FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得 作:秋の自由研究
「――なぎこは?」
「ちゃんと香子さんの部屋にいるよ。最後まで大分ぶーたれてたけどな」
「しょうがないだろ。あの子が荒事に向いてるとは到底思えないからね。元気だけど、それだけじゃちょっと」
シャーッ……シャーッ……シャーッ……
「それは同意するけど……んで、今日はアンタと俺でサシだ」
「そうかい。なんか、小さい頃を思い出すねぇ」
――視線を目の前の老婆に向ける。
何時の頃の話だったか。夜中、怖い話を思い出してしまって、月明かりが差す縁側から部屋に戻れなくなって……目の前のこの人に手を引かれて、べそかきながら部屋に戻ったのだったか。昔から、面倒見が良い人だった。
異様なまでに昔の言い伝えに固執しなけりゃ、良い人なんだけど、とも思う。
「……その言い伝えに固執してなきゃ、客人に話も出来なかったろうよ」
「考えを読むんじゃあねェ。一言も言ってないだろ妖怪サトリ婆」
「喧しい。アンタが顔に出やすいのが悪いんだよ。筆で書いたみたいにくっきり出てんのを読むなってのが無茶じゃないかい?」
「なぁんだとォ……ババア……?」
あぁいかんいかん。まだ無駄に殴り合ってる。こんな所で言葉で殴り合って何になるって言うんだって話……だからと言って普通に肉体言語で殴り合ったとて、今だと多分諸々の前提条件込みであっても普通に俺が負ける可能性大だが。
顔を上げる。
俺の目の前で、ババアは丹念に『刃』を研いでいる。こういう場合は出刃包丁とかが定番なのだが……それどころの話ではない。バッチリと鋭利な弧を描いた、人を殺す為の凶器だ。具体的に言うと、薙刀の刃の部分である。
「……通じるか微妙だぞ」
「だからって言って、コイツは三条の刀を磨り上げて仕立てたもんだよ。この時に寝かせておく必要もないさね。ま、こんな婆に出来るせめてもの事さ」
「ほーん……三条って何。メーカーの名前?」
「こりゃまた、物を知らない小僧だね。伝説の刀工だよ。その昔、国宝物の刀を打った程のね……まぁ、コイツはその修作らしいが」
……成程。取り敢えず、なんでそんなもんを持っているのかは聞かない。そんな事を言い出したら、こんな山間にあるのかって品がこの村は割と届いてたし。誕生日ケーキとかどっから取り出したんだって話。
んで、そんな薙刀を婆は今、丁寧に濡らした砥石で念入りに刃の部分を研いでいる訳だが……不思議な事に、おどろおどろしい感じはしない、というか。
刃を見つめる目が酷く澄んでいるからか。背をぴんと伸ばしたまま、刃を丹念に研ぐその仕草が、酷く洗練されているからだろうか――
「……そんで?」
「……何がだよ」
……思考の海から浮上する。
不意にぶっきらぼうに問われ。此方も思わず同じ様に返してしまった。普通に返せばよかったというのに、と。少し後悔しつつ……手を止めて此方を見る婆と目を合わせた。
この目だ。この、酷く強い光を湛えた、透き通った瞳。
旧い時代からの言い伝えを、山間の村に閉じ籠って、外に出るどころか、外から自分達の村に人を引き入れて。長く、長く生き延びて、そうして……子孫たちへ伝え続ける。そんな、歪んだ生き方をしているとは思えない。
「話があるから、私とサシで話をしに来たんだろ?」
「だから……ったく、先に言うんじゃねぇよ」
「寧ろ、こっちから口火を切って欲しそうな面しておいて、良く言うよ」
……そんな顔をしている積りは無かったが、しかし。一切、そう思っていなかったかと言えば嘘になるかもしれない。
「はぁ……まぁ、本当はサシになってまで話す様な事じゃないのかもしれないが」
「御託は良い。さっさと話しな。明日になったらそんな暇ないよ」
「色々とあるじゃないですか。風情とか……」
とはいえ、そんなセンチメンタルを考慮してくれる程に優しい人でもない。ぶった切られて、思わず、ため息一つ。事実ではあるので仕方がないが。
……一つ、呼吸を入れる。
正直な話をすれば。これを問う事が必要なのかは分からない。真っすぐに目を見返しながら、口を開いた。
「話は単純明快だ――」
「アンタは『何処まで』この状況を把握している?」
――暗がりの中、月明かりに照らされる白磁の頬に、赤い弧が浮かぶ。
「ふふっ……可笑しな事聞くんやねぇ。もしかしてうちの事、疑うてはるん?」
「そうではない。貴様が敵方なら、そもそもあの男の傍から離れなければいい。こうやって『火消し』を行う必要もないだろう」
……周りを見回しながら、巌窟王はそう口にした。
ここまで『二度の試み』が失敗に終わった時点で、此方の動きが何者かに漏れている事は間違いない。彼はそう考えている。しかしながら……もしこれが敵方に漏れているのであれば、対応が温すぎると言っていい。
此方の『狙い』を知っているのであれば、放置同然にするわけもない。
やはり睨んでいた通り――もう一つの勢力が居る。それも、此方に直接的な妨害をする訳でもない。恐らく、魔術王に与する何者かと、反目する者が。
「……そちらと貴様は接触していた、と踏んでいたのだがな」
「そやねぇ。顔くらいは、見たかもしれへんねぇ……うぅん、せやけど」
酒呑童子は……殊更に愉快そうに、笑って見せた。
「うち、誰かと進んでおてて結ぶように見えとるん?」
「必要とあれば、だな。貴様が分かり易く『鬼』らしい質であるならば、話はややこしくならずに済んでいた……とはいえ、今までの反応で凡そは当たりは付いたが」
「……んぅ、いけず」
……その戯れに態々付き合う積りも無い。努めて切り捨てる様に口にした言葉に、目の前の童女の姿をした怪物は、愛らしく口をとがらせて見せた。
溜息を一つ。自分の知っている輩よりは『幾分かはマシ』とは言え、こう言った類の輩は見た目の仕草に騙されない様に努めねばならない。
今、お互いに単独で動いているのであれば、その目的を互いに邪魔せず、こうして最低限の情報をやり取りする程度で十分だ。
「……盤面の外での掃除役を、自ら進んで引き受けるとはな。貴様であれば、内側から掻き回す役割を選ぶと思っていたが」
「そやねぇ……もう少し『遊び』があるなら、うちも舞の一つでもご披露したかったんやけど。変に賢しい真似事されて、気分も乗らへんわぁ」
それよりは――と。
酒吞童子は、その手に握りしめた『亡霊』の喉首を、容赦なく片手で握りつぶして見せた。ここに湧き出たのは、これで最後だろうか。
「こうやって『ご破算』になる時まで、癇癪起こした小娘と遊んでる方がまだ、ねぇ?」
「……貴様が『暗殺者』のクラスなのは敵にとっては最悪だったな」
得手ではないとはいえ、だ。ここはもともと隠れ里、夜闇や木陰に潜みやすい上に、派手に動かねば、自分の足元が少しずつ食い荒らされて行っている事も気づかれにくい。
そして……これは敵の怠慢、というよりも。酒呑童子が『上手い』というのもあるだろう。あくまで『形を成した』者だけをこうして狩り、溜まった『淀み』自体には手を出していない。故に、敵からは準備が順調に進んでいる様に見える。
結果として……まるで一枚壁を隔てた向こうにある、シロアリの巣の如き有様に気が付く事は出来ない。
「んで……そちらさんは戻らんでええの? そろそろ大詰めやで?」
「……いや、ここまで来たのであれば、このまま動きを見せない方が良いだろう。事が上手く行かなかった時の『備え』に対する、一つのカウンターとして、な」
「過保護やねぇ……ま、それでええならうちは別に構わへんけど」
……くるりと村落の方を振り返った。
もう一つの懸念事項に関して、ギリギリまで調べたい、というのも当然あった。
あの村に居るのは――外から連れてこられた二人のマスターと、デミサーヴァントの娘を除き、殆どが自分と同じサーヴァント……例外は『一つ』だけだ。
その『例外』が何方かに付いているのか。そこ次第では、自分が最悪の場合の始末をつけるかどうかが決まってくる。
くすくすと笑う鬼の娘を背にして、彼は歩き出す。
これで、三度目。僅かに感じる『蛇』の残滓を追って、彼は駆け出した。
見えない所で頑張ってる二人の描写で、今回はここまでとなります。
次回は7月に更新したいと思っていますが……水着イベント次第ではこの予定はずれ込む可能性がございます。ご了承ください。今年あるなら、静謐ちゃんかブーディカさんに水着になって欲しい……