アナタは誰よりも美しい   作:ちっちっち〜

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11話

「あ……」

 

 マルグリットが掠れたうめき声をあげる。

 胸から命が零れ、屋上の床に血溜まりが広がっていった。

 白無垢の衣装が鮮血に染まる。

 

「マリィ!」

 

「おっと動かないでくれ。手元が狂いそうになる」

 

 マルグリットの胸を貫く透明な刃を持った男は、駆け出そうとするトニーを制した。

 周囲に静寂が満ちていく。

 晒していた素顔をスーツの仮面で覆い、トニーは突如として凶刃を振るった男を睨みつけた。

 爛れた目元。陰鬱さを孕んだ相好。現代的とは言えないファッションセンスは、マリィと出会った時から危機感を抱いていた『その手の輩』*1に相応しい。

 

(J.A.R.V.I.S.、解析できるか? なんだアレは)

 

(ト……様。通信が………………向性と力場に………が生じて……………つけ…………………)

 

 悟られぬよう小声で問いかけたが、J.A.R.V.I.S.との通信は途絶えてしまう。

 その間にも、マルグリットを刺し貫いた男の背後でゲートが開き、狂信者が二人もやってきた。

 多勢に無勢。しかもマルグリットは人質だ。

 空恐ろしいほど静かな世界に囚われて焦りが募る。

 脱出は? マルグリットはどうする?

 トニーが思考を巡らせていると、振り絞るようにマルグリットが手を伸ばした。

 

「ト、ニー……に、逃げて……!」

 

「足癖が悪いな」

 

「────っ!?」

 

「やめろ、よせ!」

 

 胸を貫くソレを引き抜き、襲撃者の男は同じ刃をもう一つ形成してから、逃れようともがくマルグリットの両足をタラリアごと貫いた。

 靴が砕ける。マルグリットは地面に足を縫い付けられてしまった。

 襲撃者の男がアイコンタクトで指示すると、後からやってきた部下たちがマルグリットのスリング・リングを取り上げる。八方塞がりだ。トニーはただ見ていることしか出来なかった。

 

「落ち着くんだトニー・スターク。我々は敵ではない」

 

「敵ではない? 言語中枢でもヤられてるみたいだな。お前は今、何をしている?」

 

「いたって正常だ。何をしているかって? 猛獣をしつけているんだ……おい、開いてやれ」

 

 男が指示すると、カルト信者の一人がゲートを開いた。

 ゲートの先には気絶して倒れ伏すオバディアがいる。

 トニー自身が幻覚に侵されていないのであれば、現実世界に他ならなかった。

 

「さあ行くといい。我々としても君を巻き込むつもりは無かったんだ。すれ違いとは不毛だろう。無駄な争いをすることもない」

 

「……カルトの妄言はうんざりだ。僕は敬虔な信者なんでね。とりあえず────彼女を返してもらう」

 

 気味の悪い世界に長居する気はない。しかしマルグリットを見捨てるつもりは、それ以上になかった。

 ノーモーションでスーツの胸から放たれたリパルサーレイは、男の不意を突くことに成功する。

 男は捕えていたマルグリットから離れざるを得なかった。その隙に、マルグリットの両脚に突き刺さった刃を両手のリパルサーレイで破壊して、トニーはマルグリットを奪取した。

 

(これは……)

 

「チッ! ゲートを消せ!」

 

 マルグリットが即死していないことから、トニーも薄々は気付いていた。

 まるで時が巻き戻るかのようにマルグリットの胸の穴が塞がっていく。

 ゲートや不可視の刃、そして平衡感覚が狂いそうになるこの世界よりも、マルグリットの存在そのものが不条理だった。

 

「質量はあるみたいだな。姿勢制御も従来通り……おい、起きろよ眠り姫。(やっこ)さん、どうやらサービス精神ってもんが無いらしい。ゲートが消されたぞ」

 

「……吐きそう」

 

「一張羅を汚してくれるなよ。それで、ここはどこなんだ? テーマパークに来たつもりは……ないんだが」

 

 逃げ込もうとしたゲートが消され、現実世界への扉が閉ざされる。

 マルグリットを殺しかけたリーダー格の男が腕を振るうと、建物や大地がその動きに従って蠢いた。

 非現実な光景へと、トニーの軽口も尻すぼみとなっていく。

 視覚が意味を為さない。スーツが演算機能をフルで発揮しても、マルグリットを抱えたままでは逃げ切れそうになかった。

 

「……ミラー次元(ディメンション)。平たく言えば鏡の中の世界かな」

 

「見ればわかる。出るにはどうすればいい」

 

「スリング・リングがあればゲートを開けるけど……」

 

「あの薄汚れたメリケンサックのことか? アイツらから奪えと。いいね、分かりやすい」

 

「でも見ての通り私はもう飛べないし、トニーだって限界でしょ?」

 

「そんなことを言ってる場合か。なんなんだあのイカれ集団は? 君はあの男と知り合いみたいだが反社と関わってたりしないだろうな? これ以上株価を下げるのは勘弁してくれ」

 

「あの男はカエシリウス。私のお師匠様の下で修業をしてたけど、永遠の命を求めて御覧の有様。離反してからずっと私をつけ狙ってるの」

 

「永遠の命か。まさしくカルトだな」

 

「教義もカルトもカエシリウスだけだよ。私は無神論者だもん」

 

「……それはそれで絶対に吹聴するなよ」

 

 穿たれた胸ではなく、浮かび上がった首の断頭痕をさすりながら、マルグリットは苦虫を潰したように吐露する。

 トニーはマルグリットの首に現れた(きず)を見て、次に貫通したはずの胸へと視線を滑らせる。

 カエシリウスによって穿たれた穴は既に塞がっていた。血に染まっていたはずの白ドレスも、何事もなかったかのように真新しい。

 

「ペッパーに言うよ? 胸をジロジロ見られたって」

 

「茶化してる場合か。アイツらが狙ってるのはその力だろ?」

 

「……まあ、そうだけど───」

 

「ご名答。魔術師ではない君ですら理解できるはずだ。()()に常識など通用しない。腕を見たまえ、化け物と呼ぶにふさわしいだろうよ」

 

 カエシリウスは芝居がかったように煽る。

 反論せず、マルグリットは押し黙ることしか出来なかった。

 トニーは言われるがままマルグリットの黒ずんだ腕を見やる。

 あの禍々しい断頭の刃が収められた腕だ。カエシリウスとやらが嬉々として言うように、碌な代物でないことは事実なのだろう。

 

「スターク、君は見たのだろう? ソレは我々の同胞を手にかけてきた。だが一向に彼らの魂はドルマムゥの下へと回帰しない。その理由が分かるか?」

 

「さあな。僕のような敬虔な信徒なら天国へ直行だろうが、お前たちのような人間は残らず地獄行きだろうよ」

 

()()()()()()()()。たどり着いた先が暗黒次元であり、我らが神ドルマムゥなのだ」

 

 自己陶酔めいた語りで、なんとはなしにカエシリウスが不透明の刃を投擲する。

 回避は完全に手動でスーツのアシストは期待できなかった。

 片方の腕でマルグリットを抱えながら飛んでいては反撃もできない。

 手下の二人も蠢く地形を物ともせず、不可視の刃で斬りかかってくる。

 トニーは回避に専念するが、ミラーディメンションを支配するカエシリウスらは自在に空間を操ることが可能だ。

 計算して足場のない空間へ誘い込んだとて、すぐさま地形が変動してしまう。ジリ貧だった。

 

「ここまでだな。残念だよトニー・スターク、君のスーツ(おもちゃ)には少しばかり驚かされたが限界なのだろう? 大人しくその人形を置いていくといい」

 

「ハア……ハア……そうしてやりたいのは山々なんだが、急所を迷いなく狙ってくる連中の言葉を信じるほどお気楽じゃあない」

 

「信じるモノが無い人間は哀れだな」

 

「信じる者は救われるって? ドルなんとかが救ってくれたとしても、お前のために泣いてくれる人なんていないだろ」

 

「……さっさと始末しろ!」

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 カエシリウスについて殊更に語れる思い出なんてない。

 ゼロッツとしてお師匠様から離反した彼らに対して言えるのは、世界のどこにでもある悲劇に過ぎないということだけ。

 気にかけていたらキリがない。絶望の果てに行き着く先が魔術であるのだから、殆どの魔術師は何かしらの挫折を経験している。

 そしてカエシリウスという男は、失った人生の意味を魔術に見出そうとした男だった。

 

(多分、他の手下たちはサンクタムやカマータージを……)

 

 社長に片腕で抱えられながら、お師匠様の気を引く為だけに捨て駒とされた手下たちへ、こんな私でも同情心が芽生えてしまう。

 首魁たるカエシリウスを含めて3人だけで奇襲をかけてきたことから、戦力の大多数をお師匠様へ差し向けているのは明白だ。

 加えて魔術とは縁遠い社長が弱り切っており、私も動揺して意識を逸らしてしまう始末。奇襲をする絶好の機会だと判断したに違いない。というより、この瞬間に勝るチャンスなんて二度と巡ってこないと踏んだのだろう。

 

「うーん、お師匠様に叱られるかな……」

 

 隙を見せたのが悪い。お師匠様に泣き言を漏らしても、そう一蹴されるだけなのは想像に難くなかった。ネット掲示板じゃないんだからさ……少しは手心を加えてほしい。

 そもそもの発端は、カエシリウスらが()()『カリオストロの書』の断片を盗み出したことから始まる。もっと言えば離反したのはお師匠様の……と、(つつ)くだけ藪蛇だから言わないけど。

 

「そのお師匠様とやらは何してるんだ!? いい加減こっちも限界だぞ!」

 

「社長が不必要に煽るからだよ。ああ見えてカエシリウスは饒舌だから時間を稼げたのに」

 

「稼いだところであのケバケバメイク男が───」

 

「……」

 

 と言いかけて、私と社長は揃ってカエシリウスから視線を逸らした。

 饒舌どころか能面のように無表情でも殺意だけはヒシヒシと感じる。もうカエシリウスが無駄口を叩くことがないのは確かなようだ。

 

「おい、あれのどこが饒舌だって? 君の眼は相変わらず節穴か!? またしょうもない冗談を言ったら落とすからな! つまらないジョークは大嫌いなんだ」

 

 やれやれ系女子になった覚えはないけど、殺意を秘めたカエシリウスからガン逃げする社長は少し情けない。

 カエシリウスの地雷を踏み抜いて、煽りに煽りまくっていたメンタルはどこに消え去ったのかな。いつものようにブーメラン発言をする社長に流石の私も呆れてしまう。

 

「でも社長の冗談だってセンスが────」

 

「……」

 

「待って待って!? ごめんなさい! 社長まで無言にならないで!?」

 

 今度は社長が無言になる。アイアンマスクの奥ではこのままミラー次元に取り残そうか一瞬だけ迷っていたに違いない。

 レスバに負けたからって、こんなか弱い美少女に酷い仕打ちをよく思いつくものだ。

 まあでも、ミラー次元に取り残されていた方が良かったというのも本音。

 不意を突かれたとはいえあの程度で死にはしないし、カエシリウスが余裕ぶって社長だけ元の世界に帰そうとするのも都合が良かった。

 だからむざむざと命を狙われる可哀そうな女の子を()()()()()けど……社長はどこまでも社長だから、私を見過ごすなんて出来るはずもない。

 それが悲しくもあり、嬉しくもあった。

 

「……社長ごめんね」

 

「今更だろ。君自身が厄ネタなのは分かりきっていたさ。だがまあ……退屈はしそうにない。自伝の肩書が増えそうだ」

 

「ふふっ。なんて書くの?」

 

「天才、金持ち、プレイボーイ。それから……」

 

 言いかけて、目前にまで迫った透明の刃を旋回して避ける。

 けれど完全には避け切れず、スーツの装甲を突破して社長の肩から血潮が噴き出した。

 私を抱える腕が震える。社長は必死に拳を握りしめて堪えようとするも耐えきれそうにない。

 

「グッ……参ったな。男に追われる趣味は無いぞ」

 

「ねえ()()()

 

「何も言わずにしがみつけ。流石にお喋りする余裕は」

 

「私を、信じて」

 

「なにを───」

 

 負担が掛からないように、私は社長の腕から滑り落ちる。

 刹那、何が起きたのか理解できないように呆けた声を漏らし、瞬きの後には必死に私へと手を伸ばす社長の姿があった。

 顔を覆うマスクの向こうでどんな表情をしているのだろう。戸惑っているのかな。悲しんでいるのかな。今まで庇ってくれたのに、いきなり私から突き放したことへ怒りを浮かべているのかもしれない。だとしたら少し、少しだけ私も悲しくなる。

 

「奴を捕らえろ!」

 

 カエシリウスと、その手下二人が社長に目もくれず私を追ってくる。それでいい。

 ちょうど社長の右手のリパルサーが、肩を斬りつけられたことで機能不全に陥り近くの建物に不時着したのが見えた。我ながらナイスタイミングだと思う反面、スーツの不調を厭わず飛び込んできそうな社長には敵わないと思ってしまう。

 

(……ああ、そっか。だから自信満々に不意打ちしてきたんだ)

 

 カエシリウスがニヤリと笑った。その目線を追って首だけ背後に回してみると、どこまでも続くミラー・ディメンションの深淵から巨大な『影』が這い上がってくる。

 巨大、あまりに巨大だ。決死の覚悟で飛び込もうとした社長でさえたじろぐほどの、ミラー・ディメンションを覆いつくさんとする途轍もない大きさの影。

 初めて見る。けれど私は、それを()()()()()()()

 私のギロチンと同様に数多の魂を取り込んだ悍ましい魔術。カエシリウスが支配するミラー・ディメンションではより力を増しており、私でさえ無抵抗に触れれば容易く搦め捕られてしまうに違いない。

 

(食人影(ナハツェーラー)……)

 

 『カリオストロの書』の断片に記されていたのか。もしくは略奪してきたレリックの中に食人影を使役するものでもあったのか。真相は分からない。分かったとしても詮無きことで、私がすべきことは何一つ変わらない。

 このまま落下していけば食人影に飲みこまれる。レリックを破壊されて空を飛べない私は成すすべもない。社長だってリパルサーが故障しかけており最低限の飛行さえ出来るか怪しい。

 なりふり構ってはいられなかった。瞼を閉じて想起する。食人影やカエシリウスだけでなく、このミラーディメンションをも根底から覆すための、私に残された唯一にして最大の奇跡を。

 

「『創造』────」

 

 今までとは違う。自分がどうありたいかよりも、世界にこうあってほしいと望むようになったのはトニーに出会ってから。けれど主体から客体へ変容したとしても、私の渇望は生まれた時からずっと同じ。

 何も変わらないでほしい。永遠にこの幸せが続いてほしい。傲慢だと後指を指されても、この幸せな日常を誰にも奪わせたくない。そう願ってしまったから。

 

「────涅槃寂静・終曲(アインファウスト•フィナーレ)!」

 

 私は多元宇宙の誰よりも、欲深な幸せ者でありたい。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

 影の触手がマルグリットを飲み込んだ。

 信じろだなんて軽々しく言うな────トニーは拳を握りしめた。

 巨大な影に飲み込まれていくマルグリットを見過ごすことしかできない。

 何を根拠に信じればいいのか、それすら分からないまま。

 そしてマルグリットの全身が食人影に呑まれかけた時、

 

「────涅槃寂静・終曲(アインファウスト•フィナーレ)!」

 

 幾つもの剣閃が、ミラーディメンションを支配する食人影をズタズタに切り裂いた。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 それを剣筋というには語弊がある。

 ヘルメスの靴を失ったマルグリットの背中には、今まで腕にあったギロチンの刃のような形状をした翼が三対となって備わっていた。

 それが自在に伸縮し、襲い掛かってくる食人影を問答無用で切り裂いていく。

 ギロチンの刃の翼自体に浮遊の作用があるのだろう。今まで力を抑え込んでいた楔を取り払い、マルグリットの本懐がここに顕現した。

 ミラーディメンションが軋んでいる。マルグリットの再誕とともに食人影は散り散りとなって、覇道の性質がミラーディメンションを破らんと猛り狂っていた。

 

「くぅっ……潮時か」

「待て!」

 

 トニーの静止は間に合わず、カエシリウスがゲートを開いてミラーディメンションを去っていく。

 そして渾沌の中心にいるマルグリットは────ゼロッツの二人の首を、そのギロチンの翼で切り落としていた。

 

「Aah……あーあー。ケホケホ、背中がスースーする」

「マリィ、なのか?」

「うん。これが私の本当の姿。幻滅した? まるで蜘蛛の化け物みたいだよね」

 

 首を断ち切った翼をギチギチとならしながら、マルグリットは儚げに苦笑した。

 白磁の肌は墨色に染まり、金糸を織り込んだようなブロンド髪は、燃えるような赫色に染まっている。

 ギロチンの刃と一体と化した翼は、まるで蜘蛛の足のよう。そこから滴り落ちる血の一滴は、カエリシウスが見放した部下たちのものであった。

 

「……もういい。無理をするな」

「うん、わかった」

 

 近くの建物に着地して、マルグリットは創造を解いた。途端に普段の姿へと戻る。

 次いで、首を断ったカエシリウスの部下からスリングリングを奪い、ゲートを開いて見せた。その先には未だ倒れ伏すオバディアの姿があった。

 

「全く、長い一日だった。これじゃ自伝がファンタジー小説になりかねないな」

「私は好き。自慢話よりもロマンがあるもの」

「おいおい、僕の人生は掛け値なしの浪漫ばかりじゃないか。ほら、とっとと帰ってディナーにしよう今日は特別に───」

 

 そう言いかけて二人がゲートを跨いだ瞬間、

 

「さて、この状況を洗いざらい話してもらおうか」

 

 コールソンが、有無を言わせぬ威を発しながらエージェントたちで私達二人を包囲していた。

 

 

 

・・・

・・

 

 

 

『私がアイアンマンだ』

 

 わーお、とんだ特ダネだ。

 と同時に、会見場で頭を抱えるコールソンの痛快な一面も見ることが出来た。

 オバディアとの争いはさしものコールソンたちでも完璧に隠ぺいは出来ず、こうしてトニー・スターク自らが記者会見に臨んだわけだが……まあ、オバディアが生きている以上、私からすれば既定路線だったと思う。

 オバディアの処遇はコールソン達に任せ、私とトニーは洗いざらい……それはもう何が起きたのか丸裸にされるまで懇切丁寧に解説したのだが、私という存在と魔術に関しては完全にアンタッチャブルとなっている。

 それもそうだろう。社長が鉄の着ぐるみで戦っているのに、私はギロチンと魔法でグロテスクな殺戮を行った……なんて世間に公表できるわけもなく、証拠だってない。

 結果、私は今まで通りスタークインダストリーの社内ニートのまま。一応の名目は社長の護衛だけど、傍から見れば親戚とでも思われているかもしれない。

 

「ペッパー、これからどうするの」

「もう、私が知りたいわよ。トニーったら本当に……」

 

 そう呟きながらも、ペッパーの口元は微かにほころんでいた。

 

「ハッピーは?」

「今にも倒れそう」

「コールソンもだけどね。トニーは結局、ヒーローになっちゃったなあ」

「……何か含みがあるわね」

「いつもなら『柄じゃない』とか言いそうじゃない? この前は女のケツ、今はペッパーのお尻を追っかけたほうがマシって言いそうだし」

「ちょっとはしたないわよ。もう、貴女はイメージで売ってるんだからそういうのはよしてちょうだい」

「は~い……ちなみにローディは?」

「どうにでもなれって投げやりになってるわね」

 

 まさにカオス。トニー自身のマイペースも相まって、記者会見は混迷を極めていった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

「久しぶりですね、というべきか。よくも顔を出せたと言うべきでしょうか。カリオストロ、いやアガモットと呼びましょうか? そうすれば傲慢さを自覚できるでしょう」

「エンシェント・ワン。今の私はただの観客だよ。台本はなく、全ては水銀の蛇ではなく()()()()ツァラトゥストラが演じた歌劇さ。君の指導は適確だった、ああもインフィニティストーンを自在に操れるようになるとは」

「やはり、彼女の根源にはインフィニティストーンを……」

「マルチバースは広くとも、知覚する手段はいくらでもある。ああ、だが、やはりこの目で見ることは別格だ」

「貴方が何を企もうが、この世界の均衡が崩れることはないでしょう」

「ふむ。私の遺した目で見た未来を、この私に説くのかね」

「見たのは未来だけではありません。彼女もまた、人形のままではないということです」

「……ほう。では期待しておこう。君が記したリブレットを、果たしてツァラトゥストラ本人が気に入るのか見ものだよ」

*1
魔術師

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