なんとなく、でも良かったり。
まあ、そんなもんですよ。
幸あれみんな、アオくなれ。
私は料理というものが、苦手だ。いやそもそも興味がない。だって何でわざわざ作らなければならないのか、買えば済むんだから。最低限出来るに越したことはない、とは言うけれども。今の世の中、出来なくたって死にはしない。だからわざわざ覚える気がない。それだけだ。
なのに、だ。何故私は、スーパーの製菓コーナーにいるのだろうか。
まあ、理由はひとつなのだけど。
「大喜に、何かくれてやってください」
笠原くんがそんな事を言い出したのは、二月の頭だったっけ。
「まああの、今度バレンタインデーがあるじゃないですか。何でも良いんで、大喜にあげてください。なんなら俺が金出すんで、どうにか」
そう言われてようやく、その日を思い出した。ああ、あったなあそんな日。
チョコを送ったり送られたりする日だっけ、縁がないから忘れてた。
「あの大馬鹿さん太郎、年明けからずっとソワソワしてるんですよ。気の毒すぎて見てられないんで、御願いします」
ぬう、そんなに楽しみにしてるのか。まあ、後輩から頭を下げられては無下に断るわけにはいかないんだけどさ。
さすがバレンタインデー間近、商魂逞しい日本の商売人だけあって陳列も気合い入ってる。
しかしこんなにあるのか、材料チョコ。どこがどう違うんだろう。そのまま食べちゃいけないのかな、いっぱい入って安いのに。
これを溶かして固めるのが定石らしいけど、私に出来るだろうか。小3の頃だったかな、クラスの女子たちの間でなんかお菓子作りブームが起きて、やってみた記憶がある。……モッソモソになって、とても食べられなかったな。あれは確かお父さんにあげたんだ、今考えると悪いことしたわ私。「溶かして固めるだけだからカンタン」なんて大嘘だ、と幼い私は知ったのでした。とは言えあれから早ウン年、私だって多少は器用になっている筈なんだけど。でもなあ、うーん……。
材料を奢れば少しはマシになるかもしれないけど、それも厳しいか。親からの仕送りはあれど、あんまり余裕はないし。由紀子さんは「生活費なんて考えなくて良いから、お嫁に来たと思ってくつろいでて」とは言うけど、それはそれで心苦しいから食費は入れされてもらってる都合上、自由に使える金額は制限されるわけで。
「あ。あー……」
そこまで考えて、ようやく私は気が付いた。居候の私が、勝手に台所を占領するわけにはいかないという事に。大喜くんはそりゃ喜ぶだろうけど、でもなあ……。私の立場がなあ……。
さてでは、どうしようか。
考えつつ製菓コーナーから移動して、お菓子売り場へ。
こっちもこっちでバレンタイン商戦真っ盛り担いだ金太郎、色とりどりの結構な高級チョコが所狭しと並んでいる。
予算的には大分厳しいけど、こっちの方がまだ良いかもしれない。
で。とりあえず見映えの良いのを幾つか買っては来たものの。これをどうするか、だ。
不器用極まりない私が余計なことをしたって不恰好になるだけだし、このまま裸で渡しても良いと思うけど風情はないよなぁ……。
裸で、か。そう言えば前にやったってアホが後輩でいたな、裸にリボン巻いて「私がプレゼント(はぁと)」っていうアレ。喜ぶどころか、地獄のようにドン引きされたって嘆いてた。いやまあやらないけど。寒いし、あとそこまで芸人根性溢れてないし。
よし、このまま渡そう。それが一番平和だ。
バレンタインデー当日まで、あと数時間。ようやくプランも固まった。とりあえずこれで良い、渡すだけ渡そう。そうなると多少は余裕が出てきたのか、あれこれと頭の中に色々と浮かび出す。
大喜くんは、そんなにチョコやら何やらが欲しいんだろうか。考えてみれば、クラスの男共もなんか気にしてたな。もらった数が男の沽券に関わるだかなんだからしいけど、そこまで気にするとは。オトコノコってバカだからなあ……。大喜くんもその範囲なんだろうかな。
でも大喜くん、蝶野さんから絶対貰えるよね。顔は可愛いから女子には人気ありそうだし、結構貰えそう。そうなると笠原くんが気を回してまで、私から渡させる理由は何処にも無さそうなのに。
逆に考えてみようか。数より私から贈られる事自体が大事だとして、それは何故か。大喜くんにとって、私からのプレゼントは特別な意味合いになるのだとしたら。大喜くんは私から貰いたい、つまりは――。
「う、ん? おや……あれ?」
そもそもバレンタインデーは、聖ヴァレンティヌス殉教の日。そこから愛を伝える日になって、日本では大手菓子メーカーのキャンペーンからチョコを贈る日になったらしい。つまり贈るのは本来、愛。大喜くんは私から、愛を贈ってほしいと言っているということになる。それは、……それは。
「いや、いやいや。いやいやいやいや。まさかそんな」
それじゃまるで大喜くんが私を、好きみたいじゃないか。
そんなまさか、……いや待て私。あり得ないとも言い切れなく無いか。
私はワンパクでたくましい、ガラッパチな女だ。だから恋愛とは無縁の人生を送っているけれど、鬼も十八番茶も出花って言うし、大喜くんがうっかりそういう感情を持つことだってあるかもしれない。私としても、大喜くんは嫌いではない。可愛いしがんばり屋だし、良い子だと思う。
しかし、そうなると。市販のチョコをそのまま放り投げて寄越すのは、どう考えても無粋だ。とは言え時間はないし、本当にどうしよう。
余計なことを考え出したせいで一睡も出来ないまま、私はフラフラと階段を降りていく。朝が来た、学校へ行かないと。あれこれ不足したままの頭はロクに回りもしないけど、登校はルーティンだ。どうにかなるさ。
「先輩、おはようございます」
「ん、おはやう」
挨拶を交わしながらしげしげと見ると、大喜くんはやっぱり可愛い。
今チョコを渡したら、どんな顔をするだろうか。でも、な。ここで出すのは、ちょっとだけ恥ずい。
まあ帰ってからにしようかな、それで良いだろう。
もしかしたら今日は、色々と大きな事が起こるかもしれない。さて、どう出るかな。
バレンタインデーは、まだ始まったばかりだ。
やたらガサツに見えますが、まあ…うん。