香澄に恋を抱く有咲。
有咲に恋を抱く香澄。
お互いが1歩踏み出せない、そゆな恋
ある日おばあちゃんが亡くなった事により急遽父母と暮らすことに。
しかし父母の仕事の都合上転校しなければ行けないことになる。
有咲の人生を揺さぶる別れの連続に有咲は1つの決断を手紙に残す。
1枚はみんな宛に、もう1枚は香澄宛に
果たして手紙の内容は。2人は無事結ばれるのか。

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どうも、初めまして!
暇人と申します!
僕は主にpixivの方でかすありと百合を中心にss投稿しているのですが、知り合いにこちらも勧められたので、始めてみることにしたしました!
pixivで上げたのをいくつか上げたり、こっちでしか書かないやつも上げるつもりです!
自分なんかの駄文を気に入ってくれる方がいれば、是非!
いいねなどお願いします!!


Forever

人生を変えるような出会い

 

それは生きている限り途絶えることの無い可能性だ。

現に、中学から不登校。高校に入っても単位に必要な最低限の回数しか学校に行かないような私にも、そんな出会いがあったのだから。

 

香澄「有咲…もう大丈夫なの?」

 

その人がこいつ、戸山香澄。

私が子供の頃ピアノで曲が弾けるようになる度に帰り道に貼った星のシールに導かれて蔵に侵入した。

そしてこいつはランダムスターに魅せられて、バンドを結成。ずっと振り回されっぱなしだったけど、それでも今こうやって毎日学校が楽しいのはこいつのおかげだ。

だからとても感謝している。

 

有咲「あぁ…もう後ろは見ないって決めたからな。」

 

でもこの世界にはもう1つの可能性がある。

出会いがあれば別れがある。そう

 

人生を変えるくらいの別れ

 

これもまた、生きている限り絶対にありえる可能性だろう。

そして、私は今その人生を変えるくらいの別れに連続で直面しているのだ。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

~1週間前~

 

有咲「ただいまー」

 

私は学校から帰ってきた。今日はバンドの練習はoffの為、部屋で勉強でもしようかなと考えていたのだ。

 

だが、一つの異変に気づく。

 

有咲「あれ、ばあちゃん?」

 

いつもならおかえりと居間か台所から返してくれるばあちゃんなのだが、今日は返事がない。

 

有咲「おかしいな…今日出かけるって行ってなかったし…。」

 

不審に思いながら台所に向かったその時、私の頭は真っ白になった。

 

有咲「ばあ……ちゃん?」

 

台所に入るとばあちゃんがうつ伏せで倒れている。

思考が追いつかない。ただ胸からは焦りが、目からは涙がボロボロとこぼれ落ちる。

 

有咲「ばあちゃん!?嘘だろ…返事してくれよ!!」

 

そこから先は良く覚えていない。

私は救急車を呼んだ後、ばあちゃんと一緒に救急車に乗り、病院に行ったらしい。

 

ハッと我に返ったときには、手術室の前だった。

私の親にも連絡がいってたらしく、私の隣には出張に行ってたはずの父母がいた。

 

永遠とも思える時間に終止符を打ったのは、手術室のランプが消え、ガチャっと扉が開いた音だった。

 

母「先生!母は!?」

 

医師「…」

 

首を横に振る医師。その瞬間、私は力が抜けたように膝から崩れ落ちた。

 

医師「最前は尽くしました。ですが、見つかるまでにあまりにも時間がありすぎました…運び込まれてきた時には既に脈は殆ど……」

 

ばあちゃんは心筋梗塞だったらしい。

それで、私が帰ってきた時点で既に時間が経ちすぎていたと。

私はばあちゃんが大好きだった。

母と父は質屋関連の仕事であちこちを飛び回っていた為、物心がつく前からずっとばあちゃんにお世話になっていた。

私のことを誰よりも理解してくれていて、私が不登校の時も何も咎めて来なかった。

無論、父母に恨みなんて無い。私の為に働いてはお金の仕送りなどをしてくれていたのは知っている。

むしろ感謝している。

 

ただ、余りにも急すぎる別れ。

朝の行ってらっしゃいが最後の会話になったのが、私には受け止めきれないくらいの悲しみだった。

 

有咲「せめて…せめてただいまって言いたかった…!今日のお弁当も美味しかったって言いたかった…!今日もアイツのおかげで学校が楽しかっただとか、そんなくだらない話をもっとしたかった…!なのに…、なのにこんなの……!!」

 

私はばあちゃんの遺体の前でずっと泣いていた。

それは慟哭とも言えるほど激しく、吠えるように泣き叫んでいた。

母も隣で涙を流していた。たまに顔を合わせに来た時、ばあちゃんにいつもお礼を言っていた。

かなり感謝していたのだろう。そんな母と私の背中を父は涙を堪えながらさすってくれていた。

 

そうして、後日。

御葬式も無事済ませ、別れを告げると共に自分の心との踏ん切りもつけた。

後ろは見ないと、いつまでもクヨクヨしていたらあの世に行ったばあちゃんを心配させてしまうと思ったから。

そんな時、母と父から声を掛けられた。

 

母「有咲、ちょっと話があるの。」

 

有咲「ん、何?お母さん。」

 

母「おばあちゃんが亡くなって、あの家にはあなた1人でしょ?でも、貴方はまだ高校生。だからあの家に1人で住まわせてあげることが出来ないの。」

 

有咲「それって……」

 

母「うん。私達と一緒に暮らすことになる。今は暫く福岡に住んでるの。つまり今の高校から転校しなきゃいけないの。」

 

転校。その言葉が、私の頭に木霊した。

転校する、つまりポピパの皆と…香澄との別れを意味する。

私も高校生だ、しょうがないことは分かってる。母も出来れば転校させたくないと言うのは表情から痛いほど伝わってくる。

だから、私は怒鳴ることもせずに受け入れるしか無かった。

 

有咲「……分かった。」

 

母「ありがとう…分かってくれて。引越しに必要なものだけ荷造りしといて。1週間後、迎えに来るわ。」

 

有咲「うん。」

 

そう言って母は私を1回抱きしめて、帰って行った。

 

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そうして現在、私は別れを告げれずにいる。

いや、告げる勇気が無かった。

私だって、皆と離れたくなんか無い。

皆とこれからもバンドをしたいし、それになにより香澄と離れたくなかった。

何故か…それは私が香澄に片思いをしているからだ。

 

私は香澄が好きだ。彼女の優しさ、温もりは人を寄せ付ける力がある。

私もその優しさに惚れ、彼女を好きになった1人だ。

彼女に抱きつかれ、好きと言われる度に胸がときめく。

まあヘタレの私は告白することなんて出来ないが……

 

そんな香澄とも、お別れを告げなければ行けない。

でも、恐らく私が別れを告げれば彼女は泣き出すだろう。

私はその彼女の、皆の泣き顔を見たくなかった。

泣き顔を見たら、自分の感情を押し殺しているのが爆発して引っ越したくないと駄々を捏ねてしまうから。

 

香澄「よかった…でも有咲。無理はしないでね?気分悪くなったりしたらちゃんと言うんだよ?」

 

有咲「あぁ、ありがとうな。心配してくれて。」

 

香澄「うん!」

 

そう言ってえへへと笑う彼女。明日には私は居なくなるのに、何も知らない彼女のその笑い顔を見て罪悪感が私の胸をチクリと指した。

 

〜お昼~

 

一同「いただきまーす」

 

おたえ「有咲、唐揚げとパセリ交換しよー?」

 

有咲「からあげとパセリ!?正気か!?……まあいいよ。ほら。」

 

おたえ「えっ…?いいの?」

 

有咲「自分から提案したのになんで疑うんだよ…」

 

沙綾「珍しい……」

 

りみ「有咲ちゃんパセリ好きだったけ~?」

 

有咲「こんなの好きなやつ居ねえよ…ムシャムシャ。苦っ……」

 

香澄「ねーねー!有咲!卵焼きと唐揚げ交換しよ!!」

 

有咲「はいよ、ほら。」

 

香澄「え?3つもくれるの??私唐揚げ2個しかないや」

 

有咲「あぁ、1個でいいよ。んじゃ、いただきます。」

 

そうしていつものように他愛ない雑談をしながらのお昼。

これが最後に皆で食べるお昼ご飯かぁと噛み締めながら時間を過ごす。

あぁ、行きたくねえなあ。ずっとこうして皆で居てえよ。

 

~蔵練~

 

ギュィーン

ドドン

 

有咲「ふぅ…だいぶこの曲も仕上がってきたな」

 

香澄「そうだね…もうそろそろライブでも披露できそう!」

 

おたえ「私もソロにアレンジとか入れてみようかな~」

 

りみ「ライブで披露するの楽しみだね!」

 

沙綾「そうだね~。来月のライブくらいには披露できそうだね!」

 

有咲「……」

 

まあその時には私は居ねえんだけどな…。

てかなんだこれ。これじゃなんかめちゃくちゃめんどくせえ奴みたいだな。

 

香澄「…ーさ!有咲ー!」

 

有咲「わっ!?なんだよ?」

 

香澄「最後にもう一回だけ合わせるよ?」

 

有咲「ん、了解」

 

今はこんなこと考えるべきじゃないな。

最後なんだから、全力で楽しまなきゃ。

そうして私は香澄の綺麗な透き通る香澄の歌声を聴きながら鍵盤に指を走らせた。

 

香澄「よし、じゃあ!みんなまた明日!!」

 

りみ「うん!また明日ね~」

 

おたえ「オッちゃんにはやく会いたいな〜」

 

沙綾「おたえ…アハハ。じゃあ、おやすみ~」

 

有咲「おう、じゃあな。」

 

またなとは言わない。これが最後だから。

 

そうして私は皆が庭を出ていくまで見送り、込み上げてくる思いを抑えながら蔵へと戻った。

自分の部屋の荷造りは済んでいる。

あとはここだけだ。

 

有咲「皆の楽器があるからな…おじいちゃんにここの鍵香澄に渡すように言っとくか。」

 

そうして荷造りを始める。と言っても持っていくものなんてキーボードとちょっとした物だけなので、30分程で終わった。

 

そうこうしていると引越し屋さんが来た。

 

引越し屋「これで全部ですか?」

 

有咲「はい、これで全部です。よろしくお願いします。」

 

引越し屋「はい!では、失礼します。」

 

そうしてトラックは去っていった。

 

有咲「はぁ…今日はソファで寝ようかな。その前に、皆向けと香澄向けに手紙書くか。」

 

携帯のデータも新しくした。未練が残らないように。

椅子に座り、紙にペンを走らせた。

途中、涙が零れて紙が滲んだ。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

~翌朝~

 

有咲「じいちゃん、いくつか頼みがある」

 

じいちゃん「いいぞ、言ってみな。」

 

有咲「まず、蔵の鍵なんだけど。戸山香澄って言うやつが多分ここに来るから、そいつに渡しといてくれ。それと、この手紙も。」

 

じいちゃん「はいよ。しっかり渡しとくな。」

 

有咲「うん。ありがと。」

 

私は高校を卒業したらこっちの大学に通うつもりだ。

だから、そうしたらここの家に住む。

その為におじいちゃんは1週間に2回くらい家と蔵の掃除をしてやると言ってくれた。

 

父「もう行けるか?」

 

有咲「あぁ。行こう」

 

そうして私は父の車に乗る。

ごめんな皆。ごめんな香澄。

こんな私を許してくれ。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

教室に入ると、教室がざわざわしているのが分かった。

そして、すぐそれに気づく。

 

香澄「なんで…無いの……?」

 

そう、有咲の机が無いのだ。

私は正気で居られなかった。なんで?有咲になにが……

 

その時先生が教室に入ってきた。

 

先生「えー、皆さん。席についてください。大事な話があります。」

 

とてつもない不安に駆られながら私も席に着く。

そして、先生が告げた。

 

先生「市ヶ谷さんは引越しの為、転校しました。」

 

香澄「え……?」

 

教室が一気にザワつく。

先生が静かにと言っている中、私の頭の中は真っ白だった。

 

そうして、LINEを送る。

その時、ポピパのグループが4人になっていることに気がついた。

 

香澄 みんな、ちょっと廊下に集合して。

 

そうして、数分後。

それぞれSHRを終えて集まった。

 

香澄「有咲…転校したって……」

 

沙綾「なんで…なにも言わずに……」

 

おたえ「……」

 

りみ「そんな…なんで…… 」

 

3人の目尻には涙が溜まっていた。

無論、私も。

 

香澄「とりあえず……放課後蔵に行こうと思うんだけど、皆来れる?」

 

沙綾「私は行けるよ……」

 

りみ「私も大丈夫」

 

おたえ「私も」

 

香澄「分かった…じゃあみんな6限終わったら校門集合ね。」

 

今日の授業は1つも頭に入ってこなかった。

 

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~放課後~

 

香澄「お待たせ…ごめん、待った?」

 

沙綾「ううん、全然。行こっか」

 

香澄「うん。」

 

そうして有咲の家に向かって4人で歩を進めた。

 

おたえ「ねえねえ。」

 

香澄「ん?」

 

その途中、おたえが喋りだした。

 

おたえ「なんで有咲は私達に何も言わずに引っ越したんだろう。」

 

沙綾「たしかに……」

 

香澄「分からない。分からないけど、なんか蔵に行かなきゃダメな気がするの。」

 

りみ「香澄ちゃん……」

 

おたえ「そっか、じゃあ私はその香澄の勘を信じる」

 

香澄「うん、ありがと。」

 

そうして、有咲の家に着いた。

家の外には見知らぬ男の人が1人立っていた。

 

男の人「お、君達が有咲の友達かな?」

 

香澄「はい…そうです。私は戸山香澄です。」

 

おたえ「花園たえです。」

 

りみ「牛込りみです。」

 

沙綾「山吹沙綾です。」

 

男の人「わしは有咲の祖父だよ。有咲からいくつかお願いされてて、今日はここに来ている。そしてこれからも週2くらいでここの掃除にくる。蔵の鍵は戸山さん、貴方に預けると言っていたよ。そして手紙だ。これは皆へ。もう一通は戸山さん、貴方へ。」

 

香澄「っ……」

 

おじいさん「それでは、私は今日はこの辺で失礼するよ。蔵は自由に使ってくれて構わないよ。」

 

香澄「はい。ありがとうございます。」

 

そう言っておじいさんは去っていった。

 

香澄「蔵に…行こうか。」

 

蔵に入る。

そして皆宛と書いてある手紙を開く。

 

 

皆へ

 

きっと、今皆は怒っていると思う。

 

何も言わずに勝手に居なくなってすまない。

 

本当に申し訳ないと思っている。

 

まずなんで私が何も言わずに行ったのかについて説明させてくれ。

 

皆知っているとおり、私のばあちゃんが亡くなった。

 

そして、私は高校生だからこの家に1人で住むことができない。

 

だからお母さんとお父さんと住むことになったんだ。

 

でもお母さん達は仕事で福岡に居るから、私は転校を余儀なくされた。

 

本当は転校なんて嫌だった。

 

でもそれはしょうがないことだから。

 

じゃあなんで何も言わずに居なくなったのか。

 

それは完全に私の事情だ。

 

正直私も皆と一緒に居たい。

 

これからもポピパで皆とバンドしたかった。

 

だからこそ、皆にこのことを話して、みんなの反応を見たら絶対私の抑えてる感情が爆発して引っ越したくないと駄々を捏ねてしまう。

 

完全に自己中な理由だが、許して欲しい。

 

そして、お願いがある。

 

私が居なくても、ポピパを続けて欲しい。

 

だから蔵の鍵は香澄に預ける。

 

いつか、ライブ配信で私に見せて欲しい。

 

だから、皆はバンドを辞めないで。

 

それと連絡先を消したのは、皆と会いたいと思いたくないから。

 

絶対にこっちの生活に耐えられなくなるから。

 

これも自己中だな。ほんとにすまん。

 

最後に、こんな私と友達になってくれてありがとう。

 

皆には本当に感謝しているんだ。伝えきれないくらい。

 

私は大学はそっちの大学に通うつもりだから、1年半後には戻る…予定だ。

 

もし、また会えたら、仲良くしてください。

 

市ヶ谷有咲

 

 

 

みんな泣いていた。

勿論、私も。

 

沙綾「ほんとに勝手だよ…!ばか…!私だって、私だって……!!」

 

おたえ りみ 「……」

 

りみとおたえは声にならない程涙を流している。

でも私は心に誓った。

 

香澄「みんな…聞いて」

 

そう言うと皆が私の顔を見る。

 

香澄「バンドは…キーボード無しでやる。新規は募集しない。それと、なんとしてもライブ配信を実現させるよ。なんとしても。それと、もし戻ってきた有咲と会えたら、絶対に笑顔で迎えようね。」

 

瞳からは涙が溢れる。

でもただ泣いている訳には行かなかった。

有咲は前を向いて頑張ろうとしている。なのに私達が後ろを向いている訳には行かない。

 

沙綾「…そうだね。今私達ができることは、それだもんね。」

 

おたえ「香澄…うん。ついて行くよ。」

 

りみ「うん…なんとしても有咲ちゃんにライブ配信で伝えよう。」

 

香澄「うん…!でも今日だけは、泣いてもいいよね?」

 

そう言ってみんなで抱き合いながら、泣いた。

これ以上涙を流さぬよう、枯らすように泣いた。

 

香澄「じゃあ、皆。また明日」

 

それで今日は解散した。

明日からまた蔵で練習する。

 

もう日も暮れている。

早く帰ろう。

 

香澄「ただいま…」

 

母「おかえり~。ご飯もうすぐ出来るからね~。」

 

部屋に入る。鞄を投げ捨てるように机の横に置く。

 

香澄「そうだ…私宛の手紙。」

 

椅子に座って机に手紙を広げる。

 

 

 

 

香澄へ

 

まず最初に謝る。

 

本当に申し訳ない。

 

それと香澄にこうして手紙を書いたのには理由がある。

 

まず、ありがとう。

 

私と友達になってくれて。私の人生を変えてくれて。

 

香澄から貰ったものは数え切れないほどある。

 

私も、香澄とは離れたくない。

 

勿論皆とも離れたくないけど、香澄は特別で。

 

香澄と離れることを考えると胸が倍痛くて。

 

でも、どうしても離れなければ行けないから。

 

こうして手紙で思いを伝える形にしたんだ。

 

直で伝えたら、絶対離れたくないって思いが爆発するから。

 

ほんとにごめんな。

 

それと、伝えたいことがある。

 

香澄、私はお前が好きだ。愛してる。

 

こんな手紙で伝えてしまってごめん。

 

もし、香澄がよければ1年半後私の家に来てくれ。

 

その時会えたら、もう一度言わせて欲しい。

 

嫌いになってないと嬉しいかな。

 

私は嫌われても、ずっと香澄を愛してるから。

 

市ヶ谷有咲

 

 

 

私は泣いていた。

さっき蔵で流した量とは比にならない程の涙が溢れる。

もう手紙なんて読める状態では無かった。

まるで私の涙腺が崩壊してしまったかのように、涙が止まらなかった。

 

香澄「ほんとに…ばか…。私だって……」

 

愛しているのに。一方的に伝えて去っていった。

それでも、嫌いになるわけが無い。

 

香澄「有咲…私も頑張るね…」

 

そう呟いて、手紙を机の中に手紙を大切にしまう。

そして私はノートを開いた。

有咲が居なくても時間は進む。

勉強くらい1人で出来るようにならなきゃね。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

有咲「東京から引っ越してきました。よろしくお願いします。」

 

正直不安だった。

また中学の時みたいに冷たい目で見られるのではないか。

でもそんな心配はすぐに晴れた。

 

〇〇「有咲さーん、これからよろしくね!」

 

有咲「ん、よろしくお願いします」

 

隣の席の女の子が話しかけてくれた。

そしてSHRが終わると、色んな人が友達になろうと声を掛けてきてくれた。

とても嬉しかった、でもやはり何かが足りない。

まあ、その何かなんて分かりきっているが。

 

それからというもの、有咲は普通の人から見れば充実した高校生活を送っていった。

友達ができ、みんなでカラオケに行ったり。

でも、有咲の心の寂しさが消えたことは、一時も無かった。

 

有咲「はぁ、会いたいな…」

 

ぽつりと言葉を零す。

そんな声は虚しく部屋の中で消えていった。

 

時は流れて高2の冬、もうそろそろ本格的に大学行く人は対策を始める時期だ。

そんな時、放課後にクラスの軽音部の人が話してる声が聞こえてきた。

 

〇〇〇「ねえねえ!なんか今年のロッキンフェス凄くて、配信するらしいよ!!」

 

今、なんて…

意志より体が先に動いた。

 

有咲「ごめん〇〇〇さん!その話詳しく聞かせて欲しい!!」

 

〇〇〇「え、うん。これなんだけど、ロッキンフェス初の試みって記事があって。」

 

私は画面に食い入るように記事を見た。

そこに写っていたのは紛れもない、アイツらだった。

香澄、おたえ、りみ、沙綾

その他色々なバンドの方々

何も変わっていない。1つ変わっていることがあるとすれば、キーボードがいない事だ。

ロッキンフェスは今月の23日、あと3日後じゃねぇか。

 

有咲「ありがと!」

 

そうして私は教室を出て帰路に着く。

嬉しさと感動で胸がいっぱいだった。

 

有咲「あいつら…本当に。すげえ!すげえよ!!」

 

家に着くなり1人でそんなこと叫びながら盛り上がった。

やっぱりアイツらならやってくれると思っていたが、まさかそれをロッキンフェスで…

泣きそうになる。嬉しすぎて。

 

そして3日後

配信にて

 

香澄「こんにちはー!私達」

 

一同「Poppin’Partyです!!」

 

懐かしい声、その声を聞くだけで涙が出てくる。

 

香澄「画面越しの皆さんも楽しんでますかー!?次は是非、会場に来てください!ここには沢山のキラキラが溢れてます!

今回私達はとある大切な人との約束を果たすためにライブ配信を実現させました。その人は私達のバンドのキーボード役なんです。でも、色々あって転校してしまって。会えないんです。だからそんな彼女に私達の音楽を聴かせる為に今日まで頑張ってきました!きっと見てくれてるはず。それでは聴いてください。走り始めたばかりの君に」

 

そして、始まった。

感想から言おう。泣いた。声を上げて泣いた。

彼女達はこんな私の為に、キーボードを空けているのだ。

新規募集すればいくらでも集まるだろうその枠を、高校生活で戻ることないと知っていても。

嬉しかった。嬉しくてしょうがなかった。

こんな友達が、好きな人がいる事が誇らしくて堪らなかった。

そして、私も決意を固めた。

なんとしても志望校に合格する。

そして東京に帰るんだと。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

〜高3春~

 

有咲「もう卒業か」

 

私は卒業式を無事迎えた。

そして志望校にも合格することが出来た。

今日、荷物はもう東京に向かっている。

この後、家に帰って父母に感謝を伝えたら帰るつもりだ。

胸が高鳴る。それと同時に不安も込み上げてくる。

私と会ってくれるだろうか。こんな私を許してくれるだろうか。

 

ガチャ

 

有咲「ただいま。」

 

母、父「おかえり。卒業おめでとう」

 

有咲「ありがとう。お母さん、お父さん」

 

母「東京に帰るのよね?」

 

有咲「うん。1年間半、本当にありがとう。」

 

母「しっかりやるのよ。大学でも。」

 

有咲「もちろんだよ」

 

父「有咲」

 

有咲「なんだ、父さん」

 

父「俺たちはいつでもお前の味方だからな。」

 

有咲「……」

 

父「辛い時は、何があっても最後に親が居ることだけは忘れるなよ。何があっても俺たちはお前の味方だからな」

 

有咲「…うん。ありがとう。」

 

なんだよ、父さんらしくない。

めっちゃいいこと言うじゃん。

 

有咲「じゃあ、行ってきます」

 

父、母「行ってらっしゃい!」

 

そうして私は外に出て、駅に向かった。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

明日、有咲の家に行くつもりだ。

おじいさんが教えてくれた。

明日、有咲が帰ってくると。

皆には悪いけど、私だけ先に会うつもり。

皆それぞれ別々の場所に行っちゃったし。

 

ポピパは解散した。

大学に進学して、皆それぞれ自分の夢へと歩みだす。

それは自然とみんなで集まる時間が減っていく。

月一で会えるかも分からないだらう。

でも、それと同時にいつか一夜限りの再集結ライブもする予定だ。それも含めて、有咲と話したいことが山ほどある。

 

香澄「楽しみだなぁ…ボソッ」

 

有咲、どんな顔するんだろう?

嬉しがるかな?泣いちゃうかな?

 

そんなワクワクを抱きながら、眠りについた。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

有咲「あぁ、帰ってきたんだな。」

 

自分の家の敷地に入って思う。

懐かしい。この庭、この家、この蔵。

どれもこれも見れば思い出が蘇る。

 

じいちゃん「おかえり、有咲」

 

有咲「ただいま。1年間半もこの家の世話してれてありがとう。」

 

じいちゃん「いいんじゃよ。この家も喜んでるさ。それじゃ、わしは帰るよ。この家、大切にしてくれな」

 

有咲「うん、もちろんだよ。」

 

そう言っておじいちゃんは帰って行った。

 

そして家に向かおうとしたその時。

 

「有咲」

 

思わず背中が震える。

懐かしい声。あぁ、この再会の瞬間を何度夢に描いたことだろう。

 

ゆっくりと後ろを振り返る。

そこには、少し背が伸びたが、面影は変わらない彼女がいた。

 

有咲「香澄…!!」

 

私は駆け寄って抱きつく。

嬉しかった。1年半越しの再開。来てくれなかったらどうしようという不安が晴れて、嬉しさが溢れだしてくる。

 

香澄「有咲…!ありさぁぁ!!!」

 

私達はしばらく抱き合って泣いていた。

再開の瞬間を噛み締めるように。

 

香澄「有咲、おかえり」

 

有咲「あぁ…ただいま」

 

香澄「ほんと、有咲のばか。急に居なくなった時は本当に不安だったんだからね!」

 

だがその声はどこまでも優しく、怒りは無かった。

 

有咲「あぁ、悪かったな。本当にごめん。」

 

香澄「それと」

 

有咲「ん?」

 

香澄は頬を赤らめて、告げた。

 

香澄「私も有咲のこと、愛してるよ。」

 

慈愛に満ちた笑顔で告げる。

その瞬間、また涙が溢れてくる。

 

有咲「私も愛してるよ。遅くなってごめんなさい。私と、こんな私でよければ付き合ってください」

 

ほんとに遅すぎた告白。

 

香澄「ほんと、遅いよ。でも、こちらこそ。よろしくお願いします」

 

そうしてまた2人は抱き合った。

 

 

とりあえず蔵に入って色んな話を聞いた。

ポピパは解散したこと。でも有咲が戻ってきたから一夜限りの再集結のライブをすること。

香澄もここら辺の大学に進学したこと。

 

有咲「ロッキンフェスの時の香澄、本当にかっこよかったよ」

 

香澄「えへへ~、ありがとう。あの時はほんとに頑張ったからね!」

 

さてそろそろ本題を切り出そうかな。

 

有咲「なあ、香澄」

 

香澄「ん?なーに?有咲」

 

有咲「お前もここら辺から大学に通うんだろ?」

 

香澄「うん、そうだよ?」

 

期待の混じった瞳でこちらを優しく見つめる香澄。

私も微笑み返して告げる。

 

有咲「もしよければ、一緒に住まないか?この家で。」

 

香澄「いいの…?」

 

有咲「あぁ、私は大学を出たら、お前と籍を入れたいと思ってる。そこまで考えての同棲だ。」

 

香澄「…有咲。私ね、今すっごく幸せ。この人生の中ので1番幸せだよ。」

 

有咲「私も幸せだよ。」

 

どちらともなく唇を近づける。

2人の意志を確認するように、これからの未来を誓うように。

 

1年間半の時を経て結ばれた私達。

正直、出来すぎた話だと自分でも思う。

でも、現実だ。

 

有咲「なあ、香澄」

 

香澄「なーに?」

 

有咲「1曲、合わせようぜ。」

 

香澄「有咲…うん!いいよ!何合わせる?」

 

有咲「あれやろうぜ」

 

香澄「なになにー?早く教えてよー!」

 

有咲「ミライトレインだよ。2人でだから少し味気ないかもだけど」

 

香澄「…いいね。やろっか」

 

お互いを見つめ、そして私が鍵盤を鳴らす。

そして、香澄の透明で綺麗な声が流れ出す。

 

Wo…

 

普通なら香澄が歌うパートではないが、とても様になっていた。

 

 

この夢は永遠に覚めないだろう。

これからも私と香澄を乗せてどこまでも連れてってくれ。

Train

 

end




いかがでしたか!?
少しでも面白いとか思っていただけたら幸いです。


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