようにグラスとエルも創作パンを出していた。

 

「はい。アンパンは日本独自のパンですし、私も大好きなので」

「エルも大好きなカレーパンをエル流にアレンジしました!」

 

 グラスのアンパンはこしあんとつぶあんのハーフ&ハーフ。某メーカーの2色パンのあんこバージョンで、黒ごまと白ごまがまぶしてある。

 一方でエルのカレーパンは見るからに真っ赤なカレーパンで、エルならではの激辛仕様。美味しそうに食べられるのはメイショウドトウのような辛党のウマ娘たちだ。

 

「……私は悪いけれど、エルさんのはパスさせてもらうわ」

「私も辛いのはちょっと……」

 

 早々に辞退するキングとツヨシにエルは「ケッ!?」と驚きを隠せないが、

 

「私もパスかなー♪」

「セイちゃんまで!?」

「だってもう既に辛いもーん」

 

 ウンスも辞退とのことでショックを隠しきれない様子。

 

「わ、私は食べてみるね!」

 

 唯一スペだけは食べることに。

 エルはそのおかげでぱぁっと笑顔が戻る。

 

「い、いただきまーす……ぱくっ」

 

 恐る恐る一口食べるスペ。

 もぐ、もぐ、もぐ……と普段のスペからすればかなりのスローペースな咀嚼にエルを除くグラスたちは心配そうに見守る。

 そして飲み込んだスペはゆっくりと、満面の笑みで、滝汗を流しながら「無理」とだけ言って水をピッチャー直で飲み干した。

 

「だ、大丈夫、スペちゃん?」

「うん、ありがとう、ツルちゃん。安心して大丈夫じゃないから」

「えぇ!」

「私は今エルちゃんのカレーパンをほんのちょっぴり食べた。い、いや、食べたというよりはまったく理解を超えていたの……あ、ありのまま今起こった事を話すね。私はカレーパンを食べていたと思ったらいつの間にか飲み込んでた。な、何を言ってるのか分からないと思うけど、私も分からなかった。頭がどうにかなりそうだった……」

 

 唇を赤く腫らして言うスペにみんな困惑するものの、とにかく辛かったということは伝わった。

 

「美味しいのにぃ……」

 

 唯一エルだけはがっかりしていた。

 

「とりあえず、これ抜きでトレーナーさんにお裾分けしに行きましょう」

 

 こうしてスペの尊い犠牲の元で、山場武は激辛カレーパンを食べずに済んだため、山場武はスペに今日は特別におかわりを3回許してあげたそう。




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