ウマ娘たちと担当トレーナーの日々   作:室賀小史郎

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モンスターズの5月

 

 ゴールデンウィークに突入したこの日、トレセン学園では変わらずトレーニングに励む生徒たちやチームもある中、山場武率いるチーム『モンスターズ』は東京レース場に来ている。

 東京レース場ではゴールデンウィークの特別イベントとして、アスリートウマ娘たちとの触れ合い会を開催。

 ゴールデンウィーク一発目となるこの日は、山場武率いるチーム『モンスターズ』がゲストに呼ばれ、家族連れはもちろん彼女たちのファンも多く来場していた。

 

「グラスワンダーだ! 握手して!」

「私も私も!」

「私は逃げませんから、順番にお願いしますね」

 

 子どもたちに握手をせがまれても、兄弟を持つグラスは微笑んで対応している。

 握手をちゃんとその子の目線に合わせてしてくれるという神対応に、子どもたちはもちろんだが、その子たちの親たちもグラスの対応に大満足。

 

「次俺!」

「次は僕!」

「ケンカはダメデース! まとめて相手をするので仲良く待つんデスよ!」

『はーい!』

 

 その隣ではサービス精神旺盛なエルが男の子たちを両肩に乗せてあげるという触れ合いを敢行。

 エルの力なら何も問題はないが、万が一のためにちゃんと側にはスタッフが待機していて落下防止も万全で、子どもたちの笑い声が溢れている。

 

「ツルちゃんって名前なのにツルツルしてない!」

「どうしてツルちゃんなのー?」

「それは私の名前がツルマルツヨシだからだよー♪」

 

 一方でツヨシの方は比較的のほほんとした触れ合いだ。

 握手をしたり、勝負服の飾りを触らせてもらったり、大人しめの子たちが集まってツヨシに質問攻めし、ツヨシも兄弟姉妹がいるため笑顔を絶やさず対応している。

 

「キーン!」

「キーン!」

「キングヘイロー!」

「一流のウマ娘ー、キングヘイロー♪」

「なんか何処かで聞いたような曲調だけれど、キングを讃えていることは分かるわ! おーほっほっほ♪」

 

 男性ファンたちがキングゲ〇ナーの曲に合わせてキングを讃えれば、少々引っかかりつつもキングは上機嫌に笑った。

 元ネタを知らぬ人々の反応は薄いが刺さる人には刺さるというネタなので、ある意味楽しまれている。

 ファンたちに囲まれて本人はいつもより嬉しそうにしているし、手伝いに来てくれた彼女の友であるネコ目のウマ娘とボブヘアのウマ娘も自作のキングカラーのポンポンを振って盛り上げてくれているので尚更テンションが高い。

 

「こっち向いてー!」

「はいはーい♪」

『きゃー!』

「こっち向いてー!」

「はーい♪」

『きゃー!』

 

 キングの隣ではウンスが女性ファンたちに囲まれてファンサービスをしている。

 普段めんどくさがりのウンスでも、こうしてファンたちとの交流は大切にしているのでちゃんとサービスも忘れないのだ。

 

「わー、気持ちいい!」

「次私!」

「次僕!」

「ちゃんと順番にしてあげるからねー♪」

 

 そして最後はスペ。彼女はおんぶが得意なのもあって子どもたちに順番におんぶをしてあげて癒やしている。

 子どもたちはスペのおんぶに大いに喜び、親たちはあの日本総大将がこんなにもサービスをしてくれることに心から感謝した。

 

「山場武トレーナーさん、次のプログラムのことなのですが」

「はい」

 

 グラスたちがファンたちと触れ合っている最中、山場武は忙しく裏方としてスタッフの人たちと連携を取ってイベント進行の手伝いをしている。

 触れ合いタイムが終われば次はサイン会。これは誰か一人を選んでサインを貰い、そのウマ娘のぱかプチ贈呈と記念撮影もセットであるため一番多く時間を割いている長丁場のプログラム。

 待ち時間もあるため、その待っている間のことも考慮して会場に指定した屋内スタンドの巨大スクリーンに流すグラスたちのレース映像の選別もし、グラスたち用の水分も山場武がスタッフと用意しているのだ。

 因みにスペの腹が鳴ってしまった時用の塩のおにぎり(ソフトボールサイズ)も用意してある。

 

 ◇

 

 そんなこんなで触れ合い会が無事に終わり、ファンたちも満足そうに会場をあとにし、山場武たちもスタッフと挨拶を交わしてこれから山場武宅へ向かう。

 元々このイベントが終わったら山場武宅で打ち上げをする予定だったのだ。

 そしてその前に山場武はスペたちを連れていつも訪れている近所のスーパーへやってきた。

 

「打ち上げをするのはいいとして、メインをどうするかがまだだよな……何かいい案かリクエストはあるか?」

「大人数ですから、パーティー料理がいいですね」

 

 山場武の問いにグラスが頬に人差し指を当てながらつぶやくように返すと、他のみんなもうーんとアイデアをひねり出そうと悩む。

 

「スペちゃんがいるということも考えて大量且つトレーナーさんのお財布事情も考えないとだから、意外と難しいよねー」

「確かにスペちゃんのことだから無尽蔵に食べちゃうもんね」

「トレーナーさんのお財布が軽くなりマース」

「ちょっと待って、そもそもトレーナーがスペさんにそんなに食べさせる訳がないでしょう?」

 

「ねぇ、みんな、私のことなんだと思ってるの?」

 

 スペの質問にエルとウンスが『カ〇ビィ!』と答えると、

 

「えー、私そんなに可愛いかなあ?」

 

 えへへと満更でもなさそうなスペに、キングは思わず「おバカ……」と嘆いてしまった。そんなキングをグラスとツヨシは『まあまあ』と苦笑いでフォローを入れる。

 

「…………あれにしよう」

 

 山場武が何かを指差して言うので、みんなしてその指の先に視線を向けると、そこにはボイル済み白モツが大安売りされていた。

 そしてご丁寧にその横にはキャベツの箱がドドンと置いてある。

 

「春キャベツの時期ですからいいですね、春キャベツのモツ鍋」

 

 グラスが笑顔で言えば、スペはもうモツ鍋の口になって涎をすすりながら、キャベツの箱の匂いを嗅いで一番新鮮なキャベツの箱をキープした。

 

「一箱なのね……」

「まあスペなら余裕だろう。値段も10個で4000円なら手頃だ」

 

 呆れるキングに山場武がそう言えば、キングは「まあ、貴方がそれでいいなら」とカートを持ってきてスペが選んだキャベツの箱を乗せる。

 

「あとはモツと鍋つゆ選びだな」

 

 山場武はそう言ってカートへ特売品のモツをドカドカと入れ、醤油、塩、味噌の鍋つゆを入れてレジへ向かうのだった。因みにちゃんとエル用にキムチ鍋つゆも買って。

 

 ◇

 

 山場武宅へ着くと、山場武は早速グラスやツヨシと共にモツの下処理を始める。他のメンバーにはテーブルの上を片付けてもらうことに。

 ボイル済みのモツは既に下茹でされているため、下処理が簡単だ。

 最初にボイルモツをザルにあけ、流水で優しくもみ洗いし、濁った水が出なくなるまで、数回繰り返す。

 それが終われば次は鍋に湯を沸かし、洗ったモツを入れて約5分間さっと下茹でし、そこへしょうがや長ネギの青い部分を一緒に入れることで、更に臭みを取る。

 茹で上がったら再度ザルにあげ、流水でアクや余分な脂肪をキレイに洗い流せば処理完了。

 

 それをしている間に、エルたちは卓上コンロ4つと土鍋を用意して待っていた。土鍋はどれも12号サイズの大きい物。

 

「右から醤油、塩、味噌、キムチな」

 

 ストレートの鍋つゆを 入れ、各コンロを同時に点火。

 そこへざく切りにしたキャベツをてんこ盛りにし、キャベツがクタクタになるまで蓋をして待つ。

 暫くして鍋蓋が完全に閉まったら、一度蓋を取ってキャベツの山を菜箸でならし、そこへモツを入れて蓋をし、味を染み込ませる。

 

「スペ、白飯は5合までだ」

 

 煮ている間、スペに5合炊きの炊飯ジャーを渡す山場武。因みにグラスたちにも5人で5合炊きの炊飯ジャーを1つ渡している。

 

「この飯、疎かには食わんぞ」

「名シーンを汚さないでもらえますか、スペちゃん?」

「ご、ごめんなさい!」

 

 グラスの好きな日本映画の名シーンを真似たはずが、グラスの不評に即座に謝るスペ。

 みんなそんな二人のやり取りに苦笑いしつつ、グラスを怒らせてはいけないと改めて思う。何故なら笑顔の裏に修羅の顔が見えたから。

 とは言え、みんなは思い思いにモツ鍋を堪能し、その味に舌鼓を打つ。

 

「んー、どれも美味しいけど、塩味はあっさりしてて一番美味しいー♪」

「エルはやっぱりキムチ味がいいデース!」

 

 ツヨシとエルはそれぞれの鍋を食べながら頬を押さえ、ご飯をかき込む。エルもちゃんとみんなのことを考えて自分の取り皿に激辛ソースを追加して自分好みの辛さにしていた。

 

「美味しいけど猫舌には厳しいかなー?」

「取り皿に取ってフーフーすればいいじゃないの」

 

 猫舌のウンスが苦笑いを浮かべる横でキングがアドバイスすれば、ウンスも他のみんなもキングの『フーフー』に思わず笑ってしまう。しかしそれはそれでキングらしい表現だ。

 

「ちょっと早いが締めは何がいい?」

 

 山場武の質問にみんなは箸の手を動かしながら熟考する。

 オーソドックスな雑炊も捨てがたいが、モツ鍋なのでうどんやラーメンも合うからだ。

 

「いっそのこと全部やりましょうよ! お鍋4つもあるんですから!」

 

 スペがそう言うと珍しくみんなも賛成のようで山場武に期待の眼差しを向ける。

 

「まあ、今日みんな頑張ったしいいだろう」

 

 山場武の許しを得て、みんなは揃ってバンザイした。

 

「塩味のやつにはパスタ入れてみないか? 合うと思うんだよ」

 

 彼が戸棚からパスタ麺を取り出して言えば、

 

「和風パスタみたいでいいかもしれませんね」

「試してみたいデース!」

「何事も経験ですね!」

「いいんじゃないかしら?」

「こういう冒険もたまにはいいねー♪」

「早く食べたいです!」

 

 みんなも乗り気。スペに至っては既にロックオン状態で、食べるスピードが加速している。

 

「じゃあ塩はパスタにするとして、あとはどうする?」

「では多数決で決めましょうか」

 

 グラスの提案にみんなも同意して頷くと、グラスが代表して醤油味の鍋へ手をやって「雑炊がいい人ー」と訊ねた。

 するとスペを始め、ツヨシ、ウンス、そしてグラスが手を挙げたので醤油は雑炊に。

 続く味噌はうどん。キムチはラーメンとなった。

 こうして思う存分にモツ鍋を堪能し、最後は山場武に各寮まで送ってもらって充実した1日を終えるのだった。




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