虎は、大穴から空を見上げるのをやめた。美しく汚れた青は、すっかり壊されてしまったから。
亀は、陸への憧憬を完全に捨てた。かつて愛した男が愛した和の魂なんて、最初からこの世にはなかったのだと知った。
鳥は、腹を空かせたまま血の海を眺めていた。エサは皆、もう誰も緋色の鳥なんて怖がらない。エサは同胞を恐れ、エサ同士で食い合う。
竜は────何を考えていたのだろう。
アレは理不尽を超える理不尽。真に平等な災厄。富豪の築いた城から壊し、大臣の飛ばした車から食べる。
恐竜は、人類が憧れ、畏れ、取り戻したいと願う純粋無垢の象徴。だから、ガラクタに閉じ込められた竜はそう変容した。
もし、人類があの青い怪獣に何かを見出していたら。過ちに気づいていたら。
嗚呼、それはもう言っても詮無いことだ。
ヒトは竜から玩具を取り上げた。かろうじて維持されていた幼気を踏み躙り、プラスチック製ではない本物の武器を握らせた。
吾輩は、人類を尊いものだと思っていた。手を取り合って1人の絶対者に抗い、各々の力を結集し、見事荒れ狂う吾輩を打倒せしめたあのときから、吾輩は人類を尊敬さえしていた。
それが吾輩の糧だった。支配への叛逆、抑圧への怒りが、1匹の龍神を喜ばせた。
大きな間違いだった。
所詮、アレは、力と知恵を持つことを
自分たちで舞台を廻す、のではない。自分たち以外は舞台から排斥したかっただけなのだ。
神の支配を否定したのは素晴らしい。しかしながら、結局は同じ形式の支配が続くだけ。神の位置に、『強い』人間が着いただけ。それどころか、民の支配に都合良く神格を利用する始末だ。
ふざけるな────と、思った。
我々はここにいる。ずっと昔から、我々によってここにいる。財団とやらに“発見”されたときに突然現れたのではない。我々には、生きてきた歴史が、文化が、傷が、感情が、在るのだ。
譲ってはならない。ここで一歩でも引き下がれば、前の世界のように食い散らかされる。
だから、吾輩は荒れ狂う自然現象の具現であることをやめた。友のように、人間の文化について学ぶことに時間を費やした。
けれども────未だに、吾輩は、頭山の空虚な穴のままである。桜主の代わりもできない、爬虫類風情でしかない。
世界は変わりつつある。神々は、あれほど熱中していた終末計画を中止して、恒久的な世界平和を望むようになった。
人間の利点は、過去から受け継ぎ、未来へと変化し続けることだという。
ならば、ただの瑞獣である吾輩は、永遠に畜生道を歩むのだろうか。
××××
「どれだけ想像力豊かでも、象を呑んだ大蛇の絵を初見でそうと見抜ける物はいるのだろうか。私は帽子だと言ってしまうだろう……だが、世界は広い。サン・テグジュペリの亡骸が見つからないのなら、希望を失ってはならない」
くどいはなしはやめて、ねこをみてください。
「君だってそうだ。出来の悪いムーミントロールを初めて見て、はっきり『ねこ』だと断言するのは難しいに違いない。出来た者がいたとしたら……是非とも話がしてみたいものだよ」
しばきますよ。
「私の信奉者がどこかの君にしたことに関しては、私から謝罪しよう」
じめんにひたいがこすりつけてですください。
「君は知っているだろう。カモノハシの真なる存在理由が何か。我々はどこから生まれ、どこへ向かうのか」
しってどうなるますか。ねこはねこです。
「……誰しもが、君のように、強固なアイデンティティを持って生きられるわけじゃない。人間には生きる目的が、意味が、価値が必要だ」
おまえにはあるのですか。
「君なら、それも知っているだろう?」
まわりがくどいばかりではなしになりません。ねこはかえります。
ねこですありがとうございました。
・高等遊民のコウちゃん(SCP-2501-JP-A)
人類の勇気に魅せられた人外が、人類を認めて力を貸すのはよくある話ですよね。
ダークホースが食べるのは『王者への賞賛や憧れ』で、文系ドラゴンが食べるのは『権威への反逆心』なので真逆だが、ふたりはなかよし。
・犀賀六巳
結局カモノハシって何なんですか?SCP初心者の作者には分かりません。
この作品はクリエイティブ・コモンズ 表示-継承3.0ライセンスに基づき作成されています。
SCP-2501-JP “廻り舞台”
著者 kyougoku08
http://scp-jp.wikidot.com/scp-2501-jp
“犀賀派”に関する一次報告書
著者 dr_toraya
http://scp-jp.wikidot.com/goi2015-saiga